IPEの果樹園2002

今週のReview

4/1-4/6

互いの手足を針金で縫い込んだ剣闘士たちが、最後に残った一人だけに、完全な自由と帝国の王者の席が約束された上で、昼夜の別無く殺戮ショーを続けている。貧者は外で新しい王様の誕生を待ち、富者は豊かな食事や酒に囲まれて、この血まみれの舞台を見物して大騒ぎする。私たちは、大衆向けSFホラー映画を観ているのでしょうか?

毎日のように自爆テロと占領による死者、その報復が累積する中東紛争のニュースに接していると、国際政治が麻痺することに、また死者たちを無視したまま国際政治が進むことに、社会的な政治意識の後退と政治家たちの想像力の世界に限界があること、市場型グローバリゼーションの矛盾、といったことを考えます。

戦争が国内政治の形を変えた継続だ、というのは、自爆テロや小型核兵器でも言えることでしょう。彼らに他の表現手段と問題解決能力があれば、自分の体を爆弾の一部にして吹き飛ばす必要はないし、核兵器で人間や自然を地球規模で抹殺する必要もないわけです。それができない理由は軍事的なものではなく、政治的なものです。

国際社会や国際法、国際政治など、存在しない、という冷酷な現実は、アメリカの覇権や冷戦構造によって一定の交渉のパターンを制度化できた時期には、緩和されていたはずです。しかし、冷戦後の国際秩序が三極化によって形成されるかに見えた途端、通貨危機が頻発し、日本もアジアも事後処理をめぐって再び後方に退き、アメリカの覇権体制もゴアとブッシュの泥仕合から迷走し始めました。民主党の政策にことごとく逆らって、国益中心主義を目指した新政権は、アメリカ市場の進める孤立主義的なグローバリゼーションを、ユニラテラリズムと呼ぶようになったと思います。

戦争を政治の一部とし、自爆テロを政治の一部とし、核兵器の使用を政治の一部とすることは、何も不合理な主張ではないし、目新しい発明でもないでしょう。しかし、それらを他の手段から分離し、「最後の手段」とすることが文明化の基本条件であったはずです。互いに相手を野蛮人や悪魔、狂信者、嘘つき、テロリスト、などと呼び合って、あらゆる攻撃が正当化できると国民を説得することが、国内政治をゆがめてしまった点で、国内政治が戦争継続のための手段に過ぎなくなったのです。

暴力と憎悪による報復の連鎖を止める方法は無いのでしょうか? 私はあると思います。たとえば、敵対する相手でも、互いにもっと多様で変化しうる人間集団として理解することです。そして相手の集団に共有できる価値を探し、理解し合える部分を求め、話し合いのチャンネルを開くことでしょう。それはもちろん第三者や国際機関、子供たちの交流で始めれば良いのです。関係する諸国は、これを守るために強く協力し、支援しなければなりません。

たとえば、兵器の供給を監視し、その使用を制限することです。高度な兵器は、その生産システムや部品の供給無しには、大量に使用できないと思います。アメリカが中東問題に積極的に関与せよ、と言われるのは、こうした側面での圧力と監視に、具体的な提案を行い、責任を果たすように求めるものでした。それは、入り組んだ互いの戦線を固定するために自分の体を割り込ませることでは無いのです。兵器の国際管理・監視システムは、ポスト冷戦の本当の「勝利」とし求められた素晴らしい目標であったと思います。

そして、たとえば、国内政治に多様な発言と解決手段を用意し、互いに国内問題を解決する能力を高めるような改革を促すことです。パレスチナに独立の国家を認め、イスラエルが、国内の強硬派が求める国際的に受け入れられないような条件(たとえば入植地の拡大)から、政策を分離させることは、彼ら自身の問題解決を促すはずです。国内の政治システムに弾力性と選択肢を用意し、国民が常に自分たちの発言を反映して事態を打開できるという政治的自信が、戦争ではなく平和によって問題を解決する政治基盤となるでしょう。

グローバリゼーションの過程は、危機を封じ込めることがますます難しい世界を作り出しました。遠い国での戦争が、私たちの町に難民となり、テロとなり、国内政治のナショナリストたちによる混乱や、秘密警察の支配となって、明日にも及ぶはずです。

Los Angeles Times, March 12, 2002

Unthinkable, but Not Unusual

By JAMES P. PINKERTON

他国を核攻撃するシナリオをペンタゴンが持っているのは当然である。それは将軍たちがそうあるべきだと考えられている任務である。彼らは、戦っていないときは、次の戦いを計画している。

しかし、クラウゼヴィッツが述べたように「戦争は他の手段による政治の継続である」とするなら、問題は核兵器の使用そのものではない。ブッシュ政権が追求している政治的目的とは何か? 戦争を続けることがその目的の達成につながるのか?

Herman Kahnを始め、シンク・タンクは核戦争の多くの精緻なシナリオを考えたが、幸いなことに、冷戦期にも政治家たちはそれを信じなかった。多分、政治的階級が第一次大戦の開始を記憶しており、当時、権力が単純な鉄道に依拠した戦争シナリオに依存して政策を実施したことの過ちを知っていたからだろう。その頃の政治家たちは、どちらが先に国境に鉄道で軍隊を運べるかを競っていた。

オックスフォードの歴史家Niall Fergusonは、第一次大戦で戦争の動員システムを止められなかったロシアの失敗を描いた。ロシア軍は自分たちの動員が遅いことを心配して、それに先んじることを優先した。実際、一旦、戦争の決定が下れば、司令官たちは電話を叩き壊して、それを止める命令を受けることを拒んだ。その結果、戦争は計画通りに進み、1000万人が死亡した。

ブッシュ大統領は、サダム・フセインを打ち倒すという計画を、アフガニスタンやイスラエルで戦火を抑えなければならない間も続けようとしている。この三つの使命を果たしたとしても、既存の兵器や核兵器を使用して、アメリカが力を示すとしたら、それを世界はどう理解するだろうか?

アメリカのような国は、二つの選択肢に直面している。和解するか、報復するか、である。しかし今回、明らかにされた核情勢分析Nuclear Posture Reviewは、12カ国の核兵器開発計画、13カ国の弾道弾ミサイル、13カ国の生物兵器、16カ国の化学兵器をアメリカへの脅威として、核攻撃の対象にしている。明らかに、こうした計画や武器が無い世界はアメリカにとって望ましいが、こうした報告自体が戦争を強め、軍備強化をもたらし、世界中の国を冷酷なゲームに巻き込む。

それに応じて、アメリカの軍事計画はさらに多くのシナリオを作るだろうし、その反応が外国で繰り返される。計画は必要であるが、十分ではない。フランスをPyrrhic の勝利に導いたクレメンソーGeorges Clemenceauは「戦争は将軍たちに任せるには重要すぎる」と述べた。

ブッシュ氏の任務は、今日の戦争が明日の平和を築くことを、アメリカの姿勢に疑いを抱く国にも納得させることである。もしそれに失敗すれば、クラウゼヴィッツには申し訳ないが、政治は戦争に至り、さらに多くの戦争に終わる。


Los Angeles Times, Feb 12, 2002

When in doubt, nuke 'em.

ペンタゴンはテロリズムに核兵器で戦う秘密計画を進めている、というニュースは、軍事的な原則だけでなく、テロリストたちによる災厄を終わらせると吹聴した約束が果たせないブッシュ政権の幼児的な欲求不満を示している。

そこには絶望感が漂っている。巨人であるアメリカが、思いもしなかった小人のテロリストたちに鼻をへし折られたと感じている。ハイジャッカーたちと、大統領が「生死を問わず」捕まえろと命じたアル・カイダやタリバンの指導者たちをつなぐ明確な証拠が無く、5人を死亡させた炭疽菌の出所も、それが国内で作られたということしか分からない。

核兵器もアメリカ製である。そして、アメリカだけがこれを使用した国であるから、われわれが将来の使用を抑える特別な責任を持っている、と思うだろう。ところが、政府は「悪の枢軸」意外にも、シリア、リビア、ロシア、中国も標的に並べた。

その愚かさを考えて欲しい。テロリストを核攻撃するために、われわれは世界的な核兵器の軍拡競争を加速する。しかし明らかに、脅威は民間機に武装警備兵を乗せることや空港の安全チェックを厳しくすれば防げる。

クリントンがイスラエル・パレスチナ和平を指導してきたために、ブッシュ大統領は、この世界で最もテロリストの脅威にさらされた地域を重視せず、激しい暴力の沸騰を放置した。引き続くテロはアフガニスタンの洞窟と何の関係も無く、ブッシュの父親が湾岸戦争で約束した中東和平を失敗させるすべてにつながる。

明らかに、アラブ・イスラエル間の和平は、テロリズムとの戦争の最優先課題であるべきだ。しかし政府は軍事的な選択肢を外交交渉よりも優先している。それゆえ、核兵器を選択肢に含めても、何が悪いか?

それは無意味である。核兵器はイスラエルとパレスチナの誰をも救えない。あるいはロシアや中国を標的にしても、それが核兵器の均衡や管理につながるわけではない。それで他国が弾道ミサイル禁止条約の破棄やミサイル防衛網の建設で脅威をなくせるわけではない。むしろ、中国やロシアの軍事関係者は内部の強硬派に批判されるだろう。アメリカの秘密報告に対抗して、核軍備を増強し、攻撃に耐えるようにし、ますますアメリカの先制攻撃に対する警戒から核兵器の引き金が固く絞られる。アメリカが、テロとの戦争では同盟を組んだ中国やロシアに対して核攻撃の恐怖を煽るのは、めまいがするほど無思慮である。

われわれはこうした国々に核兵器が危険なゴミであることを教えるべきであって、最善の場合でも、その報復ですべてが破壊されるのだと理解させるべきだ。炭疽菌の例で分かるように、われわれの大量破壊兵器開発も容易に自分たちに向けられる。核兵器がそれ以外に役立ちうるという考え方をもてあそぶのは狂気である。アメリカは核兵器が大量虐殺の手段であることを報せるキャンペーンを指導し、その技術や素材が拡散するのを効果的に止めるべきである。そしてこうした武器を売る反文明国を自制させるべきだ。


New York Times, March 14, 2002

The Real Problems With Our Nuclear Posture

ANDREW F. KREPINEVICHexecutive director of the Center for Strategic and Budgetary Assessments

Financial Times, Wednesday Mar 13 2002

The reigning champions of free trade

Robert Zoellick

ブッシュ大統領の先週の国内鉄鋼業に対する支援は、WTOの規則に沿ったものである。われわれは昨年6月以来、世界の鉄鋼業が苦しんでいる諸問題を指摘してきた。政府補助金や市場の管理、保護による過剰生産力である。その解決には、互いを非難するより、多角的な行動が必要だ。

第一に、アメリカ政府は今回の行動を以下のように理解している。アメリカの輸入は全世界から約1兆ドルを超えており、その約1%が鉄鋼製品である。アメリカの昨年の貿易赤字額は4270億ドルであり、このような状況で、アメリカが国内産業の大量倒産や失業をもたらしている輸入財に一定の介入策を用いるのは不合理ではない。

これがアメリカの政策を保護主義に転換した印と見なすのは間違っている。ブッシュ政権は自由貿易を強く信奉している。ドーハの世界貿易交渉を開始させ、中国への妨害を除去し、台湾のWTO加盟を助け、ヨルダンやヴェトナムとも貿易協定を結んだ。南北アメリカとFTAを交渉し、より広い世界との開放市場を繰り返し主張してきた。より貧しい諸国に開かれた市場の恩恵を及ぼすために、アフリカや中央アメリカ、アジア太平洋での自由貿易協定を進めてきた。

今回の決定については、アメリカが鉄鋼の主要輸入国として、世界市場の最初で最後の手段となってきたことがある。1990年代後半にアジア経済の崩壊で鉄鋼需要が減少したこともあって、引き続くドル高は世界的な輸出指向の成長を促し、アメリカ市場で前例の無い鉄鋼輸入の氾濫となった。

WTOは、このような混乱に対して、まさに各国がセーフガードで対応して良いと認めている。今日、約30%のアメリカ鉄鋼生産がすでに破産した。2001年最後の四半期の国内鉄鋼価格は20年来の最低価格となり、効率やビジネス・モデルと関係なく、赤字をもたらしている。1997年以来、45000人の鉄鋼労働者が職を失った。

これらの問題に包括的に取り組むには、ブッシュ氏が昨年6月に示したような多角的交渉で非効率な生産設備を削減するように世界の鉄鋼産業を促すことである。交渉は同時に、各国がこの「(産業の)司令塔」に対して長く行ってきた計画化に由来するおびただしい市場のゆがみを解消することも目出していた。

また、われわれが外交官たちの話し合いの間も自分の手を縛ったりしない、と大統領は明確にしていた。彼は政府から独立の国際貿易委員会ITCに、アメリカ鉄鋼産業と労働者に及ぼす輸入鉄鋼製品の影響を調査させた。ITCが全会一致で認めた深刻な被害の実質的な原因という見解に照らして、ブッシュ政権は注意深く「セーフガード」措置を採用したのだ。それは鉄鋼消費者への影響を最小に止めつつ、鉄鋼産業に息をつく余地を与えるためのものである。

アメリカのこの措置は一時的である。関税は3年間で撤廃されるだろう。その間、アメリカの鉄鋼生産者は過剰設備を削って生産性を高めるような再編成をさらに進めるものと期待される。アメリカ政府はその過程を詳しく監視するだろう。われわれは世界の鉄鋼企業がこれに従い、より健全で自由な、国際鉄鋼市場を導くことを希望する。

政府は貿易相手国に対するセーフガードの影響を最小に抑えるような措置も講じた。たとえば、われわれは互恵的な市場開放を最高度に保証した諸国をこのセーフガードの対象からはずした。すなわちNAFTAとその他のFTAを結んだ諸国である。また、セーフガードにはロシアとブラジルに対する潤沢な割当が用意されている。オーストラリアと韓国を含む諸国にも、重要な例外が認められる。ほとんどの発展途上諸国は引き続きアメリカ市場に自由に輸出できるだろう。これらの措置はすべてWTOの規則を満たし、一時的なセーフガードがもたらす混乱を抑えるだろう。

EUと、日本、韓国、ブラジル、インドを含む他の諸国は、多くの製品について過去にセーフガードを採用していることを指摘しておくのは重要である。世界には実際約20のセーフガード措置が行われている。さらにわれわれは、他の諸国が非公式にも公式にも世界の鉄鋼問題をわが国の市場に波及させるような仕組みを持っている点に注目している。

われわれは、貿易相手国も同じルールに従って、一方的な報復ではなく多角的な形で、われわれのセーフガードに対応することを望んでいる。他国が鉄鋼のセーフガードを必要とするなら、われわれと同じように貧しい諸国への配慮を行って欲しい。

ブッシュ氏は、二国間でも、地域的にも、世界的にも、貿易自由化の完全な目標を追求し続ける。彼は上院に貿易促進法案PTAの通過を要請し、それによって他の貿易相手国にアメリカが団結して自由で開かれた市場を維持する姿勢を示せるだろう、と考えている。アメリカ経済は、他の諸国が成長を回復するのを再び助けるような、景気回復への歩みを示している。それゆえ、より重要なことは、すべての国が協力して、発展と機会、多角的貿易システムの育成に向けた貿易目標を追及することなのである。


International Herald Tribune, Tuesday, March 12, 2002

Walking away means losing the peace

John G. Ruggie

戦争に完全な勝利を収める前に、ペンタゴンはアフガニスタンにおける平和を失う危機に瀕している。ペンタゴンが反対して、国際的な治安維持軍をカブール以外にも拡大することと、それに要する4500人の増強ができないからだ。どちらもカルザイ政府が死活的に必要としており、アメリカの同盟諸国に支持されている。軍閥たちでさえ、国際軍隊の拡大を歓迎している。それによって中央政府が安定し、彼らは地方権力として留まって、その後の争奪に加われる。

ペンタゴンの分析は間違っている。ソヴィエト軍のアフガニスタン侵攻に依拠した分析で、アメリカ軍ではなく、アフガン人の軍隊が唯一の解決策だ、としている。それを長期的には誰もが望んでいる。しかし、そのような軍隊は存在していない。それが整備されるには少なくとも2年懸かる。その間は、国際軍が増強されねばならない。

ソヴィエトの占領と比較することは間違いである。アフガン人自身が国際軍を歓迎しているだけでなく、その目的が全く異なるからだ。すなわち強盗や部族間の暴力を止めさせて新政府を助けるためであり、この国を占領するためではない。治安の空白は日増しに悪化しており、アフガニスタンの近隣諸国による侵入も増えている。他方、人道援助や経済再建は妨げられている。このままではタリバンが再結集する情勢も起こるだろう。

事実上、ペンタゴンが望むことは、結局、アメリカがアフガニスタンを見捨て、ブッシュ大統領や他の政府閣僚たちが繰り返し表明してきた見解にそむくことである。政府は国連安保理決議に従い、国債軍の増強を引き受けるべきだ。トルコ、マレーシア、ヨルダン、バングラデシュ、その他のイスラム教諸国と、幾つかの西側諸国が参加するだろう。そしてカナダが指導的な役割を引き受けるように説得されるだろう。

この軍隊はカブール以外の主要な都市部と、それらをつなぐ幹線道路の警戒にあたる。従来の国連平和維持軍とは違って、その任務は極めて明確である。迅速かつ断固として反撃し、必要なら先制攻撃も行える。

アメリカは地上軍に参加する必要はないが、三つの決定的な分野で支援を与えねばならない。1.問題を未然に防ぎ、目標を絞るための諜報支援。2.軍隊の移動性と効果を高める兵站支援。3.混乱分子による深刻な攻撃を抑止し、停止させる空爆支援。

それを行わない場合を考えることは余りに残酷であり、時間の無駄となる。アフガニスタンもアメリカも、ペンタゴンが事態の悪化を誇張することで勝利を失うのを許す余裕は無い。


Washington Post, Wednesday, March 13, 2002; Page A29

Steel -- Just a Symptom

By Robert J. Samuelson

最近の倒産やレイオフの嵐以前にも、鉄鋼業の雇用は大きく減り続けてきた。1970年代初めには50万人、第二次大戦後のピークである1953年には65万人であったが、今や14万人ほどしか居ない。1970年代後半から80年代にかけて、切迫した「リストラクチャリング」の話題が続いた。

その数字が示すように、鉄鋼業界は政治力を行使してきた。ブッシュ氏の30%の関税率が政治的であったのはもちろんだ。この業界の労働者と退職者が60万人も民主党主導の州に住んでいるとしたら、ブッシュ氏はこうした行動を取っただろうか? ところが幸いにも、この業界は、議会で主導権を握るのに必要な、両党の勢力が伯仲した州に集中している。

自由貿易を提唱するブッシュ氏にとって、関税は偽善的であり、無益なものだ、と言うのは正しい。実際、アメリカの鉄鋼業は二つの産業なのだ。一つは旧式の統合型溶鉱炉を持つ縮小産業である。もう一つはいわゆる「ミニ・ミル」であり、拡大し続けている。彼らはスクラップを使用するから、20%もコストが安い。

企業の倒産と拡大は生産量でほぼ一致しているが、雇用は失われた。高需要、高価格のときを除いて、旧式の高炉は利潤を生まない。輸入が無くても、その多くは緩やかに閉鎖され、より効率的なミニ・ミルに変わるだろう。関税は、せいぜいこの過程を遅らせるだけだ。保護主義は無駄である。

しかし、こうした批判が見落としていることがある。関税への圧力は世界経済におけるアメリカの特殊な役割を反映していることだ。アメリカは世界経済のエンジンである。ドルは国際貿易と投資の主要な取引通貨であり、その為替レートは他通貨に比べて「強く」なる。それがアメリカの輸入財を安くし、輸出財を高くする。好況時には、それがアメリカのブームをもたらす。安価な輸入財で生活水準が高まり、インフレは抑制され、アメリカ企業の競争力を維持する。アメリカの生産者はドル高でも困らない。誰にとっても需要は十分にある。

不況時には、しかし、論理が逆転する。国内不況とドル高は破滅的である。貿易財への需要や価格が下落し、同時に、破産と失業がさらに増加する。衰退から崩壊につながる。それが鉄鋼業界だ。農産物価格もより大きな下落を経験した。

犠牲者たちは保護を求める。農民は補助金を、鉄鋼業は関税を求める。その欲求は当然であって、とはいえ支援には効果が無い。消費者は価格の上昇で苦しみ、他国は保護主義の抑制で失敗する。アメリカの保護措置は、ブッシュの政治的な自己利益によって行われたと言える。アメリカの世界経済支配は揺らいでいること、しかし言い換えれば、ヨーロッパと日本の、経済的な弱さと通貨の減価とが、アメリカの保護主義の原因だ。

もしこれらの経済がもっと力強く回復すれば、アメリカの不況は深刻にならず、商品価格も下落しなかっただろう。しかし日本は重体であり、ヨーロッパもアメリカ市場頼みだ。

アメリカにとってより大きな問題がここにある。世界がアメリカに依存しすぎていることだ。アメリカが、高成長とドル高で世界中から輸入しなければならない。それは他国の貯蓄をアメリカが吸い上げることにかかっている。アメリカの成長が伸びなければ、失望して投資は集まらず、巨大な潜在的不安定性と緊張がもたらされる。


Frankfurter Allgemeine Zeitung, Mar. 13, 2002

Hoping for Justice

Many locals in Rostock-Lichtenhagen prefer to forget the night of horror in August 1992 when youths firebombed an asylum-seekers' home.

By Dieter Wenz


Financial Times, March 24 2002

Editorial comment: Bankers' orders

紙の上では、解決策は簡単だ。日本は民間企業のように行動する国有銀行を必要としている。一時的な国有化ではなく、株主と失敗した経営陣とが帳簿を清算する莫大な公的資金から利益を受ける。新しい経営陣により、価値のある企業に対する不良債権は市場価格で買い取られ、利潤を挙げられない企業は市場で処分される。政府は需要を刺激し、債務デフレが悪循環とならないように大規模な財政刺激策を採る。

こうした手段で日本が回復するかどうかは分からない。しかし、より健全な、市場型の銀行が生まれ、長期的な成長の条件を整える。

政府はこうした難しい行動を採りたがらない。1000万円を超える預金の保証を廃止するが、それは預金者が銀行の監督者となって、問題のある銀行から堅固な銀行に資金を移すことを期待した措置である。しかし予期者に与えられた情報は少なく、システム全体の危機は深刻である。政府はシステム危機に際しては新たな銀行救済策を行うと述べてきた。しかし、個人ではなく制度が国家の保護を受ければ、問題は自己破壊的となる。公的資金を入れる話が出るたびに、銀行株が上昇する。

幸いにも、政府は再考する機会がある。金融庁が特別検査を終えて、4月半ばに結果を報告する。もし報告書が銀行の欠陥の正直に指摘すれば、政府は行動を取れる。竹中経済大臣は「決定的な一歩」を示唆した。しかし、示唆ではダメだ。小泉首相が政府の責任で銀行の危機を処理しなければならない。


Washington Post, Sunday, March 24, 2002; Page B06

A Coalition for Iraq

チェイニー副大統領の中東訪問は、アラブ諸国の強い反発で終わったように見える。彼らは、アメリカによるフセイン政権の転覆はこの地域に破滅をもたらすだろう、と言い、そのような企画はパレスチナ問題の解決を条件として進めるべきだ、と主張する。しかし、それゆえ、ワシントンがアラブ諸国に同盟関係を見出すことはできない、と結論するのは間違いである。アメリカはフセインの独裁体制を終わらせるために、今後数ヶ月で、地域の指導者たちに合意を形成させるべきだ。

そのためには、まず、アラブ大衆の極端なレトリックを無視して、指導者たちとの私的な対話で、アメリカ政府がフセイン政権の現状をもはや許せない、ということを明言すべきだ。アラブの諸政府は、またアメリカは中途半端に介入して、引き上げるだけだと心配する。しかし、もしアメリカがフセイン政権を完全に破壊し、速やかに軍事的な勝利を収めると確信できれば、彼らは安心するだろう。そしてこの問題は、パレスチナ問題と切り離して決定すべきだ。

同盟形成の最も困難な部分は、樹立される新政権の性格をどうするか、についてである。新政府を担える勢力は存在しない。アメリカは、アフガニスタンを先例として、経済再建や治安維持に積極的に関与し、イラクに対する新しいモデルを示してはどうか? もしブッシュ政権が<無法者>国家の破壊だけでなく、長期的な健全国家の再建にも関わるなら、中東において支持を得ることは容易になるだろう。もちろん、指導者たちは公にそんなことを言わないかもしれないが。

The Economist, March 16th 2002