IPEの果樹園2002

今週のReview

4/15-4/20

NHKの朝のニュースを観ていると、シンガポールが世界中から生化学・医薬関係の先端的研究者を集めて、次のリーディング・インダストリーを育成している、と伝えていました。二人のアナウンサーは「素晴らしいですね」と言いました。研究者たちは良い研究条件と高い給与を得られます。しかし、それは本当に素晴らしいことなのですか?

かつてフランスで自国産業の保護を訴える議論に反対して、それは電燈の生産者団体が「太陽に税金をかけよ!」と要求するようなものだ、と言ったとか。税金を払いたくなければ、各家庭は窓を暗幕で閉ざし、昼でも家中の電燈を点けるわけです。なるほど、残念ながら、太陽はシンガポールに誘致できなかったのです。しかし、知識人集団は誘致できました。知識は、太陽と違って、シンガポール政府が高賃金の職場や税金を得る手段として、利用しても良いのでしょうか?

「知識」がそれをもたらした個人に高い所得を与えるのは、それが社会の中で利用される過程でさまざまな富を増やすから、知識の獲得を社会が奨励するために、その富の一部を与えるのだ、とThe Economistは主張しました。では、どのくらいの富が適当か? というと、それは時代によって個々の社会が合意すべきことなのです。

ネットワークを支配する者は、独占的になればなるほど、その利用者に「地代」を要求します。たとえば、Windows95・・・98・・・2000。ある雑誌に載った、そろそろ年貢の納め時? というエッセーの題を見て、私は苦笑しました。そのうち私たちは、空気を吸うにも「森林国」に税金を支払うようになる、と思います。インターネットを利用すればアメリカに、英語を使えばイギリスに、チョコをもらえばセント・ヴァレンタインの教会へ・・・? 野球を観るのが楽しいとしても、なぜ巨人の松井が6億円もの報酬を得るのか分かりません。もっと素晴らしいスポーツ選手は多くいるはずです。

資本制システムは所有権と分配に関する意思決定を必要とします。国際破産法廷では、破綻した債務国の将来の富を再分配します。他方で、タックス・ヘイブンは各国の異なった課税制度を利用し、国際取引を最も有利に進める企業の手段となります。かつて多くの船舶がリベリア船籍であったように、国際投資の目論見書を見れば、そのファンドがケイマン諸島で設立されたりしています。しかし、どれほど通貨危機が深刻で、投機的な短資の移動を予防することが望ましいとしても、いまだに国際課税は成立していません。

シンガポールはこうした世界で「国家」として「生き残る」ために、可能な戦略を追求し続けています。知的所有権の確立はアメリカの戦略的分野として「ただ乗り」できます。バイオ関係の製品開発は、将来、非常に有望で「儲かる」でしょう。しかも文化や制度・国内政治に左右される他の製品と違って、医薬品の特許を抑えてしまえば、世界中の全人口が、そのまま生物としての人間種として、市場を提供してくれます。余計な市場調査や開拓なんて必要ない。ひょっとしたら、それは「いざ」と言うとき、容易に生物兵器にも転換できる?

「ロバート・オーウェンのような人々が示したように、工場はそれほど悪魔的である必要がなかった」と、ドーアは書きました。医薬品やコンピューター、国際投資に依存した年金、クリスマスのプレゼントも、すでに驚くほど「悪魔的」なシステムに取り込まれているかもしれません。そして、シンガポール政府は怖れているでしょう。もしシステムがそれほど利益をもたらし、悪魔的であることを意に介さないとしたら、クウェートや世界貿易センターのように、自分たちも侵略やテロの対象になる、と。

ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, STStraits Times, IHTInternational Herald Tribune


FT April 3 2002

Editorial comment: Bankrupt US veto

企業が経営に失敗すれば、国内の破産法は事業の建て直しや競争的な取立てに秩序を与える。しかし政府の場合、同じような国際破産法は存在しない。これは何もアルゼンチンに始まったことではなく、20年以上も前から特に三つの問題が指摘されていた。

1.流動性危機に際して債権者がパニックに陥り、個別に資金を引き出そうとする結果、全体としては被害を拡大する。2.個々の債権者が必要な債務の組替えに応じず、問題を解決できない。その結果、3.国際金融を混乱させないためにIMFが救済融資を繰り返し、ますます無謀な融資を増やしてしまう。

こうした問題を解決するために、二つの提案がなされている。IMFのNo.2であるアン・クルーガーは、アメリカ型の破産処理を求める。独立の国際法廷が破産した政府に債務の組替えを許し、民間債権者には訴訟させない。他方、アメリカ政府は(債務国)政府が債券の契約内容を変更して、債券保有者の多数が求めれば組替えを許すようにする。

理論的には、二つとも三つの問題を解決する。その違いは、国内法より優先される国際法によるか、債務国と債券保有者たちとの自発的な合意によるか、という選択に帰着する。

しかし、アメリカ案は表面的に魅力があるように見えるけれど、機能しないものだ。債務国は債券契約を変更しようとしない。なぜなら、そんなことをすれば、デフォルトの可能性が強調されてしまうし、異なった債券について合意を形成する集団行動の問題が深刻であるし、既存債務を契約変更した新しい債務に切り替える方法がわからないからだ。

これに比べて、IMF案の方が実際的であり、国内法の変更も少ない。アメリカが支持しなければならないから、ブッシュ政権はこの点で拒否権を持っている。アメリカは再考するべきだろう。無秩序と救済融資よりも、国際金融制度の改善を進めるべきである。


FT April 2 2002

A wild ride around the world

Robert Lawrenceprofessor of international trade and investment at the Kennedy School of Government, Harvard university, and a senior fellow at the Institute for International Economics

(書評)Jagdish Bhagwati, Free Trade Today, Princeton University Press.

デイヴィッド・リカード以来、競争的な価格に従えば、自由貿易は各国に比較的優れた活動への特化を促すから、すべての国の利益となる、と経済学者は理解してきた。バグワッティも言うように、自由貿易への懐疑論は、リカードの主張ではなく、価格が競争的であるという前提を疑う。実際には市場は歪んでおり、硬直的な賃金や独占、外部性が存在するから、価格は正しい社会的コストを示さない。

価格が間違っていれば、貿易を自由化すると事態が悪化するかもしれない。1930年代に、ケインズは大量失業について、1950年代、開発経済学は発達した資本市場の欠如について、1980年代、寡占部門への介入について、現代では環境破壊について、自由貿易が反対されている。

バグワッティは、こうした議論を信用しない。彼の答えは明確だ。「二つの間違いをあわせれば、正しい答えになるわけではない」と。彼にとって、不完全な市場に対して、保護貿易で市場をさらに歪めることは間違いである。労働市場や資本市場、独占、環境問題は現実に存在するが、それは貿易への介入によってではなく、直接に解決されるべきである。貿易と環境という、二つを問題にするなら、その解決には二つ以上の政策手段が要る。貿易政策に関しては、自由化せよ、と言うのが唯一の正しい答えである。

経験的証拠についても、バグワッティは、貿易は成長を促せないとか、開発諸国の未熟練労働者の賃金が低下したとか、発展途上諸国で貧困を増やしたとか、規制が国際的に低下する、という議論には、十分な証拠がまだ無い、という。


FT April 4 2002

Editorial comment: Asian values

どこの酒場でも、独裁は経済にとって良いことなんだ、という話を聞くだろう。チリのピノチェット、鉄道に時間を守らせたムッソリーニ、共産党が支配する中国と民主的なインドを見ればよい。どちらの方が、成長を促し、貧困を減らせるだろうか?

この荒っぽい議論をもう少し見栄えよくしたものが、アジア開発銀行の研究所によって報告されている。アジアの「奇跡」にともなった権威主義体制は、その驚異的な成長に貢献した、と。東アジアの独裁者たちは効率的な官僚制度と安定性をもたらした。

さらにこの研究は、民主主義が成長を遅らせる、という。政治の混乱は、労働市場の硬直性、意思決定過程の障害、自由化の遅れにより、経済運営を悪化させる。しかし、必ずしも独裁は経済発展を意味しない。独裁体制の危険性は、アカウンタビリティーと透明性の欠如である。それは資源を無駄にし、腐敗をもたらす。東アジアの奇跡で驚くべきことは、この地域の独裁者が極端な「レント・シーキング」に走らなかったことである。生き残るためにか? あるいは、国民への使命感?

開発のための教訓は、民主制か独裁か、ではなく、政治的自由と経済的自由との区別である。ケ小平が述べたように、黒い猫でも白い猫でも、ねずみを取るのが良い猫だ。


FT Apr 04 2002

Recesssion? What recession?

Kenneth Rogoffeconomic counsellor and director of the research department at the International Monetary Fund

民間の経済予測が、アメリカ経済はいつ回復に転じるか、と問うより、いつ減速するか、と問うようになった。実際、この一年の急激な景気悪化はほとんど世界不況に近かった。どれくらいそう言えるのか? 2002 World Economic Outlookの準備作業で、今回の世界不況とその経過を詳しく見た。

われわれの結論は、船は沈まなかったが、まさに浮いていただけだ、というものである。2001年の世界の一人当たり成長率は1.2%であった。それは過去30年間の世界不況がゼロやマイナス成長をともなったことと非常に異なる。しかし、世界貿易の成長は2000年の12%から2001年はゼロに落ち込んだ。世界不況として知られる1991年のときよりも激しい下落である。世界の工業生産も一年以上減少した。多くの人が今も失業している。

事態はもっと悪化しえた。特に、たとえばアメリカの消費者や企業が多くの債務を負っているという、重大な金融的脆弱性があるから、より長期の不況となってもおかしくなかった。金融や銀行で問題が起きたとき、社会が迅速に解決策を実行できないと、通常の景気後退が深刻で長期の不況になってしまう。日本はその例だ。

今回、アメリカでも、より程度は劣るがヨーロッパでも、通貨政策が緩和されて、信用が与えられた。財政政策でも、ユーロ圏の財政引締めは解釈によって緩和され、アメリカは幸運にも政府の減税策と重なった。通常は、景気循環を緩和する財政政策の意思決定が遅れて、むしろ景気循環を増幅するものである。たとえ選挙の年でも、しばらくアクセルから足を離すべきだろう。911日や炭疽菌事件は、幸いにも一回で収まった。最後に、不況自体が歴史的に緩和されてきた。

世界不況は8年から10年の循環で起きるようだ。うまくいけば、今回の不況でしばらくは安心だろう。しかし、不況はなくならない。技術への投資ブームと破綻はその典型である。それゆえ政策担当者たちは、好況時に世界経済を将来の不況に耐えうるものにしておくことが重要だ。そこでIMFは、アメリカの経常赤字、日本の金融・企業部門、ヨーロッパの労働市場と製品市場全般を、改革するように求めた。

これらは単に国内問題ではない。他の世界で力強い成長をもたらす構造的政策が進むことは、アメリカの慢性的な経常赤字を改善する最良の道である。


BBC Thursday, 4 April, 2002

Argentina battles spread of poverty

Bloomberg, 04/05 12:26

Argentina's Poor Go Hungry as Soup Kitchens Fail to Keep Up

By Helen Murphy and Heather Walsh

ほとんど人口の半分が貧困線以下で暮らしている。ドゥアルデ大統領は失業した家族に毎月150ペソを支給する、と発表した。それは増税や、前任者が導入した特別年金の削減で賄われる。しかし、通貨の減価とインフレは悪循環をなしつつあり、街頭デモは毎日行われている。

政府はIMFの追加融資を望むが、IMFは経済改革を進める政治的決断無しに融資は無い、と言う。

ブエノス・アイレスの高速道路の下では、スラムの母親と子供たちにシチューの配給を続けている。その皿の数は1月の3倍、250枚になった。通貨価値が下がって以来、市からの食糧の配給は減少しました。パスタの値段は倍になっている。

大統領の約束した失業給付も信用しない。「前は屋根を直す心配をしたが、今では皿に乗せる食べ物が心配だ。」政府がペソを切り下げて以来、ブエノス・アイレス市がスープの配給をする人は37000人から46000人に増えた。「子供が飢えているのに、私たちは母親を追い返すしかない。」


WP Monday, April 8, 2002

Adjusting Trade Politics

ブッシュ氏は、中東に関する力強い演説の後、貿易促進法案を訴えた。この問題について、彼の主張は鉄鋼やカナダとの木材摩擦で色あせたが、貿易促進の彼の説明は変わらない。貿易は国内も、貧しい諸国も、ともに繁栄させ、安定性をもたらす、と。しかし、もし彼が422日という法案通過の期限を本気で守らせるつもりなら、一つの重要な問題で民主党と合意しなければならない。

それは貿易調整援助である。この制度は、貿易に関連して企業が移転し、失業した労働者を助けるものである。減速から言って、それは素晴らしい制度である。貿易自由化は一般に繁栄をもたらすが、地域によっては失業が増える。そこで、失業者を支援する必要があるのだ。上院の民主党議員たちは、この制度による職業訓練や所得補償を「副次的労働者」にも拡張するよう求めている。すなわち、直接に移転した企業だけでなく、それと取引のあった企業が失われた場合にも、失業者に適応するのである。また、こうした失業者たちが年金の支払いを続けられるように、支援することも主張している。

共和党員たちは、制度ではなく、資金の使われ方に問題がある、といって反対する。ある程度それは正しいが、政府か市場か、といったイデオロギー論争に耽らず、改善すればよい。この問題に拘って貿易促進法案を潰せば、共和党の自由貿易論にも傷がつくだろう。


FT Apr 09 2002

Stay out, miss out

Christopher Huhne

ユーロ支持者は、通貨の違いが貿易を妨げる、と主張してきた。他方、反対派は、為替レートの浮動性は、リスクをヘッジすれば、貿易を妨げない、と主張した。ユーロ圏の貿易統計は、この論争を終わらせた。ユーロ圏の数値は、EMU加盟諸国間で貿易が印象的な増加を遂げたと示している。他方、イギリスなどの「圏外国」はこの成長に取り残された。

貿易依存度は長期にわたって変化しにくいものだが、ドイツの他のEU諸国との貿易は1988年にGDPの27.2%であったが、2001年には32.2%に増加した。フランスも28%から32.2%に増えた。ユーロ圏加盟諸国の平均では3.3%の上昇となっている。これに比べて、イギリスとEU加盟諸国の貿易はGDPの23.4%から22%に減少した。「域外」3カ国の平均は不変であった。

貿易の増加はユーロ圏の成長も高めただろう。大まかには、貿易依存度が1%上昇すると、成長率は1/3%増加する。もしそうであれば、単一通貨の導入でドイツやフランスの成長率は1%高くなったはずだ。

これはいつまで続くのか? American Economic Reviewに載った論文で、John Macallumはカナダの諸地方とアメリカ諸州との貿易を比較した。その結果、地方間の貿易が、地方とアメリカの諸州に比べて、20倍も多いことが分かった。カナダとアメリカとは同じ言葉を使い、自由貿易を行い、非関税障壁も抑えられている。法律や文化、嗜好に細かい違いはあるが、国境を隔てるこの差の重要な部分が、為替レートの浮動性であるだろう。もし言語が重要であれば、ケベック地方がそれを示すはずである。

その結果、ユーロ圏が為替リスクから解放されたことで新しい均衡に達するまでには、まだ長い年月を要する、という結論を得る。これはイギリスにとって重要である。ユーロ圏の貿易は競争による効率化と企業の淘汰、M&A投資を加速させている。イギリスはこうした利益を得られない。

ユーロ圏からイギリスを切り離すことは、重大なコストを意味する。どの国にも当てはまる金利は無い、と言ってユーロ参加を遅らせることは、もうできない。


NYT, April 9, 2002

The Third Oil Crisis?

By PAUL KRUGMAN

1973年のアラブ諸国による石油輸出禁止、1979年のイラン革命は、ともに世界不況をもたらした。われわれは今また三度目の石油危機に瀕しているのか? 残念だが、そんなことはない、と言えない。

石油価格は中東情勢が悪化してから既にバレル当り10ドル値上がりしている。政治学者はイランの禁輸措置は1ヶ月以上続かない、という。そうであって欲しいが、1979年の危機は禁輸で起きたのではない。

1979年の危機について、私は、最近のカリフォルニアの電力危機に似ていた、と思う。どちらのケースでも、供給が逼迫し、需要は価格に反応しにくかった。このような条件で、個々の生産者は、カリフォルニアの電力会社も、1979年の石油生産国も、大きな市場支配力を持った。すなわち、個々の生産者の利益は生産を減らして価格を引き上げることにあった。その結果、実際には供給能力が不足していなくても、価格は急騰した。

石油市場は、まだそうなっていない。イラクが日量200万バレルを減らしても、危機は起きないだろう。しかし、リビアも削減すれば、システムの余裕が失われる。問題は政治的状況よりも、金融的な利益が、石油生産の増大よりも削減に向かっていることだ。

1970年代の危機の後、西側経済は急激にエネルギー効率を改善し、危険な地域からの石油消費を減らした。湾岸地域からの石油は、世界の石油生産の18%しか占めず、1973年の半分以下である。

石油価格が上がっても、1979年のような物価の上昇は起きないだろう。しかし、異なった破壊的効果がある。1979年には西側経済がインフレに冒され易かった。主要国でインフレ抑制のために金利を引き上げ、深刻な不況をもたらした。

今では、物価が安定してから10年が経ち、インフレ懸念は抑えられている。むしろ主要な関心は購買力の低下である。バレル当り10ドルの価格引き上げは、700億ドルの増税と同じように、中産層や低所得家族の生活を切り詰める。

物価の安定した10年を経て、現在、インフレへの恐怖はずっと小さい。その代わりに、主要な関心は石油価格の上昇が消費者の購買力を殺ぐことにある。バレル当り10ドルの値上がりは、中低所得層に非常に厳しい、700億ドルの増税に匹敵する。もし消費が削られたら、投資の落ち込みを補ってきた消費ブームが失われるかもしれない。しかも、連銀は6.5%から1.75%まで金利を引き下げた緩和政策を、もう一度やるわけにいかない。

だから私は、残念ながら、現状において第三次石油危機が起こりえる、というほか無い。それは起こらないかもしれない。石油市場が外交的な打開策で平静を回復し、アメリカ経済の回復も堅固なものであるなら。しかし、悪いほうが起こると考えたほうが良い。

NYT, April 2, 2002

The Path From Oslo to War

By RAJA SHEHADEH

イスラエル政府は、最近の侵攻について、敵からの攻撃に対して市民を守るために自衛している、と言う。もしイスラエルが1967年の国境内に住むイスラエル国民を守りたいのであれば、軍隊を引き揚げて、国内で強い措置をとれば良い。しかしイスラエルが市民を守る権利や義務について話すとき、問題は、東エルサレムと、各地に散らばる入植地に住む38万人のイスラエル人もこれに含まれる、ということだ。これらの入植地こそ、和平交渉の障害となってきたし、イスラエルが境界を閉ざせない実際の理由なのだ。イスラエルが今まで強力に入植政策を推し進めてこなければ、双方の政治的・安全保障の協力が、パレスチナ国家とイスラエルの相互承認案を成功させていたはずである。


WP, Tuesday, April 2, 2002

From Algiers to Jerusalem

By Richard Cohen

アリエル・シャロンは戦争に忙しくて忘れているかもしれないが、思い出しておこう。先月は、アルジェリア・フランス戦争の終結を祝う記念日があった。1962年にその戦争が終わるまでに、少なくとも25万人のアルジェリア人と、25000人のフランス軍兵士が殺された。それに約4500人のヨーロッパ系入植者と、15万人のフランスのために戦ったアルジェリア人たちがいた。彼らは戦争終結の際に虐殺された。

この戦争に言及したのは、パレスチナの暴動がどこに向かうかを長く考えていたからだ。彼らはともにイスラム教徒であっただけでなく、ともに植民地化されたと考えた。フランス人たちが決して半端な気持ちで戦ったのではないことを注意しておこう。ゲリラやテロリストに対して、フランス軍は徹底した弾圧、暗殺、拷問で対抗した。人権蹂躙も珍しくなかった。フランス人は敵を野蛮人だと見なした。

アルジェリア戦争は、今や、エルサレム、ジェニン、ハイファ、ネタニヤで戦われている。どこでも、パレスチナ人の自爆テロが襲ってくる。イスラエルはますます絶望的な戦略で反撃する。最初は暗殺を用い、今では西岸を再占領しつつある。そして他でもない、シャロンとブッシュは敗北する。「奴らがわれわれを殺せば、われわれは奴らを殺す。終わりは無い。」と、息子がネタニヤの自爆テロで22名を殺したMuhammad Odehは言う。「自爆テロは大衆スポーツのようになってしまった。・・・軍事的な手段で終わらせることはできない」と、イスラエルのコラムニストNahum Barneaも言う。

私にはシャロンの怒りが理解できる。それは911日に私やブッシュ大統領を襲った感情と同じだ。完全な無力感。彼らの死に何もできなかったこと。そして突然、激しい怒りの爆発と復讐の欲求が起きて、それから逃れられない。ブッシュ氏がシャロンの軍事侵攻を認めた気持ちは分かるが、しかし、ワシントンやペンタゴンは、イスラエルでも西岸でもない。

パレスチナ人は、その唯一の、しかも効果的な武器である自爆テロで戦い続けるだろう。彼らの政治的関心が聞き入れられるまで、テロは終わらない。主要な関係者は、パレスチナとイスラエルが平和に共存すべきことを認めている。そのためには、イスラエル軍が西岸から撤退し、ほとんどの入植地を放棄すべきである。1967年の国境線は、イスラエルにとっても最善の選択なのだ。

フランス人は、今度は、人権についてアメリカに説教する。アルジェリアで明らかなように、弾圧も、戦争も、拷問も、暗殺も、もっと汚く、もっと卑劣で、決意を固めた敵に対しては通用しない、と。シャロンとブッシュは、この教訓を受け入れることだ。あるいは、繰り返すのか?


Bloomberg, 04/02 14:51

Middle East Could Be the Fed's Worst Nightmare

By Caroline Baum


FT Apr 03 2002

America's narrowing vision of the Middle East

Gerard Baker

アラファトに同情した弁護士の家族は、死の脅迫状を受け取ってブルックリンから引っ越した。アメリカの政界でパレスチナに同情したり、イスラエルを批判したりする声は聞かれない。それは、通常言われるような、戯画化されたユダヤ・ロビーのせいではない。

政権に及ぼす三つの勢力がある。1.共和党内で強い、キリスト教原理主義者たちの影響。2.政府内で広まる新保守主義者「ネオ・コン」たち(ウォルフォヴィッツやチェーニーがその代表)の影響。3.911日のテロの後遺症。

ブッシュ政権はすでに政治的な選択の余地を失いつつあり、ますます妥協よりも見解の分極化を進めるだろう。


IHT Wednesday, April 3, 2002

Israeli democracy's decline 

Baruch Kimmerlinga professor of sociology at the Hebrew University of Jerusalem

イスラエル予備役で350人以上の警官や兵士が占領地域での任務に就くことを拒否した。イスラエル軍による戦争犯罪に加わりたくない、というのがその理由である。彼らが命令を拒否すると、軍事法廷で裁かれ、投獄される。こうした声明により、彼らの良心的な反対に協力する市民運動が現れ、他の兵士も参加した。しかし、今までこうした不戦運動は目立たず、公に議論されてこなかった。

今回は違う。その数が多く、武力衝突がエスカレートし続けているために、市民の反対運動も広がっている。しかし、イスラエルの政治システムは少数の強硬派に支配されている。占領地域への配属を拒否する者を助ける道徳も民主的な法律も無い。

1967年以来直接に、また1994年以来間接的に、100万人以上のアラブ人居住者を、市民権や最も基本的な人権さえ欠いたまま、イスラエルが支配するようになった。このような状態を制度化した結果、イスラエルは民主的国家ではなくなり、完全な権利を享受する国民と、何の権利も無い住民とからなるa Herrenvolk democracyとなった。法律はイスラエル国民であり、この土地の主である者にだけ適用される。実際、すべてはユダヤ人の利益に向けられる。イスラエルは二重二重の法律、二重の支配、二重の道徳を持つ。

このような状況で良心的な兵役拒否を行うことは、民主的と称する体制を揺るがし、法に従うことが非民主的であることを意味する。しかし、イスラエルでの反応は、誤解と、軍国主義、植民地的文化に冒されている。入植者による犠牲が少数の強硬派に政策の決定権を与えている。他方、ほとんどの平和運動は安楽椅子の中でだけ議論される。何の力も政治的な実効性も無い。彼らは世論から遊離することを恐れ、支配体制と協力する。


LAT April 3, 2002

Stop the Dream of an 'Arab Bomb'

By RANAN R. LURIE a senior adjunct fellow at the Center for Strategic and International Studies in Washington

私たちは中東の軍事情勢をつくづく考えていた。友人はマティーニを見つめながら言った。「想像できるだろうか? 12200万人の屈強な集団が、そのわずか4%足らずの集団を軍事的に打ち倒すことができないなんて。これが54年間も、繰り返し、繰り返し行われたのだ。」

アラブは軍事的にイスラエルに劣っている。それがアラブの自意識まで形成している。だからアラブ諸国は、彼らの長年の夢であった「アラブの核爆弾」をフセインが作るだろうと望むのだ。にもかかわらずアメリカは、その夢を打ち砕くイラク征伐に協力するよう、彼らを説得している。それは、ラクダを飛ばす訓練だ。

ある朝、イラクの科学者たちがフセインに核爆弾を献上すれば、その日の午後にはイスラエルの上空でそれが破裂するだろう。理知的な戦略家たちが、フセインはパレスチナの兄弟を犠牲にできないだろう、と言うなら、既にフセインが10万人の国民を「治安警察」に殺させたことを教えてやろう。

アメリカはイラク攻撃にアラブ諸国の協力を期待すべきではない。逆に、米軍への攻撃に参加しなくても、諜報活動や石油禁輸で、彼らはイラクに協力する。残念ながら、フセインの核爆弾は、アラブ世界が対イスラエル対等化、もしくは優越化を実現する切符なのだ。アラブの指導者たち以外、だれもアラブの夢を打ち壊せない。

われわれができるだけ早くイラクを攻撃するほど、アメリカやイスラエルが核攻撃される恐れは減るだろう。


NYT, April 3, 2002

The Cancer of Suicide Bombing

1980年代、90年代のパレスチナ人のスローガンは、「イスラエルは核兵器を持っているが、われわれにはHuman-bombがある」だった。それは人口増加を意味し、将来はパレスチナ人がユダヤ人よりも多くなる、ということだった。

そのスローガンは今も広まっているが、意味は恐ろしく変わった。インティファーダが生んだ最も毒性の強い兵器である「自爆テロ」が広まったからだ。イスラム教やアラブの指導者たちはこれを明確に非難せず、自分たちの社会とイスラエルをともに滅ぼしつつある。

婚約者がおり、ジャーナリストを目指していた、優秀な成績の女子高校生が、先週、エルサレムのスーパーマーケットで自分を吹き飛ばした。イスラエル人二人も死亡し、一人は彼女と同じ年の女性であった。精神的にも、知的にも、政治的にも、最悪の破産した政治家たちが、こうした死の自滅行動を許している。


FT Apr 04 2002

A sheriff in need of deputies

Philip Stephens

ブッシュ氏が好む外交政策のイメージは、警察官と青年団、である。911日のテロは、アメリカが冷戦以来はじめて、国際的な戦略転換を始めるきっかけとなった。アメリカはその軍事的優位を道徳的な価値だけでなく、完全な覇権体制の再構築に向けるだろう。これまでのユニラテラルなグローバリゼーションから、グローバルなユニラテラリズムが始まる。イラク攻撃はその一環であったが、そもそもブッシュ氏に中東和平への関心はなく、シャロンがぶち壊すまでブッシュ氏は紛争から身を引いていた。中東に関わるとしても、彼には青年団が必要だ。たとえばブレアのような。


NYT, April 4, 2002

Why Suicide Terrorism Takes Root

By SHIBLEY TELHAMI

少女はメッセージを録音したテープを残した。「眠り続けるアラブの軍隊」と何の力も無い各国の政府が、彼女を戦いに走らせた、と。今日、アラブ世界に広まる雰囲気は、集団的な怒りと救いの無い感情である。イスラエルのテレビが自爆テロの犠牲となった無実の市民たちを映しているとき、アラブのテレビはパレスチナの街を破壊する戦車を、アラブ市民の犠牲者を、35年に及ぶ占領の爪あとを映している。

ここに自爆テロのルーツがある。彼らは絶望的な政府に頼ろうとしない。むしろ自分たちの暴力で国家に立ち向かう。

自爆テロは無政府状態に繁殖する。実行力のある政府の欠如が、彼らの権力の源泉だ。自爆テロは反政府的であり、個人や小集団の最終兵器である。死を決意した者たちに報復しても、一般に、効果は無い。

問題を、善と悪との単なる選択、と見なしてはいけない。今日、イスラエル人は自爆テロの恐怖を免れるために、パレスチナ人たちを自宅の周辺から一掃することを支持している。他方、多くのパレスチナ人は、占領の耐えられない苦しみから解放されるためなら、テロを支持している。これはほんの数ヶ月前には無かったことだ。

自爆テロは責められるべきだ。しかし、テロを無くす唯一の方法は、それに代わるものを、希望を蘇らせる平和的な計画を示すことだ。暴力的な報復は、テロを終わらすことができないばかりか、穏健な人々の心をも砕くような屈辱を追加して、むしろテロを増やすだろう。

The Economist, March 30th 2002