IPEの果樹園2002

今週のReview

3/11-3/16

日本の株価が上昇し、為替市場も円高に転じました。下げ続ける株も円も無い以上、いつか反転したとしても不思議ではありません。3月危機説を真に受けた個人や、投機的に円を売っていた投資家が、慌てて買戻しに走った、というわけでしょうか。円安が嫌になってユーロ預金を増やした私自身も、何となく失望?しました。

しかし、日本経済の改革が目に見えて進んだとは聞きません。むしろ、唯一の刺激策であり、デフレ対策でもあった円安と輸出増加、そして輸入物価の上昇を、一時的な円高が妨げるのではないでしょうか? 円安にせよ、円高にせよ、急激な為替レートの変化は危篤状態に近い多くの中小企業をふるいにかけ、破綻させる結果となるでしょう。

もし株価上昇が続いて銀行の不良債権処理を助け、日銀の量的緩和と合わせて新規融資の拡大にまで至るなら、今まで回復を遅らせていた要因が取り除かれることになるかもしれません。先物取引の規制や株式の公的買い取り制度、RCCによる不良債権処理も、継続することで民間部門が行う改革を助ける側面はあるでしょう。しかし、民間部門が積極的に改革を進めていないなら、それは問題の先送りと負担の増大、国民への「苦痛ばら撒き政策」になるわけです。

しかし、輸出による刺激策に依存し、為替レートの変動による業績不安に日本の企業や銀行が振り回され、政府は脅しや奨励策を(その効き目は別として)濫発し、銀行も国民も債務を増やす、というのは納得いきません。中前忠氏が、以前からの主張である、金利の引き上げと債務企業の整理を求める姿勢に、むしろ共感を持ちます。財政は救済ではなく、改革の促進に使うべきだ、という訳です。

アメリカが拡大する戦争や保護主義は、日本政府が内需拡大に一層取り組むべきことを示唆しています。ますます激化するパレスチナ・イスラエル紛争に加えて、アフガニスタンの原理主義運動がパキスタンやその核兵器と結び付く懸念が加われば、アメリカ軍が利用しやすい?核兵器の開発に取り組んでいる、というニュースに戦慄を覚えます。景気刺激と支持率アップという効果がいつまで続くか、ブッシュ氏は核兵器も選択肢に含めて考慮しているのでしょうか?

ブッシュ政権の鉄鋼業界保護が、中間選挙目当ての大っぴらな買収工作であり、外国政府に戦争への協力を求めしながら、外国企業を差別する政策であるのはもちろんです。しかし、「国民の福祉」を高める役には立たない、と言って、部分的核拡散防止条約や京都議定書を破棄し、海外援助を減らし、知的所有権を認めない発展途上諸国を非難するとしても、それは政策として説明され、批判されます。

その意味で、何より懸念されるのは日本の政治情勢です。田中真紀子や鈴木宗男ではありません。加藤紘一氏の私設秘書が積み重ねた資金集めの罪状は、自民党の中の改革勢力という、小泉政権への支持の真髄を砕き、政府の調整能力や補償メカニズムが本当は何を意味するか、国民に知らせたでしょう。危機における政治への信頼感を腐らせたのです。

ヨーロッパでは、政府や国際機関が、国境を越えて信認の獲得に競争しつつあります。偶然、ド・グローブ教授がECB副総裁の候補に挙げられた、という記事を日経新聞で見ました。私のスケッチにあるように、教授は非常に控えめで、物静かな研究者であると思いました。同時に、ヨーロッパの通貨制度に関する最高の権威でもあります。

日本でも、個人が円だけでなく(複数の)主要外貨や国債で資産を持ち、円安が嫌なら外貨へ逃げ、円安が進みすぎたと思えば円に戻るなら、政府への信認を問う通貨の国民投票が、選挙以上に政権の運営を左右するかもしれません。それは、日本の政策運営や政治家を合理化する上で、良い効果を持つでしょう。なるほど、私は日本政府に大いに不満です。

ただし同時に、多くの学者が指摘してきたように、拡大する相互依存は、世界の辺境における小さな危機から、本物の恐慌や戦争を生じる危険性をますます強めます。

Financial Times, Thursday Feb 28 2002

Saving stakeholder capitalism

Patrick Artus

ヨーロッパの「ステークホルダー(利益共同体型)資本主義」stakeholder capitalismは攻撃されている。大陸のあちこちで、伝統的な合意形成や長期の経営モデルが、アングロサクソン型の株主利益を求める声に押されて、後退するばかりである。ヨーロッパ型の経済システムは生き残れるのか?

このことをどこよりも顕著に示すのがドイツの従業員や労働組合を参加させた経営決定方式である。銀行が同時に企業の株式保有と相互持合いをおこなうハウスバンク・システムも、キャピタル・ゲイン課税が廃止されて、銀行による株式売却が増え、危機を感じている。そのドイツ企業の株式をより多く購入した機関投資家たちは、アングロサクソン的な水準のリターンを要求する。

企業統治の形態も同様に変化している。ドイチェ・バンクはその衝撃的な例である。多くのメンバーからなるVorstandに代わって、権力を経営幹部会に集中させる。これを指導するのは、アメリカの経営文化と投資銀行業を背景としたJosef Ackermannである。

しかし、こうした転換は誰からも好まれるという訳ではない。フランスに特に多いが、反対者たちは、それをグローバリゼーション礼賛であると批判し、賃金労働者や新興経済にとって不利である、と言う。

ヨーロッパ的な価値を守るために、EUで提案された企業の敵対的買収に関する条例を拒否したのは、その典型だ。しかし、この条例は経営者を買収から保護する障壁を取り除き、株主の力を強めるはずであった。欧州議会はこれを否決した。最近のアメリカにおける倒産と年金への被害が、アングロサクソン型資本主義への知識人の非難を強めた。規制の無いアメリカでは、失業と年金喪失が働く者を襲う、と。

しかしヨーロッパの拒否反応は、現在のような形では、長い眼で見て失敗するに違いない。すでにヨーロッパ諸国の株式市場の3050%は非ヨーロッパの投資家が保有しており、彼らはアングロサクソン型資本主義の基準を適用する。ヨーロッパの財務担当者が、その投資や経営をアメリカの競争相手とより低い利回りで争っても、勝ち目は無い。

ヨーロッパの企業は、アメリカ企業がする以上に、従業員や下請けの面倒を良く見るとすれば、利益を減らす危険がある。それは株主たちの利益を損なう。ドイチェ・バンクやアリアンツがドイツ型資本主義から抜け出そうとするのも当然である。取締役会の構成やメンバーの削減、企業買収、などに関する規制を、むしろ撤廃することを欧州委員会は求めるだろう。彼らはイギリス、オランダ、スペインとともに、アングロサクソン型の態度を共有する。

アメリカ型資本主義にヨーロッパが対抗する最善の道は、内側からその経済システムを改革することである。そしてヨーロッパの資本主義を近代世界に適応させるのだ。それには、たとえば、長期投資を行う年金基金を開発することである。通説とは逆に、Calpersのようなアメリカの多くの基金は安定的な役割を担って新企業に出資し、長期的に企業に投資し、倫理的な投資基準を設けている。さらに従業員の株式保有を促進し、会社の意思決定に影響力を確保することである。

ヨーロッパの年金基金はまだ非常に弱い。年金基金が保有する資産は、イタリアではGDPの2%、フランスでも4%に過ぎず、アメリカ、イギリス、スウェーデン、オランダでは5070%に達する。この差を縮小するべきである。ヨーロッパがその経済モデルを救えるとしたら、この方法しかない。アングロサクソン型資本主義による乗っ取りには、内側から対抗するのだ。法的な障壁を築くのではなく、大陸でヨーロッパ・モデルが発展する道を示すだろう。


International Herald Tribune /The Atlantic Monthly

Wednesday, February 27, 2002

Power balance in East Asia 

James Fallows

1世紀前に国際問題とは、ドイツと日本に代表される、新しい大国の台頭であった、とPaul Wolfowitzは述べた。彼らの貪欲さと不平を、既存の世界秩序は受容できなかった。今また、新しい大国が誕生しつつある。中国はその最も明白な国である。

東アジアは、一般に、経済力の面で驚異的な成長を遂げたが、それは結局、潜在的には軍事力をもたらす。また、統一された朝鮮半島はヨーロッパの主要国に並ぶ。アジアではヴェトナムが小国に見えるが、その軍隊は強靭で、巨大である。さらに、インドである。東アジアにおいて、これらの成長する大国間で、どうすれば勢力均衡が達成できるかが問題だ。ヨーロッパの経験を思い出すまでも無く、その過程は余りに多大のコストをともなう。


Financial Times, Saturday Mar 2 2002

Catch-23 and the euro issue

By Philip Coggan

単一通貨の問題は、800ポンドのゴリラのように、イギリスの投資家にとって手ごわい問題だ。ユーロ採用がイギリスの通貨政策や資産配分に与える影響は甚大であって、この問題を無視することはできない。Peter Hain欧州担当大臣は、最近、ユーロ参加の予定表を発表した。しかし、どうやって国民を説得するのか、が明らかではない。

なぜ有権者は、ポンドを捨ててユーロを採用する、というようなリスクを冒すのか? 彼らが今の経済状態に満足できないのであれば、多分、その可能性が最も高くなるかもしれない。しかし、ざっと見ただけでも、イギリス経済は良好である。インフレ率は低く、失業は25年間で最低である。イングランド銀行の通貨政策は市場の信認を得ている。

何がこの状態を変えるだろうか? たとえば経済危機が、不況や突然のポンドの下落があれば、経済政策の急激な変化が必要であると投資家を説得できるだろう。だが、危機の際には政府が非難される。ユーロ加盟の国民投票は、中間選挙のようになって、政府に対する不満票で溢れるだろう。

だから政府は、catch-22的な状況にある。ユーロ加盟は必要ない。それが必要になれば、政府は非難されるだけだ。

国民投票にはもう一つのジレンマがある。すなわち、ユーロ参加のためにイギリスの金利をヨーロッパ水準まで下げるだろう、と言って有権者に支持を求めることだ。しかし、イギリスの金利が高いのは、イングランド銀行が独自の政策を追及しているからである。言い換えれば、イギリス経済の「収斂」はまだ実現していないのだ。ではなぜユーロに参加するのか? また、もし参加しなくても金利が収斂すれば、より安価な融資は説得力を失う。これも、catch-22的である。

さらに、参加する際のレートをどう決めるのか? 国民投票ではそれが知らされていないだろう。しかし参加するレートは特に重要である。ユーロに高いレートで組み込まれれば、経済にデフレ・ショックが広がる。この過ちを1925年に金本位制に復帰したチャーチルも、1990年にERMに参加した保守党政府も繰り返した。

政府はもちろん有利なレートを得ようと交渉する。しかしEUの仲間たちが、たとえばポンドの10%切下げを黙認してくれるだろうか? フランスやドイツの産業家たちは、イギリスの産業が勝利を奪おうとしている、と必ず主張する。もし望ましいレートが得られなければ、政府は参加を止めるのか? 結局、国民投票にも大きな政治的リスクがともなう。参加に賛成でも、そんなレートでは反対だ、と思う国民がいる。

もう一つの問題は通貨政策だ。政府がポンドの参加レートを下げたいと分かっているから、ユーロ参加が決まれば、為替市場はポンドの減価に向かうだろう。それはイギリス経済にインフレ圧力となる。他の事情が等しければ、イングランド銀行は2.5%のインフレ目標を守るために金利を引き上げる。

その政策が好ましくない反発を呼ぶ。第一に、高金利はポンドの水準を元に戻し、参加レート問題を困難にする。第二に、高金利はイギリスとユーロ圏との通貨政策の違いを拡大する。それは政府に対して、ユーロ参加までの期間、イングランド銀行の政策を停止もしくは変更させるべきことを示唆する。中央銀行は為替レートとインフレの両方を目標にはできない。

要するに、政府の意図するユーロ参加は非常に手の込んだ作業となる。それは金融市場に何らかの混乱をもたらすだろう。


New York Times, March 1, 2002

Bank of Japan, in Shift, Agrees to Loosen Credit

By KEN BELSON

強い政治的圧力により、日銀は国債買い上げ額を増額し、借り上げ規制を緩和した。この決定は塩川財務大臣からの厳しい要請の後で、政策決定会議を経て発表された。

小泉首相は、最新の経済対策において、銀行の検査を厳格にし、不良債権処理と中小企業融資を促す方針を示した。彼はまた、財政支出の増加と国債発行上限の公約に苦しんでいる。この状況を打開するために、政府は日銀が国債購入を増やすことを求めてきた。しかし、政府は銀行システムを再生するために一層の行動をとるべきだ。

日銀の政策委員会は「大幅な金融緩和が効果を発揮するには、金融システムの強化が不可欠である」と指摘した。「日銀は、政府と民間部門に対して、特に金融機関に対して、不良債権処理のより断固たる効果的な行動に踏み出すことを強く希望する」と。

しかし、日銀も政府も、投資家やブッシュ政権、その他、銀行問題と経済再生を求める者が要請している積極的政策を打ち出す気配は無い。

柳沢金融担当大臣は、銀行が十分な資本を持っており、大規模な救済は必要ない、と述べてきた。一方、速水総裁は、日銀が緩やかな物価の上昇を目標として示すことを否定してきた。「日銀も政府も、小さな、漸進的手法を守り、押し付けられるまで攻撃的な政策を採らない。」Dresdner Kleinwort Wassersteinの城田氏は指摘する。「これは所詮、大きな裂け目にバンドエイドを貼っただけだ。」

この数週間で銀行の社債に対するプレミアム金利が倍増した。格付け機関も国債のさらなる格下げを警告している。日本政府には「長引く不況から経済を脱出させる明確なプランがない」とStandard & Poor'sは言う。1920年代の経済危機とハイパーインフレーションに直面したドイツ政府が示した無能さにも近いと示唆しながら、the Bank of America の東京支店で働くストラテジストMarshall Gittlerはこう述べた。「これは日本の問題に対するワイマール型解決策である。これが経済を助けることは決してない。」


New York Times, March 1, 2002

U.S. More Wary on Bailouts Abroad

By DANIEL ALTMAN

スタンフォード大学の経済学入門講義で何百人もの学生に教えていたJohn B. Taylorは、政府の介入がいかに市場を損なうか示すため、歌ったり踊ったり、カリフォルニア・レーズンのような扮装までして説明しただろう。さて今では財務省官僚となった彼は、ブッシュ政権の市場不介入哲学を世界中の問題債務国に広めるつもりである。

テイラーは基本的に債権者が自衛すべきだと言う。新興経済の信用力に関する情報は改善されてきたから、金融危機はかつてほど拡大しないだろう、とテイラー氏は言う。それがアメリカや他の裕福な諸国がアルゼンチンのような国を救済してきた理由であった。「こうした巨額の、巨像型融資は続けられない。」

危機が起きてから介入するのではなく、アメリカと他国政府は国際的な貸し手と借り手の間の情報交換を改善すべきである、とテイラー氏は主張する。市場が透明で、より上手く機能することで、金利は下がり、融資も増えるだろう、と。しかし、金融的伝染は過去のものである、という考えは、国際経済学の他の専門家から異論が出ている。「その判断を下すにはまだ早い」と連銀やクリントン政権の財務省に勤めたEdwin M. Trumanは言った。「将来、他の失敗が起こって、もっと伝染するだろう。」

テイラー氏がアルゼンチンのケースに言及しないもう一つの理由は、アルゼンチンがアメリカにとって戦略的な重要性を持たないことである。UCバークレーのBarry J. Eichengreen教授が言うように、国際的な支援を容易にするのはそれであった。逆にトルコはNATO加盟国であり、安定した金融支援を受けている。トルコと交渉するに当り、テイラー氏はIMFのケーラー専務理事やクルーガー理事に会って、IMFからの融資を厳しい条件や検査も無しに受けられるよう決定した。IMFはこの決定に単に従っただけだ。

財務省とIMFの親密さは以前からあったことだ。クリントン政権の財務長官Lawrence H. SummersはIMFのStanley Fischerに学生として教わったことがあるし、今のテイラー氏とクルーガー氏は8年間スタンフォード大学の同僚であった。

二週間前の議会証言で、テイラー氏は、デフォルトに際して債権者が多数決で新しい返済条件を決める条項を入れる、というクルーガー氏の考え方を支持した。しかし、市場志向の分権化を重視し、IMFの役割は拡大しない、とも述べた。テイラー氏はまた、世銀の改革を重視した。彼の考えは、貧困を無くす唯一の方法は労働生産性の上昇以外に無い、ということだ。この点で、ブッシュ氏の主張する、贈与や融資を生産性の改善と言う基準、要するに市場の条件で行う提案を支持した。


Frankfurter Allgemeine Zeitung, Mar. 2, 2002

Hollow Victory for Government On Immigration

Debate on Immigration a Reminder That This Is an Election Year

By Johannes Leithauser

Necessities

By Stefan Dietrich

(コメント)

ドイツの人口増加率は低く、高度な熟練や技術を持った外国人労働者を雇用する必要性は高い。それがドイツ政府の移民受け入れ政策を議会で国民に対して説得した主要な理由です。日本でも同じことを、後半には、安価で勤勉なアジアの労働者を追加して、と主張されるでしょう。

社会民主党と緑の党の連立政府は、与党議院の支持で、この法案を通過させました。しかし、政府がこの議決を「歴史的な」ものとして強調し、人種問題を議会で論争することは好ましくないので「全会一致で」支持することを望んだにもかかわらず、野党は反対投票しました。

実際、この法案で問われたのは「必要」という意味です。すでに移民問題は何らかの法的な対応を新しく「必要」とするような事態であると、すべての政治家が認めています。しかし、どのような政策が「必要」かは、すでに居住する非合法移民の扱いや、国内のドイツ人失業者への影響をめぐって、いろいろな考えがあるのです。

政府は、一方で経済活動が繁栄する条件を整備しなければなりません。しかし、他方では、国民が安心して暮らせる条件を維持しなければなりません。これら二つを同時に満たせないような法案は、将来の世代に大きな負担を強いることになる、と警告しています。

国民はすでに、移民流入が社会の許容水準を超えてしまった、と感じているようです。そうだとすれば、与党も野党も、国民の本当の疑問に答えていないと思います。


New York Times, March 3, 2002

The Uses of American Power

ブッシュ政権が行う軍事予算の増額は、世界のバランス・オブ・パワーをますます極端にアメリカの側に傾ける、という。これはローマ帝国以来の軍事力の集中であり、一種のパックス・アメリカーナを再現するようなものである。しかし、アメリカにとっての問題は、これをどう使うかと言うより、他国がアメリカの指導権を認めるように、どう使うか、ということである。

誰もアメリカの利益に従って世界を安全にするだけで満足することはないだろう。アメリカはもっと同盟諸国や潜在的同盟国の求める目標を取り込む必要がある。たとえば、世界から貧困、伝染病、栄養失調を無くすとか、教育と開発を助けて独裁を防ぐとか、武器の拡散や地球温暖化を抑制するとかである。

ハイテク化し、情報と相互依存の広がる世界では、アメリカの軍事力にも限界がある。軍事行動は外交政策の一部でしかないことを、アフガニスタンの例も教えている。安定した世界秩序は国際合意によって築かれるのであって、軍事行動だけに頼ってはいけない。

(コメント)

同様の主張はWPThursday, March 7, 2002; Page A21)のManaging America's Superiority By Jim Hoaglandにも示されている。「アメリカ軍は、アフガニスタンで示したその圧倒的な軍事的優位と、幾分かはその冷酷さにおいて、世界に衝撃を与えた」と。

生産性の上昇や景気の回復力においても、アメリカはヨーロッパや日本、その他の世界と、完全に隔絶された強さを示している。21世紀はアメリカの世界支配で始まった。しかし、このアメリカの一極支配こそ、政治的な不安定性の源泉となるだろう。アメリカはその力を世界の支配に使うのではなく、共通の目的のために使うべきであろう。同盟関係の維持に尽くすべきであって、冷酷な印象はむしろ望ましくない。特に大きな不安定要因は、海外からの資本流入に頼っていることである。GNPの4.5%、年4200億ドルを、アメリカは輸入しなければならない。ブッシュ政権の経済運営は海外投資家の判断に依存している。

ワシントンには協調のための手段が多くある。UNESCOの政策に協力するのもその一つだろう。NATOへのロシアの参加や、京都議定書の改訂、あるいは発展途上国への援助でも、アメリカは他国に譲歩できる。アメリカが世界を支配できるように見えれば見えるほど、アメリカはそれが望ましくないことを世界にも、国民にも示す必要がある。


International Herald Tribune, Wednesday, March 6, 2002

Labor 'flexibility' isn't a cure-all : Anglo-Saxons vs. EMU

Robert A. Levine

アメリカとイギリスの経済がEMUの加盟国よりも良好であると言うのは事実であろう。これを説明する広く行き渡った説明とは、アングロサクソン諸国の労働市場には、経済学者の言う「弾力性」がある、と強調するものだ。しかしその理論は部分的であり、しかも党派的である。

この理論は「自由市場」へのどのような介入をも憎悪する伝統的な経済学者たちによって広められた。今では多くの政治家やほとんどのメディアがこれを受け入れている。しかし、この理論だけでは、ヨーロッパのキャッチ・アップは失敗するだろう。ユーロ圏諸国が労働市場に監獄のような規制を張り巡らせているのは事実である。社会支出の高コストを支払うために課税され、企業の活動は抑えられる。豊富な失業手当は労働の意欲を損なう。解雇に伴う雇用者への高いコストは、新規雇用を抑制している。基幹分野で労働組合が強く、投資が伸びない。

アメリカの規制は常にゆるかった。イギリスではサッチャーが35年にわたるEMU型の規制拡大を逆転した。そして両国は成長を加速し、失業率を下げたのだ。

フランクフルトの銀行家やエコノミストによって主張され、ベルリンが呼応し、社会民主党政権までもがこの議論を受け入れた。ベルルスコーニのローマもだ。パリはいつも違ったが、左派の一部は労働市場自由化を受け入れ、右派の反対もおぼつかない。

実際には、ユーロ圏がアメリカ・イギリス型のモデルを真似ても、同じような成長率や失業率は実現できないだろう。しかも、政治的に可能な変化はもっと限定される。経済学者たちが主張し、それを受け入れた政治家たちが見逃しているのは、アングロサクソン経済とEMUとの二つの違いである。

第一に、労働市場以外の弾力性を見逃している。アメリカ文化の核には、確実さより機会、安定性よりもリスクと冒険、同質さの維持より移民受け入れ、政府の非介入という価値観がある。損の結果として、アメリカは豊富な企業家を生み出した。サッチャーは政府と産業界の関係を切り離したが、フランスは政府の関与が多く、ドイツでも産業の中核をなす中小企業は変化を阻んでいる。ユーロ圏では企業家精神は抑えられているのだ。ところが労働市場の弾力性を解く経済学者でも、企業経営や銀行の伝統を変えることには言及しない。

さらに、アメリカとイギリスは成長と雇用を促すためにマクロ政策を積極的に使用する。ところがEMUはそれらを控えさせる。通貨政策の面でそれは顕著である。アメリカのFRBやイングランド銀行は、インフレを管理するだけでなく、成長も促進する。ECBは硬直的に、マーストリヒト条約の認めたインフレ抑制だけに従っている。財政政策でも、アメリカの両政党が財政均衡を唱えるのは口だけであり、ブッシュ政権は昨年夏以後、全くその見せ掛けも止めてしまった。EMU内では、もう一つのマーストリヒト条約が財政赤字を制限している。しかし、ドイツで歳入が減ったのは不況のせいであるから、ラフォンテーヌ蔵相の「過激な」政策を採用していたほうが経済は改善されただろう。

アメリカとイギリスの優位が労働市場の規制緩和に基づくと言うのは、ある程度まで、真実である。しかし、その優位は他の要素にも依存している。それらを変えるには、アングロサクソン・モデルを賞賛する人々を動転させることだろう。もしヨーロッパがキャッチ・アップしたいのなら、その経済思想に弾力性を導入すべきである。

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Financial Times, Friday Mar 1 2002

Nerves of steel

Claude Barfield

ブッシュ政権はこの数日で自由貿易と競争市場の重大な試練にさらされる。来週の水曜日までにアメリカ鉄鋼産業の救済に関する決断をしなければならないのだ。

この産業を救済するには、120150億ドルが必要と推計されている。しかし、関心はもっぱら関税引き上げによる保護の提案に集まっている。EUが、日本、カナダ、韓国などとともに、もしブッシュ政権が保護関税を実施すれば、WTOに訴えて報復関税を課す、と警告している。

40%の関税賦課は間違った政策であるだけでなく、一時的に企業を喜ばせるだけの、無益な行為である。政府が企業の年金や医療保険の負担を肩代わりする、と言うのは、それ以上に酷い先例となり、財政赤字をもたらすだろう。公平性においても効率性においても支持できない。鉄鋼労働者たちは平均的なアメリカの労働者よりもはるかに良い年金や保険を得ている。それらは何年も、経営者たちの潤沢な退職金支払いと共謀して、積み立て無しに、会社の赤字となってきた。政府もまた、30年以上にわたって、こうした鉄鋼産業を補助金漬けにしてきたのだ。こうした過去からして、鉄鋼産業の救済は深刻なモラル・ハザードにつながる。


最善の答えは、"Just Say No!"だ。これが最も効率的で、しかも公平な解決策である。現在の市場で競争に残れない鉄鋼大企業の倒産は、維持不可能な年金・医療保険の契約を破棄し、それゆえ多くの資産や工場が外部の投資家に魅力的となる。その結果、現在の雇用の少なくとも一部は救われる。退職した労働者の年金や医療保険にも、連邦政府の平均的な支援がある。

もしブッシュ政権が何かもっと積極的な支援をしたいというのであれば、40%の関税を課すより、生産物ごとの輸入割当を決めて、一定の水準を越えれば関税を課すようにすれば良い。鉄鋼輸出国は不満だろうが、そのような注意深い介入政策の方が、関税よりも世界の貿易パターンに与える破壊的影響を減らせる。

そして、政府は何としても民間企業の年金・医療保険を肩代わりなどしてはならない。そんなことをすれば、世界市場の競争に敗れた産業がことごとく政府に救済を求めるという、パンドラの箱を開けてしまう。


New York Times, March 2, 2002

Steel's 40 Percent Solution

By BARBARA A. MIKULSKISenator, a Democrat from Maryland

ブッシュ大統領は、アメリカ鉄鋼企業と労働者のために国際競争の条件を揃えるか、あるいは不公正な外国貿易によって重要な国内産業を破壊させるか、選択しなければならない。

この4年間で、32の企業が倒産し、多数の労働者が職を失い、退職者が健康保険を失なった。アメリカ鉄鋼産業の危機は、単に職場や地域の問題であるに留まらない。鉄鋼産業は国家の防衛に不可欠である。また危機の原因は、過去50年に及ぶ外国政府の介入や補助金で鉄鋼市場が歪められたことである。ロシア政府は補助金によって約1000社もの利潤が出せない鉄鋼産業を延命し、韓国政府は国内需要を超えて1990年以来その生産能力を倍増させた。とんでもない良の鉄鋼がダイピング価格でアメリカに流入している。このことはアメリカの国際貿易委員会も認めているのだ。

鉄鋼製品に広く及ぶ40%の関税率はアメリカの生産者に闘うチャンスを与える。たった今でも、アメリカの鉄鋼企業と労働者たちは競争力を高めるために努力している。会社は非効率的な高炉を閉鎖し、新技術に投資している。多くの高炉は世界でも最高の効率を達成している。他方、鉄鋼労働者たちは苦しい譲歩をしている。解雇によって労働の生産性を高めている。

それでも、ダンピングを止めなければ、こうしたことも無駄である。ワシントンが動くべきだ。ブッシュ大統領は、正しくも、鉄鋼産業が脅かされるとき、わが国の安全も脅かされている、と述べた。アメリカの鉄鋼は鉄道や橋だけでなく、われわれの都市を造り、大砲を造り、戦艦を造る。最近でも、Bethlehem Steelの鉄鋼がthe U.S.S. Coleの修理に使われた装甲甲板を造った。戦争に際して、われわれは国防に必要な鉄鋼を外国の生産者に頼るのか?

貿易に門戸を開けることが、アメリカ基幹産業の崩壊を許す口実にはならない。「自由」や「公正」という貿易の決まり文句は、同じルールに従わないわれわれの貿易相手にとって意味が無い。アメリカの鉄鋼を、今こそ、助けるべきだ。


New York Times, March 4, 2002

Bush Weighs Raising Steel Tariffs but Exempting Most Poor Nations

By DAVID E. SANGER and JOSEPH KAHN

(コメント)

関税引き上げに関わる利益集団とは、輸出国の鉄鋼産業、しかし、貧しい国やNAFTA加盟国は除く。選挙にかかる鉄鋼産業のある州。鉄鋼製品の購入者。一種の増税となる国民。防衛産業。アジア危機以後の不況と鉄鋼価格の低迷。NAFTA加盟国の補償措置。南アフリカやブラジルなど、世界貿易交渉で支持を得なければならない国への配慮。クリントン政権が鉄鋼保護を実現できなかったせいで、ゴアからブッシュに乗り換えた州。鉄鋼消費企業や輸入に依存する州は関税に反対するが、鉄鋼企業や労働者ほど激しくない。長年、民主党支持者であった鉄鋼組合員も、ブッシュ大統領が関税を実現するなら、共和党支持に変わっても良い、という。

「自由貿易を促進するためにも、政府は既存の法的手段を総動員しなければならない。」とRobert B. Zoellick通商代表は言う。旧産業が緩やかに衰退するのを止めることはできないが、「もし彼らが自分で立ち上がれるなら、われわれは何でもやるべきだ」と。


New York Times, March 6, 2002

NEWS ANALYSIS

Steel Tariffs Weaken Bush's Global Hand

By RICHARD W. STEVENSON

鉄鋼輸入に対する関税を提案したことで、ブッシュ大統領は、景気回復を損なわずに国内鉄鋼業者を救済することに賭けた。彼はまた、テロとの戦闘に対する国際的支援を求めつつ、世界との経済関係が悪化しないように、議会から貿易促進法案の支持が得られることに賭けた。そしてまた、彼の自由貿易や増税反対という哲学を犠牲にすることなく、再選のために重要な基盤となる州を確保することに賭けたのである。

関税率表が公開されたが、それは可能な妥協の半分より下程度であろう。しかし、この問題の経済的・政治的な複雑さのせいで、長期的に見て、ブッシュ氏の賭けがどの程度成功するか、予想するのは難しい。「二歩前進し、一歩後退するのか。あるいはそのまま逆転されるか。分からない。」と、IIEのC. Fred Bergsten所長は言う。

政府はこの支援策で企業が元気付けられ、数年で再生し、労働者も自律できる。経済全体を支援するものだ、という。Robert Zoellickは、この政策が、景気回復や成長を損なわずに、企業に復活の機会を与えるものだ、と述べた。しかし、鉄鋼の大口使用者は関税が本質的には原材料への課税であり、コスト上昇につながるから、消費者は自動車や電化製品により高い価格を支払い、景気回復を遅らせる、と言う。Brookings Institution Robert W. Crandallも、鉄鋼利用業界の連携を伝えている。

ブッシュ氏はまた、貿易促進法案への議会の支持を、これによって効果的に囲い込もうとしている。この法案を通過させることが、NAFTAと同様に、ブッシュ氏の南アメリカ諸国との貿易交渉にとって必要である。しかし法案通過には、上下院でともに苦戦が予想されている。今回の鉄鋼業界保護では、議会のメンバーと何らかの政治的取引が行われたのかもしれない。

Zoellick氏は、投票に関する取引は無い、と言う。しかしより重要なことは、政府が自由貿易の主張を曲げたことだ。こうして、国内の保護勢力に譲歩することで、より有益な成果をもたらせる能力を失ってしまう。テロとの戦いでも、鉄鋼製品の摩擦が団結を弱める。

これはまさに国内政治による決定である。伝統的に民主党を支持してきたWest Virginia 州のWeirton Steelのために、2000年にブッシュ氏が30%の関税を約束した。ところが多くの民主党議員は反対し、鉄鋼労組のEd O'Brienも逆に世界中から非難されることを心配する。さらにブッシュ氏自身のイデオロギー基盤である右派から、原則を曲げて政治的な駆け引きに走った、という最も厳しい批判が出ている。ほんの数週間前に、Zoellick氏は関税が「低・中所得者に課税するものである」と語ったばかりだ。

The Economist, February 23rd 2002