今週の要約記事・コメント

8/27-9/1

IPEの果樹園 2001

1.新興市場の世界市場統合化:アルゼンチンは、今すぐデフォルト、変動制へ移行して減価、短期債務の組換え、債務削減、緊縮財政と均衡化、地域市場統合化、企業効率化、実質賃金引下げ、をすることが望ましい? もしくは、なぜIMFは融資したのか?

2.日本経済の回復過程:日銀はインフレ目標値を、明示しない、マイナス2%、プラス2%、プラス8%、にすることが望ましい? もしくは、なぜ資金は外貨建資産へ流出しないのか?

3.国際通貨制度による相互の調整ルール:主要通貨間の為替レートは、10%の円安・ドル高、このままの水準を維持、10%のドル安、にすることが望ましい? もしくは、なぜドルは暴落しないのか?

もしアルゼンチンがデフォルトになれば、ドルも減価するでしょう。さらに危機が波及して、ドル価値は暴落するかも知れません。その場合、急激な円高が生じて、日銀はさらに金融緩和を求められるでしょう。しかし、それは多くの可能性の中で、折れ曲がった選択肢が微妙に重なった結果です。経済学者や政治家が微調整できるわけではありません。

何かを一定と仮定して全体を予測することは、理論では必要な作業ですが、現実には不可能です。私たちに必要なものは、確実な知識と想像力、そして社会的な革新への感性ではないでしょうか。

Financial Times, Thursday Aug 16 2001

Real weakness

Geoff Dyer

ブラジルの持続的な成長が期待されていたが、再び悪循環に陥っている。通貨レアルが減価し、インフレ圧力が生じ、金利が上昇している。それは債務の利払いを増やし、さらに通貨を減価させる。アルゼンチンの危機が波及することを恐れて、IMFは150億ドルにおよぶ3年間で二度目の融資を発表した。

1990年代の初めから、ブラジルは市場自由化と通貨改革に邁進した。その中心として、新通貨レアルが導入された。そしてインフレを鎮圧し、1000万人を貧困から救った。しかし、二つの重要な問題が残された。高インフレによって隠されていた財政赤字と、市場開放がもたらす巨額の経常収支赤字である。これら二つが、1995年以来、ブラジル経済の脆弱性となっていた。

1999年の通貨危機と切下げは財政赤字に注目したものであったが、その後、IMFと合意された緊縮政策は通貨の安定化とFDIの急増をもたらし、経常収支赤字の拡大を許してきた。それは長期的に輸出を増加させると期待されたが、実際には貿易収支が均衡したまま、経常収支赤字を拡大し続けている。今や、GDPの5%に接近する経常収支赤字に、投資家の不安は高まった。「インフレは抑制されたが、それは対外債務の増大という脆弱性をもたらした」とMCM Consultores Mr Sennaは言う。

アルゼンチンの通貨不安と世界経済の減速で、レアルも今年になって20%減価した。しかし、高金利による通貨不安解消は、財政赤字を悪化させる。債務の70%がアメリカ・ドルや短期金利に連動しており、利払いがGDPの約10%もある。さらに、エネルギー危機による割当制も成長を妨げている。政府とIMFに反対する野党も、輸出促進に加えてさまざまな財政支出を約束する政策は決して十分支持されていない。

IMFの融資は、ブラジルが深刻な危機で金利上昇と大幅な減価に直面しても、市場介入で事態を早急に収拾できるように、15ヶ月間の対外資金需給ギャップをカバーするものである。しかし、アルゼンチンが債務不履行になった場合、ブラジル企業はドル建債務のリスクをヘッジしておくためにレアルを大量に売るだろう。もしアルゼンチンのデフォルトが起きれば、ブラジルでもそれが選挙の争点になる。

タイミングが非常に難しい。ブラジルの旱魃や大統領選挙とアルゼンチンのデフォルトが重なれば、危機の被害は抑制することが難しいだろう。アメリカ政府やIMFからの支持を受けた債務の組替えであるか、それとも市場の混乱でデフォルトが強制されるのかによって、危機の性格は全く違ってくる。

アルゼンチンの危機に関係なく、ブラジルはこの脆弱性を解消しなければならない。逆進的な税制を改革する必要があるし、ビジネス界は「輸出税」を求めている。他方、年金制度の改革は政治的に難しいだろう。政治家たちが注目するのは「産業政策」である。ただし、職業訓練や輸出フェア、中小企業育成から、かつての軍事独裁体制下で行われた輸入代替政策を懐かしがるものまで、その内容はばらばらである。


Financial Times, Saturday Aug 18 2001

IMF delay on Argentina hits markets

By Thomas Catan in Buenos Aires and Edward Alden in Washington

アルゼンチンの外貨準備が失われていく中で、IMFから追加の融資を得るという発表がすぐに行われなかったために、新興市場の債券価格が下落した。発表が遅れたのはアメリカ政府が嫌がっているからだ、という憶測で市場は混乱した。アメリカ政府は依然としてアルゼンチンがIMFと相談することを求めるだけで、明確なサインを示さない。

危機を恐れた市民が民間部門で預金を引き出す額は、7月から10%を超えていたが、国際的な支援の期待から幾分緩和された。アルゼンチンは不況が3年に及び、歳入が減少し、1300億ドルの債務に支払いができなくなっている。これ以上資金を調達できなければ、政府は歳出削減を続けるしかない。そこで、慢性的な財政赤字を続けてきた政府が、毎月の税収額以内でしか支出しないように強制する法律を通過させた。給与、年金、軍事の削減が進められる。

しかし投資家たちは、不況が続く中で、こんな政策が維持できるとは考えていない。


Financial Times, Saturday Aug 18 2001

Mexico and Chile urge action on Argentine crisis

By Edward Alden in Washington and Thomas Cat in Buenos Aires

(コメント)

チリとメキシコの大統領がいっしょに、アルゼンチン政府への国際社会の支援を要請しました。しかし政府がIMFと合意できないのは、アメリカ政府が厳しい条件を求めているからだ、というのです。融資を受ける前に、アルゼンチンはデフォルトして通貨を切り下げろ、と。カヴァロ経済大臣は、アルゼンチンがそんな保守派の通貨政策で殺される実験動物にされてたまるか!! と憤慨しました。

アルゼンチンにどんな改善策があるのでしょうか? 国際融資を得て時間を稼ぎ、国内の経済を効率化(あるいは実質賃金を削減)して競争力を回復する。さらには輸出市場が拡大すれば、確かにアルゼンチンの外貨準備も増えるでしょう。国際社会がそれを支援することは必要なコスト分担であるように思います。

しかし、IMF融資は限られており、アルゼンチンの国内改革は選挙や国内のコスト分担によって挫折する可能性が多分にあります。結局、公的な資金で投機的な金儲けを救済しただけに終わる、という批判を、IMFもアメリカ政府は受けたくないのでしょう。他方、カヴァロは自分の経済改革を成功させたいだけであって、アルゼンチン国民の負担や、国際社会の安定性を犠牲にすることも省みないのか? 

厚みのある資本市場だけでなく、市場と国民を説得できる有能な国際派政治家の十分なストックを持つことが、流動的な市場に対抗して改革を進める政府機能に求められるのです。


Financial Times, Monday Aug 20 2001

Editorial comment: Argentina's woes

融資だけでアルゼンチン経済は救済できない。預金流出を止めるために引き出しを禁じたり、銀行を国有化したりすれば、一層の経済危機を招く。成長を回復させる必要がある。

経済活動のドル化が進んでいるために為替レートによる調整は十分に機能しない。公的債務の圧縮が進められているが、成長をもたらすには既存債務の削減も必要であろう。投資家は今まで高金利をリスクの見返りとして得てきたのである。ただしその場合でも、アルゼンチンの年金基金が最大のコストを負担する。

さらに、外国銀行の預金が流出しないように合意が成立しなければならないし、労働組合は賃金削減に合意しなければならない。こうして初めて、アルゼンチンは債務と通貨との危機の罠から抜け出せる。


Washington Post, Wednesday, August 15, 2001; Page A19

The Dollar Dilemma

「ドル」ほど一般の人々を困惑させる経済問題は無い。「ストロング・ダラー」が激しい論争を引き起こしている。しかし、正直に言って、経済にとって「ドル高」と「ドル安」のどちらが良いのか、はっきり言えるものは誰もいない。

1997年の初め以来、ドルは25%も増価した。アメリカの製造業はドル高に苦しんでいる、と苦情を言い、ドル安がアメリカ経済を回復させる、と多くの経済学者も言う。しかし、それが正しいと示すことは難しい。貿易に対する好ましい影響は、その他の悪影響で打ち消されるからだ。もしドル安でアメリカへの海外の投資が減少し、株価が暴落すれば、国内消費も減少して不況になる恐れがある。

クリントン政権時代のドル高は、政策というよりも、さまざまな条件(アメリカの好景気、低インフレ、アジア危機、ヨーロッパ・日本の停滞)が重なった結果であった。さらに、国際通貨としてのドルに対する需要がドル高につながった。すなわち、世界貿易が増えればドル需要も増えて、ドル高になる。アメリカ国外で保有されるドル紙幣は、2000年のある推計によれば、2520億ドルある。1930億ドルの株式や2930億ドルのアメリカ政府債(財務省証券を含まず)としてもドルが需要される。その役割は、1960年代、70年代のインフレで損なわれたが、その後は再び回復した。

アメリカ人にとって、ドル高は莫大な利益であり、負担でもある。消費者は安価な輸入品を手に入れ、低インフレと低金利を楽しむ。それはアメリカ企業の競争力を高め、好景気を持続した。他方で、工場労働者は失業に苦しみ、貿易を不利にした。景気減速はドル安を歓迎させるが、とはいえオニール長官がドル安誘導の発言をすることは無いだろう。

ドル安にも良い点と悪い点がある。それはドルで表示される石油などの国際商品をヨーロッパで値下げさせるから、ECBに金融緩和を促すだろう。しかし、アメリカの輸出拡大は他国の輸出減少をもたらし、世界的な不況を深刻にする。さらにドルが下落すれば株価が下落する。誰にもドルの適正水準は分からないのである。

結局、ドル高というのは、1990年代に起きた世界経済の均衡破壊を象徴している。アメリカが突出し、ヨーロッパも日本も不十分なまま、発展途上国は外国資本への依存を深めていた。もしドル安が世界的な停滞をもたらすのであれば、そこには勝者などいない。

(コメント)

多くの人は、確かに、アメリカ経済やアメリカ企業、ドル建資産市場への信頼は揺らいでいますが、それが完全に失われるとは考えていません。むしろ資産市場の調整が率先してドル高を加速し、安定する水準を見出すべきかもしれません。アルゼンチンと違って、アメリカのドル建対外債務でコストを負担するのは海外投資家です。

FT, Friday Aug 17 2001, Editorial comment: Selling the dollar FT, Saturday Aug 18 2001, Editorial comment: Decline in the dollar は、ドル安がアメリカにもヨーロッパにも、イギリスにも(もちろん進行経済のドル圏にも)有利であろう、と述べています。このままでは東南アジアと日本が、最も厳しい調整を求められることになるでしょう。

しかし、もしアメリカの貯蓄が少ないまま投資が減ることで経常収支の赤字が減っても、他方ではアジアの貯蓄がアメリカ以外のどこかに吸収されるはずです。世界経済の成長を支える次の地域がどこになるのか、私たちにまだ分かっていないだけなのです。ドル安を嘆くより、成長の潜在的な条件や社会制度が日本やアジアで再生することに、私たちは関心を向けるべきでしょう。


Financial Times, Friday Aug 17 2001

The American economy remortgaged

Gerard Baker

(コメント)

Bakerは、Fedが住宅市場を金融緩和の手段として操作していることに不安を示しています。住宅モーゲージの価格が上昇して、人々が支払いを減らせた分で消費を増やしたり、住宅価格の上昇を株価に次ぐ新しい資産効果として受け取ったりすることは、バブルに懲りたはずのアメリカ経済に再び長期的な不安をもたらすからです。一握りの金持ちが株式投資で失敗するのと、多くの庶民が住宅購入で失敗するのとでは、それが政治や経済に与える影響は大きく異なるはずです。


Financial Times, Friday Aug 17 2001

A poor case for globalisation

Philip Stephens

グローバリゼーションは信頼できる王者を欠いた大儀と化しつつある。今週、ついに、私たちはワシントン・コンセンサスがワシントンからも撤退するのを見た。IMF・世銀の年次総会がアメリカの首都から退散する。グローバリゼーションのシナリオを書いてきたアメリカ財務省とIMFが、自由資本主義への批判を受け入れたのである。

シアトルでは一時的な後退でしかなかったものが、ジェノヴァのG8でも、EU議長国であるベルギーの予定されていたEUサミットでも、すべての面で退却を認めることになった。政治家たちは暴徒に憤慨した。そして、自由市場の利益や、自由貿易、多国籍企業がいかに貧しい国を豊かにするか、講釈した。

その主張に真実が含まれているとしても、グローバリゼーションに抵抗しているのは彼らの国民である。NGOsは、多国籍企業を飼いならすべきだ、と言う。人々は政府の主権を守り、IMFやWTOの新帝国主義に抵抗している。そして、環境や労働者を市場における収奪から守る世界的なルールを要求している。彼らの利己的な主張にそれを見出すことは難しいが、それは疑いなく彼らの要求の基本にある。

グローバリゼーションは中産階級を苦しめ、政治的に不満を持つ人々を増やす。政府も地域もグローバリゼーションの脅威を感じている。消費者が強くなった反面、市民は弱くなっている。経済統合が富を増やしても、分配上の勝者と敗者が対立する。調子が良ければ貧しい国の赤字を助けてきた資本が、悪いときには逆流して危機を伝染させた。株主にとっての価値を重視するというのは、企業で働く者にとって何を意味するのか?

政治家たちは、経済学のテキストをまねて比較優位の呪文を唱えるだけでは支持されないだろう。自由市場への支持は自明のことではない。先進諸国は謙遜と指導力をともに示すべきである。しかし彼らはワシントン・コンセンサスを押し付けた挙句、脆弱な国が破綻すれば西側の銀行だけを救済しようとする。政府に保険や年金を削減するように命じる政策は、経済的に愚かなだけでなく、社会を破壊するものである。政治家たちは、自由貿易が自国に不利益であれば、繊維製品や農産物をあからさまに保護した。

グローバリゼーションは手段であって目的ではない。国境の無い資本主義に何ら本質的な価値は無い。その目的は、誰にとっても生活水準を高めることで測られる。世界資本主義は市民的なルールに従わねばならない、と反対運動家たちは主張する。たとえ貧しい国の賃金が豊かな国と同じでないとしても、多国籍企業は基本的な人間的要求に従うべきである。先進諸国は市場を開放して、相互の利益を促す国際機関の強化を支持すべきである。

グローバリゼーションの拡大を支持するのではなく、より良いグローバリゼーションについて議論すべき時だ。


New York Times, August 17, 2001

Japan's Budget Deficit Has Soared. It's Time for a Tax Cut.

FLOYD NORRIS

20年前には、アメリカ人の誰もが日本の製品の優秀さをよく知っていたから、日本人が自動車を輸出するのと交換にアメリカは弁護士を輸出しよう、と提案した。それは今でも良い考えである。しかし、一つだけ変更すべきだ。私たちが輸出すべきは、サプライ・サイドの経済学者たちである。

サプライ・サイダーたちは、大統領になったばかりの、財政均衡を重視するレーガン氏を説得して、減税しても赤字にはならない、と主張した。減税はむしろ税収を増やすのだ、と。それは、間違いであると分かったが、良い考えであった。アメリカ企業が競争力を回復する困難な調整期間を、この減税のおかげで何とか乗り切った。

小泉氏も改革を唱え、長期的には日本経済を回復させるが、短期的には失業者を増やす時期にある。日銀による通貨供給の増加だけでは不十分だ。消費者は長い不況によりますます貯蓄することしか考えていない。銀行の不良債権処理は倒産と失業を増やす。しかし、ほとんどの人は職を失わないし、たとえ多くは貯蓄されるとしても、減税の一部が支出を増やすだろう。

レーガン氏と同じように、財政赤字の累積で小泉氏は緊縮策を公約したが、今こそ公約に違反せずに減税を行う必要がある。それはサプライ・サイダーたちが主張したことだ。アメリカの減速で、円安どころか円高に直面しなければならない日本経済にとって、減税策を考慮する価値はあるだろう。

(コメント)

小泉氏は、アメリカから見ればレーガン大統領に、イギリスから見ればゴルバチョフに、アジアから見れば?また違った姿に見えるようです。

Far Eastern Economic Review, August 23, 2001, THE 5TH COLUMN: Koizumi as Japan's Reaganにおいて、Kurt M. Campbellは、アジアは類推に満ちている、と言う。アメリカでは、2008年の北京オリンピックを1936年のベルリン大会に比較したり、日本をアジアのイギリスやフランスに比較したりしている。しかし、中でも、小泉首相をレーガン大統領に比較することが重要であるらしい。

長い社会的な混迷の後に、政治的には未知数の人物が現れた。経済の衰退を財政赤字の削減で克服すると説き、経済政策担当者たちが反対しても情熱で突き進む。レーガンはヴェトナム症候群を治療し、小泉は憲法改正を唱えている。どちらも愛国心を称揚する。敵対者も最後には彼を真似るようになる。

保守派の経済学者、マーティン・フェルドシュタインは、クリントン政権が享受した好景気をレーガンの減税策によるものだ、と主張した。ただし、小泉はその成果を10年も待てない。レーガンと同様に、小泉の政治力も過小評価されている。

他方、Financial Times, Monday Aug 20 2001, Koizumi's experiment with perestroikaで、Gillian Tett が、小泉氏の仲間は彼をサッチャーに比較したがるが、むしろゴルバチョフになるかもしれない、と言う。ソ連共産党を中から変えようとすることは失敗であったが、小泉氏は自民党を変えると言う。道路特別財源の廃止をめぐる論争で、小泉氏も既得権との闘いに勝利できないかもしれない。しかし、歴史はわれわれの想像力を超えている。誰一人として、共産党が禁止され、ソ連が崩壊するとは思っていなかった。小泉氏が敗北した場合、日本もさらに激しい性格の「エリツィン」を見出すのかどうか・・・?


New York Times, August 20, 2001

World's Economy Slows to a Walk in Rare Lockstep

By JOSEPH KAHN with EDMUND L. ANDREWS

大恐慌以来、33兆ドルに達した世界経済は今年もまだ成長を維持するようだ。しかし、1973年の石油危機以来、主要国の成長率低下はもっとも激しかった。しかも今回、その理由はさまざまであり、回復にも時間がかかる。

最大の誤算はヨーロッパ、特にドイツの低迷であった。アメリカの減速による落ち込みを補うものと期待されたが、「成長の上限」を議論されている。食糧価格や石油価格の高騰に加えて、政治的圧力に反発したECBが金融緩和を渋ったことが各地域の停滞を強めた。しかし、より重要なのは、政治家が労働市場の改革を遅らせていることだ、とも言われる。

この景気後退が循環的な性格である以上に、より長期の停滞を導くと考える者たちがいる。一方は、1990年代のアメリカ経済に牽引された拡大が世界的なハイテク・バブルであった、という説明だ。世界が貿易や投資、技術革新で密接に結びつき、景気変動の同時化が進んでいる。モルガン・スタンレーのローチ氏は「グローバリゼーション時代の最初の景気後退である」という。

しかしアメリカの元財務長官、ルービン氏は、各国がもっと適切に統合されていれば、特にヨーロッパが成功していれば、世界の景気後退は防げた、と指摘する。各国経済がさらに結びつくことは政策決定における新しい挑戦である。アメリカが正しく指導力を発揮すべきだ、と。各国の政策失敗が市場の信頼を失わせ、特にトルコやブラジルのような新興市場で通貨危機を招いた、とする意見も保守派に多い。こうした議論では、ドル高を理由に中央銀行も批判される。

レーガン・ブッシュ両政権に加わったDavid Malpassは、通貨価値の減少と国際商品価格の下落が成長を損なっているのに、中央銀行が対応を誤った、という。その結果、企業業績や消費者心理が悪化してしまった。共和党のJack Kempは、欧米諸国の政府がスランプの深刻さを認識していないことに失望する。


New York Times, August 22, 2001

Argentina Gets $8 Billion Aid From the I.M.F.

By JOSEPH KAHN

2週間近い交渉を経て、IMFはアルゼンチンへの80億ドルの融資を決めた。それはブッシュ政権の新しいアプローチ、救済融資に否定的なアプローチが実行に移されたことを示している。すなわち、この融資はアルゼンチンが1280億ドルの対外債務を債権者たちと組替えるような誘因を提示した。IMFが融資条件に債務組替えを求めたことは、かつて無いことである。

それは、アメリカの銀行や他の民間債権者たちにとって、アルゼンチン向けの融資や債券で損失を被ることを意味する。債務組替えは強制ではないし、融資の絶対的な条件でもない、とIMF職員は説明する。しかし、こうしてIMFは飴と鞭を用意した。

他方、オニール長官の露骨な発言は外交摩擦を生じている。アメリカ政府は、年収5万ドルのパイプ工や大工の職場を守るためにも使えるお金で、アルゼンチンを救うべきかどうか、考えているのだ、と。それはラテン・アメリカの株式市場を暴落させた。

また元IMF研究職員のMorris Goldsteinは、債務削減や切り下げを含まない今回の支援策を批判している。アメリカ政府は、通貨制度に固執するアルゼンチン政府を、債務の組替えに同意させるために追加融資を与えたわけだ。それは、一部の経済学者が求めていた破産処理手続きの制度化に向けた、正しい一歩である。しかしその他の点では、財政引締めや税収の改善を求めた従来の方針と変わらない。

(コメント)

IMFは、結局、アルゼンチンの債務不履行を延期して、もう少し安全な条件で爆発させるほうが良い、と考えたのでしょう。アルゼンチンがドルに固定した通貨制度を維持できるとは思えません。しかし、日経新聞とNew York Timesが、これと全く異なった論点に注目したことは興味深いです。

日本経済新聞823日夕刊「アルゼンチンIMF支援:米、NAFTA拡大求める」は、IMF融資の条件としてNAFTA拡大を持ち出した、と、アメリカの利益優先で決まったことに反発しています。しかしすでに、ブラジルはNAFTA拡大を牽制していますが、アルゼンチンはブラジルとの地域市場統合に失望していました。アメリカが融資と債務削減、自国市場の開放を行うのは、ラテン・アメリカ諸国に対して「国際的最後の貸し手」機能を果たすことです。債務国の危機に乗じてアメリカの利益を優先した、という解釈は一面的だと思います。

これに対してNew York Timesが重視したのは「債務組替えを条件としたIMF融資」です。モラル・ハザード批判に応えるのはこの部分でしょう。それは非常に重要な展開ですが、二つの点で不十分です。アルゼンチンの対ドル固定制は上手くいかないし、財政赤字ゼロを強制することは不況や失業、賃金切下げをさらに強いる、ということです。変動レート制やマクロ経済管理の自律性が追及できないとすれば、ドル化や財政的移転を実現し、長期的には完全な市場統合(さらに政治統合)を目指す、というのが、アメリカだけでなく、彼らの求める長期的な方針かもしれません。

他方、John MoodyのコラムBloomberg 08/21 12:08, Mexico's Ties to U.S. Provide Shield From Argentine Turbulenceによれば、メキシコは完全にラテン・アメリカの脆弱性から抜け出したように見えます。その理由は、NAFTAがアメリカとの市場統合を確実にしたことと、メキシコ政府が財政の健全化を進め、Brady Bondの買戻しにも成功して債務負担を減らしたからである、と。アルゼンチンの危機が深まってからでも、ブラジルなどの通貨が減価する一方で、メキシコ・ペソは増価し、むしろ金利も下がっています。NAFTA拡大を市場が支持している、とアメリカ政府やIMFは見たでしょう。

アルゼンチンの通貨制度は維持すべきでしょうか? カヴァロはこれを必死に擁護しますが、不況下の金利上昇や通貨価値の過大評価に直面すれば、放棄するのが当然です。そこで投機が起きたのです。今は破綻させるのに適当でない、という判断が、アメリカの金利低下とドル安も重なって、一時的にこの制度を延命させただけなのです。


Financial Times, Thursday Aug 23 2001

Editorial comment: IMF buys time for Argentina

IMFはアルゼンチンに命綱を与えた。しかし、これは万能薬ではない。もしIMFが融資を拒めば、アルゼンチンの1300億ドルの債務はデフォルトになり、ドルと1対1の交換を約束した通貨制度も崩壊して、ハイパー・インフレーションに戻る可能性が高い。

これはアメリカ政府にとって困難な決定であった。オニール財務長官は民間の無謀な融資をやめさせたがっていた。しかしアルゼンチン、特にブラジルの危機に直面して、彼はモラル・ハザードを問題にしていられなくなった。

DGP32%でしかない対外債務がアルゼンチンの問題ではなく、通貨制度の持続性に対する疑念が高金利につながり、不況と税収不足を招く悪循環が問題なのである。IMFは、金利低下、成長回復、財政逼迫の解消、という好循環にこの国を導きたい。

融資は二つの部分からなる。一つはアルゼンチン中央銀行を介して銀行システムに注入される流動性である。6月と7月の預金流出は総民間貯金の11%に達した。もう一つは、市場ベースの債務組替えを進めるための資金である。債権者が自発的に償却してくれる条件を整えるために必要である。債権者は損失を受け入れるか、一層の危機を招いて損失を増やすか、選択を迫られている。しかし、たとえ債務が減っても、アルゼンチン国債の保有者は損失を被り、債券への信頼を失うだろう。

どちらの手段もアルゼンチンの救済には不十分だ。そのためには、ドル安で競争力が回復し、銀行預金の流出が止まり、労働組合が賃金切り下げを受け入れ、世界経済が成長率を高めて、何よりも、アルゼンチン政府が赤字ゼロの予算を実現しなければならない。

The Economist, August 11th 2001