今週の要約記事・コメント

10/15-20

IPEの果樹園 2001

1012日のBusiness Satelliteは面白かったです。Robert Feldman, Richard Koo, 嶋中雄二、各氏が日銀の金融政策現状維持について、番組の司会者をまったく無視して! 圧縮された激論を行ったからです。その最終提言は、

l         Feldman:法改正でRCCが不良債権を買い取れ。その資金は日銀がRCC債券を購入して与えよ。FSA審査の厳格化。政府・経済諮問会議がFSAをチェックせよ。

l         Koo:日銀も政府を批判せよ(政治家に反論せよ)。不良債権を問題にするな。

l         嶋中:健全な経済、物価の安定、を目指して、日銀は政府と協力せよ。

「日銀の金融政策現状維持は正しいか?」「インフレ・ターゲットは有効か?」:FeldmanKoo両氏はYesNo、嶋中氏は、YesYes、であったと思います。肯定した理由は、金融政策として精一杯のことをやっている。現状では、金融政策にできることには限界がある、ということでした。(自民党の桝添氏は、NoYes、です。総裁はクビだ!)

FeldmanKoo両氏は、企業が債務を返済しなければならないとき、金融緩和の効果は無い、と言います。ただし、RCCによる不良債権処理(と銀行再建)を主張するFeldman氏は、日銀による資金供給を前提します。一方、企業が借りないのだから政府が借りるべきだ、と言うKoo氏は、国債増発による財政支出拡大を主張しました。Koo氏と異なり、1930年代のアメリカで金融政策が効かなかった(通貨供給量が減った)理由を、Feldman氏は銀行倒産に求めているのです。

他方、嶋中氏は、インフレ・ターゲットに限らず、まだ金融政策にはできることがある、と言います。金融政策には波及経路が三つあり、日銀(そして他の二人)はインフレ期待や資産価格への効果を無視している、と言うのです。嶋中氏はKoo氏を批判して、金融政策が緩和されたから、円高も抑制され、資産価格の暴落も起きず、倒産は減っている。それは効果が無くて起きているのではなく、その効果を打ち消すような反対の力(持合解消などによる株式売却)があったからだ、と言います。その意味では、Feldman氏のRCC改正案に近づきます。

「不況の原因は何か?」「必要な対策は何か?」:Feldman氏が不良債権処理を重視するのに対して、Koo氏と嶋中氏は金融政策と財政政策とを動員した需要の確保に重点を置きます。構造改革だけでは不況が進むからです。

翌朝、遅い朝食を摂るときテレビを点けると、文珍が不良債権の処理について原田和郎氏や植草一秀氏に質問していました。マネックス証券社長の提案は、銀行が一割の罰金を負担して、割り引かれた株式を政府が買い取り、そのファンドを証券化して(税金を使った代償として)国民に配る、というものです。これに関して、銀行出身の原田氏は、「ペナルティー」に強く反発し、銀行は護送船団方式の負担を大蔵省に強いられたのであり、割引は不要、と言いました。植草氏は、持ち合い解消の株式を政府が購入して、後に売却益を上げられるような景気刺激策を主張し、同時に、誰に責任があるのか、はっきりさせるべきだ、と言いました。

TBSでは、小泉首相が筑紫哲也の番組で国民からの疑問に答えていました。しかし政治家の答えは、小泉氏でさえ、たいてい退屈です。それは根本的な問題を回避するからでしょう。確かに、経済アナリストが戦争について責任ある発言をできるか、は疑問です。しかし言葉が政治家の命であったはずなのに、民間の評論家たちの方が今の政府にふさわしいようです。小泉氏は、このシステムも変えられるでしょうか?

Financial Times, Saturday Oct 6 2001

The Long View: Money on special offer

By Barry Riley

アメリカとイギリスで、金利は40年ぶりの低い水準に落ちた。アメリカの連銀は、13日以来9回も金利を引き下げて、金利を6%から2%まで下げてきた。イングランド銀行も、程度は少ないが、同じである。その間、言うまでも無く、日本の短期金利はほとんどゼロだ。911日のショックを含めて、経済を刺激し、株価を上昇させることが目的である。しかし、40年ぶりの低金利政策には何か理由があるのだろう?

物価が安定しているために、政治問題としては重要でなくなった。ただし、イギリスの住宅市場では15%ものバブルとなっている。しかし、この1年の世界的な「物価氷河時代」は由々しき結果を伴っている。製造業の利潤が激減したのだ。多くの産業で過剰生産力が存在する。経済成長は行き止まり、減少し始めた。

そこで金融政策も転換したのだ。金利は貯蓄を励まし、借入や支出を損なう。金利はゼロに削られる。主要国で金利の付かない流動性がふんだんに供給されれば、金融不安が解消される。デリバティブ市場の不安と、大企業の倒産を心配する声は、いつもある。スイス航空の倒産はほんの前兆だ。

だから貯蓄者は困惑する。イギリス保険協会は、引退後の生活を快適に過ごすためには、今よりも毎年127ポンド余分に貯蓄しなければならない、という報告書を出した。しかし、過剰生産力と利潤の減少が心配される中で、一体、何に投資するのか?

幸いなことに、中央銀行の低金利政策は短期金利に限られ、長期金利にはそれほど及んでいない。それでも、残存期間10年のTBは金利が下がった。投資家は緊急流動性供給がインフレを復活させる心配と、信用リスクに怯えている。

ここに矛盾がある。V字型の急回復はインフレを呼び戻すだろう。しかし、もし中央銀行がインフレ抑制のために不況を利用すれば、借りる者が挫かれる状況になってしまう。イングランド銀行は、住宅バブルを挫いて不況を呼び込むべきか?

日没の国、日本では、奇妙なことが起きている。日本の投資家は国内の株式市場や海外投資があまりにも危険に思えるため、銀行に逃げ込んでいる。銀行は事実上破産状態であるというのに、実際は、政府が支払いを保証していると信じられている。一方、預金金利は実質タームでプラスである。この貯蓄者を預金口座から追い出すには、政府がハイパー・インフレに訴える必要もあるだろう。ABIの報告書も、この低金利が理由になっている。

通常であれば、短期金利の低下は良いことだ。しかし極端な引き下げは、何かが根本的におかしいと感じさせる。イギリスの貯蓄者は預金金利が実質マイナスになることを体験する。長期貯蓄者は、短期金利が上昇し始めることで勇気付けられるだろう。しかし、金利はまだ下がりそうだ。


Bloomberg, 10/05 17:16

Argentina's Cavallo Under Growing Pressure to Quit

By John Lyons

6ヶ月前、アルゼンチンの大統領宮殿は「ミンゴ」の歓声で沸きかえった。2800億ドルの債務を抱えた経済を崩壊から救う最後の切り札として、ドミンゴ・カヴァロが経済大臣として帰ってきたからだ。しかし、不況が深まり、政府が給与や年金を切り捨てたことで、カヴァロへの歓声は辞任を求める声に変わった。

もし彼が辞任すれば、アルゼンチンは1320億ドルの債務を不履行にし、ドルに固定した通貨制度を廃棄するだろう。大統領は何度も彼の辞任を否定したが、今や彼の代わりを探している。政治アナリストは、彼は認めないが、内心では思案に暮れているだろう、と言う。

カヴァロは税制を改め、実質的にユーロをドル・ペッグに加え、債務の4分の1を長期に借り換えた。6月には給与と年金を13%削減して、デフォルトを回避するための財政均衡法を実行した。しかし、こうした政策では景気回復もデフォルトの不安も解消されなかった。アルゼンチンの税収は9月に14%も減少し、経済は2001年に3年目の縮小となるはずだ。債券利回りは、アメリカの財務省証券より19.17%も高い。それか彼が就任してから、10.24%も上昇したのだ。「アルゼンチンが必要としているのは、緊縮策ではなく、成長策を行える人物だ」と、Western Asset Managementのチーフ・エコノミストは言う。

新聞によれば、カヴァロの支持率は51%から17%に下落した。経済学者は彼の財政支出削減策が、アルゼンチン経済を世界的な景気減速の中でさらに脆弱にした、と批判する。ブエノス・アイレス市街では労働者がストラキを行い、地方では道路を封鎖する。

カヴァロが辞任すれば、GDPの54%に達する債務への支払いをなくして、成長を回復するために、議会はデフォルトを要求するだろう。しかし債権者は、デフォルトの条件としてアルゼンチンの輸出品が競争力を持つために、そして賃金を引き下げるために、大幅な通貨切り下げを要求するだろう。しかし、大幅な切下げは、ほとんどがドルでなされているモーゲージや企業・個人の債務も、支払不能にする。

つまり、デ・ラ・ル−ア大統領は緊縮作の政治的コストを吸収させるためにカヴァロを経済大臣に引き止めているのである。「彼は支出削減係なのだ。こんな状況で、誰がそんな役を引き継ぐものか?」


Bloomberg, 10/06 14:57

Powell's Coalition-Building Comforts U.S. Allies, Draws Critics

By Paul Basken

Time誌が「コーリン・パウエルよ、あなたはどこへ行ったのか?」と表紙に書いた直後に、ワールド・トレード・センターをテロリストたちは粉砕した。911日から数週間を経て、パウエルはこうした批判に応えた。

チェイニー副大統領や、ラムズフェルド国防長官、ウォルフォヴィッツ副長官らが「戦争」を宣言していた間も、パウエルは着々とテロリズムに反撃する世界的連携を構築するために電話をかけ続けた。The Carnegie Endowment for International Peaceの外交アナリスト、Joseph Cirincioneは「この危機に際して、パウエルは全く異なった形で登場した」と言う。彼は「国際連携を構築する中軸であり、軍事戦略の決定的な助言者である。」

アメリカは29000人の軍隊と数百機の戦闘機を世界中に展開できる。パウエルは、ウズベキスタンやロシア、イラン、もしかするとシリアにも連携を求めたが、それは批判も招いた。前任者のオルブライトは、支援の見返りとして、これらの人権を無視する諸国に代償を求められるだろう、と指摘した。「余りに連携を広め過ぎると、多くの補償をする羽目になる」と。イスラエルのシャロン首相は、ブッシュが「(イスラエルを犠牲にして)アラブの宥和策に走る」と示唆して、ホワイトハウスから反駁された。

パウエルは、ヴェトナム戦争と湾岸戦争での功績、そしてその哲学で有名になった。それは、「アメリカ軍は軍事力の行使を控えるべきであり、行使する場合は、圧倒的な形でだけ行使するべきだ」というパウエル・ドクトリンとして知られている。リンドン・ジョンソンが命じたヴェトナム戦争では、これとまったく逆に、徐々に関与が深まり、最大で50万人にも達する軍隊が何年も関わることになった。

今回、パウエルは、アメリカの反撃が政治、外交、金融、諜報を含む、と述べた。そして軍事力に関しては、「軍事的な部分もあるかもしれない」と述べたに留まる。

パウエルは毎日外国の指導者に会い、どの国が連携に何を提供できるか、参加の代償として何を求めているか、それは政治的に利用可能か、を測ってきた。彼こそ、この広範な国家と指導者たちとを纏め上げる連携のトップなのである。


New York Times, October 6, 2001

The 40-Year War

By BILL KELLER

何年も前だが、ウズベキスタン国境の街Termezで、私はアフガニスタンから撤退するロシア軍を見た。落下傘部隊は鉄道橋を渡って、向こうで待つ両親やガール・フレンドの腕に抱かれた。地元のスクール・バンドが意気消沈した歓迎のドラムを叩いた。私が兵士たちに尋ねると、国家の威信を示す言い古された言葉が返ってくるのかと思えば、彼らは空ろに見つめただけだった。一人の民間人は「生き延びただけさ」と肩をすくめた。その戦争は15000もの亜鉛の棺を送り返し、多くの幻想を打ち砕いた。同じTermezが、再び脚光を浴びようとしている。

Termezで彼らが失ったものは何か? そこで今、われわれの指揮官は何に関わっているのか? それは世界の激しく対立する見方における小競り合いである。共産主義に対する戦争には明確な目標があった。しかし、テロリズムに対する戦争にはゴール・ラインが無い。われわれは再び40年戦争を戦えるだろうか?

テロリズムのソヴィエト連邦は存在しない。しかし、冷戦史の大家John Lewis Gaddisがイェール大学の911日以降の講義で話したように、ここには驚くべき類似が見られる。Gaddis教授によれば、共産主義も1950年代には敵対国家ではなく、国家の支援する国際的な陰謀集団と見られていた。その一つがアメリカを内と外から脅かしている、と。アメリカの反応は「封じ込め」であった。すなわち、共産主義が現れたところでは、どこでもその影響力を殺ぐために、外交的・経済的な権力を使用し、アメリカが軍事力を行使する以上に、傀儡政権を支援して武装させた。共産主義と正面から戦うよりも、チトーを支援し、中国がソ連と離反するように仕向けて、国際共産主義を分裂させた。封じ込めの思想は、結局、社会は共産主義に耐えられず、それを拒むだろう、ということであった。テロとの戦いも同じである。

もしそれが本当なら、冷戦と同じように、この戦いは世界を再分割する。友人や優先順位、われわれの思想の弾力性を試すことになる。大学の専攻や映画に登場する悪者を変化させる。ご都合主義の国益に乗って、医療研究への法人税減税でも農家補助金でも、何でも議会を通過させる。ガラクタにされた軍隊や諜報機関がよみがえる。

新冷戦が、外国の指導者や問題について、大統領の関心を決める。ヴィンセント・フォックスなんて、さようなら! プーチンよ、あなたは盟友だ! テロへの共通の恐怖が、核兵器による滅亡よりも、われわれを団結させる。新しい冷戦によって、漸く国連への支払いも始めた。この新しい同盟政治の代価は、望ましくない仲間たちだ。ロシア人にはチェチェンでも殺戮を認める。シリア、イラン、パキスタンのような国も、テロリストを支援しないように説得できる可能性があれば、話し合うだろう。道徳的な要求をする保守派も、冷戦においてはラテン・アメリカやアフリカの人殺したちを非難することは控えたのだ。

共通の戦い、共通の安全という名目で、われわれはどこまで穢れた政府を支援し、自分たちの自由を失い、嘘と愛国者ぶった標語で公共の信頼を損なうのか? この戦争は、人権を唱える者、人道的な国際介入を主張していた者たちを苦境に落とすだろう。すでに911日の前でも、政府は国益に回帰していたが、今や彼らへの冷遇は強まるばかりだ。

国内では冷戦がJ. Edgar Hoover Joseph McCarthyを登場させた。今度も、われわれの市民的自由やプライヴァシーは危機にある。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、テロリストたちの動機を理解しようとするような、どんな教授もその愛国心が疑われる、と社説に書いた。さらに過激なデマゴギーはコーリン・パウエルを標的にしており、マッカーサーに愛国心を中傷されたジョージ・C・マーシャルを思い出す。

われわれは冷戦に勝ったが、それはわれわれが何をしたかではなく、われわれが何であったかによるのだ。共産主義者は、アメリカが与えたものを与えることはできなかった。50年前、最初の共産主義に対するパニックが起きたとき、ジョージ・ケナンは手紙を書いた。共産主義への恐怖が、われわれを「不寛容で、秘密主義で、疑い深く、冷酷にし、内部の反対意見を弾圧させたのは、われわれが自信を失い、自分たちの理想の力を信じなくなったからだ。」「共産主義者がわれわれにした最悪のこと、われわれが彼らの行為でもっとも恐れたことは、われわれ自身が彼らと同じようになることだった。」


The Guardian, Monday October 8, 2001

This war is a festival of lies and they will only get worse

Peter Preston

われわれがアメリカの攻撃として見るすべてのものが、厳しくコントロールされるだろう。この衝突の最初の戦死者は、真実、である。


Financial Times, Wednesday Oct 10 2001

Clamour against capitalism stilled

James Harding

ウォール街への反グローバリゼーション運動家によるデモ行進は、人間の鎖や国旗の焼き捨て、この街の野蛮さに目を向けさせる街頭劇場、11月のWTO会合に向けた記念行動を準備するはずであった。NYSEを標的とした「世界最初のゼネ・ストに向けた衣装合わせ」のはずであった。

しかしそれは、1ヶ月もたたずに取り止められた。911日の恐怖のイヴェントが行われた後では、抗議活動は静かになった。運動創設者の一人は言う。「運動は教育モードに移行しつつある。ニュー・ヨークの活動家たちは戦略を根本的に変えるだろう。戦闘的な街頭抗議はなくなる。ティーチ・インやキャンドル行進を行う。」テロ攻撃の朝までは、IMF・世銀総会を5万人以上で妨害し、ホワイト・ハウスを取り囲む予定であった。しかし、今では反グローバリゼーションなど新聞の欄外に載るだけだ。

テロ攻撃の最初の犠牲者は、反グローバリゼーション運動かもしれない。Financial Timesは「反撃するグローバリゼーションの子供たち」という4回の連載記事を準備していた。その結びは、この運動が5番目の帝国になる、というものだった。それは企業や政治家、民主主義制度に対して、手に負えない、規制されない、計算不可能なチェックをかける。それは強力powerfulであるが、決して権力を求めない、と。確かに世界的な不況や戦争は一時的に運動を後退させるかもしれないが、反グローバリゼーションは滅びない。

しかし今ではそれも確かではない。ハイジャック犯たちが資本主義に抗議したこととの関係を疑われるとしたら、反グローバリゼーションには何ができるのか?

革命や対決を叫んでいた者も、今では反資本主義が反アメリカとみなされるため、口をつぐんでいる。「大衆行動」や「ホワイト・ハウスの征服」「ウォール街への攻撃」という声は、本物の戦闘が始まった途端、直ちに消滅した。企業中心のグローバリゼーションという批判は共感を失い、むしろニュー・ヨーク株式市場への同情と愛国心による株式購入に関心が向いている。

「貨幣欲が混乱を持ち込んだ」と指導者の一人は言うが、「中東の石油利権で協力するアメリカとロシアが人々に資金を与え、行動を起こさせた」という説明は、多くの者に受け入れられない。グローバリゼーションとイスラム・テロリズムとの関係は問題を見えにくくする。反グローバリゼーション運動は、本質的に、グローバル化した西側資本家の自己懐疑であった。アメリカ自身が攻撃を受ければ、資本主義批判は後退する。

彼らには規律も無く、資源も無く、協力も無い。政党や労働組合と違って、反グローバリゼーション運動は会員団体ではない。月例会合も無く、恒常的な事務所も無い。明確な指導者や戦略も無い。政治的綱領も支援する政治家もいない。

通商問題担当者たちは、新しい自由化交渉が失敗することを恐れていた。WTOはますます組合や環境保護団体、人権擁護団体に敵視されるようになった。反グローバリゼーション運動は勝利しつつある、と感じていた。しかし「あの攻撃がすべての基盤を覆した。」むしろ活動家たちは、反戦運動に向かっている。

反グローバリゼーションが反戦へと変わるのもやむをえない。活動家たちは活動的である。システムを批判し、沈黙してなど居られない。アメリカへの攻撃に暴力で報復することは、新たな殉教者と自爆テロをもたらすだけだ、と彼らは言う。反戦は反グローバリゼーションと同じではないが、確かに補完的であろう。発展途上世界における貧困や差別、搾取への関心が重視されている。しかし、反グローバリゼーション運動に比べて、反戦運動は資本主義反対から関心を失わせ、多様な運動の結合を失わせる。特に、労働組合は反戦ではなく、愛国者の旗に向かっている。

貿易自由化、自由市場、西側自由主義の支持者は、アメリカへの攻撃にすばやく反応した。彼らにとって、資本主義はもはや弁解を必要とせず、防衛の対象となったのだ。ロバート・ゼーリック通商代表は、アメリカが貿易でテロと戦うべきだ、と主張した。


Financial Times, Wednesday Oct 10 2001

The need for a new imperialism

Martin Wolf

トニー・ブレアは野心的な人物だ。彼はテロリズムと戦うためにアメリカを支援するだけでなく、経済的・社会的自由のために、すなわち「飢餓や悲惨さ、疎外、無視、欠乏と恥辱の中に生きる人々、北アフリカの砂漠や、ガザのスラム、アフガニスタンの山脈にまで広がるこうした人々を解放する」ために戦う、と演説した。それは非常に困難な目的である。特に、われわれが依拠する世界の秩序が国家主権によって形成されている、という意味で。

アフガニスタンは、要するに、崩壊した国家の一例に過ぎない。どこでも国家が崩壊すると、疫病が流行り、難民が流出し、犯罪者の住処となり、麻薬が作られる。それは世界にとって良くない以上に、その住民にとって非常な災厄である。トマス・ホッブスが「惨めで、野蛮で、短い人生」と描いた状態である。

イギリスの外交官Robert Cooperが、数年前に、こうした無秩序な地帯では「防衛的な帝国主義」が必要である、と主張した。「こうした地帯は昔からあったが、無秩序ゆえに世界から隔離されていた。しかし今ではそうならない。もしこうした地帯が他の国家にとって余りに危険であるなら、防衛的な帝国主義が考えられるだろう。非国家の主体、特に麻薬・犯罪・テロ組織が崩壊した国家を基地として、世界の秩序ある部分に攻撃するのであれば、組織された諸国家がついには反撃しなければならない。」

ブレアが国家の崩壊や貧困を解消したのであれば、その原因を理解する必要がある。世界銀行のWilliam Easterlyがその答えを示した。すなわち、政治的無秩序・絶望的貧困・内戦状態は、悪循環となるのである。それは、今日の先進国家で、繁栄・安定・民主主義が好循環を成しているのと対照的である。失敗の最初は、間違った誘因にある。

国家はしばしば無作為なエスニック集団の寄せ集めで始まる。それは非常に貧しいために、疫病が蔓延し、人々を衰弱させる。経済は熟練も報酬も少なく、所得が低すぎて成長しないどころか、マイナスである。そこで、権力を握る者は自分だけの富を求め、腐敗が広まる。独立した法廷無ければ、警察も無い。将軍たちは貪欲な政治家となる。利益集団間の争いは激しくなる。経済政策は効果がなく、特殊な利益に支配される。財政赤字、インフレ、貿易障壁、金融システムの抑圧が、経済を衰微させる。こうして内戦が続くようになる。ヨーロッパもこの状態を抜け出すのに数世紀を要した。

ブレアは、悪循環を断って、好循環を創りださねばならない。しかし、世界銀行もIMFもこんな潰れたHumpty Dumptysを救済できない。彼らはそこに欠けているものを与えてやれないのだ。すなわち、強力で、尊敬できる、国民に利益を与える慈愛に富んだ国家、である。もし国家が無ければ、安定も発展も無い。

もし崩壊した国家が救済されるとしたら、正直な政府という本質的な部分は外から与えなければならない。西側が旧ユーゴに対して、今、行っていることだ。しかしそれは帝国主義の嫌疑を受け、しかも費用がかかる。それでも国連は一時的な保護領を作っているし、崩壊国家を救うことは、何もせずに放置する場合よりも、コストを節約できる。何よりも、責任ある政府の無い地域では、正義も基本的な国際秩序も存在しない、ということは明らかである。


Financial Times, Wednesday Oct 10 2001

Editorial comment: Asian regrets

(コメント)

小泉首相が、テロ対策特別法案を推進しただけでなく、中国の蘆溝橋を訪問して明確に謝罪したことは重要でした。ところが日本国内では、右翼の批判を恐れたのか、この重要な訪問を政治的に無視してしまいました。アジア安全保障に関する、真剣な討議を始める転換点にできたはずです。

FTは、日中間の多くの共通利益を指摘し、東アジアが安定し、繁栄することは世界にとって良いことである、と強調しています。そして、アメリカの政治家の一部に、日中間の反目を維持する方がアメリカの利益になる、という考えがあることを批判しています。


Financial Times, Saturday Oct 13 2001

Unease increases over Japan's bad bank loans

By Gillian Tett in Tokyo

911日以後、初めて小泉首相がブッシュ大統領に会いに行って言われたことは、銀行の不良債権を早く処理すること、だった。これは、日本の銀行システムが世界的な不満となっていることを示す。

金融庁は市場の不安を抑えられない。銀行の株価は1984年以来最も低い水準となった。その原因は、一方では企業業績の悪化であるが、他方では、政府、特に金融庁の改革姿勢が定まらないことにある。

金融庁は1998年に設立されたが、当初は、不良債権を厳格に査定して、改革を促すと期待されていた。しかし、金融部門の既得権に配慮して改革案は骨抜きにされ、改革派の官僚は金融庁を去ったため、その信用を失ってしまった。

小泉政権が柳沢氏を大臣に任命したことで再び期待は高まったが、金融庁の発表は、処理のスピードについて改革「支持派」と「反対派」との意見がまとまらず、迷走している。より迅速な改革を支持する竹中経済担当大臣は、不良債権の推定額も疑っている。彼を支えるKPMGコンサルティング会長の木村たけしは、不良債権の集中する30企業を挙げて、その30兆円(2500億ドル)の不良債権を銀行が至急処分するよう求めている。

しかし金融庁長官の森祥司はこれに激怒し、小泉首相が二人を首相官邸に呼んで話し合った際も、互いに激しく罵倒した。金融庁はまた、竹中が進めたRCCによる不良債権買取案も、事前の相談が無い、という理由でさらに憤慨し、中身を薄めてしまった。

柳沢が何を考えているかは、よく分からない。彼は、改革支持派と思われていたが、不良債権処理についてはまだ何年もかかると言って、妥協的である。本当の不良債権額を知って、問題のあまりの大きさに怖気づいたのだ、という噂が流れている。Morgan Stanleyのエコノミスト、Robert Feldmanは、こうした論争をアカウンタビリティーの改善として歓迎する。金融庁の方針では不十分だ、という情報が、漸く政府に届いたのだ、と。

他方では、小泉氏が踏み込むまで改革は進まない、と心配する声もある。しかし、自衛隊派遣問題に専念する小泉氏が、さらに国民に不人気な不良債権処理まで自分の政治課題とするかどうかは不明である。

The Economist, September 29th 2001



通貨危機の収拾に忙しかった世界銀行とIMFが、今ではアメリカの戦争支援に飛び回っている。パキスタンに融資し、アメリカの新しい友人となった諸国に融資する。エジプトには債務免除を行った。ヨルダンへの対応も急に改善された。人権を無視した独裁国家、ウズベキスタンは、経済改革など関心が無いにもかかわらず、融資を欲しがっている。世界銀行はウズベキスタンなど、中央アジア諸国に職員を派遣した。

冷戦のときも、両機関は役に立つ政府を支援した。例えば、ザイールのモブツ政権のように。敵対国は融資を得ていないために、両機関を武器としては使用できない。スーダンが数年後に融資を継続する際には、経済政策と同様に、テロリストをかくまっていないか、疑われるだろう。

アメリカは17%の投票権しか持たないが、他の裕福な国が従うように圧力を行使できる。1998年、クロアチアがIMF融資を拒否されたのは、経済政策ではなく、戦争犯罪人を引き渡さなかったからである。こうした政治的決定はIMFの信認を傷つけるため、めったに行わなかったが、それも変わるようだ。