今週の要約記事・コメント

8/6-11

IPEの果樹園 2001

北小松で学部のゼミ合宿を行い、クルーグマンの紹介するベビー・シッター協同組合によるクーポン発行と景気循環・通貨危機について考えました。他の条件が同じでも、金融政策だけで景気循環は発生する、と彼は指摘します。デフレに対して、なぜ通貨供給を増やさないのか? もし人々がより多くの貯蓄や現金保有を望んでいるなら、通貨供給を増やさなければ、支出は抑制され、不況はさらに悪化するしかない・・・。最近の新聞にも、これに関連するいくつかの面白い記事が載っていました。

篠塚栄子「日銀、国民との対話重視を」(日本経済新聞83日)は、1998年の新日銀法で示された「物価の安定」という目標が、デフレ解消のための積極的な金融緩和策や、日銀による景気刺激策を意味するかどうか、合意が存在しないことを認めます。篠塚氏の量的緩和論批判の要点は、金利低下が資金需要に結びつかない、という日本経済への判断です。政府による経済全体の構造改革無しには、日銀も金融緩和策を実行できません。にもかかわらず金融緩和と調整インフレを求める政治家(桝添要一など?)からの圧力がなくならないことを、氏は国民の理解が不足している、と表現しています。

他方、中長期国債の日銀買い入れを増やすことに比べて、外国為替市場におけるドル買い・円売り介入は支持が得やすいかもしれません。伊藤隆敏「円ドルの市場介入:過度の変動防止に効果」(日本経済新聞82日)は、93年・94年度の外国為替市場介入が当時の急激な円高を緩和した、と評価します。経済のファンダメンタルズを反映した為替レート、という意味では、現在、円安を促す方向で介入が行われるでしょう。そして結果的に、市場で円安が進めば、日本の政府・通貨当局は再び利益を出せるでしょうか? 

これとは逆に、中前忠「十字路:公的資金投入に反対する」(日本経済新聞82日夕刊)は、不良債権処理の規模が大きく、しかもスピードが速くなければ、改革のプラス効果は実現しない、と主張します。なぜなら、民間部門の過剰設備と雇用が削減され、収益力の無い企業を退出させることで、生き残った企業の市場シェアを高め、稼働率を上げて、収益力が高まるからです。公的資金を導入して改革の抑制や遅延を招くより、銀行をすべて国有化して、健全債権による銀行を分離せよ。それを市場に売却しても良い、と。

最後に、行天豊雄「地球を読む:構造改革」(読売新聞86日)は、日本経済の現状を国内需要の不足ではなく、世界の投資循環から理解すべきだ、と主張します。そして「構造改革」を日本の伝統的な二重構造により温存されてきた国内の非効率な産業を市場によって廃止すること、と定義します。逆に、銀行経営の問題として、不良債権処理は当然の過程と考えています。むしろ金融機関の収益構造が弱く、遅れれば遅れるほど市場による強制処理に向かうしかない、と処理を促します。

さらに行天氏は、インフレ・ターゲット論を真正面から否定します。貸し出しは増えず、国債保有のリスクが高まっているときに、それは実行可能性も効果も疑わしい「全く説得力が無い」議論だ、と。他方、円安誘導も輸出企業の収益が投資・雇用の拡大に結びつくとは限らず、国内製造業・サービス業の低生産性を無視して円安に救いを求めている、と批判します。競争的な世界市場で生き残るためには、インフレ促進や円安誘導に頼らず、正しい構造改革を進めて日本経済の生産性と競争力を回復せよ、と主張するのです。

Bloomberg, 07/27 15:15

Buenos Aires Invents `Patacon' Currency to Pay Bills

By Joshua Schneyer and Eliana Raszewski

アルゼンチンで最大の人口を持つブエノス・アイレス州が、その支払請求に応えるために、独自の通貨を再び発行し始めた。知事が、労働者への支払いの一部に新通貨を使うよう命じたのだ。

この通貨は「ペソと同様に」受領されるだろう、と言うが、受け取らない企業もある。労働者も受け取りたくないが、ほかに選択肢は無い。中央政府がブエノス・アイレスに支出抑制を求めており、新通貨「パタコン」を導入して、賃金引下げの政治的混乱を回避できると考えている。他方、アルゼンチン政府は1530億ドルの債務がデフォルトになるのを回避するには、支出削減が必要である。しかし、経済学者はこれがペソのドル交換を保証した既存制度への信頼を破壊するかもしれない、と言う。

「擬似貨幣の蓄積は好ましくない」と指導的な経済学者Ernest ``Chip'' Brownは述べた。「それは赤字支出と同じである」と。パタコン通貨は、労働者に支払われる83日に、1パタコン=1ペソで流通し始める。

ブエノス・アイレスが財源として通貨発行を選択したことは、中央政府を苦しめる現実とそっくりである。すなわち、財政赤字と資金不足。投資家は37%の金利でも債券を購入してくれない。独自通貨を発行することで、ブエノス・アイレスは中央政府にできないことをした。アルゼンチンは中央銀行が外貨準備の増加なしに通貨供給を増やすことを禁じている。

ブエノス・アイレスはアルゼンチンの人口3700万の40%を占めるが、独自通貨を発行した最初の州ではない。貧しい北部ではレストランやスーパーの支払いに地方債が使用されている。また、アルゼンチンだけが地方通貨を発行する国ではない。


Bloomberg, 07/29 00:03

Argentina Never Runs Short of Financial Tricks

By David DeRosa

新興市場諸国が学ぶべきアルゼンチンの教訓とは、予算について守れない約束はするな、ということだ。アルゼンチンはカヴァロが言うような財政収支の均衡化を直ちに実現することはできないだろう。カヴァロはアルゼンチンを現金収支で運営しようとしている。そのためには、政府雇用者の給与と年金を13%削減しなければならない。

カヴァロは政治的な支持も得られると言うが、Moody’sはアルゼンチン債券の格付けを下げた。より重要なことに、IMFもカヴァロの説明を信用していない。カヴァロは財政赤字ゼロの約束と交換にIMFの融資を得てから、この取引を国民に公表すべきではなかったか? 今や、IMFは融資の実行より、アルゼンチンの予算がどうなるかを見守るだろう。

情勢は州政府にとっても同じである。ブエノス・アイレス州知事のCarlos Ruckaufは、5億ドルに及ぶ州の独自通貨「パタコン」を発行しつつある。その価値は? 知事は7%の金利をつけたパタコンで州政府の労働者に給与を支払う。しかし、それは通貨偽造とどこが違うのか? 


New York Times, August 1, 2001

Argentina's Bid to Save Itself

アルゼンチン上院議会は財政均衡化法案を可決した。これによって公務員の賃金引下げと増税が行える。まだ各州の予算がどうなるかを見なければならない。しかし、このところ、主要国の政治指導者たちがアルゼンチンを支援し、その努力を信用すると表明している。

不況にあえぐアルゼンチンは何より時間を必要としている。3ヶ月と6ヶ月の短期債券を18ヶ月の債券に交換する、二度目の債務スワップが検討されている。「財政赤字禁止」法は、追加の借入れを止めさせるが、各州が支出を減らして協力しなければならない。アルゼンチンが債務を減らし、為替レートを市場で決めるには、財政規律が必要である。

預金はすでに流出しつつあり、アルゼンチンは銀行の取り付けを防がねばならない。政府の行動が引き金となる恐れに注意すべきだ。取り付けが生じれば、アルゼンチンだけでなくラテン・アメリカの他の市場、世銀やIMFにも波及するだろう。それはこの国のようやく育ちつつある複数政党による民主主義を脅かす。


WP, Friday, July 27, 2001; Page A31

Social Security: Taking Stock

By Michael Kinsley

社会保障の「民営化」支持論は、株式の方が国債よりも高利回りであることを、その中心に置いている。しかし、それは長期の平均を述べただけで、素人の集団が株式市場の投資して、各人がどうなるかを示したものではない。また、たとえ平均でも、数年にわたって株の収益率が国債を下回ることがある。

さらに、もっと重要なことは、社会保障の増額を狙ったシステムが、結局、国債の代わりに株式への増税をもたらすだろう、ということだ。株式のほうが利回りは大きいのに、人々が国債を買うのは、彼らが愚か者だからだ、と主張する者を、ここでは相手にしない。確かに、数年前まで「ダウ36000ドル」を主張したような連中は、高度の金融技術でリスクを高めずに高利回りが実現できる、と言うだろうが。

もし社会保障制度に支払われる税金が国債ではなく株式に投資されてしまえば、政府は何か他の方法で借金しなければならない。社会保障民営化は政府支出を減らさないからである。それゆえ、結局、民間部門が利用できる資本量は変化しない。

もし民営化が社会保障給付額を増やすとしたら、それはどこから来るのか? 経済全体が拡大するか、他の誰かから再分配される、ということである。しかし、投資額は変化しない。すると、同じ投資でも(政府より株式市場のほうが)より賢明な用途に使用するのだろうか? 確かにより野心的な投資プロジェクトに資金が向かうかもしれないが、それによって多くの素人投資家は資産を失うだろう。


Financial Times, Saturday July 28 2001

The mighty dollar

Gerard Baker and Peronet Despeignes

通貨市場のトレーダーたちは、今週、アメリカのドル政策が変化するかどうかについて厳しい再考の時期を迎えた。何ヶ月も、いわゆる「ストロング・ダラー」政策を維持してきたオニール財務長官に対して、ブッシュ大統領は、それは市場が決めることだ、という不確実さを残す発言をした。

ロンドンでは、数日後、オニール長官が「ストロング・ダラー」政策を確認したが、同時に、上院ではそれを疑わせる証言があった。こうして週末にかけてドルは売られた。

1995年前半以来、通貨バスケットに対してドルは25%も増価し、1999年のユーロ導入以来、ユーロに対しても同じくらい増価した。1年前まではそれがアメリカのインフレを抑制し、ヨーロッパや日本の輸出部門を潤した。しかし不安は増している。ドル高がアメリカの回復を妨げ、世界の金融不安を招いている。結局、アメリカ政府の混乱が続く中で、ドルの価値も政策ではなく市場によって決まるのではないか?

政権移行時にも、通貨市場からの圧力にさらされたが、アメリカが他よりも高い成長率を実現している間は、ルービン=サマーズの「ストロング・ダラー」政策を継承しておくことが容易であった。ブッシュ政権に政策転換を主張するものは居ないが、為替市場に介入することを支持する意見も無い。

問題は、政策転換がドル暴落をもたらす危険である。ドルの価値を市場に委ねることが何を意味するか、何らの合意も無い。また、4500億ドル、GDPの4.5%に達する経常収支赤字を問題にするエコノミストも居る。ルービンもヴォルカーも、それが維持可能ではない、と証言した。「ヨーロッパや日本がアメリカよりも高い成長を実現し、自分たちの貯蓄を国内で使おうとする時代が決して来ない、などと前提してはいけない。」

しかし、ハーヴァード大学のマンキューは、「アメリカが良い投資場所なら、資本の流入が長期に持続しても不思議ではない」と言う。収穫逓減はあるとしても、直ちに投資が止まる心配は不要だ、と。


New York Times, July 31, 2001

More Experts Grow Wary as the Dollar Keeps Rising

By RICHARD W. STEVENSON

ドル高を批判する議論は、基本的に、二つある。一つはアメリカの輸出競争力が損なわれていること、もう一つはアメリカの経常収支の大幅赤字である。緩やかにドル安を促して、ドル暴落を回避すべきだ、ということになる。

しかし積極的もしくは暗黙のドル安政策は、インフレのリスクやドル暴落と金融市場パニックの危険を十分に考えていない。現政権は、政府が市場の判断に逆らうことは無益である、と認めている。

議会証言では、インフレ、金利、資本流入に悪影響を及ぼし、交易条件を悪化させる、という理由で、ルービンがドル安政策に反対した。しかしヴォルカーは、長期的に、ユーロや円がドルに対して強くなることを、安定した経済運営に必要である、と主張した。また、ベア・スターンズ社のDavid Malpassは、永遠のドル高でもドル安でもなく、「安定した強いドル」を主張する。


New York Times, August 1, 2001

RECKONINGSBlessed Are the Weak

By PAUL KRUGMAN

オニール財務長官は、インタビューで、ドルが過大評価されているという主張を批判し、貿易赤字は「些細な、間違った考え方」に基づいている、と主張した。GDPのような概念は時代遅れである、とも主張した。私は、こうした発言がドルの不可避的な減価を導き、たとえオニール氏を困らせるとしても、アメリカ経済にとって良いことである、と思う。

ドル高と最近のハイ・テク・バブルには類似点がある。どちらも資産価格の上昇がポンツィ・ファイナンスとして機能した例であろう。すなわち、以前の投資が儲かるのは、新しい投資の波が続くからである。それが長期的に意味することは無視している。

ドルは90年代半ばからずっと上昇してきた。それはドル安を予想することを愚かに思わせたが、他方、アメリカ製品を世界市場から締め出した。1995年以来、アメリカの経常赤字は4倍になり、4500億ドルに達した。それはアメリカのGDPの4.5%であり、インドネシアや韓国が1997年の金融危機前に示したよりも大きな赤字規模である。

歴史的に見て、それは通貨の暴落を意味する水準である。確かに、そんな法則は変化した、今度は違う、という奴が居る。オニール氏が赤字概念を批判したのも同様の理屈であろう。しかし、そんな言い訳は198年代半ばのドル高にも、1995年のメキシコ・ペソ危機前にも、2年後のアジアでも聞いた。

ドル暴落は破滅なのか? 多分、そうではない。アメリカが不況を輸出するという意味で、少し前までドル安は世界経済にマイナスであった。しかしアメリカ経済が不調になれば、ドル高はFedを苦しめる。今やドル安はアメリカの国益である。それはECBや日銀に政策転換を促す必要なショック・ウェーブでもある。


Financial Times, Monday July 30 2001

Strains in the eurozone

Christopher Taylor

通貨統合による利益は不均等に現れ、国によっては損失を被る。財政的な補償メカニズムが無ければ、EMUを離脱する国が出る可能性もある。

EMU加盟国間の目覚しい収斂にもかかわらず、各地の生産性上昇率は異なっており、失業率の高い地域もある。生産性上昇は、巨大な成長する市場の内部では不均等に実現する。近代工業が集積する性質を持ち、成長は市場や供給ラインに近接した既存の中心地域に集中するからである。

イギリス、イタリア、ドイツ、スペインが示すように、通貨統合は前世紀においても地域の不均等を強めたが、EUの硬直的な市場と構造的格差は、特に域内の労働力移動が低いために、ショックに対して各経済を異なった脆弱性に苦しめる。

政治問題であっても、ユーロ安は輸出を刺激し、インフレを加速するコストを伴いながらも、ユーロ圏の景気回復を助けた。しかし、アメリカの不況や石油価格上昇は状況を変化させ、対応力の無い経済を苦境に追い込むだろう。

アイルランド、スペイン、ポルトガルは、ECBの目標を超えるインフレに苦しんでいる。かつての高インフレ国は金利の急落に対応できない。Ecofinは財政引締めを勧告するが、ユーロ圏の財政基準を満たす限り強制はできない。また、大幅な経常収支赤字に苦しむ国もある。スペイン、ギリシャ、ポルトガルは、構造的な弱点を抱えており、慢性的な赤字をEMUに持ち込む。

為替レートが存在しないのだから、国際収支の不均衡を個別に見る必要は無い、とよく言われる。しかし、各国が債務不履行に陥る危険はなくなっていない。実際、各国は市場で1%を超えるペナルティーを支払っている。EUが資本市場を統合し、開放するにつれて、この問題はさらに深刻になるだろう。

EMU離脱も、こうしたリスクの一つである。それはデフォルトを意味しないが、離脱することで各国は自国通貨を再導入し、債務を書き換えることができる。それゆえ、減価する各国通貨に投資するリスクはなくなっていない。


Financial Times, Thursday Aug 2 2001

Why globalisation fails

Richard Lambert

政治家たちはHarold James の新著The end of globalisationLessons from the Great DepressionHarvard University Press)を読むべきだ。

グローバリゼーションは後戻りできない、と言われたこともあるが、今やそれは疑わしくなった。それを支えたアメリカ・モデルの拡大傾向も弱まっている。そして怒り狂った群集がシアトルからジェノヴァへと集まり、グローバリゼーションの政治的な基礎を動揺させた。

同じことが以前にも起きた。16世紀の新発見、新思想、新しい富が、インフレと軍隊、疫病の減少、知的抑圧からの解放とともに、戦争の無い、繁栄した工業諸国をもたらした。それは第一次大戦後も生き延びた。1920年代でも、国際主義と自由貿易への熱狂的な支持は続いていた。しかし、グローバリゼーションの波は1930年代の大恐慌に呑み込まれた。近隣窮乏化政策と軍事的なナショナリズムが蔓延した。

大恐慌が普通の景気後退と異なるのは、1931年の夏に伝染性の金融的なショックが続いたことであり、貿易や政治がこれに冒されたことである。最初、まったく違っていた各国の経済力や潜在的リスクが、パニックの中で一気に融合した。

財政危機と金融危機が互いに強め合い、疫病のように国境を越えて広がった。多くの政府がデフレに対して均衡予算を組み、世界経済のデフレを強めた。自由貿易の理想は砕け、多くの努力も空しく、保護主義の悪循環が世界を捉えた。「不公正な」競争に労働基準が適用され、大西洋でも、ついにはヨーロッパ内でも、移民が規制された。

新しい理屈がすぐに現れた。資本も、商品も、移民も、何もかもが国家の境界によって停止した。それは国益によって管理されねばならなかった。

ジェイムズ教授は、「グローバリズムが崩壊したのは、人類とその制度が結び付けられた世界の心理的・制度的結果に耐えられなかったからである」と言う。グローバリゼーションを進めた制度が圧力に耐えられず崩壊し、破滅を拡大する経路となった。

彼は今日の世界経済における二つのもっとも深刻なリスクを指摘する。一つは、グローバリゼーションから取り残されたアフリカ。もう一つは、問題を認識するのが遅すぎるヨーロッパである。これは日本のほうが深刻だろう。

確かに私たちは制度に過度の期待を持たないし、グローバリズムの問題を解決できる単純な答えなど信じていない。しかし、ファシズムやスターリニズムの後にも、ナショナリズムの醜い再生が懸念される。

政策担当者が学ぶべき三つの教訓がある。1.金融部門の安定性がパニックの予防に不可欠である。2.グローバリゼーションは、明確で達成可能な任務を帯びた、健全な制度を必要とする。その意味では、IMFやWTOへの過度の期待は禁物だ。3.グローバリゼーションの逆転は予想できない速さで世界を不況に叩き込む。


Financial Times, Friday Aug 3 2001

Argentina's painful graduation

Ernst Preeg

アルゼンチンはドルに固定した10年間を数ヶ月か数週間で終えるだろう。根本的な問題は、アルゼンチンがドル化に相応しくないことである。アメリカとの貿易は一部に過ぎず、しかも農産物輸出が伸びる可能性は少ない。近年、アメリカとの間では大幅な貿易赤字を出し、危機が深まるにつれて貿易は減少している。市場はペソの減価を求めている。

さらに、メルコスールの他の加盟諸国は通貨を切り下げた。IMFによる400億ドルの支援融資で、成長なしの緊縮政策が割高なペソを維持したが、もう時間切れである。為替レートを1対1に固定しても、ペソの金利は15%も高く、さらにカヴァロの二重為替レートが不信感を強めた。

こうして調整を3年間も延期したために、対外債務が増加し、金融システムのドル化が進んで、より深刻なペソの暴落を招くだろう。2030%から8090%もの調整過程が穏やかなはずは無い。インフレ抑制とドル価値保証によって高められた政治的指導力は大きな打撃を受けるだろう。

しかし、より長期を見れば、国際金融システムや、特にIMFの役割は明るい展望を示している。アルゼンチンの通貨危機がIMFの最後の支援融資となるだろう。メキシコ、タイ、インドネシア、韓国、ロシア、ブラジル、と1990年代は同じような危機と融資が繰り返された。結局、これら6カ国すべてが対ドル固定制を止めて、管理フロート制に移行した。

その後、トルコとアルゼンチンはドルに結びついた危険な国となったが、トルコは変動制に変わり、アルゼンチンも後を追っている。中国と香港は残されたが、巨額の外貨準備を持ちながら、中国政府はすでに変動幅の拡大を示唆している。

こうして国際金融システムは、ヨーロッパのような通貨同盟か、わずかに管理された変動レート制という、「ツゥー・コーナー」システム(二極化体制)に移行した。ここではアルゼンチンからの金融危機の伝染が比較的少ない。影響を受ける国は、単純に、通貨を減価させれば良い。

より重要なことは、それが新しい国際金融システムの幕開けであることだ。IMFが新興市場経済に融資することは大幅に減るだろう。国際経済の8割から9割はIMFの支援から「卒業した」のである。1999年のロンドンにおける演説で、サマーズ前財務長官はこうした展開を予想していた。


New York Times, August 4, 2001

I.M.F. Ready for Brazil and Argentina Rescues

By JOSEPH KAHN

The Economist, July 21st 2001

Emerging markets: How the bug can spread