今週の要約記事・コメント

11/5-11/10

IPEの果樹園 2001

中国がWTOに参加すれば貿易摩擦は減るでしょうか? 貿易自由化が進めば、通貨政策によって国内産業保護が行われるかもしれません。日本やアジア地域の利益に従うだけでなく、中国の利益のためにも、アジアの通貨制度を調整するメカニズムが必要になるでしょう。それがアメリカをどの程度含むかは、アジア諸国間の調整がどこまで主体的に行えるかにかかっています。

M.コーデンが指摘したように、国内企業に競争力が無ければ、変動レート制は実行できません。中国は資本規制と管理された為替レートの調整をまだしばらく続けるでしょう。しかし、松島日銀副理事が主張したように(日経新聞、113日)、中国自身の利益として、為替レートの弾力化や調整を説得することは重要です。互いの政策を検討し合う場が制度化されるべきでしょう。

アジア地域の経済統合が進めば、マクロ経済管理や経済改革、国際分業、金融安定化などで協力を深めなければなりません。それは外貨準備を共有し、国際収支の制約や、自由化と失業とインフレという統合化によって複雑になる多面的なトレード・オフを、互いにオープンに議論しあうことを意味するでしょう。

長期的に、中国が豊かになることは日本やアジア地域の利益です。市場が拡大し、貿易や投資が増えます。特に日本では、金融サービスやゲーム・ソフト、工業用の機械生産などで巨大な成長する市場が隣国に現れ、技術革新を加速できるでしょう。しかし、短期的には調整コストが強いられるし、中期的には互いに国内の改革が失敗し、外部に責任転嫁するリスクがあるのです。

豊かな国にとっては「相互依存」(R.N.クーパー)の協調的管理であったものが、貧しいアジアでは「帝国主義」論(J.A.ホブソン)の復活となるかもしれません。国内の失業・貧困や制度の硬直化、改革を阻む不透明な政治・経済秩序などは、今後のアジア経済統合を妨げる深刻な社会対立となるのです。すでに、アジアにおける財政刺激策と通貨政策(インフレ・減価)や保護主義への傾斜は、アジア全域に「日本的な経済破綻」を拡大するのではないか、と恐れられています。

たとえば、日本はアジア地域に、二重為替レート制を取り入れた地域通貨制度を推進できないでしょうか? 経常勘定については、アジア諸国との協調介入によって、共通バスケットによる一定の範囲に為替レートを維持します。他方、対外的な資本取引は、アジア地域の安定化基金や資本取引規制に関する合意を形成して、域内の金融秩序に従わせるのです。しかしその場合も、日本の金融システムが改善され、円の国際化や東京市場の充実、健全かつ弾力的な金融仲介機能を果たせるのか? あるいはシンガポールや広東、ニュージーランドに調整機能を委ねるのか? 日本で改革が進まない事実は、後者の選択肢をより現実的にするでしょう。

アジアの直接投資本位制も、安定した為替レートの調整が無ければ、切下げ競争や過剰投資、失業の輸出を拡大しかねません。私は、統合化が直線的に進むとは思いません。加速と部分的な逆転が繰り返されるだけでなく、分裂や制度的な隔離などが必要な時期もあるでしょう。アメリカ軍がアフガニスタンに政治秩序を強制できないのですから、アジア諸国がまだ多くの曲折を経るのは明らかです。日本はますます多くの貿易摩擦を抱え、合意や制度を形成することで、さらに経済統合を進めるのです。

Financial Times, Friday Oct 26 2001

Stability to the people

James Kynge and Richard McGregor

中国の多くのことわざが示すように、歴史上、中国政府が何よりも優先する関心事は、13億の人民が「混沌」に落ち込むのを避けることである。その結果、成長が弱ると政府は社会不安を心配し、痛みの伴う改革を遅らせる傾向がある。それは1998年のアジア金融危機で起きたし、今もまた起きている。二つの政策転換がなされたのだ。国内株式市場で国営企業の株式売却が停止されたことと、大規模な国営企業の倒産が事実上凍結されたことである。

政府幹部は景気減速の危険を感じている。第一に、アメリカや日本からの需要が減り、輸出を減らすこと。第二に、指導者の交代が迫りつつある中で、市場改革よりも社会的安定性が優先されること。第三に、国営工場の改革が長引き、カジノに近い株式市場の加熱もあって、WTO加盟後の経済悪化が懸念されること。

今週の決定は、効率の悪い、過剰人員を抱えた30万の国営企業を、国際市場での競争に耐えることのできる近代的な企業に変えるという課題に影響を与える。国営企業は、GDPの3分の1しか生産していないが、銀行信用の3分の2を利用し、都市労働者の55%を雇用している。過剰設備を廃棄し、資源を再配置するには、倒産させることも必要だが、この数年、散発的にしか行われず、むしろ失業増加が注目されている。世界銀行は破産法を改正して手続きを公式化するように求めてきたが、逆に、政府はそれを禁止した。資産が5000万人民元(600万ドル)以上の、中規模以上の国営企業が、地方の裁判所に破産申請しても、受理することを禁じたのだ。

世界銀行の最近の予測によれば、中国の成長は2000年の7.1%から今年は6.8%に低下するだろう。この減速は国営企業の収益を減らし、相対的に活発な民間部門での雇用創出も減らす。また地方経済の悪化と都市への人口流出を強め、少なくとも15000万人に及ぶ都市下層民がさらに膨張する。こうした緊張が政府に国営企業改革を遅らせるのである。

しかも中国はWTOに加盟しようとしており、関税引き下げ市場自由化が国営企業には手に負えない競争をもたらす。経済システム再構築研究院のLi Shuguangは、優秀な国営企業と弱小企業を合併させて、韓国のチェボルや日本の財閥型の複合企業を増やそうという計画が進んでいる、と言う。「強力な政府、文化・政治システムの維持、政治とビジネスの融合、である。」

Li教授は、この産業モデルが日本や韓国の非効率な巨大企業に中国を安住させるのではないか、と心配している。しかし、国内の航空業、テレコミュニケーション、自動車産業で、こうした合併を目指してきた。ただし、WTO加盟で、いつか過剰設備の処理問題を避けられなくなる。その場合でも、WTOの原則を守るか、国内利益に従うか、となれば、国内利益が勝つだろう。

もし中国に失業者のための有効な社会保障制度があれば、社会不安は緩和できる。しかし、社会保障制度は無い。株式市場における資金調達を禁じた今週の決定は、政府が社会保障制度を早期に整備するという望みを砕いた。国営企業の株式発行による資金調達は、その10%が、慢性的に赤字が続く国営の社会保障制度に支払われる。しかし、今やこの決定的な資金調達法が閉ざされたのだ。

アナリストたちは、こうした決定が、6月にその政策を発表して以来、約30%も下落した株価を引き上げるために行われた、と言う。確かに、株式発行の禁止は投資家に歓迎されて、その日だけで10%近くも相場は上昇した。しかし、金融市場の問題は何も改善されていない。上場企業の質は悪く、透明性に欠ける。この決定はまた、小口の投資家たちに、株価が暴落すれば政府が助けてくれるという、間違ったシグナルを送った。中国の官僚たちは、投資家に市場の規律を守らせるより、社会不安のリスクを回避する、という選択を行ったのである。


New York Times, October 25, 2001

Hong Kong Debates Link to Dollar

By MARK LANDLER

景気悪化と大衆の不満により、香港はUSドルとの固定レート制を疑問視し始めた。論争は、Antony Leung金融長官が、ペッグは効率的な経済にとっての障害になっている、と語ったことで始まった。

J. P. Morgan Chase の元銀行家であったMr. Leungは、香港がペッグを廃止すれば、物価水準を調整する弾力性を得られるだろう、とも発言した。トレーダーたちは香港ドルを大幅に売って、政府の政策変更を期待した。また、長年、固定制に反対してきた者たちは、二期目を狙うTung Chee-hwaに廃止を強く求めた。元香港商工会の会長で、自由党の党首James Tienは、「Mr. Tungは二期目にこれを廃止すべきだ」と述べた。Mr. Tungはレポーターたちに質問されたが、"The answer is no, no, no!"

香港が近いうちにUSドルとのリンクを廃止すると考える経済学者は少ない。しかし、論争の激しさと強い関心は、世界経済の落ち込みで元イギリス植民地の香港がどれほど動揺しているか、を示している。香港の8月の輸出は9%減少し、成長は止まった。失業率は6%に近づき、199798年のアジア経済危機に際して経験した悪夢の水準と並ぶ。

それでも香港通貨は、他のアジア諸国のように減価せず、香港は貿易や生産の拠点としてコスト高にしてしまった。確かにペッグ制は、外国の投資家たちが中国政府に香港の主権を返還してもその通貨を保有しておける安心感を与えた。「この制度は、香港の将来についての交渉が悪化しつつある時期に導入された。」

ときには、通貨価値を維持するために多くのコストがかかった。1998年には通貨価値への投機のために香港株式市場を操作した外国のトレーダーたちに対抗するために150億ドルが政府によって支出された。危機からは脱出したが、1990年代の不動産バブルが破裂して、不動産価格は暴落し、多くの人の債務額を下回った。「苦痛の多い、緩やかなデフレ過程が続き、人々の不満は高まっている。」

こうした状況で、為替レートが標的となりやすかった。人々はペッグ制をコストのかかる遺産だと主張する。香港の政治的な安定はもはや確立されたし、中国は香港の事情に概ね介入しない。むしろ香港経済の強さが彼らにとっての価値なのだ。

現状維持を支持する者は、香港が金融センターとして発展しており、台湾やシンガポールのような貿易センターではないのだ、という。だから切下げは経済を刺激しない。香港はむしろ、もっと根本的な問題、たとえば不動産市場のカルテルなどを解決すべきだ、と主張する。

しかし、もっとも重要な理由は、この人工700万あまりの香港にではなく、USドルとリンクしている他の諸国に関わる。「もし香港がドル・ペッグを廃止すれば、アルゼンチンでは何が起きるか?」 ....「新興市場が一斉にデフォルトとなるだろう。」


Los Angeles Times

October 26, 2001

The Yellow Brick Road to Recovery

By JOHN BALZAR

ワシントンD.C.のはずれにあるエメラルド・シティーを良く見れば、そこにはブリキの男とライオン、そしてFBIの監視下に藁を撒き散らすぼさぼさのカカシが見えるでしょう。東の国の良い魔法使いがその番号を説明し、子犬のトートーは炭疽菌を検査しています。オズの魔法使いは皆に言いました。「要するに、われわれはどうやって経済を刺激すればよいか、だ。」

ブリキの男は、エメラルド・シティーの保守派を代表して答えます。アメリカのすべての男と女、そして子供に356ドルのチップを支払い、財務省にはたっぷりと赤インクを。その70%はビジネスと人々の暮らしを支え、トラスト・ファンドで暮らすのだ、と保守派は考えます。それで経済はどのように刺激できるか?

「単純です」と、ブリキの男は答えます。「あなたはトラスト・ファンドに出資し、パーム・ビーチの邸宅に暮らしている、とします。あなたのお父さんが土地投機で儲けて、あなたに巨万の富を残したのです。この政策であなたは投資保有額から免税を受けますよ。」これが「キャビア&シャンペン経済学」です。

あなたは、転がり込んだ資金でキャビアとシャンペンを買い、隣人たちと夕食会を開きます。キャビアを買うことでカスピ海の漁民を助け、シャンペンを買ってフランスのワイン醸造所を繁盛させるでしょう。フランスもロシアもこの戦争の同盟国ですよ。彼らはこの刺激策に感謝します。代わりに彼らはアメリカの製品、例えばボーイング社の武器を買うでしょう。夕食会は隣人たちの不安を解消し、地元の仕出屋にも売上が増えるのです。

違う方法を、エメラルド・シティーの二大政党を妥協させるために、カカシが提案した。アメリカ人一人当たりたった250ドルを赤字にして追加支出すれば良いのです。半分はビジネス界への減税、半分は解雇された人に支払われます。経済をどう刺激するのか?

「簡単です。」と、カカシは答えます。「あなたはレイ・オフされた添乗員とします。失業手当が延長されたあなたはハワイに休暇で遊びに行くわけです。他方、ワイキキのホテルでは、従業員を解雇してしまったのですが、刺激策を受けてメイドを再雇用し、部屋を整えます。メイドがまたすぐに本土へ旅行して、こんな風に航空産業も繁盛しますよ。」

一方、航空産業は刺激策の一部で航空機を改装し、誰もがゆったりと足を伸ばして、快適に座れるから、すぐまた利用したくなるわけです。メイドはこの新しい空の旅を自慢し、ビジネス客もいっぱいになるでしょう。あなたも仕事に戻れますから、ゆっくり休んで、日焼けしてください。これが「空中パイ理論」の経済学です。

ライオンは最後に話した。彼はオズ大王の前で怯え、声がかれている。しかしリベラルのために話した。赤字の店からいくらか借金を取り除いてやって、アメリカを再建しようよ、と。(リベラルはいつもこんな風に交渉するのが好きだ。)

道路を舗装し直して、幅も広げる。フリーウェイを二階建てにしてはどうか。大学も25年は遅れているメインテナンスを行えばよい。ミシガン州の老朽化した木製の下水管は近代的なコンクリートの管に代えられます。ダムや橋も崩れ落ちる前に補強し、新しいエネルギー網や、私たちの子供の学校も新設できます。もしかすると超高速の鉄道も。

経済をどうやって刺激するのか? 「そうですね」と、ライオンは答えます。「数え切れないビジネスが建設工事の契約によって生じます。そして多くのアメリカ人たちが失業から解放されます。自給6ドルのハンバーガー焼きから、自給25ドルのブルドーザー操縦士に変身です。」賃金が上昇し、お金が経済に注がれます。下層階級が新しい豊かな中間層になり、お金をいっぱい遣うでしょう。好景気が余りに長く続かない限り、フリーウェイは詰まったりしません。やっとアラン・グリーンスパンも休暇が取れますね。これが「ニュー・ディール理論」の経済学です。

「ニュー・ディールだって?」と、ハートの無いブリキの男は叫びました。「そりゃダメだ。パーム・ビーチの住民はそんな愚策を相手にしない。」

「ニュー・ディールだって?」と、脳みそを欲しがっているカカシは叫びました。「それはすごいアイデアだ! でも、学校に居る子供やフリーウェイを走るドライバー、それにハンバーガーを焼く人なんて、選挙の役に立つの?」


Financial Times, Tuesday Oct 30 2001

Islam's geopolitics as a morality tale

Jeffrey Sachs

文明の興亡や文化の優劣を論じることは歴史上に多くなされてきた。キリスト教社会とイスラム教社会との対立を解釈することもその一つだ。地政学が道徳的な物語になる。しかし、文化の役割は重要ではない。イスラム社会の問題は、地政学や地理学にあった。

キリスト教とイスラム教との分割も地理的・生態学的に起きた。温帯のヨーロッパ・キリスト教圏と、砂漠や草原が広がる中東・北アフリカ・中央アジア、である。AD800年頃、イスラム教圏は繁栄し、キリスト教圏と人口もほぼ同数、3000万人であった。世界最大の交易都市はイスラム教圏にあった。イスラム教圏の13都市が人口5万人を超えていたが、西欧ではローマだけであった。

ヨーロッパにおける人口増加がこのバランスを変えた。ヨーロッパは政治的により安定した封建制に組織されただけでなく、農具などの技術革新で、AD1000年後に人口が急増し、1600年には1億人を超えた。対照的に、イスラム社会は乾燥と資源不足に制約された。人口は、産業革命と技術のもたらされた19世紀末まで、ほとんど増加しなかった。

人口が少ないことばかりか、政治的な支配力喪失でも、イスラムは苦しんだ。特にヴァスコ・ダ・ガマがアフリカを回ってアジアに達する海路を発見し、シルク・ロードや紅海、中央アジアは交易路から外れた。さらにヨーロッパの海軍力はインド洋の支配権をイスラムから奪った。ヨーロッパの優越は確立されており、スエズ運河も周辺地域への軍事的支配や金融的支配でイスラム教圏の復興にはならなかった。1900年までにオスマン帝国は解体され、油田の発見もヨーロッパによる植民地化の終わった後だった。

20世紀までに、イスラム諸国は交易路や一次産品どころか、主権さえも失ってしまった。イギリスやフランスの支配は、中心部の経済的・軍事的な優位を維持するために植民地を経営するだけで、何も良い教訓を残せなかった。1950年代のエジプトのように、政治的な独立を達成しても、指導者たちは間違った選択をした。彼らは自給的な発展を目指し、ソビエト型の社会主義モデルを採用したのだ。漸くこの20年間に、幾つかの国が経済改革を行い、ヨーロッパやアメリカとの貿易を拡大し始めた。

こうした悲しい歴史は両者の側に間違った確信をもたらした。西側の多くの人々は、イスラム社会がどうしようもなく遅れている、と考える。それは地理的・地政学的な理由ではなく、道徳として理解され、丁寧な態度や堅信も誤解された。しかし、社会を内的に浄化してイスラム世界の黄金時代を復活させるという少数の原理主義者が持つ確信は、軍事的な敗北や西側の政治的介入で、一種の救済を求める気分を広めている。

現在の危機に対する解決策は、イスラム教圏とキリスト教圏との軍事的な分断化ではなく、むしろ境界の開放であるに違いない。アメリカやヨーロッパはイスラム世界を石油利権の争いとしてだけ見ないことだ。イスラム圏の諸都市は、貿易、思想、技術、文化の世界ネットワークから外れているが、この状況は変わるだろう。アメリカやヨーロッパは貿易政策を変え、中東諸国に市場を開放すべきだ。市民社会のネットワークが何世紀にもわたる戦争と不信、西側列強による介入の記憶を克服するだろう。


New York Times, October 29, 2001

Shame in the House

By BOB HERBERT

John F. Kennedyが演説してから40年後に、Edward M. Kennedy上院議員は仲間たちに呼びかけた。「911日のテロ攻撃で、私たちはいかに私たちの一人が傷ついても私たち皆が痛みを感じるかを知った。私たちは最初、それを他人事だと思っていた。」そこで、この69歳の勇敢な上院議員は「自分がしていることすべてを新しい基準で見直そう」と言った。「国家の緊急時に私的な利益を求めるのは、アメリカ人ではない」と。

しかし、誰もが聞いていたわけではなかった。先週、下院は僅差で経済刺激策のパッケージを通過させた。その主要な中身は、いつもながらの強欲である。共和党員は議会を牛耳り、景気悪化に苦しむ庶民の前で、富裕層への恥知らずな減税ギフトを送り出した。

アメリカ人が内外で戦い、死んでいるときに、愛国心が高まるのは当然である。それを政治家が食い物にしてはならない。しかし下院の政策パッケージは息を呑むような冷笑と図太さの見本である。主要な提案者であるカリフォルニア選出の共和党議員Bill Thomasは、国のために働くビジネス界に緊急の支援が必要だ、と述べた。しかし詳しく見れば、最大の利益を得るのは大企業だ。IBMに14億ドル、GMに8億ドル、GEには67000万ドル。これは名前だけで中身の無いパッケージだ。アメリカでもっとも苦しんでいる消費者が最小の支援しか得られない。経済の刺激を名目に、非常時を悪用して大金持ちにご祝儀をくれてやったのだ。

政治アナリストのKevin Phillipsは、National Public Radioでこれを批判した。戦時中にこんな法案を議会が通過させたことなど無い。下院の誰も、これが上院を通るとは思わなかった。しかし下院の法案が極端なものであればあるほど、同じ意味で弁解しようの無い妥協の塊ができた。たった一つの解決策は、国民が叫ぶことだ。無数に多くの国民が政治家たちを指差して、罵倒すべきだ。「恥を知れ!!」、と。


Washington Post, Monday, October 29, 2001; Page A17

The Somalia Example

By Jackson Diehl

わずか9年前、ブッシュ元大統領は何千もの軍隊を送って、内戦と飢餓に苦しむイスラム教国ソマリアの食糧支援を護衛した。しかし、難問は、どうすればソマリアに混乱を残さずに軍を引き揚げることができるか? ということだった。

問題を引き継いだクリントンは、ソマリアに国連主導の新しい政治秩序を構築するという野心的な目標を立て、破局をもたらした。ソマリアは軍事的介入の失敗と見なされた。

今、共和党がしていることは、悪夢の繰り返しのようだ。そこで、元ブッシュ政権の公使Robert Oakleyと国連軍司令官Jonathan Howeの意見を聞いた。なぜソマリアは失敗したのか、アフガニスタンへの教訓は何か、について彼らの意見は一致した。

Oakleyの教訓:「介入の政治的側面と軍事的側面は結びついている。もし政治的側面が是正できないのであれば、軍事的にも失敗する。」当時の国連は、新しい政治秩序を草の根から築こうとした。それは民兵組織が徘徊する国で非常に困難な目標であった。他方、クリントン政権は軍備解除してアメリカ軍を引き揚げ、後は国際的な軍隊に任せようとした。しかし、「目標が野心的であるほど、軍事的な関与も深くなる。」

Howeの教訓:「アメリカにはその国を安定させるのに必要な資源と軍隊を提供する意志が欠けていた。」その政治計画は確かに野心的過ぎただろうが、今、アフガニスタンで言われていることはこれと同じだ。アメリカはそれを行う軍事力も、手段も持っていた。他方、重要ではあったが、国連の組織は弱かった。

今日、アメリカにはソマリアで得られなかった重要な要素がある。すなわち、犠牲や戦死者も覚悟した、国内の強い支持だ。しかし、ブッシュ政権の政治的軌跡と軍事的軌跡とは離れている。タリバンに絞って攻撃するが、戦争を終わらせる政治工作が欠けている。HoweOakleyも心配する。「われわれはアフガニスタンを占領できない。しかし立ち去るわけにも行かない。」「正しい政治的な解決策、すなわちアメリカの軍事的存在だけでなく、政治的存在を示す解決策が必要だ。それが無ければ、われわれが占領しなければならなくなる。」


Financial Times; Oct 30, 2001

A way out for Argentina

By RICARDO HAUSMANN

アルゼンチン経済は転落し、雇用も、税収も、政治的支持も失った。政府は労働者や年金生活者、地方政府との約束を守るにはデフォルトするしかない。市場もこれが続かないと知っている。ドル債はデフォルト価格で売買され、金利も高騰して、政府を支払不能にし、民間投資や景気回復を不可能にした。

デフォルト、切下げ、あるいは両方を求められているが、問題はドル建債務が切下げで返済額を爆発させ、エクアドルやインドネシアで起きたように、破産が広がることだ。それゆえ政府は債務負担を減らし、競争力を回復しようとしてきた。しかし、それも機能しなかった。

機能しえる代替策には、二つの要素が不可欠である。一つは対外債務や銀行システム、契約する通貨を、ドル建からペソ建に変えること。第二は、インフレ・ターゲットに結び付けた為替レートを変動させること。

この改革案により、アルゼンチンは銀行システムや政府の(IMF、多角的融資機関から借りた部分を除く)ドル建債権・債務をチリ型のインフレ連動ペソ通貨建に転換する。その他の契約条件は、満期や利子も含めて、同一に保たれる。独立の機関(例えばIMF?)が物価指数を計算し、債務額を連動させる。

通貨政策の信認を得ることが決定的である。メキシコ、チリ、その他の開発諸国が示すように、変動制とインフレ・ターゲットでこれを実現できる。また、IMFの金融支援計画が決めた緊縮的な財政政策も実行する。1999年にブラジルで、需要抑制と通貨ミスマッチの解消、健全な財政計画がインフレを低く抑えた。

投資家たちは伝統的な債務の消却よりもこの戦略を好むだろう。必要となっている、通貨の実質的減価、を行えば、新しいインフレ連動型ペソ債のドル価値も減るだろう。しかし実質減価はおそらく一時的であろう。債務が返済されるときには(満期は平均で8年と、かなり将来である)、実質為替レートが現在の水準を上回っていると言ってもよい。その場合、債務の消却は起きない。実際、メキシコの実質為替レートは1994年のテキーラ危機で暴落したが、今では危機前よりも強くなっている。

さらに、アルゼンチンの実質為替レートは好況時に増価し、不況時には減価して、債務支払額を経済の支払能力に沿って変動させる(から望ましい)。インフレ連動型ペソ債は、保有者にとってより安全な資産である。また計画は、銀行システムの安定化を図り、企業への融資や、預金者の不安を取り除くべきだ。同時に、より弾力的な為替レートになれば、貿易や統合化、メルコスールに関する国内の対立が緩和される。

そこでさらに、IMFや国際的な支援を受けて、S.フィッシャーの指摘するような債務減額交渉も行い、民間投資家の譲歩を引き出すことで、財政的な刺激策の余地を創るしかないように思います。De la Rua tries to calm investors over debt and currency” (FT, Wednesday Oct 31 2001)


Financial Times, Wednesday Oct 31 2001

Time for Plan B in Argentina

Martin Wolf

Ricardo Hausmannの論説記事はアルゼンチンに関する論調を転換した。彼は米州開発銀行のチーフ・エコノミストとしてハード・カレンシー・ペッグやドル化を強く支持してきた。その彼が今や、ペソの変動とドル建債権債務のインフレ連動型ペソ建債券への転換、そしてインフレ・ターゲットを主張したのだ。この変心には十分に意味がある。

債務を維持不可能にしたのは、カレンシー・ボードとドル建の公的債務累積という組み合わせであった。ペソがUSドルに固定されているから、貿易相手国がほとんどすべて通貨を切り下げてしまったのだ。このことが成長を奪い、制度の信認を掘り崩した。その結果、上乗せ金利は20%以上に達し、貿易収支は黒字であっても利払いが経常収支を赤字にし、不況を悪化させた。実質GDPは3年前から6%も減少し、消費者物価も下落した。

金利低下と景気回復への正常な経路はたどらなかった。政府が財政赤字ゼロを法律で決め、IMFが巨額の支援を行ったが、信認は回復されなかった。唯一の策は、IMFが二国間でアルゼンチンの将来の返済を無限に保証することである。民間債権者は無傷のまま逃げ出せるが、このような保証は前例が無く、モラル・ハザードも深刻である。

そこで計画が変わった。切下げが大きいほど債務の消却は小さくてよい。その逆も正しい。もしアルゼンチンが為替レートを変動させ、債務も国内通貨建であったなら、債務の消却を回避できるかもしれない。なぜならアルゼンチンの債務額はGDP比でイタリアの半分しかないからだ。成長が4%あれば融資は維持でき、金利は低いままであっただろう。逆に、債務を大幅に削減できれば、アルゼンチンは減価しなくても景気回復できる。

だから政府は、小規模の債務免除でカレンシー・ボードを廃止する(そして減価する)か、あるいは大幅な消却でカレンシー・ボードを維持し、さらにはドル化にも挑むか、を選択しなければならない。この点でHausmann教授の提案は最初の選択肢に近い。変動制になるが、債務の削減は減価の程度によるし、GDPに比べた債務額は減らない。しかし、彼の提案はドル建債務額が減価によって破滅的に増加する事態を防ぐ。

不幸にして、アルゼンチンは通貨のペッグ制を死守するように見えた。それは大幅な債務の消却を意味し、債権者との込み入った交渉が必要になる。しかし債権者はリスクの報酬を得てきたのであるから、損失を覚悟しているはずだ。

教訓は4つある。1)IMFが維持不可能な政策を止めさせるのは非常に難しいこと。一旦、決まってしまえば、公的機関は支持するしかない。2)完全な固定制でも嵐がくれば沈没する。自然にアンカー通貨が決まる国を除いて、カレンシー・ボードやドル化よりも、変動レート制とインフレ・ターゲットを選択すべきである。3)巨額の外貨建借入は危険である。4)より良いリスケジュール制度が必要である。債務国のペナルティーは今より軽減するべきだ。他方、債権者はリスクに応じた高金利を得ているから、リスケジュールに応じるべきだ。

(コメント)

カヴァロが目指すのは、あくまで市場参加者の自発的な選択による債務スワップです。より長期の、金利の低い債券に、より高い保証を付けることで、現在のドル建短期債券と交換する、と主張しています。Argentina May Restructure Its Debt, Risking DefaultNYT, October 30, 2001)そうすればカレンシー・ボードへの信認は回復し、強制的なデフォルトを回避して資本市場に留まることができるからです。通貨価値を国内的にも対外的にも安定したまま維持し、さらに国内金利プレミアムの低下、対外債務への利払い減少は財政支出の余地を生み出し、漸く景気回復が可能になるでしょう。

あるいは、アメリカ政府・財務省やIMFからの積極的な支持と債権者への政治的説得、そして債務交換ができなければ何が起きるか? を考えさせることでしょう。カヴァロはチップを積み続けることで、相手が勝負を降りるしかないと示したいのです。Argentine Leaders to Hold Key Meeting on Default Dangerby REUTERS, NYT, October 31, 2001)しかし、こんな危険な交渉ゲームでしか、国際金融の参加者は、協力して債務条件を再調整できないのでしょうか?  Martin WolfFischerも、新しいルールや制度が必要であると主張します。

The Economist, October 20th 2001

しかし、上海のAPECサミットがパウエル氏の影響の頂点であったかもしれない。戦争は長引き、協調の駆け引きが始まる。戦争が拡大し、イラクに及べば、再びパウエル氏は少数派になる。政権内部の対立は世界に占めるアメリカの役割にも関係し、パウエル氏は批判的な意見だけでなく、ブッシュ氏と対立することになる。

大統領は、テロとの戦争を限定して使い、政府の重点政策とした。しかし、パウエル氏は戦争の先を見越して、新しい地政学を描きつつある。カシミールの交渉に参加し、パキスタンの国家を支援し、パレスチナとイスラエルの紛争にも関与を深める。どちらのケースも成功の見込みは小さい。テロとの戦争が、パキスタンとインドを少しは同じ側に立たせる、というパウエルの見通しは正しい。そしてまた、中国やロシアとの関係も変える、と。

それは非常に野心的な地政学の描き変えである。そしてその分、政府内部の不信感も強い。パウエルの役割がどう変わったかは、まだ分からない。