今週の要約記事・コメント
11/12-11/17
IPEの果樹園 2001
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リベラリズムとグローバリゼーションはアメリカの新しい「自由の女神」でした。そして彼女が見たくないものと言えば、戦争と世界不況でしょう。目の前で起きたテロ攻撃による阿鼻叫喚が、彼女を憎悪と戦いの神に変えたわけではないでしょうが、世界の何を照らすべきかについて、忘れたはずの悩みがよみがえり、深まったはずです。世界最強のアメリカ軍が極貧のアフガニスタンに降らせた爆弾と援助物資とでは、どちらが世界を救うのに有効なのでしょうか?
世界にはさまざまな極があり、それぞれは互いに排除し、敵対し合っています。ある者は富を、ある者は信仰を、ある者は雇用を守ろうとして、ひたすら現状に固執します。そして成長の極は、しばしばその外に現れ、今までの正義と調和を乱します。市場も民主主義も、これまで人類が試みたさまざまな社会モデルの一類型です。成長が重要な価値観として人々に受け入れられることで、市場は支配的となりました。
NHKのアーカイブ・シリーズを観て、昭和30年代の日本の映像に感銘を受けました。川はまだ下水管にされて埋め立てられず、道路には中央分離帯も舗道も無く、小さなオート三輪が人をよけるように走っています。農村からきた労働者は町工場の社員寮に布団を敷き詰めて眠り、バラックのような商店街での買い物に喜び、工場の卓球台でゲームに歓声を上げ、汗を流します。
確かに、世界にもアジアにも、人々の所得水準や生活環境には大きな較差があります。しかし社会は急速に変わるのです。それが爆撃ではなく、貿易取引や学校であることを望みますが、異なった極が互いに協力すれば、素晴らしい成長の極が世界中に誕生するでしょう。占領する兵士の銃口や、村のすぐ外まで迫った疫病と飢餓の影に怯えることなく、若者や子供たちは工場や学校で将来を夢見て暮らせるはずです。
受験生に面接してみれば、彼らの多くは税理士や会計士になりたいと言い、資格を得たいと言います。その職業にどんな魅力があるのか? と私は尋ねました。なぜ魚屋や八百屋になって大いに財を成したいとか、英語を学ぶなら、休日にイギリスで釣りをしたり、ニュー・ヨークで舞台を見たり、してみたいと思わないのか? 残念ながら、私もそんなことを考えたことは無かったのです。子供たちは、しばしば大人の国の奴隷です。
本当に<自由の女神>がいるとしたら、彼女は<自由>という社会的な理想を照らすべきでしょう。爆弾でもチョコレートでもなく、貧しい者が暮らしを立て直して、自立できるような、政治的抑圧に苦しむ者が新しい社会システムを目指して交渉と合意を積み上げ、共通の制度を樹立できるような、社会的自由を拡大する機会を、彼らに与えるべきでしょう。
戦争は、既存の極を支配するエリートたちのものです。私の<女神>は彼らを軽蔑し、静かに将来の機会を奪うでしょう。そして貧しい者を励まして、新しい成長の極へと導くのです。
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Financial Times, Friday Nov 2 2001
Editorial comment: The new politics of development
9月11日のテロ以後、開発に関する新思考が現れた。貧困や西側に対する敵意を減らすことがテロの解決には必要である。この新しい関心は、正しく扱われるなら、貧しい国にも豊かな国にも望ましい結果をもたらす。
冷戦が終わって、発展途上諸国の腐敗した無能な政府が援助を大量に受け取ることはできなくなった。当時は、政治的な融資が行われ、二国間の援助が盛んであった。それが、ザイールのモブツ政権のように、長期にわたって独裁者に国を支配させた。
こうした過ちを繰り返さないために、工業諸国は次の原則を守るべきだ。
1.IMFと世界銀行は厳格な専門的基準で融資を行い、資金提供者の戦略的な目標に影響されてはならない。
2.援助供与国は、二国援助がむしろ途上国の改革を遅らせる深刻なモラル・ハザードにつながることを忘れてはならない。
3.工業諸国は、発展途上国の前進を妨げている貿易障壁を取り除くことがもっとも有効な支援策であることを思い出すべきだ。
New York Times, November 1, 2001
Entangled With War on Terror, Threat of Global Recession
By DAVID E. SANGER
ブッシュ大統領はもう何週間もテロリズムとの戦争に従事してきたが、世界不況という、もう一つの複雑に結び付いた危機にも対応しなければならない。世界の二大経済、アメリカと日本が同時に縮小し、ドイツも同じ傾向にある。1990年代の重要な教訓は、経済危機が急速に世界に波及することである。そしてもっとも弱い諸国が最初に崖から転落しはじめる。
たとえばアメリカの不安定な同盟国パキスタンだ。さらに、世界の生産拡大が止まれば石油価格が下落する。それが中東、特にサウジ・アラビアを苦境に追い込む。「これは世界不況だ。しかも最悪の時期はまだこれからだ。」と、Allen Sinaiは述べた。「発展途上国や新興経済で緊張が高まれば。不満を抱いた労働者やその国の政府はスケープゴートを求める。そして多くはアメリカを非難する。」
これは不公平であろう。アメリカは、好景気の際に、世界を何度も不況から救ってきた。ここ数年では、メキシコ、アジア、そしてロシアである。しかし世界経済学では、世界政治学と同様に、受け取り方がすべてである。外交に関するブッシュ政権の顧問が最近注意したように、「アメリカが彼らに傷薬を塗ってやることは非常に難しくなった。」
ブッシュ政権の外交分野における側近たちは、パキスタンの主要輸出品である織物に課された関税を引き下げようとしている。しかし、すでに不況に苦しんでいるアメリカ企業はこれに強く反対し、アメリカの労働者が職を失って政府に反対するのを恐れて、これを断念した。
ブッシュ氏は「世界不況」という言葉を使わない。そして、アメリカにとって良いことは世界にとって良いことだ、と主張する。景気刺激パッケージを議会は早く承認し、政府に貿易交渉の開始を認めよ、というわけだ。しかし、ここに欠けているのは、三大陸に及ぶ不況を阻止する世界的な対応策、過去の下降局面と全く違う、国際協力である。
不況に与えるテロ攻撃の影響は「予測不可能」である、という点が重要だ。たとえば、国務省のスタッフはパキスタンのムシャラフ将軍が政権を維持できるか心配し始め、政権崩壊がブッシュ氏の戦争に果たす役割を懸念し、この問題を「スハルト要因」と呼んでいる。1997年にアジア経済危機が始まったときも、インドネシアのスハルト大統領が犠牲になるとは思えなかった。
ムシャラフ将軍の運命は誰にも分からない。しかしリスクを回避するには、世界がより一層うまく調整されねばならない。パキスタンの輸出や、政治的不安定性、隣国での爆撃は、この国への投資を減らすだろう。ブッシュ氏がアメリカとの同盟はパキスタンにとっても利益だというが、そんな利益は吹き飛んでしまう。「パキスタンへの制裁を取り止め、関税を引き下げても、こうした状況でモトローラや他の企業にパキスタンで工場を建てるように説得することはできない。」
もう一つの「予測不可能」な要因は、普通の労働者が世界中で自分たちの問題はアメリカに責任があると不平を言い始めるかもしれないことだ。アメリカはアフガニスタンを爆撃している。アメリカは彼らの製品を買わない、と。「アメリカの不況は輸出されつつある。テロリストの攻撃は、アメリカ以上にアメリカと貿易する相手国に深刻な打撃を与えているのは皮肉である。」と、J. P. Morgan ChaseのJim Glassmanは述べた。
ブッシュ氏の関心は分散してしまい、国際経済悪化への対応策を日本やヨーロッパと考慮する時間が無い。その上、それはブッシュ氏が得意とする問題ではないのだ。アジア・サミットの参加者たちは、テロリズムに関する主張に感銘を受けても、ブッシュ氏の世界経済に関する議論には失望した。
世界経済が本当に不況へと向かっているとしたら、戦争が何よりも優先される、という彼の方針は不本意ながら修正されるだろう。
New York Times, November 2, 2001
FLOYD NORRIS
For the First Time Since Ike, a Whiff of U.S. Deflation
インフレを恐れた世代にとって、デフレは魅力的だ。支払いが少なくなるなんて、良いことに違いない。しかし、あなたのコストは誰かの所得である。所得の減少は経済にさまざまな問題をもたらし、通貨政策の景気刺激効果を失わせる。大不況においても物価は下落し、日本では今それが起きている。どちらも真似てみたいモデルではない。
政府の報告書が、第三四半期に経済が縮小し、個人消費支出に対する物価が年率で0.4%のマイナスとなったことを示した。それは1954年以来のことである。その間に7回の景気後退があった。しかし、いずれも物価は下落しなかった。
今回のデフレで新しい点は、それが工業製品から消費者に広がったことである。デフレで利益を受ける者もいる。例えばガソリン価格の下落は減税と同じである。しかし日本の経験が示すように、デフレが続くことは消費者に価格がさらに下がると期待させ、消費を大きく損なう。賃金の引き下げが非常に難しいため、企業は利潤を減らし、より多くの解雇と消費の落ち込み、さらに多くの解雇が続く。
デフレに対処する古典的方法は、通貨政策の緩和である。しかし、それが景気を刺激するためには、Fedは短期金利をインフレ率以下にする必要がある。インフレ率がゼロ以下になれば、流動性の罠に落ち込む。今年になって、低金利は住宅や自動車の販売が大幅に減少するのを防いだ。しかし、住宅価格は下がりつつある。それは株価下落によるマイナスの資産効果を強めるだろう。
10年前に、日銀はバブル崩壊後に信用をゆっくりと緩和した。それが日本の経済停滞の原因であるとは言えないが、それを緩和したわけでもない。アラン・グリーンスパンはそれを当然考えているはずだ。
Bloomberg, 11/02 13:29
The `D' Word Makes Dubious Yet Determined Debut
By Caroline Baum
何かクサイな? アメリカ中にデフレのにおいがする。New York Times でFloyd Norrisはそう診断した。そして、個人消費PCEが0.4%減った、という数字を引いた。しかし、彼はその背景を説明しなかった。
報告書にはPCEが減少した理由も示されている。9月11日のテロ攻撃を受けて、保険の支払いと関連して、サービス価格の低下が起きたからだ。さらに、この効果を除けば、PCE物価指数は0.8%の増加となる、と。
PCE物価指数が下落することは珍しい。その理由は物価が「粘着的」であるからだ。景気が悪ければ被雇用者は賃金を上げないが、それを下げるのは、その前に大量の失業が発生してからである。サービス消費は財の消費よりも変動しにくい。景気が悪くても、子供たちは医者へ行き、結婚したり離婚したりして弁護士の仕事になる。労働集約的なサービス部門でデフレが続くには、賃金が下落する必要がある。しかし、保険を介した9月11日の特殊な効果を一般化するのは間違っている。
デフレが悪いことだという印象を持つのも間違いだ。デフレはガソリン価格の低下のように減税と同じで、景気を刺激する面がある。だが、物価の下落は需要不足と関係がある。もしそうであれば、デフレが景気を刺激するとは言えない。価格には、ミクロの側面とマクロの側面がある。伝統的に、債権者だけがデフレで利益を受けるといわれている。彼らはより価値のあるドルで返済を受けるからだ。
総合的に見れば、現在のデフレから利益を得る最善の方法は、今すぐ自動車に飛び乗って「減税された」ガソリンを満タンにし、アメリカ中で移動式の融資サービス業を始めることだろう。
Washington Post, Friday, November 2, 2001; Page A29
A New Age of Solidarity? Don't Count on It
By Zbigniew Brzezinski
二つの巨大な幻想が9月11日の世界的な結末を現実的に評価する眼を曇らせている。一つは、テロリズムに対する戦争への広範な支持が、アメリカの優位から協力的な相互依存へと、世界の流れを変えた、という幻想。もう一つは、9月11日以来、ロシアがアメリカの指導する西側に酸化する歴史的な選択を行い、アメリカの同盟国になりつつある、という幻想である。
この新しい夜明けを詳しく見れば、深刻な疑いに包まれる。連帯は素晴らしい。しかし、それは言葉だけであって行動を伴わない。そこに潜む権力の現実を変えるものではない。アメリカとヨーロッパの関係では、ヨーロッパの行動が欠けている。ヨーロッパにはアメリカのような長期の軍事行動を行う力が無い。「世界の安全保証を担う自立した主体」ではありえない。
ロシアについてはさらに疑わしい。プーチンが同情的であるとしても、ロシアが西側に参加する決断をしたとは思えない。首脳会談を前に、ロシアの外交幹部は、プーチンがブッシュに要求すべき譲歩リストを用意していた。NATO拡大、ミサイル防衛構想、対ロシア債権の放棄、チェクニアの内戦など、アメリカは高い代価を支払わされるだろう。注目すべきことに、プーチンは最近、ドイツに対して、アメリカと独立したヨーロッパの軍事力を作るように求めた。
中東においては、1991年に見られたような反イラクの連帯はまるで見られない。エジプトのムバラク大統領は、アメリカに対するイスラムの反感は50%までアメリカのイスラエル支援に責任があると述べた。アラブの同盟諸国は、パレスチナの状況が改善されなければ、アメリカの立場を支持することに躊躇するだろう。
要するに、この連帯には「テロリズム」の明確な定義が無いのである。冬になれば軍事行動は控えられ、アメリカが何年もアフガニスタンの安定化に政治的な関与しなくて済む方策が求められる。火薬庫のような中東の危険性と石油資源、テロリスト組織へのイラクの関与に注意しなければならない。こうした脅威に対して、アメリカは軍事的かつ政治的な対抗策を採るべきだ。将来の破壊的なショックに対して、これを吸収できる政治的な条件
を中東に創り出すべきである。エジプトやサウジ・アラビアの政治的安定化のためにも、中東和平にアメリカはもっと努力しなければならない。
テロリズムとの戦いで最も重要なことは、アメリカが自分だけでこの仕事を成し遂げねばならないということだ。アメリカだけが政治的・軍事的な包括的行動を担える。アメリカの優位に代わるものは無く、それが失われれば世界的なアナ−キーだけが残るだろう。
South China Morning Post, Saturday, November 3, 2001
CONVERTIBILITY:WTO commitments exclude yuan issue
CHI-CHU TSCHANG
中国のWTO加盟は人民元の交換性回復とは結び付けて考えない、と中国側の証券監督局副所長が述べた。それは改革の進展程度を基にして中国政府が決める。人民元は今、投資に関して1ドル当たり8.277元から8.280元の間に固定されている。しかし昨年4月から、中国人民銀行は取引がこの範囲を超えることを許しており、変動制への準備であると考えられている。当局は時期を示していないが、交換性の回復は時間の問題である。
人民元の交換性回復とは別に、WTO加盟で資本市場が競争的になることは確実である。証券合弁企業への外資の参加が33%まで認められる。A株の市場公開において合弁企業が適当であろう。株価下落で新規株式公開は控えられていたが、年金基金のA株購入が認められ、最初の市場公開が行われる。この流れは続くだろう、と証券監督局の幹部は述べた。
South China Morning Post, Monday, November 5, 2001
Peg seen anchored until eventual yuan float a decade away
JON OGDEN
香港は、まだ約10年は、論争の多いカレンシー・ボードを維持するだろう。それは中国が通貨を変動させる準備を終えるまで続けられる、と香港の有力エコノミスト、Gail Foslerは述べた。
「香港のカレンシー・ボードは、人民元を含めたより大きな戦略が決まるまでは、必要悪である。それは、中国本土で厚みのある効率的な信用市場が形成されるまでは決まらないと思う。」と、彼女は述べた。消費者の貯蓄を集めた機関が、客観的な格付けと会計基準とともに、発達しなければならない。こうした市場無しに、中国政府が人民元を変動させることは混乱を招く恐れがある。中国が新興市場のような通貨危機に陥れば、それはとんでもない結果になる。
小規模な開放経済である香港が変動制を採用することは通貨リスクが高い。カレンシー・ボードやペッグは、香港社会が定期的に襲う調整のコストに耐えられる限り、変動制よりも望ましい。しかし、1997年の通貨危機でピークから60%も不動産価格が下落するのを見て、ビジネスマンや消費者の不満は高まった。ペッグを維持するということは、香港が通貨価値の下落よりも、資産価格や消費者物価、賃金の下落で、経済的な苦痛を受けることを意味する。土地開発業者はこの苦しみを増幅した。
「私には、香港はまだ1990年代半ばの感覚で動いているように見える。」不動産価格の暴落で20万家族が破産した。しかし、」政府は不動産取引を規制する権限をもっているし、必要なら原価を割っているモーゲージや証券を購入し、再び売却することもできる。
香港の問題は、景気循環の下降局面にあるというだけでなく、構造変化の問題でもある。「まだ香港の将来像は定まらない。香港は主要なハイテク・センターにならなかったし、5年前のような流通センターでもなくなった。」信頼できる商業部門と文化的な活動で、香港の魅力を再生することだろう。
Financial Times, Monday Nov 5 2001
Argentina's hard road
Richard Lapper and Thomas Cat疣
カヴァロが指名された際には一時的に回復した投資意欲も、すでに消滅した。貸出しも投資も激減し、今年の第三四半期には年率6〜12%で経済が縮小した。生産量や建設は、昨年の同じ時期より25%も少ない。「人々は文字通り飢えており、経済的な破局である。」
税収はさらに落ち込み、財政赤字ゼロを実現するには歳出削減と景気の悪化を強めるしかない。それは実物経済にとって維持不可能な水準まで達するだろう。根本的な転換を求める声が高まっている。ドルとペソの等価を強く支持していたRicardo Hausmannも、今や、切下げと債務の消却が必要だと確信する。
こうして木曜日に、デ・ラ・ルーアとカヴァロの新戦略が発表された。助言を与えたMerrill Lynch InternationalのJacob Frenkelは、その目的を「持続可能な成長を回復し、同時に安定性を維持する」と述べた。ここには、年金支払いの削減やいくつかの減税、失業者への給付など、国民に資金を与えて支出を刺激する手段が含まれている。
しかし、多くの点で、これはカヴァロの行ってきたサプライ・サイドの改革を延長したものであり、過大評価された通貨価値で失われた、経済活動の活力と競争力の回復を狙っている。新しい点は、それらが利子支払いの削減で賄われることである。すなわち、投資家は平均25%に達する旧債券をたった7%のクーポンを付けた新債券に交換することになっている。その代わり、新債券は将来の税収に基づく確実な保証が与えられる。
アルゼンチン政府は投資家が自発的に交換に応じると主張するが、将来の税収だけを当てにして低い利回りを受け入れる投資家はいない。債務残高の3分の1を保有する国内の年金基金は、デフォルトになれば破産するしかないので、他に選択肢は無い。しかし外国投資家は納得しない。彼らはおそらく、第三者による追加の保証を求めるだろう。それは事実上、IMFや国際機関、G7諸国の政府などである。
先週は、そうした支援が行われる見込みが無かった。なぜなら、アルゼンチン政府が野党の支配する州政府に行っている財政的移転を削減することに、州政府と合意できなかったからである。国際的な支援が無ければ、投資家は交換に応じず、交換を強制すればデフォルトと見なされる。さらに、今後数年の支払額も問題である。利子支払いが削減されても、2003年から2005年に、アルゼンチンは400億ドルを返済しなければならない。
市場の圧力はさらに強まっている。過去3ヶ月のペースで銀行から預金の引き出しが続けば、流動性が数週間で枯渇する。そうなれば、政府は預金を凍結し、経済のより大幅な解体へと進む。リスク・プレミアムは国内の不安を示す警告灯になっている。それが拡大すれば預金流出が起きる。
1998年のロシアと違って、アルゼンチンは秩序ある債務の組替えを目指すだろう、とFrankelは言う。彼は、それが容易な道であるとは決して言わない。「それが現実である。解決するしかない。秩序正しくやれば、われわれは苦境から抜け出せると思う。」
Bloomberg, 11/04 00:1
Could Argentine Currency Peg Survive a Default?
By David DeRosa
金融危機の私の研究は、それぞれの事例が特有の政策失敗によって他と区別できる。タイの中央銀行は先物市場でドルを売り、市場をだまそうとした。韓国の中央銀行は破産した金融機関への融資で中央銀行の資産を悪化させた。ロシアではIMFが与えた50億ドルを文字通り消滅させた。ブラジルでは地方政府の債務支払い拒否で危機が起きた。
アルゼンチンの特徴は、それがハード・ペッグの一つ、カレンシー・ボードを国庫の支払不能によって犠牲にしたことだ。アルゼンチンが債務を支払えなければ、カレンシー・ボードはどうなるのか? 理論的に、カレンシー・ボードは破綻し得ない。しかし、政府が放棄することはできるのだ。
香港と違って、アルゼンチンのカレンシー・ボードは現実にすべての貨幣供給を準備で保有する必要が無い。その一部は外国の銀行によるアルゼンチンへの信用供与で良かったのだ。もしこれらの信用が閉じられれば、カレンシー・ボードは支払不能になる。しかし、この点を別にすれば、ペソの売買と貨幣供給は一致しており、カレンシー・ボードは問題ない。
時を経て、純粋な貨幣数量説により、その国の通貨価値は決まるはずである。しかし、それは苦痛の無い過程ではなかった。貨幣供給はヨーヨーのように変動し、国内経済を絶望的な調整に追い込む可能性があった。だから本当の問題はカレンシー・ボードが破綻するかどうかではなく、政府がそれを諦めて破棄しないかどうかであった。もう一つ考えるとしたら、政府はカレンシー・ボードを破棄した方が、残った外貨準備を失わずに済むことであろう。
Financial Times, Tuesday Nov 6 2001
Editorial comment: Unfinished business
9月11日以来、西側政府は外交と安全保障を忘却の淵から呼び起こした。今、破綻寸前のアルゼンチンから波紋が広がり、彼らの国際金融システムの問題を思い出させている。ここでも、惰性、は答えにならない。
しかし、1997−98年のアジア危機以後、多くの議論が交わされたにもかかわらず、悲しいことに、「国際金融アーキテクチャー」に関する西側のアプローチは惰性と呼ぶのが適当である。新興市場幹部会レポートは、時期にかなった行動への提言を含んでいる。
彼らは、借入れの元利返済を行えなくなった債務国が、どうすれば新興市場への市場の信頼を破壊することなく、秩序正しい脱出方法を見出せるか、について有益に示唆を与えている。彼らが指摘するように、アジア危機以来、改革の負担はほとんど新興市場諸国が負ってきた。そして、為替レート制度や情報開示に関して、いくつかの改革は前進した。
しかし、トルコやアルゼンチンが示すように、透明性だけでは不十分だ。両国は公衆の見守る中で維持不可能な債務を積み上げた。IMFはアルゼンチンが崖の淵にかけた手を押さえているが、谷底まで着地できるパラシュートは貸してくれない。
報告書は二つの提案を行った。一つは、IMFと豊かなG7諸国は、債務国が債権者と交渉をまとめるまでの債務支払い停止を支持するべきだ。第二に、国家の破産に関する長期の破産処理を確立するべきだ。この破産処理に関して広い支持が示されたことは印象的である。これまでラテン・アメリカ諸国は、破産法廷の問題を話すことを、リスク・プレミアムが上昇し、民間資本市場を閉ざす、として反対していたからである。
過去から現在まで、通貨危機の教訓は、投資家による組織的な新興市場政府リスクの過小評価があった、というより、その評価が危険なほどに変動しすぎる、ということであった。大宴会の後に飢饉が襲うのだ。債務国が行き詰まると、投資家たちには二つの結末があった。IMFやG7が救済融資を行い、彼らは資金を回収するか、それとも大混乱と不確実、予測不能なデフォルトに巻き込まれるか、である。
そうではなく、投資家は明確な、予測できるシステムで、冷静に債務のリスケジューリングを行う必要がある。そうなれば、彼らも慎重に各国のリスクを判断するだろう。国内の支払い不能となった民間債務者について、銀行が貸出しを止めることは無い。この論争は何年も続いているが、投資家たちの反対で実行されていない。しかし、西側の指導者たちは具体的な提案に進むべきである。
Financial Times, Tuesday Nov 6 2001
Globalisation's Chernobyl
Ulrich Beck
アメリカへのテロ攻撃は、グローバリゼーションにとってのチェルノブイリであった。ロシアの原発事故が私たちの核エネルギー神話を破壊したように、9月11日はネオ・リベラリズムの間違った前提を爆破した。
経済学が政治学を支配し、国家の役割は消滅するという、誰も逆らえなかったネオ・リベラリズムの主張が、世界的な危機でその力を失った。アメリカ航空保安体制の民営化はその一例である。アメリカの脆弱性は、その政治哲学に関わっている。ヨーロッパと違って、アメリカは保安体制を民営化し、ファースト・フード店よりも安い時給しかもらえないパート・タイム労働者という弾力的な労働供給に委ねたのだ。ニュー・ヨークの惨劇は、まさにネオ・リベラリズムの死であった。
ネオ・リベラリズムの哲学は羽毛のように軽く、深刻な対立や危機がないときだけ機能する。規制や官僚制度から解放された市場を世界化すれば、世界の病、すなわち貧困、失業、不況、などは解決できる、と約束する。しかし今日、市場原理主義者の市場に対する不動の信念は、危険な幻想であることが分かった。
危機の時代に、ネオ・リベラリズムは答えを出せない。基本的な真理に戻るのだ。税金が無ければ国家は無い。公共性も民主主義も市民社会もなければ、正当性はない。正当性が無ければ、安全は無い。それゆえ、国家的・世界的な対立を解決する正当なフォーラムが無ければ、世界経済は存在しないのである。
ネオ・リベラリズムは、経済学が国民国家モデルを解体し、超国家的なビジネス法則を実践する、と主張していた。しかし他方で、政府は国境内に止まり、昔ながらの仕事だけすると考えた。9月11日以降、政府は国際協調による権力を再発見し、突如として国家がいたるところに現れた。
テロリストたちは、その意図していたものと反対の世界を創り出した。世界化した政府と、ネットワークや協力で国境を越えた政治介入。レジスタンスはグローバリゼーションを強化した。グローバリゼーションがテロの原因ではない。しかし、弱小国家は自給体制を捨てて、世界市場で生きるしかない。われわれは世界政治をともなう経済統合を必要としている。
テロリズムとの戦争を、民営化された保安体制に委ねることはできない。
New York Times, November 5, 2001
The Turkey Card
By WILLIAM SAFIRE
携帯電話によるRichard Nixonへのインタビュー。
Q:アフガニスタンでの戦争はどうなると思いますか?
Nixon:あれが戦争か? 狂った髭面の男どもに軽い爆撃。単なる反撃であって、全くの戦術的な問題さ。
Q:あなたなら地上軍を送りますか?
Nixon:否、送らない。ブッシュの取り巻きは上手くやっている。テロを押さえ込み、反対派を支援し、買収と暗殺で分裂をもたらす。「フェーズT」は正しい戦略だ。欠けているものは、世界的な構想だ。
Q:と言うと、それは何でしょうか?
Nixon:本当の敵を知ることだ。ビン・ラディンとテロ細胞などではない。イスラム世界を乗っ取ろうとしている運動だ。それは、サウジやクウェートの油田を狙う髭面の煽動家たち、さらに危険な国家である。奴らが金を出して核兵器や細菌兵器を購入させ、理性的なイスラム教徒や異教徒たちを虐殺させている。
Q:あなたならどうやって止めさせますか?
Nixon:奴らを分裂させる。ソビエトに対して中国を使ったように。今ならトルコだ。世俗化されたイスラム教国で、最強の軍隊を持つ。
Q:トルコはすでに軍人を送っていますが、もっと送らせるのですか?
Nixon:アフガニスタンのテロリストにこだわるのは止めろ。私なら今すぐアンカラと合意を結ぶ。国境線を動かして、イラク北部をトルコに併合しろ、と。そこはすでにクルド人の領域で、われわれの飛行禁止区域だ。サダム・フセインの油田の半分がKirkuk周辺にあり、これをトルコの一部にする。
Q:それでは戦争になりませんか?
Nixon:短期の戦争だ。サダムの持つ細菌、核、テロリストによって、攻撃は正当といえる。トルコが友好的な政府をバクダッドに樹立し、われわれは制空権を握り、国連安保理事会が支持する。解放されたイラク人たちは南部の油田を狂ったように汲み上げるから、OPECを永遠に破綻させ、われわれを助けてくれる。
Q:トルコは何のために戦争するのですか?
Nixon:まずは大金だ。イラク北部は一日当たり200万バレルを産出する。そしてEUはトルコの加盟を喜ぶ。次に、トルコはイラク北部のクルディスタンを切り取って、国内のクルド問題を解決する。
Q:しかし、新しい国境というのは、アラブ諸国の反発を招きませんか?
Nixon:トルコ人はイスラム教徒だが、アラブ人ではない。テロリストがシリアに基地を置いてトルコを攻撃したとき、トルコは国境地帯に軍隊を展開し、ダマスカスを抑え込んだ。新しい国境線が問題だって? イラクは20世紀になってイギリスがでっち上げた国だ。50年前にイスラエルは国家になった。もうすぐパレスチナも国家になる。新しい時代には新しい国境がある。
Q:イスラエルとパレスチナについて言えば、それはどうなるのですか?
Nixon:私ならシャロンに、ヨルダン渓谷を併合して、ヨルダンを保護し、それから西岸の残りを手放せ、と言う。そしてサウジや他の裕福なアラブ諸国に、パレスチナで良い住宅と工場を建ててやるか、それとも移民の流入を受け入れろ、と言うだろう。イラクの脅威が去り、イランも遠ざけられれば、国王たちは慌てて掛け金を積み上げるさ。
Q:アフガニスタンのビン・ラディンは処罰しないのですか?
Nixon:金の流れが変わり、中東の権力構造が変わる。ビン・ラディンとその仲間どもは、腐った果実のようにわれわれの手に落ちる。この危機を利用して床を掃き清め、罠を抜け出すのだ。「フェーズT」は飛び越して、同盟軍の戦死者も、爆撃中止を要求するデモも、タリバンも、炭疽菌の恐怖もなくなるだろう。次はロシアについて電話して来い。
Financial Times, Wednesday Nov 7 2001
The view from the limousine
By Martin Wolf
9月11日は、冷戦後の世界では、労せずして世界が調和し、リスクの無い内省に耽れる、という妄想を抹殺した。トニー・ブレアのような、ウッドロー・ウィルソン型のモラリストにとっては、この衝撃が世界を改善するための機会なのであろう。しかし他方で、アメリカのリアリスト、Robert Kaplanのように灰色の世界を描く者もいる。「冷戦の終わりは、次の生存競争の変数でしかない。」
彼らの意見は対立しているが、現状分析は同じである。リムジンに乗って、ゲットーの貧民窟をドライブさせてみることだ。リムジンの中には、西欧、北米、オーストラリア、日本、そして太平洋沿岸にあるポスト工業化社会が入る。それ以外の世界は外である。人口圧力、都市化、環境破壊、開発失敗、それらがギャングによる国家をもたらした。何十億という人々が高い望みを持ち、その挫折を強いられる。
世界銀行の統計によれば、1999年、世界の一人当たり実質平均所得は7000ドルである。高所得国の9億人は2万6000ドルを得、発展途上諸国の51億人は平均3500ドルを得ている。その内、低所得国の24億人は平均1900ドルしか得ていない。高所得国は市場価格で世界の所得の79%(アメリカ・カナダ・EUだけで59%)、購買力平価では56%(同様に43%)を得ている。
世界のエリートは、大幅に高い所得を得て、世界資源のそれに見合った部分を消費している。それは何世紀にも渡って蓄積された物的、人的、社会的、知的資本のおかげである。祖先たちはその機会を活かして素晴らしい成果を上げたが、同時に世界資源を最初に手にした者の優位を利用した。当然、エリートたちは持っているものを失いたくない。
しかし、エリートは減少していく。現在の高所得国の人口が世界人口に占める割合は、1950年の32%から現在の19%へ減少し、2050年には13%に低下する。EUは現在の6.4%から2050年に4.0%へ、同様に日本は2.1%から1.1%へとさらに急激に減少する。
モラリストはこれに対して、最貧国の開発を促し、人口移動を人道的な方法で促す、と答える。それは正しいが、達成するのは非常に困難だ。中国やインドはキャッチ・アップに成功するかもしれないが、もっと脆弱な国家は衰退する。9月11日が示したように、エリートたちの地位はより脆弱になり、その安全を守ることはさらに難しくなるだろう。1990年代の楽観では生き残れない。
Financial Times, Wednesday Nov 7 2001
A better way for countries to default
Alan Beattie
アルゼンチンが抱える問題をIMFははっきりと理解していたが、それを止めることはできなかった、とS.フィッシャーは述べた。IMFはアルゼンチンのカレンシー・ボードを支持したが、政府の借入れ、もしくは民間銀行の対政府融資を、止めることはできなかったのだ。8月の80億ドルに及ぶIMF融資が返済される見込みは無い。
どうすれば問題を回避できるのか? 政府債務を組替える国際合意が無いために、IMFが融資しなければ、債務国はとんでもない混乱の中でデフォルトに入る。8月の融資には、自発的な債務組替えを促す30億ドルが含まれていたが、Portes教授は無駄だと言う。それを行う何の制度も、メカニズムも、法律も無いからだ。フィッシャーは債務利払いの停止を国際的に認めることを提案する。
特に問題なのは、危機の伝染である。債務国はそれを交渉手段に利用している、とIMFのスタッフは述べる。元イングランド銀行副総裁のMervyn Kingなど、政策担当者は、IMF融資を厳格に規制し、債務国政府や民間投資家により早く問題を解決させるべきだ、と考える。ドイツの「ベイル・イン」(民間投資家にコストを分担させる)提案は長く放置されたままである。
アメリカの政権交代はチャンスかもしれない。なぜなら、クリントン政権のRobert Rubin とLarry Summersがこの考えに強く反対していたからだ。ブッシュ政権のオニール財務長官は産業界の出身であり、ウォール街出身のルービンと違って、破産法を支持するだろう、とIMFスタッフは言う。
(コメント)
破産法を国際的に認める方向で改革が議論されるのは疑問です。破産法や国際裁判所は、民間部門について場合によっては解決策の一部かもしれませんが、政府部門については正しいと思えません。資源や食糧、エネルギー供給、電信・電話などで国営部門が大きいから、多国籍企業による直接投資を期待しているのかもしれません。しかし、政府は社会資本や再分配を担うのであり、国民の政治的な支持によって指導者が代わるのです。破産処理法廷で債権者と並んで政府が判決を受けるような仕組みは、かつての砲艦外交でもない限り、機能しないでしょう。
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The Economist, October 27th 2001
Economics focus: Dollar mad?
1990年代には、インフレと金融不安に苦しむ諸国にとって、カレンシー・ボードが解決策であると広く信じられていた。Steven Hankeは世界を旅してカレンシー・ボードを推奨し、アルゼンチンではCavalloが大いに成功したが、今では経済が落ち込んでいる。カレンシー・ボードをめぐる論争はどこに向かうのか?
Rudiger Dornbuschが、反対論に臆することなく、新しいカレンシー・ボード擁護論を発表した。アルゼンチンの苦境にもかかわらず、カレンシー・ボードは短所よりも長所が勝っている、と。
その短所は、主に政治的であるが、1.「通貨主権」を失うという威信の問題、2.シニョレッジの喪失、3.貿易相手国との為替レートの乖離、である。しかし、その利益としては、1.インフレ抑制、2.政府の無駄遣いと財政赤字の抑制、がある。アルゼンチンは成長を犠牲にして浪費と補助金に耽った。
ドーンブッシュによれば、アルゼンチンの問題は単に為替レートが競争力を奪ったことではない。引き継がれた債務と財政赤字の遺産、改革に従わない労組、どのような為替レートであれ輸出できないような粗末な製品を作る時代遅れの産業。確かに、カレンシー・ボードが外国からの過度の借入れを許したことは失敗であったが、アルゼンチンの失敗はカレンシー・ボードのせいではない、と彼は主張する。
カレンシー・ボードが信用を失った今、ブラジルに注目が集まっている。ブラジルは1994年に新通貨レアルを導入し、為替レートを管理している。Fraga中央銀行総裁は、1999年の通貨投機に対しても、市場に管理為替レートが優れたものであると確信させた。
アルゼンチンとブラジルの対比は、この論争を終わらせるだろうか? ブラジルは熟練した中央銀行総裁を得る幸運と、当面は慎重な振る舞いに徹した財政当局のおかげで、安定を維持した。しかし、もし財政規律が失われれば、インフレが再現される。要するに、通貨制度に完全な解決策は無いのであり、健全な財政政策がすべてである。
多くの国にとって、特に小規模で開放型の、インフレ抑制に信認を得られない中央銀行しかない国では、カレンシー・ボードがハイパー・インフレを防ぐ最善の策である。アルゼンチンのような規模の大きな国は、為替レート制度の選択がもっと難しい。アメリカが例外的にドル高を続けたことは、アルゼンチンにとって不運であった。
たとえアルゼンチンがデフォルトに落ちっても、カレンシー・ボードがいつも失敗に終わると言うのは間違っている。