今週の要約記事・コメント

7/9-14

IPEの果樹園 2001

かつてイギリスのサッチャー首相がゴルバチョフを「新しいタイプの指導者である」と西側で最初に見抜いたように(ただし、ソビエト連邦は崩壊しました)、ブレア首相は小泉氏を「日本が必要としている新しい指導者だ」と賞賛しました。ミレニアム・ドームの失敗に苦しみ、口蹄疫の発生で農村部と観光業に甚大な被害を出したイギリスで、それでも選挙を戦い勝利した「生粋の政治家」であるトニー・ブレアが小泉首相のスタイルを賞賛するのは、確かに、彼と共通するものがあるからでしょう。(ブレアは労働党を変え、イギリスを変えました。)

森嶋通夫氏の『政治家の条件』(岩波新書)を小泉首相も読んでくれたら良い、と思います。この本が面白いのは、森嶋氏の明晰な思索とともに、多分、イギリスの洗練されたメディアが持つ優れた分析力と論争精神によるのでしょう。

ふつう、経済学者は選択肢を示すだけで、決定はしません。それでも経済学者は、各選択肢にコストや賞味期限が書いてあるかのように、政治家や国民を説得します。森嶋氏はウェーバーに従って、政治家の結果責任を重視します。政治家は信念に従って行動しつつも、結果責任を負わねばなりません。選挙は、その信念によって新しい指導者を選ぶと同時に、既存の政治家たちに結果責任を問うことなのです。

しかし、政治家が信念に酔い、あるいは利権を私物化して省みないのは、ニュー・エコノミーの覇者たちに反トラスト法が必要であるのと理由と同じかもしれません。すなわち、ネットワーク効果や官僚・業界との癒着、政治における規模の経済、です。

「小泉人気」で自民党が勝つだけの選挙では、今後の政情に旧弊への回帰を疑わせます。むしろ、こう考えてはどうでしょうか? @野党の党首は小泉氏に勝てないでしょう。そこで、各党の指導者は引退し、30代・40代の政治家を中心に動いてはどうでしょうか。A小泉氏には、方針を明らかにしてから、自民党を分割してほしいと思います。それは中国共産党が市場経済の成長に伴って複数政党化すべき情勢と似ています。また、B官僚は情報を完全に公開しなければなりません。国民の利益を守る優秀な官僚ほど、それを願っているでしょう。

もし小泉首相がハード・ロックを好きなら、この週末は、森嶋通夫の本を読むより、ジェームス・ボンドのシリーズ「トゥモロー・ネバー・ダイ」を観たかもしれません。あんなに「女たらし」で銃弾を撃ちまくる政治家は困りますが、<政治的信念>を追求し、的を射る<言葉>を発する政治家がいたら、日本のジェームス・ボンドになれるでしょう。

民主主義国家で指導者が80%もの支持を得るのは、戦時を除いてありえない、と政治評論家の森田氏は憤慨していました。もちろん、政治家は国民にとってスターである必要は無く、むしろ国民がその意志を表し、実現するための手段なのです。小泉首相が残す若手政治家の躍進と野党の革新能力に期待します。

言い換えれば、「自民党にとって良いことが、日本にとって良いことだ」というスローガンを、私は決して信じないのです。

Washington Post, Friday, June 29, 2001

Japan's Window

Clyde V. Prestowitz

今までアメリカの日本経済論は、それが市場型資本主義であると前提していた。この前提が間違っていたために、経済学者たちは標準的なマクロ経済学の手段で日本経済の再生を唱え、通貨供給の増大や財政赤字拡大を支持してきた。しかし、それは巨額の財政赤字と史上空前の国債残高をもたらし、銀行の不良債権をさらに増加させて、再び不況に陥りつつある。

日本経済は資本主義的な市場経済ではないのだ。それは厳しく規制され、保護され、独占状態が支配的で、むしろ旧ソビエト経済に似ている。これほど歪んだ経済で、議員たちの取り合う財政赤字は経済の生産性を損なう建設会社に浪費され、景気刺激とはなりえなかった。同じように、金融緩和策も一時的に需要を増やすが、経済から価値を奪っている企業の延命策に使われて、より長期の苦しみをもたらした。


Financial Times, Monday July 2 2001

Editorial comment: Global antitrust

欧州委員会が最終的にGEのハニーウェル買収を拒否するとしても、この論争はグローバル・ガバナンスの前途に突き刺さった深刻な問題として残る。5年前のボーイング社とマクダネル・ダグラス社の合併以上に、競争政策を実施する監督局の意見対立が鮮明になった。

市場がますます世界化し、さらに多くの国が競争政策を監督しようとしているために、問題はさらに増えるだろう。もしアメリカとEUが合意できないのであれば、新しい当局が合意するとは思えない。世界的な監督局を設立することは、政治的に実現不可能なほど、各国の主権を移譲させねばならない。それはまた地方市場から切り離され、正統性が曖昧になる。ブラッセルの決定を恨んでいるアメリカの政治家たちが、超国家機関の支配を認めるはずがない。問題が異なった解釈や経済理論から起きているなら、各国の調和とWTOルールの浸透を図ることが、最善の解決策であろう。

監督当局が対話と情報交換を通じて世界的に協力し、新しい世界競争政策フォーラムを設立する、という実際的な提案は有益である。特定の国が反トラスト法を海外に本拠を置く企業が含まれるケースに適用する際には、自制が求められる。その介入が自国の市場に対する脅威として本当に支持されるかどうか、証明する必要がある。適切な説明責任こそ、最善のセーフ・ガードである。


Washington Post, Sunday, July 1, 2001; Page B07

Rethinking Asia in India's Favor

By Jim Hoagland

ブッシュ政権のミサイル防衛構想は、インドと中国とを反目させる多くの問題に新しく追加された。しかし、アジアで最も長期に及ぶ危険な対立を、アメリカが増幅してはならない。インドと中国との対立は、地球全体の安全保障問題として、台湾海峡の危機と比べ物にならない。

中国の指導者たちは台湾問題について感情的になる。しかし、私が思うに、彼らは同時に合理的であろう。中国の経済力が強化されることで、指導者たちは平和的な統一に向けて自信を深めている。しかし、ニュー・デリーと北京の間にはほとんどゲームのルールが確立されていない。1962年に戦火を交えて以来、インドの核兵器保有や安保理拡大についても中国は反対している。

北京と台湾は、その敵意にもかかわらず、互いの対話を欠かさない。インドにはそれが無い。インドが19985月に核実験を行ったことで、パキスタンは中国からの支援を受け、直ちに核兵器の実験を成功させた。

インド政府は、部分的核実験停止条約に関するクリントンの説得に耳を貸さず、パキスタンとともに核実験に対するアメリカの一方的制裁を招いた。アメリカは中国に賛同し、インドの安保理参加を否定しさえした。日本とインドを安保理に入れないことは、中国の一貫したアジア支配戦略である。

ここにブッシュ政権の新しい対インド外交が始まった。制裁は解除され、インドとの新しい戦略的関係を求めたのだ。中国はこの変化に注意しているし、インドはブッシュ氏のミサイル防衛構想に好意的になった。中国は核兵器の増強と高度化を加速し、パキスタンへの支援を強めるだろう。


Financial Times, Tuesday July 3 2001

Ireland's example to the east

Danny McCoy and John McHale

アイルランドはEUにおける小国経済の成功例である。アイルランドの経済規模はEU全体の1%以下である。しかし、この20年で、生活水準はEU平均まで上昇した。

アイルランドがニース条約を否決したのは、反対派が拡大問題以外の論点で有権者の注意を惹いたからである。例えば、アイルランド国民は今年の予算編成に欧州委員会が譴責、もしくは「勧告」、を与えたことに不満であった。すべての加盟国に同じ規則を当てはめることについて、論争は決着していない。

もちろんクラブはルールを必要とする。EUの主要なマクロ経済ルールは「安定と成長のための協定」に定めた財政赤字と国債残高のGDP比率で示す上限である。アイルランドはこれを破っていないが、ヨーロッパ内の政策協調として、ブラッセルは急速な成長に対する適切な対応を求めた。しかし、この協定は重要な点で間違っている。成長率がEU内の先進諸国の記録によって定義されているために、安定、とは名目5%の成長を意味するのだ。

東欧や南欧の移行期にある加盟諸国が、合理的な期間で生活水準を近付けようと思えば、より高い名目成長率が必要になる。基本的な成長経路の違いを反映した形で、財政の基準を見直すべきだ。他にも、他の重税諸国に調和させるべきか、EUから多くの補助金を受け取ってきたのだから、財政黒字で何かすべきか?

この税制はアイルランドの経済戦略の核心にある。厳しい数年間の国際競争に耐えた末に、アイルランドの歴代の政府は低税率と規制緩和によって投資環境を改善し、この国に直接投資をひきつける磁石とした。単一市場、単一通貨も重要であったし、EUからの巨額の財政移転も成長を助けた。しかし、アイルランドの成長はEUの補助金で行われた、というのは単純すぎるし、大きな間違いを含む。


Bloomberg, 07/02 14:06

Energy Is So Many Things to So Many People: Caroline Baum

By Caroline Baum

それは増税だ! いやインフレを招く! いや、それこそ景気回復へのスーパー・エネルギーだ・・・!?

エネルギーは、マクロ経済学において特殊な地位にある。なぜならエネルギー需要は短期的に非弾力的であるから、価格が上昇すると、消費者は他の財やサービスへの支出を減らすことになる。高エネルギー価格に直面した消費者には二つの選択肢がある。消費を減らすか、あるいは借金をして消費を維持するか、である。

ノーベル賞受賞者のミルトン・フリードマンが示した恒久所得仮説が正しければ、消費者は現在の消費を長期の期待所得で決めている。だから消費者は借り入れるだろう。例えば、昨年冬に工場が閉鎖された自動車労働者は、在庫が解消したら仕事に戻れると期待している。だから現在の生活スタイルを維持するために借金する。商務省の統計が示すように、彼らは実際そのように行動してきた。5月の貯蓄率はマイナス1.3%にまで下がったのだ。

基本商品の価格が上昇した場合、もし消費者が借り入れを増やし、中央銀行が短期金利を下げれば、価格上昇は貨幣化される。言い換えれば、中央銀行はより高い価格でも消費を維持できるようにする。エネルギー価格の上昇は相対価格の変化ではなく、物価水準を引き上げ、インフレをもたらす。そこで、アラン・グリーンスパンを含む経済界がエネルギー価格上昇を増税とみなした。

しかし、グリーンスパンはいつも税金と考えたわけではなかった。1115日の政策会議の後、金利は据え置かれて、インフレ・リスクが注意された。12月になって、グリーンスパンは変心した。エネルギーは西方の魔法使いから東方の錬金術師へ。

「エネルギー・コストの上昇で需要と利潤が抑制され、消費者心理も悪化した。・・・金融市場の部分的な緊張で、経済成長はさらに減速するかもしれない。」どうして、11月のインフレ的な要因が、12月には景気抑制要因となったのか?

エネルギーの高価格が消費者や投資家から石油生産者への所得移転を示すなら、それは一種の税金である。「税金は所得を再分配するだけであり、総需要を減らさない。」と、シカゴのNorthern Trust Corp.経済調査部長Paul Kasrielは書いた。石油生産者が石油利用者よりも貨幣の保有を強く望まないならば、この所得移転は需要の中身を替えるが、その量は減らさない。

先週金曜日のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に載った記事では、エネルギーが神殿に祭られた。エネルギーの価格上昇こそが経済を不況の淵に追いやったが、同じようのその価格低下は成長を回復させる、と。

金利は機能しない、石油価格なら景気を変化させられる、と思うなら、Fedを廃止してOPECに金融政策を決めてもらえばよい!


Bloomberg, 07/03 15:53

Koizumi, Japan's Gary Cooper, Charms West: William Pesek Jr.

By William Pesek Jr.

日本の小泉首相は気難しいワシントンの報道関係者を魅了し、ファッション・センスを褒められ、ブッシュ大統領にボールを投げ返した。さらに小泉氏は、経済改革案への強力な支持を取り付けた。ロンドンとパリでも喝采を浴び、彼はゲーリー・クーパーみたいだな、とレポーターに冗談を言った。クーパーは1952年の西部劇で、悪者たちをたった一人でやっつけた保安官を演じた。

日本に戻るのは、西側の指導者たちと写真を撮ってもらうよりも楽しくないだろう。日銀短観が示すように、日本の企業家たちは久しぶりの大幅な悲観に振れており、世界第二位の経済大国が不況に向かっている、というニュースが待っているのだから。

彼はこれが痛みを伴う改革であると理解しているが、問題は改革を実現するまで彼が首相であることは無いだろう、という点だ。参院選で勝っても、銀行と企業を再編すれば、すでに戦後最高の失業率とともにデフレが深まり、有権者の離反を招く。

小泉のカリスマ性が日本に希望を与えるか? このポップ・ミュージックが好きなライオン・ヘアーを自慢する人物が、ジョン・F・ケネディーのような国をよみがえらせる力を持つのだろうか?

小泉は間違いなく非凡な才能をもつ。彼は、用心深い、因習的な、面白みの無い政治家に慣れていた有権者に、新鮮な衝撃を与えた。小泉は、たとえ人気が無い意見であっても、諸問題について自分がどう考えるかを話したがる。それは彼を一匹狼の政治家にしたが、他方で、10年間も不況を繰り返し、世界経済における日本の役割が後退したことに悩む国民を勇気付けた。

小泉の「ノー・ペイン、ノー・ゲイン」(痛みなくして成長なし)アプローチは、自民党が家計の苦しみを回避し続けた姿勢と対照的である。その意味で今まで、日本の不況は企業部門にだけ問題となり、家計は免れてきた。小泉は、日本が長期的に成長を回復するには、家計も短期的には苦しまねばならない、と言う。これまでの政府が行った現状維持は、国債の津波とゼロ金利の維持という、持続不可能な戦略である。そこで小泉は、ケネディーの残した一種のマントラ(経文)にたどりついた。「あなたの国があなたにしてくれることを問うのではなく、あなたが自分の国にできることを問いなさい」と。

日本の過去の指導者たちは人前でもったいぶり、特徴を欠いていた。しかし小泉はしばしば活気に満ち、大衆の前で話すときにエネルギーを感じさせる。さらに、彼は郵便貯金が抱える莫大な資金を銀行や企業の活性化に利用しようと狙っている。不況は彼の野心を助けるかもしれない。

「私は、彼こそ今の日本が必要としている指導者である、と信じる。」イギリスのブレア首相はそう言った。しかし、小泉の政治生命は決して安泰ではない。特に経済に関して、大きな計画を掲げる首相は寿命が短い。彼はロック歌手のように人気はあるが、この国を動かす選挙で選ばれない官僚たちと協力する仕方をまだ知らない。


Washington Post, Tuesday, July 3, 2001

Antitrust Enforcement Is Alive and Well

By Steven Pearlstein

法律や経済学の分野では、1世紀以上も前に砂糖農園や石油会社の支配力を抑制するためにできた各国の反トラスト法が、ジェット・エンジンやソフトウェア、マイクロチップに基づくハイ・スピード経済にも意味があるのか、論争となっていた。しかし最近の事例は、反トラスト法が廃棄されるという見通しを強く否定した。

マイクロソフト社が市場の独占力を競争相手の撃退に悪用した、と連邦裁判所は認めた。法務省が多くの路線で競争がなくなることを懸念しているため、ユナイテッド航空はUSエアウェイの買収を延期した。EUは提案されていたゼネラル・エレクトリック社とハニーウェル社との合併を公式に拒絶した。

「反トラストの原則は十分に柔軟であり、経済的合理性を実現するために、ニュー・エコノミーの経済問題に合わせて、十分に強力である。」多くの産業で、企業が合併して独占に向かう自然な傾向が存在する。その理由として、経済学者は次の三つを指摘する。@「ネットワーク効果」、A異なる生産者に変えることの難しさ、B「規模の経済」。

最初の契約者が現れる前に製品を開発するための莫大な投資を必要とする産業では、その固定投資コストをより多くの契約者に分散させることのできる企業が圧倒的に価格競争で優位になる。この結果的な「規模の経済」は、ソフトウェアを追加的に利用する一人にかかるコストや、航空路線の乗客を一人増やす追加コストを、非常に安くする。

かつては、電話、電力、鉄道など、こうした「自然独占」の価格や活動について、政府が厳しく規制した。しかし最近では規制が緩和され、むしろ反トラスト法を守らせて消費者の利益を守っている。しかし、反トラストが妨害する活動の多くは革新を促し価格を低下させる健全な競争である、と批判する声もある。急速な革新により独占が短期間で変化し、旧式の独占反対論は役に立たない、と言われる。むしろ「蛙跳び」型の独占は経済から革新能力を奪っている、と。

アメリカ司法省とマイクロソフトの対決では、法廷が両方の議論を承認した。マイクロソフトは非合法な戦略で挑戦を退け、ソフトウェアの独占を守った。ダイナミックな産業の性格を反トラスト法の緩和と結びつける主張を退けた。しかし、同時に、法廷は、今何をすべきか判断できないことも認めた。多くのユーザーがマイクロソフトのソフトウェアによって結びついているのに、時間を逆転して競争を再開させることは望ましくない。ネットスケープは消滅してしまった。

アメリカでは、旅客航空業のように極端な規模の利益が働く分野では、掠奪的価格戦略の定義を見直すべきだ、と言われている。EUでも、規模の利益とパス・デペンデンシーがGEとハニーウェルの合併を退けた理由であった。

アメリカでは、生産者の競争よりも、消費者の利益をより重視するようになっている。


Financial Times, Thursday July 5 2001

Schorder welcomes radical reform of immigration

By Hugh Williamson in Berlin

ドイツのシュレーダー首相は、委員会が示した革新的な移民受け入れと社会的統合に関する提言を歓迎した。毎年少なくとも5万人の熟練労働者をEU外から入国させ、人口減少と熟練労働者不足に対応する、と。ドイツには730万人の外国人が住み、EUで最大の人口比を占めるが、政治家たちは長く多文化社会という自覚を拒んできた。

「近代的な移民政策はドイツを投資場所として近代化するための鍵である」と実業界は述べた。ドイツの人口8200万は2050年までに2300万人も減少する、と人口学者は予測する。5万人どころか、何十万人もの移民が毎年必要である。

(コメント)

この提言に対して、Editorial comment: Migration myths は厳しい評価を下している。年間5万人の制限付き移民受け入れなど、730万の外国人居住者と250万人の非ドイツ人雇用を抱えるドイツにとって「大海の一滴」でしかない、と。

これほど保守的な提言でさえ、賃金、所得、雇用に有害な影響をもたらすと恐怖心を抱かれている。しかし、OECDのEmployment Outlookによれば、事実に即した包括的な分析が得られる。すなわち、ほとんどすべての開発諸国でこの10年間に外国人労働者が増えているが、彼らは失業率の高い分野で就業し、しかも永住権をもたない。研究によれば、移民流入の程度は失業や低賃金をもたらしておらず、彼らは消費者として需要に貢献し、その国の雇用や所得を改善している。彼らの熟練は国民を脅かすというより、補完している。移民たちは移動を厭わず、労働市場の弾力性を改善している。

確かに、移民受け入れは家族の呼び寄せや難民を増やして、移民の数量規制を無力化する傾向がある。ヨーロッパや日本の人口減少そのものを解決できるわけでもない。しかし、真実は、移民受入国も移民たち自身と同じように受益者であり、移民送出国こそが人材流出を心配している。


Bloomberg, 07/04 03:06

What's Good for GE Isn't Good for the World: Matthew Lynn

By Matthew Lynn

「GMにとって良いことは、アメリカにとって良いことだ」と述べたのは、1950年代のチャールズ・ウィルソンGM会長であった。50年後、アメリカの産業・政治支配層は同じようなスローガンを好んでいる。「GEにとって良いことは、アメリカにとって良いことだ」と。

このスローガンは、50年前も、今も、正しくない。

EUがGEによる470億ドルのハニーウェル買収を拒否したことは、グローバリゼーションの進展と、アメリカの企業や政治家がいつでも思い通りには振舞えない、ということを教えてくれた。オニール財務長官やロックフェラー上院議員などは、EUを保護主義と非難する。しかし、EU反トラスト局のマリオ・モンティは、「大衆に間違った情報を与え、政治介入を招く(アメリカの)試みは嘆かわしい」と反論した。反トラストの訴訟は法と経済学の問題であり、政治の問題ではない、と。

アメリカからの批判は、アメリカ企業に及ぼす判決の法的根拠と、保護主義的な動機、に向けられている。GEのような企業は世界中の取引で自由に利益を上げており、反トラスト法で制約されても文句は言えない。さらに、アメリカの多くの政治家には、EUがすることは何でも、のろまなフランスとドイツの企業を猛烈なアメリカ企業から保護する脅しだ、と考える傾向がある。しかし、ヨーロッパでも保護主義は少数であり、アメリカのパット・ブキャナンみたいな人物はいない。

メキシコのトラックはアメリカの道路を走るなという国が、他国に保護主義を説教してどうなる? アメリカ人は知らないようだが、EUは自由市場のかつて無い壮大な実験である。15カ国が単一市場を形成し、そのうちの12カ国は共通通貨を採用したのだ。

The Economist, June 16th 2001

In the jaws of recession

アメリカ、EU、日本の総工業産出高は、1年前に比べて0.5%減少した。当時は、その前年に比べて6%も増加したのだ。これは12ヶ月の下落率としては今までで最大の率である。スタグフレーションへの関心も見られが、1970年代と今は違う。インフレ率ははるかに低い。

エネルギーと食糧に見られる価格上昇は他の市場に波及していないし、インフレは景気変動の遅行指数である。これから景気が悪化しつつある時期にインフレの加速を心配するべきではない。また、バブル期に行われた投資による過剰生産力が価格引き上げを許さない。だからそれらは企業利潤を圧縮するが、インフレは心配ないだろう。

(コメント)

不況を回避する点で合意はしても、世界経済の協調管理は難しいでしょう。

Financial Times, Saturday July 7 2001 に載ったFabius blames US for world slowdownBy Ed Crooks in London, Gerard Baker in Washington and Tony Barber in Frankfurt)は、フランスのファビウス蔵相がオニール財務長官の世界経済認識に異議を唱えた、と報じています。なぜなら、石油価格の上昇と並んで、アメリカは自国の経済減速が世界に不況を強制するかもしれないというのに、ヨーロッパと日本に今度は「成長のエンジン」をもっと加速しろ、と言う。しかし、ヨーロッパはアメリカよりもすでに高い成長率を実現しており、そもそもインフレを招かずに成長を維持するのは各国が独自に追及すべき目標である。アメリカが指図することではない、と。

New York Times, July 6, 2001 In Rome, O'Neill to Laud State of U.S. EconomyBy RICHARD W. STEVENSON)は、世界不況とドル高が重要な問題であるのに、アメリカとEUが多くの対立を抱えているため、G7で話し合うことも難しい、と指摘します。

『国際金融』1068号では、ロバート・ソロモンが拡大プラザ会議を開いて、強くなりすぎたドル価値の安定的な引き下げを図る可能性を示唆しています。それを促す力は、やはり、アメリカ議会の保護主義と、周辺地域から発する国際通貨危機の連鎖なのでしょう。


Argentina’s economy: Cavallo’s latest gamble

Argentina: The last tango?

ドミンゴ・カヴァロは聡明な男だが、今や藁にもすがる様子である。アルゼンチンのカレンシー・ボードは切り下げを禁じ、金融政策を拘束している。スワップにより債務危機を脱しても、財政刺激策を採るわけにも行かない。そこで、生産補助金、関税引き上げ、国内企業の競争力回復を狙った税制改革、という正統的とはいえない政策を打ち出した。しかし、切り下げ効果をまねた補助金と関税の組み合わせは、行き過ぎであったようだ。

ユーロはさらに弱まって、ドルとのパリティを待って通貨制度をユーロとドルに固定しようというカヴァロの計画は進まない。しかし、理論的には正しいように見えて、実質的な二重為替レートを持ち込むことは、非効率と汚職を蔓延させるだろう。さらに、もはやアルゼンチン・ペソとドルとの固定制も無傷ではいられない。技術的には、アルゼンチンは切り下げていないし、二重為替レートを採用してもいない。しかし、投資家はそれらを感じている。結局、貿易よりも借り入れでより大きく世界市場に依存しているアルゼンチンが、こうした賭けを行うべきではなかった。

この手段は国内で支持されている。新興市場への資本流入が枯渇している以上、これは輸出業者を励まし、国内経済に刺激を与える、実際的な政策である、と。しかし、海外の投資家はカヴァロの過剰な政策変更に困惑し、苛立っている。もしカヴァロが国内経済の回復に成功し、信認を得れば、国際社会もこれに従うだろう。しかし、当分の間、誰もアルゼンチンに資金を出そうとしない。

彼の刺激策は緊縮策と組み合わされているから、結局、それを合計してみれば、大きな違いをもたらさない。「それは危険な作戦である。国民には彼がやれる以上の刺激策に期待をもたせて、国際社会には改革を遅らせる説得を繰り返している。」


The economy: Will Bush fight for free trade?

ジョージ・ブッシュはヨーロッパで自由貿易を支持する演説を行った。アメリカは、二国間、地域、多国間で自由貿易を推進する、と。しかし、それが実行できるかどうかは、ブッシュ氏が議会に「貿易促進権限(PTA)」を承認するよう説得できるかどうかに懸かっている。

議会はますます大統領に貿易交渉を委ねることを嫌っている。民主党は労働と環境に関して貿易協定を制限したがるし、共和党はそれらが保護主義の弁解でしかないと思っている。ブッシュ氏はPTAを労働や環境から切り離すように、と主張した。しかし、ロバート・ゼーリックはもっと柔軟である。政府にはあらゆる政策選択肢が用意されている。世銀が労働や環境に関する支援を行っても良いし、ILOを強化しても良い、と。同時にブッシュ政権は、鉄鋼輸入のダンピング審査を認めることで、困難な産業界を助ける姿勢を示した。

政治的な計算は明白である。強力な鉄鋼ロビーを懐柔することは、PTAの議会通過を求めるために必要である。それは矛盾した立場である。自由貿易論者であろうとすればするほど、ブッシュ氏は国内向けに保護主義者であらねばならない。不幸にして、その戦いは今後さらに激しくなる。僅差の議会は、理由が孤立主義であれ、労働組合であれ、保護主義に傾きやすい。ブッシュ氏は自由貿易派の民主党員に働きかける必要がある。しかも、伝統的に自由貿易を支持した上院が、今や民主党に指導権を奪われている。

11月のカタールにおけるWTO総会までに、PTA承認の見込みは小さい。それはますますブッシュ氏の個人的な能力に懸かっている。彼はPTA承認にその政治力の多くを注がねばならないだろう。彼の演説が単なるレトリックで無いかどうか、分かるはずだ。