IPEの果樹園2002
今週のReview
1/21-1/26
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お風呂に入る前に、News 23の「辺見庸@カブール:憎しみで世界が崩壊する前に」を観ました。辺見氏は、アメリカによるアフガニスタン空爆に反対し、「デイジー・カッター」についてのペンタゴンの説明をそっくり真似たNHKの解説を批判しました。そして、空爆で精神に異常をきたした6歳の少女を取材し、タリバンの支配から「解放された」カブールは、物欲や金銭欲に走って生きるしかない「悲しい風景」である、とも伝えました。
反撃する余地も無い上空からの空爆を繰り返すことや、民間人にも脅威を与えるための巨大兵器を一方的に使用するアメリカ軍の行動には、人々に共通する身体の痛みを、「報復」や「数値化」によって無視し、彼らが同じ人間であることをも拒むほど強い<差別意識>がある、と彼は語ります。それはN.チョムスキーも指摘したことです。「テロリストの側につくのか、われわれにつくのか?」 こんな時代がかった浅薄な政治ショー・ビジネスを続けるブッシュ大統領の論理に、ジャーナリストたちの良心は閉め出された感じです。アメリカやIMFが、タイやインドネシア、韓国の金融危機を放置し、その社会・政治的な混乱が深まることを「クローニー・キャピタリズム」として非難し続けた際にも、同様の批判がアジアから起きたことを、私は思い出します。
写真家の広河隆一郎氏は、NHKで、タリバン政権崩壊によりカブールの新政権や経済再建策に注目が集まる一方、逆に最も激しい爆撃を受けたアフガニスタン北部については関心が薄れてしまった、として、北部の難民たちを取材しました。屋根も無い住居跡で、地面に薄い毛布を敷いて暮らす難民たちは、飢餓と寒さで病気になっています。そして命を落とす多くの子供や老人たちが、村の外にある多くの墓となるのです。子供の墓に土の塊を積み直す婦人の手は細く、ブルカで涙も見えません。彼女には、何度積み直しても崩れる墓の盛り土が、生きていれば笑い返したであろう子供の髪の毛にでも見えるのでしょう。
A.L.サッチャーの『戦争の世界史』を読んでいると、戦争は常にすぐそこにあるような気がします。国際協調の努力も空しく、経済危機や社会の混乱、政治的対立の激化とテロへの傾斜、政治家たちへの不信感や跋扈するデマゴーグ、対外強硬論、さまざまな軍事同盟と新兵器、そして些細な事件がとんでもない死者と社会の完全な崩壊をもたらします。
アルゼンチンの大統領は「血の海」に沈む自国を描き出すことで、自らのポピュリスト政策を正当化しつつあります。日本でも、ダイエーが救済された影で、それに関わる多くのヤクザたちが祝杯をあげ、政治家や官僚たちが賄賂を得たのでしょうか? イタリアの政治家がユーロの崩壊を煽ったり、北朝鮮の指導者が細菌兵器や偽札を輸出したりする一方、麻薬や売春、犯罪を組織する国際的なネットワークが国境を超えて拡大しているのです。石油パイプ・ラインの敷設や軍事拠点の獲得を目指す各国の対立が続けば、アフガニスタンの貧しい市民たちが真に自分たちの望むような復興を実現する見込みはないでしょう。
仕事から帰り着いた駅で、またバス停の周辺でも、嬌声を上げながら騒ぐ少女たちや、荷物を投げ出し、食べ物を散らかして友人たちと話す若者がいます。彼らの眼には、こんな大人たちを軽蔑し、あるいは憎悪しているような翳がありそうです。「人びとは彼とその情婦を処刑し、ミラノの繁華な広場で両人のかかとをくくって逆さ吊りにぶら下げたのである。」このムッソリーニの最期から、逆に始める国もあるでしょう。
小泉氏に対抗できる政治家が居ないのは、日本の政治システムが疲弊しているからではないか、と思います。企業にも、政治にも、優秀な人材を集めて、彼らが革新や問題解決への能力を示すことにより、投票や市場競争で広い支持を獲得する若手を育てるメカニズムが必要です。
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Los Angeles Times, January 6, 2002
CURRENCY TRADING
Money Matters in Afghanistan
By MICHAEL GRIFFIN
2002年は、ヨーロッパの多くの人々が単一通貨に統一したが、アフガニスタンでは四つの異なる「アフガニ」通貨が使用され、しかもそのほとんどは偽造貨幣が占めている。
最も有利な公定レートでも、1ドル=5000アフガニで交換されている。アフガニスタンのこの劣化した通貨がもっとも利用されているわけではない。それは経済再建を目指すカルザイ政権にとって深刻な障害である。アフガニ通貨の供給を管理することが、アメリカの爆撃開始以来、再び各地域で支配を強めた軍事集団を押さえ込む最初の重要な行動であるはずだ。
1996年以来、ロシアの助けを借りて、地方軍閥は私兵たちへの支払いと、自分の蓄財のために、大量の国民通貨を偽造した。特に北部同盟は、紙幣の印刷原版を手に入れ、タリバンが支配するインフォーマルな貨幣市場を弱めるために経済戦争を行った。北部同盟の指導者たちが暫定政権の主要ポストを占めたが、カルザイが70億から90億ドルにおよぶ国際援助を有効に経済再建のために使うには、アフガニの安定化が必要である。
アフガニスタン国立銀行(ANB)は、カブールがタリバンに支配されて以来、新しい通貨を発行しておらず、今後、死に物狂いで市場にある三つの地元通貨と二つの国際通貨を規制しようとするだろう。ANBの総支配人Ullah Mohammed Fayezは、「唯一の解決策は、市場のすべての通貨を廃止して、新通貨を発行することだ」と最近語った。しかし、1992年に共産主義のナジブラ政権が崩壊して以来、完全に現金だけで取引してきた人々は、通貨交換を受け入れないだろう。
ほとんどの銀行が営業できず、市民のほとんどはラジオが通貨交換への警告を伝えても聞くことができない。ほとんどの商人はUSドルやパキスタン・ルピーを使って輸入を行い、庶民は地元の通貨で支払う。通貨を廃止すれば大混乱になる。
タリバンのアフガニ管理は常にまずかった。タリバン兵士たちは1996年にカブールを制圧した際、敵兵の口に、その侮蔑の印として、アフガニ貨幣の束を詰め込んだ。しかし5年後にはトラックの荷台に積んでアフガニを略奪し、撤退した。領土の90%を支配したと言いながら、貨幣の供給はほとんどすべて北部同盟のためにロシア人が行い、他の反対勢力が残りの10%を支配した。
タリバンに追放されたラバニ大統領は、紙幣の印刷用原版をロシアに持ち出した。国連の認めるラバニ大統領が貨幣を必要とするときには、いつでも支払いやインフォーマル市場でのドル購入のために、ロシアの印刷所に紙幣を増刷させれば良かった。この紙幣がタリバン支配地域に流通し、そこで正式な通貨となっている。タリバンが1996年以後の紙幣を禁止すると、ラバニの印刷所は1996年以前の番号を付けてアフガニを発行した。
こうして市場には4種類の紙幣が流通し、一部は同じ番号を付け、異なったレートで取引されている。元国王ザヒール・シャーの肖像を印刷した、1973年以後の「オールド・マネー」。1996年以前に発行された「旧紙幣(オールド・ビルズ)」。このふたつには15%ほど高いレートが付く。第三に、ロシアで発行された番号の大きな「新紙幣」。第四は、ウズベク軍閥のドスタム将軍が北部の支配地域に流通させるため印刷させた、大幅に割り引かれた紙幣である。
財政は混乱していても、貨幣取引業者は一目でこれらを区別し、交換に応じる。カブールのShahzada貨幣市場には300もの両替商が集まり、携帯電話とラジオのニュースで取引を行っている。この完全な自由市場がいつまで続けられるかは分からない。Shahzada市場では、援助が約束されてから、莫大な復興資金を期待してアフガニ・レートが上昇している。
しかし、援助の最大の受益者は、食糧や資材を供給する国外の業者であり、その多くがShahzadaなどの貨幣市場で援助機関の地元スタッフや供給業者への支払いとしてアフガニが交換される。カルザイ政権の新しい財務大臣、Hedayat Amin Arsalaは、ロシアが、今後、アフガン中央銀行の命令以外では通貨を増刷しないと約束した、と述べた。しかし、アフガニの価値が日々強くなり、地方軍閥の保有するアフガニは不明である。この合意がいつまで続くのか、誰にも分からない。
Financial Times, Wednesday Jan 9 2002
Weaker yen, stronger euro
円は、1998年以来、初めてドルに対して130円台に減価した。日米の通貨当局が共同で円安を支持している。残念なことに、ユーロは通貨間の為替レート調整で無視されている。円安は、もしアメリカやアジアの貿易相手国に与える損害をユーロ高によって相殺しなければ、失敗するだろう。
通貨市場に介入しないというアメリカ財務省の立場にもかかわらず、世界経済の現状を見れば、ドル高以外の選択肢は無い。アメリカから見れば、海外需要は弱く、ドル安ではなく金融・財政政策の刺激によって回復を促すしかない。
注意しておくべきは、1990年代のアメリカ経済は、安価な財と資本を海外から輸入することでグローバリゼーションの利益を得ていたことである。輸入は今や国内需要の30%以上に達し、1980年代末の20%と比べても、非常に大きくなっている。記録的な経常赤字は、直接投資と証券投資の流入によって完全にファイナンスされてきた。
その他の世界はアメリカ経済の成長に大幅に依存し、アメリカ経済は外国資本に依存する。1990年代後半、アメリカの輸入はOECD全体の輸入の半分を占めた。その結果、他の世界、特にアジアは、アメリカからの需要が減少しつつある今、ドル安にはますます耐えられなくなっている。
それゆえ、ドルが急激に安くなることは世界経済に破壊的である、と当然言えるだろう。しかしまた、どこまでもドル高が続くことが望ましいのでもない。逆に、ドルの増価は突然の大幅なドル価値の減少というリスクを増やす。そんなことが起きれば、現在の世界不況を破滅的な恐慌に変えてしまう。
状況は手の打ちようがなく、円が緩やかに減価していく可能性は無いのか? そんなことはないのだ。アメリカ・ドルとの為替レートだけ見て、危険なまでにドルに執着しなければ。
世界の為替レート・システムは三極化していると見るべきだ。一般の見方と違い、為替市場における現在の主要な不均衡は強すぎる円と弱すぎるユーロとの間にある。現状はプラザ合意を生んだ1980年代と大きく異なっている。当時は、ドルが主要通貨すべてに対して実質的な過大評価を示していた。
現状を考えれば、ユーロの増価は二重の意味で世界経済を改善する。第一に、それは必要な円安への主な障害を取り除くだろう。すなわち、理論的に日銀は円安を促す無制限な力を持つ。円を必要なだけ増刷すれば良い。しかし実際には、それがドル価値の乱高下(ブーム・アンド・バースト)や、1997-98年のような、アジアにおける競争的切り下げによる近隣窮乏化策を再現する。
ユーロが大きく増価すれば、円安がアメリカや他のアジア諸国に与える影響は緩和される。実際、これは非対称的な貿易パターンを改善するだろう。アメリカとアジアは日本の突出した貿易相手であり、彼らはまたユーロ圏と日本へ多く輸出している。
第二に、それ以上に重要なのは、ユーロ高がヨーロッパの国内需要を低インフレと低金利で刺激することだ。ユーロ圏はこうして、外からの刺激を待つだけでなく、世界経済の回復により大きな役割を果たせる。
要するに、日銀は外債購入を認めるのであれば、主にユーロ建の債券を購入するべきだ、ということである。この政策により、円とユーロの円滑な調整が進み、貿易額で加重されたドルのレートは安定を保つ。
(コメント)
この提案は、いくつかの意味で、興味深いです。主要通貨間の為替レート調整が世界の有効需要管理に重要な役割を果たすのは、1970年代の機関車論による財政刺激策や1980年代の為替レート調整合意で試されました。今また、日本やアジア経済のバブル崩壊による債務不況からの回復を、ヨーロッパの刺激策で助けることができる、というのです。
これは明らかに、ユーロの覇権拡大と三極化体制へ日本を誘うものです。ドル一極集中から生じる歪みを調整して(もしそれが深刻な問題であると互いに理解できれば)、国際通貨制度の改革に向けた展望を示すには、こうした新しい政策手段や制度が必要でしょう。
ドル・ユーロ建債券購入は、日銀の独立性を、二つの意味で改善するでしょう。すなわち、政府(円建国債)からの独立と、アメリカ(為替レート介入)からの独立です。国債や外貨準備をめぐる財務省との関係、アメリカ、ヨーロッパの通貨当局との関係を、互いに調整できる制度の一部として、相互の外債保有をプラスに利用できるはずです。
この提案を、より具体的にアジアの復興基金や地域的な通貨安定化策と結び付けることも可能でしょう。中身が無いと批判されたASEANでの小泉氏の提案を具体化するチャンスです。
International Herald Tribune, Tuesday, January 8, 2002
A Japanese Way to Be Modern?
Patrick Smith
日本の諸問題は社会・政治的に底を打った、と一般に思われている。しかし同時に、小泉首相は今までの首相たちより少しは早くそれらを解決できるという見込みもなさそうだ。誰もアルゼンチンのような内部崩壊が起きるとは思っていない。しかし、もっと時間をかけて、日本は重要な問題に回答を求められる。「その経済・社会システムを大きな変化から保護するために、日本は主要国の地位を捨てることも辞さないのか?」
もしそれが日本を二流の国にしてしまうとしても、伝統的な精神、すなわち雇用維持、零細商店、米作り補助金、などを保持し続けることが日本人の望みなのか? この問題は今に始まったわけではない。キール世界経済研究所の前所長Herbert Gierschも、ドイツについて同じ問題を提起した。彼はそれをNDCs(Newly Declining Countries新興衰退国家群)の誕生、として定義した。NDCsは、制限無しの外国からの投資や、「弾力的な」労働市場、その他の新しい世界経済が求める調整を受け入れない国である。日本はNDCを目指している。この10年の細部における変化にもかかわらず、日本の経済・政治・官僚制度における統合化、社会集団間の密接な関係は、その核心部を保持し続けている。
「外国人を排除すること」はその原則である。これこそ、日本を不況に閉じ込めてきたものだ。しかし、この国は永久に衰退する地位を受け入れようとは決して思っていない。不況かどうかに関わらず、日本は太平洋の主要国であると強く意識している。ナショナリズムは、小泉氏の下で、半世紀ぶりに公的な表現を得ている。
日本は非西洋で最初の工業化した国であったことを思い出すべきだ。近代化するということは必ずしも西洋化を意味しないことを示したが、同時に、ヨーロッパやアメリカの文化を採用する際の問題も多く示した。榊原英資が、共同精神と社会的な平等を重視した市場経済として、「日本型資本主義」を提唱してから、数年が経った。
日本は、資本主義にもいろいろあることを示そうとした。日本は、新しい世紀に生き残れないような経済・社会慣行を保持するために、主要国の地位を捨てるのか? 多分、こうした未来を日本は戦略として描きそうにはない。むしろ時間が経つに連れて、われわれ、その他の世界に対して、強国であること、近代的であることの意味を再考させるつもりであろう。
New York Times, January 11, 2002
The Greater Danger
By NICHOLAS D. KRISTOF
もしイラクが恐ろしいと言うのなら、この南北朝鮮を隔てる、凍てついた雪の境界線へ来て、北を見ると良い。
北朝鮮は、世界で最も飢えた、最も冷たい兵士たちを擁する、単に最も常軌を逸した国であるというだけでなく、潜在的に最も大きな脅威である。北朝鮮は、世界で三番目に大きな軍隊を持ち、5000トンの神経ガス・サリンを持ち、さらに天然痘ウィルスも極秘に保存していると疑われている。
「親愛なる指導者」金正日が、外国人の誘拐を計画し、監督しており、1987年には航空機を爆破して115人を殺した。北朝鮮はその予算の一部を麻薬の密売、テロリストへの武器売却、アメリカの100ドル紙幣の偽造、などで賄っている。最悪のシナリオとして、北朝鮮が資金を得るために、アル・カーイダに天然痘ウィルスを売却する、ということも考えられる。
それゆえ、アメリカの外交政策で最も重要な点は、イラクをどうするかよりも、北朝鮮をどうするか、である。
現在のアメリカ政府の対北朝鮮政策は、韓国の人々が進める政策との間に、大きな溝がある。彼らはアメリカが北朝鮮を孤立させるべきではないと考えている。しかし私は告白するが、かつてこの板門店非武装地帯の境界線をたった10フィートだけ入って、北朝鮮側から報告したことがある。そして、直ちに、生涯の撮影禁止をくらった(誰の生涯か? 彼の?)。とにかく、韓国とアメリカで話してみると、韓国人たちがアメリカは北朝鮮を取り込む機会を失ったと不満なことが分かる。
この10年間、アメリカの対北朝鮮政策は対キューバ政策と似ていた。それは結局、独裁者にその経済政策の失敗を言い逃れる外国のスケープ・ゴーとを提供し、ナショナリズムを煽ったのだ。彼らが改革をほとんど進めなかったように、われわれも何ら取引に応じなかった。
最近、ブッシュ政権内部に、反テロ戦争の第二局面として、北朝鮮に強硬姿勢を示唆する発言がある。タカ派が北朝鮮を脅威と見なすのは正しいが、圧力を加えることで解決できると考えるのは間違いだ。1994年に北朝鮮の原子力計画をめぐって対立し、戦争の危険が高まった際に、ペンタゴンは、アメリカ人8万〜10万人を含む100万人の戦死者を予測していた。
見通しを曇らせるのは、ブッシュ政権の強硬派がミサイル防衛計画を国民に支持させるために、北朝鮮の脅威を利用したがっていることだ。彼らは北朝鮮と取引し、ミサイル計画を交渉で止めさせることに関心を示さない。
韓国の金大統領は、断固とした共主義に対する冷徹な視点を持ちつつ、「陽光政策」で「親愛なる指導者」金正日を責任ある行動に誘導しようとした。ところがブッシュ氏は、昨年、金大統領との会談で、この政策に対して公に疑いを示し、彼の政治的な基盤を失わせた。そのとき以来、「陽光政策」も金大統領も、ほとんど死んでしまった。
北朝鮮は第二段階の有力候補であるが、対決策より陽光政策をわれわれが打ち出せれば、である。北朝鮮はテロリズムへの傾斜を改め、次第に開放政策を目指して、主にヨーロッパの12カ国と国交を回復した。インターネットがピョンヤンで見られる日も近いだろう。それは1972年にニクソンが中国を訪問したような、この悲惨な国家の転換点である。再び共和党の大統領が、共産主義国家とのビジネスを許すことで、その脅威を取り除くべき時である。
Far Eastern Economic Review, January 17, 2002
JAPAN
The Yakuza Recession
(コメント)
日本の不良債権と不況は、正しい経済政策だけでは処理できない異常な問題だ、という見方が広がっているようです。特に、ヤクザが問題債権の回収を阻んでいる、と。回収できない債権の約半分にはヤクザが関わっていることから、現在の不況をthe "yakuza recession"と名付けた宮脇元警視総監の発言が引用されています。アメリカの機関投資家Lonestarもこうした債権に関わり、右翼団体からの脅迫を受けた、とも伝えています。
さらにFEERの記事は次のようなことを指摘しています。
:そもそも1980年代に優良な企業の借り手を失った銀行こそ、企業や病院を乗っ取るヤクザを通じて融資を増やすことで利益を得ようとしたのです。1991年に死亡した、日本3番目の大規模暴力団稲川会の会長、石井進には、野村證券や日興證券などが384億円を融資していました。史上最悪の金融ギャングだ、とアメリカの弁護士は嘆息します。そして売れなくなった不動産などを買い取らせ、債権を回収するためにもヤクザを利用しました。漸く銀行が正常な債権回収に動き始めますが、それは続けられなかったのです。1993年、大阪の阪和銀行和歌山支店の債権回収に当っていた副支店長が撃ち殺されました。翌年、住友銀行名古屋支店の副支店長も暗殺されました。1997年以来7人の銀行関係者が同様に不審な死を遂げています。最近では、2000年9月、日銀の元理事で、2週間前に日本信用銀行の会長になった本間氏が、大阪のホテルで死体で見つかりました。前の晩に隣室で争った音が聞かれているにもかかわらず、警察は自殺と断定しました。東京の地下社会を描いた本の著者Robert Whiting氏は、組織犯罪には多くの自民党政治家も含まれている、と言います。日本の政治家も官僚も、ヤクザを排除する力が無いのです。銀行、不動産業界、建設業界、公共投資、TV、新聞、雑誌などのメディア業界、そして警察も、すべてがヤクザに関わっており、彼らはそのことについて触れたがりません。
宮脇はニュー・ヨーク日本ソサイアティーで11月に行われた講演で、外国人が日本の愚かな巨大銀行を買収するべきだ、と述べました。日本の銀行幹部たちはバブルの時代にヤクザに対して大量の融資を行い、今では銀行を健全化する能力も無い、と。
Strait Times, JAN 14, 2002 MON
Weakened yen offers reflation hopes to US and Japan
BY LIM SAY BOON
ミスター円、榊原英資氏が、年末までに円は1ドルが160円まで減価するだろう、と述べた。興味深いことに、アメリカからも円安を受け入れ、さらにはそれを促そう、という声が聞かれる。他方で、同様に重要なことだが、中国当局は急激な円安に大混乱となっている。
日本経済の苦境に関する経済学の理解を超えて、関心を集めてはいないが、ここには地政学的思考が関わっている。
皮肉な見方をすれば、円安はアメリカにとって、信頼できる同盟国の経済が破綻するのを防ぐだけでなく、アジアで急激に興隆する中国に対して、非中国同盟の防壁を築くことが重要なのである。
確かに、円安で非中国諸国が競争的な切り下げに突入すれば、彼らの苦痛は大きいだろう。しかし、なぜアメリカがそれを気にする必要があるか? 実際、それはアメリカの輸入物価を引き下げ、インフレ抑制という利益をもたらす。ホワイト・ハウスが引用したMedley Global Advisersのレポートは、ブッシュ政権が円安に青信号を出した、と示唆する。
アメリカが急激な円安を受け入れないだろう、という理由は、製造業、特に自動車産業の利益である。すでに不況にあるアメリカの製造業から、日本との競争についての悲鳴が上がる。すなわち、円安はアメリカ人が「日本の不況の苦しみを負担する」ことである、と。
しかし、他の見解では、円安すなわちドル高は低金利を維持するからアメリカ経済を助ける。それはインフレ輸入を阻止する。もちろんそれは輸入を増やすが、投資ブームの崩壊と景気悪化で経常赤字は減りつつある。安価な輸入財は消費を促し、アメリカのリフレーション戦略にも味方する。
これは当然、アメリカの製造業を傷つけるが、アメリカと日本が協力して同時不況を阻止し、リフレ政策を採ることを可能にする。それに、アメリカ人はアジアにおける同盟国、日本が、経済破綻寸前であることを知っている。
円安戦略には危険がともなう。そもそも、どれくらいの円安が必要なのか、分からない。デフレを止めるには160円〜170円の円安、成長率を1-2%にするには200円まで減価しなければならない、とも言う。
短期に円安が進めば日本の資産を安くし、債務を負う企業や銀行に一層の圧力をかける。とはいえ、日本は政策の選択肢が尽きてしまった。
他の力も働いている。すなわち、中国がASEANを新しい自由貿易の仲間に取り込みつつあることを、日本は明らかに心配している。さらに皮肉な見方をすれば、アメリカはどちらの展開も望まないのだ。地政学的に見て、中国は他のアジア諸国を影響力下に引き入れつつある。それは日本が1960年代にそうであったように、新しい製造業の中心として、中国が急速に興隆してアジアの新興経済を不安にしている。
そこで、日本が非中国のアジア諸国に攻撃的な競争的切り下げを引き起こさせる、というシナリオが登場する。それはアジアの新興諸国と日本の国際競争力を改善する。そしてアジア経済は中国に対する一定の交渉力を強めるだろう。中国の超高速成長が、少なくともしばらくは抑制される。
ただし短期的には、途方も無い調整の苦しみがともなう。日本も含めてアジアの資産価値は損なわれ、われわれの企業も外国の資本によって安く買い叩かれる。
しかしもちろん、それがアメリカを狼狽させることは無い。その逆だ。
Financial Times, Wednesday Jan 16 2002
Japan's currency trap
David Piling and John Thornhill
小泉首相はアジア諸国の歴訪を終えて帰国したが、その間、彼の関心を集めたのは円であった。韓国と台湾を除く、ほとんどのアジア諸国が日本の輸出財と競争しているわけではないから、日本が衰弱した経済を回復できれば利益を受けるだろう。しかし、では日本政府の官僚たちはアジア諸国が円安を黙って見過ごしてくれると期待するなら、それは大間違いだ。
昨日、中国の中央銀行総裁Dai Xianglongが、日本政府に円安を止めるように強く求め、それが円を少し回復させた。「われわれは日本政府がアジア諸国の声を聞き、円を安定化することを望む」と、彼は述べた。Dai氏の発言は、マレーシアのMahathir Mohamad首相の関心とも呼応している。彼は小泉首相に対して「円が下落すれば中国が切り下げるかもしれない。中国が切り下げれば、われわれもリンギの固定を止めざるを得ない。私はそれを心配している。」と語った。
そうなれば1997年のアジア金融危機が再来することだけでなく、アメリカが好景気であったときだから微震にとどまったが、今や世界経済にデフレを輸出することも心配される。この数年までは、日本経済の問題も国内に留まり、国際的な関心は低かった。しかし、今や日本の崩壊はその被害を外部に拡大するほど酷くなりつつある、という不安がある。っ問題は、それが起きた場合、どの程度世界に影響するのか? である。
「日本の政策当局はアジアでもワシントンでも、国内でも、手当たり次第に攻撃する。」と、Smithers & Co.のAndrew Smithersは言う。「円安は回復の必要条件であるが、海外で反発を招き、保護主義を高めるような急激な円の下落は望めない。」アメリカは円安を許容するようになったが、それにも限界があると東京は心配する。日本の財務省幹部は、円安のスピードに言及して、急激な円安を望ましくない、とした。それを示す介入も行った。
しかし、問題は終わらない。経済学者のほとんどが、東京からのニュースやアメリカの金利上昇予想により、おそらく140円に向けた一層の円安を予測している。円安は日本の輸出を増やし、物価にインフレ圧力を与えて、景気回復を助けると考えられる。アメリカ政府が11月に、日本の外債購入を奨励したことが、円安のきっかけとなった。
その理由が何であれ、円安が景気を刺激するには、もっと大幅に円は減価する必要がある。HSBCの計算では、10%の円安で2年間に0.5%だけ成長率を高めるに過ぎない。榊原英資は、150〜160円まで下落しても驚かない、と述べた。他方、竹中平蔵は、それが誇張であると言いつつも、円のレートはファンダメンタルズに従って市場が決めるべきだと言う。たとえそうだとしても、日本の現状は余りに悪すぎる。
さらに、日本の政策選択は行き詰まってしまい、日銀がインフレ期待を高めるために土地や株式を直接購入するような過激な政策を除けば、円安は唯一の重要な刺激手段である。政府幹部は個人的に、160円まで円安が進む必要について語っている。
しかし、最近のアジア諸国の指導者やアメリカからの声は、東京が円安誘導に走ることを非常に難しくした。また、たとえ政府がそう望んでも、実際には難しい。日本は経常収支黒字国であり、大幅な円安を指示する巨額の海外投資を日本の投資家が行うとは考えにくいからだ。
たとえそのような下落に経済的・政治的に耐えられても、そのリスクは大きい。外国投資家が円安はずっと続くと思えば、株式市場から資本を流出させて、相場をさらに下落させる。資本逃避が続けば金利が上昇し、銀行や企業を破綻させる。カリフォルニアのファンド運用企業Pimco のMohamed El-Erianは、「問題は日本政府が円安を管理できるかどうかである。」と言う。「もし円安が整然と、構造改革を伴って起きれば、世界経済にプラスである。しかし、政府が改革を進めるために行う円安ではなく、民間の資本逃避によって歯止めを失った円安が進めば、それがアジア諸国に波及する危険は非常に大きくなる。」
日本はいつものジレンマに直面する。いくらか円安が進むことは望ましいが、円安が適度な水準で止まることは無いだろう。政府が本気で国内の経済危機を真剣に解決したいのであれば、円安政策では不十分である。
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New York Times, January 10, 2002
Argentina's Woes May Strengthen Its Ties to Brazil
By LOUIS UCHITELLE
通貨を切り下げたアルゼンチンは、にわかに、巨大な隣国ブラジルと親密になった。それはアメリカとの通商交渉を有利にしたい、という思惑が両国にあるからだ。アルゼンチンがドル化を選択しなかったことは、ラテン・アメリカの共通通貨構想が生き残ったことを意味する、とブラジルの中央銀行総裁Fragaは語る。両国はアメリカに対して通貨の切り下げを交渉手段として利用できる。
ブッシュ政権は、メルコスールの再生が、ラテン・アメリカ諸国の西半球自由貿易圏構想に代わる政策ではない、と考える。「彼らにとって、アメリカとの貿易こそが重要なのである。なぜならアメリカとの合意こそが、彼らに世界最大の市場と、優れた国内経済管理の承認を与えるからだ。」とアメリカ通商代表のRobert B. Zoellickは昨日語った。
理論とは別に、実際は、切り下げによってもアルゼンチンの製造業は救済されない。政治的にも経済的にも、アルゼンチンが安定するまで、資本流入は考えられないからだ。
Financial Times, Monday Jan 14 2002
Editorial comment: Argentina's bind
アルゼンチンのEduardo Duhalde大統領は、余りに過激な経済戦略を採用した。デフォルト、切り下げ、価格統制、新しい銀行規制、である。Duhaldeのポピュリズム的な思考と政策は、経済再生への機会を失わせ、国際支援を否定するものだ。特に銀行システムの行き詰まりはこの国の窮状を良く示している。ドル預金の凍結は中産階級の怒りを煽り、ブエノス・アイレスの抗議行動に火を付けた。
金融システムの崩壊を防ぐ必要がある。預金凍結は銀行のバランス・シートを回復しない。銀行の資産はDuhaldeの政策によって損なわれ、実質的に破産している。銀行は大幅に資本注入しなければ営業できないが、株主もIMFも資金提供を拒んでいる。その結果、信用は供与されず、経済は回復しない。
より明確な、整合的戦略を採用しなければならない。まず政府は財政を均衡化することだ。さらに、政府は銀行資産をペソに転換する命令を取り消し、ドル建の債務を維持することだ。そして、独立した、頑固に反インフレの立場を守る機関を設置するか、ドル化するか、どちらかを選択しなければならない。アルゼンチンの通貨に関する混乱した歴史からは、ドル化の方が信認を得やすいだろう。
New York Times, January 13, 2002
Argentina's Crisis: It's Not Just Money
By LARRY ROHTER
危機は経済的にではなく、政治思想面で確実に広まっている。アメリカが宣伝してきた新自由主義に代わって、再び、怨嗟に基づくポピュリズムが拡大しつつある。アメリカは、労働者にもペロニストにも相談せずに、新自由主義の政策を政府が行うことで、経済が繁栄し、社会も変わると考えていた。しかしその結果、今や、彼らを政治システムに取り込むことができなくなっている。
この10ヶ月以内に、四つの南米の国で大統領選挙が行われる。ボリビア、コロンビア、エクアドル、ブラジル。10年に及ぶアルゼンチンの自由市場型政策が失敗したことを受けて、アメリカの宣伝する考え方を拒否する候補者たちが元気付くだろう。
Financial Times, Wednesday Jan 16 2002
Perpetually unsettled
John Kay
アルゼンチンは、現在、貧しい国であるが、かつては豊かな国であった。1世紀前には、ヨーロッパからの移民たちが母国とほとんど同じ生活水準で暮らしていた。そしてオーストラリア以上に、イギリスの植民地に近かった。
何が間違っていたのか? ほとんど空っぽの土地では(原住民を無視して)、政府が二つの方法で土地を配分する。一つは、政府によるトップ・ダウン式。もう一つは、最初に開墾した者の土地として、政府が所有を認めるボトムアップ式。すべての入植地がこの両方式で対立した。アメリカは独立革命で王によるトップ・ダウン式を廃止した。また、遠く離れた連邦政府の権限が及ばないために、土地は占拠した者の所有になった。
アルゼンチンやチリのようなスペイン語圏は、中央政府が有力者や金持ちに土地を与えた。しかし、多くの大土地所有者は自分の土地よりも都市の豪華さに引き寄せられ、良い地主とはならなかった。また、より重要なことに、貧富の大きな較差は決して国民から正当性を得られなかった。それゆえアルゼンチンの政治は分極化し、持てる者と持たざる者の対立を繰り返してきた。権力は、現状維持のエリートを擁護する軍人と、民衆が支持するJuan Peronのような独裁者との間を、交代した。
アルゼンチンの最も著名な経済学者Raoul Prebischのように、彼らは貧困を外部の要因に帰する。しかし、アメリカは周辺国が中心を追い越す可能性を示している。従属論が支持した関税障壁と国内の工業化は、いたるところで失敗している。もはやこの理論が適用される土地は無いが、ロシアがそれに当てはまるかもしれない。ロシアは、未開拓地と多くの国営部門を持っている。そして政府が支配しなければ、すべては有力者や金持ちが取ってしまう。
所有者は、資産を開発するよりも、収奪することに関心がある。そして所有体系が政治的な正当性を欠くために、既得権を維持しようとする所有者たちと、既存のシステムから利益を得られない者が対立し、政治は分極化する。アルゼンチンの憂鬱な教訓は、この罠からは決して抜け出せない、と言うことだ。
ロシアがよりましな運命を与えられんことを願う。
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The Economist, January 5th 2002
Argentina’s ugly economic choices
問題は、誰が苦痛を受けるのか、それはどれくらい続くのか、である。答えはDuhalde氏の為替レート制度に関する選択にかかっている。厳格な資本規制と銀行預金の引き出し禁止により、「互換システムconvertibility system」すなわちカレンシー・ボードによりペソとドルを1対1で固定する制度は、事実上、死滅した。ペソの完全な変動レート制から、完全なドル化まで、選択肢は広がっている。
アルゼンチンの国外では、完全な変動レート制の人気が高い。市場に委ねれば、ペソの価格は実質的に下落する。より競争的な為替レートが、アルゼンチンを不況から抜け出させる最善の道であり、外部のショックに対する最善の緩衝材である、と多くの人は言うだろう。ブラジルやメキシコのように、ほとんどの大規模な新興経済が、今では変動レート制を採用している。
不幸にして、ペソの変動レート制度には、巨大なリスクと重大なコストがともなう。まずリスクは、通貨の減価が過度に進み、効率の、そしておそらくは制御不能なインフレーションに至る、ということだ。政治混乱、政府の過大な支出傾向、経済政策への不信、繰り返されたハイパー・インフレーションの歴史、これらはペソの変動レートが選択肢として望ましくない理由である。また変動制、もしくはドル固定制からの何らかの離脱により、直ちに生じるコストとは、多くの個人、企業、銀行が破産することだ。なぜなら彼らはドル建の債務を負い、その収入はペソであるから。
もちろん最初はペソが大きく減価するだろう。しかし、ブラジルの1999年の経験によれば、為替レートの「オーバーシュート」は短期間で、通貨政策を明確なインフレ目標で実行する中央銀行が確立されれば緩和される。
だがアルゼンチンは1999年のブラジル経済と異なっており、自由な変動制を恐れている、という。彼らが準備しつつあるのは、ペソを一定の幅(おそらく40%)で切り下げ、ドル、ユーロ、ブラジルのレアルを含む通貨バスケットに対して再び固定することである。不幸にして、1990年代の新興市場経済が示す固定為替レート制度の歴史は好ましくない。この制度は単に数週間で次の通貨危機をもたらすだろう。特にDuhalde氏が政府の財布の紐を固く締め付けておくことに失敗するなら。
オーバーシュートや通貨危機を回避し、しかもなお通貨の切り下げによる利益を得られるように、切り下げてからドル化することを提案する経済学者もいる。ドル化は、原則として、アルゼンチンに投資する通貨リスクを取り除き、それゆえ理論的に、金利を低下させる。しかし、それはアルゼンチンが耐えられないことを示した為替レートの硬直性を永久に受け入れることを意味する。いずれにせよ、Duhalde氏はこのやり方に反対だ。
ペソとドルとの等価交換を廃止することで、この二つの選択肢は経済全体を支払不能にする。修復には痛みがともなう。中でも最悪の選択は、企業や銀行の整理を助ける一貫したプランも無いまま、なし崩しに破産を続けることだ。混乱と信用逼迫で、間違いなくアルゼンチンの不況は不必要なまでに激しくなる。
今後の債権と債務についてドル化しないことが、はるかにましな選択である。Harvard大学のRicardo Hausmannがそのような提案を行った。すなわち、変動制にする前に、銀行システムのドル建債権や債務は、公的債務とともに、インフレ連動型のペソ建に転換するのである。外国債権者による抗議はおそらく無視できるが、フライパンを叩く中産階級はドル預金をペソ化されることに噛み付くだろう。(実際、Duhalde氏はすでにドル預金を守ると約束してしまった。)さらに、ドル化の苦しみは不公平に分配される。ドル建で借金した者が、ペソ建で借金した者よりも、はるかに有利になるからだ。
より起こりそうな選択肢は、その中間であろう。モーゲージなどの債務は全面的にペソ化されるが、社債などはそのままであろう。預金者はより微妙な修正が加えられ、多分、金利や満期を変更し、預金引き出しの制限は残されるだろう。銀行のバランス・シートに開いた穴は、政府からの巨額の資本注入と、株主によって、埋められる。
最善を尽くしても、このバランス・シートの修復には時間がかかり、混乱がともなう。しかし、容易に実行できる選択肢は無い。第三の通貨は、それが支払われる公的部門の労働者に最大の苦痛を与える上に、必要な切り下げを失敗に導く。破産の連鎖を、一時的であっても回避するためには、ペソとドルを1対1で交換するしかない。しかしそれはまだ何年もデフレが続くことを意味する。ニュー・ヨーク大学のNouriel Roubiniが指摘するように、そのデフレは企業や銀行、家計の支払能力に、切り下げと全く同じ損害を、ただしスロー・モーションで、与えるだけだ。要するに、破産はどうしても避けられない。
Japan’s banks: To a head
The yen: On the slide
政府や金融庁は、最も弱いいくつかの銀行を整理しようとしている。官僚たちは、最悪の不良債務企業を「計画的な破綻」に追い込みたいようだ。しかし問題は、どの程度の債務企業が影響を受けるか不明なことである。ダイエーだけでも2兆6000億円の債務がある。しかし、外国投資家も含めて、再建に合意を得るには、改革が真剣なものでなければならない。政府は、4月に預金保険が解除される前に、こうした修復作業を終わっておきたい。
しかし、それは容易ではない。再建計画はしばしば見せかけに過ぎず、あるいは破産が制御不能になって拡大するかもしれない。ダイエーの処理は、とりわけ政治的に難しい。また脆弱な企業が多いために、海外の事件が引き金となるかもしれない。インドネシアが債務不履行になったり、エンロンが発行したデリバティブの被害が拡大したりするかもしれない。
では、円安は有効な刺激策となるか? 財務省は、円安が介入ではなく市場によるものだ、という。あからさまな円安促進でアジア諸国の反発を買いたくないのである。中国の人民元は、かなり過小評価された水準で固定されているから、急激な生産性上昇も考えれば、円安が進んでも人民元を切り下げる必要はない。またアジア諸国も、最も日本の輸出と競争している韓国でさえ、円安で国内市場を浸食された様子は無い。インフレ格差を考慮すれば、アジア通貨は円に対して安くなっているのだ。日本に対するアジア諸国の貿易赤字額は、1995-97年の年590億ドルから、昨年は190億ドルに減少した。
問題は、日本の輸入額がGDPの10%しか無いために、少しの円安では日本のデフレが解消しないことである。そして、大幅な円安はアジアに連鎖的な切り下げを引き起こす。それは、日本を含むアジア全体の世界貿易に占める割合が30%に達することで、ヨーロッパやアメリカにデフレを輸出するだろう。ヨーロッパやアメリカは一層の金融緩和で応じることが重要である。
円安は、日本が銀行システムの整理を行う代わりに、特別な解決策を示すわけではない。しかし、円安がデフレを緩和して、日本を正常な整理と回復の過程に戻す点で好ましい。