今週の要約記事・コメント

10/29-11/3

IPEの果樹園 2001

New York Times, October 18, 2001

Unemployment Insurance Needs Overhaul

By ALAN B. KRUEGER


New York Times, October 18, 2001

Argentina Tries to Swap Bond Debt

By CLIFFORD KRAUSS


Financial Times, Saturday Oct 20 2001

Brand of the free

Richard Tomkins

アメリカと言えば、何を思い浮かべますか? 自由、寛容、そして民主主義? それとも、バービー人形やハリウッド、MTV、コカ・コーラ、チキン・ナゲット? アメリカがそのイメージを管理できないことが、911日以後のプロパガンダ戦争で重大問題となってきた。アメリカは確かに、世界にとっての自由の灯台であるが、同時に、世界中で腐った商業主義を撒き散らす国として非難されている。問題は、アメリカのイメージを新しいブランドとして定着できるか? である。

ブッシュ政権は、できる、と考えたようだ。2週間前に、国務省は新しい次官としてJ. Walter Thompson advertising agencyの元会長、Charlotte Beersを抜擢した。彼女は広告業界でマディソン・アヴェニューの女王として有名な人物だ。

テロリストとの戦争に勝つための宣伝を行うだけでなく、彼女の任務は、アメリカの価値と外交政策、すなわち「アメリカを売り込む」ことである。それは歴史上、最大のブランド認知作戦である。

確かに、スペインやポルトガルのような小国は国のイメージを転換させることに成功したが、アメリカのような大国では問題が全く異なる。the Wolff Olinsの共同創立者であるWally Olinsは、他国の人々がアメリカについて抱くイメージは混乱している、という。薄っぺらな物質主義に見える消費文化への侮蔑、その価値観への賞賛、高度な科学・技術水準への驚愕。

この矛盾したイメージは、ある意味で、アメリカに少なくとも二つの文化があることを示す。民主主義と個人の尊重という理想に示された文化と、ハリウッドやMTVに代表される大衆的な消費文化である。多くの人々が前者を求め、後者に熱狂する人は少ない。しかし、自分たちの文化や伝統が脅かされていると感じるとき、特にアメリカの魅惑的な消費文化が浸透してきたことを見て、彼らは憤慨する。

彼らの心の中でアメリカの大衆文化がアメリカを代表する余り、アメリカ大使館を爆破できなければアメリカ映画を上映する映画館を爆破し、アメリカ空軍基地に行かずにマクドナルドを襲撃する。アメリカのその他の芸術的な価値は忘れられ、ブランドだけが重要になってしまう。

Olins氏は、影響力のある者に影響を与えるべきだ、と言う。「アメリカの内外で、アメリカのイメージを創っている人々を説得しなければならない。アメリカのイメージに何かの形でまとまりを与え、力強い、好ましいものにする必要がある、と。」

ブランド・イメージとしてアメリカの価値が伝えられることは、30年前にコカ・コーラが初めて登場したとき、さまざまな人種からなる200人の若者が丘の上で歌っているコマーシャルを思い出せばよい。世界の団結と多様性という考え方を宣伝するのは、コークを売るのと同じである。すでに一つの広告が流されている。:「私は、アメリカ人です。」

戦争において、プロパガンダは強力な武器となる。Beers女史は、アメリカの高尚な理想と愚劣な商品化とを結ぶ橋を造らねばならない。


New York Times, October 19, 2001

A Better Society in a Time of War

By ROBERT PUTNAM

911日の攻撃と同様に、真珠湾が攻撃されたときにも、すべてのアメリカ人が不安や頼りなさとともに誇りと市民としての自覚を感じていた。1941年の127日に続く数日から数週間に、今と同じように、アメリカ人は地域社会の中で意義あること、喜ばれることを行った。

地域社会は、単に破壊のイメージを共有するだけではなく、数え切れない人々の心遣いと連帯感から生まれる。戦闘機のテレビ中継が、燃え上がる戦場に関するラジオ報道よりも、コミュニティーを創り出す訳ではない。

市民防衛隊に参加したアメリカ人は、1942年の120万から、1943年には1200万に増加した。そこには、連邦政府と地域社会との協力、彼らの気持ちを国家的な目標に組織する政府の指導的な役割があった。社会は大きく変わったが、今もこうしたコミュニティーの参加活動を強化することは重要である。

実際、911日以降、アメリカ人は自分たちの連帯感に驚いた。アメリカ人の約4分の1、ニュー・ヨーク市民の3分の1以上が献血した。犠牲者や救援活動のための寄付金は10億ドルに上った。教会などを訪れる人が増加した。


Washington Post, Sunday, October 21, 2001; Page B07

Will War End the Slump?

By David Ignatius

「長期的には、人はみな死んでしまう」と言って、ケインズは経済学者が長期の心配をするべきでないと主張した。しかし、テロ攻撃の影響は、長期と短期で大きく異なる。

アラン・グリーンスパンは議会で証言し、その短期的な影響が消費や金融市場において引き締めを促していることをズバリと述べた。多くの評論家は、911日のテロが世界経済を不況に突き落とす、と恐怖を振り撒いている。それは短期的に正しいかもしれない。しかし、このデフレ心理が続くとは、私は思わない。その理由は、アメリカとその同盟諸国が支出を増やすこと以外に、現在の混乱から抜け出す道は無いからである。

ブッシュ政権は減税と支出増加で1300億ドルを来年の経済に注ぎ込む。そして、大統領が認めるように、戦争は数年続くだろう。それは世界中のアメリカ軍を通じて支出を増やす。炭疽菌やその他のテロから国民を守るための新技術に数十億ドルが支出されるだろう。そして、戦争とは金がかかるものである。歴史的に、戦争はデフレではなくインフレを意味する。

インフレ懸念が債券市場で長期債の売りと短期債の買いを促している。こうしてイールド・カーブは傾斜が急になる。その理由は、一部には、Fedが短期金利を下げたからである。長期金利が上がっても、Fedは短期金利を上げていない。なぜグリーンスパンは、債券市場と同じように、インフレを心配しないのか?

答えは、911日の前に経済活動が大きく落ち込んだことを知っているために、彼はインフレを招かずに金利を下げる余地が十分にあると考えているからである。軍事支出が増加し、財政赤字が増加するかもしれない。しかしグリーンスパンは明らかに、これがインフレでまかなわれたヴェトナム戦争のようにはならない、と考えている。

ケインズには悪いが、長期的に、より安全な世界を回復するには金がかかる。検査装置、治療薬、テロリストの探索、さらに、そうだ、アフガニスタンのような国で国家を建設するのにも金がかかる。こうした支出のいくらかは世界経済に乗数効果をもたらす。


Bloomberg, 10/21 14:34

For Japan Banks, Nationalization Is the Default

By Patrick Smith

昨年夏の楽天家たちも、今では遠い記憶となった。小泉潤一郎が日本の将来を変える鍵となるかに思えたが、彼も所詮は自民党の管理人であった。日本のシステムを変更することは避けて、その掃除や窓拭きに忙しい。

銀行危機に対して小泉政権に可能な選択肢について、根気強い調査の結果がここにある。結論を言えば、二つの案が浮上しつつあるが、どちらも悪い内容だ。

世界的なヘッジ・ファンドのパートナーであり部長でもあるRob Duggerは二週間前に帰ってきた。彼は小泉政権に四つの選択肢を示したのだ。彼によれば、小泉は銀行部門の国有化に向かいそうである。彼は、アメリカでS&Lを処理したRTC(the Resolution Trust Corp.)のWilliam Seidman David Cookeにもインタビューしている。

4つの選択肢とは、(1)あらゆる変化を拒んで時間を無駄にする。(2)RCC(the Resolution and Collection Corp.整理回収機構)を拡充する。(3)FSA(the Financial Services Agency金融庁)を強化し、返済見込みのある債務を買い取って「レバレッジなしの信託」を民間部門で作る。(4)銀行部門の国有化。

Duggerによれば、ほとんど全員が一致して、(1)(4)の選択肢を避けるべきだ、と言う。しかしまた、彼らは当面もっとも起こりうるのは(1)であろう、とも言う。そして多くの者が強調するのは、(1)時間つぶし案、を続ければ、結局は(4)国有化案、になるということだ。

そこで、国有化が近いと仮定しよう。それは20%も可能性しかないが、デフォルトによって強いられる心配もある。世界経済の減速は、日本の経済・制度・政治状況にとって致命的かもしれないからだ。

もし厳格な退出(銀行の破産処理)が組み込まれていないなら、それは結果的に経済の機能麻痺と財政赤字の危機を拡大する、とDuggerは書いている。すなわち、デフォルトが始まる。銀行が国有になっただけで、現在の政策は続く。

良い国有化は「厳格な退出プラン」を必要とする。しかし、小泉政権はそれを用意するために指一本動かそうとしない。Cookeによれば、RCCは少なくとも1000人の専門家を要する。また、厳密な時間制限と詳細な法的枠組み、ルールや規制も必要である。それをしないということは、不良債権処理がまだ何年も残るという意味だ。

市場はそれを気にしている。海外投資家たちが東京株式市場で4週間連続の売り越しとなっている。このことから幾つかの結論を導ける。まず、小泉はますます冷戦の最後のツケを払わされるという、自民党の慣性に巻き込まれた。官僚と政治エリートが支配する国家管理に、この非正統派の政治家も染まってしまったのだ。しかし、誰一人驚くことも無い。

第二に、日本人がどこまで、現実に、実際的な意味で、市場経済学を受け入れるのか、問うべきである。日本は銀行危機よりももっと大きな問題に答えを見つけようとしている。この点で、榊原英資のアングロ・アメリカン型ネオ・リベラリズム批判はヒントになる。それは明解で、ときには見事な文明の衝突を示す。


Financial Times, Tuesday Oct 23 2001

How to rescue Japan

Takatoshi Ito

日本の金融システムは再び危機にある。デフレ、世界不況、銀行の低収益と不良債権。それは過小評価されている。

さらに悪いことに、政策が行き詰まっている。日銀は構造改革や財政規律無しに拡大政策を採ろうとしない。政府はデフレが怖くて、拡大的な通貨政策無しには構造改革を行えない。1997-98年の金融システム危機が迫っている。何をなすべきか?

日本は二つの行動を必要とする。一つは、日銀が緩やかなものでもデフレの危険を認め、年1〜3%のインフレ目標を導入することだ。それはデフレを止め、市場に明確なシグナルを送ることになる。また、直ちに長期国債を購入し、マネタリー・ベースを増やすとともに、それが上手く行かないなら、実物資産と結びついた金融手段(広く株価指数に連動した信託や土地担保信託)を購入することも必要だ。これらは流通市場で購入できる。

それが長期の名目金利を上昇させ、国債価格を暴落させる、という批判がある。しかし、景気回復の利益は資産価格の下落よりも大きい。日銀は金利を抑えるために通貨政策を緩和し続けねばならない。なぜなら、それ以外に需要を刺激する手段は無いからだ。例えば、財政支出拡大は、累積債務額が大きすぎて、選択肢とならない。政府は無駄な公共投資を止めて、実際にビジネスや投資を促すような支出に振り変えるべきだ。しかし、切下げによってデフレと戦うことはもはやできない。世界経済が拡大しているときには、アメリカもアジアも円安を受け入れた。しかし、世界の成長が減速する中で、近隣窮乏化政策は危険である。

第二に、政府は銀行部門の自己資本が危険なほどに少ないことを認め、即座に行動しなければならない。3月の自己資本額は水増しされていた。この半年で株価がさらに下落し、含み損によって事態はさらに悪化している。実際には、報告された額の半分しかないだろう。

金融庁は銀行に不良債権の最終処理を強制すべきである。銀行は借りての将来のキャッシュ・フローを予想して債権額を評価し、予想される損失に備えて準備金を積まねばならない。銀行は将来の納税貯蓄を資産として計上するのを止めねばならない。もし銀行の自己資本が言って一定の比率、例えば4%、を割れば、金融庁は株式を発行して資本を増強させるべきだ。増資を関連する保険会社や困窮する関連企業に引き受けさせてはならない。

市場で資本を増強できない銀行は、政府が公的資金を注入するだろう。しかし、支払不能の銀行は直ちに国有化される。国有化された銀行は不良債権を整理回収機構RCCに売却して、バランス・シートを清算する。国有化された銀行の健全な部分は、市場で投資家に競売される。支払い可能でも増資できない銀行の新規貸し出しは禁止され、ビジネスの縮小を命じる。

RCCは純資産額で不良債権を購入することに取り組むべきだ。その後、債権の回収額を最大にするべきだ。RCCに借り手企業の再建を期待してはいけない。生産を促すために、不良債権を売却した銀行には、その損失額に応じて免税措置を与えるべきだ。


Washington Post, Monday, October 22, 2001; Page A19

Practical Idealism

By Sebastian Mallaby

テロリストの攻撃がある前から、共和党はクリントンの外交政策を道楽だと非難していた。民主主義、AIDS、経済発展、人権。911日以来、その冷笑は激しくなっている。外交とは、今や、国連の人口会議などではなく、テロリストたちからアメリカを守ることなのだ、と。しかし、この戦争のおかしなところは、「リアリスト」の外交がますます陳腐になっていくことだ。そして、1990年代の外交課題は再び注目を浴びつつある。

リアリストたちは、外交とは国民国家間の関係であり、特定の国の政治・経済状態や人権を配慮するものではない、と言う。他国の内政に干渉すれば紛争を招くだけで、人道的な前進も妨げられる。昨年、Foreign Affairsに掲載された論文で、Condoleezza Riceは「権力関係と大国の政治に焦点を絞る」ように主張した。それは、間接的に、民主党のソフトな超国家的課題に関する姿勢を批判したものであった。

ライスの助言はどのように活かされたのか? アメリカは大国と戦争しているわけではなく、超国家的なネットワークと戦っている。われわれの利益を脅かす、無政府的な、国家の壊滅状態にある国を爆撃している。リアリストがいくら国益を重視しても、政府はアメリカの理想を唱え、衛星を駆使したアル・ジャジーラTVとプロパガンダ戦争を繰り広げている。さらに、イスラム国家の内政はにわかに重要性を増した。パキスタン、サウジ・アラビア、エジプトの反米主義に、親米的な政府では耐えられないかもしれない。

この戦争はリアリストの間違いを示している、としか言いようが無い。プロパガンダ戦争に勝つには、自分たちがイスラム教徒を敵にせず、テロリストを敵にしていると訴え続けても、アフガンに援助物資を降らせても、それだけでは十分でない。彼らの心をつかむには、例えば、新しい同盟国であるウズベキスタン国内でも、ソビエト型の独裁に対して人権を擁護しなければならない。イスラム教徒を尊敬すると言いながら、その仲間が(イスラム教徒に多い)髭をたくわえた男を捕らえて拷問にかけるようでは、誰一人信じるわけが無い。

1990年代の政策課題は少しずつ再現されるだろう。パキスタンやサウジ・アラビアで反米主義が根強いのは、そこでアフリカ型の人口増加が続いていることと関係がある。また、環境やAIDSも、1990年代の重要なテーマであった。環境保護派が主張したように、もしわれわれが石油に依存した暮らしを改めれば、われわれはもっとサウジ・アラビアの民主化に強い圧力をかけ、民衆から憎まれた王族たちに依存しないでも良かっただろう。そして、もしわれわれがAIDSと戦わなければ、アフガン型の無法国家とテロリストの基地が増えるだろう。もしわれわれが、すでに2200万人を死亡させ、さらに死者を増やし続けている疫病との戦いに無関心であるとしたら、アメリカは勇敢な理想主義者の国である、などと言っても無駄だ。


Financial Times, Wednesday Oct 24 2001

Global manufacturers aim to make it big in China

Michiyo Nakamoto and James Kynge


Financial Times, Thursday Oct 25 2001

Let the huddled masses go free

Samuel Brittan

1998年に40万人の合法移民があったが、それとは別に約20万人が非合法に移民した。それゆえ、厳しい規制の結果は、犯罪組織に依存した悪夢のような移民状態である。それは「奴隷制と児童労働」を増やす。非合法移民が強制送還されることは少ないから、すべての移民を合法化しても、実際には違いが無いだろう。EUの経験から見て、自由化が移民の洪水につながる心配も無い。

現在の移民政策が行き詰まっている。移民を自由化して、5年後に再評価してはどうか?

The Economist, October 13th 2001


不良債権額は、公式には、主要銀行が行った融資残高340兆円の内の61兆円であり、全銀行でも150兆円である。しかし、Goldman Sachsは237兆円と推計している。金利が非常に低いために、利子だけを支払わせて、銀行は企業が倒産することを引き伸ばしている。しかし元本が返済される見込みは無いのである。9月から市場価格による資産再評価が始まり、これを心配した投資家は銀行の株式を売っている。