今週の要約記事・コメント
7/23-28
IPEの果樹園 2001
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7月18日の日経新聞朝刊で、イングランド中央銀行理事チャールズ・ビーン氏は、日銀が量的緩和目標を導入し、それをデフレ解消まで続けるとした現在の方針を支持しました。しかし、金融政策が現状では「弱い政策」であるとし、一層の量的緩和には言及しませんでした。財政政策も金融政策も効果が無いとすれば、日本はどうやって「構造改革」の痛みを和らげれば良いのでしょうか?
ビーン氏は「貯蓄率を下げて消費を促す一種の創造的な政策」を薦めます。「異端の政策ではあるが、貯蓄課税の強化で財政収入を上げると同時に消費支出の拡大を誘うような政策も考えられる」と。
えっ! これ以上、貯蓄に税金かけてどうするの・・・!? そんな悲鳴が聞こえました。確かに、経済学というのは、ときに、現実感覚を無視しています。すでに金利を奪われ、税金まで課された家計に対して、貯蓄を止めなければ税金をもっと取るぞ、という政策を政府が提唱すれば、反感を買うでしょう。
しかし、金利をゼロにしたり、公的資金を導入したりして、日銀や政府が銀行と企業を救済し続けているお金も、結局、家計から非効率な形で債務の維持に浪費されているのです。貯蓄に課税すると同時に消費に対して減税したり、家計による投資に対して優遇税制を導入したり、要するに、預金を引き出して消費や投資に振り返れば増税されない仕組みを作れば良いでしょう。銀行や政府によってではなく、消費者が自分で商品を買い、あるいは投資することで、生き残るべき企業を選別し、有望な新規事業を直接支援するのです。
他方、7月19日の夕刊に載った「世界不況の打開策」という小論は、一種の世界経済会議に期待するものでした。米国主導のケインジアン政策を採用する、と言うのですが、私は賛成できませんでした。その実現可能性が乏しいだけでなく、アメリカの不況や国際通貨危機の性格が、ケインジアン政策の前提する有効需要の不足より、主として供給側の条件から生じていると思うからです。
ただし、アルゼンチンにはケインジアン型の経済政策を可能にするような国際支援を組織してほしいです。そうすれば、新しい国際通貨制度と世界不況の打開策につながるかもしれません。国際資本移動が浮動的であれば、基本的な経済政策や構造改革の健全性を図る基準は通貨市場の発作的な危機やその波及によって判定されてはならないでしょう。
金融政策と為替レートがますます政府の管理や実物経済の調整から乖離していく中で、政治的な統合が不十分な世界でも、緊密な財政的支援と安定化条件に関する多角的合意が求められるでしょう。それがブッシュ政権のミサイル防衛構想に基地を提供する、という偏った政治的目標にとどまらず、世界の政治経済秩序を安定化し、円滑な調整を促す条件の政府間協議へと深まることが、繰り返される通貨危機の帰結ではないでしょうか?
他方、相変わらず分からないのは日本の地価です。日本の住宅事情や農業が今後どうなるのか、既得権の絡む土地問題に、住宅・雇用の地方分散と都市近郊の農業や畜産業を再生するような、希望の持てる長期の改革を提唱する政治家が現れてほしいです。
炎暑の都市を脱出して、週の半分は農場や牧場の仕事に汗を流し、涼しい縁側でスイカを食べる生活に、私はあこがれます。
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アルゼンチン通貨危機とその国際的波及について、以下の記事から、国際通貨制度に関する症例の観察と診断を集めます。(私見は括弧で括ります。)
Financial Times, Thursday July 12 2001
Sell-off hits emerging markets
アルゼンチンとトルコに起きた今回の通貨危機は、1997-98年の危機と何が違うのか? 機関投資家は以前ほどこうした危機の恐れがある国に投資していない。エクスポージャーが抑制されていた点で、今回の危機は国際通貨制度IMS全体の危機につながらないだろう。他方、通貨危機で流出する資金を他の資産の売却で補わなければならないから、先進諸国の金融緩和が無ければ危機は波及する心配がある。今回は、前回のようにアメリカの景気が過熱しておらず、アメリカ自身の金融緩和が行われてきた。他方、通貨危機が起きても、前回は減価して回復した国際競争力が輸出の増加と急速な景気回復をもたらしたが、今回はそれが期待できない。
Argentina concerns cause ripples
Editorial comment: Emerging crisis
世界経済が減速する中で、通貨の減価は競争的な切り下げや保護主義を引き起こすかもしれない。むしろ構造調整Restructuringが危機への対応策として最も重要であることがさらに明らかになった、という。(しかし、何を基準に調整するのか? 国際的な調整のルールや世界経済の回復が見込めないならば、調整が進むというより地域協力が模索されるかもしれない。)
通貨危機の克服は、主要国の減速で民間資本市場が慎重になり、IMFが安定化融資の拡大に否定的な態度である以上、アメリカ、EU、日本の経済悪化から生じた危機は容易に解消しないだろう。
Bloomberg, 07/11 16:19
Argentines Switch to Dollars as Currency Risk Climbs (Update2)
カヴァロは決してドル・ペッグを切り下げることでは経済崩壊を食い止められないだろう。政府の対外債務だけでなく、民間企業の借入れや人々の預金、スーパーでの買い物まで、ペソと同様にドルが使用できる。この制度が維持できないと思えば、人々は一斉に預金を引き出すだろう。(政府は完全なドル化を実現するのが目標でないなら、国内民間取引で日常的にドルが使用されるような状態を回避すべきであった、と思う。)
New York Times, July 11, 2001
Latin American Markets Ravaged by Argentine Woes
ドルとの固定制を維持するには、歳出削減を繰り返して金利の抑制を目指すか、国際的な救済融資が合意されるしかないだろう。ブラジルでは、減価によるインフレと金利上昇が悪循環になっている。ショック・ウェイブがメキシコやスペイン、さらにドルにまで及ぶかもしれない。
Financial Times, Friday July 13 2001
Latin Americans suffer as storm abates
アルゼンチンの固定制との連想で、香港や中国が狙われるだろうか? しかし、それ以外の点では大きく異なる。
日本やスイスからのキャリー・トレードは、危機の影響で大きく回収されつつある。一時的に円高も生じるだろう。他方、危機の沈静化はドルの価値を安定させる。アジア通貨危機はドル高を導き、ロシア危機はドル安を引き起こした。
(もし国際的な協調が前提されるなら、キャリー・トレードは安定化を促す国際短期資本移動といえるかもしれない。)しかし、アメリカの経常収支赤字が金融緩和によるドル安を懸念させ、IMSの安定化を妨げる。
New York Times, July 12, 2001
Argentine Debt Creates Fallout That Is Wide
アルゼンチンは金利の上昇で増加する利子支払額に支出削減で対応している。しかし、3年も不況が続いて、歳入が減って行く中で、こうした政策は維持できない。(国内政治と国際投資家とを仲裁する委員会は無いのか?)ブラジル中央銀行総裁もニュー・ヨークやロンドンを飛び回って危機回避の政策について説明を繰り返す。
ドル安の恐れもあるが、アメリカの銀行が抱える新興市場向けの債権は少なく、それゆえアメリカ政府は救済融資を支持しない。
Washington Post, Thursday, July 12, 2001; Page E01
Argentina's Woes Spur Fears of New Crises
Financial Times, Saturday July 14 2001
US and IMF talk down extra aid for Argentina
アルゼンチン政府は公務員の給与を削減し、年金支払いを減らし、社会保障を縮小しているが、効果は少ない。他方、市場は、こうした事態が悪化すれば、G7が協調行動を取るだろうと考えている。
Emerging markets settle despite Argentinian fears
アルゼンチン政府債券に対するスプレッドの拡大はますます市場の不安を強めている。政府の改革に伴う社会的なコストは増加し、政治的な支持も得にくくなる。トルコ政府は銀行改革を加速し、トルコ・テレコム民営化問題についても経営幹部を見直した。
Bloomberg, 07/13
Chance to Sell Yen Seen as Argentine Debt Tumbles: Outlook
円高はむしろ短期間で円安に変わるだろう。あるアナリストは、日銀の緩和策で1ドル=140円を予想する。しかし、速水総裁は政府の改革案が進まなければ金融緩和を行わないだろう。それは参院選が終わってからである。
Argentina's Domingo Cavallo Legend Gets Tarnished (Update3)
ドル建ての債務を負った民間部門があるから、切り下げではアルゼンチンを救えない。カヴァロの過去の栄光は、むしろ大胆な政策転換を予想させ、通貨の安定性を損なっている。(切り下げではなく、輸出を増やす方法をカヴァロは模索している。しかし、アルゼンチンが投資を増やせたら、市場改革を促せるだろう。通貨危機に対して、財政支援やFDIを利用できる制度があれば良いと思う。)
New York Times, July 14, 2001
No Bailout Is Planned for Argentina
ブッシュ政権もIMFもアルゼンチンに対する新しい融資や特別な支援策は考えていない。国際通貨制度もしくはアメリカの主要銀行に影響しない限り、救済策は必要ない。しかし、不況と政府の支出削減とが悪循環となっている。(金融政策や為替政策が使えないなら、アルゼンチンは財政政策を使うしかない。景気の良いときに財政余剰を蓄積しておくべきだった。もしくは、アルゼンチンの構造改革を促す財政的な刺激策を可能にする民間もしくは公的な支援が国際的にあれば良い。)
Washington Post, Friday, July 13, 2001; Page E01
Latin Turmoil Deepens Argentina's Crisis Threatens Already-Troubled Neighbors
アメリカ経済への影響は、もちろん、銀行だけに限らない。ラテン・アメリカ全体にアメリカの企業は投資しているから、アメリカの企業業績が悪化する。ブッシュ政権が進めてきた自由貿易圏の拡大構想FTAAにも障害となる。
アメリカが支援してきた市場改革そのものへの幻滅が強まることが重要である。規制緩和、民営化、関税引き下げといった、90年代にラテン・アメリカ諸国で行われた一連の自由化が、通貨危機によって損なわれ、政治的な反発を招くかもしれない。
Washington Post, Saturday, July 14, 2001; Page E01
Chances of New Global Crisis Played Down, but Risks Remain
IMSは強化されたが、主要国の経済情勢が悪化することで周辺地域から通貨危機が起きた。通貨価値を対外的に固定する国は減ったし、外貨建ての対外債務を減らし、同時に外貨準備は増えている。問題は、工業諸国の成長が衰えたことだ。
アルゼンチンは通貨価値を切り下げて、債務の削減を含めて債権者と合意するべきか? しかし、それにはコストも伴う。政府や企業の支払う金利がさらに高くなるだけでなく、資本逃避が加速するだろう。(債務の組換えは、必ずしも、民間の資本逃避を促さない。主要国の景気悪化と資本市場の衰退が問題であり、公的資金移転の不足により、IMSとの分離だけが優先される。)
Strait Times, JULY 15, 2001 SUN
Asia well placed to deal with turmoil
通貨危機がドル安に波及しても、円の弱さがアジア地域に影響して、ドル価値を大幅に下げない。(変動制となったアジアはドル安も円安も望まない。アジアの二極通貨体制は安定性を増すだろうか?)
New York Times, July 15, 2001
RECKONINGS: A Latin Tragedy
財政負担を軽減する切り下げなしのデフォルトでは、アルゼンチン経済にとって何の解決にもならない。他方、隣国ではデフォルトを回避するための切り下げが好まれるだろう。カヴァロの選択肢はますます狭められていく。
Trouble in Argentina May Help Other Emerging Markets
危機が沈静化できれば、メキシコとブラジルには資本が戻るかもしれない。新興市場の内部で差別化が起こり、投資家は良好な投資国を選別するようになるだろう。健全な経済政策、すなわち変動レート、インフレ抑制、財政支出管理、などが重要である。アルゼンチンからの感染は過去の例と同じではない。(新興市場に特化した投資分析や投資手段の開発が必要ではないか?)
ただし、世界不況とアメリカの後退が続くうちは、投資化が慎重になるのは避けられない。
Financial Times, Tuesday July 17 2001
Argentina wobbles
金曜日の夜、アルゼンチンの金利はオーヴァーナイトで300%に達した。アルゼンチンのカレンシー・ボードが失敗したのは、公的部門の赤字が管理できなかったからである。インフレ抑制に成功したために、低下した金利を悪用して、公的部門の債務は昨年GDPの53%にまで増加した。それが投資家の不信を招き、金利が上昇して、利払いによる債務増加を繰り返した。(それは必ずしもすべて彼らの責任ではない。53%は法外な水準ではないし、日本に比べたらはるかに健全である。)
危機の感染はファンダメンタルズが悪化したからではなく、主要国の投資家がリスクを嫌うようになったからであり、新興市場への資本流入が少ない分、IMSが危機に巻き込まれることはない。1996年には3360億ドルもあったヘッジ・ファンドによる資本流入額は、昨年は半分の1680億ドルであった。
Bloomberg, 07/16
Argentine Bankruptcies May Rise as Recession Deepens
アルゼンチンでは商店や企業の倒産が増えている。金利上昇や政府支出削減のような、国内の不況を強めるような政策は維持できない。債務削減と長期化について債権者と合意すべきである。
Argentine Politicians in Denial Deepen Crisis: Tom Vogel
アルゼンチン政府が惜しむべきは、まだ景気の良かった数年前に、財政支出を削っておけば、こうした自体は避けることができた、という点である。ところが、1993年第一四半期から今年の第一四半期まで、政府支出は66.3%も増え、経済は20.2%しか拡大しなかった。ドル・ペッグ制は紙幣を印刷したり、通過を切り下げたりすることを禁じているのだから、政府が大幅な借入れに頼っては持続できないのである。
(景気変動に同調的な財政収支を自動的な安定化装置とするだけでなく、反循環的な調整にまで利用するしかない。輸出の低迷と金利上昇で不況が長引く中で、財政赤字を削減しはじめるのでは、すでに「遅すぎる」。)
Financial Times, Wednesday July 18 2001
How Donald Rumsfeld can save Argentina
アルゼンチンの危機がメルコスールの不安定化につながれば、アメリカにとっても無視し得ないだろう。苦境を脱すにはアルゼンチンがペソを切り下げて輸出を増やすしかないが、ドル化した経済では金融危機を避けられない。インドネシアが変動制に移行した際には、20%も減価しないだろうと経済学者は予想したが、人々は債務の利払いに必要なドルを求めて80%〜90%も減価させてしまった。
アルゼンチン議会は、1933年にルーズベルト政権が行ったように、ドル建ての契約を無効にする法案を通過させるべきであろう。1933年以前、多くのアメリカの契約は金価値保証が付いていたが、ルーズベルト政権は金に対するドルの切り下げによる金融的な困難を解消するために、それらを無効にした。
アルゼンチンがもしそのような決定を行えば、それは世界的な影響をもたらすだろう。アルゼンチンの銀行はその4分の3以上がすでにスペインや香港、アメリカ、その他の資本によって所有されている。アルゼンチンの金融システムは、こうした外資の参加が無ければ、とっくに破綻していたのである。
危機がブラジルに波及し、両国で軍事政権が復活する可能性も無いとは言えない。6ヶ月前までは誰も疑わなかったドル化への移行を、カヴァロの登場によって否定してしまった。しかし、アルゼンチンの悲劇は、アメリカにとっての地政学的な重要性をアルゼンチンが占めていないことである。アメリカがメキシコ、韓国、ロシア、そして最近ではトルコの救済に加わったのは、それが安全保障上の重要性を意味したからである。他方、インドネシアやタイは救済しなかった。
アルゼンチンの安定化に対するアメリカの関与を市場に確信させるには、グリーンスパンでもオニールでもなく、ラムズフェルド国防長官が南米諸国の安定に責任を持つことであろう。ペンタゴンは今、ミサイル防衛網で必要な南半球の監視基地を探している。伝統的なアメリカの同盟諸国に比べて、アルゼンチンが有望な候補地となっている。
(対ドル固定制からの離脱をIMSが受け入れる条件を示して、それを公式に支援するなら、アルゼンチンの金融危機は回避される。特に、アメリカが安全保障上の重要な関心を示して、市場の不安を一掃できれば、メルコスールの安定化とアメリカの市場拡大とは取引できる。)
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New York Times, July 17, 2001
The Best Investment in Helping Poor Nations
By PAUL H. O'NEILL
12億以上の人々がまだ一日当たり1ドル以下で生活している。世界銀行やその他の多角的な国際開発銀行は彼らの生活水準を高める上で決定的に重要である。
今日、ブッシュ大統領は、私たちが発展と繁栄をどのようにして世界の他の部分に拡大するか、について演説する。貿易の拡大が利益をもたらすだけでなく、開発戦略をより経済成長に焦点を絞ったものに転換しなければならない。
開発銀行をもっと効率的にする必要がある。第一に、彼らは発展途上の世界で生産性上昇を支援しなければならない。貧しい国々と豊かな国々との違いは、結局、労働生産性の格差によるものだ。それゆえ、開発銀行はまず最初に人的資本の形成、すなわち教育に、もっと投資しなければならない。
開発銀行はまた、物的資本に関しても正しい投資を勧めるべきである。歴史が示すように、農業への投資と、競争的で民間に所有された製造業の成立が経済発展の鍵である。投資は、競争的な市場で、本当の需要に対して生産することに向けられるべきだ。世界的に過剰な部門で投資を促してはならない。
開発銀行は、政府の健全性を高め、公的部門の効率的な運営を指導できる。こうした基準を満たせない政府への融資は行うべきではない。また、債務の累積につながることを避けて、本当に有益な分野では援助がもっと活用されるべきだ。そして、民間資本市場で資金調達できない諸国を助けて、彼らが市場に参加できるようになれば、市場金利で融資しなければならない。
最後に、開発銀行自身がこうした目標の達成についてより厳格な自己評価を行わなければならない。
(コメント)
世界不況の打開策は、その一つとして、開発世界への投資を含んでいます。ブッシュ政権の関心が人権や民主主義ではなく、成長の持続と安全保障にある以上、オニール財務長官の真意もそこにあると思います。
貧しい人々が、世界貿易に参加するだけでなく、生産性を高めて、しかも正しい分野に投資することを開発銀行が支援します。正しい分野とは、世界の市場に照らして、過剰な生産設備や政府の介入を排除して、競争的な市場が示す分野です。開発銀行が初期の人的・物的資本の形成を支援し、資本市場との仲介や援助の配分機能を果たすのでしょう。
オニール長官は、他方で、新興市場の通貨危機を鎮めることや、主要国間の景気拡大策や保護主義の抑制を調整し、ドル高を維持することにも責任を負っています。開発戦略の転換も、その一部として評価しているはずです。
Financial Times, Thursday July 19 2001
A limited cure for recession
Samuel Brittan
世界経済の後退がどれくらい深いものか、誰にも分からない。
世界が1914年以前の投資主導型景気循環に戻った、というある程度の合意が形成されている。しかし、伝統的な景気循環の性格については二つの考え方がある。一方の論者は、不況を生産物や労働力への需要の減少とみなす。それは支出を増やすことで是正できる。他方では、もっと悲観的に、不況をそれ以前の放縦さに対する報いとみなす者も居る。
需要型思考は、支出を増加させる政策で経済を趨勢的な成長率に戻すことができると考える。こうした理解はマネタリストにもケインジアンにも共通している。金融政策と財政政策の相対的な重要性、予測の困難さ、ルールと裁量に関して違いがある。
他方、悲観的な考え方によれば、それに先立つ過剰な投資が是正されるまで、持続的な景気回復は不可能である。そのもっとも尊敬される学派はオーストリア学派である。オーストリア学派にもいろいろあって、シュンペーターに従う人々は経済成長の源泉を一連の革新が起きることに見出す。革新の爆発はその後の反動をもたらし、それは時代遅れの経済手段を一掃する「創造的破壊」を意味する。
また、ミーゼスやハイエクに従う人々は、投資ブームが社会の恒久的な貯蓄水準を越えてしまったこと、それゆえ過度に資本集約的な投資が行われていることに問題を見る。完全な景気回復のためには、こうした間違った投資を是正しなければならない。しかし、ハイエクは「二次的な不況」を防止する意味で拡大的な政策を支持した。
重要な点は、消費や所得の累積的な減少をもたらす過程は回避できる、ということだ。過度の投資が含まれる可能性がある、住宅以外への投資額は、近年のアメリカのGDPにおいて約13%を占めた。そして個人消費が67%、政府支出は17.5%を占めた。それゆえ、たとえ投資ブームが失われても、消費と政府支出を促すことで不況を緩和できるはずである。
リフレーション政策の上限は、新しい株式市場のブームや持続不可能なニュー・エコノミー投資を再現しないことである。今、こうした危険はほとんど無い。問題は、中央銀行や政府が安定化の手段としてどの程度消費を促せるか、である。労働者や消費財の不足が現れ、インフレ圧力が再現すれば、その限界が示される。また、景気の下降局面では債務と貯蓄の減少が消費を制約する。アメリカの民間部門の貯蓄不足と、経常収支赤字の反面である対外借入は、すでに歴史的な水準に達している。それがもう一つの上限である。
Bloomberg, 07/18 17:00
Thailand's Bank Rescue: Good Idea Going Nowhere?
By Patrick Smith
タクシノミクスを成功させる鍵は株式市場、特に銀行株の上昇であり、そのために銀行の不良債権NPLsをタイ資産管理公社TAMCを活用することである。しかし、TAMCやタクシンには誠実さの欠ける点がある。TAMCは誰が経営し、どの銀行の資産を購入するのか? 資産の売却に関する外国企業の参加は見送られ、購入計画は国営銀行を除いて遅れている。
タクシンは一方でポピュリスト的政策を打ち出し、国民の支持を得た。排外主義的な発言で外国企業や投資を脅かす一方で、ハイテク投資や成長の回復をもたらす資本流入には期待している。TAMCはタイ経済の回復にとって正しい対応である。しかし、そのメカニズムは国民にも分からないままである。
Chicago Tribune
Argentina, don't wait for bailout
July 20, 2001
アルゼンチンの危機の影響が懸念され、デモやストライキが続いてデ・ラ・ルーア大統領の辞任も噂されている中で、アメリカが救済に動くと期待する者も居る。しかし、アルゼンチンの構造改革が進むまでは、救済策は単に次の救済までの時間稼ぎに過ぎない。
問題の根本には、1930年代にまでさかのぼる、政府のたなぼた式支出と経済思想にある。1980年代・90年代の民営化も、もっぱら財政赤字の穴埋めに使われた。1991年にドル化の魔法でインフレを抑制したが、アルゼンチンの製品は競争力を失った。そして政府の支出削減は再び延期されたのである。
デ・ラ・ルーア大統領は、財政支出の根本的な転換しか解決策は無い、と理解したようである。しかし、それが実現できるか、と言うと、国内政治がそれを阻む。カヴァロは歳出削減によって労働者の怒りを買い、娘の結婚式でも抗議にあった。
アルゼンチンの経済破綻は神の決めたことではない。それは人間による、特に弱腰の指導者と目先のことしか考えない追従者たちによって犯された失敗による。その解決策はアルゼンチン自身にあり、アメリカによる救済ではない。
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The Economist, July 7th 2001
East Asia falling (again)
あなたはひどい風邪から直ったばかりである。仕事に戻る前に、医者からタバコをやめなさいと注意され、ジムに通っている。それでもチキン・ポックス(水疱瘡)に罹った。東アジアのかつてのタイガーたちはそう感じているに違いない。今回のヴィールスは通貨投機が広がったのではなく、アメリカの情報技術投資ブームが崩壊したことであった。
東アジアの小国は世界でも最も開放的な経済を持っている。その輸出は、平均でも、GDPの半分を占める。しかも、なお悪いことには、IT設備の生産に特に大きく依存している。投資ブームの崩壊がアメリカ経済の落ち込みを限定できたのは、ある意味では、不況の一部をアジアに輸出したからである。
1990年代後半のアメリカのブームは、アジアの通貨危機後の大幅切り下げによる輸出増加と、予想以上に急速な経済再建と組み合わさっていた。国内需要は輸出に比べて立ち遅れていた。その結果、東アジア経済は外部への依存を異常に高めてしまったのだ。1996年に比べて、韓国は30%から45%に、タイは39%から66%にまで、輸出への依存が高まった。それゆえアジアは外部の不況に非常に弱くなっていたのである。
しかし、経常黒字を出して外貨準備を増やし、為替レートを固定する政策も放棄したアジアでは、通貨危機が波及する恐れは小さい。しかし今日、感染は別の経路でやってくる。IT設備のアウト・ソーシングをアメリカ、日本、EUの企業が活発にアジアで行っている。こうした供給経路で不況に感染している。世界貿易量は1980年代に比べて90年代に一層急速に拡大した。アジアは市場統合の極端な例であった。世界の景気循環は貿易量の増加によって当然もたらされる。
グローバリゼーションへの反対を唱えるのではなく、アジアが約束した構造改革を行わず、国内需要を回復しないまま輸出に過度に依存してきたことを反省すべきだ。もはや不良債権に苦しむ銀行部門を刺激しても回復は見込めない。政府は貿易自由化を遅らせるようとする強い圧力を受けている。しかし、むしろ貿易の多様化をはかるべきであろう。アジアは互いに貿易し、中国との取引を拡大することで、アメリカへの依存を減らせる。中国は彼らの脅威ではなく、新しい成長のエンジンにもなるのである。
不況が政治家たちを改革から後退させることが、現在、もっとも深刻なリスクである。