今週の要約記事・コメント

9/17-22

IPEの果樹園 2001

テロリズムに対して、「民主主義と法の秩序」が勝つ、とアメリカ大統領は強調しました。しかしその後、彼は「戦争」という言葉を繰り返すようになりました。私は前者に、アメリカが代表する理想と強いアメリカを見ました。しかし後者には、憎しみの感情や政治家に訴えようとする弱い大統領を見ます。

テロリズムですべてが変わったとは思いません。世界は多くの点で継続性を維持し、それぞれが転換を模索しています。アメリカの政権内部では権力争いが続くでしょう。グローバリズムもユニラテラリズムも、テロリズムとともに同じ世界で生き続けます。世界同時不況や通貨危機、日本の構造改革など、テロリズム以外に解決すべき問題は多く存在します。

テロリズムは戦争ではありません。たとえ死者の数が、アメリカ側から見て、湾岸戦争を大幅に上回ったとしても、ブッシュ大統領はこれを「戦争だ」と宣言すべきではなかったでしょう。アメリカが戦時体制に変わることで喜ぶのは、景気や市民生活を重視しなくてよい、保守派の政治家たちでしょう。そして、アメリカで「戦争」を、と望んだテロリストたちの願いは何だったのか、答える者はいません。

もしテロリズムがアメリカの理想を突き崩す脅威であるとしたら、それは本当の意味で「世界政府」も「世界民主主義」も存在しない、という事実でしょう。アメリカは一方的にその代役を演じ、多くの人に感謝されながら、多くの憎しみも買いました。テロリストを懲罰するには、その仲間も、支援者も、かくまった政府や団体も同類とみなして、戦時のような爆撃をするのでしょうか? 「これは戦争なのだ」という大統領の意思表示は、間違った方向を目指しています。

テロリストを逮捕するだけでなく、彼らを産んだ、暴力と血の報復に圧倒された地域が世界から無くなるよう、協力すべきです。国際安全保障体制の整備、中東和平の進展、極端な貧富の格差解消、軍備縮小と兵器の国際管理、経済活動や市民生活の不安定性を減らすことなどが、人々の孤立した絶望をテロリズムから切り離すでしょう。アメリカや豊かな諸国だけでなく、世界中の貧困や戦乱に苦しむ地域でも、「民主主義と法の秩序」をより多くの人が支持するような方策を、政治指導者たちは模索する必要があります。

緊急の国際協調が金融取引の混乱や消費の減少によるショックを緩和するでしょう。むしろアメリカの危機は、指導力に悩む大統領の政策ミスによって誘発されると思います。他方、日経平均株価が1万円を割ったことや、マイカルが1兆円を超す債務不履行を発表したことは、テロ事件のお陰でショックを緩和されました。減速した小泉政権に対する失望感だけが深まるでしょう。アメリカも日本も、テロ攻撃によって以前の問題を解決する時間を得たのではなく、選択の幅を失ったと思います。改革期待の大幅な後退を避けるには、より限定した目標と、日々の論戦を通じて、指導者たちが前進し続けねばなりません。

テロリズムが奪ったものは、世界のアンカー、です。たとえば、主要国の資産市場が信認を失えば、投資はどこに向かうでしょうか?

5000人もの死者を出す自爆テロについて、その背景をもっと知りたいです。犯人たちの絶望の深さと、死者たちへの同情を失わせた人々の孤独感、あるいは金融街が及ぼす世界的影響にもかかわらず社会が参加者の共感を無視してきたことについて、ジャーナリストや小説家、哲学者、死亡した犠牲者の家族や恋人、軍事専門家、社会学者、芸術家、金融アナリストなどが、その全体像を理解しようと試みるでしょう。

こうして、戦争だけで新秩序を唱えるアメリカの指導者やテロリストたちも変わるのです。

New York Times, September 8, 2001

The Bush Merry-Go-Round

ワシントンはブッシュ政権の安全保障政策をめぐる幹部たちの権力争いが落ち着かない。ディック・チェーニー副大統領は失墜したようだし、コーリン・パウウェル国務長官は失望を生んでいる。ドナルド・ラムズフェルドはペンタゴンに穴を掘り、コンドリーザ・ライスは力を増している。

パウウェル長官は外交で指導力を発揮できず、ラムズフェルド氏は軍改革に苦戦している。チェイニー氏は姿が見えず、ライス女史がパワー・ブローカーになった。これは神話を好み、その破壊を好むワシントンで、大いに興味を引かれている。チェイニー氏は政権の首相格であると思われたし、湾岸戦争を指揮したパウウェル氏は政権の外交政策を率いる大司教のはずであった。そして、キッシンジャーをも出し抜いたラムズフェルド氏が、再びペンタゴンに戻れば、ソヴィエト事情が専門であったライス女史など出番は無い、と誰もが思っていた。

政権内の勢力均衡が大きく変化した様子は無いが、チェイニー氏は心臓病とエネルギー産業への利益関与が、ラムズフェルド氏は議会ではなく軍幹部たちへの執着がマイナスとなっている。こうしたマイナスのイメージが無いのに、パウウェル氏は何も行動を起こさないことに注目が集まる。「コーリン・パウウェルよ、あなたはどこに行ってしまったのか?」とタイムズ紙の表紙は語る。

元スタンフォード大学教授のライス女史は、大統領選挙期間中からブッシュ氏の顧問となって、ホワイト・ハウス、キャンプ・デーヴィッド、テキサスの牧場でブッシュ氏に頻繁に接触し、ミサイル防衛網のような外交政策の核を形成した。さらにモスクワに飛んで、国務長官を出し抜き、ウラジミール・プーチン大統領と会ってきた。

誰が勝者で誰が敗者かを決めるのはまだ早い。ニクソン政権ではキッシンジャー氏がウィリアム・ロジャース国務長官を圧倒した。レーガン政権では、ジョージ・シュルツ長官が、最初はキャスパー・ワインバーガー防衛長官にやられていたが、次第に盛り返し、アメリカの対ソ政策を対決から交渉へと転換させた。

まだ、パウウェル長官が負けたとは言えない。


Bloomberg, 09/09 00:04

Argentine Debt Buyback Would Be Coup for Cavallo

By David DeRosa

アルゼンチンは、1300億ドルの債務を減らすために、その一部を買い戻したがっている。まず、債務の評価を市場で変動させる。それから、経済を大きく悪化させる。次に、支払いを維持する絶望的な政策を唱えるが、もちろん債券価格は石ころのように転落する。最後に、アルゼンチンはIMFや世銀、米州開発銀行などから、債務を際戻すための資金を安く融資してもらう。

カヴァロは完璧な楽天家だ。もし詐欺でなければ、なんと愚かな、実際的冗談であるか! アルゼンチンは元から返すつもりなど無かったのだ、と友好的でない人はみなすだろう。後で安い買い戻せると期待して債券を売り越している。

このケーキに乗った砂糖は、債券を買い戻すのに必要な高金利の融資を、超国家機関の低利融資でまかなう点である。多くの債務者が似た事をしているが、民間の債務者がこれをすれば、何か怪しいことがあると疑われる。それが政府なら、疑いはよほど大きくなる。なぜなら政府は民間企業以上に財政状態を自分で決定できるから。また、市場に多くの情報を流布できる。

国家が債務を買い戻す場合、金融的な不正が行われるおそれは非常に高い。カヴァロがそれを望むなら、債券保有者たちは様子を見ることだろう。1990年代に行われた救済融資と違って、債権者は損失を分担する。だから、アルゼンチンが果てしない交渉の末に、債務をどのように組替え、交換し、そして債権者をだまそうとしているか、見ることだ。


Financial Times, Tuesday Sept 11 2001

The Soviet transformation

Anders Aslund

世界のほとんどが不況に落ち込みつつある一方で、思わぬ地域が好況に沸いている。旧ソ連圏である。誰もがこの地域に来れば、新しい幸福を感じる。ここは最近まで、どうしようもない停滞と腐敗の国々として無視されていた。

1999年にロシアは5.4%の成長を達成し、昨年は8.3%、カザフスタンも10%、ウクライナは6%も成長した。今年もロシアは5.5%、カザフスタンは14%、ウクライナは11%の成長を実現している。原油価格の高騰や大幅減価といった手軽な説明では、もはや十分ではない。市場改革が大きな波となっている。

各国は財政改革によって黒字を実現したが、それには原油価格だけでなく、企業への補助金削減が決定的であった。減税後も財政の改善は維持された。ロシアが個人所得へのフラット税13%や企業利潤への税率軽減24%で口火を切ったが、キルギスタンは両方の税率を10%に下げて、各国がこれをまねた。IMFは、徴税制度を改善し、抜け穴を防ぐように主張したが、それらは税率の引き下げ後にしか実行できない。

ロシアとカザフスタンは大規模な民営化を早期に行ったため、GDPの70%が民間部門から生じており、その成果を得ている。企業の吸収合併も盛んで、根本的な企業の再編が起きている。ウクライナも民営化で追い上げており、昨年の土地改革で、農業生産が急上昇している。

個人企業に対する単一・低率・総額課税方式の導入で、キルギスタンは零細企業に法的な保証を与え、彼らがGDPの半分を生産している。ウクライナもこれに従い、ロシアも法の簡素化、許認可の縮小、国家審査の削減を進めている。エストニアをまねて、キルギスタンは行政の大幅な改革を進め、公務員に十分な給与を支払うようになった。

市場改革が進んだのは、多くの人々が真の市場経済が必要なことを学んだからである。民間企業が増えて、市場改革が臨海点を超えたのである。19988月のロシア金融危機は特に重要であった。それは誰にとっても衝撃であったが、特にオリガーク(新興資産家)たちや地方政府、共産主義者たちを震え上がらせた。オリガークや腐敗した地方政府は富と権力を失い、共産主義者は過剰に規制した経済が機能しないことを理解した。

今、重要なことは、法の確実な執行である。商法の整備が求められているが、脅迫や買収に従う裁判所ではこれに応えられない。幸いにも、プーチン大統領の優先課題は司法制度の改革であり、警察や税務署の腐敗一掃に指導力を発揮してきた。

社会保障は継起されてきたが、カザフスタンが民間投資も含めた根本的な年金改革に取り組み、ロシアも教育や保険医療分野で機能していない行政を改善しようとしている。賄賂によって利益を得てきた者の抵抗は強いが、より良い規制と透明性が求められている。

新しい経済成長は、輸出志向であるだけでなく、国内経済にも広がっている。重要なことは、需要側だけでなく、供給側を自由化し、ハードな予算制約を課すことである。市場による好況は市場改革を加速し、旧ソ連圏が互いに競い合っている。たとえその他の世界が不況になっても、改革が成長をもたらすだろう。


Washington Post, Monday, September 10, 2001; Page A21

Why We Protest

By Robert Weissman

アルゼンチンやザンビアでは、20年以上もIMF・世銀に抗議する大衆行動が続いている。しかし、彼らが途上諸国に留まり、アメリカ人がそのことを知らない限り、IMF・世銀はそれを無視してきた。

しかし状況は変化しつつある。世界的な社会的正義を求める運動が、工業諸国と途上諸国の市民運動を結び付けている。ワシントンでは、世界正義を求める運動Mobilization for Global Justiceが、労働組合、債務削減、環境保護、などの関心を集約して、4つの基本要求として示した。:1.会議を公開せよ。2.貧しい諸国の債務を免除せよ。3.人々の基本的な必要を妨げる「構造調整」政策を廃止せよ。4.環境を破壊するプロジェクトに融資するな。

これらはアメリカ議会でなら承認されるだろう。アメリカが提唱すればIMF・世銀でも承認されるかもしれない。彼らは民主主義を無視している。

もしIMFと世銀が会議をすべて公開し、貧しい諸国が債務の鎖から解放され、衛生や医療を害する政策を止めて、人々の民主的な要求による政策が実現するなら、世界は変わる。私たちは、こうした穏健な民主主義の要求において、世界中で支持を得ている。


Bloomberg, 09/11 15:28

Terrorist Attacks Close U.S. Markets, Shut Businesses

By David Wilson

Central Banks to Cut Rates on Terrorism, Futures Show

By Mark Gilbert

ワールド・トレード・センターとペンタゴンに対する史上最悪のテロ攻撃を受けて、一日平均900億ドルの取引があるニュー・ヨーク証券取引所NYSEが閉鎖された。先物・フューチャーの取引がニュー・ヨークでもシカゴでもできない。アメリカ国債、金、原油の価格がヨーロッパ市場で上昇し、ドルは減価した。ヨーロッパ、カナダ、ラテン・アメリカの株価も下がった。

死者の数は、1941年、真珠湾への奇襲攻撃による2400人を超えるだろう。

マンハッタン中のオフィスが退去命令を受けた。さらに、シカゴのシアーズ・タワー、ボストンのジョン・ハンコック・タワー、ピッツバーグのUSXビル、ダラスのワールド・トレード・センター、ロサンゼルスのライブラリー・タワーー、サンフランシスコのトランスアメリカ・ビルといった、アメリカ中の高層ビルも退去させられた。

メジャー・リーグの試合も中止となり、エミー賞の受賞セレモニーも延期された。

消費者心理の悪化を受けて、世界中の中央銀行は以前に考えられていた以上の金利引下げをしなければならない、と投資家たちは語る。この事件の経済的な帰結は甚大である。来月の消費支出も大きく減少するだろう、と。金融システムが混乱すれば、Fedは流動性を供給する。


Financial Times, Thursday Sept 13 2001

A tragedy foretold

Roula Khalaf

アメリカの政治的権力と金融的権力の象徴を破壊した責任がアラブ世界にもっぱら向けられ始めたことで、アラブの指導者たちはショックを受けている。政府幹部の集まりでは恐怖と非難が強まっているが、大衆には驚きとともに歓喜の声が混じる。

アラブの諸政府は犯人たちがアラブ人以外であることを願っている。攻撃を非難するアラファトは、「信じられない、信じられない」と繰り返した。

確かに街頭で大喜びするパレスチナ人たちも居た。「アメリカは世界中で人民を攻撃する者たちを支援してきた。」「世界を軽蔑したアメリカの政策が、アメリカに破滅をもたらすのだ」と、ハマスのスポークスマンは述べた。

アラブ世界のアメリカの同盟者たちは、イスラエルによる占領に対する反抗であるインティファーダが勃発して1年を経過し、世論が反米感情を強めつつあることを警告してきた。パレスチナ人の死者が急増している中で、アメリカがイスラエルを支持したことで、人々はアメリカの放置政策がイスラエル政府にインティファーダ弾圧を促したのだ、と確信するようになった。

この夏、サウジ・アラビアのアブドラ皇太子はホワイト・ハウス訪問を取りやめた。彼は、西側の行動回避がテロリストの増加につながっている、と述べた。エジプトやヨルダンは、国民の中で高まる怒りに直面して、アメリカにもっと公平な中東問題への関与を求める外交努力を続けていた。

イスラエルとアメリカの政策が、アラブ人の怒りを高め、アフガニスタンに潜むオサマ・ビン・ラディンや、イラクのサダム・フセインの人気を高める結果になったこと自体、大きな悲劇だ、とアラブの高官は注意した。

ロンドンのアラブ系新聞Al-Qudsの編集者、Abdelbari Atwan氏は、パレスチナ=イスラエル問題で、アラブの指導者たちが無能であることに怒った過激な反対派グループが優位に立って、アラブの首都でも同様の破壊活動を行うかもしれない、と述べた。「爆破は悲しい結末であり、われわれを困惑させ、アラブ世界に汚名を着せる以外に何ももたらさない」とアラブ連盟の職員は言う。「誰も、こうした攻撃の本当の理由を知らないだろうし、アメリカの眼がパレスチナ問題に向けられることも無いのだ。」

中東問題との関係が実際に明らかになれば、アメリカはますますアラブから離れ、イスラエルに接近するだろう。アメリカ議会のイスラエル支持者たちは政府がパレスチナ人への圧力を強めるだけで、紛争に関わらないよう求めるし、イスラエル政府はアメリカとの共通の脅威として、イラン、イラクとともに、イスラム過激派を指摘するだろう。

ユタ大学の中東学部長、Ibrahim Karawan氏は言う。「アメリカが政策の過ちに気づき、アラブの立場をよりよく理解するよう、中東のために、このテロが行われたのか? 私はそう思えない。」


Financial Times, Thursday Sept 13 2001

Editorial comment: Responses to an outrage

死者の数が増加するにつれて、ブッシュ大統領は迅速かつ苛烈な反撃を実行せよ、という国民の要求に直面する。これは戦争であって、アメリカはテロリストを組織した者も、彼らをかくまった政府も攻撃する。アメリカはそうするしかない。もしこのテロ事件との関わりが証明されれば、アメリカがテロリストのキャンプや施設をロケットで攻撃し、こうした国の民間人にも死傷者が増えるだろう。

しかし、こうした反撃には明らかに危険な面がある。ブッシュ氏は事態を悪化させかねないのだ。第一に、反撃を正当化する確かな証拠が必要だ。アメリカ国民の復讐心を満たすだけでなく、特にアラブ諸国で、アメリカは誤認攻撃による一層の反発を招いてはならない。第二に、戦争と違って、こうした敵対者に対して完全な勝利を収めて戦争を終えることは不可能である。アラブ市民が被害を受ければ、互いの爆破行為がエスカレートする。敵を峻別することは実際には行えない。イスラエルは、圧倒的な軍事的優位と秀でた諜報活動、過酷な報復政策を備えていても、国内の自爆テロを止めることができないのだ。

ブッシュ政権は二つの目標に集中すべきである。第一に、今回の犯行に関わった者を見つけ出すこと。第二に、再発を防ぐこと。そのために、諜報活動を強化し、自由と安全とのトレード・オフを再評価し、同盟国はアメリカに支援を与えることである。

テロリストたちは、アメリカ人と西側世界の自信を砕こうとした。そうさせてはならない。このことは特に、世界の通貨当局が、特にアメリカの連邦準備委員会が、速やかな行動を取ることを意味する。アメリカ連銀だけでなく、ECBも一緒に、金利を下げることが、この事件の前から求められていた。同時に日銀は劇的な金融緩和に進むべきである。イギリスも短期金利の引き下げが望まれる。中央銀行が一斉に流動性を供給するだけでなく、協調して金利を引き下げ、世界経済への懸念を共有していることを示すべきだ。協調できなければ、Fedは単独でも緩和すべきであろう。

テロリストの破壊攻撃そのものが金融やビジネスを脅かすことは無い。情報経済への移行は損害に対する耐久性を高めた。非常に特化した生産ラインや製鉄所は容易に代わりが見つからないが、知識労働者の手段、パーソナル・コンピューターはどこにでもある。金融サービスは、アメリカでもヨーロッパでもアジアでも、世界の取引を管理できる。ただし、アメリカの市場再開は、金融機関の間で予期せぬ不均衡をもたらし、LTCMが1998年のロシア危機で陥ったような脆弱性を導くかもしれない。

結局、アメリカのビジネスも金融も、驚くほど急速に回復するだろう。アメリカのビジネス社会はテロに屈することなど無い、ということだ。


Financial Times, Thursday Sept 13 2001

Paying for security with liberty

Micahel Ignatieff


Bloomberg, 09/12 16:10

Asia's Precarious Place in a Dangerous New World

By Patrick Smith

テロ事件がアメリカ人の心理を変え、アジアを非常に危険な状態にする。

アメリカ人は、アメリカ合衆国という国がある限り、自分たちは歴史の外に居ると感じてきた。歴史を形成する断絶や襲撃、因果関係から、自分たちだけは自由である、と。良くも悪くも、こうした国民感情がアメリカ人をアメリカ的にしてきた。東海岸から伝わる衝撃的なニュースは、アメリカがドアを抜けて次の世界に入ったこと、自分たちも歴史過程から免れていない、という感情を示している。

もちろん、国民の真理が完全に変化するということは無い。それには長い時間がかかる。では、その間、アメリカが、ジョージ・W・ブッシュという保守的な大統領の下で、どう反撃し、どう変わるのか? 中東を除いて、その影響がもっとも深刻な地域は、アジアである。

ブッシュ政権のアジア政策は、外交から軍事に重点を移すだろう。ブッシュのアジア外交は最悪の出だしであった。えひめ丸沈没、海南島へのスパイ機不時着、金大中大統領の対北朝鮮宥和・太陽政策への批判。この夏、パウウェル国務長官のアジア訪問で、何とか中身の無い友好関係を維持していた。

テロリストたちは、ブッシュのミサイル防衛網NMD計画が無駄なことを示した。しかし、それでも通常軍備の拡張と並んで、この計画は承認されるだろう。そしてブッシュ政権は、NMDを進めれば、中国、インド、パキスタンが核兵器を増産し、東南アジア諸国が軍事的緊張を高めることも承知している。

ブッシュ政権は日本政府に、太平洋地域の安全保障に日本が積極的に貢献し、アメリカのハイテク軍事技術にも協力するよう求めるだろう。しかし日本政府には、そのアジア地域における微妙な立場も含めて、受け入れる用意が無い。

アメリカを襲ったテロリストたちのもたらす恐怖の世界、より多くの緊張、より少ない理解しかない世界にアジアも参加する。


Los Angeles Times, September 12, 2001

John Balzar:

God Have Mercy, War Has Come Home

アメリカは目覚めた。憤怒によって。多くの警告を見過ごし、多くの大陸で多くのテロリストを刺激してきた。この怒れる世界で、アメリカは自分たちだけは平和の孤島だと信じていた。

しかし、空を見ろ。それはミサイルでもないし、「スター・ウォーズ」でもない。いつもの親しげなアメリカン航空機が、空の向こうからやって来た。将軍たちや政治家、スパイのもくろむ昨日の戦争ではない。これは新しい戦争だ。

われわれは観る。この新しい戦場に並ぶ、ハイヒールの女性たち、スーツ姿の男性たち。事務員は走り、サイレンが鳴る。どうやって、どこに、いつ来るか、われわれは知った。ツイン・タワーを壊滅させ、ペンタゴンを炎上させたのだ。街はパニックに陥った。

数え切れない死者が、テロの犠牲者ではなく、戦死者として告げられている。神のご慈悲を。戦争がアメリカにやって来た。無慈悲であること。われわれは決して手を抜かない。敵対する者は知るだろう。月曜日まで、アメリカは自己陶酔し、鈍感で、喧嘩っ早いだけの、中途半端な国であった。金利、株式市場、予算、減税、保守派とリベラル。たるんだ顔。厳格な顔。火曜日の朝も、それがアメリカだった。

そのとき火炎が上がった。世界は激情に翻弄され、アメリカもこの炎から逃れられない。21世紀にわれわれはどこへ向かうのか? 大地が揺れていると感じただろう。受話器から聞こえた、助けを求める声。誰かに取りすがるほか無かっただろう。

郊外の住宅地でも、フリー・ウェイでも、人々は言葉を失い、隣人とむなしく眼を合わせた。あの煙とジェット燃料の中で燃え尽きたのは、あなた自身ではないか? アメリカ国旗を振りながらパシフィック・コースト・ハイウェイの路肩を走った上半身裸の若者は、あなたではなかったか?

60年前の真珠湾に、国旗を掲げた敵が飛来した。60年を経て、敵はその姿を隠している。テロリズムだ。しかし、それはまだ不明な点が多い。雷鳴はまだ鳴り始めたばかりだ。

危機に直面してアメリカ人は団結する。民主主義の偉大さが重大な事件を通して示されることを願う。「野蛮と文明、独裁と民主主義との戦争」と、第一次世界大戦が始まるときセオドア・ルーズベルトは言った。

60年前にアメリカはカーテンを引き、60年経って宇宙に防衛網を築く。敵は攻撃する条件を選択する。アメリカはよろめいたが、決意した。われわれは敵の顔を見た。われわれは恐れない。148の戦死者を出した湾岸戦争よりもはるかに多い死者が出ただろう。

敵は姿を隠して自殺した。次は、清掃車に積まれた核爆弾か? 洗浄ボックスにひそむ炭疽熱のビンか? 敵のもくろみは分かっている。

この日、彼らはわれわれを目覚めさせた。


Financial Times, Friday Sept 14 2001

Even a hegemon needs friends and allies

Moises Naim

テロリストの攻撃は多くの人命を奪っただけでなく、同様に、多くの思想を葬った。多くの確実性や、調査資料や政策、予算が依拠していた前提の中で、ワールド・トレード・センターとペンタゴンに飛び込んだジェット機の爆発の後も生き延びるものは少ない。

何よりも、技術によってアメリカ本土が攻撃を受けない、と信じることはできなくなった。ミサイル防衛計画の支持者たちは、それが国の予算に値することを示すのが非常に困難になった。防衛の優先順位を変えてしまうだろう。軍事力だけでは国家の安全が維持されない。

テロリストの攻撃は、新しい思想に注意を向けさせた。特に、テロリズムに対する世界的な戦いを遂行することである。それは決して新しい考えではないが、今や優先順位と予算が長期にわたって向けられる。それはさらに、二つの考えに至るだろう。一つはテロリズムに対する戦争に勝利する、という考えであり、もう一つは、それ以外にアメリカが直面していた外交問題が置き去りになる、ということだ。

テロリズムは常に存在したし、根絶されることもないだろう。テロリストが国際的に移動し、活動範囲を広げたのは、グローバリゼーションのおかげである。また、世界は将来のテロリストを生み出す条件に満ちている。それは戦争によって追い出された数百万人の難民キャンプであり、エスニック紛争であり、破綻した国家である。殉教の約束だけが悲惨と絶望とからの唯一の出口であるような状態が、諸都市にまで広がっている。自爆テロの志願者には事欠かないのである。

オサマ・ビン・ラディンとそのネットワークを抹殺することでテロリストの脅威が無くなる、という考えは、コロンビア最大の麻薬カルテルの首謀者、パブロ・エスコバルを抹殺することで麻薬取引が無くなる、と望んだのと同様に、間違っていることが分かるだろう。コロンビア警察がエスコバルを殺害した後も、他の麻薬王たちが現れて、今や麻薬戦争が鎮まるどころか、さらに激しさを増している。

テロリズムとの戦争がそうならない保証は無い。敵は永久に現れ、つかみどころが無く、勝利にもかかわらず、敵の敗北は保証されない。こうした戦いを戦争と呼ぶことは、これまでの戦争と大きく異なる。

アメリカ政府は、結局、ロシアや中国との関係をどうするのか、明確に示していない。WTOのドーハ大会は数ヵ月後に迫り、この数年、混沌としている貿易交渉にアメリカは打開策を示して、国際的な連携を構築しなければならない。コロンビアの麻薬撲滅作戦。インドとパキスタン、中国と台湾、朝鮮半島、バルカン、核拡散、アフリカのエイズ問題、貧困、世界経済の減速と金融不安、アルゼンチンやトルコ、あるいは中東紛争。リストは長大であり、よく知られている。慢性的なものも、治る見込みのないものもある。潜伏期にあるものも、直ちに要注意のものもある。今はアメリカの利益を直接に脅かさないとしても、いつかこれらが爆発してアメリカを脅かすだろう。それから逃れる道も無い。

火曜日の悲劇が残した灰の中から現れたもう一つの考えは、良い知らせである。超大国でも孤立しては進めない、ということだ。ブッシュ政権の始めに、ユニラテラリストの多くの主張は、テロリズムに対する長期戦が他国との緊密な協力を必要とすることを理解すれば、弱められるだろう。それはアメリカが直面する他の問題にも当てはまる。

われわれは友人を、そして同盟国を必要としている。たとえ覇権を握っているとしても。


Financial Times, Friday Sept 14 2001

The limits of change

Joseph Nye

真珠湾攻撃はアメリカ史において転換する力を持った。孤立主義と国際主義との対立は拮抗していたが、この事件以後、孤立主義の信用が失われた。ワールド・トレード・センターとペンタゴンへの攻撃も、同様の転換点になる、という意見が多い。しかし、その被害にもかかわらず、アメリカ人にとって、この事件が真珠湾攻撃のような転換をもたらさない方が良い。防衛政策や諜報活動で転換は必要だが、外交政策の転換は緩やかなものであり、国内問題では転換は混じり合っている。

アメリカの防衛政策は外国の軍隊を予測し、アメリカの海岸線から遠く離れた地域で衝突が起きても優位を保てるように計算されている。ヨーロッパやアジア、アラビア湾で駐留するアメリカ軍は、こうした環境を維持し、決定的な地域で安定した勢力均衡が保たれるように支援する。しかし、最近、下上院議員Gary HartWarren Rudmanが議長を務めた国家防衛委員会は、こうした機能ではアメリカ本土を防衛できないし、弾道ミサイルの防衛網も上手くいかない、と指摘した。そして、むしろ国内の防衛に重心を置き、情報収集、防衛・諜報・法執行の協力体制、国内の防衛隊創設、を提唱する。

アメリカが海外の紛争から手を引けば国内の安全は保証できる、という考えは間違っている。アメリカ経済と文化の影響力は世界的であり、ファンダメンタリストの反発は避けられない。例えば、中東問題から距離を置くのではなく、むしろ和平に積極的に取り組むことが必要である。

アメリカはもっとソフト・パワーを行使すべきであるが、ユニラテラリストの発想や行動はそれを妨げている。国内では、防衛や安全に関する組織的な取り組みを改善すべきである。しかし、たとえ自由主義者であっても、命が脅かされる事態になれば、間違った手段に訴える。その意味で、大統領や政治指導者たちは、自由と安全とのトレード・オフが理性的な範囲に抑えられるよう心がけねばならない。

The Economist, September 1st 2001

1990年代に中央ヨーロッパ諸国は共産主義から資本主義に移行し始めたが、日本は当時から患っている動脈硬化症をまだ治癒できていない。

小泉氏は二つの事実に目を向けねばならない。ひとつは需要面であり、日銀にもっと根本的な金融緩和を行わせることだ。もう一つは供給側の改革であり、新企業の設立と市場への新規参入を促すことだ。規制緩和によって、アメリカでは何百万人もの職が失われたが、それ以上に多くの職が新企業や中小企業の成長によってもたらされた。新企業家の叢生なしに、失業問題は解決できない。



他方、その支持者たちは、計画コミュニティーに住む白人の政治意識は他よりも高い、という。コミュニティーの厳しい管理は成長を抑制する運動から生じたのであり、職場と居住空間とを快適に維持する住民の願いが実現したのだ、と。