今週の要約記事・コメント

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IPEの果樹園 2001

New York Times, August 23, 2001

MARKET PLACE

I.M.F. Aid Package Buoys the Argentine Markets, for Now

By JONATHAN FUERBRINGER

投資家たちはアルゼンチンへのIMF融資が決まったという発表に、慎重ではあるが、好意的に反応した。しかし、今回の救済もアルゼンチンに時間を稼がすだけで、債務削減があるという見通しを排除できなかった。また、アルゼンチンの経済が回復する措置は何も含まれていない。

アルゼンチンは、もっとはるかに大きな金融支援がなければ、投資家の負担で債務の削減を求めるしかない。しかし、ウォール街でこのこと(「ヘア・カット」と呼ばれる)が公式に話し合われることはない。その脅威が、自発的な条件で、アメリカの銀行に債務削減を検討させる。IMFは自発的な債務削減の詳しい内容を示さないだろう。

損失の可能性が、交渉に向けて「人々を圧力にさらす」のである。すでに市場において「ヘア・カット」は実施されている、と言う者もある。アルゼンチン国債の価格は、昨日の上昇にもかかわらず、2月の高値から25%も下落している。

ブッシュ政権が融資を認めたことで、当面、デフォルトや固定制の崩壊は回避された。アルゼンチンの株価指数は8.1%上昇し、2005年が満期の変動利付債も価格が13.9%上昇し、金利は36.6%から22.5%に下がった。

投資家たちはアルゼンチンのデフォルトが新興経済に波及することを心配する。アメリカ、ヨーロッパ、日本がさらに減速する中で、アルゼンチンが経済情勢を改善して財政赤字を減らすことはできないからだ。

IMFも政府も、自発的に市場型の債務削減を検討しつつある。6月の債務スワップも、何百万ドルかの利子支払いを延期したが、利子の支払いと元本の保証で投資家に同意させた、と推測される。当面の受取額は減っても、スワップがアルゼンチンの金融問題を改善できれば、投資家は保有債券の価格上昇という形で損失を補い、元本の保証も期待できる。

New York Times, August 23, 2001

From No Aid to a Bailout for Argentina

By JOSEPH KAHN

アメリカのオニール財務長官は、公にIMFの救済融資を非難してきた。しかし、結局、先週火曜日の融資承認はそれを修正したことになる。ただし、それは180度の転換ではなく、30度の切り返しであるようだ。ブッシュ政権も、クリントン政権が進めてきた急激な世界的統合化の後に、他の外交政策目標から救済融資だけは取り止めると言えなかった。そんなことをすれば、自由貿易、金融市場統合、さらには民主主義まで、犠牲にするかもしれない。救済装置のスイッチを切るだけでは済まないのだ。

ブッシュ大統領は、ラテン・アメリカの指導者たちと、NAFTAを模範として自由貿易圏を西半球全体に拡大する計画を支持してきた。アルゼンチンへの融資を拒めば、こうした見通しも失われる。ゼーリック通商代表が、IMF融資を補完するものとして、アルゼンチンや地域全体にとって自由貿易が経済成長のエンジンになる、と主張したのも偶然ではない。

延期された交渉の期間中、オニール氏はIMF職員と、アルゼンチン金融次官のマルクス氏とそのスタッフに、新しい融資を使わずにアルゼンチンの問題を解決するよう、強く求めた。IMFや他の国際金融機関が、融資ではない債務組替え支援を行うことを、オニール氏は考えていた。しかし、市場の不確実さが増す中で、オニール氏が求めるような長期の解決策は、成功する保証が得られなかった。

交渉がこれほど長引いたのは、オニール氏が何か新しい、長期的な解決策を示したがったからである。しかし、そのためには市場が落ち着きを取り戻さなければならない。

Bloomberg, 08/26 00:01

Russia Turns Kyoto Protocol Into Debt Relief Plan: David DeRosa

By David DeRosa

アルゼンチンの債務が削減されたのであれば、次はロシアの番だ。ロシアは1998年のIMF融資で40億ドルを横領し、決して良い印象を持たれていない。しかし、ツィカノフ経済副大臣は強気だ。京都議定書に従えば、ロシアはヨーロッパに酸素を供給している見返りに、債務を減額される権利がある、と。彼はロシアを酸素の生産工場とでも思っているのであろう。しかし、ロシアや他の旧共産諸国が環境保護の「エデンの園」であるとは信じがたい。

他方、世銀やIMF、G7、WTOなど、国際機関への反対運動に対して、貧しい国への債務免除は歓心を買う手段である。そこでロシアは自国を重債務貧困国(HIPCs)に含めて、債務免除の二股をかけている。これもまた、とんでもない間違いである。1996年に、IMFと世銀がHIPCsとして債務免除を認めた約40カ国は、ほとんどがアフリカに属し、非常に貧しい国である。アルゼンチンもロシアもこれに含まれない。しかも、免除額は約24億ドルに過ぎず、増額されそうも無い。

「危機」にあるアルゼンチンとロシアが何十億ドルも融資を受けて、HIPCsにはわずかしか免除を認めないのであれば、私は彼らに同情して、こう助言するしかない。もっと多くの債務免除を求めたいのであれば、まずもっと多くの債務を累積して、金融危機になっておくことだ、と。

New York Times, August 26, 2001

Argentina's Stopgap Cash Gets Some Funny Looks

By LARRY ROHTER

それは貨幣と同じように財布に入れて使用される、と州政府は期待する。しかし、州政府の印刷する「パタコン」は貨幣ではない。「電力会社は受け取ったが、電話会社は受け取らない。クレジット・カード会社もダメだ。ガス会社は支払額の30%までしか受け取らない。パタコンに信用が欠けているのは明らかだ。」

IMF融資は決まったが、ドルとの11の交換を保証するために通貨は発行できず、州政府は破産している。ブエノス・アイレス州の知事は、パタコンを受け取りたくないものが居ても仕方ない、と言う。

これをビジネス・チャンスにする企業もある。マクドナルドはこの新しい通貨を歓迎している。水曜日には、こんな広告を流した。「私は自分の国を信じている。私はパタコンを受け取る。」そして店では「パタコンボ」という特別メニューで、チーズバーガー2個、フライドチップス、ソフト・ドリンクの組み合わせを、5パタコンで売り出した。パタコンボはビッグ・マック・コンボよりも1ドル高いが、これは地元の店舗がこの新通貨を割り引いていることを意味する。

パタコンは政府の自暴自棄と、アルゼンチンの衰退の象徴である。木曜日、何千人もの教師や裁判所・病院の労働者たちがデモを行い、州政府庁舎を取り巻いた。「ペソを出せ」と連呼する。プラカードには、「対外債務をパタコンで支払え!」「(自分たちには)全額、遅れずに、ペソで支払え!」とある。

ペソが没落する反面、街頭では物々交換が始まり、アメリカ・ドルによる取引がますます支配的になっている。「モーゲージ市場の95%はドル建である。このままペソが信用を失えば、中央銀行はドル化するしかない。」という者も居る。ドル化が最善の策だ、と主張する者は、アルゼンチンにもアメリカにも居る。ペソの暴落を心配することなく、アルゼンチンに投資できるようになれば、それはどんなにすばらしいことか?

しかし、ドル化とは別に、中央政府の直面する危険は経済政策が効果を失うことである。アルゼンチンの州の約半分が債券発行を考えている。それは政府がIMFと決めた「財政赤字ゼロ」の実行を難しくする。

Financial Times, Tuesday Aug 28 2001

When the gold standard lost its lustre

Rudiger Dornbusch

30年前にニクソン大統領は、他国の中央銀行に固定価格でドルと交換に金を売っていた「金の窓口」を閉じた。当時、今のアラン・グリーンスパン議長はこう述べた。「これは金に反対する福祉国家論者の論説に隠されたお粗末な陰の部分である。財政赤字とは、裏に回って富を掠奪することでしかない。金はこれを防ぐ。金は所有権の守護者である。」

確かに1970年代のインフレーションと財政赤字は彼の不安を高めるに十分であった。しかし、現代では金は余計なものである。それに代わって債券市場が、手軽に繁栄をもたらしたい中央銀行の金融緩和に対する誘惑を抑制している。さらに、インフレ目標や中央銀行の独立性が、安定した通貨を維持するようになっている。国際金融に確実なことは何も無いが、少なくとも、金を国際通貨制度の一部とする時代は終わった。

19世紀は、金による安定した貨幣と経済進歩の時代であった。しかし大恐慌が起きて、国際的なリフレ政策は行われず、金に依拠した通貨制度では政策選択の余地がほとんど無かった。イギリスが金本位制を離脱し、多くの国が続いたことで、明らかに各国は経済状態を改善できた。アメリカは1933年に国内の金兌換を停止したが、国際的にはそれを1オンス35ドルで継続した。当局は自由市場の金価格を35ドルにまで下げるために、金準備を売却した。

その後、アメリカ・ドルの過大評価が進み、ドル不足からドル過剰になったために、それは外国当局との協調を乱した。自由市場で金が35ドル以上したのに、なぜ金ではなくドルを保有しなければならないのか? アメリカからの金流出は続き、金準備が減少して、危機が迫っていた。そこで1971年、ニクソン大統領は金の売却を停止し、ドルを切り下げたのである。残った金はFort Knoxでほこりをかぶり、キャピタル・ゲインを上げることも無い。

しかし、もちろん、金はそれで終わらなかった。1980年に、IMF分担金を支払う曖昧な法案ができた際に、共和党のJesse Helmsは、金に依拠した通貨制度への復帰を検討する委員会の設置を滑り込ませた。レーガン大統領が民間の金保有自由化と委員会の設置を決めると、金価格は700ドル以上に上昇した。しかしその後、金価格は下落し、委員会も金の復活を葬り去る結果になった。

インフレーションが消滅し、変動制が不満足な為替制度の中では最善の選択であることが受け入れられて、金への関心はどこでも失われた。Robert Mundellは金を中心とした世界貨幣案を示したが、注目されなかった。しかし1980年には、管理通貨制度の失敗により、金本位制度も完全な妄想ではなかった。アメリカとともに世界が大幅なインフレに向かい、人々の期待は目標を見失い、債券価格が急騰したのだ。健全通貨の要請はマネタリストを甦らせ、安定的なアンカーが求められた。

猛烈なディスインフレ戦略が、1930年代以来もっとも深刻な不況にも関わらず、当局によって敢行され、クレディビリティーは新しい流行語になった。その後、20年を経て、中央銀行はインフレ抑制の信認を確立したし、債券市場がそれを監視している。金の必要性は無くなった。インフレ目標が新しい答えである。この10年間でそれは正しいことが証明された。

他方、為替レートでも金の役割は後退した。アメリカもヨーロッパも、固定為替レート制が望ましいとは信じていない。国内の金融政策も財政政策も、為替レートを固定するために従うことは無い。もちろん、その大幅な、持続する変動はコストを伴う。しかし、その他の世界と成長の歩調を合わすことは、すでに過大な負担を課せられた政策担当者にもうひとつ仕事を増やすだけである。他方、固定為替レートや、まして金本位制が、議会や国民、中央銀行の念頭に上ることは無い。

かつて金の役割とは価格の安定性を保つことであった。アメリカには、安定した通貨があるけれど、それを将来も維持する精度が無い。イギリスやヨーロッパと違って、もっぱらFRB議長が望まないという理由で、アメリカには明確なインフレ目標が無い。しかし、グリーンスパン議長が年内に辞任するという噂もある。例えば、1%から2.5%という目標を決めることで、議長が誰であるかに関わらず、債券市場はアメリカの経済的安定をより大きく信頼するだろう。

Financial Times, Wednesday Aug 29 2001

Break the link between trade and labour

Jagdish Bhagwati

メキシコのフォックス大統領に自由貿易の価値を説く必要は無いが、土曜日の会合で多くの国からの代表を新しい貿易交渉の開始に導くには、どうしても一つの問題を避けて通れない。すなわち、労働基準labour standardsの扱い、である。

アメリカ議会では、民主党員の何人かが、最低労働基準を支持する組合の意向を反映して、貿易交渉に反対を唱えている。民主党の幹部は、労働基準と貿易問題を結びつけない共和党や「自由貿易支持派」の道徳的な欠陥を攻撃する。

貧しい諸国が二つの問題のリンケージに反対するのは、豊かな国の人々に理解しにくいことであろう。それはしばしば貧しい国の政府が労働者の利益を反映していないせいにされる。しかし、インドのような民主国家が全体として、その労働組合も含めて、リンケージに反対するのは間違ったことだろうか? 否、間違いではない。それを理解するために、リンケージを支持する二つの異なった主張を区別しておこう。

一つは、「利己的な恐怖心」である。豊かな国の労働者たちは、リンケージが無ければ、自分たちの実質賃金や労働基準が悪化する、と考える。もう一つは、「利他的関心」である。外国の労働者が最低限の保護を得られるために、こうしたリンケージが必要だ、と主張する。しかし、どちらの議論も間違っている。

貧しい国との貿易は、豊かな国の実質賃金を下げ、資本をより低い労働基準の貧しい国へ移動させてしまう、と恐れられる。戦後の傾向が断たれて、実質賃金が停滞し、低下さえした1980年代以降、この見方は強まってきた。

もしこうした批判が正しいとすれば、労働集約的な財の価格は(相対的に)低下したはずである。しかし、衣類や靴など、こうした財の価格は80年代を通じて上昇している。貧しい国も豊かになり、より多く熟練や資本を必要とする財の生産に移ったのである。こうして、新しい供給国からの輸出は「吸収」された。

豊かな国の実質賃金を低下させているのは貧しい国との貿易ではなく、むしろ、技術変化によって急速に過剰となる国内未熟練労働者の実質賃金低下を、その貿易が緩和していると言っても良い。

「底辺への競争」は、企業が労働基準を貧しい国と同じように下げて行く、という主張だが、そのような証拠はほとんど無い。アメリカの苦汗工場は、非合法移民を使って、法律が適用されない、というような国内問題である。

それゆえ、以上のような議論は保護主義でしかない。

利他的な関心により、労働基準を市場アクセスの条件にしよう、という主張は、WTOに二つの問題を生じる。すなわち、労働基準の改善のためにWTOの制裁措置が使われ、WTOは公正さという責任を帯びる。

しかし、児童労働のような複雑な問題に関して貿易の制裁を科すことはできても、問題を解決することはできないだろう。その地域の団体や政府、家族、学校などが協力する必要があるし、児童労働根絶のためのILOプログラムこそ求められているものだ。

自由貿易と労働問題を結びつけることは、正当な懸念から生じたものではなく、正当な願望ともならない。豊かな諸国は再び(保護主義という)間違いを犯そうとしている。

Bloomberg, 08/28 15:08

Constructive Default -- a Chronic Bailout Cure: Caroline Baum

By Caroline Baum

デフォルトに良い時期など無い。

システミック・リスク、コンテイジョン、世界経済の悪化、民主主義体制への支援、アメリカの同盟国、こうしたすべての弁解が、民間投資家に失敗した投資の損失を負担させないようにしている。支払いはIMFから納税者へ回される。

アルゼンチンをデフォルトから救った条件には、1300億ドルの債務を組替えることが含まれている。しかし、6月に満期まで5年以内の債務300億ドルをより長期の債務に交換した際、それはアルゼンチンの利子コストも債務総額も増やした。他方、ウォール街は莫大な手数料を稼ぎ、このスワップを激賞している。

カヴァロ経済大臣も「アルゼンチンのデフォルトに賭けた連中を打ち負かした」と豪語した。「さあ、次は国民にとって重要なもの、経済成長に向かおう」と。

オニール財務長官は、救済融資に反対してきたが、最後は変心した。持続可能なアルゼンチンを創りだす方策を考えている、と述べていたが、出てきたのは金のかかるバンド・エイドである。タイ、インドネシア、韓国、ロシア、トルコ、ブラジル、アルゼンチン、いいかげん救済融資体制を破棄するべきではないか?

Carnegie Mellon UniversityAllan Meltzerと同大学のGailliot Center for Public Policy所長であるAdam Lerrickとは、すべてを救済する体制でも、デフォルトによる市場の混乱を許す体制でもない、もう一つの改革案を示した。「組替えられた後の予想価格より十分に低い最低価格で、IMFは危機に陥った政府が民間部門に負っている債務の一部もしくは全部を購入する。」

この最低価格は、市場のパニックや崩壊を防ぐ、と彼らは主張する。不確実性が無くなれば、金融システムからコンテイジョンの要素が取り除かれ、各国は債務負担を維持可能な水準に低下させ、民間債権者は「予想の範囲内で」損失を被る。IMFが購入した債権は債務支払いが停止され、6ヶ月以内に組替えられる、と提案されている。

要するに、公的部門は真の最後の貸し手となり、投機的な資本の価値を保証することから手を引いて、市場の規律が働くだろう、と。

The Cato InstituteProject on Global Economic Libertyを率いるIan Vasquezも、市場にはデフォルトも必要だ、と言う。IMFの融資にはアルゼンチンの成長を回復する方策が含まれていない。「通貨の安定性こそが問題である。人々はペソ切下げを恐れている。課税と規制の問題を解決しなければならない。」例えば、労働の規制には43%の給与からの芸金支払いが含まれており、雇用者と労働者を対立させている。付加価値税も21%である。

ウォール街は微妙な問題に口を閉ざすが、潤沢な手数料に目が向いている。彼らはスワップから儲ける術を心得て、黙っておくほうが良いと知ったのだ、とIan Vasquezは言う。もちろん、IMFからのコメントは無い。

Financial Times, Thursday Aug 30 2001

The bail-out champion bales out

Alan Beattie

スタンリー・フィッシャーは、反発を受けながらIMFを去る。彼はIMFの行動を弁護しつつ、将来の通貨危機には異なった対応を模索するだろう、と示唆した。

フィッシャー氏はIMFの何十億ドルもの新興市場向け融資を組織してきた。最近も副専務理事としてアルゼンチン向け融資をまとめた。6年前に彼がMITからIMFに移った後、メキシコ、アジア、ロシアで危機が発生した。さらに最近では、ブラジルとトルコが金融危機に陥った。あるIMF職員は彼を疫病神とみなす。

しかし、彼が去ろうとしているIMFは、彼が加わったIMFとかなり異なる。オニール財務長官は、就任するなり、大規模救済融資の時代は終わった、と宣言した。

アルゼンチンはインフレを克服したが、IMFも薦めたドルとの固定レート制に縛られて経済が衰退している。しかし、フィッシャー氏は危機の国を擁護し、IMFが協力した諸国の回復策を今も支援している。「通貨の釘付けは非常に強く、制度的・政治的に打ち込まれている。」「離脱を望む者などいない」と彼は言う。

フィッシャー氏はアルゼンチンを、固定レート制が問題となる意味で、「旧式の危機」と呼んだ。この問題についてはIMFのアプローチが変化し、固定レートから混乱した離脱を強いられる前に、各国は弾力化すべきだ、と言う。将来、危機は債務の持続可能性に関わって起きるだろう、と。

危機の国に小切手を乱発することで、フィッシャー氏はIMF職員や工業諸国の苛立ちを強めた。特に、民間投資家に債務組替えの痛みを分担させる体系的な方策をIMFは見出せなかった。「私がスタン・フィッシャーと会うとき、彼が最初に聞くことはいつも、『この国にわれわれはいくら出せるだろうか?』だった」と、ある銀行家は述べる。

しかし、フィッシャー氏は「安定化への支援は各国毎に異なる」という。また、債務組替えに民間投資家を従わせる点では、「現在は法的なメカニズムが無い。債務支払いの延期をIMFが許して、様子を見ている状態だ。それは不可能かもしれない。」と懐疑的だ。

国際的枠組み(破産処理の国際法)が無い以上、トルコやアルゼンチンのような国が厳しい改革を条件に救済を求めに来ることを拒むのは難しい。「IMFは協力機関である。支援を求める加盟国を救う責任がある。」モラル・ハザード批判について、「それはあらゆる保険制度に避けられない問題である。IMFの融資を減らせ、と言うのは、国際融資や国際資本市場を減らせ、と言うのと同じである(それは間違いだ)。」

IMFは、反グローバリゼーションの抗議や閉鎖を求める声にどう答えるか。フィッシャー氏はまさにその標的である。しかし、彼は貧しい国への債務免除を求める会合で、「批判のいくらかは正しい」と述べた。同様に、グローバリゼーションのマイナスの面も指摘した。新興市場で投資家が行っていることに透明性を要求し、特に医療問題では技術移転への要求を正しいと認めた。世界経済との統合は解体を含み、損失を受けるものに補償する適切な方策が求められる、とも述べた。しかし、抽象的なグローバリゼーション反対論には不満を感じている。

現在のザンビアとなる地域に生まれ、アメリカに帰化した経済学者として、その政策への関心と途上諸国からの強い支持を考えれば、彼の次の職場は、ワシントンDCでIMFと19番街を挟んで立つ、世界銀行かもしれない。

New York Times, August 29, 2001

A Coffee Crisis' Devastating Domino Effect in Nicaragua

By DAVID GONZALEZ

ニカラグアのコーヒー産地に貧困が広がっている。土地をもたず、仕事も無い多くの農民たちは、彼らにできる唯一のことをしている。道路わきに立って、食糧か仕事、彼らに必要なものを乞う。世界市場におけるコーヒー価格の急落は、中央アメリカに危機をもたらし、耕作の縮小や農園の閉鎖を強いている。家族を養うためにその両手しか持たない、無数の土地なし農民が、その職場を失った。失業者は地方から都市へと流れている。首都マナグアに集まり、政府に対して支援を求める。

コーヒー地帯では移民労働者がビニール・テントの下に呆然と疲れて寄り集まり、子供たちは道路に出て、通り過ぎる車を停めようとぼろ布のバリケードやカップを指し伸ばして、無駄な試みを続けていた。「私たちには食べるものが無い。子供たちは飢えて泣いている。仕事は無い。農園主は儲からず、賃金を払えない。」

MatagalpaJinotegaのコーヒー農園はニカラグアのコーヒー輸出の80%以上を占めることが誇りであった。それは12000万ポンドにも達した。Matagalpaには44000人の小農園主が居り、わずか数エーカーの土地を耕していた。しかし、彼らこそ多くの土地なし農民の暮らしを支える生命線であった。秋には収穫のために、近隣の村落から3ドルの日給を求めて子連れの家族が集まり、人口が40万人にもなった。

この地域は最悪の旱魃を免れたが、この2年間はコーヒー価格の下落に苦しめられてきた。ヴェトナムやインドネシアからのコーヒー供給が過剰になり、100ポンド当たりの価格を2年前の140ドルから50ドル程度に下げてしまったのだ。このあたりの農園は生産コストだけでも83ドルは必要だ。

価格の暴落は、街の税収を失わせ、公共サービスも雇用も削減された。農場も減り、多くの貧しい労働者が土地に残された。彼らは食べ物や衣服のためにもお金が無く、家賃も払えない。小農家は銀行や加工業者に金を借り、債務が返せないと土地を取られた。すでに牛を売ってしまった牧場主は、生い茂った草原で何もできなかった。そして借金ばかりが増えていた。「レタスやトマトを植えて、それで食っているのだ。」と彼は言う。

土地を失った多くの人が道路に立っている。彼らの唯一の望みは、救援団体が配るトウモロコシや油、豆の食事である。数マイル南で道路に座り込んだ人々は、その日、何も食べておらず、潰瘍や下痢で苦しむ者もいた。「フランシスコ会の牧師が子供たちにビスケットを配ってくれた」と言う。「子供にやる食べ物が無い。大人はここで手を広げ、物乞いするしかない。われわれには耕す土地が無いのだ。政府はわれわれに土地を与えて欲しい。」

政府に抗議する者がさらに必要としているのは、彼らを再雇用してくれる雇用主への支援であった。補助金が出てもそのまま債権者に渡り、農民には届かない。危機に対して、政府は人々にほうきを与えて通りを掃除させ、一日2ドルを支払って800人を雇用した。しかし、7月初めから陸上競技場で多くの家族が暮らしているように、そうした援助では間に合わないことが明白だ。

古ぼけた倉庫のコンクリート・フロアで母親たちは眠り、子供たちは段ボール箱のゴミの上でまどろむ。医者が子供を診てくれたが、彼らに処方箋の薬は買えない。食糧援助は不定期で、ここでは6日間も無かった。22歳の女性は、はだしで、泣く子を抱えて、大学の支援グループが配るパンとドリンクをもらうため行列していた。「私たちには食べ物が無い。市場に行って、ゴミ箱から野菜を取る。その最も良い部分を子供たちにやる。」

政府は無視しているが、ますます多くの人々が首都マナグアに集まっている。

New York Times, August 31, 2001

RECKONINGS

Greenspan Stands Alone

By PAUL KRUGMAN

世界はアメリカとヨーロッパと日本という三つの経済大国を持つ。理論的には、それぞれが不況に対して、金融政策と財政政策という、二つの対応策を持っている。しかし、実際には、アメリカの金融政策だけが世界不況と戦っている。

今やヨーロッパは、アメリカと同じく、共通の通貨、唯一の中央銀行を持った。ヨーロッパとアメリカが世界の安定性の両極となることが期待される。しかし、EMUは、マジノ線と同じく、間違って、インフレという過去の脅威に向けられている。ECBの憲章には、物価の安定が謳われ、それでおしまいだ。職員たちは、成長にも雇用にも責任を負わない、と明言する。ヨーロッパ各国も、累積債務や高齢化を考えると、財政的刺激策を採る余地は少ない。ましてや「経済安定と成長の合意」は一時的な財政赤字も阻むものだ。

日本はすでにGDPの130%に達する債務を抱え、人口が高齢化しつつある。財政支出を増やすどころか、減らそうとしている。他方、日銀は金利がゼロに達して伝統的な金融政策が使えなくなり、プラスのインフレ率を目標とした政策は採用したくない。小泉内閣の経済担当大臣は一層の緩和を求めたが、デフレの加速する中で財政大臣がインフレを心配している。

アメリカは、政府が減税策を決めた。しかし、後ほど大きな減税をしても、不況対策には効果が弱い。他方、将来の減税額を決めたことで、すでに長期金利は上昇している。もっと減税を決めても、長期的な財政状態が悪化するから、その効果は疑わしい。

この憂鬱な現状に、唯一、機能麻痺を起こしていないのは、金利を下げ続けているFedである。あるいは、こう言っても良い。世界不況を回避する重責は、アラン・グリーンスパン個人の方にすべて懸かっているのだ、と。

(コメント)

Krugmanのゆるぎない確信が単純化や誇張を含むのは、アメリカの負担や、世界経済危機に対するヨーロッパと日本のふがいなさに、彼が憤慨しているからかもしれません。

NYT, August 31, 2001, Greenspan Says Market Swings Pose Challenge to the Fed DAVID STOUTは、より複雑なグリーンスパンの仕事を描いています。

The Economist, August 18th 2001