今週の要約記事・コメント
8/20-25
IPEの果樹園 2001
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アルゼンチンの危機は、数日中!?にも、最後の爆発で終わりを迎えそうです。今や多くの関心は、その危機が国際的に波及するかどうか、に向けられています。すなわち:
1.それはブラジルやラテン・アメリカ全体に波及するか? 2.それは新興市場全体から資本を流出させるか? 3.それはアメリカのドルや債券市場に波及するか? 4.それは競争的切下げやデフレ政策、世界不況の深刻化に波及するか? 5.それはIMFや国際通貨制度改革に波及するか?
投資家や通貨当局はその可能性を憂慮して、すでに行動を起こしているでしょう。もし彼らが十分合理的にリスクを市場に反映させているとしたら、アルゼンチンの危機は一時的な調整で終わるでしょう。しかし、そうでない場合を人々が恐れているのは、アメリカの景気減速とドル安が加速すれば、市場の調整はどこに向かうか分からないからです。
これまでも、国際通貨制度は、新興市場によって動揺したのではなく、主要国の基本政策が対立することで激しい撹乱を生じてきたと思います。オニール財務長官がヤンキー・スタジアムを借り切って「ストロング・ダラー・ポリシー」を放棄し、日銀と財務省が円高阻止のために不胎化されないドル買い介入を無制限に続け、ユーロ高とECBの金融緩和政策にヨーロッパ各国が満足せず財政刺激策を乱発するような世界に、ふさわしい国際通貨制度の条件とは何でしょうか? あるいは、こんな風に考える人も多いでしょう。EMSが破綻し、アジアの奇跡と円が失墜した後で、次はドルの膨張が逆転する番だ、と。
もし三大通貨の基本政策が持続的な成長を常に目指して、それに応じて変動レート制が各地域の調整過程を一時的に融資し、将来の利益を確保するための資本移動を促すのであれば、あるいは各地域の需給ギャップを相殺するために変動するのであれば、調整を恐れる理由はありません。アメリカ・EU・日本の政府と通貨当局は、緊密に連絡し合って、互いの政策と市場の予想を基に、世界経済の望ましい調整過程が円滑に進むことを基本的に合意しているはずです。
しかし、アルゼンチンの危機をどうするのか? ドルはさらに減価すべきか? その対応をめぐっては、政府も国際機関も過剰な関与を避け、市場による調整と事後的な介入に役割を限定することを望んでいます。政府は国内問題を優先しますから、金融政策の負担が増します。市場は彼らの行動を予想し、予想が外れれば過剰に反応します。にもかかわらず、国際合意による主権の部分的制限や国際間のコスト分担は合意できず、主要国が金利や為替レートに関して積極的な協調行動を起こすことは非常にまれです。
ますます多くの国が変動レート制を採用し、安定化のために地域的覇権国との協調に従うでしょう。国境を超えて、雇用と成長を維持し、社会的な補償メカニズムについて政治的合意を達成できる制度が重要です。それは既存の国際通貨制度に限らず、各社会の構造に根差した新しい調整過程を、整合的なルールや相互促進作用を市場に埋め込んで制度化する地域経済統合に向かうでしょう。世界が全体として開放的な成長を続けるためには、変動制でも固定制でもない、効果的な市場と補償メカニズムが必要です。
危機を頻発する変動制の荒々しい時代は、決して常態ではなく、永久に支持されるものでもないのです。
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New York Times, August 11, 2001
Introducing the China Ruling Party
By THOMAS L. FRIEDMAN
7月1日、中国共産党の江沢民書記長は資本家が入党することを認めた。これは共産党が企業家階級の参加と協力無しには存続できないことを認めたものである。
マルクスとエンゲルスの認めた共産主義でないことを認めた上で、江沢民の共産党は現実を反映した最大限の想像力を発揮したわけだ。・・・しかし、資本家を含めた共産党とは!? まるでステーキも出すベジタリアン・レストランや、ビキニも認めるヌーディスト・コロニーのようなものだ。その矛盾は大きすぎて、元の意味を失わせる。共産党は、要するに、中国を支配する政治構造に過ぎない。むしろ「中国支配政党」と名乗るべきであろう。誰でも反対する者を弾圧するし、資本家も歓迎する。
それは良いことかもしれない。もし中国が、毛沢東主義の全体主義的体制から、より開かれた、複数政党の、自由市場体制に移行できるとしたら、それは韓国やインドネシア、シンガポール、台湾と同じ道を歩むことであろう。これらの諸国は軍事的な独裁体制から出発し、軍部とビジネス・エリートの同盟支配体制に移行してから、経済成長の末に、より多くの中間階級を抱えるようになり、彼らが最後には複数政党制の民主主義を要求したのである。
しかし、喜ぶのはまだ早い。中国のWTO加盟は、現在、国際競争や国際的ルールによって摩擦を生じている以上に、この国の農民と労働者を移行過程で締め付けるだろう。短期的には、すでに生じている社会不安や地方の失業者を増やし、中央政府の弾圧も強まるだろう。
今はまさに1989年の天安門事件が起きた国内政治状況と逆である。開放政策で多くの学生や企業家は非常に豊かになり、個人の自由も拡大し、安定性と経済的機会を満喫している。しかし、労働者や農民は共産主義体制で保証されていた健康や教育、福祉の多くをゆっくりと失いつつある。彼らの補償が十分に行えるか、財政的な不安が募っている。
世界人口の5分の1、13億の人口に何が起きるのか、中国の指導者が移行過程を乗り切る方法に世界経済の安定性が影響を受ける。彼らの暴走に沈黙することは無責任であろう。しかし、彼らの失敗を望むことや、ましてそう仕向けることは、正気の沙汰ではない。
Financial Times, Monday Aug 13 2001
Global investor: Beware what you wish for
Philip Coggan
ドルは強すぎる、という分析があふれている。しかし、先週のドル安が大暴落に向かえば、その結果はどうなるだろうか? 「低インフレの条件で成長を実現しようともがいているときに、競争的な切下げは自殺行為である」と、Dresdner Kleinwort Bensonのグローバル・ストラテジストは言う。「誰もがアメリカに対する切下げで不況を抜け出そうとしている。」
しかし、アメリカの製造業がドル高を非難し、オニール財務長官が否定しても、ドル安の誘惑は残る。ドルが下落するかどうかは、市場に懸かっている。近年のドル高はアメリカの資産がヨーロッパや日本の資産よりも魅力的であったから起きた。アメリカの減速は、世界が如何に多くをアメリカ経済の依存しているかを教えた。日本はすでに不況のぬかるみにおり、ヨーロッパもアメリカの減速に年初からおびえている。
ドル暴落を心配する者は、海外の投資家がアメリカの貿易赤字を融資することに疑念を抱く、と説明する。しかし、ヨーロッパも日本も回復したわけではないのに、なぜ投資家はアメリカを見捨てるのか? アメリカが貿易赤字を減らすには、消費者が外国財への支出を減らすことである。要するに、それは世界中の株式市場にとって悪いニュースである。そんなことは誰の慰めにもならない。
もしも小泉首相が日本経済の構造改革に取り組み、ヨーロッパが企業のリストラを経て、ユーロ・ゾーンの生産性上昇につながれば、日本やアジアの株価上昇とアメリカ企業の輸出増加が、世界需要の増加とともに進むだろう。さらに、日本とユーロ・ゾーンの転換は、ドル安による競争力の低下を克服することも容易にする。ユーロの回復がECBに金利引下げをも促すだろう(日銀にその余地はない)。
悲しいことに、そのようなバラ色のシナリオが実現する見込みは今のところない。それにもかかわらず、ドル安を望むとしたら、投資家は自分たちが何をほしがっているのか、十分に慎重であるべきだ。
New York Times, August 12, 2001
A Retreat to the Familiar Ground of Zionism
By TOM SEGEV
昨年の9月、この一連の暴力事件が始まった頃は、イスラエルの人々も内的な問題に関心を寄せていた。パレスチナ人との衝突は制御できるのか? 和平プロセスは進むか? シオニズムのイデオロギーも含めて、各人がアイデンティティーを検討し直していた。イスラエル社会全体が国家のポスト・シオニズム段階に向けて移行しつつあった。その発展過程は、テロリストの暴力によって停止したようだ。
ポスト・シオニズム志向は、安全保障と国家の存続に関する意識の高まりから広がった。パレスチナの一部に独立国家を作るというシオニスト運動が一握りのユダヤ人を指導する時代は100年も続いた。
イスラエルは20世紀の最も劇的な国家興隆のひとつであった。自国を防衛する軍事力を築いただけでなく、生活水準や質をヨーロッパ諸国に並ぶ位置に押し上げた。多くのイスラエル人が年々豊かになり、世代が進むに連れてより良い暮らしを実感している。第3、第4世代のイスラエル人は、ヘブライ語を話し、両親と同じ学校に通う。共通の生活様式、共通のユーモア、共通の期待を持つ。彼らは自国をシオニズムの奇跡と思わない。
15年以内に、イスラエルは世界最大のユダヤ人社会になるだろう。この10年で旧ソビエト圏から約100万人が移住したが、その理由はシオニズムではなく経済的なものであった。彼らの存在がポスト・シオニズムを加速した。また、イスラエルはますます多文化社会になっている。主にアフリカから多くの外国人労働者が流入し、永住する傾向にある。イスラエルに住むユダヤ人もアラブ人も、極端な立場を取っていない。
1967年の6日間戦争や、特にテル・アヴィヴ事件以降に生まれたイスラエル人に、こうした傾向が強い。彼らはナショナリストの理想やシオニズムの抽象的なイデオロギーのために生きているのではない。自分の生活を楽しみ、ユダヤ的な価値と多文化が入り混じった、これこそアメリカ精神だと彼らが信じるもののために生きる。もちろん、誰もがポスト・シオニズムを歓迎してはいない。しかし、1967年に占領した土地からの撤退を含むオスロ合意が成立したのはポスト・シオニズム志向によるものだ。
オスロ合意は、30年間におよぶイスラエルの苦痛に満ちた社会・政治的転換に沿うものであった。最近までイスラエルはPLOを認めず、それと接触を持つことも禁じていた。しかし、かつてのイギリス人と同じように、彼らも占領地を維持する歓迎されない支配者の仕事に嫌気がさしたのである。バラク前首相がタブーを犯してエルサレムの管理をパレスチナ人と分担すると提案したときも、予想以上に多くのイスラエル人が彼を支持した。
16人を殺害し、100人以上を負傷させた先週木曜日のエルサレム爆弾テロ事件は、ポスト・シオニズムを幻想にする悲劇の一つである。パレスチナ人によるテロ行為は、イスラエルをシオニズムの腕に溺れさせる。これがパレスチナ人の復讐という考え方である。街のいたるところに、「アラブ人は要らない! テロを追放せよ!」というスローガンが書かれている。再びパレスチナ人を公的に憎悪することが受け入れられている。
多くのイスラエル人は、聖戦や国民的団結など、シオニズム精神の起源に退行してしまった。外からの批判、特にヨーロッパからの苦言を、人種差別としか考えない。パレスチナ人の人権無視や、彼らへの拷問でさえ、ますます反対する者が減っている。
歴史が逆行しているのだ。60年前にイギリスの将軍が語った言葉を思い出させる。「ユダヤ人がアラブ人を殺し、アラブ人がユダヤ人を殺す。これが今パレスチナで起きている事だ。そしてそれが、今後の50年間で起きそうな事だ。」イギリス人は、パレスチナにおける30年間の統治を諦めた。同じ要因が今も働いているが、唯一つイギリス人と違うのは、イスラエルもパレスチナも出て行くところが無いということだ。
結局、両者が国民的な願望のいくらかを放棄するしかない。半世紀を経て、多くのイスラエル人はポスト・シオニズムを理解し始めていた。しかし、暴力の波はその脆弱な基礎を崩してしまうだろう。
The Observer, Sunday August 12, 2001
Time to cry for Argentina
Gregory Palast
IMFは南アメリカ経済が死んでも涙を流さない。しかし、今回の<cut, cut, cut reforms>は中でも最悪のものだ。
先週、アルゼンチンが死んだ。そこでは南半球の冬を前に、6人に一人が失業していた。それに加えて、ドルを得るために90%以上の金利を払う企業の倒産や縮小で、工業生産は25%落ち込み、何百万人もが職を失う。
まだ暖かい死体の横に、硝煙を吐く銃に指紋をいっぱい残したまま、殺人犯は立ち去ったばかりだ。彼の殺人兵器は「了解事項の技術的覚書'Technical Memorandum of Understanding'」と呼ばれている。それは、2000年9月5日付でアルゼンチン中央銀行総裁のPedro Pouが署名して、IMF専務理事のHorst Kohlerに渡された。
まず、了解事項として、アルゼンチンは財政赤字を53億ドルから41億ドルに削減する。昨年9月には、アルゼンチンがすでに深い不況の淵にあった。たとえIMFのいいかげんな経済学者でも、景気悪化時に財政支出を削減するのは失速中の飛行機がエンジンを止めるようなものだと分かっていただろう。財政赤字を削減しろ、だって? 私の4歳の娘ならこう言うだろう。'That's stooopid.'
IMFは間違いなく冷酷である。「貧しい者の困窮を緩和する」と題して、政府の緊急雇用計画で支払われる賃金を、毎月200ドルから160ドルに引き下げた。さらに、公務員給与を12〜15%削減し、年金も合理化する。IMFが言う「合理化」とは、老人たちへの13%に及ぶ給付削減を意味する。Stoopid!!!
「了解事項」には、グローバリゼーションの天才たちが予測した、この計画を実施するアルゼンチンの未来も描かれている。生産が3.7%で増大し、失業も減る、と。現実には、この3月末でGDPが年間2.1%も減少し、さらにその後も下落した。
なぜアルゼンチンはこんな間抜けなIMF計画を受け入れたのか? それは12億ドルの融資が欲しかったからである。2001年にはIMFと世銀に民間債権者を加えた260億ドルの緊急融資が計画されていた。
しかし、よく考えてみよう。融資計画はアルゼンチンの対ドル固定制を前提しているが、通貨の固定にはコストが伴う。アメリカの銀行や投機家たちはこの制度を維持するために必要なドルに16%ものリスク・プレミアムを要求する。1280億ドルの対外債務に対して、それは年間270億ドルの追加負担となる。言い換えれば、260億ドルの緊急融資計画から、アルゼンチンの人々は1ペニーももらえないだろう。救済融資のお金はニューヨークを一歩も出ずに、その多くはシティバンクなどに流れ、スティーブ・ハンクも利益に預かる。ハンクは、1995年の危機に際してアルゼンチン国債を100%積み増した「エマージング・マーケット・ファンド」の会長である。
ハンクは、IMFの政策が失敗することで儲けてきたように見える。昼間はJohns Hopkins Universityで教え、彼自身の投機ゲームを廃業させるような提言をしている。「IMFを廃止せよ」と。ハンクは、まず、1対1のペソとドルの交換を固定した制度を廃止するだろう。
だがアルゼンチンを串刺しにしているのは、固定レート制それ自体ではなく、四つのIMF的ネオ・リベラル政策である。すなわち、金融市場自由化、自由貿易、大規模民営化、財政黒字、である。
金融市場自由化は国境を越える資本移動を自由にしたが、それは極端な動きを示した。アルゼンチンの金持ちはパニックになって、ペソを投げ捨て、ドルや海外の安全地帯に逃げ出した。先月だけでも銀行預金の6%が引き出された。かつては、政府の所有する国営や地方の銀行が国債を購入していたが、90年代半ばにメネム政権がシティバンクなどに銀行を売却した。世界銀行の元顧問Charles Calomirisは、こうした銀行民営化を「実にすばらしい話だ」と賞賛したが、誰にとってすばらしいのか?
了解事項に、債権者たちは「歳入の分割」を盛り込んだ。これによってアメリカの銀行は、教育などの公共支出にまわす税収を返済に当てさせる。さらに了解事項では、健康保険制度の「改革」からも資金を捻出する。
しかし<Cut, cut, cut>でも足りなければ、大規模民営化計画を進めて、要するに「おばあちゃんの宝石を売る」しかない。フランスの債権者はある地域の水道システムを抑えて、400%の値上げを行った。そして了解事項の最後の弾丸は「開かれた貿易政策」である。ブラジルが通貨を切り下げているのに、アルゼンチンはドルに固定した価格で商売する。Stoopid!!!
それでもIMFの計画は、「弾力的な」労働者が、年金も賃金も削って、あるいは賃金がもらえなくても、働くなら、成功しただろう。だが、アルゼンチンの支配エリートにとっては予想外にも、労働者たちは貧しくなることに同意したがらない。37歳のバス運転手であったAnibal Veronは、9か月分の給料未払いのまま解雇された。彼は失業者による道路封鎖に参加し、11月の封鎖撤去に際して、軍警察の弾丸を頭に受けて死亡した。ジェノヴァではグローバリゼーションに反対するCarlo Giulianiが殺された。27歳のCarlos Santillanと17歳のOscar Barriosは、Salta Provinceの教会で銃撃されて死亡した。警官たちがIMFの緊縮計画に反対する人々に発砲したのである。
グローバリゼーションの推進を掲げるブレア首相は、抗議活動を甘やかされた若者の愚行と非難する。アルゼンチンのデ・ラ・ルーア大統領も反対派の暴力を責める。しかし、the Peace and Justice Service (Serpaj)は、飢えと恐怖でIMFの計画を押し付けているのは大統領だ、と言う。
FTAAに反対する運動の指導者Perez Esquivelは、アルゼンチンの死がIMFによる他殺ではない、と私の判決に反対した。「改革」はDomingo Cavallo経済大臣によって熱狂的に支持されている。この軍事独裁政権下で中央銀行総裁を務めた人物を思えば、アルゼンチンの死は、むしろ自殺であった。
Financial Times, Tuesday Aug 14 2001
Talking Stock: Shaky tango
By Philip Coggan
アルゼンチンのデフォルトは1998年のような金融危機に拡大しない。それは株式市場で短期の売りをもたらすかもしれないが、以下の理由で1998年と異なっている。
1.1998年の記憶がまだ新鮮なために、投資家は新興市場に大きな投資をしていない。2.同じことが債務についても言える。3.デフォルトは十分に予想されていたから、銀行も投資家も債権をすでに処分してしまった。4.国際債券市場におけるアルゼンチンの規模は当時の東南アジア諸国に及ばない。
Washington Post, Monday, August 13, 2001; Page A15
Reform, Rhetoric and an Argentina on the Rocks
By Sebastian Mallaby
指導者たちが国際金融制度を改革すると約束すること自体が、投資家や債務国の行動をゆがめている。政治家にできることは、できもしない改革論で騒ぎ続けることを直ちに止めることしかない。
アルゼンチンがもしアメリカの一企業なら、債務不履行を宣言して破産処理すればよい。しかし、政治家たちは国際的な破産処理法廷を実現できなかった。国家は主権の喪失を決して受け入れようとしない。そうであれば、IMFが救済融資するしかない。債務は減額されて、長期に支払い可能な内容に組み替えられる。この場合、投資家たちにますます危険な投資を助長させるモラル・ハザード問題や、債務国が一方的に負担を強いられるという問題がともなう。
オニール財務長官はモラル・ハザードを嫌って、IMFによる救済融資の可能性を否定し続けた。その結果、債権者はデフォルトのリスクを考慮した高い金利を要求した。しかし、今は財務省もIMFの融資を支持している。このことは、オニール氏のデフォルト策が投資家に余分の利益を与えた挙句、債務国を救済することでモラル・ハザードを促した。
改革論が市場をさらに悪化させている。
Financial Times, Friday Aug 17 2001
No more for Argentina
Morris Goldstein (a former deputy director of research at the IMF)
アルゼンチンがIMFに求めている60〜90億ドルの追加融資は実現すると思えない。ブッシュ政権とケーラーIMF専務理事とが提唱してきた「新IMF」とは、民間部門の投資家により大きな責任を求めるものであった。結局、彼らはすでに市場で余分の金利を得ているのだ。
ところがそのニュー・アプローチが、トルコに100億ドル、ブラジルに150億ドルを融資してしまい、アルゼンチンには昨年12月に得た400億ドルの追加を求めている。トルコへの融資はIMF出資額quotaの1400%にも達したし、通貨危機に対する予防的な融資もIMFの機能簡素化に矛盾する。
現在の方針が実り無いものであることは、維持不可能な対外債務を抱えたアルゼンチンへの融資積み増しに示されている。なぜなら債務額は輸出の450%にも及び、その通貨は過大評価されている。3年目に入った不況にもかかわらず、アルゼンチンの通貨制度は金融緩和も切り下げも禁じている。その経済は、物価や賃金を下げて競争力を回復できるほどの弾力性を持っていない。財政引締めは不況を悪化させるだけだ。
確かに、アルゼンチンに債務削減や通貨切下げを薦めるのは愚か者の証だ。しかし、債務は維持不可能であり、競争力も失われたのであれば、こうした選択肢も含めて考慮されるべきだ。債務削減ができなければIMFはアルゼンチンの短期資金をすべて立て替えてやらねばならないが、それは不可能であると皆が知っている。
IMFの本当の改革とは、債務の維持や為替レートの適正水準を無視した国が助けを求めても、はっきり「No!」と答えることだ。
Financial Times, Tuesday Aug 14 2001
Koizumi bows to pressure over shrine
By Michiyo Nakamoto in Tokyo
Yasukuni visit goes down well with Japanese
By Ken Hijino and Michiyo Nakamoto in Tokyo
(コメント)
ポスト・シオニズムの時代がイスラエルを動かしたように、ポスト自民党の時代が日本の戦争理解やアジア外交にも国民の複雑さを反映させつつある。屈強なボディー・ガードに守られて、日本の帝国主義や戦争をたたえる神社に参拝する首相の姿が、紙の日の丸を振る群集を超えて、さまざまな感情とぶつかり合う。自分たちの子供や友人が戦死したことへの感謝を求める老人たちや、明るく談笑して小泉首相の姿を探すOLたち、日本の野党や反対運動、韓国から抗議に来た議員や靖国神社に座り込む婦人たち、あるいはソウルの路上で指を切り落とし、命をかけて国を守ると誓う韓国の青年たち・・・
New York Times, August 13, 2001
Japanese Premier Changes Plans and Visits War Shrine
By STEPHANIE STROM
東京の在日中国人協会の代表は「彼は中国や韓国など、アジア諸国に配慮したと言われるが、戦犯を祀る神社に行くのは受け入れられない。」「靖国神社は日本の国策によって作られ、戦争を推進した神社である。だから私はここに参拝する首相や政治家に反対するのだ。」という。
東条英機の孫は、靖国神社に複雑な心境を語りつつも、首相が日程を変更したことに失望する、と述べた。國學院大學の神道の教授は、小泉氏がわずかな時間しか祈らなかったことに不満を示す。世界の平和と復興(restoration王政復古)を祈るのに、1分間は短すぎた、と。
小泉首相は、一方で、参拝が戦争放棄や平和の価値に矛盾するものではないことを明言し、他方では自分の信念を曲げても国益のためにアジア諸国に配慮する必要を指摘した。
(コメント)
同じNYTの、20 Koreans Cut Off Fingers in an Anti-Japanese Protest(By DON KIRK)によれば、韓国のTV各局は、小泉首相の靖国参拝を大きく取り上げ、その後に、指を切り落として「謝罪せよ!」と叫ぶソウルの学生による抗議活動を紹介した。反日感情が高まっている。別の抗議活動では、戦争中に日本軍により強制的に従軍慰安婦として働かされた老婦人がステージに上がった。Yonhap TVは、指を切り落とした映像に続けて、老婦人の証言を流した。「彼らは本当に悪い人たちです。」「日本人はみんなそうだ。」
同じ日のWashington Post, Japanese Prime Minister Visits Militarist Shrine:Korea and China Denounce 'Homage to War Criminals'(By Doug Struck)は、「小泉首相が靖国に参拝することは、多くの女性をレイプした軍人たちを称えることだ」というフィリピン人女性の証言をマニラから伝える。ここは確かに、右翼の政治家や大東亜戦争を賛美する者たちの聖域である。他方、沖縄の近くで潜水艦に乗って亡くなった兄が靖国に祀られている老人は、紙の日章旗を振り、小泉首相がここで祈ることを当然のことだと言う。中国や韓国からの干渉に屈してはいけない、と。日本の報道でも評価は非常に異なっている。これまで公式に靖国神社に参拝した首相は1985年の中曽根康弘だけである。
世論が分裂していることと、アジア諸国の関心が非常に高いことが分かります。なぜ政治家は靖国神社に行くのか? 遺族会の投票を確保したい、とか、右翼による脅迫や選挙妨害が怖い、ということか? しかし、野党やニュース・キャスターの批判的な言葉よりも、山崎拓・加藤紘一両氏と話し合って決断した小泉首相の説明の方に、強いメッセージを感じました。野党や外国政府からの批判を吸収して、新しいスタイルを模索するなら、小泉氏は自民党の戦後政治を終わらせ、不況に終止符を打ち、さらに、戦争ではなくアジアの平和に焦点を移すでしょう。
中国が731部隊の記念博物館を整備することに協力し、あるいは日本の小学生たちは南京を訪れ、慰霊のために献花するでしょう。
Financial Times, Wednesday Aug 15 2001
Editorial comment: Japan is too slow on the uptake
日銀が国債購入を20%増やすと決めたことは、正しい政策へ半歩だけ進んだと言える。しかしデフレを抜け出す政策転換には程遠い。
IMFが指摘したように、日本は銀行部門の改革や財政赤字の削減も必要としている。小泉首相はそれを約束したが、三つの問題がある。1.最近示された財政赤字の極端な削減案ではなく、長期的な削減が望ましい。2.銀行部門の不良債権を処理し、政府の支援で改革を進め、その収益性を回復させねばならない。3.財政赤字削減にも、不良債権処理にも、国内需要を維持することが必要である。しかし、消費が伸びず、輸出が落ち込むという予測を見れば、経済は後退するしかない。
今まで、公共支出と金融緩和の組み合わせは成功しなかった。低金利とデフレが続く限り消費は延期されるから、緩やかなインフレに戻ることが望ましい。そのためにはもっと大幅に金融を緩和することだ。それは保守的な日銀に好まれず、ハイパー・インフレの危険も無いわけではないが、IMFが言うように、日本に残された信頼できる唯一の政策である。それは同時に、インフレ目標と長期の財政安定化計画を含むべきであろう。
必要な金融緩和は、日銀の予想を越えた、政治的な事後的妥協策ではない、慎重な計画の一部でなければならない。
New York Times, August 14, 2001
Delusions of Prosperity
By PAUL KRUGMAN
グリーンスパンが何度も金利を引き下げたのに景気は良くならない。今回の減速は1998年と違う、ということだ。われわれは金融パニックに苦しんでいるのではなく、市場の信頼を回復することが重要ではない。むしろ市場の自己破壊的な楽観に苦しんでいるのだ。
減速の背景は投資の落ち込みである。過去数年の設備・コンピューター投資は過大であった。過剰設備が解消されるまで、追加投資には慎重になっている。設備投資は金利に反応しないのだ。他の需要を増やすことはできないのか? すでに貯蓄が少なく、大きな負債を持つ家計が消費を増やすとは思えない。しかし、住宅建設と貿易赤字が需要不足を解消するだろう。住宅建設は金利に反応しやすいし、貿易赤字はGDPの4.5%にも達している。
しかし、金融政策と住宅や貿易は結びつかない。Fedが短期金利を下げても、長期金利は少し高くなっている。貿易収支はドルの価値に反応しやすいが、金融緩和にもかかわらずドル高が続いている。金融緩和が正しい変化をもたらさない理由は三つあると思う。1.ブッシュ政権の間違った説明、例えば、オニール財務長官によるドル高政策の維持。2.減税策による長期金利の上昇。3.グリーンスパンが1998年に成功したことへの過度の楽観、である。
投資家は金利が再び上昇すると期待して債券を購入し、アメリカ経済への強気の予想からドルを買う。こうした楽観が減速を長引かしている。
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The Economist, August 4th 2001
Japan’s great hope
The voters give Koizumi a chance. Will the LDP?
7月29日の選挙で、小泉首相の率いる与党は見事な勝利を飾った。しかし、ここ数年の日本の政治を見れば、改革を唱えて失脚した政治家が続いている。有権者は改革を求めているが、それがもたらす不愉快を歓迎してはいない。
改革リストの最初は公共事業であろう。世界でもっとも費用がかかり、しかも効率を無視している。しかし、景気回復のためには市場開放や競争促進だけでなく、特に不良債権処理が求められる。150兆円に及ぶ問題債権の内の13兆円についてしか、政府は処理を促していない。より抜本的には、不健全な銀行を一時的に国有化し、不良債権を切り離して、収益の上がる形で銀行を売却してはどうか?
銀行を整理し、家計も企業も苦しんだ末に、デフレと失業で、日本経済はさらに衰退するかもしれない。問題は、小泉首相の改革が供給サイドに限られ、需要を拡大する力が無いことである。バブル崩壊後の日本では、場所によっては不動産価格が80%も下落し、失われた資産価値を補うために、個人も企業も支出を減らした。
公共事業も減税もできない情勢では、金融緩和を進めるしかない。金利がゼロでも、日銀は国債を買い、通貨を印刷できる。小泉首相は速水総裁を説得するか、それができなければ辞任させるべきである。
橋本派の鈴木宗男は、小泉氏を「ファシスト」と非難した。確かに、自民党の族議員は合意形成過程を支配することで影響を及ぼしてきた。首相官邸には最近までスタッフもおらず、改革の中身は党の政策審議会で骨抜きにできるのだ。小泉氏は政府の機関を自分の目的に合わせて動かすべきである。
小泉氏の改革案にかけている最も重要な部分は、日銀との合意である。改革に必要な資金は日銀が出すしかない。有権者は将来の生活が苦しくなることを恐れている。もし政府と日銀の合意が無ければ、再び、有権者は急速に小泉氏を見捨てるだろう。
The truth about the environment
By Bjorn Lomborg
(コメント)
環境保護やエコロジー思想が、人口爆発や石油危機に始まり、生物種の消滅や地球温暖化に関する認識を経て、国際体制の先端的な試みを担っていることは、科学的研究と市民による環境運動、そして政治指導者たちの貴重な成果です。しかし、その基本的な評価や認識が間違っている、という主張がここにあります。
資源は枯渇していないし、人口は無限に増加しないし、食糧の供給は十分に可能である。種の絶滅や地球温暖化、さまざまな環境破壊のコストは誇張されており、成長を抑制するよりも促進する方が正しい対策が採用される。そして、主張されている環境規制のコストは、その利益に見合っていない。例えば京都議定書は、それが完全に守られても地球の温暖化を2.1度から1.9度に下げるだけである。それにかかるアメリカの費用だけでも、世界中にきれいな飲み水と公衆衛生を普及させることができるだろう、と。
国際環境規制も、為替レートにおいてターゲット・ゾーンが採用されない理由と似てくるかもしれません。それは適切な水準が決められず、介入による市場機能の破壊とコストがかかり、合意に強制力が無く、その実効性も乏しい。むしろ投機的な攻撃に目標を与えて危機を招き寄せる。何よりも、主要国が独自の金融政策を犠牲にするコストを考慮すれば、それに見合う利益は得られない、と。