IPEの果樹園2002
今週のReview
5/13-5/18
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NHK教育テレビで「未来への教室」を観ました。カリフォルニア大学デイヴィス校のバーメイ教授は全く目が見えません。しかし彼は、進化生物学の分野で独創的な発見をしました。なぜ北の海の貝殻はさまざまな突起や襞があるのに、南の海の貝殻はつるつるしているか? というのです。その答は、南の海には貝を割って食べる強力なハサミを持ったカニがいるからだ、と。
アジアの海には何がいるのでしょうか? アジア統合論と環太平洋共同体論が主張されています。アジアにおける自由貿易圏の議論の中心は、日本ではなく、今や中国です。通貨危機の不安よりも、市場統合化と競争の不安が前面に出てきたからです。アメリカとの関係も、日本が中心となって形成されていた貿易・投資関係から、中国を中心とした貿易・投資関係になることで、何が変わるでしょうか?
日本の政策論争も、急速に改善する中国の工業力が不安を呼び、生産拠点の移転と経済統合化を進める主張と、国内の不況対策とが、次第に対立するようになるでしょう。(拙稿「現代アメリカの通商政策とアジア」では、日本の「通商政策の成熟」を議論しました。)
一方には、自由貿易と資本移動を重視する政策があります。もし日本が、中国への投資と安価な輸入によって、企業の競争力改善、国民の生活水準引き上げを目指すなら、円の増価と旧製造業や農業の解体・再編成を進め、物価や賃金の下落も受け入れるでしょう。同時に、中国やアジアの農業近代化、工業化に協力し、彼らの成長を持続させることで、日本の新しい産業構造は急速に成長し始め、海外の資産を蓄積できます。
他方、国内産業構造(そして政治システム)の維持とアメリカ優先の市場統合、安全保障体制を優先する政策もあります。いまだにイギリスが苦悩しているように、隣接する巨大市場と、自由化や安全保障、移民抑制などの目標は、容易に調和しません。
数年前までは熱心な「アジア太平洋経済圏」論者(APEC支持者、さらに多角的国際協調論者)であったC. Fred Bergsten(“The Transatlantic Century,” WP, Tuesday, April 30, 2002)が、今や世界の秩序はアメリカとEUで担うべきだ、と書きました。「大西洋の世紀」が重要になった理由は、アジアの停滞、特に日本の脱落です。アジアは、一方で、日本が世界どころかアジアの経済運営にも責任を果たせなかったこと、他方で中国が急速に力をつけながら、決して国際的な民主的秩序の責任ある管理者ではないことから、完全に世界統治の主体から外れた、と言うのです。
私は、日本が内外で目指す長期的な社会的理念を明確にすべきだと思います。対外的な脅威や一方的対抗措置を叫ぶ政治家は、孤立化と軍事化を進め、自分たちの価値をも見失うでしょう。アメリカとも、中国とも、もちろん韓国などのアジア諸国に対しても、共有できる理念を育て、できるだけ多角的な制度に具体化して欲しいです。
中国社会のダイナミズムと日本社会の安定志向とが、対立や硬直化ではなく、革新を取り込む社会制度の充実に向かうためには、どのような理念を示すべきでしょうか? アジアのカニは強いハサミを持ち、硬い歯を持つフグや、吸盤で殻をこじ開けるタコ、ヒトデなども多く、平和を好む貝には住みにくい海かもしれません。しかし、それらが共生するサンゴ礁が砂浜を広げる中でなら、さまざまな貝も繁栄できるでしょう。
科学では、既に理解できたと思われている領域でも、一歩外に出ると、多くの疑問が満ち溢れていると分かる、とバーメイ教授は言います。そして彼は、多くの新しい疑問を見出し、それに答えを見つけようと、世界中の海岸へ行って海水に手を浸し、さらに多くの貝殻を集めるのです。
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, ST:Straits Times, FAZ:Frankfurter Allgemeine Zeitung, IHT:International Herald Tribune
NYT April 30, 2002
Herd on the Street
By PAUL KRUGMAN
商務省は2002年第1四半期の成長率を5.8%と発表した。ダウは9月11日以来の最悪の週で10000ドルを下回った。どうなっているのか? 市場は、まるでイラク攻撃の情報を一斉に聞いたみたいだが、そんな噂は無い。
数字を細かく見れば、実際には失望するものだ。5.8%の成長が失望か? 例を挙げよう。ある機械を作る会社がある。この会社は機会をひたすら作るのだが、通常は毎月100台が売れる。そして1か月分の在庫を持つようにしている。何かの理由で販売台数がつき90台に減ったとしよう。しかも、会社はこれに気付くのに1ヶ月かかる。
さて、100台生産しても90台しか売れないから、在庫は110に増えて、今後は90台の在庫にしたいと考えるだろう。過剰在庫を速やかに取り除くために、翌月の生産は70台に減らすだろう(20台の過剰在庫分を販売台数から引いて生産する)。その後、生産は毎月90台に戻る。販売台数が再び増えない限り、この増加は続かない。生産は下の水準に戻らないのだ。
在庫調整の反動は、5.8%の成長率の半分以上を占める。最終消費の伸びは2.6%に過ぎず、以前の月よりも少ない。住宅建設は続かないだろう。しかも過剰設備により、企業の投資額は減っているのだ。大幅な景気回復を示すものは何も無い。
業界の予測は単なるチア・リーダーになってしまった。「完璧な回復」とは! しかし企業の投資は、常に、はるかに悲観的である。
もちろん強気の予測が実現する可能性もある。しかし、回復が行き詰まることもあるだろう。この数ヶ月先について言えば、おそらく「雇用なき(そして利潤なき)回復」である。だから、ウォール街が強気になれないわけだ。
FT May 2 2002
Japan's first steps on a long journey
Glenn Hubbard(chairman of the US president's Council of Economic Advisers)
小泉純一郎が首相になって1年が過ぎた。何も目立った改革派行われていない、と批判する者もいる。しかし、それは間違いだ。日本は改革を始め、マクロ経済環境も整い始めた。成長を回復するために、二つの主要な柱がある。政府が企業の再編を促すことと、日銀がデフレを止めること、である。
改革を進める点で、不良債権(NPLs)に関心が集まっている。しかし、NPLsは病気の症状である。その病気とは、企業部門の不良資産(低利潤)である。これを解決するには銀行の行動が必要だ。アメリカや北欧の経験に注目すべきだ。その重要な教訓とは、大きな問題が悪化するのを待たずに、迅速に是正措置を採る必要がある、ということだ。どの国でも、ノルウェイのthe Government Bank Insurance Fund、フィンランドの the Government Guarantee Fund、スウェーデンの the Bank Support Authority、アメリカの the Resolution Trust Corporationが新設もしくは改革されてから、金融部門と企業部門が再生できた。
日本でも必要な制度は整えられた。会社更生法、商法、持ち株会社、ストック・オプションやストック・スワップ、連結会計、会計基準の改善などである。損失が明確になることで、資本はより効率的に使用されるだろう。これが資産価格や経済活動を悪化させるという者も居るが、逆である。リストラが進めば資産価格は上昇し、景気も回復する。合理的な市場参加者はどの資産が再配置されるべきかを知っている。担保の土地も売られるだろう。
金融庁(FSA)による特別検査は、株価や格付けの大きく変化した149の企業や銀行に対して、市場に則して行われた。その多くは建設、不動産、卸・小売業の借り手である。検査された融資のうち、約60%が評価を下げられ、約30%が「倒産の危険がある」もしくはそれ以下に再分類された。
金融庁と並んで、整理回収機構(RCC)が銀行の帳簿からNPLsを取り除く。RCCも強化されて、NPLsを市場価格で買い取り、銀行にポートフォリオの改善を促している。同様に重要なのは、RCCが再建の買い取りと迅速な売却に限定して、企業の再建は民間部門に任せることである。
NPLs全体に比べれば小さいが、10億ドルの再建売却と、7億7000万ドルの証券化を行った。これらの取引には、資本提供と企業再編のために、外国企業も参加した。購入者が誰であるかに関係なく、RCCの販売は市場に資産や資本のより効率的な配分を促す。
日銀は、2001年3月に政策目標を短期金利から量的緩和に変更した。昨年3度、その目標を高くし、その結果、4月末までの1年間で、マネタリー・ベースの増加は36,3%となっている。それが有効であったかどうか、答えにくいが、銀行システムの機能悪化がマネー・サプライの増加を妨げている。それでも価格の下落は緩和されたようだし、最近は、いくらか上昇したものもある。日銀は行動した。消費者物価が明白な反応を示すまで、これを続け、必要なら強めることだ。
もちろん、誰にもまだ勝利宣言はできない。しかし、FSA、RCCそして日銀が最初の一歩を踏み出したことは知っておくことだ。それは1000マイルのたびの、最初の数歩ではなく、数マイルである。
NYT May 2, 2002
Yes, Bananas They Handle, but Steel . . . Is It Too Hot?
By DANIEL ALTMAN
アメリカ通商代表のゼーリックRobert B. ZoellickとEU貿易委員会委員長のラミーPascal Lamyとは、一緒のこの数年、素晴らしい仕事を成し遂げてきた。しかし、大西洋間の鉄鋼関税問題が、二人の旧い友情を破壊し、今週のワシントンでの会談に先立って、互いに公然の敵とした。しかし、公に交わされる非難とは別に、彼らは国内向けのシャドー・ボクシングをしているのかもしれない。
ゼーリックとラミーは、1980年代にJames A. Baker III国務長官の部下と Jacques Delors欧州委員会委員長の部下として、友人になった。二人とも政策にアカデミックな評価を行う、猛烈な長距離走者であった。ゼーリックが2月に今の地位に就いてから、二人は長年の懸案であったバナナや小麦グルテンの対立を解決し、ドーハのWTO総会で新ラウンドを開始させるのにも協力した。最近まで、二人の友情は熱った。
しかし、ブッシュ政権の鉄鋼輸入関税は、国内産業を助け、特に、ペンシルバニアと西ヴァージニアのような州で選挙を有利にするためのものであった。ラミーはこれに憤慨した。12月に、ラミーは、アメリカの通商協議が鉄鋼関税を推進したことについて、「あからさまな保護主義」であり、「WTOの規則に明らかに反する」と述べた。2月には、ゼーリックに手紙を書き、関税の代わりに、アメリカで売られる鉄鋼に税金をかけて、それで退職した鉄鋼労働者や産業の整理に支出すべきだ、と述べた。
これに回答して、ゼーリックは、「EUの過去と現在に及ぶ鉄鋼業への振る舞いを前提すれば、あなたがアメリカの関心をもっと重視し、サイン行の再編のためにセーフガードを支持してくれると思っていた」と書いた。
4月19日、EUは、ビリヤード台からボールペンに及ぶアメリカの輸出財に100%の報復関税を提案した。これには、問題をむしろ悪化させるのではないか、と驚くロビイストたちもいた。
ラミーのスポークスマンは「時には、立場を強く示すことが求められている」と述べた。「二人の間には緊張があるか? もちろんある。協力と利益はあるか? 間違いなく、絶対にある。」貿易交渉では、特に公的な立場では、選択の余地がほとんど無い。論争の核心には影響力のある政治的経済的な利害がからむからだ。
「ゼーリックもラミーも仲が良く、どちらも賢明な人物だ。」とロンドンのRIIAに属するBrigitte E. Granvilleは言う。「だが不幸にして、彼らが命令を受けるのは支配的なロビーからである。」
EUの発言と行為は一致しない。彼らは豊かな諸国間で鉄鋼の余剰生産力を削減することに積極的に参加している。「ラミーの希望は二つある。」とゼーリックの前任者Charlene Barshefskyは言う。「一つは、アメリカの行為に対してヨーロッパが強く不快感を示すこと。もう一つは、アメリカに対して強く抗議することで、他の貿易相手国にヨーロッパの立場を有利にすることである。」
あるいは、ゼーリックとラミーが、ともに、余剰生産力を削減させるために、この紛争を利用しているのかもしれない。関税引き上げに両者がなだれ込めば、日本やロシアのような鉄鋼輸出が難しくなる。
しかし、こうしたゲームには危険もある。もしEUがWTOの判断を待てずに報復に踏み切れば、それは紛争を処理するWTOの能力を損なうだろう。
ST MAY 3, 2002 FRI
Globalisation and its threat to democracy
By KAUSHIK BASU(a professor of economics at Cornell University and currently Visiting Professor at the Massachusetts Institute of Technology)
グローバリゼーションの醜い副作用とは、民主主義の侵食である。民主主義の核心として、人民が統治者を選択し、平等な投票券を持つ、ということが必要である。しかし、グローバリゼーションにより、国家や人民は非対称的な影響力を及ぼすようになる。
おそらく偽作だろうが、かつてスターリンはインドの外交官に南アジアの地図を指差して言ったらしい。「インドはとても大きな国だ。」そしてスリ・ランカを見て尋ねた。「この小さなインドの島はなんと言う名だ?」外交官は応えた。「それはインドの島ではありません。主権国家です。」と。するとスターリンは尋ねた。「なぜか?」(征服すればよい?)
グローバリゼーションのおかげで、支配的な諸国は戦争しなくても影響できる多くの他の手段を得た。何よりも、まず貨幣である。瞬時に世界をつなぐ電子的な結合が、かつて無い国境を越える資本移動をもたらした。1998年のアジア危機で、工業諸国、特に日本とアメリカから、救済融資を得るために、韓国は日本製品の輸入禁止を取り下げ、(アメリカが求めていた)外国の銀行に対する銀行業務の開放を認めた。
資本の自由移動がもたらすもう一つの帰結は、異なる市場の結びつきが強まることだ。タイの住宅価格が下落したときバーツも暴落し、インドのルピー売りが起きたとき株価が暴落したのは、10年前には考えられないことだ。外国投資家が重要になっている。
ニュー・ヨークでボンベイ市場の株式を買うとしよう。ドルがルピーに交換され、それで株式を買う。その目的はルピーを保有することではなく、株を買って儲けてからドルに戻すことだ。ここで、ルピーが減価したとする。当然、外国投資家はインドの株を売る。ルピー安はインドの投資家が株を売る理由にならないが、もし多くの外国投資家が株を売れば、株価が下落してインドの投資家も株を売る。
世界的な民主主義とアカウンタビリティーの侵食に何をなすべきか? 世界政府や世界銀行のような空想は役に立たない。貧しい者の発言を確保できるシステムが必要だ。豊かな者は既存の組織で世界経済や国際関係を決めている。一方では、あからさまな出資金による投票制度で、他方また、意思決定の透明性を欠くことで、国際組織は豊かな者に大きな発言権を与えている。
たとえば「一国一票制度」のWTOでも、「温室」効果がある。温室は少数の豊かな国にハイジャックされている。特に、発展途上国の労働者のために考えられた国際労働基準が、豊かな国の保護主義に悪用されるとして、貧しい諸国から強い反対を受けたことに、明らかである。
マイクロソフトのビル・ゲイツがアメリカの選挙で、より多くアメリカの財政を潤していると言う理由で、多くの投票権を得れば、罵声を浴びるだろう。世界の安定化と経済の効率性、テロリズムとの戦いに勝つためにも、国際組織におけるより大きな民主主義が重要である。それが長期的には、集合的に見た人類にとっての利益でもある。
(コメント)
小国家が存在する意味は無いのか? と言えば、そんなことは無いでしょう。むしろ大国の内部で、統治の問題は複雑で、混乱や腐敗、それゆえ硬直化や停滞、暴動や内乱が頻発するかもしれません。スリ・ランカを征服しても、地域の独立運動が鎮圧できたかどうか分かりません。グローバリゼーションは、ナショナリズムが民主主義の接着剤や対外的な利害統一の道具として、ますます頼りにならない(むしろ麻薬が毒薬に転じる)ことを意味すると思います。
BBC Thursday, 2 May, 2002
US warns Japan over 'boxcar' economy
オニール財務長官は日本に対して「今すぐ倒産させるほうが良い」と警告した。
1991年、日本の経済規模は中国の9倍、アメリカの5分の3であった。しかし今のままでは中国との競争にも負け、アメリカ経済の4分の1になるだろう。日本は世界経済のエンジンではなく、ボックス・カーである。あまりにも多くの資本を新しい機会に投資されず、旧い企業の維持に浪費されている。銀行は、失敗した企業をもっと倒産させ、労働力を効率的に雇用するために資本を使用するべきだ。日本企業は政府のさまざまな障壁で守られている。日本国民自身にとって、規制緩和が必要だ。
FT May 3 2002
Editorial comment: The worst system except all others
民主主義の終焉を議論するのは間違っている。しかし、長期的な投票率の低下は、民主主義への支持が弱まっていることを意味するだろう。過去40年間、先進工業国20カ国中の18カ国で、投票率が低下してきた。彼らがアフリカやラテン・アメリカ、旧共産圏で民主主義の確立を促しているとき、市民たちは民主主義への関心を失いつつあったのだ。
より驚くべきことは、投票してもそれが異なる結果をいかにもたらさないか、ということだ。故Mancur Olsonは、その結果、強い感情や利己的な理由無しには、政治に関わることがわずらわしくなった、という。政治技術の進歩も重要だった。市場調査の技術によって政策が微調整され、重要政策に関して論争が行われなくなった。主要政党の違いも無い。他方、新しい市長を決めるような重要な選挙では投票率が上昇する。階級分化のはなはだしい社会では、政治的な再分配が貧しい者に利益をもたらし、投票が代表を決める上で注目される。また戦争や社会混乱の際には、繰り返し投票が行われる。
ところが市場型資本主義と自由民主主義の勝利で、国を分断するような重要問題を扱うことが無くなり、政党が異なっても政権に就けば同じことをする。野心的な大蔵大臣は金融市場で調教されてしまう。「誰に投票しても、政府に入ればどうせ同じだ。」
投票率が下がると、ル・ペンのような過激派が選挙を利用することになる。民主主義の慢心はデマゴーグを育てる。彼らは、主要政党が犯罪や移民に関する国民の関心になかなか応えない点を突いた。そして、過激派の主張が政治的な焦点になれば、諸政府は抑圧的手法でこれらの問題に対処し、彼らの主張を認めた。
シラクはル・ペンに勝利するだろう。しかし、政治家たちは有権者の関心に注意深く耳を傾け、それに応える明確な政策を示す必要がある。そして投票過程をもっと近代化することだ。イギリスで郵便による投票が行われた地域の投票率は、全国平均の35%に比べて、60%に達した。
民主主義は気まぐれや偏見によって指導者を選ぶ危険を常に持っている。過激派を市長にする地区もあれば、地域のフットボールでマスコットになっているサルの服を着て当選する者もいる。チャーチルが述べたように、将来も、民主主義は最悪の統治制度であるが、他よりもましであろう。ただし、常に新しくなる限りで。
(コメント)
私も以前、近所の郵便局で国会の論戦にあわせて、定期的に、国民投票できるようにして欲しい、と思いました。重要な政策に関して、時には世論調査が行われますが、国会の論戦に主体的に関与するために有権者が直接行動できるほうが良い、と思ったからです。
Bloomberg 05/03 11:16
Get Used to Dollar Hot Seat, O'Neill
By David Derosa
オニールPaul O'Neill財務長官は、上院銀行調査委員会での証言で、ドルを暴落させた。まず財務省のスポークマンspokeswomanであるMichele Davisが、公聴会ではドルに関する言及は無い、と述べた。しかし、オニールは黙っていられなかった。そして、まるで60年代のように、為替取引を非難した。
「世界の通貨市場を撹乱して儲けている連中は投機家であって、私の知る限り、生活を改善するのに何の価値も無い人々だ。」そこでオニールは、こうした撹乱トレーダーたちに「弾薬」を与えたくなかったわけだ。・・・なるほど。5月13日に、マレーシアのマハティール首相が来るから、彼を昼食に呼べば良い。通貨取引の無益さについて、二人は楽しく話し合えるだろう。
こうしてまた一人、外国為替市場を反社会的と考える財務長官が現れた。他の点では経済学をよく知り、もっと考えても良さそうなオニールが、そんな財務長官だった。もちろん、トレーダーたちは財務長官や中央銀行のあらゆる発言に耳をすましている。それが市場を動かすからだ。財務長官たちに重荷が科せられるのは、彼らが市場を非難し、さらには操縦しようとして間違いを犯すからだ。
大臣たちは、思いのままに市場を動かす権利を、神が与えたと思うようだ。さらに、もし言葉だけで市場を動かせれば、お金を使わなくても済むからなお良いことだ、と。オニールがこんな暴言に加担するとは。
公聴会では、委員長のPaul Sarbanesが高すぎるドルの価値について質問した。Sarbanesは経常収支赤字を問題にしたがる。彼は特に、オニールが経常赤字を「無関係」と言ったことに凍りついた。Sarbanesは、ドルの価値がアメリカの製造業を「信じられない位置」に押し込んだ、と確信している。そこで「プラザ合意U」を要求する。
オニールがこの提案を拒否したのは正しい。市場介入は全くの浪費である。彼が意味していることが何であれ、この主張は正しい。しかし、二人は知っているのか? このやり取りでドルが暴落した。誰が通貨市場の撹乱を引き起こしたのだ!
The Guardian, Saturday May 4, 2002
A land fit for racists
Gary Younge
それはまるで自動車がレンガの壁に激突するのをスローモーションで見ているようであった。結局、Burnleyでは3人もBNPの候補が当選した。残念ながら、それは重大な転換点であり、さらに増加する方向への転換だった。
BNPをナチと呼ぶのは間違いだ。ナチと非難することで、それを外国の、われわれの健全な社会と異質のものと見なしている。しかし真実は、第三帝国に支配された地域以上に、イギリスの村や都市こそ、それ自身の帝国の歴史において人種差別の伝統に染まっている。
帝国は、一方で世界中の資源や労働をイギリス人のために収奪し、自分たちを偉大だと見なした。その後、植民地を失うに連れて自分たちの衰退を意識するが、最終的に、旧植民地から大量の移民がイギリスに流入することで、イギリスが、あるいは白人社会が脅かされている、と考える。「われわれがここにいるのは、あなたたちがそこにいたからだ(移民流入を非難するイギリス人は、それがアジアを収奪した結果であることを忘れたのか?)」と、Race and Classの編集者A Sivanandanは指摘する。レイシズムの高まりにこそ、われわれは帝国の逆襲を見る。
イギリスの政治家たちは「racism人種差別」とは言わず、「immigration移入民」について盛んに議論する。しかし、移民と言うとき、アメリカ人やオーストラリア人を意味してはいない。それはカリビアンやアジアだ。Burnleyは、マンチェスターやリーズ、ロンドンよりも移民が少ない。しかし、パキスタンやバングラデシュを出身地とする人々が多い。彼らの多くはイギリスで生まれ、イギリス国籍を持つ。われわれは人口移動や人口変動demographyを語っているのではない。人間を悪魔にする言動demonisationを問題にしているのだ。
BNPはこれをよく知っている。「究極目標は、完全な白人社会だ。」とGriffinは言う。ル・ペンに対抗して難民の受け入れ削減を主張した労働党も、これを良く理解している。ギデンスAnthony Giddensが移民たちとそれに反感を抱かせる原因に厳しいのも、誰が聴衆かを良く知っているからだ。人種差別は犯罪として撃退すべきであろう。
しかし、問題の別の側面は既存の政治システムにある。BNPはシステムのアウトサイダーである。混雑した中心部では、政治に差異が失われる。労働党も保守党も、選挙の焦点では無い。むしろ辺境が注目される。Hartlepoolでは「サル町長monkey mayor」が誕生し、Stoke-on-Trentでは独立派の議員が、BurnleyではBNP党員が当選した。要するに、主要政党に属さない候補が、有権者の幻滅や無関心、失望の結果、選挙に勝つ。
ブレアは今まで保守党と闘ってきた。しかしこの選挙で、有権者は投票所よりパブに行っただけでなく、右翼に投票さえしたのだ。
Bloomberg 05/05 19:56
The Large, Invisible Reforms Under Koizumi
By Patrick Smith
日本について悲観的な見通しばかり述べるのは、見るべきことを間違っている。小泉首相の改革は、アングロ・アメリカ型モデルに従うものではない。
金融調査会社Analytica Japanの東京代表Stephen Churchは、「日本では改革が進んでいない、という議論には根拠が無い」と言う。私も日本が明治維新以来の改革に取り組んでいると思う。その結果についても重大な意味がある。日本は、官僚国家から、現代的な戦後ドイツの「社会民主主義」を、すなわち21世紀型の「社会市場モデル」を目指している。
小泉は公約をどれも達成できていない。不良債権は処理できないし、日本の景気が回復することも無い。「問題と取り組まない」という批判が繰り返されている。しかし、こうした批判は一種のナルシシズムだ。彼らこそ日本の問題を見ようとしていない。
日本は四つの改革を進めている。1.ドイツの``Allfinanz''制度をモデルにしたユニバーサル・バンキングに転換する:1985-2010年。2.社会福祉を重視する日本に相応しくないアメリカ型の税制から、間接税と付加価値税を重視したEU型の税制に転換する:1985-2020年。3.公共機関や公社を改革する:1995-2010年or2015年。4.地方財政の改革と財源の地方移転:1995-2010年以降。
中でも最大の改革目標は迷路のような日本の公共部門である。不良債権が問題になるに連れて、公共投資についても「資産の質」が(婉曲な言い方で)問題になり始めた。日本の財政投融資を扱う財務省MOFの部局が注目され、高齢化問題に加えて、MOFの能力が疑われた。
その規模は半端じゃない。全部合わせると440兆円(3兆4300万ドル)の公的資金が、財政投融資計画(FILP)として資金運用部で管理されている。その全体像は誰にも分からない。彼らは独立の機関や公社を通じて金を動かし、官僚にしか分からない、不明瞭な会計報告しかしない。
MOFはFILPを市場による間接融資に転換しようとしている。しかし、公共財を供給する機関には財政的な補助が与えられる。3月には、日本道路公団が1兆5000億円の債券発行を取り止めた。なぜなら公団の将来が不透明だからである。
日本は改革を放棄していたのではない。銀行でも建設業でも、競争条件を整備し、公共部門を整理し、小泉は自民党の政策部会が押さえる政策決定システムの改革にも乗り出した。これらが将来に持つ意味は大きいだろう。
ST MAY 6, 2002 MON
Shift of funds from US to Asia could signal new era
By LIM SAY BOON(director of OCBC Investment Research)
夜明け前の闇が最も深い、と言われる。われわれは、もしかすると、世界経済・金融の勢力がアジアの資産保有者に移動するのを目撃しつつあるのかもしれない。それは最初、世界の過剰流動性がアジアの資産市場に流れ込むことで始まる。
もちろん、ドル安を心配するのはもっともだ。シンガポールの競争力が損なわれ、特にドルと固定している隣国マレーシアの競争力が強まる。しかし、他方で資産市場の回復は長期の構造調整を容易にする。
最近は、アメリカからアジアへの資産市場における資金の移動が持続するようなダイナミズムも見られる。ドルの減価が起き、アジア市場のパフォーマンスがアメリカ市場を数ヶ月間も上回り、国際投資家たちがアメリカの資産価格に「趨勢的な下方転換」を意識し始めた。これらは世界的規模の地殻変動を意味するかもしれない。
ドルが持続的に減価するのは、世界の過剰流動性がアメリカから新興市場、特にアジアへ移動しているからである。そこでは株価が相対的に過小評価されている。またアメリカの株価や住宅価格が頂点に達したことを予想させる。投資家たちは防戦に回る。大きな変動の前に儲けを確定したいからである。
この事態は、アメリカが採った非常に攻撃的な金利引下げが経済をまだ十分い刺激できず、過大評価された株価に見合った収益が生み出せないことを意味する。そこで今度はドルが安くなるわけだ。ドル安で景気を刺激するため、金利は低いままに放置される。
アメリカ経済は化粧がはがれて、二番底を避けるためにさらに低金利が必要だ。低金利がドル安を促す。この二つは同じコインの裏表である。
かつては株価下落や景気悪化もドル安をもたらさなかった。なぜなら金利が高かったから。投資家は株式から債券に乗り換えた。景気が悪化すればこの転換が起こり、金利を下げて債券価格を上昇させた。しかし、今や金利が以極端に低い。投資家たちはアメリカの固定利回り債券を買いたがらない。
さらに経常収支赤字の不安もある。それはGDPの4%を越えて、バナナ共和国の水準だ。アメリカの富や権力に惑わされて、資本流入でドル高を維持した。もしこれが逆転すれば、もちろん、これは非常に極端な過程だが、世界に地殻変動が起きる。
投資家がアメリカ資産を売らなくても、アメリカへの資本流入が止まるだけで、経常収支の赤字がドルの減価をもたらす。もしドルの減価が続くと確信されれば、積極的な資産売却が始まる。その結果、アジアに資本が移動する。それは、5年ものデフレに苦しんでいたアジアに資産インフレをもたらす。なんと奇妙なことか!
さらに、もしこの資本移動が妨げられればどうなるか? アメリカにとってもアジアにとっても、それは世界金融システムの転覆をもたらす。(アメリカ政府は無謀な介入を慎め!)
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The Economist, April 27th 2002
The French elections: After the cataclysm
すべての権力は大統領が握り、国民の意見を代表するのは議会だ、というゴーリストのアイデアは過去への追憶に過ぎない。4月21日のル・ペンの勝利は、フランス第五共和制を終わらせる種を蒔いた。第六共和制は、よりイギリス型の議会モデルに向かうのか、アメリカ型の大統領モデルに向かうのか。
既存の政治家たちは、移民や失業、麻薬、犯罪の問題に取り組む能力があるのか? 有権者たちには、それが余りに遅く、余りに少ない(too little, too late)ように見える。ル・ペンは、シラクの「不寛容 “no tolerance” 」政策など、自分の政策をまねたものだと主張した。ル・ペンの方が、いいかげんな説明に飽き飽きしたフランス人たちの聞きたがっている声を強く示す。犯罪者を牢屋にぶち込め。死刑復活。移民流入阻止。非合法移民の追放。合法移民の出国補助金。モスクの増加禁止。憲法改正と雇用・住宅・社会給付における生粋のフランス人優先。さらにユーロからフランに戻し、EU離脱の国民投票も掲げる。
これは有権者による警告である。既存政治家は近代化し、国民に魅力ある政策を示さねばならない。30年前まで主要政党であったフランス共産党は消滅寸前だ。他の旧派閥もそうだ。再選されたシラクは国民に、そして市民権を持たないbanlieuesの人々に、また彼らを誤解し、恐怖を募らせる人々に、「人間の権利、国民の団結、共和国の統一と国家の権威回復」を唱えた彼の言葉の意味を、示さねばならない。
America’s current account deficit: The O’neill doctrine
オニール財務長官は言う。経常赤字など「無意味な概念」だ。政策担当者が注意を払うべきではない、と。しかしアメリカの赤字は、アメリカが2003年には毎日20億ドルを借り入れる必要があることを意味する。もし外国投資家がアメリカの資産を嫌えば、財務長官は眠れないはずだ。
赤字は単に、外国の投資家が収益の高いアメリカに投資したいことを示すだけだ。赤字が合理的な貯蓄と投資の結果であれば、何の問題も無い。政府が個人よりも賢明である理由は無い。この議論はイギリス人にとって馴染み深い。1980年代後半に、ナイジェル・ローソン蔵相が唱え、「ローソン・ドクトリン」と呼ばれたものだ。
オニール長官がこの主張を採用するには、三つの欠陥がある。1.アメリカの経常赤字はもはや民間部門だけで説明できない。アメリカは財政赤字で対外赤字を増やしているからだ。2.民間部門も、将来への間違った期待で貯蓄を減らし、投資しているかもしれない。3.歴史は、巨額の経常赤字が最後にはいつも崩壊を招くことを示している。外国投資家がそれ以上のドル資産を好まないときがくるだろう。
もし資本流入が止まれば、経常赤字は減るしかない。それにはアメリカの不況か、ドル価値の暴落、あるいはその両方が必要になる。連銀の調査では、通常、経常収支の赤字がGDPの5%を越えると資本が逆転し、調整には為替レートの40%の減価と成長の減速がともなう。昨年、アメリカはこの割合が4%に達し、来年は6%に達する。
The European Central Bank: Defended
ECBはアメリカの連銀に比べてインフレ抑制に囚われ、積極的な金利引下げを行わなかった、と責められている。しかし、CEPRが出した研究は、アメリカの金融政策がテイラー・ルール(インフレと生産ギャップの予測による)に従っており、同じルールをユーロ圏に適応すると、現実のECBの政策よりも大きな金利引下げを行ったとは思えない、と主張した。アメリカでは生産の落ち込みが激しかったので、それに対応して大きな金利の引下げが行われたのである。
実際、ECBは、インフレが3%を越えて上昇する中でも、生産ギャップの拡大を予想して、金利を引き下げた。しかしこの研究は、EUが財政安定化協定で財政的な刺激策を制限され、賃金も物価もアメリカより硬直的であることを考慮すれば、金融政策はより積極的に景気を配慮すべきだろう、とも述べている。