今週の要約記事・コメント

12/10-12/15

IPEの果樹園 2001

エンロン社がたった数週間で何百億ドルもの資産を失い、破産申請しました。それはアルゼンチン政府の対外債務よりも巨額でしたが、LTCMのような救済融資は行われませんでした。その内容が「けむり」のように実体の無いデリバティブや帳簿に無い取引であったからではないか、と思います。エンロン社の倒産は、市場の規律や効率性という命題を手放しで賛美する者に、再考を促すことでしょう。

ワシントン・ポスト紙はその論説Enron's FallWashington Post, Tuesday, December 4, 2001; Page A24)で、企業と証券会社、会計事務所の関係に、利益相反問題があると指摘しました。たとえばエンロン社に企業買収を助言して巨額の利益を得てきたLehman Brothersは、エンロン社が破滅する中でも同社を「強い推奨株」に指名し続けました。エンロン社が破綻すれば株価下落で企業買収も無駄になるからです。また、エンロン社の会計事務所Arthur Andersenの昨年の利益は2500万ドルでしたが、エンロン社から会計報酬として2500万ドルを得ていました。そして帳簿に無いエンロン社の博打行為を、故意かどうかは分かりませんが、見逃したのです。

資本主義的な社会、特に株式市場による資金調達は、株式を選別し、売買する、信頼できる仲介組織を必要とします。また、企業の価値を判断するために、正しい情報を精査し、公平に提供する会計事務所や証券取引員会など、基礎的なインフラを必要とします。アメリカはその最先端にあり、他国を指導してきた国です。しかし同時に、証券取引の腐敗と混乱も頻繁に繰り返しています。

いつの時代でも、取引所は、地理的、社会的に隔離され、資格を審査され、特許状を得て、厳重に監視されていたはずです。それは社会的な富を、単なる紙の上で、あるいはディスプレイ上の信号を仮想的に売買するだけで、同時に私的な利益を増やすこともできる操作を含むからでしょう。たとえそれが社会的に有益であっても、詐欺に関与することへの個人の誘惑は余りに強く、そもそも相場の変動が彼らの犯罪を正当化しているのですから。同じ情報や技術を使って儲けることができるのに、一体、どこから犯罪だと線を引くのでしょうか?

前世代の労働者は、「労働の価値」を信じていました。今の富裕層や新興ビジネスは、「情報の価値」しか信じません。彼らの違いは、革新を社会的に実現する過程をどう理解するか、にあるのでしょう。労働は、革新を社会にもたらす過程に参加した人間すべてに対して、基本的に、その時間に従って報酬を測ります。しかし情報は、革新をもたらす知識の所有者と、それが成功することに賭けた投資家にだけ、株式保有に従って報酬を測ります。

それはA.ションフィールドもかつて述べたように、史上最もダイナミックな経済制度の真髄であり、彼の考える混合経済を動かすエンジンでした。しかし、金融市場とコンピューターの結合は、何かを根本的に変えたような気がします。そして香港が中国の資本主義的開発に乗り出し、呑みこまれることにも不安を感じます。

テロとの戦いだけでなく、資本市場の熱狂と崩壊を制御することも、政府や公的機関、中央銀行家たちの次の目標であるとしたら、社会主義の理想がより多くの人に再考されると思います。完璧な制度など無く、人間の本質も変わらない以上、私たちは常に良心に従うほか無いからです。

Washington Post, Tuesday, November 27, 2001; Page A13

On to Phase II

By Robert Kagan

ようこそ、対テロリズム、戦争第二局面へ。ブッシュ大統領は、昨日、イラクに対する強硬姿勢を示し、政府の関心がイラクに移ったことを隠す必要はなくなった。今や、標的はサダム・フセインである。彼はすでに武器を隠し始めたようだ。

サダムはアル・カーイダに炭疽菌を提供したかもしれない。誰か他のテロリストに核兵器を渡すこともできる。それゆえ、サダムとその体制はアメリカにとって脅威であり、受け入れられない。従って、アメリカは先手を打つ権利を持っている。アメリカは「テロリストが再び攻撃してくるのを」待つ必要はない。

9月11日のもたらした論理の変化により、正気のサダムも隠れてテロリストたちに武器や製造方法、原料を提供できる。それを止めさせるには、軍備管理では効果が無いことがわかった。単にサダムを封じ込めるだけではアメリカの安全は確保できない。彼を追放する必要がある。

問題は、追放するかどうかではなく、どうやってするか、である。パウウェルの「洗練された制裁」は、すでに選択肢としての価値を失いつつある。国際査察団を送り込み、同時にイラクを封じ込める、と言うが、国連の安全保障理事会にできることは限られている。フランスとロシアの政府、そしてイギリスのブレアまでも、アメリカのイラク攻撃に反対している。パウウェルは彼らを説得できるのか?


Los Angeles Times, November 29, 2001

Using Our Fears to Justify a Power Grab

By JACK M. BALKIN

危機は、非常事態を意味するとともに、ある誘惑を作り出す。

政府は国家の危機を自分たちの権力強化に利用する機会にできる。彼らは腐敗しているとか、金銭欲に支配されているのではないが、自分たちの高潔さを確信しているがゆえに、その行動を説明しなくなる。人々が恐怖に染まったとき、全体主義の衝動は抑制されず、人々もそれを受け入れやすい。結局、国家が危険に面しているときに、誰も愛国的でない(非国民だ)と思われたくないのだ。政府はチェックされないし、一方的で恣意的な行動への誘惑が逆らえないほど強まる。

日増しに、全体主義的な色彩がブッシュ政権を侵している。少しずつであるが、民主的政府が暴走するのを防ぐ公平の手続きは、その基本的要素を失いつつある。その行動について誰も釈明せず、権力を握る者は常にそうして当然なのだという感覚が彼らにはある。逆に、彼らは批判意見を事態の重要さが分かっていないと叱責し、テロリズムに甘いと論難する。

全体主義の衝動は、常にそうであるが、パラノイアによって正当化される。アメリカ人が恐怖に陥るほど、国民は政府にフリー・ハンドを与える。新たなテロ攻撃が準備されていると警告する司法長官が、誰が、なぜテロ攻撃するのかについて説明を拒むのは、決して偶然ではない。秘密はパラノイアを確かにし、それはより大きな秘密とより大きな権力をもたらす。より大きな権威を求める政府は秘密の作業を好む。そうすれば彼らは責任をとらずに済み、情報が無いから彼らの違法行為を追及すらできない。

こうして、現政権が秘密を崇拝すること、しかも海外においてだけで無く、国内においても秘密を尊ぶことは十分に予測できる。現在行われている戦いは、イスラムに対してではなく、ますます非市民(non-citizens非国民)に対する戦争となってきた。

政府は独裁者になりたいわけではなく、彼らの正義を邪推されたくないだけである。彼らは反民主主義的ではなく、一方的に行動したいのである。彼らは単に秘密裏に行動し、彼らが必要と思う十分な権威を得て、国民を守りたいのである。


A Big Fall Evoking Nasty Old Memories of a Run on a Bank

By FLOYD NORRIS

エンロン社の破産は、ほとんどのアメリカ人が経験したことの無い、ある何か、を意味していた。すなわち、預金保険制度が誕生する前の銀行取り付け、である。

エンロン社は、エネルギーの売買という、新しい、ほとんど規制されない金融ビジネスを創りだし、大成功しているように見えた。その取引は信用で行われ、エネルギーの供給者と利用者とが契約書にサインすることで行われた。エンロン社はこの契約実行を数ヶ月から数年後に請け負っていた。

エンロン社は、預金を引き受けて後で支払うことを約束する銀行に似た何物かになった。しかし、銀行と違って、連邦預金保険公社が無かった。それは銀行に問題があるという噂が広まったときに、預金者に支払いを保証するものであった。それがエンロン社のアキレス腱となった。エンロン社の破産は、すべての規制されない金融市場における健全性を疑わしいものにした。

預金保険精度が無い時代、銀行は取り付けに備えて現金を保有するしかなかった。約1世紀前に、J. P. Morganは他の大銀行と組んで、the Trust Company of Americaに巨額の資金提供を行い、倒産を防いだ。こうして1907年のパニックを終わらせた。今回も、エンロン社にJ. P. Morgan、Chase、Citigroupが主要な融資を行っていたが、彼らはエンロン社を救済できなかった。むしろエンロン社は市場で資金を集め、大銀行は資金を提供すると言われながら、そうしなかった。Dynegyが15億ドルでエンロン社を買収する提案も失敗した。1873年にウォルター・バジョットは述べた。「どんな銀行も、その資産の価値を説明しろと求められれば、どれほど上手く説明しても、実際には、資産が流出してしまうものだ」と。

エンロン社が育てた市場は、エンロン社が倒産しても持続するだろう。参加者が今でも規制を拒み続けていることは興味深い。規制されない市場は、特に新しい市場では、エンロン社のように、優れた知識を持つものに非常に有利である。しかし、価格が誰にでも利用できるようになれば、こうした知識の価値が急落する。規制はより情報公開を高め、決済制度に似た構造を持ち込む。

エンロン社の崩壊は、そのビジネス・モデルに対する疑いを強める。こうした企業は流動性管理へのより厳密な検査を(民間の取引相手から)受けるだろう。また、ウォーターゲート事件でのニクソンと同じように、エンロン社の重役やそれの関わったアーサー・アンダーセン会計事務所が、何を、いつ知ったのか、という問題を提起する。また特に銀行や投資銀行がオフ・バランス・シートで行っていた取引にも検査が必要だ。

エンロン社への資金供与は、オフ・バランス・シートの子会社向け取引で行われた。僅か6週間前には、エンロン社の強気の収益見通しが発表され、FitchやStandard & Poor'sの格付けはトリプルBプラスを確認しており、Moody’sだけが見直しを示唆していた。格付け会社はどこも、その当時、金融取引幹部に関わる12億ドルの資本削減というエンロン社の情報開示に、強い関心を示さなかった。しかし、まさにこの事件が不十分な釈明しか行えないエンロン社に不信を募らせたのだ。

Dynegyによる買収に銀行は協力せず、格付け会社もエンロン社をジャンク水準に格下げして、事実上、その倒産を時間の問題にした。数週間前には何の問題も無いと思われていたのに。


Enron's 'Con'

By Richard Cohen

いつものように私は窓からの隙間風で目がさめた。誰かが部屋に入ってきたのだ。それは私の祖父だった。社会主義的な好みの、すでに死に絶えた移民である。私は彼が「働く者」についての長ったらしい説教をするのにまたつき合わされるのか、と思った。彼は新聞を持っていた。

「このエンロンという会社だ。」彼は挨拶も無しにこう言った。「お前は知ってるのか?」

「もちろんですよ。」と私は言った。「ヒューストンに本拠があるコングロマリットで、破綻したんです。フォーチュン誌の企業番付で第7位、500億ドルの資産がありました。電力、天然ガス、水でさえ、まあ何でも売ってましたね。」

「煙を売ってたんだよ。」と彼は叫んだ。「ブルックリン・ブリッジを何度も転売したのだ。通りにいるダフ屋と同じで、ブローカーや銀行を使っていたというだけだ。詐欺師どもだ。」

「いや、そんなことは無いよ、お爺さん。」と、私は諦めた感じで話した。「彼らはこの国でもっとも高い地位にある人たちだ。会長のKenneth Layは大統領の友人だよ。彼は革新を進めた人物で、本も書いているそうだ。ジャック・ウェルチやリー・アイアコッカに匹敵する重要な本だよ。不幸なことに、エンロンは利益を誤認して、まあ、・・・」

「誤認だと? それがお前たち大学出の物言いか? 奴らは嘘をついたんだ。」

「違うよ、あなたには分かっていないだけだ。彼らはパートナーシップを設立してデリバティブを売ったんだ。」

「奴らはうそつきだ。奴らは実際より5億ドルも多く儲けたと言った。それは嘘だった。俺も昔は仕事をしてたさ。奴らは1億4000万ドル儲けたと言い、またある年は2億5000万ドル儲けた、他の年は1億4000万ドル儲けたと言った。誤認だらけだ。これが奴らの売ってたモノだ。つまり、誤認、だ。」

「俺は労働者たちが心配なんだ。彼らは自分の金を会社の401Kに入れていた。会社が薦めたのだ。90ドルもした株価が下がりだすと、会社は退職を止めさせて、労働者がそれを売れなくした。今ではクズ同然だ。この会社は自分の労働者を食い殺したんだ。」

「そうだね。」私は同意した。「彼らの多くが貯蓄を失った。彼らは破産だ。」

「だが、このレイという奴は2億ドル以上の報酬を得ていた。他にもこの会社にはそんな奴らがいる。労働者がスープの配給に並んでいるのに、金持ちがこんな大儲けをするのが正しいなどと、お前は言うのか。」

「それは階級闘争の話ですか?」

「俺が話しているのは、公平さの問題だ。金持ちが盗んだものを返すように求めるのを階級闘争だというのか? それを正義と呼んで何が悪い?」

「それが市場システムなんですよ。常にリスクはあるんです。」

「だがボスたちには無い。奴らはオプションを持ち、ゴールデン・パラシュートを用意している。労働者のパラシュートは開かない。」

「市場が自ら是正するでしょう。」と私は指摘した。

「お前の大統領は何と言ったか? このジョージ・ブッシュという奴は、何も言わない。かわいそうな労働者に一言も無いのだ。そして財務長官のオニールとやらはどうだ? 何も言わない。奴らには義憤も怒りも無い。ルーズベルトなら何か言ったはずだ。トルーマンなら血まみれの人殺しと叫ぶだろう。テディー・ルーズベルトでさえ、言ったと思うが私は会ったことがあるぞ、奴らを労働者たちからの盗みで叩き潰しただろう。だがブッシュは?」

「エンロン社は破産したから、破産法で処理される。債権者は面倒見てもらえるさ。」

「そんなもの労働者には何の足しになるか。チェイス銀行やバークレー銀行はいくらか取り返すだろう。そして弁護士どもが追いはぎのように資産をむしり取る。だが労働者たちは、私は言っておくが、何も得られないだろうよ。」

「これ以上は怒らない。私はお前に何か書いて欲しいのだ。流行のコラムニストなんだろ。労働者たちのために、何か言ってやってくれ。」

「わかったよ。専門家に話しておくよ。」

「専門家なんて要らない。お前自身の常識が必要なだけだ。自分の心に聞いてみろ。奴らを軍事法廷にかければよい。」

「それは言い過ぎだよ。」

「かもしれん。もう行かなきゃならん。母さんが7月で90歳になることを忘れるなよ。」

「心配しないで・・・」と言いかけたが、彼はもう居なかった。彼は亡くなっており、私は夢を見ていたのだ。

私はもう一度眠ろうとしたが、眠れなかった。


Getting at the Roots of Arab Poverty

By ALAN SCHWARTZ

テロリストの攻撃は、アラブやイスラム教の諸国で多くの若者が職を持てず、教育の成果を生かせず、非常に貧しいことを教えた。多くのイスラム教徒たちが、その貧困を理由にアメリカを責める。しかし、実際には、彼らが貧しいのはわれわれが豊かなせいではない。彼らの政府の政策が劣っているのである。

     経済成長にとって重要なのは、日本やスイス、オランダ、イスラエルが示したように、資源ではない。

     その国が貧しい最も重要な理由は、独占である。サブ・サハラ・アフリカで追加の資源が無くても、穀物や織物の売買独占を排除するだけで成長率が3倍になると推定される。

     独占によって豊かなエリートたちは、新しい技術や新しい産業を排除し、革新を阻む政治同盟を形成している。

     長期投資を可能にする、信頼できる法体系が存在しない。

     関税やその他の政策で、貿易が妨げられている。

     人的資本が軽視されている。特に人口の半分を占める女性は、全く教育を受けることができない。

イスラム教諸国で貧困を解決するために、アメリカにできることはある。アメリカは彼らにより自由な貿易を薦めることができる。またIMFや世界銀行によって影響力を行使できる。経済成長と政治制度との関係を説得し、各地の民主化運動を支援することができる。そして、民主主義を育てるだけでなく、自由に経済政策を批判する国では間違った経済政策を取ることもできなくなる。

イスラム教諸国の経済成長が促せれば、潜在的なテロリストの供給を抑えることができる。


Argentines, Fearing a Freeze, Withdraw Savings From Banks

By JENNIFER L. RICH

アルゼンチン国民は銀行から預金を引き出すために殺到しつつある。金融システムと固定制を守るために、政府が預金凍結するのを恐れているからだ。

カヴァロはテレビに出て、預金を保証し、国民が銀行に預金を預けておくように、と説得した。そのために、彼はデビット・カードによる購入に対しては付加価値税を5%引き下げる、と発表した。

アルゼンチンは既存債務を低利の長期債務に組替えた。それでも不況が続けば、ウォール街や国民は切下げ以外に選択肢はないと心配する。先物契約では1ドルが1.37ペソで交換されており、とレーダーたちが37%の切り下げを予想していることを示す。

アルゼンチンの銀行預金は今年になってから35%減少した。最近の引き出しは、法律が禁じているにもかかわらず、政府が預金を凍結するのではないか、という噂による。1989年にメネム政権が行った預金凍結はアルゼンチンにとって特に不安定な経験となっている。

今週、アルゼンチン政府はIMFの調査団に12億4000万ドル債務を早期に支払ってくれるよう説得した。しかし、その支払いは行われないようで、12月のアルゼンチン政府の利払いには、さらに外貨準備が減少するだろう。それでも政府は、国内銀行・年金基金との400億ドルの債務交換に成功し、残っていた三つの州政府とも合意した。カヴァロは、「改善された財政制度の健全さについて、預金者は安心するだろう」と述べた。


Argentina's agonising options

Martin Wolf

アルゼンチンのゲームは終わりだ。政府は事実上のデフォルトであり、銀行の預金引き出しを制限し、海外のドル取引も制限した。次に何が起こるか?

アルゼンチンの通貨は信認を得るためにドルとの1対1での交換制度を採用した。貨幣濫用の長い歴史を終わらせて、この通貨制度は完璧であると思われた。だが、そうではなかった。

カレンシー・ボード信奉者のSteve Hankeによれば、11月の外貨準備は188億ドルであり、これはペソ紙幣と中央銀行預金の144億ドル(1ペソ=1ドルで)に比べて、十分である。原則としては、すべてドル化できるだろう。

問題は銀行システムである。長引く不況と政府の支払不能により、人々はペソ不安に陥った。国民は銀行預金が自宅のたんすやニュー・ヨークの銀行にあるドルよりも安全でない、と正しく結論したのだ。490億ドルのドル預金と210億ドルのペソ建預金を支払える準備も信用も政府は持っていない。

銀行預金の引き出しを制限したことは彼らの不安を実証し、この規制が短期で解除される見込みは無い。カヴァロは、IMFのMichael Mussaや米州開発銀行Ricardo Hausmannが不注意な発言をしたことを責めるが、彼らは単に市場のメッセージを伝えたに過ぎない。

何をなすべきか? 国際社会が莫大な資金を提供しない限り、すべての選択肢は苦しいものである。政府も銀行も、ペソについても市場の信認は得られない。3ヶ月のドル建融資との金利差は60%に及び、翌日物では250%である。

デフォルトと債務の組替えは非常に混乱するだろう。今の為替制度も維持できない。重要な選択肢は、@現在のレートでドル化する、A切り下げと減価したレートでドル化する、Bペソを変動レート制にする、である。数ヶ月以内に決断を迫られるが、そのためには六つの質問に答える必要がある。

1.ドルは、長期的に見て、アルゼンチンにふさわしい通貨か? 景気循環は一致せず、アメリカ向け輸出はGDPの僅か2.5%でしかない。名目賃金の調整には時間がかかる。ドルは、この国が自国通貨を管理できないという条件で、より望ましいものである。

2.ドル化は市場で信頼されるのか? それは通貨リスクを解消するが、アルゼンチンの最悪の格付けを改善するわけではない。

3.この国は大幅な減価を必要としていないか? 対外債務の6分の1、GDPの10分の1という輸出額は、国内需要の不況による落ち込みを補って生産を維持するのに不十分である。競争力の改善が必要だ。

4.国内物価の下落は必要な減価と同じ効果を実現するか? 20%の減価が必要という見方もあるが、現在のデフレ率でも、それにはまだ10年かかる。

5.切り下げが大量の倒産を招くというが、ドル化に比べてどの程度多いのか? Nouriel Roubiniが言うように、その見方は自明ではない。もし実質的な減価が起きるなら、ドル化によっても債務負担は増加する。

6.深刻な不況とデフレが続く中で、切り下げは経済のドル建コストを引き下げるのか? それができないとしたら、切り下げに意味は無い。


DELTA'S DAWNShining pearl of Hongkong

RAYMOND WAN

10年前まで、中国南部の珠江デルタ(Pearl River Delta: PRD)は何も無い土地であった。しかし今や、そこは香港の開発業者と経済計画当局が未来図を描く繁栄の中心土地である。たった10年で、PRDは単なる経済的なハブだけでなく、香港住民の職場と店、生活やビジネスの最重要目標になった。

疑いなく、その生活費の安さは移住を促しているが、1997年の香港返還、アジア地域の停滞、中国のWTO加盟が、香港住民に中国という後背地の持つ潜在的機会を気付かせ、変化を加速した。香港経済は急激にPRDと統合し、メディアの注目を集めている。

     香港産業の90%がPRDに移転した。

     中文大学の卒業生の3分の1はPRDに就職し、香港企業や多国籍企業よりも多い。

     5万人以上の香港住民がPRDに家を建てた。

     PRDから3000人以上の子供が香港の学校に通う。

     境界を越える日々の交通量が3万台を超えた。

     境界を越える人の数が昨年1億人を越えた。

中国の発展で香港が滅亡すると騒がれたのも無理は無い。かつては香港の社会・経済開発計画に中国の発展は組み込まれなかった。それがイギリスによる統治の下では当然だった。しかし、今ではPRDの経済発展に向けた包括的な開発政策を香港が進める。

PRDは香港の消費市場としても重要性を増しつつある。より多くの零細企業や、香港型のレストラン、ブティックなどがPRDに店を出している。しかし、世界市場に向けたパソコンの世界最大の生産基地であるように、PRDは玩具や時計から、コンピューター用の磁気読み取りヘッドなど先端部品でも、香港の電機産業が優位を維持するための重要な条件となっている。

その優位は、単に安い労働コストだけでなく、ここで経済がどのように動いているかに依存している。何より、注文から製品が届くまでの時間が短いことである。その理由は、1.多数の部品供給者が地域内に集積している。2.香港の航空貨物や、さまざまな物流機能が利用できる。3.域内で製造余力が常に多くあるために、在庫は少なくてよい。また、経済特区として地方政府の迅速な対応が可能である。

香港政庁には、さらに積極的な統合化政策が必要であろう。


The Ugly Truth About South Korea's 1998 Crisis

By David DeRosa

韓国大統領府は、1997-98年の経済危機に際して、自国の経済エリートたちが政府をだまして55億ドルも会社の金を海外に隠していた、と断罪した。妻や友人の名義で金を海外に持ち出す一方で、政府には会社を倒産から救うための緊急融資を求めていたのだ。

危機において、151兆ウォン(1190億ドル)が政府によって破綻した銀行や金融機関に支出された。IMFは570億ドルを韓国政府に融資して、金融破たんを防いだ。それゆえ、(韓国政府ではなく)韓国の納税者とIMFは恥をかかされたわけだ。

財務大臣のJin Nyumは国民に謝罪し、政府がこれ以上銀行や他の産業に税金を支出しないと述べた。ところが、この報告が公表された同じ週に、IMFの副専務理事Anne Kruegerが金融界に爆弾を投げ込んだ。Kruegerは、国家の破産処理に向けてIMFが組織することを求めたのだ。彼女はアメリカ破産法をモデルとし、危機に措いては資本流出規制をも望んでいる。

Kruegerはまた、IMFによる交渉に参加せず自分で法廷に訴えるような債権者を「ごろつき債権者」と呼んだ。しかし、韓国の経験は、Kruegerの思惑が実行不可能なことを示している。韓国の資本規制は、個人が何十億ドルも資金を海外に移すことを阻止できなかったのだ。それはすでにロシア向けのIMF融資50億ドルがどこかに消えたことでも示されていた。問題は、IMFが金融の背任行為に融資して良いのか、ということだ。

韓国の事件は、ロシアと同様、IMFに金融危機を扱う能力は無いことを示した。


New logic for chipmakers

Peter Martin

近い将来、世界には三つの巨大企業しか残らないかもしれない。韓国のHynixはアメリカのMicron Technologyに買収され、ドイツのInfineonは日本の東芝と交渉している。市場の圧力が競争を制限してしまうのは経済史上に見られることだ。

最適の比較は鉄鋼業に見い出せる。半導体チップも鉄鋼も、極端な資本集約性と規模の経済性がその特徴である。どちらも発達した経済に重要な地位を得ている。半導体工場は、複合型鉄鋼プラントと同様に、国家の威信を担っている。どちらも貿易摩擦の主戦場である。

巨額の投資によるサンク・コスト(埋没費用)が大きいために、不況になると生産者は極端な値引き競争に流れる強い傾向がある。半導体産業は、鉄鋼以上に、工場の操業を続けることで生産コストが下がる。また、新規工場の建設に必要な投資規模が巨大であるから、不況毎に敗者は退出する。さらに半導体の処理速度に関する「ムーアの法則」がさらに急速に価格を下げる。

もし半導体産業が、子供たちのやるような、巨大な椅子取りゲームであるなら、たった一つの企業だけが半導体を生産できる。情報経済のすべての基礎が一つの企業に独占されるのは、ばかばかしい話だが、本当なら脅威である。こうしたことは鉄鋼業では起きなかった。累積的に巨大な少数の工場が残るサイクルは、基本技術の変化で終わった。巨大複合鉄鋼所が、新しいライヴァル、ミニミルに抑えられたのだ。規模の経済性は、ミニミルの弾力性と低資本コストに相殺された。

半導体産業は、一見、ミニミルを真似ることができない。半導体技術は変わらないし、資本集約性や規模の経済性も変わらない。しかし、ビジネス・モデルの革新が起きている。一つは半導体ファウンドリー(鋳造所)、半導体チップ製造の第三者的な露天商ができたことである。ファウンドリーは、台湾のTSMCのように、自社のチップを設計せず、独立の設計会社の製造を請け負う。こうして従来のチップの設計と製造をセットにしたビジネス・モデルを打ち破った。

インテルはこの統合型で市場を支配しているが、他の多くの半導体企業はファウンドリー・モデルに移行するだろう。設計企業の競争で半導体のデザインはさらに拡大し、ファウンドリーの共同利用でコスト削減の学習効果が維持できる。こうして破壊的な値下げ競争も抑制できるのである。

もう一つの新しいビジネス・モデルは、パソコンの売上が減少していることで分かるように、製造時間や新製品への現在の執着は重要でなくなるだろう。それは新しい工場や生産過程への競争を減速させる。

The Economist, November 24th 2001


このhawalaシステムでは、離れた2地点間で物理的な貨幣の移動は行われない。電話やファックスだけが遣り取りされる。法的な契約書もないし、依頼者は番号や預かり証をもらう訳でもない。時間がたてば、反対方向の取引があるから、物理的な移転は最小化される。不均衡が続けば、現金や宝石が輸送され、貿易額が調整され、あるいは伝統的な銀行が利用される。ディーラーたちには信頼が唯一の資本である。世界に及ぶhawalaシステムの利用者は、こうして安価で、しかも迅速に、官僚に煩わされること無く資金を移転できる。

政府から見れば、公式の銀行システムの外にあるhawalaは脅威である。規制を免れ、課税を免れる手段となるからだ。しかし、外国で働く労働者たちは家族への送金をhawalaに頼んでいる。公式の銀行は、彼らにとって信用できないし、利用できない。Hawalaは、より良い為替レートで、家族の村まで届けてくれて、送金手数料も1-2%でしかない。他方、公式な銀行は約15%も手数料を取る。

テロリストによる利用を責めて、hawalaを廃止する必要は無い。そんなことはできもしないだろう。なぜなら誰でも、少しの資金と信頼できる仲間で、いつでもhawalaを開始できるから。インフォーマルな金融への強い需要がある以上、これを強制的に止めさせるのは得策ではない。通貨管理や高い輸入関税が、hawalaを増やす原因である。1992年にフィリピンが為替管理を廃止した際、公式の移民送金が4倍に増えた。

長期的に、hawalaシステムの利用を減らす最善の策とは、移民たちが公式の銀行を信頼するようになることだ。銀行が小額の海外送金に対する手数料を引き下げることも、大いに有益だろう。