今週の要約記事・コメント
8/13-18
IPEの果樹園 2001
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世界の紛争地帯を旅したことも無く、『火垂るの墓』のような戦争体験も無いけれど、政治の本質が戦争の抑止と経済活動の円滑な拡大にあるということを、私は支持します。
かつてリチャード・クーパーはPPP(平和と繁栄と参加)を国際体制の目標に掲げましたが、日本の政治家たちは何を掲げているのでしょうか? 私の考えでは、靖国神社参拝や教科書問題は、政治家たちがナショナリズムと経済改革とをどのように政治的に結びつけ、その行方を支配しようとしているか、を示すものです。
たとえ平和を愛する社会でも、帝国主義やナショナリズムの何気ない言葉が政治的な集団によって操られ、次第に政治過程をゆがめて、逆にその妄想が政治を支配していくかもしれません。そして邪悪な、あるいは軽薄な権力者が機会をとらえ、執念や純潔性によって社会を再編し始めるのです。私たちの思想を内側から腐敗させる狂信も、最初は野蛮な振る舞いとして軽蔑されたはずです。
権力や体制によって苦しめられた人ではなく、旧体制の腐敗を暴いて自分が政治的刷新を実現してやるという政治家が、「こんなことをしていたら、間違いなくこの国は滅ぶぞ!」などと恫喝するのは間違っています。彼らが吹聴する「国のために死んだ者」や「国家の使命」は、軍備拡大や国粋思想の復活に利用され、日増しに排外主義と自民族の優越感だけを蔓延させるのではないでしょうか?
しかし、ナショナリズムに突き動かされる国民を前にしても、それを克服する普遍的な理念を示そうとする政治指導者の努力にこそ、私たちの未来を託すべきでしょう。「中国人民と同じように、一握りの軍国主義者の犠牲となった日本人の多くに対して、中国は賠償を求めない」と述べた周恩来の言葉がよく引かれました。
国民の高い支持を得ている小泉首相には、たとえ困難な問題についても、かつては考えられないような多くの選択肢があるはずです。例えば、田中真紀子より加藤紘一を外務大臣にして、日本の国際的な役割が国内の経済改革を進めてアジアと世界の景気回復に貢献することだ、と説得してはどうでしょうか? あるいは、速水日銀総裁(金融緩和:金融秩序の維持とデフレ・円高の阻止)と塩川財務大臣(財政赤字の上限と行財政改革による公的部門の透明化・効率化)、柳沢金融庁長官(債務処理と金融部門の競争促進・秩序ある退出)との三者間合意を成立させ、小泉内閣が実行する、と表明してはどうでしょうか?
アジア諸国と欧米の政治指導者を招いて、靖国神社を公開し、あるいは戦争責任や賠償問題を政府間の常設制度で検討することで、互いの問題点や解決方法を提案してはどうでしょうか? 彼らは日本の何を嫌い、日本に何を求めているのか? 日本は何を行い、アジア諸国と何ができるのか? 極端な排外主義や差別意識を正す苦情処理と、市民レベルの積極的な宥和政策を継続して支援することこそ、政治の重要な役割のはずです。
日本が国際的に高く評価される意見を表明し、正しい行動を選択できるとき、多くの問題で新しい展開があるでしょう。地域安全保障のあり方を国際的な情報公開と新しいアイデアによって促進する。国際間のパーセプション・ギャップを解消し、理念を共有する。領土問題・地域紛争・分断=再統合問題の包括的な解決策を模索する。日本の軍国主義を人類社会の観点から具体的に検証することで、現在及び将来の政治指導者たちが、その責任追及と戦争抑止への内外の理解と協調を深める基礎とする。
戦争で死んだすべての人のために祈りたい、という言葉が本物であるなら、靖国神社参拝問題や教科書問題の根本的な解決方法を、日本国内の基準ではなく、すべての戦死者と将来の世界に対して示すべきでしょう。
(付記)13日の午後、小泉氏は靖国神社に参拝しました。多くの報道や論評が出ましたが、直前に書いた文章をそのまま載せます。
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Financial Times, Monday Aug 6 2001
Editorial comment: Keep on trucking
アメリカ議会が先週末に休会したとき、二人の意外な勝者が登場した。ブッシュ大統領と、チームスターのホッファ委員長である。ブッシュ氏が法案を通過させる上で、下院に対するホッファ氏の影響力が働いた。他方、ホッファ氏は、NAFTAの原則にそむいてメキシコのトラックを阻止する保護主義を上院に持ち込んだ。
彼らにいわせれば、高速道路の安全性を損なうメキシコからのトラックは、NAFTAを「自由貿易協定」よりも「自殺協定」にしてしまう。しかし、共和党であれ民主党であれ、議員たちはトラック整備の専門家ではない。道路運行の安全性は、専門家の委員会が扱うほうが、貿易障壁として悪用されることもないだろう。一体、議会はまだどれほど多くの個別案件を取り上げ、特殊な品質や規制を政治家たちに決めさせる気か?
ブッシュ氏は保護主義を通商政策から排除する点で指導力を発揮できなかった。彼は「一括交渉権限」もしくは「貿易促進権限」を議会から得ることにも失敗し、11月のWTO会合を失敗させるかもしれない。
テキサスの牧場で休養を取った後、彼はメキシコのトラックに対する差別的な扱いに拒否権を発動し、アメリカの通商政策を正道に引き戻すべきであろう。
Financial Times, Tuesday Aug 7 2001
Mexican truck drivers will hurt the Teamsters
Amity Shlaes
チームスターの勝利は新しい労働運動の政治学によるものではなく、逆に、旧時代の排外主義的デマと宣伝の産物であった。ブッシュ大統領はNAFTAに従って、メキシコのトラックをアメリカの高速道路でも走らせるはずであった。しかし、チームスターは巨額の反メキシコ・キャンペーンをラジオで行った。「ブッシュ大統領に命じる。速度を落とせ。そして、われわれのハイウェイを安全に保ちなさい。」そのメッセージは交通事故の音で強調された。
労働組合の指導する保護主義がアメリカの政治をまだ動かせる、ということより、立法府がチームスターの言いなりになって安全性を心配し始めたことに、アメリカの政治を見る。逆に、経済的な保護主義はもはやかつてのような力を持たない。NAFTAはまだ新しい考え方であるが、ペローが煽った雇用喪失の不安は今では聞かれない。NAFTAは、労働者も含めて、アメリカ人の生活を豊かにした。1993年のNAFTA締結後、トラック運転手や倉庫の雇用は41万2000人、28%も増加した。
だからチームスターは安全性を訴えたのである。しかし、こうした反対運動も組合員の獲得に悪影響を及ぼすだろう。チームスターの幹部たちは、それが白人クラブではなく、ヒスパニックの参加を呼びかけている、と言う。ホッファ委員長はこの国で搾取されている労働者が団結する権利を持つ、と主張する。そして、安全性と移民支援とは矛盾しない、と。
しかし、メキシコ系アメリカ人の社会においては、国籍の有無など重要ではない。ロサンゼルスのメキシコ系アメリカ人は、たとえ非合法でもロス郊外で働く兄弟を持ち、またBaja Californiaでトラックを運転する兄弟も持つ。彼らが労働組合に攻撃されることを喜ぶはずがない。
外国人差別や排外主義が得票につながったのは、遠い遠い昔である。今では、少数民族の支持、特にヒスパニックの支持を得る者が、選挙で勝利する。そして労働組合も、こんな外国人いじめに自分たちの将来を賭けるのか?
Financial Times, Monday Aug 6 2001
An exercise in futility
Moises Naim
反グローバリゼーションの運動があろうとなかろうと、サミットは何も達成できないだろう、ということが問題だ。ところが、政治指導者たちも抵抗運動の参加者たちも、一致して、それが人類にとって重要であるかのような誤解を与えている。実際には、国際的な合意や協調がますます重要になっているときに、世界が協力する合意はますます達成できなくなっている。
反グローバリゼーションの運動と同じように、政治指導者たちも多くの目標に戸惑い、分裂し、深い混乱の中にある。彼らはともに目標を達成する方法について考えが足らず、地球温暖化でも、エイズでも、遺伝子組み替え農産物でも、前進のための同盟を形成できない。
通商政策が良い例である。ますます複雑になり、相互依存を深める、世界経済の要求に応えることは難しく、高度な標準化や合意によるルールや制度が整わないために、機能麻痺が深刻になっている。グローバリゼーションのもたらす旧組織の解体と不平等化は、各国が共通のルールに合意することを一層難しくする。
国際機関は過度の要求に押し潰されてしまうだろう。その権限や能力、資源の限界を超えた課題を負わされたWTOや世界銀行が、各国の機関よりも効率的であるはずがない。実効性のある、信頼できる各国の政治指導者たちだけが、連携の網の目を作り出せるのだ。
通商交渉は、アメリカやヨーロッパ、日本が発展途上諸国の要求に本気で応えない限り、前進できないだろう。しかし、ヨーロッパと日本の農産物に関する保護主義や、豊かな国からの農産物輸出補助金、アメリカのアンチ・ダンピング規制などは、先の交渉以後も、何ら解決に向けて動きが見られない。他方、アメリカは知的所有権の保護を強化するためにだけドーハを利用したがっている。
ドーハでは何の進展も無く、その失敗によって新しいアプローチが模索されるであろう。グローバリゼーションに反対するなら、何の成果もない会合ではなく、その成果に焦点を絞るべきだろう。
Financial Times, Tuesday Aug 7 2001
China's cheap money
Gillian Tett
群馬県のりんご農家は中国からの輸入を心配する。アメリカからの輸入りんごが全く異なった種類であったのに比べて、中国農家は日本と同じフジの種を入手しており、しかも生産コストがはるかに安い。「われわれは競争できない。政府が何か対策を講じるべきだ。」と言う。
日本政府の高官は、中国の通貨、人民元が円などに比べて過小評価されている、特にWTO加盟後は、もっと強くなって当然だ、と言う。現在、人民元は貿易取引に関して1ドル=約8.27人民元に固定されている。日銀や経済貿易産業省の高官が、人民元の調整を示唆した。日本が行った貿易制限措置が関心を集めているが、今まで日本の官僚たちが中国政府の怒りを買うことをめったに言わなかったことを思えば、中国の通貨・為替政策に言及したことは注目される。
日本の不安は三つの要因によって強められている。第一に、日銀はデフレ阻止のために中国との通貨調整を必要としている。「日本と中国の価格構造があまりに大きく違うために、日本はデフレと切下げによって調整するしかない」と、ある政府高官は言う。第二に、予想された以上の速さで、中国が世界の生産基地として急速に日本に追いつきつつある。例えば、アメリカ向けのコンピューター輸出でも、昨年、中国は日本を抜いた。
中国政府は、ある意味で、かつての日本の輸出拡大による工業化促進戦略を真似ている。日銀の幹部は、「1985年のプラザ合意前に起きたことを思い出させる」と述べた。「それと全く同じことを、われわれが中国に対して心配している。」
第三に、中国が円・ドル関係に重要な影響を及ぼすことを、日本は心配している。公には否定しているが、日本政府は円安を必要としており、構造改革を条件にアメリカもある程度の円安を受け入れると考えているだろう。しかし、1998年に、円安が進んだとき、中国がこれに強く反対して、アメリカ政府は円安を阻止するために行動した。
1ドル=123円であれば、中国が苦情を言う理由は何もない。アジアにおいて中国だけが成長を持続している以上、もう少し円安が進んでも中国を気遣う必要はない。130円までは下げる可能性がある、と富士ゼロックスの小中陽太郎氏は述べた。
日本政府が今すぐ行動を起こす見込みは少ないが、もし不況が深刻になって、中国のWTO加盟が実現すれば、通貨摩擦が生じる可能性は高い。群馬の農家は言う。「中国からのフジが売られるようになれば、日本のりんご農家は廃業するしかない。しかし、そんなことを日本人が黙って許すはずはない。」
New York Times, August 6, 2001
Brazilians Uneasy Despite Help by I.M.F.
By LARRY ROHTER
IMFはブラジルに対する150億ドルもの融資を緊急に認めた。しかし、アルゼンチンの危機が波及するのを完全に防止できるかどうかは、予断を許さない。アジア危機の後で、ブラジル政府は切下げによって景気の回復を図った。IMFのケーラー専務理事は、ブラジル政府が進めた財政金融の健全化、経済構造の改革を賞賛して、他の先進工業諸国指導者たちとともにブラジル経済の回復を強く支持した。
IMFは他にもトルコやアルゼンチンへの融資を認め、また、アメリカのテーラー財務次官補もアルゼンチン政府との交渉を経て改革への追加融資を支持した。しかし、ブラジルの貿易構造や資本流入の減少を考えれば、それでも危機の封じ込めは不完全である。さらに、緊縮財政政策の条件下で不況や電力問題が続くことを思えば、問題がブラジルにとって解消されたとは決して言えない。
New York Times, August 9, 2001
Argentine Protests on Austerity Ebb, and Stocks Rise
By CLIFFORD KRAUSS
政府の緊縮計画に反対する失業した労働者や学生によるデモの波が、今日は、すでに減り始めた。しかし、デモが主要道路を塞ぎ、タイヤを燃やして高速道路を封鎖しており、その混乱は続いている。教員やその他の公務員も職場を離れて議会へのデモ行進に参加した。
しかし、抗議活動による深刻な経済被害は起きていないようだ。これでデ・ラ・ルーア大統領の赤字削減策は前進するだろう。2週間前に、公務員の給与や年金を13%も削減するなど、厳しい緊縮案が与党間で合意された。これに対して、労働者・学生の抗議は70以上の道路を封鎖し、要求が通るまで、毎週、反対運動を強めると予告していた。しかし、二日経って、デモ参加者は減少し、3年間の不況で12%の生活水準低下、16%の失業率を経験しても、左派の要求は限られた支持しかえられないことが分かってきた。
ブラジル、チリ、ペルーの左派政党は、近年、中道寄りの方針に転嫁し、アルゼンチンの野党・正義党はもっと保守的に変わった。国民は、債務の支払停止やアルゼンチン・ペソの切下げというような、極端な政策転換を望んでいない。しかしまた、多くの国民は政党を支持せず、草の根的な抗議が増えている。ブエノス・アイレス郊外の労働者居住地、La Matanzaで道路封鎖を行った36歳の指導者は、「少数者のポケットの中身を気にする資本主義モデルを代表する政府ではなく、人民を代表する政府を私たちは望む」と述べた。確かに人民は不満を感じているが、その解決策は散漫で、合意できず、運動を弱めている。
政府高官は非公式に抗議活動の退潮を歓迎している。「道路封鎖を行うような左派は少数派でしかない。それでも、市場の投機家に利用される恐れがある。われわれには平和と安定のイメージが必要だ。」
Washington Post
Help for Argentina
Friday, August 10, 2001; Page A24
アルゼンチンからの代表団がワシントンで救済融資の追加を交渉し始めた。ブラジルのカルドーソ大統領は「アルゼンチンに、自分で問題を処理しろ、と言うのは(IMFの?)一種の偽善である」と述べた。アルゼンチンのカヴァロ経済大臣は、IMFが追加の融資を行うことは、正統的な経済学的処方箋に対する世界中の信念と一致する、と主張した。「アルゼンチンはグローバリゼーションに公然と戦いを挑む新興市場で唯一の国である。もしそれが無益な戦いであるなら、それはアルゼンチンにとってだけでなく、世界経済にとっても悲劇であろう」と。
しかし、アルゼンチンは、カヴァロが言うほど、責任ある経済政策を実施した優等生ではない。この10年で、確かに、アルゼンチンは改革に励んだ。インフレを抑え、為替を固定し、貿易障壁を破棄し、民営化と規制緩和を進めた。その結果、アジアの奇跡に並ぶ8%の成長率を実現した。しかし、不運と失政が重なって、1990年代半ばから経済は悪化した。
不運とは、ドル高による輸出競争力の喪失である。さらに、不況が税収を減らし、財政赤字を借入れでまかなった。失政とは、アルゼンチンが借入れを続け、政治的な予算配分を優先して支出削減の決断をしなかったことである。IMFはこの1月に400億ドルの救済融資を行ったが、その追加が求められている。
アルゼンチンが改革の優等生で無いとすれば、救済融資を支持する根拠は何か? 古典的な議論では、危機の波及を防止することである。しかし、証拠は不十分だ。ブラジルやチリは動揺しているが、メキシコは問題なく市場から資金調達している。
こうした情勢で救済融資を行う決定は困難であろう。しかし、それを支持する強い根拠は、それを行っても国際社会の負担とはならず、行わないで危機が波及した場合、その被害は甚大で、改革を挫折させる、ということだ。西側の政治家たちは、不況下で財政支出削減を行うアルゼンチン政府の決断を支援するために、追加融資を認めるべきだ。
Financial Times, Wednesday Aug 8 2001
No more strong dollar
William Dudley(chief US economist at Goldman Sachs)
「ストロング・ダラー・ポリシー」を廃止すべきときが来た。それはアメリカが好景気でインフレを抑制するのに役立っているときには意味があった。しかし景気悪化局面では、アメリカの輸出競争力を損なって、低金利による成長の刺激を無効にする。「ストロング・ダラー・ポリシー」は持続可能でもない。アメリカの経常収支赤字は近年急激に増加してきた。外国投資家がドル建て資産への需要は減少するだろうし、その結果、ドルの価値は急落する。それとともにアメリカの債券価格も株価も暴落する危険がある。
ドル高を長く維持するほど、不必要な調整の規模が拡大する。もしドルの価値が下落すれば、政策当局への信頼も損なわれる。それは外国投資家の求めるリスク・プレミアムを増加させて、ドルの減価を大きくする。
ドルの価値が維持できない理由は三つある。1.アメリカの経常赤字が大きすぎる。2.債務の支払いによって、赤字幅は累増する。3.アメリカ経済や企業の収益はすでに悪化しつつある。その結果、アメリカへの資本流入が、直接投資から証券投資に、大きく変化した。アメリカ資本市場の暴落が起きる危険性が高まっている。
ドル安を促せとは言わないが、長期的に維持可能な水準よりドルの価値が高くなることを支持しない政策が望ましい。もちろん、政府が何を言おうと、為替レートは市場が決めるだろうが、財務省は経済を健全に保ち、国内貯蓄で投資が行われるように、資本流入への依存を減らしていくべきだろう。同時に、アメリカの資本市場が外国の貯蓄にとっても魅力的な運用先であることを保証する政策が望ましい。
現在の政策のリスクは高まりつつある。1.財務省のコメントがドルを高くした疑いがある。トレーダーたちと共謀したクリントン政権からブッシュ政権の行動様式が、ドル高政策を重視させた。2.経済指標で各国と比較した場合、ドルの過大評価が示されている。
政府はドル価値の決定を市場に任せるべきである。「ストロング・ダラー・ポリシー」の放棄は、アメリカの資産に対する需要が強く、政策が信頼されている間であれば、適当なドル安で抑えられる。下落が管理できないとしても、大きな被害は生じない。逆に、「ストロング・ダラー・ポリシー」の破綻まで続ければ、経済の調整過程は一層過酷になる。
Financial Times, Thursday Aug 9 2001
Editorial comment: Trusting Japan
(コメント)
パール・ハーバーと言われれば広島・長崎、植民地支配に関しては欧米とアジアとの対決、南京虐殺や従軍慰安婦には事実無根と言ったり、戦争の過程では世界中で起きたことだ、と言ったりする。日本の政治指導者には、互いの不信感を和らげ、民間人への戦闘行為を糾弾する、国家を超えた強い主張があるのでしょうか?
ヨーロッパでドイツが受け入れられた条件と対比して、FTは、小泉首相の進める日本の国際的な役割に、四つの前提条件を設けました。
1.小泉氏はなぜ靖国神社参拝を重視するのか明快に説明し、同時に、アジア諸国への謝罪と矛盾しないことを示さなければならない。
2.日本は学校教育において子供たちに日本が行ったことを、包み隠さず、すべて教えなければならない。
3.日本が従軍慰安婦として利用した韓国人女性などに、速やかに、補償を行わねばならない。
4.小泉氏は日本の平和憲法を改正し、アジア諸国に受け入れられる形で、国連軍において日本の軍隊が果たす役割を正しく規定しなければならない。
日本の政治家たちは、自分勝手な言い訳や表面的な謝罪、歴史解釈の水掛け論ではなく、アジアの政治家たちが協調に向けて前進できる積極的な言明と歴史理解、謝罪のための具体的補償と和解、将来の紛争解決について合意された手続きと制度、を議論し続けなければなりません。そのような議論に応じられない政治家は、日本でもアジアでも、はっきりと失脚させるべきでしょう。
Washington Post, Wednesday, August 8, 2001; Page A19
A New Deal With Mexico
By Doris Meissner
非合法移民の合法化には、強い反対と賛成がある。反対派は法律の遵守を、賛成派は自由貿易と労働市場の現実を指摘する。真の解決策は、両国の協力を新しい法律にすることであろう。
1986年の移民法改正では、非合法移民の合法化が雇用者の罰則規制強化といっしょに行われた。しかし、その法律は十分に実施されていない。偽造された労働許可証が氾濫し、議会は取り締まりに十分な予算を与えていない。
アメリカの非合法移民の数は、おそらく史上最大になっている。しかし、非合法移民を解消する歴史的なチャンスが掴めるかもしれない。なぜならメキシコの人口増加は減速し、移民流出も減少しつつある。NAFTAが成長率を高めることに成功すれば、2015年までにメキシコ国内で雇用が十分に増加するようになるだろう。両国の所得格差も縮小する。これはEU内で移民が解消されたパターンと同じである。
NAFTA内の移民ビザは、国境を越えた統合化を示し、メキシコ側の移民監視と順法精神への協力、アメリカ側の教育、社会投資、インフラ整備への協力を前提としている。移民問題とNAFTAとが統一的に扱われることで、両国にとって問題の解決が見えてくる。
(コメント)
他方、Chicago Tribuneのコラム(The risks of a guest worker plan, August 8, 2001)は、ブラセロ計画と同じように、移民の管理は実行不可能であり、二流の市民を作ってしまう、という反対の声を紹介しています。何よりも、官僚によって民間企業の雇用契約がチェックされることを憂慮するのです。
各地域の経済発展が維持されるなら、移民は成功するでしょう。非合法化したり、ビザを管理したりする必要はないのです。各地の雇用者や労働者、市民の団体が、移民たち自身の団体とともに、望ましい受け入れ方法を議論して決めるべきではないでしょうか。
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The Economist, July 28th 2001
Latin America: The ardour cools
The Latinobarometro poll: An alarm call for Latin America’s democrats
1980年代に、ラテン・アメリカの多くの国で軍事独裁政権が崩壊し、民主化が進んだ。同時に、自由市場に向けた改革が採用され、過去半世紀に及ぶ介入主義的な保護主義の歴史を逆転させた。しかし、ラテン・アメリカにおける自由市場型の民主主義は試練にさらされている。
この地域の経済が減速するかどうか分からないが、アルゼンチンの危機は緊縮政策と政治的な動揺を招いている。秩序正しく債務を組替えることが最善の解決策であろうが、その場合でもこの地域の借入れコストは上昇し、景気後退と重なりそうである。
しかし、今回の不況に至るまでに、多くの国で改革は不十分なままであった。インフレ率も下がったが成長も抑制され、この地域の貧困はわずかしか減らなかった。それは政治的な不満につながり、民主主義への支持が失われつつある。アメリカがかつてのように軍事政権を支持しない以上、直ちに軍政が復活することはないだろうが、民主主義への幻滅は広まっている。
不平等や低開発に苦しむ社会で民主主義を確立するのは難しい。概ね選挙は民主的に行われていても、その他の制度は旧式のままである。政党は弱体で分裂している。結局、政治が腐敗したポピュリストの指導者に支配される状態は変わっていないのだ。無駄な財政支出を削減し、政治家のパトロンや身内に配分することを止めさせ、国民全体に公平な権利として教育や保健サービスを提供しなければならない。そして不況がくれば、政府が貧しい者を助けるのである。
ラテン・アメリカ諸国の世論は、自由貿易を強く支持する一方で、民主主義に不満をもち、市場経済は支持するが民営化には同意しない。アメリカに対する感情は大きく好転した。いずれにせよ、民主化に伴う楽観はもはやどこにも無い。
経済改革だけでなく、政治改革も同時に必要である。
Japanese companies abroad: Yen and Yuan
もし日本でどんな婦人服が流行しているかを知りたかったら、中国のHefeiに行きなさい。そこでは300人を雇用する企業が、国営企業のワン・フロアを借りて、秋物の婦人服を仕上げている。この会社の所有者も、経営者も、顧客も、すべて日本人である。
日本人は中国を発見し、見失い、再発見することを何世紀も繰り返して来た。最近も、中国を市場としてではなく、日本への生産・輸出基地として再発見しつつある。それは「加工貿易」という考え方に支配されてきた日本経済にとって、特に革命的である。不況に苦しむ日本人は、国産品を尊重することなど忘れて、ひたすら安い製品を買い求める。ユニクロ・ブランドで衣料品市場を席巻するファースト・レテイリング社は、生産の90%を中国の60の会社で行わせる。最大1万人の労働者を雇用するその85の工場を、たった80人の社員が管理する。そして日本への発送を管理し、519の店舗で売りさばいている。
三菱レイヨン、帝人、ジューキ、東芝、コニカ、ソニー、など、生産拠点を中国に移転する企業は増加し、日本経済が停滞していても、中国からの輸入は1年間で30%も増加した。それは労働コストばかりでなく、日本企業や商社が販売を手がけることで、これまで輸入品の侵入を阻んできた障壁が解除されたからだ。
グローバリゼーションにもかかわらず、日本企業は労働慣行や官僚制によって弾力性を欠いてきた。日本企業の進出は、自由な報酬に沸く中国企業に社会主義を押し付けるようなものだ、と中国人ビジネスマンは笑う。この点でも、日本への逆輸入方式は打開策となる。
日本にも、それが国内製造業の空洞化を加速する、と嫌う者がいる。たとえば自民党は農産物に緊急輸入制限を課したが、中国からの厳しい報復を招いている。そして、貿易戦争でより多くの損失を被るのは日本であろう。アジアからの輸入品と競争するには、日本企業が中国に進出するしかない。海外生産拠点からの輸入が国内販売の32%を占めるアメリカに比べて、日本はまだ14%でしかない。日本の消費者は二度と高価格の国産品を買いたがらないだろう。Hefeiの日本企業経営者に言わせれば、他に選択肢はないのだ。
Economics focus: A global euro?
経済学は、なぜこれほどしばしば、しかも大きく予測が外れるのか? ユーロに関する経済学の失態は目を見張るばかりだ。なぜユーロがドルに代わる国際通貨として強くなる、などと予測したのか?
世界はあまりにもドルの利用に慣れていたから、この世界中で広く使用されている通貨を乗り換える気がしなかった、とも言える。ユーロの将来に関して、ヨーロッパの資本市場統合や、より流動的で使用しやすいユーロ建債券市場への改革、などが政治家によって好んで語られる。しかし、ドルの覇権に並ぶことは難しいだろう。
ハーヴァード大学のフリーデン教授によれば、通貨の国際的使用には四つの要因が重要な影響を及ぼす。1.資産価値の安定性、2.為替レートの増価、3.深くて流動的な金融市場、4.金融危機を回避できる強力な金融監督機関の支持、である。ユーロは最初の二つに失敗している。ユーロ建債券の発行が増えれば、第三と第四の条件が満たされるようになる。
ただし、公的な外貨準備としての需要は民間需要と異なっている。資本市場や貿易取引から見れば、公的なユーロの使用は時間とともに増加しそうである。しかし中央銀行の行動はなかなか変化しない。ECBが物価の安定化について各国中央銀行から高い評価を得るまでには、まだ長い時間がかかる。
しかし、こうしたことで現在のユーロ安を十分に説明できない。オニール財務長官がアメリカの生産性上昇率を指摘したように、欧米の成長率格差がある程度の説明となる。他方、もちろん、イギリスの高官がかつて述べたように、国際通貨の役割は単に好ましいだけではない。ユーロが世界的に使用されれば、その為替レートが浮動的になり、国内金融政策に対する意味は複雑になる。ECBが信認を得るのは、さらに難しいのだ。