今週の要約記事・コメント

7/23-28

IPEの果樹園 2001

7月18日の日経新聞朝刊で、イングランド中央銀行理事チャールズ・ビーン氏は、日銀が量的緩和目標を導入し、それをデフレ解消まで続けるとした現在の方針を支持しました。しかし、金融政策が現状では「弱い政策」であるとし、一層の量的緩和には言及しませんでした。財政政策も金融政策も効果が無いとすれば、日本はどうやって「構造改革」の痛みを和らげれば良いのでしょうか? 

ビーン氏は「貯蓄率を下げて消費を促す一種の創造的な政策」を薦めます。「異端の政策ではあるが、貯蓄課税の強化で財政収入を上げると同時に消費支出の拡大を誘うような政策も考えられる」と。

えっ! これ以上、貯蓄に税金かけてどうするの・・・!? そんな悲鳴が聞こえました。確かに、経済学というのは、ときに、現実感覚を無視しています。すでに金利を奪われ、税金まで課された家計に対して、貯蓄を止めなければ税金をもっと取るぞ、という政策を政府が提唱すれば、反感を買うでしょう。

しかし、金利をゼロにしたり、公的資金を導入したりして、日銀や政府が銀行と企業を救済し続けているお金も、結局、家計から非効率な形で債務の維持に浪費されているのです。貯蓄に課税すると同時に消費に対して減税したり、家計による投資に対して優遇税制を導入したり、要するに、預金を引き出して消費や投資に振り返れば増税されない仕組みを作れば良いでしょう。銀行や政府によってではなく、消費者が自分で商品を買い、あるいは投資することで、生き残るべき企業を選別し、有望な新規事業を直接支援するのです。

他方、719日の夕刊に載った「世界不況の打開策」という小論は、一種の世界経済会議に期待するものでした。米国主導のケインジアン政策を採用する、と言うのですが、私は賛成できませんでした。その実現可能性が乏しいだけでなく、アメリカの不況や国際通貨危機の性格が、ケインジアン政策の前提する有効需要の不足より、主として供給側の条件から生じていると思うからです。

ただし、アルゼンチンにはケインジアン型の経済政策を可能にするような国際支援を組織してほしいです。そうすれば、新しい国際通貨制度と世界不況の打開策につながるかもしれません。国際資本移動が浮動的であれば、基本的な経済政策や構造改革の健全性を図る基準は通貨市場の発作的な危機やその波及によって判定されてはならないでしょう。

金融政策と為替レートがますます政府の管理や実物経済の調整から乖離していく中で、政治的な統合が不十分な世界でも、緊密な財政的支援と安定化条件に関する多角的合意が求められるでしょう。それがブッシュ政権のミサイル防衛構想に基地を提供する、という偏った政治的目標にとどまらず、世界の政治経済秩序を安定化し、円滑な調整を促す条件の政府間協議へと深まることが、繰り返される通貨危機の帰結ではないでしょうか?

他方、相変わらず分からないのは日本の地価です。日本の住宅事情や農業が今後どうなるのか、既得権の絡む土地問題に、住宅・雇用の地方分散と都市近郊の農業や畜産業を再生するような、希望の持てる長期の改革を提唱する政治家が現れてほしいです。

炎暑の都市を脱出して、週の半分は農場や牧場の仕事に汗を流し、涼しい縁側でスイカを食べる生活に、私はあこがれます。

アルゼンチン通貨危機とその国際的波及について、以下の記事から、国際通貨制度に関する症例の観察と診断を集めます。(私見は括弧で括ります。)

Financial Times, Thursday July 12 2001

Sell-off hits emerging markets

Argentina concerns cause ripples

Editorial comment: Emerging crisis

Bloomberg, 07/11 16:19

Argentines Switch to Dollars as Currency Risk Climbs (Update2)

New York Times, July 11, 2001

Latin American Markets Ravaged by Argentine Woes

Financial Times, Friday July 13 2001

Latin Americans suffer as storm abates

New York Times, July 12, 2001

Argentine Debt Creates Fallout That Is Wide

Washington Post, Thursday, July 12, 2001; Page E01

Argentina's Woes Spur Fears of New Crises

Financial Times, Saturday July 14 2001

US and IMF talk down extra aid for Argentina

Emerging markets settle despite Argentinian fears

Bloomberg, 07/13

Chance to Sell Yen Seen as Argentine Debt Tumbles: Outlook

Argentina's Domingo Cavallo Legend Gets Tarnished (Update3)

New York Times, July 14, 2001

No Bailout Is Planned for Argentina

Washington Post, Friday, July 13, 2001; Page E01

Latin Turmoil Deepens Argentina's Crisis Threatens Already-Troubled Neighbors

Washington Post, Saturday, July 14, 2001; Page E01

Chances of New Global Crisis Played Down, but Risks Remain

Strait Times, JULY 15, 2001 SUN

Asia well placed to deal with turmoil

New York Times, July 15, 2001

RECKONINGS: A Latin Tragedy

Trouble in Argentina May Help Other Emerging Markets

Financial Times, Tuesday July 17 2001

Argentina wobbles

Bloomberg, 07/16

Argentine Bankruptcies May Rise as Recession Deepens

Argentine Politicians in Denial Deepen Crisis: Tom Vogel


Financial Times, Wednesday July 18 2001

How Donald Rumsfeld can save Argentina

New York Times, July 17, 2001

The Best Investment in Helping Poor Nations

By PAUL H. O'NEILL

12億以上の人々がまだ一日当たり1ドル以下で生活している。世界銀行やその他の多角的な国際開発銀行は彼らの生活水準を高める上で決定的に重要である。

今日、ブッシュ大統領は、私たちが発展と繁栄をどのようにして世界の他の部分に拡大するか、について演説する。貿易の拡大が利益をもたらすだけでなく、開発戦略をより経済成長に焦点を絞ったものに転換しなければならない。

開発銀行をもっと効率的にする必要がある。第一に、彼らは発展途上の世界で生産性上昇を支援しなければならない。貧しい国々と豊かな国々との違いは、結局、労働生産性の格差によるものだ。それゆえ、開発銀行はまず最初に人的資本の形成、すなわち教育に、もっと投資しなければならない。

開発銀行はまた、物的資本に関しても正しい投資を勧めるべきである。歴史が示すように、農業への投資と、競争的で民間に所有された製造業の成立が経済発展の鍵である。投資は、競争的な市場で、本当の需要に対して生産することに向けられるべきだ。世界的に過剰な部門で投資を促してはならない。

開発銀行は、政府の健全性を高め、公的部門の効率的な運営を指導できる。こうした基準を満たせない政府への融資は行うべきではない。また、債務の累積につながることを避けて、本当に有益な分野では援助がもっと活用されるべきだ。そして、民間資本市場で資金調達できない諸国を助けて、彼らが市場に参加できるようになれば、市場金利で融資しなければならない。

最後に、開発銀行自身がこうした目標の達成についてより厳格な自己評価を行わなければならない。


Financial Times, Thursday July 19 2001

A limited cure for recession

Samuel Brittan

世界経済の後退がどれくらい深いものか、誰にも分からない。

世界が1914年以前の投資主導型景気循環に戻った、というある程度の合意が形成されている。しかし、伝統的な景気循環の性格については二つの考え方がある。一方の論者は、不況を生産物や労働力への需要の減少とみなす。それは支出を増やすことで是正できる。他方では、もっと悲観的に、不況をそれ以前の放縦さに対する報いとみなす者も居る。

需要型思考は、支出を増加させる政策で経済を趨勢的な成長率に戻すことができると考える。こうした理解はマネタリストにもケインジアンにも共通している。金融政策と財政政策の相対的な重要性、予測の困難さ、ルールと裁量に関して違いがある。

他方、悲観的な考え方によれば、それに先立つ過剰な投資が是正されるまで、持続的な景気回復は不可能である。そのもっとも尊敬される学派はオーストリア学派である。オーストリア学派にもいろいろあって、シュンペーターに従う人々は経済成長の源泉を一連の革新が起きることに見出す。革新の爆発はその後の反動をもたらし、それは時代遅れの経済手段を一掃する「創造的破壊」を意味する。

また、ミーゼスやハイエクに従う人々は、投資ブームが社会の恒久的な貯蓄水準を越えてしまったこと、それゆえ過度に資本集約的な投資が行われていることに問題を見る。完全な景気回復のためには、こうした間違った投資を是正しなければならない。しかし、ハイエクは「二次的な不況」を防止する意味で拡大的な政策を支持した。

重要な点は、消費や所得の累積的な減少をもたらす過程は回避できる、ということだ。過度の投資が含まれる可能性がある、住宅以外への投資額は、近年のアメリカのGDPにおいて約13%を占めた。そして個人消費が67%、政府支出は17.5%を占めた。それゆえ、たとえ投資ブームが失われても、消費と政府支出を促すことで不況を緩和できるはずである。

リフレーション政策の上限は、新しい株式市場のブームや持続不可能なニュー・エコノミー投資を再現しないことである。今、こうした危険はほとんど無い。問題は、中央銀行や政府が安定化の手段としてどの程度消費を促せるか、である。労働者や消費財の不足が現れ、インフレ圧力が再現すれば、その限界が示される。また、景気の下降局面では債務と貯蓄の減少が消費を制約する。アメリカの民間部門の貯蓄不足と、経常収支赤字の反面である対外借入は、すでに歴史的な水準に達している。それがもう一つの上限である。


Bloomberg, 07/18 17:00

Thailand's Bank Rescue: Good Idea Going Nowhere?

By Patrick Smith


Chicago Tribune

Argentina, don't wait for bailout

July 20, 2001

アルゼンチンの危機の影響が懸念され、デモやストライキが続いてデ・ラ・ルーア大統領の辞任も噂されている中で、アメリカが救済に動くと期待する者も居る。しかし、アルゼンチンの構造改革が進むまでは、救済策は単に次の救済までの時間稼ぎに過ぎない。

問題の根本には、1930年代にまでさかのぼる、政府のたなぼた式支出と経済思想にある。1980年代・90年代の民営化も、もっぱら財政赤字の穴埋めに使われた。1991年にドル化の魔法でインフレを抑制したが、アルゼンチンの製品は競争力を失った。そして政府の支出削減は再び延期されたのである。

デ・ラ・ルーア大統領は、財政支出の根本的な転換しか解決策は無い、と理解したようである。しかし、それが実現できるか、と言うと、国内政治がそれを阻む。カヴァロは歳出削減によって労働者の怒りを買い、娘の結婚式でも抗議にあった。

The Economist, July 7th 2001

East Asia falling (again)

あなたはひどい風邪から直ったばかりである。仕事に戻る前に、医者からタバコをやめなさいと注意され、ジムに通っている。それでもチキン・ポックス(水疱瘡)に罹った。東アジアのかつてのタイガーたちはそう感じているに違いない。今回のヴィールスは通貨投機が広がったのではなく、アメリカの情報技術投資ブームが崩壊したことであった。

東アジアの小国は世界でも最も開放的な経済を持っている。その輸出は、平均でも、GDPの半分を占める。しかも、なお悪いことには、IT設備の生産に特に大きく依存している。投資ブームの崩壊がアメリカ経済の落ち込みを限定できたのは、ある意味では、不況の一部をアジアに輸出したからである。

1990年代後半のアメリカのブームは、アジアの通貨危機後の大幅切り下げによる輸出増加と、予想以上に急速な経済再建と組み合わさっていた。国内需要は輸出に比べて立ち遅れていた。その結果、東アジア経済は外部への依存を異常に高めてしまったのだ。1996年に比べて、韓国は30%から45%に、タイは39%から66%にまで、輸出への依存が高まった。それゆえアジアは外部の不況に非常に弱くなっていたのである。

しかし、経常黒字を出して外貨準備を増やし、為替レートを固定する政策も放棄したアジアでは、通貨危機が波及する恐れは小さい。しかし今日、感染は別の経路でやってくる。IT設備のアウト・ソーシングをアメリカ、日本、EUの企業が活発にアジアで行っている。こうした供給経路で不況に感染している。世界貿易量は1980年代に比べて90年代に一層急速に拡大した。アジアは市場統合の極端な例であった。世界の景気循環は貿易量の増加によって当然もたらされる。

グローバリゼーションへの反対を唱えるのではなく、アジアが約束した構造改革を行わず、国内需要を回復しないまま輸出に過度に依存してきたことを反省すべきだ。もはや不良債権に苦しむ銀行部門を刺激しても回復は見込めない。政府は貿易自由化を遅らせるようとする強い圧力を受けている。しかし、むしろ貿易の多様化をはかるべきであろう。アジアは互いに貿易し、中国との取引を拡大することで、アメリカへの依存を減らせる。中国は彼らの脅威ではなく、新しい成長のエンジンにもなるのである。

不況が政治家たちを改革から後退させることが、現在、もっとも深刻なリスクである。