今週の要約記事・コメント

11/26-12/1

IPEの果樹園 2001

デフレと中国への工場移転が、世界から取り残されたような日本人の憂鬱を深めます。「楽観」すべき理由など、どこにも見当たりません。他方、日本経済を「悲観」する理由はあります。@金融システム不安と信用収縮、A安価な輸入品の流入、B債務デフレ、C需要不足による不況の深刻化、などが悪循環を成していることです。

しかし、経済変化はいつでも累積的であり、循環しています。「悲観」を払拭したいのなら、なぜ不況の悪循環を自ら断ち切らないのか? と言うべきかもしれません。そして、その理由もあります。@財政破綻、A金融政策の限界、B過剰設備と人員の削減、そして、C中国・・・!? どこでも、社会を変える投資が回復の鍵を握っているはずです。しかし日本の投資は中国<パラノイア>に冒され、萎縮しています。

Richard Katz(“Curing Japan” FT, Thursday Nov 22 2001)が言うように、通貨政策だけでバブル崩壊の後始末をしようとした自民党の政治家たちは間違っていました。日本は多くの成長を国内で犠牲にしながら、ゼロ金利や円安による刺激が効果を示すと期待し続けたのです。Katzの提案は、@消費と住宅建設に減税せよ、A債務超過企業を清算処理せよ、B日銀がこの二つの政策に資金を与えよ、です。私もこのシンプルな原理を支持します。

他方、Samuel Brittan(FT, Friday Nov 23 2001) もRobert J. Samuelson も、デフレは起きていないし克服できる、と考えています。しかしSamuelson は、世界中央銀行が無いために、もしデフレが世界的な規模で起きたら通貨政策では防げないだろう、と心配します(“The Specter Of Deflation” Washington Post, Wednesday, November 21, 2001)。

また、かつてMichael Beenstockは、低開発地域の工業化が急激に加速した世界経済の<移行期>には、工業地域の物価が下落する、と書きました。一定の「脱工業化」と資本集約度の低下により、労働者への分配率が改善する一方で、部門間の資源移転が遅れる国ほど停滞に苦しむ。同時に、工業力の移転を実現する国際的な融資や投資が増え、ブームの後には累積債務問題や銀行危機が起きた、と。

実際、イギリスもアメリカも、製造業を世界に移転し続け、自国と外国の構造転換に融資し(移民を受け入れ)、自国の繁栄を維持しました。日本も、同様に、朝鮮半島の統一や中国の改革に融資し、アジア経済の統合と安全保障に積極的な役割を果たせるでしょうか?

<グローバリゼーションの死>として多くの人が認める1931年のイギリス金本位制離脱はなぜ起きたのでしょうか? イギリスが旧平価による再建金本位制をわずか6年しか維持できなかったのは、通貨の過大評価とデフレが原因であった、と理解されていました。しかし、国際短期資本移動がパニックに襲われる中で、シティとイングランド銀行が金融政策を縛られたことの方が重要であったようです。

多くの日本人には、政府や銀行を信用する気持ちがまだあります。それは、この何十年間か、深刻な戦争もインフレも起きなかったからでしょう。たとえ日本がそれを保障したのではないとしても。しかし、これからは違うでしょう。

New York Times, November 14, 2001

LIBERTIESGo Fly a Kite, Taliban

アフガニスタンにおけるわれわれの新しい友人たちはカブールを制圧した。彼らは音楽を流し、凧を飛ばした。女性のニュース・キャスターにラジオでしゃべらせた。そして単なる楽しみとして、人を殺した。

われわれは北部同盟を空爆で支援した。彼らは野蛮な暴力でわれわれを歓迎した。

昨日のThe Timesに載った写真はわれわれを震え上がらせた。カブールに向かう北部同盟の兵士たちは、カメラも気にせず、負傷したタリバン兵を排水溝から引きずり出した。命乞いするその兵士の眼は恐怖に満ちていたが、彼らはその男を立たせて、胸に銃弾を打ち込み、ライフルの柄や手榴弾ランチャー(発射装置)で打ちのめした。同盟の兵士たちの中には、戦利品として死体を引きずってくる者も居た。100人の若いタリバン兵がマザリ・シャリフで殺害され、学校に隠されていた、と国連は述べた。カブールでは民族間の報復も起きているという。

ブッシュ大統領は、昨日、北部同盟軍の人権無視に警告しつつも、支援を続けると述べた。同盟軍兵士たちがタリバン兵をリンチにし、石を投げつけ、彼らの死体の上で踊っている、という報告がさらに増えている。ここは太古からの部族間殺戮が繰り返されている土地である。信じられないほど不動産の持ち手が変わってきた土地でもある。

もちろん、女性たちがヴェールを捨て、男たちは髭をそり、残酷なタリバン兵が敗走したことは喜ばしい。しかし、獰猛な反乱軍のカブール侵攻は、アメリカが止めようとしたが、止められなかった。それは、陰鬱な連中との新しい駆け引きが始まったことを意味する。

われわれはビン・ラディンを捕らえ、テロ集団を制圧しなければならない。だからブッシュ政権は多くの妥協をして、見向きもしなかった連中に褒美のニンジンを配る。Wesley Clark退役将軍はあからさまに述べた。「戦争とは相対的に少ない邪悪を選ぶことだ。われわれはこのような事態すべてに法的な責任を負わないし、多分、それを物理的に止めさせることもできない。」

世界は大渦巻きの中にあり、物事がめまぐるしく変化し続けている。旧い前提は逆転し、イランも「大サタン」アメリカを歓迎し、アメリカに叱責されていたパキスタンのムシャラフ将軍がパウエル国務長官と織物輸出への輸入割当を引き上げる話し合いに臨む。パウエル氏は、かつてブッシュ政権が無視していたパレスチナ和平と、パレスチナ経済の急回復や生活改善にも邁進する。

昨日は奇妙な光景を見た。オサマ・ビン・ラディンのビデオがTVで放映されることに圧力をかけたライス女史の報道規制問題について、プーチン氏がブッシュ氏をかばった! また、ロシアとの核兵器削減合意を称え、レーガン氏の格言を破って、「信頼」という言葉を三度も使ったブッシュ氏に対して、プーチン氏は国際関係の現実を「信頼とはかけ離れた世界だ」と述べた。


Washington Post, Wednesday, November 14, 2001; Page A33

All-Negative, All the Time

By Michael Kelly

「こんばんは。ようこそ'All Is Lost'へ。この番組は国営公共ラジオとBBCにより製作されています。今夜のテーマは、テロに対するアメリカの戦争、です。私は司会の<完璧に調整済みの理性の声Perfectly Modulated Voice of Reason>です。」

「ワシントンのスタジオにお集まりいただいた皆さんをご紹介しましょう。<サイゴン陥落のときにそこに居た伝説的報道人>さん(サイゴン氏)、<科学的に訓練された偏見のない科学者>さん(科学氏)、そして、<ニュー・ヨーク・タイムズ紙に雇われたくて仕方無い二流の地方独占新聞編集局長>さん(二流NYT氏)、です。そしてロンドンからは、われわれのヨーロッパ情勢アナリスト<アメリカ大嫌い・アメリカに速やかな破滅を祈る者>さん(大嫌い氏)が参加します。」

「最初は戦争のニュースです。今日、多くのアフガニスタン国民が、派手に飾ったビン・ラディンの生首を捧げて、ブッシュ大統領の来訪を歓迎しました。アフガニスタンの勝利でイスラム原理主義は後退し、中東世界の政治に大変化を引き起こしつつあります。」

「イランでもアメリカ風の髪形が流行し、イラクではサダム・フセイン大統領が夏の宮殿に押し寄せた学生たちに閉じ込められて5日目となります。」

「サウジ・アラビアとクウェートの両政府は、その腐敗した政治体制をアメリカの支援に頼って維持することには限界があると認め、自分たちの軍隊を育てる約束をしました。また、イスラエルでは新たに任命されたヤセル・アラファト観光大臣が、新しい政策<どのような犠牲を払っても平和を>の説明にあたりました。彼は、もちろんエルサレムがイスラエル入植地の首都であることは、バカでも分かることだ、と述べました。」

「皆さん。さて問題は、こんなことが続くのか? です。」


New York Times, November 16, 2001

Falling Oil Prices Set to Bolster American Economy

By DAVID BARBOZA

OPECの困難は、アメリカのビジネスと消費者にとっては福音であるだろう。

DRI/WEFA のエコノミストCynthia Latta は、「アメリカ経済は安価な石油と安価な資本があれば上手く機能する。今や、その両方が安くなっている。だから、われわれは来年の景気回復を予想している。」と述べた。

ある経済モデルによれば、石油が1ドル安くなる毎に、アメリカの消費者は50億ドルの追加支出能力を得る。昨年のバレル当たり約30ドルから来年は約20ドルに維持されるとすれば、500億ドルの消費が追加できる計算だ。

同様に、ビジネスでも多くの節約をもたらす。自動車と軽トラックが、アメリカで販売される石油の半分近くを消費している。だから節約の多くも消費者のポケットに入る。休暇のショッピング・シーズンを目前にして、まさにぴったりの資金注入だ。航空産業や輸送業でも、燃料費の節約効果は重要だ。

ただし、長期的にはマイナスの効果も指摘されている。石油輸出国の購買力は失われ、アメリカからの輸出が減るだろう。石油会社の経営も悪化するかもしれない。しかし、今までの高価格が一時的な儲けに過ぎなかったのだから、問題は無い。


Far Eastern Economic Review, November 22, 2001

Riding the Tiger of Trade

By David Murphy/BEIJING

13億人の潜在的な巨大市場が世界に加わった。どうすれば中国と世界は新しいビジネスをつかめるのか?

ブッシュ大統領と江沢民主席が上海で先月会談した際、アフガニスタンやWTO加盟が話し合われた。そしてブッシュ氏は、また、アメリカが中国に輸出している大豆の問題も取り上げた。

6月に入って、アメリカからの大豆輸出が中国の港で遅れ始めた。それは新しい法律により、中国が遺伝子組み替え食品の検査や農産物貨物の燻蒸消毒を始めたからである。書類審査にも時間がかかった。その結果、輸送は遅れ、コストがかさむ。中国の大豆よりトン当たり8ドル安い部分を削り取られた。この法律は中国の国内生産者が安価な輸入大豆を締め出すために強く求めたものであろう。アメリカの業者は中国向け輸出を止めた。

この問題は完全に解決されておらず、12月11日以降の正式加盟後も、こうした問題は続くだろう。中国には他国のような裁判所や独立の官庁が無いために、大豆輸出業者は大統領に中国指導者への陳情を請け負ってもらうしかなかったのだ。

中国との貿易問題でWTOが万能薬にはならない。曖昧な法体系は政治家や地元の利益に従い、WTOの「ルールによるシステム」を円滑に機能させない。農業分野や、テレコムや金融サービスのような新しい分野で、困難が予想される。

多くの部門で国内産業の反発が起きている。国営企業はWTO加盟の犠牲となるのを回避するために、あらゆる手段を使うだろう。各地の強力な官僚組織は彼らのために働く。こうした地方の抵抗を抑え、政府の指導力で世界貿易に政治的な優先権を与えることができるかどうか、真に試されるときが来る。

改革・開放の20年を経ても、共産党はまだ社会と経済にその影響力を浸透させている。国営企業や銀行、その他の重要な職場で、トップを指名するのは共産党である。政府の建設事業や調達について、輸入許可書や日常的な経済活動の承認についても、党の職員が権限を握っている。

しかし、脅威は外からだけ来るのではない。外国企業への市場開放は、国内の民間企業との競争も強める。多くの有能な民間企業が、ずさんな経営で債務を抱えた国営企業を市場から追い出すだろう。中国はWTOのルールに従えないだろう、と言う者もいる。しかし、重要なことは、中国の指導部がWTO加盟を改革の促進だけでなく、彼らの権力維持にとって必要と見なしていることだ。

市場アクセスを外国の審査に委ねることは、それだけ明確に、中国政府が地方政府を統括して、統一的な貿易体制を作ることを意味する。政府はWTO加盟の重要さを国内で宣伝し、そのために多くの法律を破棄し、新たに定めた。

15年に及ぶ交渉は政府レベルの練達の専官が成し遂げた。しかし、今後の問題は中国全土の港や町で起こるだろう。1996年に中国はアメリカと知的所有権に関する協定を結んだが、今も市場には偽物があふれ、海賊商品の製作工場が多くの地方経済を潤している。また自動車産業の幹部は、新車輸入の規制が新しく導入された、と言う。「WTOがなんと言おうと、多くの抜け道があるのだ。」中国の部品供給業者は品質改善や価格引下げに応じようとしない。

ビジネス界は中国との関係が我慢と育成に値することを学んでいる。しかし、中国ではまだ当分、ルールよりも個人的、公的な付き合いのほうが重要であろう。


Financial Times, Monday Nov 19 2001

Editorial comment: Urgency in Japan

日本の銀行は1980年代から続く不良債権で身動きできない。デフレが深刻になって、債務の実質負担は年々増している。しかし、柳沢金融改革担当大臣は公的資金注入の必要を否定する。実際には、民間の推計による200兆円(1兆6400億ドル)という不良債権額は銀行システムの大多数を支払不能にする規模である。

さらに悪いことに、政府が銀行に不良債権処理の圧力をかけているために、信用収縮が起きている。これが経済を悪化させ、資産価格を下落させて、デフレを強めている。日本にとってこれ以上悪いことは無い。

銀行の支払能力を回復するには、不良債権額を正直に評価することだ。そして支払能力が不足する銀行は国有化しなければならない。不良債権はRCCに売却し、バランス・シートを整理してから、健全な部分を政府は市場で売却する。また、政府は支払い可能な銀行の株式を購入し、バランス・シートの改善に資金を提供してやるべきだ。

それには莫大な資金が必要だ。しかし、これ以上のデフレを避けるためには、この資金を日本経済の他の部分に負担させてはいけない。それゆえ円紙幣を必死に刷り増すことだ。公式に、日本銀行は大量の国債を購入すると約束しなければならない。


Financial Times, Monday Nov 19 2001

Four reasons to be optimistic

Masahiro Kawai

日本経済は立ち直る希望がある。それは構造改革を約束した小泉政権があるからだ。@銀行の不良債権を処理し、A民間部門を活性化し、B政府部門の債務を中期的に安定させる。

構造改革無しに持続可能な成長はできない。痛みの伴う調整を国民は支持している。それは短期的に低成長でも、より高い生産性、競争力の改善、将来の成長持続をもたらすものだ。小泉氏は従来型の財政刺激策を拒んだ。知識や環境に焦点を絞った分野へ、非効率な産業から労働力を移動させる。

小泉改革が成功すると楽観して良い四つの理由がある。@指導力、A国民=納税者の支持、B日本人の資産、C勤労精神、である。

もちろん、健全な銀行部門を速やかに再建することは重要だ。そのために政府は銀行の不良債権を2-3年以内に処理すると約束している。より多くの準備金、自己資本、厳格な金融規制と検査が求められる。それは企業の債務を法的に破産処理し、RCCにも売却することを意味する。現在、弱体銀行への公的資本注入に使われている枠組みを、セイフティー・ネットとして使えるだろう。1997-98年と比べて、銀行システムへの脅威が無い分、改革は容易である。

政策協調も重要である。新しい不良債権が不況とデフレによって発生しているから、日銀はプラスの(しかし低率の)インフレをもたらすような金融緩和を行うべきだ。市場に流動性を増やすだけでなく、一定の期間内に1-3%のインフレを達成すると公表する必要がある。それがデフレ心理を一掃し、インフレ期待をもたらすだろう。

ついに日本の構造改革は進み始めた。これで日本について楽観できる。

(コメント)

近頃の経済学者が「期待」を重視し、「楽観」や「悲観」を重要な分析要因として指摘するのは、資産市場に権力が宿り、投資家が「巨象の記憶とヤギの心臓を持ち、ウサギのように逃げ足が速い」生き物であるからです。しかし、市場の「雰囲気」を政策的な操作の対象とするのは危険な発想でしょう。

これで日本を楽観できる人は居ないでしょう。政治家や官僚が小泉政権の改革に合流して、自分たちの存在意義を示そうとしている気概は見えないからです。すべて何年も議論されてきた実行されない約束なのです。

偶然点けたTVで参院予算委員会の中継を観ました。答弁していた柳沢氏や小泉氏の言葉には、今までに無い勇気や真実への志を感じました。漸く一部では、政治が現実の危機に追いついたのでしょう。


Bloomberg, 11/19 15:35

Salvation Through Lower Oil Prices? Think Again: Caroline Baum

By Caroline Baum

石油価格の下落は世界不況への解決策となるか? 日本を見ればよい。石油をほとんどすべて輸入しており、大きな石油消費「減税」を得られるだろう。しかし何であれ、価格の下落が日本経済の苦境を緩和するとは思えない。大恐慌ではどうだったか? 石油価格も含めて、すべての価格が下落した。それは景気刺激策になったどころか、不況を深刻にした。

価格が下がるのは、供給が増えたか、需要が減ったからだ。OPECは供給を増やしたか? そんなことは無いだろう。ごまかしがあるとはいえ、彼らは生産削減を進めたのだ。だから需要が減ったのである。では、なぜある商品の価格が下がれば望ましいのに、すべての商品の価格が下がるのは良くないのか?

それはデフレと呼ばれる。過去に学ぶべきだ。1986年を思い出そう。1985年11月に32ドルであった原油価格は、1986年4月に10ドルと、69%も下落した。実質GDPが1986年第一四半期に3.7%成長し、同時にFedは割引率を200ベイシス・ポイントも引下げたから、好景気への期待が大きく膨らんだ。ところが第2四半期の成長率は1.7%に低下したのだ。特に石油関連の投資の落ち込みが大きかった。今度は投資がどうなるか?

(コメント)

同じ問いに、PAUL KRUGMANは、The Oil-Hog Cycle(NYT, November 18, 2001)で肯定的に答えています(原油安は景気を刺激する)。その上で、原油供給と価格の大きな変動が世界の景気循環を増幅してきたことを嘆いています。彼によれば、われわれにできることは原油に代わるエネルギーを見つける技術への投資くらいです。ブッシュ氏は北極を掘り返すような愚かな政策を諦めて、正しい政策を指導するべきだ、と。


Strait Times, NOV 19, 2001 MON  

World must not ignore two nightmare scenarios

By RUDIGER DORNBUSCH

近頃の経済論議の多くは世界不況や回復の早さに向けられている。しかし漸く、通貨政策と財政政策が問題解決に動き出した、と信じてもよいだろう。

世界経済を心配するなら、もっとも深刻なリスクについて告白すべきである。それは、サウジ王室の崩壊と、日本の金融メルトダウンである。どちらが起きても、世界の繁栄に与える衝撃は、今の不況どころではない。

今は、石油価格の下落が不況を打ち消すと歓迎されている。しかし、産油諸国から見れば、暗雲が広がっている。Seymour Hershによれば、サウジ王室の正当性が揺らいでいる。保守的なイスラム社会や牧師たちからの支持を失ってしまった。ブルッキングズ研究所のGeorge Perryによれば、もし石油供給が100万バレル減れば石油価格はバレル当たり32ドルに上昇し、750万バレル減れば、161ドルに達する、という。そのような価格高騰は、地政学的な激動とともに、世界を深刻な問題に突き落とす。

第二の世界的メガ・リスクとは、日本の金融崩壊である。ここには二つの要素がある。経済が回復しないことと、金融的な上部構造の疲弊である。非常に重要なことに、日本政府は破産状態にある。そのような条件では、債務から抜け出して成長することが通常の答である。ところが、日本経済は縮小し続けている。

日本人の家計が政府の借金を繰り延べ続け、そのような政府の国債をまともな投資だと誤解してくれる限り、現状維持が支持され、日本の金融も安定しているように見える。しかし、10年前にバブルの破裂で株式投資がクズになったことを見ている以上、日本人がその政府の借金を最後に残された希望と考えなくなっても、誰も驚かない。

これこそ危険である。ある日、債権者はストライキを起こす。怠慢な新興市場経済で起きたように、投資家たちが外国の資産に逃避し、円を急落させる。通貨価値が暴落すれば、債務は支払われず、市場の信頼は消失し、消費が減退する。一夜にして、日本は新しい大恐慌へと転げ落ちる。もし日本が転落すれば、アジアのほとんども崩壊する。日本で底上げされる代わりに、経済的なショックが大津波となって広がるだろう。

サウジ・アラビアに啓蒙の明かりが点り、きわどいタイミングで、安定した政府が再建されるかもしれない。日本でも、インフレ政策がかろうじて崩壊を食い止める、と思いたい。しかし、今はまだ、この最悪のシナリオが実現しつつある。それを防ぐ良い戦略は発動されていない。

この悪夢がどちらかでも出現すれば、IMFの介入や湾岸戦争でサウジ王室を助けるだけでは済まないだろう。


Financial Times, Tuesday Nov 20 2001

America will not suffer deflation

Stephen Cecchetti

アメリカの金利水準は40年ぶりの低水準である。消費者物価を引いた短期の実質金利はマイナスだろう。これはある意味で、通貨政策が効果を失ったように見える。多くのアナリストが、1980年代の日本、大恐慌のアメリカ、と比較する。

カール・マルクスは、歴史は繰り返すが、二度目は茶番である、と書いた。1930年代の世界的な破綻は明らかに悲劇であったが、他方、1990年代の日本には茶番の要素がある。アメリカもデフレに瀕しているのか? 私はそう思わない。投資は短期金利に反応しないのであって、通貨政策は金融システムが正常に機能する限り、銀行を通じて効果を発揮する。

この点で、アメリカの金融システムは強力だ。短期金利を低くしたのは、まさに日本や大恐慌で見られたような事態を防ぐ保険であった。1930年代のFedは金融システムにとって流動性が重要であることを理解せず、物価の大幅な下落を招くような政策を採った。デフレは債務不履行をもたらし、銀行倒産と貨幣の減少、そしてデフレが加速した。

日本ではどうか?  Takeo Hoshi and Anil Kashyapが示したように、債券市場で規制が緩和されると、銀行の従来の顧客であった企業がより安価な資金調達に流れた。銀行は投機的な不動産融資など、新しいビジネスを始めたが、それは日本が不動産バブルに向かう最悪の時期と重なった。新興市場のアジア諸国にまで融資し、株価を高値で買い込んだ銀行は、破滅の条件を整えたのである。

1990年代に、株価と地価が暴落し、アジア通貨危機を経た後、多くの日本の銀行はまともな資産を何も持っていない。ほとんどすべての銀行が支払不能ではないか、と真剣に疑われている。それは日銀にとっても絶望的な状況であった。1995年には金利を0.5%まで下げ、1998年後半にはゼロ金利を採用した。それでもデフレであるから、実質金利はまだ高いと批判された。解決策について激しい論争が続くが、政治的にはどれも困難である。金融仲介が回復するまで、実質的には何も解決できない。

これに比べて、アメリカの金融システムは強い。デフレを嘆く叫びが起きても、アメリカに破局は来ない。健全な金融システムは、@厳しい金融監督・規制、A10年に及ぶ経済成長、Bほとんどの銀行資産に対する流通市場、によって築かれている。

さらに重要なことは、中央銀行家たちが金融危機を防ぐ役割について見解を調和させていることだ。銀行と市場は十分な流動性を持たねばならない。マイナス金利は銀行が流動性を得るのを容易にする。日本のようなデフレと不況はやって来ない。


New York Times, November 20, 2001

Tokyo Fears China May Put an End to 'Made in Japan'

By JAMES BROOKE

東芝のテレビ生産も、ミノルタのカメラ生産も、中国に移転される。ドミノ倒しのように、自転車、バイク、バス、携帯電話などが、中国の工場から日本に輸入される。

中国のWTO加盟で、多くの日本人は自分たちが余計な中年労働力に過ぎず、中国からの挑戦に対抗する日本の政治システムも麻痺している、と恐怖を感じている。東アジアの歴史的に対抗する両大国を新たな視点から見れば、わずか二日の貨物船輸送で世界最大の低賃金経済と隣接する世界最高賃金の国、が日本である。中国の経済規模は日本の4分の1しかないが、その若年人口は日本の10倍も居る。

日本が不況にあるため、急速に向上する中国は経済的な脅威に見える。それは不合理なまでにそう見えるのだ。「たった二日間、日本に居るだけで、中国について聞かされた強迫症状は驚くほど強かった。」とIIEのC. Fred Bergstenは言う。「それは1970年代にアメリカが日本について心配したのとよく似ている。」

日中間の関係は、日本が産業国家から投資家の国に変わったことを示す。この10年で、日本の対中投資額は倍増し、(香港を含めた)貿易額は、昨年、3倍以上の1150億ドルに達した。中国からの輸入は消費者物価を引き下げ、経済学者が論じ続けているように、高賃金国が低賃金国によって損失を被るより、利益を得ることができる。

しかし日本の景気悪化と5.3%に達した失業が、中国を格好のスケープ・ゴートにする。中国は日本から巨額の投資を得ているが、その一方で日本の工場労働者は90年代で20%も減少した。『それゆえ』このままでは日本の製造業が「空洞化」してしまう、と。

中国の賃金が日本の5%でしかないことは、彼らの絶望を煽る。日本の工業用地の価格は数十倍、電話代、電気代も中国より数倍高い。先端分野でも次々に生産拠点は中国に立地する。「日本に残るのは開発・研究部門だけでしょう。それも失えば、何も無い。」と松下の社員は言う。

中国は日本の21世紀の輸入を狙っているが、日本政府は農業の圧力団体に保護を約束し、リア・ミラーに写る19世紀の日本に捕らわれている。そのせいで、日本を飛び越して、中国がASEAN10カ国を含む18億人の自由貿易協定を実現した。「日本はためらわずに没落産業を切り捨てるべきだ。」と経済産業省のスタッフは言う。「より根本的に、日本政府には中国のキャッチ・アップに対する一貫した戦略が無い。」

中国の工業水準は過大評価されているかもしれない。しかし、隣国の増大する経済に、日本は間違いなく吸い寄せられていく。


South China Morning Post, Wednesday, November 21, 2001

Bank denies yuan pressure

MARK O'NEILL in Beijing

中国人民銀行副総裁は、中国はアメリカから通貨を切り上げるよう圧力を受けていない、と述べた。また、外貨準備に占めるユーロの割合を増やす、とも述べた。日本やアジア諸国は、中国製品の輸出競争力を殺ぐために、通貨の切上げを求めている。外国為替管理局長のGuo Shuqingは、8年前に中国が1ドル=8.3人民元に40%も切り上げたのは大変であった、WTO加盟により、今後は貿易黒字が減少する、と語った。中国の外貨準備額は2030億ドルに達しているが、その内いくらがユーロで保有されているかは示さなかった。

The Economist, November 10th 2001

これまで多くの投資家は、アルゼンチンがデフォルトになれば、次はブラジルが危ない、と考えていた。しかし今週、ブラジルの通貨レアルは価値を回復し、911日以後の最高値を付けた。

1999年以来、ブラジルは変動レート制と緊縮財政を組み合わせ、新興市場経済で最大の経常収支赤字を直接投資の流入で賄っていた。ブラジルの問題は、直接投資の急減に国内経済を調整することであった。中央銀行によれば、それは昨年の330億ドルから今年は190億ドル、来年は160億ドルに減少する。

そして今や、その調整はほとんど達成されたのだ。通貨の減価と高金利が輸入を減らし、国内を不況にした。しかし、そのほとんどがドル建の対外債務は減価によって負担を増加した。にもかかわらず、これ以上の減価は無いと思われるから、その影響は短期的である。中央銀行は債務の長期化に努めている。

すでにレアルの実質為替レートは、ブラジルが巨額の貿易黒字を出した1991年の水準に戻っている、とフラガ総裁は言う。最大の問題は、次の政権が緊縮財政を維持するかどうかである。8年間のカルドーソ体制の後に誰が権力を握るのか、この点でブラジルの不確実性は増している。


お分かりのように、それは完全に自発的なものです。アルゼンチン政府は11-12%の国債(市場での割引率は25%以上にも達している)を、たった7%の国債に交換するよう求めている。そのご褒美は、あなたが本当に利子を払ってもらえること、です。

拳銃を頭に突きつけた契約は、デフォルトだ、と言われるだろう。機関投資家は資産をデフォルトにする。G7は支援を打ち切る。IMFも融資に関する合意を破棄する。こうしてアルゼンチンは金融界から追放される。

不況の中で財政均衡を達成する政策は行き詰まり、政府は利子支払いを削減しようとしている。116日に、国内の機関投資家は合意した。彼らにはほとんど選択肢が無い。デフォルトは彼ら自身の破産である。国債は市場の価格で割り引かれ、国債に代えて低金利の長期融資にする選択肢も示した。

しかし、外国の投資家は同意しないだろう。利子支払いの保証が将来の税収だけでは、またデフォルトになるだけだ。IMFが保証する、という考えは受け入れられない。すでにカヴァロはIMFの顔に卵を投げつけた。ブッシュ大統領との会談までに、デ・ラ・ルーア大統領は州政府との合意を必要としている。


ドーハのWTO大会を4時間の生中継で流した中国でも、庶民の熱気はすぐに冷める。WTO加盟は確かに直接投資を増やす。しかし、それは輸出部門に集中しており、世界経済の成長悪化は中国の輸出増加率を前年の33%から今年は僅か7%に低下させる。

確かに、中国の成長は内需が9割以上を占める。しかし、1998年以来、政府は刺激策を採り続けている。国債発行でインフラ投資を増やし、金利を引下げ、政府職員の給与を増額し、休日を増やして買い物を促した。それは効率的な非国営企業の投資を妨げ、維持できないスピードで政府債務を増やしただろう。他方で、都市の住民はWTOとも関わる経済改革に不安を抱いている。都市でも農村でも消費は減少しつつある。

たとえ7%の成長でも、これからの調整で生じる失業者を吸収するのに十分でないかもしれない。改革派の指導者を除けば、政治家は既得権の保護と改革抑制に奔走する。社会不安が起きれば、改革派も失脚する。