今週の要約記事・コメント
10/29-11/3
IPEの果樹園 2001
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日本は中国の変化についていけるのか? と心配する声を聞きます。例えば、日経新聞は10月23日から一連の特集記事「中国:ニッポン融合」を載せています。第1回の冒頭はこう始まります。「日本と中国の経済が融合し始めた。日本企業は生き残りをかけて工場を中国に移し続ける。中国からモノが大量に流れ込む半面、ヒトやカネは中国に向かう。」
その理由は何か? ある社長はこう説明します。「労働者の質の高さ、部品調達の容易さ、輸送面など整ったインフラ。最高の条件がそろっている」と。ほとんどの品目で日本製との品質差は無くなった、とも。そしてこの「中国ショック」を緩和するため、「人民元切上げ」や、日本企業への「対中投資の自制」要求が議論され始めました。
それは、歴史上、何度も聞かれた議論です。衰退するイギリスの製造業や、その前にはインドやアジアの製造業。あるいは、ドイツや日本の追い上げを気にするアメリカの工場主。アメリカの多国籍企業を恐れるフランス、そしてEU。中国の追い上げに経済が崩壊寸前まで解体される台湾や香港の製造業。その主張には経済的かつ政治的な根拠があるはずです。例えば、巨額の固定投資、長期的な熟練の形成、さまざまな供給ラインのネットワーク、そして何より、安定した雇用吸収力など、製造業を維持するメリットとその条件が、重商主義ならぬ、<重工主義>を各地の連立政府に確信させるのでしょう。
同じ日の「大機小機:正常への回帰」は、「巨額の経常赤字を垂れ流しながら資本取引で回収する米国の周到な経済戦略」をこう描きます。「日本は恒常的な円高で内外価格差が拡大し、価格破壊と産業空洞化に悩まされ、加えて対米資本供給のための超低金利政策で家計の利子所得が無くなり、さらに大量の資本流出で国富を喪失する三重苦が続いた」と。
しかし、もし日本の若者が働くことを嫌がり、町工場は後継者を失い、都市のスプロール化でコストが増したのであれば、それは日本が解決すべき問題です。あるいは、投資家がどう思おうと、日本人は仕事中毒を止め、劣悪な労働条件や賃金格差を廃し、住民の意志を反映した都市づくりに向けて前進しているのかもしれません。しかし、日中間(あるいはアジア諸国間)で為替レートが上手く調整できないとしたら、それは雇用や成長に深刻な問題を引き起こすでしょう。他方、アメリカの利己的な政策を非難して、日本(企業や銀行、政府、官僚、日銀)が行ってきた選択の責任を免れるとは思えません。
先週の金曜日に、人文研の研究会で、香港大学のDr. Lukが興味深い報告をされました。中央銀行を持たない香港にとってカレンシー・ボードは必要であり、アジア通貨危機にもかかわらず、土地や株式の価格変動に耐えて産業構造を変化させることは香港の利益である、というのです。しかし将来、人民元が資本勘定でも自由化され、変動レート制に移行できる頃には、香港も人民元を使用するでしょう。香港住民がドル化Dollarizationと完全な人民元化Renminbizationに挟まれている限り、まだ非常に不安定な時期があると思います。
Dr. Lukにアジアの共通通貨について尋ねてみました。彼は、その可能性をほとんど無いし、あるとしても遠い将来だ、と言いました。逆に、あなたはどう思うか? と質問され、私も共通通貨が今すぐ必要だとか、可能であるとは思わないが、アジア諸国が為替レートを含めた政策の調整を互いに促す場(と基準)を持つことは重要でしょう、と答えました。
重商主義への批判は自由主義の古典派経済学を生みました。デフレや切下げによる競争の克服をケインズ主義は目指しました。ではアジアの重工主義は、何によって、破壊的な競争を抑え、共通の国際秩序に向かうことができるでしょうか?
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New York Times, October 18, 2001
Unemployment Insurance Needs Overhaul
By ALAN B. KRUEGER
(コメント)
ブッシュ政権も失業手当の受給資格を拡大しようとしています。そして筆者のKRUEGERも失業保険制度が景気循環を緩和する効果を強調して、それを支持しています。ただし、ブッシュ氏の提案は勤労と怠惰の保守的な均衡に偏っている、と示唆しているようです。なぜなら、失業手当は新しい職を探そうとする意欲を弱めるからです。不況期にはこうした弊害が少ないはずですが、ブッシュ氏はそれでも二重の限定を導入して保守派に配慮するのです。
一つは地域的な限定であり、ヴァージニア、ニュー・ヨーク、ニュー・ジャージーでは自動的に支給が拡大されます。もう一つは時期であり、他の諸州では失業者が30%以上増加した場合に、しかも9月11日以後の失業者に限って支給を拡大する、というのです。筆者は、その区別が恣意的であることと、失業はテロ攻撃に関わらず、それ以前から増加しており、不況の苦しみを緩和するという本来の役割を見失っている、と批判します。
日本でも、失業手当や受給資格の審査は改革の一つの焦点です。痛みを和らげる努力が足らない、という批判が強まれば、小泉政権は何よりも致命的な支持率の急落を被るでしょう。しかも、日本の雇用慣行や賃金体系を見直すことは、構造改革の最も重要な部分であるはずです。もし政治家がこれを取り上げるなら、企業や労働者を積極的に励まして、怠惰な者から有能で勤勉な者へ、社会的な資源を転換する、と宣言するしかないでしょう。
New York Times, October 18, 2001
Argentina Tries to Swap Bond Debt
By CLIFFORD KRAUSS
アルゼンチン政府は、160億ドルの高利回り債券を、より確かな保証を付けることで低利の債券に組替えようと交渉を続けている。しかしStandard & Poor's やMoody's Investors Serviceは、アルゼンチンをデフォルトに格付けしようとしている。
40ヶ月に及ぶ不況と税収の落ち込み、輸出減少は、債務の支払いやドルとの固定レートを維持不可能にしている。格付けの悪化は、ラテン・アメリカ中でさらに金利を急騰させ、投資や消費を削るだけである。政府は債務スワップに取り組むだろう。これによって返済が確実になることは、投資家の利益でもある。しかし、格付け会社の過剰な反応で市場は不安定化している。「彼らは1990年代後半にアルゼンチンの格付けを高くし過ぎたが、今度はその危機を過剰に煽っている」と、ラテン・アメリカに強いBCP Securities の調査主任Walter Molanoは言う。
8月のIMF融資に加えて、世界銀行が次の支援策を検討中である。政府は、この債務スワップが、民間の銀行や年金基金のモデルとして採用されるように願っている。
Financial Times, Saturday Oct 20 2001
Brand of the free
Richard Tomkins
アメリカと言えば、何を思い浮かべますか? 自由、寛容、そして民主主義? それとも、バービー人形やハリウッド、MTV、コカ・コーラ、チキン・ナゲット? アメリカがそのイメージを管理できないことが、9月11日以後のプロパガンダ戦争で重大問題となってきた。アメリカは確かに、世界にとっての自由の灯台であるが、同時に、世界中で腐った商業主義を撒き散らす国として非難されている。問題は、アメリカのイメージを新しいブランドとして定着できるか? である。
ブッシュ政権は、できる、と考えたようだ。2週間前に、国務省は新しい次官としてJ. Walter Thompson advertising agencyの元会長、Charlotte Beersを抜擢した。彼女は広告業界でマディソン・アヴェニューの女王として有名な人物だ。
テロリストとの戦争に勝つための宣伝を行うだけでなく、彼女の任務は、アメリカの価値と外交政策、すなわち「アメリカを売り込む」ことである。それは歴史上、最大のブランド認知作戦である。
確かに、スペインやポルトガルのような小国は国のイメージを転換させることに成功したが、アメリカのような大国では問題が全く異なる。the Wolff Olinsの共同創立者であるWally Olinsは、他国の人々がアメリカについて抱くイメージは混乱している、という。薄っぺらな物質主義に見える消費文化への侮蔑、その価値観への賞賛、高度な科学・技術水準への驚愕。
この矛盾したイメージは、ある意味で、アメリカに少なくとも二つの文化があることを示す。民主主義と個人の尊重という理想に示された文化と、ハリウッドやMTVに代表される大衆的な消費文化である。多くの人々が前者を求め、後者に熱狂する人は少ない。しかし、自分たちの文化や伝統が脅かされていると感じるとき、特にアメリカの魅惑的な消費文化が浸透してきたことを見て、彼らは憤慨する。
彼らの心の中でアメリカの大衆文化がアメリカを代表する余り、アメリカ大使館を爆破できなければアメリカ映画を上映する映画館を爆破し、アメリカ空軍基地に行かずにマクドナルドを襲撃する。アメリカのその他の芸術的な価値は忘れられ、ブランドだけが重要になってしまう。
Olins氏は、影響力のある者に影響を与えるべきだ、と言う。「アメリカの内外で、アメリカのイメージを創っている人々を説得しなければならない。アメリカのイメージに何かの形でまとまりを与え、力強い、好ましいものにする必要がある、と。」
ブランド・イメージとしてアメリカの価値が伝えられることは、30年前にコカ・コーラが初めて登場したとき、さまざまな人種からなる200人の若者が丘の上で歌っているコマーシャルを思い出せばよい。世界の団結と多様性という考え方を宣伝するのは、コークを売るのと同じである。すでに一つの広告が流されている。:「私は、アメリカ人です。」
戦争において、プロパガンダは強力な武器となる。Beers女史は、アメリカの高尚な理想と愚劣な商品化とを結ぶ橋を造らねばならない。
(コメント)
ハイジャックやテロが怖くて飛行機に乗らない。AIDSが怖くてSexしない。狂牛病が怖くて肉を食べない。麻薬中毒のギャングが怖くて街を歩けない。ウィルスが怖くてインターネットもe-mailも見ない。炭疽菌が怖くて郵便や荷物を受け取らない。アメリカが広めた物質文明と情報社会の質が問われている、と思います。
アメリカ人が移動しなくなり、部屋にこもってテレビだけを観るとしたら、分断社会の観念的な一体感ばかりが肥大化するのではないでしょうか? アメリカの内外に多くの閉鎖的な集団が生まれ、互いの行き来を制限し、資格や身分を細かくチェックするでしょう。集団内部の共感が確信に変わり、それが狂信的な信念になっても、離脱することを許さない・・・ そんな集団のいくつかは自衛のために武装し、民兵組織が互いの支配領域を巡って戦闘を繰り返すかもしれません。
答えは、まだ、長い時間を経て模索されるでしょう。G・オーウェルが「愛」や「真理」を管理する政府機関を描写したように、今では誰もが「マーケッティング」を重視します。しかし、これを機会に、アメリカ人は「法の力」で銃器と麻薬を自分たちの周りから一掃するべきでしょう。そのとき初めて、アメリカはその素晴らしい学問水準と報道の自由を通じて、すなわちソフト・パワーによって、世界秩序の再構築を指導できると思います。
New York Times, October 19, 2001
A Better Society in a Time of War
By ROBERT PUTNAM
9月11日の攻撃と同様に、真珠湾が攻撃されたときにも、すべてのアメリカ人が不安や頼りなさとともに誇りと市民としての自覚を感じていた。1941年の12月7日に続く数日から数週間に、今と同じように、アメリカ人は地域社会の中で意義あること、喜ばれることを行った。
地域社会は、単に破壊のイメージを共有するだけではなく、数え切れない人々の心遣いと連帯感から生まれる。戦闘機のテレビ中継が、燃え上がる戦場に関するラジオ報道よりも、コミュニティーを創り出す訳ではない。
市民防衛隊に参加したアメリカ人は、1942年の120万から、1943年には1200万に増加した。そこには、連邦政府と地域社会との協力、彼らの気持ちを国家的な目標に組織する政府の指導的な役割があった。社会は大きく変わったが、今もこうしたコミュニティーの参加活動を強化することは重要である。
実際、9月11日以降、アメリカ人は自分たちの連帯感に驚いた。アメリカ人の約4分の1、ニュー・ヨーク市民の3分の1以上が献血した。犠牲者や救援活動のための寄付金は10億ドルに上った。教会などを訪れる人が増加した。
それは、決して一時的に消え去ったりしないだろう。60年前でも政府の支援は必要であった。しかし、政府が支援すれば、われわれは今でも市民社会を回復できる。ブッシュ大統領は子供たちに、自動車を洗ったり、庭を掃除したりして、アフガニスタンの子供たちのために寄付金を集めてやって欲しい、と呼びかけた。さらに、政府はもっと多くのことをできるはずだ。感謝祭の宗教団体やボーイ・スカウトを通じて市民生活の価値を学び、新しい危機の時代に子供たちが地域社会のつながりを実感できるようにすべきだ。
Washington Post, Sunday, October 21, 2001; Page B07
Will War End the Slump?
By David Ignatius
「長期的には、人はみな死んでしまう」と言って、ケインズは経済学者が長期の心配をするべきでないと主張した。しかし、テロ攻撃の影響は、長期と短期で大きく異なる。
アラン・グリーンスパンは議会で証言し、その短期的な影響が消費や金融市場において引き締めを促していることをズバリと述べた。多くの評論家は、9月11日のテロが世界経済を不況に突き落とす、と恐怖を振り撒いている。それは短期的に正しいかもしれない。しかし、このデフレ心理が続くとは、私は思わない。その理由は、アメリカとその同盟諸国が支出を増やすこと以外に、現在の混乱から抜け出す道は無いからである。
ブッシュ政権は減税と支出増加で1300億ドルを来年の経済に注ぎ込む。そして、大統領が認めるように、戦争は数年続くだろう。それは世界中のアメリカ軍を通じて支出を増やす。炭疽菌やその他のテロから国民を守るための新技術に数十億ドルが支出されるだろう。そして、戦争とは金がかかるものである。歴史的に、戦争はデフレではなくインフレを意味する。
インフレ懸念が債券市場で長期債の売りと短期債の買いを促している。こうしてイールド・カーブは傾斜が急になる。その理由は、一部には、Fedが短期金利を下げたからである。長期金利が上がっても、Fedは短期金利を上げていない。なぜグリーンスパンは、債券市場と同じように、インフレを心配しないのか?
答えは、9月11日の前に経済活動が大きく落ち込んだことを知っているために、彼はインフレを招かずに金利を下げる余地が十分にあると考えているからである。軍事支出が増加し、財政赤字が増加するかもしれない。しかしグリーンスパンは明らかに、これがインフレでまかなわれたヴェトナム戦争のようにはならない、と考えている。
ケインズには悪いが、長期的に、より安全な世界を回復するには金がかかる。検査装置、治療薬、テロリストの探索、さらに、そうだ、アフガニスタンのような国で国家を建設するのにも金がかかる。こうした支出のいくらかは世界経済に乗数効果をもたらす。
第二次世界大戦が1930年代の大不況を終わらせた、とよく言われる。オサマ・ビン・ラディンが行った唯一の良いことは、知らないうちに、2001年の大停滞から世界を這い出させるのに手を貸した、ということかもしれない。
Bloomberg, 10/21 14:34
For Japan Banks, Nationalization Is the Default
By Patrick Smith
昨年夏の楽天家たちも、今では遠い記憶となった。小泉潤一郎が日本の将来を変える鍵となるかに思えたが、彼も所詮は自民党の管理人であった。日本のシステムを変更することは避けて、その掃除や窓拭きに忙しい。
銀行危機に対して小泉政権に可能な選択肢について、根気強い調査の結果がここにある。結論を言えば、二つの案が浮上しつつあるが、どちらも悪い内容だ。
世界的なヘッジ・ファンドのパートナーであり部長でもあるRob Duggerは二週間前に帰ってきた。彼は小泉政権に四つの選択肢を示したのだ。彼によれば、小泉は銀行部門の国有化に向かいそうである。彼は、アメリカでS&Lを処理したRTC(the Resolution Trust Corp.)のWilliam Seidman やDavid Cookeにもインタビューしている。
4つの選択肢とは、(1)あらゆる変化を拒んで時間を無駄にする。(2)RCC(the Resolution and Collection Corp.整理回収機構)を拡充する。(3)FSA(the Financial Services Agency金融庁)を強化し、返済見込みのある債務を買い取って「レバレッジなしの信託」を民間部門で作る。(4)銀行部門の国有化。
Duggerによれば、ほとんど全員が一致して、(1)と(4)の選択肢を避けるべきだ、と言う。しかしまた、彼らは当面もっとも起こりうるのは(1)であろう、とも言う。そして多くの者が強調するのは、(1)時間つぶし案、を続ければ、結局は(4)国有化案、になるということだ。
そこで、国有化が近いと仮定しよう。それは20%も可能性しかないが、デフォルトによって強いられる心配もある。世界経済の減速は、日本の経済・制度・政治状況にとって致命的かもしれないからだ。
もし厳格な退出(銀行の破産処理)が組み込まれていないなら、それは結果的に経済の機能麻痺と財政赤字の危機を拡大する、とDuggerは書いている。すなわち、デフォルトが始まる。銀行が国有になっただけで、現在の政策は続く。
良い国有化は「厳格な退出プラン」を必要とする。しかし、小泉政権はそれを用意するために指一本動かそうとしない。Cookeによれば、RCCは少なくとも1000人の専門家を要する。また、厳密な時間制限と詳細な法的枠組み、ルールや規制も必要である。それをしないということは、不良債権処理がまだ何年も残るという意味だ。
市場はそれを気にしている。海外投資家たちが東京株式市場で4週間連続の売り越しとなっている。このことから幾つかの結論を導ける。まず、小泉はますます冷戦の最後のツケを払わされるという、自民党の慣性に巻き込まれた。官僚と政治エリートが支配する国家管理に、この非正統派の政治家も染まってしまったのだ。しかし、誰一人驚くことも無い。
第二に、日本人がどこまで、現実に、実際的な意味で、市場経済学を受け入れるのか、問うべきである。日本は銀行危機よりももっと大きな問題に答えを見つけようとしている。この点で、榊原英資のアングロ・アメリカン型ネオ・リベラリズム批判はヒントになる。それは明解で、ときには見事な文明の衝突を示す。
日本人以外の多くの者は榊原を異常者や変節者とみなす。しかし私は彼に関心を持ってきた。それは彼が同国人たちからも完全に抹殺されている点で興味深い。日本の14世紀の能楽から引けば、「花とは何かを秘めたものである。」「何も隠さない者は、花になれない。」という。私自身は榊原を賞賛する。しかし、彼が西側で教育を受け、表現を学んだことも忘れてはいけない。多分、日本人が黙っているのは、そういう意味だ。そしてまた、多分、小泉とその閣僚たちが改革を語れば語るほど、改革は遠くにある、ということだ。
Financial Times, Tuesday Oct 23 2001
How to rescue Japan
Takatoshi Ito
日本の金融システムは再び危機にある。デフレ、世界不況、銀行の低収益と不良債権。それは過小評価されている。
さらに悪いことに、政策が行き詰まっている。日銀は構造改革や財政規律無しに拡大政策を採ろうとしない。政府はデフレが怖くて、拡大的な通貨政策無しには構造改革を行えない。1997-98年の金融システム危機が迫っている。何をなすべきか?
日本は二つの行動を必要とする。一つは、日銀が緩やかなものでもデフレの危険を認め、年1〜3%のインフレ目標を導入することだ。それはデフレを止め、市場に明確なシグナルを送ることになる。また、直ちに長期国債を購入し、マネタリー・ベースを増やすとともに、それが上手く行かないなら、実物資産と結びついた金融手段(広く株価指数に連動した信託や土地担保信託)を購入することも必要だ。これらは流通市場で購入できる。
それが長期の名目金利を上昇させ、国債価格を暴落させる、という批判がある。しかし、景気回復の利益は資産価格の下落よりも大きい。日銀は金利を抑えるために通貨政策を緩和し続けねばならない。なぜなら、それ以外に需要を刺激する手段は無いからだ。例えば、財政支出拡大は、累積債務額が大きすぎて、選択肢とならない。政府は無駄な公共投資を止めて、実際にビジネスや投資を促すような支出に振り変えるべきだ。しかし、切下げによってデフレと戦うことはもはやできない。世界経済が拡大しているときには、アメリカもアジアも円安を受け入れた。しかし、世界の成長が減速する中で、近隣窮乏化政策は危険である。
第二に、政府は銀行部門の自己資本が危険なほどに少ないことを認め、即座に行動しなければならない。3月の自己資本額は水増しされていた。この半年で株価がさらに下落し、含み損によって事態はさらに悪化している。実際には、報告された額の半分しかないだろう。
金融庁は銀行に不良債権の最終処理を強制すべきである。銀行は借りての将来のキャッシュ・フローを予想して債権額を評価し、予想される損失に備えて準備金を積まねばならない。銀行は将来の納税貯蓄を資産として計上するのを止めねばならない。もし銀行の自己資本が言って一定の比率、例えば4%、を割れば、金融庁は株式を発行して資本を増強させるべきだ。増資を関連する保険会社や困窮する関連企業に引き受けさせてはならない。
市場で資本を増強できない銀行は、政府が公的資金を注入するだろう。しかし、支払不能の銀行は直ちに国有化される。国有化された銀行は不良債権を整理回収機構RCCに売却して、バランス・シートを清算する。国有化された銀行の健全な部分は、市場で投資家に競売される。支払い可能でも増資できない銀行の新規貸し出しは禁止され、ビジネスの縮小を命じる。
RCCは純資産額で不良債権を購入することに取り組むべきだ。その後、債権の回収額を最大にするべきだ。RCCに借り手企業の再建を期待してはいけない。生産を促すために、不良債権を売却した銀行には、その損失額に応じて免税措置を与えるべきだ。
これらは苦痛の多い手段であるが、デフレを止め、金融システムを清算しない限り、日本は持続的な成長を回復できない。
Washington Post, Monday, October 22, 2001; Page A19
Practical Idealism
By Sebastian Mallaby
テロリストの攻撃がある前から、共和党はクリントンの外交政策を道楽だと非難していた。民主主義、AIDS、経済発展、人権。9月11日以来、その冷笑は激しくなっている。外交とは、今や、国連の人口会議などではなく、テロリストたちからアメリカを守ることなのだ、と。しかし、この戦争のおかしなところは、「リアリスト」の外交がますます陳腐になっていくことだ。そして、1990年代の外交課題は再び注目を浴びつつある。
リアリストたちは、外交とは国民国家間の関係であり、特定の国の政治・経済状態や人権を配慮するものではない、と言う。他国の内政に干渉すれば紛争を招くだけで、人道的な前進も妨げられる。昨年、Foreign Affairsに掲載された論文で、Condoleezza Riceは「権力関係と大国の政治に焦点を絞る」ように主張した。それは、間接的に、民主党のソフトな超国家的課題に関する姿勢を批判したものであった。
ライスの助言はどのように活かされたのか? アメリカは大国と戦争しているわけではなく、超国家的なネットワークと戦っている。われわれの利益を脅かす、無政府的な、国家の壊滅状態にある国を爆撃している。リアリストがいくら国益を重視しても、政府はアメリカの理想を唱え、衛星を駆使したアル・ジャジーラTVとプロパガンダ戦争を繰り広げている。さらに、イスラム国家の内政はにわかに重要性を増した。パキスタン、サウジ・アラビア、エジプトの反米主義に、親米的な政府では耐えられないかもしれない。
この戦争はリアリストの間違いを示している、としか言いようが無い。プロパガンダ戦争に勝つには、自分たちがイスラム教徒を敵にせず、テロリストを敵にしていると訴え続けても、アフガンに援助物資を降らせても、それだけでは十分でない。彼らの心をつかむには、例えば、新しい同盟国であるウズベキスタン国内でも、ソビエト型の独裁に対して人権を擁護しなければならない。イスラム教徒を尊敬すると言いながら、その仲間が(イスラム教徒に多い)髭をたくわえた男を捕らえて拷問にかけるようでは、誰一人信じるわけが無い。
1990年代の政策課題は少しずつ再現されるだろう。パキスタンやサウジ・アラビアで反米主義が根強いのは、そこでアフリカ型の人口増加が続いていることと関係がある。また、環境やAIDSも、1990年代の重要なテーマであった。環境保護派が主張したように、もしわれわれが石油に依存した暮らしを改めれば、われわれはもっとサウジ・アラビアの民主化に強い圧力をかけ、民衆から憎まれた王族たちに依存しないでも良かっただろう。そして、もしわれわれがAIDSと戦わなければ、アフガン型の無法国家とテロリストの基地が増えるだろう。もしわれわれが、すでに2200万人を死亡させ、さらに死者を増やし続けている疫病との戦いに無関心であるとしたら、アメリカは勇敢な理想主義者の国である、などと言っても無駄だ。
確かに、民主化や経済発展は地道な課題であり、進歩が手品のように反米主義を消し去ってはくれない。しかし、テロリズムとの戦いに、長期的な他の選択肢など無いのだ。冷戦を戦った者はこのことを理解していた。アメリカは世界銀行の開発計画を支持し、韓国やフィリピンの民主化を促した。国務省でさえ、1974年に人道問題局を設置し、リアリストの頭領、ヘンリー・キッシンジャーがそれを統括した。コミュニストたちでさえわれわれの外交を広範な課題から切り離さなかったのであるから、テロリストの脅威が外交を萎縮させる必要は何も無い。
Financial Times, Wednesday Oct 24 2001
Global manufacturers aim to make it big in China
Michiyo Nakamoto and James Kynge
韓国の副首相Jin Nyumは、中国に吸い寄せられる外国の製造業を見て、「ブラック・ホール」だ、と述べた。「中国が何でも造ってしまう」ことが特に彼らを当惑させる。
日本の日立やフランスのアルカテルが中国への大規模投資計画を発表した。日立は、日本企業が慎重に高度な技術分野は移転しないようにしてきた慣例を破った。また、アルカテルは資本参加のためにすべての先端技術を利用できる条件を提示した。増大する生産力は、中国市場だけでなく、アメリカやEU市場においても将来の需要増加を満たすように計画されている。
東レは追加投資を決めたが、繊維部門における日本企業の対中投資額は、この10年で、2兆5千億円に達した。同時期、中国からの繊維輸入は6倍になった。
Financial Times, Thursday Oct 25 2001
Let the huddled masses go free
Samuel Brittan
グローバリゼーションが貧しい者の利益であることを示すには、むしろグローバリゼーションが足りないこと、特に移民が規制されていることに反対しなければならない。富裕国の移民政策は、その非合法性や暴力にだけ注目し、まさに麻薬取締りと同じである。
経済移民と政治難民の区別をなくすべきだ。そして誰でも、幸せになるためにどの国に住むことも、自由に許されるべきである。移民の自由化は、その他の経済的自由主義と同じく、一方的に採用することができる。すべての諸国が採用することが望ましいが、豊かな西側諸国だけが一方的に採用しても、世界の富は増えるはずだ。
反対論が唱えるような、年金や差別、暴力に関する問題は、より適切な法律が緊急時には必要であることを示している。自由放任政策を指導するアイルランドは、人口密度が小さく、経済ブームが続いていた。他方、ドイツやイタリアのような移民規制国があるから、EUの移民規制は緩和されそうに無い。
経済学者も、移民と競争する労働者の賃金が低下することを認めている。しかし、高度な調査結果が示すように、イギリスの賃金は低下していない。移民が就く主要な仕事は公的部門であり、政府が賃金を決める。他方、給食サービスや家政婦の仕事は、国内労働者が不足している。移民を雇う企業の多くは、もし移民が来なければ、イギリスで持続できなかっただろう。
移民は、他方で、高度な情報技術者も供給している。それゆえ、移民の構成は国内労働者よりも両極化している。住居はロンドンとイングランド南東部に集中しているが、裕福なケンジントンからイースト・エンドまでに分散している。移民たちの起業家活動は活発だ。また一般に、収入はアメリカの「同化理論」が予想するのと一致している。常識とは逆に、公的支出を10%超える税金を移民たちは支払っている。
1998年に40万人の合法移民があったが、それとは別に約20万人が非合法に移民した。それゆえ、厳しい規制の結果は、犯罪組織に依存した悪夢のような移民状態である。それは「奴隷制と児童労働」を増やす。非合法移民が強制送還されることは少ないから、すべての移民を合法化しても、実際には違いが無いだろう。EUの経験から見て、自由化が移民の洪水につながる心配も無い。
現在の移民政策が行き詰まっている。移民を自由化して、5年後に再評価してはどうか?
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The Economist, October 13th 2001
Dissent in Saudi Arabia: The fatwa against the royal family
サウジ・アラビアの王族たちは、清教徒的なイスラムの宗派Wahhabisによって、その宗教的な正当性を奪われようとしている。Wahhabisは250年間、サウド家に聖戦・ジハードの資金提供者として正当性を与えてきた。周辺の諸部族と戦い、シーア派ムスリムと戦い、オスマン帝国やソ連と戦ってきた。しかし今や、サウド家の軍事的支援者であるアメリカが、聖戦の敵となる。サウド家は、聖戦のパトロンから、その標的になろうとしている。
皇太子はワシントンにサウジ大使として来たが、国王がアメリカとの軍事行動に協力することを拒んだ点を弁護して、国内の脆弱性を認めた。「西側民主主義では、選挙民の支持を得られなければ政治家は落選する。しかし君主制では、首を落とされる。」
Wahhabiの宣言は、サウド家がこの戦争で中立を維持することを許さない。「アラーは異教徒を許さない。」実際、何十年にもわたって、サウド家はその敵対者たちを支援してきたのだ。超保守派が学校を支配し、メディアや警察は音楽もダンスも、女性が顔を出すことも禁じてきた。学校を出た者は資金を与えられ、オサマ・ビン・ラディンの軍事キャンプに行って訓練を受け、公務員たちは休日にアフガニスタンを訪問することが奨励されていた。
Wahhabisの支持を失ったサウド家には正統性が無い、とあるサウジの学者は言った。サウド家が他の正当性を得ることは不可能ではないはずだ。なぜならWahhabisは2000万の国民のごく一部であり、対決を引き伸ばせば、それだけ反動も大きくなるからだ。Wahhabisは王国中に広がったが、特に強固な要塞を築いた辺境の地Asirは、多くのハイジャック犯人たちの出身地であった。多くの若者たちが犯人たちへの連帯を示して逮捕されている。そしてアフガン帰りの兵士は、ボスニア、チェチェン、アフガニスタンで多くのサウジ兵が拘束されている、と言う。
それでもサウジ・アラビアの支配者たちは、Wahhabisを弾圧することで、自分たちの支配の正統性を失いたくないのだ。
Japan’s banks: Out for the count
日本の銀行が破局に面しているという問題については、この10年間に多くのことが言われてきた。今また、9月11日以後の経済悪化で、何か決定的な行動が求められている。しかし、それは何か?
大銀行には損失を埋める資本が無い。公式には彼らのコア・キャピタルは23兆円あるはずだが、本当は3月の時点で10兆円ほどであっただろう。その後の株価下落で5兆円が失われた。同時に不況で企業業績が悪化し、不良債権は増えている。
不良債権額は、公式には、主要銀行が行った融資残高340兆円の内の61兆円であり、全銀行でも150兆円である。しかし、Goldman Sachsは237兆円と推計している。金利が非常に低いために、利子だけを支払わせて、銀行は企業が倒産することを引き伸ばしている。しかし元本が返済される見込みは無いのである。9月から市場価格による資産再評価が始まり、これを心配した投資家は銀行の株式を売っている。
1980年代のアメリカにおけるS&Lの危機は、金融危機の処理モデルを採用した。政府が不良債権を買い取り、それから投資家に売却して、銀行は清算する。こうして幾つかの銀行が閉じられ、生き残った銀行は資本を再強化し、新しい経営者と株主を得て、救済の代償として信用創造と資源配分において重要な経済的役割を果たした。しかし、日本では問題の規模が大きすぎて、このモデルを採用できなかった。
政治家が真剣に問題を意識し始めた1997年から、たった三つの大銀行と、幾つかの小規模な銀行が破産した。政府は最終的な処理を引き伸ばすために、1999年に7兆4000億円の資本を注入し、防衛的な銀行合併で4つの巨大銀行集団が誕生した。整理回収機構RCCは、1999年に日銀の資金でできたが、政治家はこれを銀行救済に使おうと考えている。これまでにRCCは1兆円の不良債権を買い取ったに過ぎないが、それは銀行が売りたがらないからである。金融危機を処理できた他の国と違って、日本では不良債権を売り払わなくても銀行が続けられる。銀行は5%までしか損失を許容せず、RCCが不良債権を市場価格で買い取る限り、売るものは無い。
市場価格を大きく越える価格で、つまり貸倒引当金を追加せずに、販売できるようにすべきだ、と何人かの政治家は主張した。しかし、小泉首相が市場価格での買い取りを主張し、彼らを抑えた。今のところ「市場価格」の解釈を変えるつもりは無いようだ。不良債権の高値買取は、最悪の銀行も含めて、そうとは言わずに再び資本注入することである。銀行の経営者や株主の責任を問わずに資本を与えることについて、有権者の怒りは強く、政府は今のところそのような選択をしていない。
政府は、銀行の玄関から単純に15兆円を押し込むことで、銀行危機を回避できた。政府は何人かの幹部を辞任させ、株主に一部の減資を行わせた。しかし、15兆円も費やして、不良債権を一掃できず、真剣な改革は引き伸ばされたに過ぎない。
KPMGコンサルタンシーの木村会長は、主要30社の大口債務企業に対する処理を行わせる案を示して、政治家の注目を集めた。しかし、最近の対談では、それがより大きな問題処理への、政府に対する起爆剤に過ぎないことを明かしている。
明らかに危険なのは、一時的な国有化案だ。それは実際には永久化し、政府による保証で改革が行われなくなるだろう。多くの銀行家、特に外国の銀行から見て、政府が改革を妨害している見本は、中小企業への融資を増やせ、という金融庁による新生銀行への改善命令であった。それは明らかに、新生銀行が努めている利潤極大化の原理を適用した経営を妨害し、他の外国投資家を威嚇するものである。
これが日本である。政治家は、改革を実行するのではなく、その進め方ばかり議論する。結局、銀行も企業も弱まって、政治家が避けようとした危機を招き寄せている。いくつもの巨大企業に倒産の噂がある。しかし、破産屋などは苦しませれば良いのだ。それこそが日本の銀行システムを再建し、経済を立ち直らせる前兆なのである。