今週の要約記事・コメント
12/17-12/22
IPEの果樹園 2001
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不良債権を市場で売却するか、大幅な円安を進めるか? あるいは緩やかな衰弱を選ぶのか? 実際には資産市場の最後の突然発作が、困難な選択を強いる場合が多いでしょう。日本のバブル崩壊が、世界経済史上の1930年代大不況に匹敵する事例となりつつあります。そうであれば、年末恒例の忠臣蔵よりも、日本が社会制度を大きく変えた明治維新に、より多くの関心が集まるかもしれません。子供たちと『お〜い! 竜馬』を観ていると、不合理な服従ばかり強制する身分制社会を破壊して、颯爽とした若者たちが日本を変える話に元気が出ます。
学生の報告を聞きながら、なぜアメリカ合衆国ではなく、ラテン・アメリカが連邦制を採用し、イギリスの次の覇権国とならなかったのか? と思いました。北米を支配したのが発達した農業と産業革命を実現したイギリスであり、南米には重金主義のスペインやポルトガルが入ったからでしょうか? あるいは北米の耕地は広く、人口が少なく、山脈は主に西海岸の手前をさえぎっただけで、農産物輸出や鉄道建設への投資と移民をヨーロッパから吸収できたからでしょうか? それとも南米を支配した大土地所有制と寡頭政治の弊害を、アメリカは南北戦争によって排除し、大銀行と産業投資家の自由を確立できたからでしょうか?
きっと優れた歴史家は、社会構造の変化がさまざまな意味で多くの可能な線路に分かれていたことを知っているのでしょう。かつては身分や土地に依拠し、その後も規制や制度に依拠する地主的・寄生的な階層が、その社会秩序を支配することで、レント・シーキング(地代)が重要な社会的決定に影響したことは明らかです。たとえば銀行や土地の国有化は、いずれの時代や国でも、改革の最終的な焦点となりました。それをめぐる紛争と政治的な解決策が、後の社会を大きく変えたのではないでしょうか?
ラテン・アメリカの社会変化をもとに類推すれば、デフレや土地価格の下落が、日本の不労所得階層であった官僚制や銀行システムから権力を奪い、消費者や革新的な新興企業に新しい成長機会を開放しつつあります。土地・資産市場のバブルは、日本の主要な輸出産品であった製造企業の勤勉さや規律を破壊しました。国内工業化政策を支持する政治基盤が失われたことで、今までの政治システムが焦点を失い、旧来の選挙地盤に縛られた政治家たちには次の自由化や民主化のための明確なプログラムが描けません。
成長への機会があったにもかかわらず、ラテン・アメリカが軍事政権や経済破綻を繰り返したのには、もっと経済的な理由もあったでしょう。北米では西部開拓により国境線が東西に伸び、地域統合に有利な統一市場と政治的統合化を先行させました。イギリスの近代的支配形態や社会制度の移植がなかった南米では、大地主の消費を支える輸入が維持される一方、奴隷や貧しい移民が早熟な都市化と債務依存経済を制度化したのではないでしょうか。そして国際投資家と軍隊の支配する保守派が、貧困解消や投資ブームを唱える改革派のインフレ政策と、周期的に入れ替わったように思います。
地理的条件から見て、日本はますますアジアの東方列島として、地域統合の過程で大陸間の拮抗関係を受容しなければなりません。にもかかわらず日本の社会は萎縮し続け、自由な発想や革新の気風を育てることができません。バブル崩壊の最大の弊害は、失われた資産と、さらに失われるかもしれない資産が、若者を閉塞した時代の遺産相続人としてしまうことでしょう。
豊かになった私たちは、あるいは、『未来少年コナン』を観るほうが良いかもしれません。そこには世界がすべて一旦滅んだ末に、辺境の地から土地を耕して、失ったものなど気にせず、明日に向けて再生し始める、屈託ない少年や少女たちの元気な姿があるからです。
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Strait Times, DEC 6, 2001 THU
Consequences of info imperfections
By JOSEPH STIGLITZ
今年のノーベル経済学賞はMr George Akerlof、Mr Michael Spence、そして私が「情報の非対称性」に関する研究で受賞した。200年間も、経済学者は情報が完全であるという単純な経済モデルを使用していた。彼らは情報が完全でないことを知っていたが、若干の不完全性があっても完全情報の世界と近似的であろうと思ったのだ。実際には、市場の中で人々は異なった知識を持つ。たとえば労働者は雇用主よりも、借り手は貸し手よりも、より多く知っているかもしれない。
Akerlofと私は1960年代初めにMITの同級生であったが、ある日、標準的なモデルを教えていて、私たちには納得いかなくなった。需要は供給と均衡する、と言うだけなのだ。「需要と供給」を繰り返すだけならオウムでも経済学者になれる、というジョークがあった。もし労働の需要と供給が均衡するなら失業など無いはずである。われわれのモデルは、なぜ失業があるのか、なぜ信用割当があるのか、なぜショックが拡大し、その効果が持続し、最初のショックがなくなった後まで影響が残るのか、を説明した。
その最も根本的な帰結は、アダム・スミスの「見えざる手」に関係があった。われわれの分析は、「見えざる手」が単に見えないのではなく、存在しないか、あってもせいぜい老朽化していることを示していた。Mr Bruce Greenwaldとの研究で、政府の介入はすべての人の福祉を改善する、と示した。経済学者は以前から「外部性」を議論していた。しかし、情報の不完全性を考えれば、外部性はどこにでもあり、市場の失敗も遍在するのである。
国際機関がワシントン・コンセンサスという、市場の失敗を無視した市場原理主義を押し付けているのは、歴史の皮肉である。思想(アイデア)というのは、利益(インタレスト)と同じように、強力である。旧いイデオロギーと利益が協力して、特定の利益を優先し、他の利益を抑圧する。情報の不完全性は、経済(市場)権力の不完全性と関係がある。そしてここに政府の役割があるのだ。政府は市場の失敗を矯正するだけでなく、権力の非対称性を無くすべきである。
New York Times, December 7, 2001
Hitting the Trifecta
By PAUL KRUGMAN
9月11日のすぐ後で、ジョージ・W・ブッシュは悪人どもを激しく罵る合い間に、ジョークを飛ばした。ブッシュ氏は繰り返し財政黒字と社会保障の黒字を約束し、国家の非常事態に関して安全を保証していた。だから予算局長のMitch Danielsに注意したのだ。「なんて幸運なんだ」と。「立て続けに三つの大当たりだ。」
どう考えても、それはエンロン社のやったことにそっくりだ。最初はごまかした数字を並べて、トップにだけ景品を配った。それから上手く行かないとなれば、今度は労働者に支払わせた。エンロン社の幹部は捕まったが、ブッシュ氏は9月11日の事件で自分はまんまと放免される、と思ったわけだ。
ブッシュ氏は、巨額の黒字があるからと言う理由で、10年分の減税を決めた。しかし、財政は急速に長期的な赤字に戻ってしまった。しかし、トラ・ボラの洞窟から実況中継するのに忙しいTV局は、減税がでっち上げの前提で行われたことなど取り上げない。政府は不況対策だとして減税を正当化する。しかし誰も、400億ドルがリベートとして支払われ、実際には、残りの減税額はほとんどが2002年以降にしか支払われないのを見ていない。そして、繰り返し黒字を約束しておきながら、早くも赤字の予測に修正されている。
December 11, 2001
Laissez Not Fair
By PAUL KRUGMAN
アルゼンチンも、エンロンのように、金融界のお気に入りであったのは、それほど前の話ではない。そしてアルゼンチンも、エンロンと同じように、同じ集団からモデルとして持てはやされた。フォーブズやウォール・ストリート・ジャーナル紙によって賞賛され、保守派のシンク・タンクに祝福された。
同じ人々がエンロンとアルゼンチンを賛美したのには理由があった。この企業と国家は、どちらも1913年以前の世界に時計を逆転させる試みであったのだ。保守派の自由主義的信条、両対戦間期に政府の役割が肥大化し、不当な比重を占めるようになった、と。もっと過激な自由放任主義が現実に機能する、と彼らは信じている。
エンロンの実験は、本質的に、規制を解除することであった。標的となった規制は、もともと、セオドア・ルーズベルトが「巨万の富を動かす悪人ども」と呼んだ連中に搾取されるかもしれない、という消費者や労働者、投資家たちの恐怖に由来していた。エンロンは政治的な圧力を使って「規制のブラック・ホール」を作らせ、その中で自分が自由に取引した。昨年12月、Phil Gramm上院議員がエンロン社を例外扱いした。彼はまた、銀行業にマネー・ロンダリングを止めさせる手段も妨害した。
エンロンの支持者は、規制されない市場への恐怖心を退ける。しかし不幸なことに、このブラック・ホールに吸い込まれたのは、官僚制の混乱ではなく、エンロン社の社員たちであった。あるいは、それはブラック・ホールなどではなく、むしろ虫食い穴で、何十億ドルもが、たとえば海外の預金として、どこかへ移されたのかもしれない。巨万の富を動かす悪人どもは実在し、彼らがエンロン社を経営していたのだ。
エンロンが積極的な規制当局を食い潰す実験であったとすれば、アルゼンチンは積極的な通貨当局を食い潰す実験であった。通貨管理の失敗が何世代も続いた末に、アルゼンチンは植民地時代の貨幣制度、「カレンシー・ボード」に回帰した。これにより頻発する不況や政府介入から解放されて、アルゼンチンは安定した通貨を得、その他の問題を自由な市場に委ねられるだろう、と。
彼らがすべての人の利益になると、善意でこれを行ったことを、私は疑わない。しかし、それは地獄に続く道である。エンロンの社員も、アルゼンチンの国民も、資産をふいにして、大成功であったはずの自分たちに何が起きたのか、と動転している。
自由放任を謳ったアルゼンチンの通貨制度は、先週、預金引き出しを月1000ドルに制限した。アルゼンチンのフォルクスワーゲン社は「ガレージにおいとけたら、いつでも好きなときにお金を出せたのに。」と広告で揶揄した。
私は市場が悪であるとは考えない。利潤動機が常に間違いであるとも思わない。逆に、私は市場が非常に素晴らしいものであると信じている。しかし20世紀の偉大な経済的教訓とは、市場システムが政府の助けを必要とする、ということだ。規制によって悪用を止めさせ、不況と闘う通貨政策を行うべきだ。ヒューストンとブエノス・アイレスの双子の破産劇は、この教訓が生きていることを示したのだ。
December 14, 2001
Eleven and Counting
By PAUL KRUGMAN
困惑させられるが、本当だ。まさに1ヶ月前に、ジェームズ・ベーカー3世記念研究所は、アラン・グリーンスパンにエンロン賞を贈呈したのだ。この破綻したエネルギー会社は、こうしてエリート層に結び付いていたわけだ。だが、グリーンスパン氏自身はまだ破産申請していない。Fedが11回目の金利引下げを行い、その結果を見守っているところである。
なぜ効果が無いのか? 一つの説明は、通貨の「伝達機関」が故障した、というものだ。Fedの行動が実物経済に影響を与えなくなっている。その一つの原因がグリーンスパン氏自身である。
経済に及ぼすFedの権力は、通常思われているほど、絶対的なものではない。Fedは短期金利を動かすだけである。金利自体の重要性は非常に低い。しかし、普通は、フェデラル・ファンド・レートが下がれば、間接的に株価を上昇させ、ドル安をもたらし、特に、長期金利を下げる。
しかし、主に、今回は長期金利がまったく下がらないことから、間接的な効果が少ししか働かない。その理由は、一部には、自己否定的な楽観論である。債券トレーダーたちは、グリーンスパン氏の魔法で劇的な経済成長がすぐに回復し、金利は上がるだろうと信じている。その結果、回復は起きないのだ。
さらに連邦政府の赤字が現れた。財政の黒字化が金利を下げたように、それが再び赤字になることで金利を上げないはずが無い。減税よりも長期金利の上昇で、経済が悪化する可能性は現実のものである。
そしてグリーンスパン氏が失策を犯している。彼は1月に財政の黒字で債務が急速に返済される危険性を警告した。それは政府による巨額の減税案を支援することになった。今や、景気の落ち込みをとめるためにも、議会で財政の均衡化を説く責任があるだろう。しかし、当時もブッシュ政権に味方した議長は、財政黒字の予測が趣味の悪いSF小説になった今や、この話題に触れようともしないわけだ。
New York Times, December 7, 2001
Japanese Consumers Revel in Deflation's Silver Lining
By JAMES BROOKE
かつてこの国はメロン一個10ドル、ステーキ一枚100ドルすることで有名であった。しかし今では、マクドナルドがハンバーガーを52セントで売り、ディスカウント・ショップでは40ドルのメガネや、かつて25ドルしたジャケットを8ドルで売っている。日本のサラリーマンの制服であるスーツも、中国や北朝鮮から輸入して、僅か72ドルで買える。
新開店前の大阪のショッピング・モールでは、「安さ」が合い言葉となっている。3年近くも、日本はデフレに捕まっている。それは日本を不況につなぐ重石となっている。価格が下がるから、消費者は購入を延期する。企業も投資を控えて、債務の返済に励む。
しかし、日本の消費者が新しい購買力を得て、かつては外国にまで買いに行った品々を国内で安く買える事に喜んでいるのは、注目されていない。「デフレの重要な事実は、それが大衆に支持されていることだ。」と、Morgan Stanley Japan のチーフ・エコノミストRobert A. Feldmanは語る。実際、日銀の統計でも、価格下落を望ましいと答えたのは45%に上り、望ましくないと言うのは18%に過ぎない。
長い閉鎖経済が崩れて、大量の安価な輸入品が洪水のように流入し、価格競争が強まって、日本の物価を世界レベルに下げつつある。近代的で、高度に効率的な流通部門が、これに貢献している。1993年、東京の生活費はニュー・ヨークより43%も高かったが、昨年はその差が22%にまで縮小した。長年、多くの経済学者が、日本の高コストが国内部門の競争力を奪っていると責めていたが、今ではデフレが消費者に利益をもたらしている。
「日本のデフレは、大部分、悪いできるではなく良いデフレである」とHSBC Securities Japan のシニア・エコノミストPeter Morganは述べた。「良いデフレ」とは、消費財の生産や流通を効率的にするデフレである。「悪いデフレ」とは、住宅や土地の価格を引き下げるデフレである。
「デフレは、日本の消費が絶壁を転げ落ちない理由である。」とGoldman Sachs Japanの Tetsufumi Yamakawaは言う。「日本の消費者は、敗者ではなく、圧倒的に勝者である。」100円ショップのチェーンは2000店以上も展開している。安売りメガネのZoff。Uniqloブランドを展開するFast Retailing。
ビジネス雑誌がFast Retailingの柳井氏に、安価な輸入衣料で日本を苦しめているのではないか? と尋ねた際、彼は「消費者はかつて1万円支払った服を、Uniqloに来れば2000円や3000円で買える。それは彼らを豊かにするのではないか?」と応じた。
規制緩和も効率を向上させている。航空運賃の最低価格を政府が廃止してから、それはアメリカと同じ水準になった。政府がガソリン輸入の管理を止めて、ガソリン価格も下がった。しかし、最も大きな値下げは、価格引下げの殴り合いで起きている。マクドナルドがハンバーガーを半額にしてから、売上が一日25万個から125万個に増えた。この挑戦を受けて、吉野家も牛丼(並)をアメリカよりも安い2ドル26セントに下げた。
しかし、経済学者はデフレがさらに進むことを心配している。金利はほとんどゼロであり、中央銀行は銀行システムにこれ以上貨幣を供給したがらない。多くの人がお金を箪笥にしまって、経済は活力を失っていく。それは政府の税収にも響くので、日本の国債は格付けが下げられた。家賃も住宅価格も1980年代のピークからまだ下がり続けている。そして価格が下がる限り、消費者はそれを歓迎しつつ、さらに下がるまで購入を遅らせる。それは日本経済をさらに悪化させる。
Financial Times, Monday Dec 10 2001
Japan's property market needs a leap of faith
Gillian Tett
10年程前には、日本の土地価格は記録的な水準に達し、皇居の土地だけでカリフォルニア州全土よりも高い値段が付いた。もはやそんなことはない。それどころか1980年代半ばの水準を越えて、さらに下落し続けている。
このことは破壊的な効果を伴っている。銀行融資の担保価値が下がり、不良債権の増加と消費者の不安をもたらす。日本はこの問題を時間が解決すると期待して、政府に何も求めないのか?
アメリカの共和党政権は、日本政府が行動すべきだと確信した。その明確なメッセージが、財務副長官のKenneth Dam 、経済諮問委員会委員長のGlenn Hubbardから示された。彼らは、真の市場を不動産に持ち込むべきだ、と考えている。
すなわち彼らは、日本の銀行が不良債権と担保の土地を市場で売却しはじめるよう求めている。政府機関も不良債権を市場で民間の買い手に落札させるべきである。自由な市場で一時的な価格の下落を許すことにより、日本は地価の「底値」を決めて、その後の購入意欲を引き出せる、と。
こうした古典的な自由市場論を、日本人は嫌うことが多い。銀行は融資が失敗であったことを公に認めたがらない。また競売にかけることで、企業との親密な関係を損ないたくない、と考えている。さらに悪いことに、ヤクザに絡む土地もある。もっとも重要なのは、多くの日本の経済学者が大規模な土地売却はデフレを悪化させると考えていることだ。
しかし、少なくともこの問題に関しては、アメリカのメッセージが絶対的に正しいものだ。Dam氏が強調したように、日本はアメリカの過去の政策失敗を見なければならない。すなわち、1980年代半ばにS&Lが危機に陥ったとき、アメリカ政府はこれを誤魔化した。結局、S&Lが不良債権を売却したときも、その価格を人為的に高くして、簿価の95%より下がらなくした。その結果売却ができず、事実上、不動産市場は凍結されてしまった。
政府は自由市場で売却するように強いられて、民間投資家がそれを魅力的な買い物と感じる水準まで、価格は最初下落した。最初の売却は1991年7月に簿価の20%で始まり、92年5月には17%まで下がったが、10月には62%に回復した。日本と比べて、アメリカの場合、S&Lの資産は単一の政府機関に保有され、多くのS&Lが破産処理された。他方、日本では多くの民間銀行に保有されている。S&Lは経済の極一部であり、国内にさまざまな買い手が居た。しかし日本では売却すべき資産額が大きく、国内企業には投資意欲が無い。それゆえ、主な買い手は明らかにアメリカのヴェンチャー・ファンドや銀行であるが、それはDam氏の発言をウォール街による日本買占めと誤解させる。
日本政府はここで飛躍しなければならない。企業が苦しむのと関係なく、日本の家計には莫大な貯蓄がある。デフレが続く中で、彼らが喜んで土地を買うわけが無い。しかし、もし消費者が土地の値段は大幅に割り引かれており、将来は上昇するに違いないと思えば、彼らの考えも変わるだろう。アメリカの提案は、最初、外国の投資を集めるかもしれないが、日本の家計がこれに続くだろう。
小泉首相はこの賭けに挑むだろうか? 多分、しないだろう。日本人の多くはハード・ランディングを酷く恐れ、目に見えないような下落と沈静化を望んでいるから。しかし過去10年を見れば、それでは価格の下落が止まらず、苦しみが長引くだけなのだ。さらに10年経っても変わらないかもしれない。
Financial Times, Friday Dec 14 2001
Editorial comment: Sinking sun
円安促進という非正統的な手段でしか、日本は不況から抜け出せない。日銀は、政府のドル買い要請が無ければ、外債購入による刺激策は実行できない、とボールを投げた。しかし、政府はドル買いを要請しなかった。こうして需要を追加する手段は何もなくなった。
日銀はインフレ目標政策を拒んでいる。銀行は融資を増やせず、国債購入による流動性供給も消費者に購買を促せない。需要が失われれば、構造改革は信用逼迫と不況を悪化させる。30兆円の国債発行上限により、政府の補正予算は景気変動を緩和できず、増幅するだろう。国債発行の上限で抑制できる債務額は僅かであり、それに比べて景気悪化は確実だ。
小泉氏は国債の上限をはずし、今こそ日銀と協力して円安を促進すべきだ。そして輸出を促し、インフレを輸入するのである。円安を好まない貿易相手国でも、日本の不況によってより大きな被害を受けるだろうから。
Far Eastern Economic Review, December 13, 2001
REPRESSION
Appearances Can Deceive
By Susan V. Lawrence and David Murphy/BEIJING
この国も資本主義を受け入れて、中国の主要都市は改革と開放とのオアシスのように見える。しかし表面の見せ掛けをはがせば、共産党が経済的な取引のすべてを、どこにおいても全能の神として、支配していることが伝わってくる。
外国人には北京や上海の輝かしいオフィス街やスターバック・コーヒー店、WTO加盟に合わせた自由貿易や改革・開放のスローガンしか見えない。もう一つの中国の姿は容易に見逃されてしまう。
しかし、中国は秘密主義的であり、政治的・社会的な側面では共産党が支配している。党への脅威や内部の大衆行動は厳しく取り締まられている。外国ビジネスマンはそれが今も有効に、機能していることを、忘れはいけない。それがどれほど強い影響力を持っているか、ほとんどの外国人は知らない。確かに党は近代化され、市場経済学を幹部にも学ばせ、世界的な視野を養うように促している。しかし、裏では何も変わっていない。共産党こそ最も強大な権力であり、その手足はすべての事務所や外国企業、市民生活の側面にまで伸びている。WTO加盟もこれを変えることは無いだろう。
外国企業にとって、それは自由な労働市場が無いことを意味する。スタッフの採用は外国人の知らない政治機構に従っており、共産党の階層制は職位を無意味にしている。広い意味での共産党文化が外国企業にも及び、企業の情報は共産党を通じて規制当局に漏れてしまう。6400万人の共産党員が、外部からは見えないが、党の生活を支えているのだ。
China Dailyのような英字紙や英語の出版物は、外国人のために発行されているから、政府について、実際的で、イデオロギーに染まらない印象を与えるように作られている。たとえば11月30日のChina Dailyのトップ記事によれば、高給経済会議が、Jiang Zemin主席も加わって、まるで近代的な政策として、消費の刺激や経済改革、雇用増や生活水準の改善が唱えられたかのように報じている。他方、その中国語版では、国家のイデオロギー再建が謳われている。
(コメント)
中国とASEAN諸国とのFTAについて、IIEのFred Bergstenが、近年の地域主義への流れを受けたものだ、と評価しました。しかし他方、'Greater China' FTA a boon or bane?(Strait Times, DEC 8, 2001 SAT)でTom Plateは、中国主導のFTAが韓国はもちろん、日本まで吸収して、将来をオーウェル的な悪夢の世界(三つの全体主義的超大国が分割した世界)に変えることを懸念します。それでも、永く停滞する日本が農業部門にこだわってシンガポールとのFTA交渉を遅らせていることを、ASEAN諸国は知っています。もはや日本がこの地域に80年代や90年代のような成長の機会を与えてくれない以上、ASEAN諸国には中国の他に選択肢が無い、と。
Financial Times, Monday Dec 10 2001
Editorial comment: Contagion curbed
1997-98年のタイに始まった通貨危機は世界的に波及した。しかし、今回、アルゼンチンがデフォルトになっても、その影響は限られているだろう。その理由は、
・ アルゼンチン債券はすでに市場で大きく割り引かれている。
・ 他の新興市場国の債券とアルゼンチン債の価格は連動していない。
・ ほとんどの国が変動レート制を採用している。
・ 国際投資家のレバレッジが小さく、損失を埋める連鎖的な売りは少ない。
・ 1998年までの新興市場向け投資に顕著であったユーフォリアは無い。
・ 情報の透明性が高まっている。
・ IMFは国ごとに救済融資を行うかどうか検討しており、無条件に救済しない。
・ 結果的に、国際投資のリスクがより分散されている。
しかし、危機が起きないとは断言できない。特にブラジルは不透明である。もしアルゼンチンや他国がデフォルトになれば、IMFは緊急融資枠を合意していない場合でも、迅速に債務国の管理に当るべきである。アルゼンチンは資金を得て、デフォルトを大混乱にしてはならない。
Washington Post, Tuesday, December 11, 2001; Page A32
A Question From Argentina
アルゼンチン国民にとって、支払えないような債務はデフォルトにする方が、不況の中で増税を続けるよりもましである。しかし外部の者には、救済融資に代わるものが必要だ。すなわちIMFのナンバー2、Anne Kruegerが支持した「国際的な破産処理」である。
理論的には、デフォルトより破産の方がはるかに優れている。救済融資の場合、民間の貸し手は追加資金を要求され、再び無謀な融資と、それゆえより大きな金融危機が繰り返される。それに比べて、破産処理は民間部門が債務の部分的な免除を受け入れ、新しい融資を受け入れなくても良い。破産処理の問題は政治的なものである。国際破産法廷を作るには、豊かな諸国も新興市場諸国も、ともに主権を譲歩しなければならない。新しい国際機関は、債務国が支払いを停止する時期(条件)や、免除額を決定する権限を持つことになる。それは債権者が債務者を訴えるという選択肢を奪う。またそれは、すべての債権者を拘束できなければならない。
クリントン政権は、国際破産法廷が政治的な駆動力を持たない、として救済融資を続けた。しかしブッシュ政権は異なった見解を持ち、特にオニール財務長官は救済融資を嫌っている。国際破産法廷は今すぐ政治的に問われるべきである。一方では、新興市場諸国のいくつかの政府が反対しており、他方では、オニール長官がアメリカ議会を説得しなければならない。もしそれが不可能であるなら、早急にこの提案を葬ったほうが良いだろう。
The Guardian, Monday December 10, 2001
The house of cards that Jacques built
Larry Elliott
ジャックの建てた家はほとんど準備を完了した。あと3週間で、ぱりぱりのユーロ紙幣と輝くユーロ・コインが、フランやマルク、ペセタ、その他、通貨同盟に参加する多くの国の通貨と入れ替わり始める。それが海峡を跨ぐのも時間の問題なのか?
トニー・ブレアはジャックの家に住みたがっている。彼は居心地の良い小国から出て、もっと大物になりたいわけだ。しかし、その得失を合計すればどうなるか?
ドロール委員会が通貨同盟の基礎を据えたのは1988年にさかのぼる。当時は、中央銀行がドイツのブンデスバンクに従って金利を決めるのが当然である、と思われていた。ドイツはヨーロッパにおいて、日本と並び、最も成功した国であり、経済問題の解決策をすべて知っているように見えた。
それはもう言えなくなったが、ブンデスバンクはなおECBの大枠である。誰もが、ドイツ抜きに通貨同盟はありえないと知っていたから、ドイツ人に単一通貨が彼らの愛するマルクを薄めたものではないと保証しなければならなかった。ECBの組織はブンデスバンクをカーボン・コピーでなぞり、インフレと闘う点により献身させた。
ドイツ政府は通貨政策の枠組みに満足したが、たとえばイタリアのような加盟国が財政的な拡大策に走る危険があった。そこでドイツのワイゲル蔵相は、ジャックの家を拡張し、いわゆる「安定と成長に関する合意」を結んだ。すべての国が中期的な均衡財政を約束し、GDPの3%を超える赤字を出した国には罰金を科した。それでは不況が深刻になる、という警告は無視された。
戦争がもうすぐ終われば、世界は不況に入る危険がある。ドイツの倒産率は過去1年で20%に近づき、過去11ヶ月間失業が増加して、この冬には400万人を超えると予測されている。ECBはユーロ圏を対象に通貨政策を行うため、ドイツの不況は深刻になっている。しかもEMUが財政的刺激策を制約している。
ABNアムロ銀行は、ドイツが次の日本になる、と思っている。実際、中期的に財政政策を縛られたドイツの見通しのほうが暗いだろう。誰にでも適当な政策は不可能なのだ。ジャックの建てた家では、セントラル・ヒーティングがある部屋では暑すぎるし、他の部屋では寒すぎる。ドイツは凍えている。インフレに固執するECBは、高金利を余りに長く維持しすぎる。
世界は変わった。もはやインフレが唯一の問題ではなく、中央銀行の金融引締めは経済成長への抑圧となってしまい、最後にはその信認を失う。インフレ目標は、デフレの場合にも、対称的に機能させるべきだ。財政政策は、景気循環を通じて赤字を抑制し、システムに一定の「需要を追加」できるほうが良い。
ゴードン・ブラウンは、イギリスの金融政策がECBよりも成功していると考えている。イギリスがG7の中で最も成長率が高いのは偶然ではない。イギリスが医療や教育に支出するためにも、今の通貨制度を維持することが望ましい。
それゆえ首相は、蔵相の示した5つの経済テストをもっと真剣に考えねばならない。そして、慌ててジャックの家に駆け込むべきではない。そのデフレ的な通貨政策と、反ケインズ主義は、右派の異常者たちに満ちている。
Financial Times, Wednesday Dec 12 2001
A world without easy money
Martin Wolf
不況の雲間から陽光が差し始めた。株式市場はそう言っている。楽観論が依拠するように、それが正しいのか? それとも、低金利の貨幣供給が洪水のように流れているだけか?
回復を信じる根拠は、不況原因を石油価格の上昇や金融引締め、アメリカのハイテク・バブル崩壊に求め、それが解消されたことに求められる。金融緩和が実施され、テロのショックも収まって、通常の景気回復が始まったのだ。
しかし、その逆が正しいようだ。今までの下降局面とは異なり、不況に対して需要管理政策は効果が無いだろう。悲観論の根拠は二つの要素からなる。HSBCのStephen Kingが上手くまとめたように、第一に、世界経済はアメリカの需要に大きく依存している。第二に、アメリカは今やポスト・バブル経済に入りつつある。そこでの不況はケインズ的でもなければ、マネタリスト的でもない。極端な楽観で資産価格が過大に評価され、不適当な投資も増加した。その結果、貯蓄が行われなくなった。一時的に過大評価された資産に対してではなく、所得に対して債務が増加していった。
20世紀最大規模のバブル崩壊が、1930年代のアメリカや1990年代の日本で典型的に起きた。Mr Kingは、巨大な経済がポスト・バブル調整を緩和することは特に難しい、と言う。なぜなら需要の源泉を他の世界に求めることができないからだ。
アメリカは「計画されなかった不況」に入る。その調整は加熱よりも失望に由来するだろう。しかも家計の調整は始まったばかりだ。それは貨幣の追加供給でも止められないものだ。戦後の景気回復は再現できないだろう。民間需要の減少で長期にわたって成長率が低下し、財政刺激策で補うが、残念ながら海外の需要は無い。それゆえ回復は損なわれ、日本の1990年代よりは力強いが、90年代の「ニュー・エコノミー」には全く及ばない。
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The Economist, December 1st 2001
The economy: Nobody looking at the road
大統領の指導力と超党派的な議会の支持が、テロリズムとの戦争が示す政治的な特徴である。同じことを国内の経済政策にも求めることはできないのか?
二つの重要法案が議会で議論されている。財政的刺激策と、「ファスト・トラック」すなわち通商協定に関する一括交渉権を政府に与える法案、である。しかしどちらも承認されていない。大統領と議会の無気力、互いの怨恨の犠牲となっている。これは、優れた法案が承認されない例である。両党からの熱意は次第にアメリカ国旗を借りた党派間の伝統的予算争奪戦に変わってしまった。
10月24日、下院で僅かに多数を制する共和党が、1000億ドルの景気刺激策を通過させた。それは主に減税であったが、緊急の刺激策とは関係ない、旧来の保守派が好むキャピタル・ゲイン減税や多くの法人税免除が含まれていた。上院では、民主党が失業保険や医療保険に絞った730億ドルの減税案を提出した。農民や国内の安全保障にも支出を求めた。しかし上院の共和党は法案を減税に限ろうとして、11月半ばに民主党提案を否決し、こうして両党の泥試合は始まった。
クリスマスを前にしてNBERが正式に不況を認めたことで、ブッシュ氏は漸く妥協に向けた圧力をかけた。議会が刺激策にくだらない言い争いをしている間に、41万5000人が失業した。アメリカ国民は法案成立を期待している。私も期待している、と。
しかし不幸なことに、大統領の指導力は余りに遅く、あまりに小さい。しかも政府の立場は余りに共和党寄りである。両党の姿勢も問題だ。民主党員の僅かしか、自由貿易を支持する投票には加わりそうに無い。他方、共和党員の支持も頼りにならない。共和党員は通商を支持すると言いながら、孤立主義的な傾向もあり、多くのビジネス利害と結び付いている。
大統領が全力で指示すれば、自由主義的な通商政策への支持が得られるだろう。そうしなければ、ファスト・トラックも承認されない。
(コメント)
泥沼に頭を突っ込んだ列車と自動車があります。”FAST TRACK” と書かれた列車には、泥だらけの象が乗っており、自分も相手に泥を投げ付けています。他方、ロバの乗った自動車が積んでいるのは “STIMULUS”の袋です。泥だらけのロバも泥の塊を手に、相手の象を指差して罵っています。ブッシュ氏は腰まで泥沼に浸かって、いつもの深刻そうな?しかめ面を、傍らの地球儀に向けています。喧騒に背を向けて、彼が指でなぞっているのはパキスタン? その向こうにあるアフガニスタンやビン・ラディンでしょうか。この記事に付いた、「アメリカ合衆国」という題の風刺漫画です。
The yen: Let it fall?
アメリカ政府が、ドルに対する円の減価を認める発言をした後、円安が進んだ。円安は常に日銀によって排除されてきた。速水総裁は、銀行システムの機能不全解消と企業の整理が行われない限り、通貨政策が経済を回復させることはできない、と主張してきた。
しかし、絶望的な時期には極端な手段も必要である。10月までの1年間に工業生産が11.9%も減少し、小売業も4.9%売上が減った。持続するデフレが日本の銀行システムに、償却額より大きな不良債権を発生させている。それは政府にとっても民間にとっても実質的な債務負担を増加している。日本の国債は格付けを下げた。
海外の経済学者が強く要求した結果、中途半端な量的緩和策を日銀も行うようになった。しかし、金利はこれ以上下がらず、銀行の融資は増えない。それでも、最後の拡大効果は為替レートを通じて実現されるはずだ。円安は輸出を増やし、輸入物価を引き上げてインフレをもたらす。
Princeton大学のSvenssonが主張したように、為替レートを減価させることは増価させるよりも確実である。日銀が為替市場に介入して大幅な円安を促すことで、消費者物価の目標を達成すべきだ、と主張した。円安は、大衆が実質的な円の増価を予想するほどに、大きくなければならない。為替レートが低下したまま維持されれば、今度は物価が上昇するしかないから、将来のインフレ期待が生まれ、実質金利も低下する。
それは成功するだろうか? もしインフレ期待が大きく変化しなければどうなるか? この政策が消費者物価に影響するには、日本がGDPの10%以下しか輸入していないことから、想像以上の円安を必要とする。ある予測では、インフレ率を1〜2%に高めるために、円は170-180円まで安くなる必要がある。
アメリカは我慢するだろう。しかし中国政府の反発は強い。貿易構造が違うから、中国政府の不満も誇張が含まれている。しかし日本の財務省が、アメリカ国債の購入による円安政策は行わない、と表明した。
Monetary policy: Europe’s money puzzle
ECBはM3を重視するが、それには歪みがある、と言った。圏外のユーロ建債券保有があるからだ。それを修正して0.6%引下げ、7.4%とした。5月の金利引下げの際には、この修正を口実に使ったのに、修正後の数値も十分に大きい。自分たちが主張する通貨政策の基本はどうなったのか?
M3の増加は株式から国債へと資金が移ったせいだ、と説明し、10月に株価が上昇すると、「金融市場に高度な不確実性がある」と説明した。ECBは、需要が減ったとか、石油価格が下がったとか、失業が増えたと言っては、金利を下げた。つまりECBも他の中央銀行と同じく、貨幣市場に従うわけだ。