IPEの果樹園

今週のReview

12/24-12/29

クリスマスのために用意した商品を奪われ、踏み砕かれたデコレーションの間に座り込む店主や、商品を盗らないように、と泣きながら街頭で懇願する男性の横で、多くの人々が品物を奪い合っていました。広場では騎馬警官たちが拳銃を高く掲げ、市民は鍋や釜を叩いて抗議の声を上げています。BBCが伝えるブエノス・アイレスの騒乱現場です。

すでに未来の医者がMr.グローバリゼーションの死亡診断書に書く主要な死因は分かっています。貿易保護主義と国際金融危機です。他方、世界の新興地域で急速に増加する世界市民が掲げる主要な政治目標も分かっています。1.極端な貧困の解消。2.技術革新・知識の普及、そして、3.その成果の公正な社会的分配、です。

「完璧な金融市場」という幻想や、「完全なドル化」という信仰が、アルゼンチンの経済を投資家の楽園から地獄に変えてしまいました。その背景には、世界の経済的統合化に関する楽観が、大きく悲観へ転換したことがあると思います。かつてアメリカの好景気、日本の停滞、ヨーロッパの通貨統合、IT産業への投資ブーム、中国の世界市場参入、ロシアの自由市場型統治、NAFTAの成功、など、1990年代の微妙なバランスを構成した部分が、徐々に変化していたのです。

クリスマスを、アルゼンチン通貨危機や北朝鮮?スパイ船との銃撃戦、アメリカン航空機での新しいテロ未遂事件、などで迎えた世界が、日本経済の改革をますます不信の眼で見るとしたら、日銀の量的緩和に続く円安促進政策は、むしろ破滅への道とならないでしょうか? 日本人も、漸く、政府や銀行への依存というリスクを学び、ますます預金や資産を分散して、長期の保険契約を解約し、円ではなくドルやユーロの外貨預金を保有し、信用の高い外債や投資信託に向かい始めるかもしれません。世界のますます多くの国で、政府も中央銀行も、国民を分断するような保護政策や市場介入によって時間稼ぎすることが難しくなっているのです。

今週、私の記憶に残ったのは、1.アルゼンチンの騒乱状態を写す映像、とともに、2.ニュー・ヨークのレストランで活躍するチーズ専門ソムリエ、3.100円で借りてきたスピルバーグの戦争映画『プライヴェート・ライアン』、4.短資会社のスタッフが、日銀の当座預金積み増しで市場の崩壊を感じた、という証言記事でした。

アメリカは世界の知識や資本、労働力や人脈の核となる多くの人物と組織を取り込んでいます。そこには、アメリカを含めた世界の混乱や変動にも、ビジネスの拡大と次のチャンスを狙う人々がたくさん居ます。アメリカはアルゼンチンの通貨危機にも耐えられるし、むしろ市場による次の拡大を目指すのです。そして何千種類という多様なヨーロッパのチーズを味わい、国際秩序の維持に関わって戦死者を出すことも選択できます。

この前の世紀転換期に死亡し、浜辺へ打ち上げられたMr.グローバリゼーションの死体を、スピルバーグの戦争映像に見ました。ケチャップかハムの工場のように、飛び散り、山積みにされた兵士の肉が、映像の中で現在のMr.グローバリゼーションと重なります。第二次大戦が映像になるたびに、ドイツ人は自分たちの存在理由を平和的に説明しなければなりません。そして日本人も、中国が国際社会に復帰し、朝鮮半島の分断が崩れる過程で、その説明責任の重さに気付くでしょう。

すでに日本には多くの失業者が居ます。それは小泉首相の改革が進んでいることを示すとともに、私たちがその性格を問い直すべき事実でしょう。各国は、かつて金本位制を離脱して通貨を切り下げ、金融緩和の自由を得たように、今や戦争という財政刺激策に代わる積極的な国際財政移転と金融再編成を、一時的な保護主義・国際カルテルによって円滑に進めるかもしれません。騒乱の前に、日本からも改革のモデルが生まれて欲しいです。

Mobilising the world's labour assets

Dani Rodrik

ドーハのWTO総会では、特に貧しい諸国の成長を加速することが話し合われた。しかし、貿易自由化のほかにも話し合うべき議題があった。それは国際労働力移動の自由化である。

それは経済学の原理が示すことである。国際的な価格差がより大きければ、自由化による利益もより大きい。商品や金融資産に関して、価格差はめったに1対2以上にならない。しかし、先進国と低所得国の間で、同じ水準の労働者が得る賃金は、容易に10倍かそれ以上も格差がある。

これほどの格差があれば、たとえ限界的に国際労働力移動を許すだけでも世界経済にもたらす利益はドーハ会議の成果を大きく超えるだろう。たとえば豊かな国の労働力の3%まで貧しい国の熟練・未熟練労働者に対して一時的労働許可証を発行するシステムを創るとしよう。そのプラスの波及効果を考慮しなくても、本国にもたらされる外国人労働者の追加所得は年2000億ドルに及ぶ。それはいかなる貿易交渉の利益よりも大きく、しかも政府を介さずに直接に市民にもたらされる。

移民は発達した工業諸国の未熟練労働者の賃金を下げるから、政治的な自殺行為であると思われている。しかし、移民に対する反対は克服できないものではない。発展途上国からの輸入も同じ効果があるが、貿易や投資の自由化については、その主要な受益者である多国籍企業や金融機関が、この問題に関する論争に影響力を確保している。

移入民に関しては先進諸国に明確な選挙基盤がなく、EUのトルコ人労働者やアメリカのメキシコ人労働者のように、彼らが雇用されなければ受益者は明確にならない。それゆえ、アメリカ政府は国境警備に多くの資金を費やし、結局、入国してしまえば強制的に出国させるわけでもないのだ。また、労働規制の緩和を要求するのも、アメリカの農場やシリコン・ヴァレーの企業など、よく組織された利害団体からに限られる。

第一の教訓は、政治的な限界は]克服できないわけではない、ということだ。経済学者は保護貿易を非難する一方で、労働力移動の規制を政治的な現実として受け入れてしまう。この不均衡を修正するべきだ。経済学者は労働力の移動を支持し、貿易による苦しみにも関心を向ける必要がある。

第二の教訓は、移民改革にも「多角的な」取り組みが重要である、ということだ。無差別原則と最恵国待遇は多角交渉の規範であり、各国の移民政策も同じような制度的枠組みに組み込むべきである。アメリカやEUが行っている移民の枠組みは、第三国に及ぼすマイナスの波及効果を抑制しなければならない。


The invigorating effect of America's pink slips

Amity Shlaes

アメリカの失業率が急速に上昇してきた。10月と11月だけで0.8%も上昇し、1980年以来の最も急速な悪化である。しかし、国際的な比較においてこそ、その傑出した特徴が分かる。1960年代後半以降、ドイツ再統一を除いて、日本もドイツもそのような急速な増加は無かった。しかし、アメリカの失業増加はアメリカの強さを示している。景気回復は政治の仕事ではない、ということだ。それは工場やオフィスから生じる。経済はそれを行う自由を持っている。それは成長と雇用の冬の暗さを潜り抜けることでやって来る。

アメリカの企業は毎月のように過剰な労働力を創り出し、それを解雇している。ボーイングやフォードのような旧経済から、ドット・コム企業などの新経済まで、いたるところで雇用が削減される。それこそが生産性上昇を維持するアメリカ労働市場の弾力性である。それは先進諸国のどこも真似できない。アメリカの法律は解雇が比較的自由で、雇用契約に時間をかけない。節約された資本は、景気が回復すれば、新しい投資資金となる。フォードはゼロ金利で自動車販売を強化し、売れ行きによって旧労働者を再雇用する。

労働者も、こうした事態を積極的に受け入れている。彼らは容易に解雇されるが、時間が経てば、他の職場が見つかる、と。こうした確信は経験からくるものだ。そして同じような雇用調整の好循環は日本に無い。長期間、企業は無駄な労働力を維持するために貴重な資本を浪費する。今になって、漸く企業は解雇し始めたが、構造問題はさらに悪化しており、解雇も不十分である。日銀が非難されているが、もし雇用政策がもっと自由であれば、経済の潜在力を引き出せただろう。

通貨政策ですべてが解決できるわけではなく、財政政策も同様だ。アメリカにとって、その教訓は、労働市場のダイナミズムを妨げてはならない、ということだ。失業者への保険給付を延長したり、特定の企業に失業を出さないように補助金を与えたりすることは、その善意とは別に、経済のダイナミズムを損なう。減税策は重要だが、短期的な社会保障・年金負担への非課税措置は必要ない。

ドイツや日本にとって、教訓は、将来の成長のために労働政策を自由化せよ、ということだ。成長を保障する最も重要な条件は、労働者が景気回復と新しい職場を期待できる文化を創出することだ。


In Japan, a Lack of Political Will to Act Decisively on Economy

By JAMES BROOKE

僅か10年前まで、アメリカ人は日本の自殺的経済拡大戦略がアメリカの雇用を破壊すると恐れていた。しかし、日本のNo.1への道は破滅的な転落をもたらした。日本政府の国債は工業諸国で最悪の水準となり、「アジアのイタリア」と呼ばれている。

政治指導力の不足、財政管理能力の不足、巨額の企業債務、イタリアを苦しめてきた問題が、日本の回復を妨げる。世界は第二の経済大国が世界不況の解消に役立つのか、むしろ妨げるのか、心配している。

1990年と比べて、不況で税収は16%減り、歳出は29%増えている。不況対策の連続で、日本お公的債務水準はGDPの130%に達した。その95%は日本人投資家がほとんど0%で保有している。格付け機関は相次いで国債を格下げし、イタリアと並べた。Fitch社の予想では、その比率は2002年に150%、2007年に200%に達するだろう、という。

小泉首相は改革派としてのイメージを広め、対抗する政治家が居ないために、国民の高い支持を保っている。しかし、海外の投資家は彼を信じていない。工場の閉鎖が急激に増えており、失業率の上昇している。電機・情報分野の閉鎖された工場が、昨年は2社であったが、今年は46社に増えた。中国からの輸入に押されて、日本の工場労働者の3分の1が削減された。


Washington Post, Bloomberg, Monday, December 17, 2001; Page A23

Marshall Plan For the Next 50 Years

By Gordon BrownBritain's chancellor of the exchequer

勇敢なアメリカの指導力でテロとの戦争には勝利しつつある。しかし、どうすれば平和を築けるか?

第二次世界大戦後、「期が、貧困、絶望、混乱」に苦しむヨーロッパに経済的・社会的秩序を回復するために、マーシャル・プランは実施された。その成果は、今日の二つの課題、アフガニスタン再建と、開発諸国と発展途上諸国との世界的同盟による繁栄の達成に向けて、生かされるべきだ。ただしマーシャル・プランと違って、相互依存を深めたわれわれの世界の挑戦は、国際的資本移動と世界的競争の時代に市場経済を築くことである。

私の計画とは次のようなものだ。発展途上諸国が汚職をなくし、経済の安定性と貿易の自由化、民間投資の促進を行うことに応じて、豊かな諸国は毎年500億ドルの開発基金を増額するのである。この基金は、合意された開発目標のために必要な資源を提供する。

この基金は援助ではなく、未来への投資である。この50年間、マーシャル・プランのモデルが発展途上諸国に適用されなかったのは、経済的な基礎や、開放型の責任ある公的部門に対する管理が、発展途上国には無かったからである。またわれわれは開発援助をあまりにもしばしば貧困を解消する短期的な援助として扱い、貧困の原因を無くし、彼らに競争できる力を与える長期的な投資として考えなかった。それゆえ新しい繁栄のための世界同盟は、新しい機会だけでなく、新しい責任も意味する。

第一に、豊かな国も貧しい国も、すべての国が財政・金融政策の規約もしくは基準を採用する。それはマクロ経済的な安定性を支援し、汚職を退治し、不安定な地域への投資家の不安を解消するような規則である。世界的な金融危機を防止するわれわれの力は、早期警報手続きや、危機対策から分離したIMFのサーベイランス・追跡機能、民間部門のより一貫した開発への協力、などによってさらに高められる。

(第二に)発展途上諸国自身が内外の投資家に魅力的な改革を行い、健全な法体系やビジネス・フォーラムで、高水準の投資や域内貿易をもたらす環境について、民間部門と一緒に考える必要がある。

完全な貿易自由化は少なくとも2015年までに3億人の人々を貧困から解放できる。それゆえ第三に、ドーハの合意を実行することが重要だ。

第四のステップは、開発基金を十分に拡充することだ。開放経済と汚職追放、経済の安定性と民間投資に積極的な国はどこでも、教育や衛生上の投資が行えないという理由で発展できない、ということがあってはならない。そのために毎年500億ドルを用意して、健康・教育と貧困対策の計画について応募国を集め、その持続的な開発を促すのである。


Mexican Peso Is World's Best Performer vs Dollar

By Nick Benequista

メキシコ・ペソはこの30年間で最も良好な通貨となった。投資家たちは、ラテン・アメリカ最大の経済が民主的で、より安定した、と言っている。

アルゼンチンからの資本逃避もあって、メキシコ・ペソは1月以来、ドルに対して5.8%増価した。アメリカとの貿易は増加し、昨年のフォックス当選で、投資家の信頼が増している。メキシコの2001年のインフレ率はこの30年間の最低水準であり、株式市場の上げ幅も世界で7番目、債券利回りも低下している。

フォックスの勝利で信頼を高めたメキシコに流入している外国資本は、10月末に株式市場の44%、513.7億ドルを保有する。資本流入があったために、メキシコのBolsa指数は14.5%も上昇した。金利の低下はメキシコ企業の借入コストを減らし、消費者の支出も促している。メキシコのNAFTAへの統合が進んだことで金利が低下したのは、イタリアのEU統合で起きたことと同じだ、という投資家もいる。

しかし、メキシコ・ペソの上昇も終わりが近いと見なして、ブラジルに資金を移す投資家もいる。ブラジルの資産市場は比較的安い。「メキシコ市場は高価になり、ペソが過大評価されている」という。また、石油輸出額も、原油価格の下落で来年は減少するかもしれない。直接投資の流入も世界の景気後退で影響を受けるだろう。

メキシコ・ペソは1976年まで1ドル=12.5ペソで固定されていた。38%の切り下げ後、1980年にはペソの下落が進み、1982年だけで73%も暴落した。政府は1993年に1000分の1のデノミを行った。サリナス政権では1988年から94年まで、ペソを介入によって一定の幅に安定化した。1994年に通貨取引を自由化し、ペソ価値がまっさかさまに崩壊して、銀行システムの破綻となった。

こうした混乱の時代は終わったのだ、と、ある投資家は言う。アメリカで不況が問題になっても、メキシコは安定している。誰も切り下げとハイパー・インフレーションなど心配していない、と。


Steel-Producing Nations Try to Counter Market Glut

By THE ASSOCIATED PRESS

26の鉄鋼生産国が、鉄鋼価格の下落を招いている生産過剰を解消するために、約10%の生産力削減を目指している、とEU職員は述べた。EU委員会のPeter Carl通商委員長は、OECDの新しい会合で、需要の水準に合わせるために生産量を年間8000万から8400万トンに制限することに合意した。年間1億トンの生産力水準が目標となる。

OECDによれば、世界の鉄鋼生産能力は年間10億トンであり、2001年の生産量は83500万トンに達すると推測されるが、消費量は72100万トンに過ぎない。ブラッセルでは、EU通商委員会のパスカル・ラミー委員長が、EUの生産削減提案はアメリカの反応に「強く依存している」と述べた。ブッシュ政権が2月半ばまでに鉄鋼輸入に対して懲罰的関税や輸入割当を課せば、EUはWTOに提訴して争うだろう、と警告した。

アメリカ通商代表部のロバート・ゼーリック代表は、ラミーと合同の記者会見で、アメリカ産業が競争ry区を改善するために再編する時間を与えるために、「セーフガード」が導入される見通しを擁護した。両者は世界的な生産過剰が問題であるという点で一致しているが、アメリカ産業が苦境にある理由について意見を異にする。

ラミーは、アメリカ鉄鋼業の再編は遅すぎると考えるが、他方、ゼーリックは新興の「ミニミル」でさえ赤字であると主張する。「アメリカの鉄鋼労働者の3分の2が過去20年で職を失ったことを思えば、大幅な調整が行われた」とゼーリックは言う。しかしラミーは、ゼーリックの示す統計でも、アメリカの輸入が1998年には市場の40%を占めたが、昨年は30%に過ぎないことを指摘する。だから「アメリカがセーフガードを必要とするとは思わない」と言う。

(コメント)

アメリカの政策が、911日の攻撃を理由として、大規模な景気刺激策を産業界への支援として決めたことに対して、EUは強く反発している。このままではEUも報復措置を採るかもしれない。Guillaume Parmentier, “Transatlantic tit for tat” (FT, Thursday Dec 20 2001)


New York Times, December 21, 2001

FLOYD NORRIS

Protecting Steel Could Lead to an Economic War That All Could Lose

1990年代後半のブームは素晴らしい宴会であった。宴会は人々を楽しませるだけでなく、嫌なことを忘れさせる。しかし、どのような大宴会にも終わりが来る。翌朝、二日酔いとともに、人々は大いに騒ぐ前に心配していたことを思い出す。

1990年代のアメリカでは、それは過剰な設備投資であった。特に、鉄鋼や自動車のような基幹産業で生産力が過剰になっていた。アメリカは相対的な高コストによって、国際競争に耐えられなくなっていた。テレコムやインターネットのバブルが弾けて、この問題が再来した。

鉄鋼業では、生産効率の低い生産者から順に市場を追われる、という単純な解決策は考慮すらされていない。ブッシュ政権は、有権者の大勢に影響しない限り、自由貿易の熱烈な支持者であったが、今では国際的な生産削減を模索している。言い換えれば、まるで国際カルテルこそが正しい答である、と言うかのように。アメリカ政府は市場の40%を占める輸入鉄鋼製品への関税を脅迫材料にして、他国に生産削減を迫る。

問題は自動車業界に及ぶ。アメリカの鉄鋼が価格を引き上げる中で、フォードやGM、クライスラーが国際競争に有利なはずが無い。もし日本が円安を誘導し続けるなら、アメリカの自動車会社はさらに苦しめられる。だから、自動車業界への保護が要求されるわけだ。

競争的な通貨切り下げと保護関税は、まとめて「近隣窮乏化政策」と呼ばれたが、大恐慌の際に採用されて、事態をさらに悪化させた。歴史はそのような政策が他国の報復を呼び、世界に拡大することを示す。


Argentina's senseless sacrifice

Raquel Ferndez and Jonathan Portes

アルゼンチン政府はデフォルトを避けるという、道徳的に堕落した、政治的に維持できない、経済的に正気を失った決定を下した。

結局、この4年間の不況と厳格な固定レート制は、アルゼンチンが債務を支払えるほど輸出できないことを示している。この国の内外の公的債務額は1550億ドルであり、年間輸出額の5倍以上ある。これはIMFが考える通常の維持可能な割合を超えており、しかも現在は金利がアメリカ財務省証券に比べて30%も高い。

デフォルトは、アルゼンチンと世界中の納税者から富を移転することで食い止められてきた。先週金曜日にも、政府は対外債務に9億ドルの利子を支払ったが、それは民間の年金を削り、民間銀行に融資の継続を強制して行われたものであった。IIFによれば、アルゼンチンは120億ドルを海外の債権者に支払い、しかも資本逃避が起きている。これらの資金はIMFや世銀、G10など、要するに世界中の納税者が融資したものである。

しかし、デフォルトを回避するだけでは、アルゼンチンが支払えるようにならない。IMFとアメリカ財務省が融資に際して求めた条件は、アルゼンチン政府が国内債権者に対する債務を不履行にすることだった。年金は13%が削減された。公務員は数ヶ月に渡って賃金を支払われていない。銀行預金は部分的に凍結された。社会の最も弱い部門が最も厳しい衝撃を受けている。老人、低所得者、国内部門の労働者、職を探す若者たち。一日4ドル以下で生活する貧困生活者がすでに1400万人おり、毎日、増加している。

IMFは2002年の予算を均衡させるように求めた。それは40億ドルの増税と、70億ドルの歳出削減を意味する。アメリカの規模に直せば、4000億ドルの財政緊縮予算であり、各家計が年間2500ドルを負担することになる。その結果は一層の失業と年金削減、社会サービスや教育の悪化であり、それによって政府はほんの数ヶ月対外債務の支払いを停止するのが引き伸ばせただけである。

問題は、財政赤字ではなく、不況である。来年末までに、予測では経済規模が1988年以来10%も縮小する。失業率は20%近く、税収は年々減少してきた。予算削減は不況を強め、社会対立と市場不安を招く。このような自虐的、自己破壊的な政策を、IMFも他の誰も、発達した諸国に求めたりしない。不況でアメリカの予算が赤字になっても、誰も増税を求めていない。全く逆に、不況から抜け出すために政府支出の増加と減税が議論されている。

国内の労働者や年金生活者を犠牲にして、海外の債権者を優先することは、単に経済的に愚かなだけでなく、政治的に維持不可能であり、社会的な正義も欠いている。投資銀行、ミューチュアル・ファンド、裕福な個人、ヴェンチャー・ファンドなど、外国の債券保有者はアルゼンチン債券を購入する際にそのリスクを良く知っていた。スプレッドが急速に上昇する中で購入した者は、デフォルトが実際に起きつつあると分かっていた。結局、30%もの金利差は、アメリカの財務省証券を保有して得られる利回りの6倍である。大きなリスクだからこそ、そのような利回りがあった。


IMF Throws in Towel But Argentina Keeps Fighting

By Tom Vogel

凄惨な闘いを観戦していて、誰かが死ぬ前に、レフェリーが闘いを中止させてくれないか、と思ったことはないだろうか? アルゼンチンで今行われているのは、まさにこれであるが、レフェリーがタオルを投げ入れたのに、戦いが続いている。

IMFの主任エコノミストKenneth Rogoffは、今日、「財政政策と債務、為替レート制度が維持不可能であるのは、明らかである」と言明した。アルゼンチンとIMFによる9月の予測は来年の成長率を2.6%としたが、今や1.1%で経済が縮小している。ところがアルゼンチンの指導者たちは以前と同じ戦略を続ける気だ。見るに耐えない。

アルゼンチンのように打たれ続けて、それでも負けを認めない者を、誰も見たくない。飢えと失業に苦しむ者がクリスマスの食糧を求めて、国中に食糧暴動を広げつつある。歳出削減に代わる新しい計画が必要である。


BBC, Thursday, 20 December, 2001, 13:27 GMT

Crisis grips Argentina

暴徒の夜。政府には最後の審判が迫っている。

アルゼンチンの政治指導者たちは集まって、権力の空白と国家の破産を回避するために、非常事態を宣言した。カヴァロは危機によって強制的に職を追われた。政府の経済運営に抗議する群集が通りに集まり、少なくとも10人が死亡した。

誰が政府を組織しても、アルゼンチンの民衆は政治家を信用していない。「カヴァロが追放されたのは良かった。民衆にとって公平な政府を望みます。」と、デモに参加したElena Siciliaは言う。スーパー・マーケット、銀行、商店、その他の建物が掠奪に遭った。民衆はポットやフライパンを叩き、自動車の警笛を鳴らして、深夜に発令された政府の非常事態宣言に抗議した。

デ・ラ・ルーアは暴徒を「共和国の敵」と非難し、危機に取り組む政治同盟を要求した。

街は暴力の嵐に包まれ、野党が多数を占める国会はカヴァロに与えた特権を票決によって廃止した。1989年、同様の混乱に際しては、当時の大統領Raul Alfonsin辞任した。


After Argentina

Martin Wolf

アルゼンチン政府の闘いには勝ち目が無かった。しかし透明性はその重要性を示した。危機が予想されていたために、他の債務者に対する伝染は抑えられた。

世界金融システムには脆弱な金融システムを抱えた多くの国が参加しており、財政規律が無く、貨幣を悪用した経歴があるから、こうした危機に陥りやすい。それゆえ「新しい国際金融アーキテクチャー」の論争は今も続いている。アルゼンチンの危機は三つの分野で緊急性を加えた。@為替レート制度と対外債務依存。AIMFのサーベイランスと支援、B民間部門による負担、言い換えれば、債務国の破産。

第一に、為替レート制度と財政政策に関する合意は、再び、転換するだろう。1997-98年に東アジア危機でアジャスタブル・ペッグ為替レート制度は崩壊したが、完全な変動レート制か、カレンシー・ボードや通貨同盟という、「両極化した」世界への合意は、今や揺らいでいる。おそらく、ハード・カレンシー体制は信頼を失うだろう。

アルゼンチンは、長期の経済衰退をもたらすどのような制度も脆弱であることを示した。ドル化でさえ万能薬ではない。それで通貨の崩壊を避けたとしても、財政的な破産は十分に起きる。それゆえ、新興経済における債務依存が見直されるだろう。アルゼンチンのGDPに対する公的債務依存度55%は、発達した経済であれば維持可能に見える。しかし、10%以上の金利では維持不可能である。よほど潜在的な高い成長率があるか、金融市場が従属していない限り、そのような水準の公的債務は許されないし、特に外貨建では問題である。

第二に、IMFの役割は再び精査されるだろう。ある幹部は、IMFが罠に落ちた、と主張する。もし債務国政府への支援を拒めば、デフォルトに続く混乱の責任を問われるだろう。他方、もし政府を支援すれば、その失策に責任を問われる。どうやっても勝ち目は無い、と。

高所得国はアルゼンチンの引く馬車に従わされることに、いらいらしていた。イギリス蔵相のゴードン・ブラウンは、IMFのサーベイランスをもっと独立させて公開し、より大きな権限を与えるべきだ、と主張した。その報告がある国の政策を維持不可能と見なせば、IMFは融資を続けることが難しくなるだろう。債務国政府に「No」と言えるだろう、と。しかし、借り手も貸し手も、過去から逃れることはできず、結局は破局に向かうしかない場合が多い。

第三に、債務国の破産処理が緊急性を与えられるだろう。IMFのAnne Kruegerが示した提案は、四つの要素を含む。@債権者が各国の国内法廷に訴えることを禁止する。A債務者に責任ある行動を強制する。B貸し手に新規資金を提供させる。C少数の債権者を債務の組替えに従わせる。これらは新しい内容ではないが、IMFが主張したことに新しさがある。

問題は、しかし、実施が困難なことだ。反対意見は多い。IIFは実施までに数年を要する、という。アメリカ連銀と財務省の元高官Edwin Trumanは、短期的なパニックに陥った国に対して、破産処理は正しい解決策ではない、という。公的資金の供給が重要である。1994-95年のメキシコでも、1998-99年の韓国でも、より多くの短期的流動性が正しい解決策である。それゆえTrumanは、すべての国際投資に課税して設けられる「国際金融安定化基金」を提唱している。それは、国際金融システの利用税である。

債務国への政策改善策や公的融資への規律、支払停止の扱いについて、改革論が追加されている。しかしそれらは、困窮するアルゼンチン市民を助けるものではない。過去の失策や不幸は水に流すべきだ。新しい政策は、デフォルトを含む。債務の組替えには、財政均衡化が必要だ。もはや融資は得られないから。再びアルゼンチン市民が負担を引き受け、同時に海外の債権者も負担しなければならない。そして成長を回復する政策が必要だ。それはデフォルトと変動制による減価を意味し、同時に通貨の安定性を失ってはならない。

(コメント)

他方、CHRIS YEUNG, HK 'must learn from Argentina' (SCMP, Friday, December 21, 2001) は、アルゼンチンが香港に示した教訓を財政の均衡化である、と考えます。なぜ香港はカヴァロの路線を引き継ぐのでしょうか?

どちらも政治的な支持基盤が固定レート制を変化させることは受け入れないからです。しかし、確かに香港はアルゼンチンと違って、中国経済への積極的な統合化が可能です。アルゼンチンよりも、メキシコに近いかもしれません。問題は中国の金融・政治システムでしょう。


Instability born out of the pursuit of stability

By Avinash Persaud

アルゼンチンの危機は、もう一つの焦点であった南アフリカから関心を取り除いた。7月以降、南アフリカの通貨ランドは40%も減価してきた。アルゼンチンの危機は予想されたものであり、その意味で、伝染は限られている。しかし、両国の政策に共通するのは、マクロ経済的な安定性の追求、であった。

これら二国にとって、マクロ経済の安定性と市場自由化は、成果の無い美徳であった。それは国内の成長も外国からの投資ももたらさなかった。長期的に見て、成長を書いた政策は、それが何であれ、維持できない。このように、マクロ経済的な安定性を追及することに、今後、各国は躊躇するだろう。それは経済成長の必要条件ではあっても、十分条件では決してない。南アフリカとアルゼンチンは、安定性の追求が成長にとって重要な他の要素を損なうかもしれない、ということを示唆している。

リスクと不確実性を減らすことで、マクロ経済的安定性は資本の流入をもたらすと期待されている。それで、初期の調整がもたらす成長への重荷を相殺する国内の投資ブームも可能になるはずであった。しかし、二つの理由でそれは起きなかった。1.国際金融市場の混乱があった。2.発達した諸国の技術革新に投資が流れた。

国際金融システムが新興市場に開かれたり、閉ざされたりする仕方が、資本流入を撹乱している。しかし、マクロ経済的安定性を達成しても、所有権の確立や政治的安定性、政策の信頼度や治安について、実質的なリスクが大きいため、投資は抑制されてしまう。経済調整を経てもリスクが低下しないから、成長がそのコストを超えることは無いのである。アルゼンチンと南アフリカの経験は、国際経済政策に新しいアプローチを要求している。

ハイパー・インフレやデフォルトの危機にある国は、マクロ経済的安定化を選択する以外に無い。しかし安定性が達成されても、新興市場のリスクに対する認識は容易に変化せず、急激な政策転換はむしろ成長をそこなう。安定性の追求は長期的、包括的に考えるべきであって、法的・政治的な条件が重要である。他方、成長の基礎を確立することは最優先の政策課題である。そのために政府は、知識と内的関連性、外的な目標を重視し、安定した所有権を確立すべきなのである。


Crisis in Argentina

暴動で経済大臣が辞任し、さらに大統領も辞任した。アルゼンチンは、1983年の民政移管以後に成し遂げたすべての成果を失う政治危機に瀕している。その成果とは、民主的な憲法と安定した通貨、 勇敢な自由市場型改革である。デ・ラ・ルーアが去った後、アルゼンチンの歴史が亡霊のように現れる。経済的ポピュリズム。軍事政権。

アルゼンチンの指導者たちは、経済政策の責任ある変更を進めるとともに、この国の民主主義を守らねばならない。デフォルトと通貨の切り下げを拒んできた政府は、暴動によって終わりを告げた。その転換は容易でない。1980年代の債務危機においては、債務の削減を銀行に求めた。しかし今日、アルゼンチンは債券発行によって債務を負い、デフォルトは債権者からの多くの訴訟に巻き込まれる。それでも、債務を負ったままアルゼンチン経済は再生できない。

通貨切り下げも難しい。1991年にハイパー・インフレを抑えるためにドルとの固定制を採用してから、アルゼンチンはドル建の借入れを増やした。ペソを切り下げれば、こうしたドル建債務は支払不能になり、アルゼンチンの銀行を破綻させる。それでも切り下げは必要だ。固定レート制は不況に対する切り下げや金融緩和を制限してきた。アルゼンチンが健全な財政状態で、財政的な刺激策を用いて不況に対応できない以上、これは維持できない。

The Economist, December 8th 2001