今週の要約記事・コメント

10/8-13

IPEの果樹園 2001

政治の論理は、しばしば敵か見方かを区別するように求めます。しかしアメリカによる爆撃が始まり、テロリストの犯罪行為ではなく、彼らの生き方について、これを完全に邪悪な敵対者として描くことは、次第に、終わるでしょう。勝利のためにも、敵は絞られるからです。

国際関係を決定するF・B・Iについて、私は考えたことがあります。Fは恐怖を意味し、戦争や暴力、国際犯罪、法秩序の維持など、国際安全保障が中心です。Bは利益を意味し、国際貿易や投資、金融取引や技術移転、企業の海外展開など、国際経済が中心です。そしてIは理念や理想を意味し、望ましい社会や文化的な価値、民族や宗教、民主主義や人権など、国際秩序を指導する思想や理念を意味しました。

グローバリゼーションは利益の共同体であり、市場における勝者の理念でしたが、恐怖に対する準備は十分でなかったようです。グローバリゼーションにもっとも強硬な姿勢を示した者が、恐怖の支配する体制、すなわち国内では独裁、国際的には帝国や覇権国家による支配体制であるのは、偶然ではないでしょう。彼らは利益に関心を示さず、全く異なった価値や理想を目指しています。

今では、塩素を吸って生きる異星人と生存をかけて争うかのように、説得も交渉も無駄だ、戦争以外に道はない、という主張が広まっています。しかし、戦争よりも認識共同体を築くことで、対立は交渉と説得に変わるはずだ、と何人かの先駆者たちは考えました。あるいは、戦争を戦うより、諜報活動や秘密工作、陰謀や暗殺、経済危機によって、国際関係を維持し、もしくは敵対政府を転覆した場合もあります。

短期的には安全が、中期的には利益が、そして長期については理想が、重要な選択やシステムへの参加を決めるでしょう。グローバリゼーションでは取引を通じて利益を分かち合い、言語や貨幣が浸透して、文化的な葛藤や対立を生じます。弱者(強者でない者)はFを、成人(子供・非文明人)はBを、そして若者(大人や老人ではなく)はIを重視します。その意味で、グローバリゼーションは中期的な大人の関係によって、他の動機を制御する社会的な知恵を必要とするのです。

自由な取引と社会モデルの選択可能性は、資本主義と民主主義として、グローバリゼーションの基礎にあります。その激しい構造変化に社会的な調整能力を適応させるには、言論の自由とアイデアによる経済的・社会的革新を迅速に実現させる、社会の深い受容性が必要です。アメリカの理想とする、住民たちの話し合い。メディアの重要性。公教育と批判的ジャーナリズム。政治と思想においても、異なる者や敵対する者との論争・交流を健全に維持する公共の場が確保されていたはずです。

他方で、アメリカの映像や商業写真に氾濫する猥褻・猟奇・残虐・・・汚辱・冷血・怪奇・冒涜・呪縛・・・奇矯・偏執・妄想・狂気・惨殺・・・ 市場競争とネットワーク社会では、凡庸さが軽蔑され、極端さが愛されます。グローバリゼーションの果てに、貧富の格差に無神経な資本主義や、欧米社会の価値をまとった民主主義は、アメリカの理想とともに死滅し、矮小化されたレーガンの夢だけが残ります。

これは、爆弾と一緒に人道援助物資を投下する戦争です。豊かな連合国の外交交渉と、激しく貧しい者のイスラム原理主義とが、マス・メディアの監視下で戦火を交える、グローバリゼーションの政治ショーです。経済学者が回避せよと嘆願していた世界同時不況下の不確実性が日増しに増大し、豊かな者を苦しめます。そして政治とは、結局、敵対する異質な集団が、戦争以外の方法で交わる方法ではなかったでしょうか?

Washington Post, Wednesday, September 26, 2001; Page A25

. . . Pacifist Claptrap

By Michael Kelly

パシフィスト(平和主義・無抵抗主義)は、たとえ彼らがどう思っていようと、不真面目な連中である。しかし、その主張には魅力がある。

第一に、平和という考えには、それ自体で魅力がある。戦争が増えれば、ますます平和が好まれる。第二に、アメリカやヨーロッパのパシフィストは、アメリカの過ちを認める。アメリカの愚かな傲慢さと、その強欲な帝国主義・人種差別・植民地主義などが、テロリズムをもたらした。こうした議論は、7000人の殺害が忘れられるとともに、主張されるだろう。第三に、攻撃がさらにエスカレーションするだけではないか? とパシフィストは道徳的な優越を示す。それは、絶望的にナイーブであるが。

もし、その戦争が明らかに邪悪な目的のために行われているとしたら、パシフィストの主張は道徳的に優れている。しかし、われわれがすでに攻撃を受けた今に及んでも、まだパシフィストであることは、全くどうしようもない非道徳的な立場である。1942年、ジョージ・オーウェルはイギリスのパシフィストたちについて同様のことを書いた。戦わない限り、彼らはナチの勝利に加担し、われわれに敵対する、と。

ブッシュ大統領は各国に対して言明した。:宣戦布告はなされた。あなたたちは、どちらかの側につくしかない。テロリストを操り、あるいは資金を与え、彼らを匿う者たちを捕らえ、あるいは殺すために必要な事をするのか、それともこれをしないのか。もししないのであれば、それはテロリストたちがアメリカを攻撃し続けるのを許すことである。殺人者たちを捕らえ、殺すよりも、より多くのアメリカ人が殺されるほうが良い、と言っていることに等しい。そう私は確信する。

それがパシフィストだ。その立場は邪悪である。


Financial Times, Friday Sept 28 2001

Back to borders

Stephen Roach

グローバリゼーションの足跡は戦後経済において明瞭に示されている。しかし、911日のテロ攻撃はそれを終わらせるかもしれない。

急速に増加する貿易と資本移動、世界化する供給ライン、そして拡大する多国籍企業の超国家的活動による、地球はますます小さくなった。新しい情報技術はグローバリゼーションの接着剤である。

NAFTAのような貿易圏が工業世界と海外の生産拠点を結び、アメリカ向けの輸出はメキシコのGDP25%に達したし、日本を除くアジアの経済も緊密にアメリカのIT需要の波に結びつくようになった。

しかし、ゲームのルールは変わった。テロリズムが国境を越えた結合の歯車に砂を撒き、グローバリゼーションの摩擦の無い世界を脅かしている。実際、911日の悲劇は、世界の流れに新しい税金が課したに等しい。国境警備は強化され、多くの費用を要し、空港や港湾に限らず、浸透性の高いカナダやメキシコとの国境でも、NAFTAの連結が閉ざされるだろう。

国際的な移転はコストも時間もかかるようになり、輸送に対する保険料も高価になった。さらに、Nimdaウィルスは、情報や資本が瞬時に移転できるという条件ももはや前提できないことを示した。テロリストたちは恐怖をしみ込ませ、世界の結合に対するリスク・プレミアムを高めた。突然、すばらしい新世界では失われたはずの継ぎ目がよみがえった。

基礎的な経済学が教えるように、課税は取引を減らすだろう。海外生産の有利さは減った。しかし、心理的な影響はもっと大きい。企業が内向きになるかもしれない。リスク回避が強まるだろう。

「課税」のもう一つの帰結は、国内の生産性上昇を導く投資が低下することだ。生産性上昇とグローバリゼーションとは並行して進んできた。アウトソーシングの増加は企業の効率性を支えている。グローバリゼーションへの課税はそれを変える。警備や保険のコストとしてだけでなく、冷戦終結後の流れを逆転させて、政府支出がより多く防衛に向けられる。他方で、民間投資の一部は締め出されるだろう。

生産性上昇は、今後5年間、IT投資による過剰設備が解消されるまで、低下する。テロとの戦争が追加のコストとなる。企業の収益が悪化し、投資家は驚愕する。政府間の新しい同盟関係は、貿易などの対立を当面は無視させ、世界的テロリズムへの統一を重視させる。このこともまた民間部門のグローバリゼーションを抑制する。

新しい同盟関係は、重要な点で、反動を招く心配がある。それは開発された世界と発展途上の世界との格差を固定し、後者の長年にわたる劣等感と孤立感を強める。豊かな国と貧しい国の間で不平等が拡大してきたことは、20世紀の疑いない特徴である。豊かな国がテロリズムに対して同盟を強めることは、この格差を倍加する。

世界がグローバリゼーションに背を向け始めた時期に、IMF・世銀総会が開けなくなったことは特に残念である。なぜなら、この総会は、特に199798年のアジア危機に際しても、グローバリゼーションの強さと弱点を検討するフォーラムを提供してきたから。この歴史的な転換点に、その機会が失われたのは非常に惜しまれる。

グローバリゼーションが後退するのは、これが初めてではない。19世紀に成立していた大西洋経済圏も、増大する所得格差や政治的不安定化という、同じような強烈な反動に直面し、第一次世界大戦につながった。グローバリゼーションは、それ自体が崩壊の種を蒔く。

グローバリゼーションも、生産性上昇に支えられたアメリカと世界の経済成長も、新しい抵抗に面している。われわれの目の前で、大地が傾きつつある。


Washington Post, Thursday, September 27, 2001; Page A27

Blind To the American Idyll

By Richard Cohen

ミハイル・ゴルバチョフに、自分が見ているようなアメリカを見せてやることが、常にロナルド・レーガンの夢であった。つまり、レーガンがヘリコプターから見下ろしているように、ソヴィエトの指導者にも「裏庭に小さなスイミング・プールのある」個人住宅が広がる郊外を見せてやれば、いくら「悪の帝国」を指導する男でも、このアメリカというシステムの素晴らしさに参るだろう、と思ったのだ。

それは「夢」であって、現実ではない。もちろんレーガンにも分かっていた。しかし、それはアメリカ的なものの精髄であった。この国の素晴らしさを見て、愛さずにいられる者など居ないはずだ。レーガンの言ったことは、移民であった私の祖母が「アメリカでだけは・・・」と繰り返し言っていたことである。

しかし、アメリカを襲った19人のテロリストたちはわれわれとともに住み、郊外の住宅を所有して、スーパーマーケットで買い物し、ジムに通って運動していた。そして監視されることも無くテロリストとしての仕事に励み、ゲットーに暮らすのではなく、市民生活を楽しんでいた。彼らは、アメリカを見たこともないのに憎悪し、行動したのではない。そのことがわれわれを怯えさせ、混乱させる。

実際、テロリストたちは彼らが見たもの、見ることを許されたものを、憎悪し、アメリカの快楽、例えば禁じられていた飲酒や、ケーブル・テレビが流す猥褻映像に、自分がたまたま触れたことを呪っていたのだ、と結論するほかない。それはセックスの相手を選んで、その後相手を殴る男たちのように、まるで暴力で癒されるとでも思っているのだ。

このテロリストや支援者たちは、われわれの今までの敵とは異なる。共産主義者はわれわれと重要な点でそれほど異なっていなかった。しかし彼ら、イスラム過激派の共有する目標とは「究極の自由、平等、繁栄」である。この表現を、私は、1993年のForeign Affairsに掲載されたサミュエル・ハンチントンの論文「文明の衝突」から引用した。ハンチントンの論文は批判すべき点も多いが、原理主義運動の参加者が「若い、大学教育を受けた、中産階級の技術者や教授、ビジネス・マンである」ことに注目している。あの19人のテロリストたちもそうであった。

ハンチントンは、こうした過激派たちは、西側文化に触れるほど、違和感と恨みを激しくもつ、と観察する。文化的な狂信と親和性に頼る者は、西側の音楽や衣装、個人主義への崇拝に対して、煮えたぎるような侮蔑を、ほとんど狂気にまで高める。ハンチントンの説明は、ビン・ラディンとの戦いが長くなる理由にもなる。自分が殺されても、他の者が続くだろう、とビン・ラディンは言う。

レーガンの夢は、もはや古風な、脅威の少ない時代に属する。それは文化を共有している、共通性に依拠していた。われわれの新しい敵は違っている。彼は説得できない。戦うしかない。


New York Times, September 28, 2001

The Economic Stimulus We Need

By ALAN S. BLINDER

財政刺激策が必要かどうかを議論する時期はすでに終わった。どの程度、どんな種類の刺激策をするか、が議論されるべきだ。アメリカが不況に入るのは明らかだ。テロの前は、好調な消費がそれをなんとか回避していた。しかし、911日から消費者心理は急激に悪化した。われわれが行動しなければ、テロリストは経済を打ち負かす。

財政刺激策には、三つの原則が必要だ。1.迅速に行動せよ。2.効果には時間がかかる。3.長期の財政状態を悪化させるな。まして、長期金利を高めてはいけない。この条件を満たすのは、一時的な消費税の引き下げである。それは政治的に両党が支持しやすく、経済的に効果が高く、しかも行政的に処理しやすい。


Bloomberg, 09/30 17:14

Time to Lie Back and Think of Japan, Koizumi-san

By Patrick Smith

ニュー・ヨークの精神科医と同じように、ブッシュは小泉に50分だけ面会時間をくれた。アメリカへの支持を確認し、予想された約束を行った。しかしこれは、小泉政権にとって重要な展開である。彼らは、この機会を利用して、長期に及んだ経済問題を処理するように見える。それは正しい方針だ。

日本の政界が外国からの要求を国内政治に利用することを「外圧」と呼ぶが、いまや「外圧」が組み込まれたのだ。小泉はブッシュに約束した。湾岸戦争のときの海部をはるかに超えて、アメリカの同盟国として、アメリカを強く支援できるような法律を準備している、と述べた。それは大きな決定である。彼はこの世界的な危機を利用して、日本の国際的な役割を変えようとしている。

国会では、12月に審議が終了するまで、その法案を激しく攻撃するだろう。国会の決定に従って、連立が崩壊したりはしない。しかし、それは国内政治を大きく変えるはずだ。そして、この地域における日本の外交も大きく変わる。

小泉は国民的な議論を上手く盛り上げる。これまでは東京の政界だけで何でも決めていた。しかし、もし小泉が約束を実行するとすれば、日本はより自由で、より開かれたシステムに移行する。では、「外圧」は何に使われるのか? その鍵はIMFである。

儀礼的な抵抗をしてから、柳沢金融担当大臣は、911日の直前に、IMFが日本の銀行の不良債権を検査することを受け入れた。それは年末までに行われる。IMFは確実に、柳沢が認めなかったような不良債権をすべて見つけ出し、日本政府が考えているよりも大きな不良債権額を示すだろう。民間のアナリストたちが言うように、それはGDPの40%に及ぶかもしれない。

一旦、本当の数字が外国の検査チームにより示されれば、銀行に必要なことははっきりする。それは、これまでワシントンから発せられてきた旧式の改革ではなく、キング・サイズの資本注入である。その規模から言って、国有化も選択肢に含まれる。それは大きな決断であるが、目新しいものではない。1980年代にスウェーデンが行ったし、10年前にアメリカもS&Lの処理にRTCで似たことを行った。また小泉は、それによって日本銀行を協力させる。

IMFの検査チームは、小泉がすでに画策している資本注入の環境を整える。それは、この数週間で、世界がどう変わったかを示す良い例だ。このような解決策は、痛みの伴う改革というプロテスタント的規律の前では、軽蔑されただろう。刺激し、緩和し、救済する。アメリカ政府も航空業界への救済融資を拡大し、議会も承認する。その威厳のないめちゃくちゃな行為も、(テロという)外圧が必要であった。外圧無しに、どのようにして達成できただろうか?


Financial Times, Tuesday Oct 2 2001

Japan on the brink

Gillian Tett

塩川財務大臣・榊原元大蔵省国際金融局長などが、アメリカの不況突入による日本への影響を深刻に受け止めている。それでも日本は、工業諸国中で最高の国債依存により財政刺激策が採れない。実質ゼロ金利の下で市場への資金供給を2倍にしても融資に影響しない。在庫が増え、投資は石油危機以来の急落を示している。テロ攻撃後の世界的株価下落により日本の株価も1万円を大きく割り、銀行は半年毎に市場価格で資産を再評価することになったため、資産を減らした。今こそ、不良債権処理のために資本が必要なときであるのに。

不良債権額は10年前よりも増えている。しかも、デフレが問題を悪化させる。デフレは消費者に歓迎されるが、公的部門の債務依存度を高めて、破局へ導く。日本はすでにGDPの130%に達する国債を累積させているが、スタンダーズ&プアーズ社は、それが4年後には170%に達する、という予測は甘すぎた、と警告を発した。

Financial Timesの女性記者が見ても、やはり言い古されたようなことばかりが、こうして重石のように並ぶものか、と嘆息します。

債務の重石をどうやって取り除くか? 市場の競争をどうやって促し、競争力のない銀行や企業に退出を促すか? 雇用の安定化と再配置や、医療・年金制度の改革について、国民的な合意をどうやって形成するか? 革新的な企業をどうやって育てるか? など、基本的な問題に取り組むことしかないのでしょう。

同時に、公的な介入で、旧制度の残した重石を除去するために、過激な政策が主張されています。例えば、

l         インフレ目標と量的緩和政策。リフレーション政策。

l         為替レート(円安)目標政策。

l         不良債権の市場売却。銀行国有化。

l         消費税率のゼロ、もしくは時限的なマイナス(還付)。

l         再建企業と雇用の一時的国有化。再建後、売却。あるいは、外国の再建専門機関に売却。

l         土地や株式の公的機関による買い取り制度。

私は、明確な責任と説明能力、情報の透明性や、特に、選択肢についての透明な議論が国民に示せるなら、こうした「過激な政策」も試してよい、と思います。日本の政治が、個人ではなく、行政や司法も含めたシステムとして、どの程度有効に社会・経済の進路を国民に向かって問いかけ、論争をどうやって指導するか? 国民の質的な転換をもたらすような数の人々がその選択を理解し、コストを分担して、将来の成長に向けた協力をどうやって組織するか? またそのリスクを抑えるだけでなく、失敗した場合でも被害を限定する対応策を準備しているか? 過激な政策が成功するためには、こうした問いに答えるべきです。


Straits Times, OCT 2, 2001 TUE  

War will hurt American and global interests

By Jeffrey Sachs

テロ攻撃による直接の被害は200億ドル程度であろう。しかし、その間接的被害は、もし世界の株価で見るなら、その約150倍の3兆ドルに及ぶ。

アメリカ経済の打開策は財政刺激策ではない。今日の世界的にネットワーク化された経済が、効率的に、撹乱無しに機能すると、世界に確信させるような、信頼確立策が重要である。そして、最も重要なことは、戦争を回避することだ。テロ攻撃に対して戦争を開始するのは、最悪の反応である。貿易、金融、旅行、生産が断絶されることは、世界経済に恐ろしい影響を与える。

経済対策の中心は、グローバリゼーションの枠組みを強化し、世界中の政府がグローバリゼーションへの支持を確立して、それがすべての国に、特に貧しい諸国にも有益なものとすることだ。それに失敗すれば、投資や消費は落ち込むだろう。

次のようなことをしなければならない。:アメリカは、テロリストを逮捕する外交的な解決策にも理解を示すべきだ。軍事行動は最後の手段に限定しなければならない。国際貿易や輸送のインフラについて信頼性を高め、通商や旅行における警備システムの水準を高めるべきだ。石油の供給・価格・輸送を安定させるべきだ。貧しい諸国が貿易交渉によって利益を得られるようにすべきだ。そのためには、知的保有権も緩和すべきだ。アメリカは世界の貧しい諸国にもっと関心を向け、行動を起こすべきだ。

アメリカこそが、生産・貿易・金融のグローバリゼーションによって大きな利益を受けている。テロに反撃して戦争を拡大してもアメリカと世界の利益は守れない。むしろ予測不可能であり、破局の危険が高い。アメリカが世界的規模のネットワーク経済において平和的な結びつきを守ることこそ、21世紀の真の外交課題である。


Financial Times, Wednesday Oct 3 2001

How trade can help the world

Martin Wolf

グローバリゼーションは死んだ。そう言って、多くの空論家が楽しみや絶望をもてあそぶ。しかし、グローバリゼーションの死は誇張である。

Morgan Stanleyのステファン・ローチは、19政治後半から20世紀初めの世界経済統合が崩壊した事件と比較した。しかし当時、今と違って、危機はそれ以前から集団主義の台頭として現れていた。ナショナリズム、帝国主義、社会主義、共産主義、ファシズム、レイシズムなど、自由主義的な世界経済への確信を蝕む思想が現れた。他方、現代の反グローバリゼーション運動は、これと異なる。彼らは組織化されておらず、一貫した主張も、現実の社会に対する対案も持っていない。

また、現代の金融不安が大恐慌や世界的な貿易・金融の崩壊をもたらすこともない。ブッシュ大統領は、1941年の真珠湾攻撃後と同じく、世界の主要な大国を同盟に加えた。唯一の超大国であっても攻撃から免れないが、その最大の強みは世界の制度を築き、多角的な同盟を組織する、アメリカの歴史的にユニークな能力である、と悟っただろう。

テロリズムが、経済統合を終わらせることなど無いし、それとの戦争はソヴィエト連邦との戦争に比べて費用がかからないに等しい。グローバリゼーションの後退がテロリズムを無くせるはずもない。正しい対応は、より調和した、開かれた世界の秩序として、多くの人々の利益を実現するように、経済統合を改善することである。

The London School of Economicsのジョン・グレイ教授は、グローバリゼーションの死は必然であり、しかも望ましい、と主張した。彼によれば、グローバリゼーションも「すべての社会は自由な市場を採用せねばならない」という、マルクス主義と同じような、世俗的信条に過ぎない。だが、グレイ教授の非難するグローバリゼーションは、サリーおばさんが語る戯画である。もちろん、誰も貿易や開かれた金融市場に無理に参加しなくて良いのだ。しかし、北朝鮮のようなわずかな国をのぞけば、すべての政府はそのような極貧を望まない。

国際的な経済統合の崩壊は不可避ではないし、望ましくもない。それ以外の選択肢は常にある。現時点で重要なことは、アメリカが統合化を支持することを明確にしたことだ。その最初は、ドーハで開催されるWTO閣僚会議で多角的貿易交渉を開始することであろう。


New York Times, October 3, 2001

Democracy in Wartime

By ARTHUR SCHLESINGER JR.

このごろの政治家は歴史を知らないのか? 2002年の中間選挙に民主党の候補者たちが弱気になるのは間違っている。テロ攻撃によって国民が団結し、共和党が有利だ、とは言えない。むしろ最近の戦争において、中間選挙では野党が常に勝っている。

その理由は明らかである。共和国の危機に際して、即座に国中で国旗が振られる。しかし、F・D・ルーズベルトが1942年に知ったように、その効果は急速に失われる。戦争は、対立、不満、苦痛、緊張、パニックの時期である。それらは良かれ悪しかれ野党に味方する。

政府に反対することは国家の団結を損なうものではない。今日、すべてのアメリカ人が911日の犯行に関わった者たちを捕らえ、罰することに賛成している。そして国際テロリズムと対決するという長期的な目標も支持されている。しかし、他方で、これらの目標を達成する手段に関しては意見が一致していない。論争こそが民主主義の強さである。ところが議会はブッシュ大統領にブランク・チェック(書き込まれていない小切手帳・白紙委任状)を渡すという、憲法上の役割を放棄するに等しい憂慮すべき行動をとった。

例えば、論争もせずに、ミサイル防衛構想を支持してよいのか? あれは冷戦時代の産物であり、テロリズムに対しては第二次大戦のマジノ線でしかない。テロリストとの戦争が、経済まで人質にとって、論争を圧殺するのを認めてはならない。立候補を取りやめるような民主党候補者たちは、アメリカの歴史を学んで、深く考え直すべきだ。


New York Times, October 4, 2001

THE BAILOUT

U.S. Takes Big Role in Airlines' Crisis

By LAURENCE ZUCKERMAN

非常事態を利用して、アメリカ政府は航空産業を救済することに議会の同意を得た。2週間前に設立された航空輸送業安定化局(Air Transportation Stabilization Board)が、航空産業に重大な裁量権を持つ。グリーンスパンFRB議長、オニール財務長官、ミネタ運輸長官に率いられるATSBは、市場における政府の役割に関して、すでに多くの問題を指摘されている。

ブッシュ政権は、航空業界への100億ドルの債務保証と、直後に発生した損失の補填として50億ドルを認められた。しかし、「もし政府が業界に資金や債務保証を与えるなら、裁量がそれで終わることは決してない」と、ロバート・ライシュ元労働長官は言う。「政府は業界を支配する皇帝になり、それは最悪の産業政策となるだろう。」

いくつかの会社は無くなり、合併が進められると予測される。すでに、規制緩和といわれながら、政府の関与で、消費者の利益に反する合併が行われてきた。その際、ATSBが勝者と敗者を決める。また、1979年のクライスラー者救済と違って、法案は融資条件を示していない。銀行家は市場金利を主張する。敵対している主要企業も、弱小企業が倒産するように、融資を限定し、規制は減らすことを望む。もっとも深刻な問題は、その費用が計り知れないことだ。予算局長官は、生き残るべき企業に限定して救済が行われるよう、注意を求めた。

強大な権限を持つATSBが行動を起こせば、市場は必ず歪む。ウォール街は、航空産業がこれで強化されたことを認めたが、長期の金融的な健全性について、判断は何年か先まで保留される。ライシュは批判する。「最善の産業政策は公共の利益に従って行われる。しかしこれは、企業の株主のために行われている。」


Financial Times, Saturday Oct 6 2001

Keynes revisited

Gerard Baker and Ed Crooks

(コメント)

フレッド・バーグステンは、世界不況を回避するために財政刺激策で国際協調を行うべきだ、と言いますが、週末のワシントンであるG7の結果はそうならない、という記事です。

ブッシュ政権は、財政刺激策を採用したのは、非常事態、不況、戦争、という条件が重なったからだ、と説明しています。アメリカの経済政策は、クリントン政権下でグリーンスパンFRB議長とルービン財務長官が敷いた、財政赤字削減と長期金利低下による民間投資促進でした。確かに金融政策による安定化に過度に依存してきたことが反省されています。しかし、ブッシュ氏が一時的にケインズの効用を認めたとしても、それが正統的な思想になったわけではないのです。

ヨーロッパの諸政府も不況を恐れ、財政刺激策を求めています。しかし、マーストリヒト条約を後退させる気は全くありません。財政政策に関する安定化は協定の下で確保されており、不況に対する対応の余地も残されています。しかしヨーロッパの政策担当者は財政政策と金融政策をトレード・オフと見ており、金融統合化計画を損なうような積極財政への転換は考えられません。基本的には、ECBが金融政策で対応することになるでしょう。

日本でさえ、政府は財政刺激策に検討の余地を認めました。しかし、リフレ政策は繰り返し日銀によって否定されてきましたし、財政刺激策でこれを行うことは黒田財務次官が否定しました。

The Economist, September 22nd 2001

確かに、テロリストを見つけ出すことや、一般人の犠牲を出さないことは難しく、報復によるテロ多発を抑え、戦争ではなく平和を求める、という議論は根強い。しかし人間社会の真実として、戦うこと無しに、平和は得られない。ここで何もしないことは、事態を悪化させるだけだ。決断を回避する者は、それを延期しているに過ぎない。アメリカが反撃しないのであれば、世界中で誰も反撃しないであろう。そして、さらに多くの独裁者、さらに多くのテロリストが生まれる。

同じテロ・ネットワークがその後も多くのテロを計画していたようだ。罪の無い人々を殺戮させ続けて、良いはずが無い。彼らはテロによる報復を宣言している。彼らを完全に撲滅しない限り。

テロリズムは、ある目的を達成するために計算された暴力を使用する、恐るべき試みである。その目的とは、アメリカと世界の既存秩序を破壊することだ。それは特に、中東や中央アジアの既存体制を転覆し、自分たちが権力を握ることを目指している。さらに、これらの地域からアメリカとイスラエルを追放することを求めている。

その危険性は絶大である。彼らを攻撃すること自体が、この地域を不安定化するだろう。すでに各国では街頭に反対派の民衆が集まり、アメリカとの協力を難しくしている。世界最大の産油国であり、アメリカの同盟国として軍事基地を提供し、同時にイスラム教の聖地を抱え、ビン・ラディンの母国でもあるサウジ・アラビアには、その不安が集中している。

どうやって戦うのか? 第一に、テロリストたちの予想に反して、民主主義国家の反撃姿勢は固まったことだ。ヨーロッパ諸国も、将来の紛争を考えれば、決して妥協しないだろう。第二に、ブッシュ氏は的を限定することだ。すべての支援国家を敵にすることはできない。第三に、忍耐が必要だ。さまざまな外交手段を駆使して、国際的な協力関係が求められる。第四に、情報収集が決定的である。多くの国の諜報機関と協力してテロリストたちを追い詰める。実際の戦闘も、特殊部隊などが中心であろう。

われわれの自由は、過激派の攻撃に対して弱い。自由であることは、何にもまして、常時守り抜く必要がある。


アメリカが内向きになるリスクはある。しかし、アメリカは指導力を再建し、国際的に関与し、他国に支持を求める方向へ決断した。


他方、政府支出は景気を刺激する。第2次世界大戦が大恐慌を終わらせたし、朝鮮戦争やヴェトナム戦争も景気を過熱させた。ただし、それは伝統的な陸軍や海軍による戦争である。テロリストたちとの戦争は、より大きなリスクと、より小さな戦闘(それゆえ景気刺激)しかもたらさない。