今週の要約記事・コメント
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IPEの果樹園 2001
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先週、The Economistを開いて目に止まった写真が一つありました。McVeighの犠牲者たちを記念して造られた公園で、168人の死者たちの数だけ並ぶ椅子状のオブジェの一つに腕を回し、遠くの友人に話し掛けるような少年の姿でした。ほかのものより小さいこのオブジェは、彼が忘れられない友人の姿でした。
大阪では、突然、小学校に侵入した男が子供たちを7人も刺し殺す事件が起き、連日、その報道が続きました。犯人が精神異常であるとか、それを装った残忍な男だとか言う以上に、子供の生命を奪う事件の社会的な破壊力を感じました。
他方、多くの子供たちは学校で目標を見出せず、信頼や敬意の対象を悪びれた友人たちとしか共有できません。変形した自動車やバイクで迷惑な爆音と走行を繰り返し、嬌声を挙げて<非行>を楽しむ彼らを見て、確実に、私の中でも社会的な希望や共感の土壌は失われていくと感じます。
敵兵をも助けたナイチンゲールに感謝したクリミア戦争の傷病兵たちは、修道女に油を撒かれ、避難した教会で焼き殺された多くのルワンダ住民のことを聞けば驚愕したでしょう。国際法廷がミロシェビッチを何年もかけて裁く間にも、犠牲者たちの村は内戦で焼かれ、生き残った者も失われた家屋と農地の間をさまよいます。
アジアの不戦体制を、日本は指導できるでしょうか? 子供たちの死を想うとき、私たちはこの荒廃した社会に帰属する責めを負っていると感じます。共感を失った人々の殺し合いを防ぐより、どうすれば健全な秩序や自由を、その敗者も含めて、豊かな再生の過程であると信じ合えるでしょうか?
かつてアンソニー・サンプソンは、日本が軍備を縮小した国に優先的に経済援助する方針を示したことを、大いに賞賛しました。軍需部門の拡大と市場競争に邁進する欧米先進諸国の姿に比べて、不戦体制を敷く経済大国が新しい規範となることを夢見たからでしょう。NHK・BS1「過去を問われたドイツ企業」では、100億マルクの賠償を決めたドイツ企業と世界ユダヤ人協会、アメリカ司法当局や政府の交渉過程が示されていました。グローバリゼーションのもう一つの軋轢に、日本は耐えられるでしょうか?
拡大する貧富の格差にグローバリゼーションの危険を感じて、The Economistはジョージ・ソロスやビル・ゲイツを模範とし、豊かな者が私財を社会的な目的のために投じることを<楽しみ>とするよう奨励しています。貧富の格差が拡大すれば機会の平等性が疑われ、失業者が増えれば富者たちの存在自体が悪に見えます。だから政府はすばらしい学校を建て、社会保障制度を整備し、裕福な者は地域の病院や劇場、美術館などを寄付して、無料で市民に公開したのです。
死者は何一つ生者から奪いません。しかし、彼らは真実と正義を求めて止むことがないのです。彼らを想い、共通の歴史を想うなら、私たちもまた社会を問う死者の声を聞くでしょう。靖国神社参拝と日中友好は矛盾しない、と弁解するより、たとえば、アジア各地に緑の美しい戦争記念公園を寄贈し、戦争の死者の数だけレンガを使ったオブジェのある、静かな散歩道を造ってほしいです。そして日本の小学生が毎年訪れて、アジア各地の戦没者に献花すれば、少しは死者も安らぐのではないでしょうか?
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Financial Times, Monday June 25 2001
Editorial comment: Green light for immigration
ブレアの勝利でウィリアム・ヘイグの移民・難民に対する非自由主義的な思想は後退している。しかし、このポピュリスト的な政治ゲームにおいて、労働党は決して優れているわけではない。政府は基本政策を示さなければならない。
内務省のDavid Blunkettは、アメリカ式の「グリーン・カード」導入を提唱している。これは、イギリスの抱える熟練労働者不足問題や、長期の人口減少に対して、有効かもしれない。移民は労働力の供給を補うだけでなく、経済的、社会的、文化的に利益をもたらす。
昨年、政府は労働許可証の発行制限を緩和した。移民を締め出してはいないが、それでもイギリスの政策はまだ硬直的である。グリーン・カード制は、イギリスが求める分野で一定期間の労働に従事する外国人労働者を受け入れる。雇用者は個別の労働者に許可を求めるのではなく、一定数の労働者を利用したいと申請しておけばよい。これは企業の負担を減らし、政府がより戦略的な移民政策を労働市場の条件に合わせて展開できるようにする。またイギリスはEU諸国とも政策協力できる。
合法的な移民を増やすことで、人身売買や難民枠の悪用が減ると期待される。EUの難民政策との一致を目指すBlunkett内相は、イギリスでの難民の処遇や受入数について減らすこともできる。しかし、人道的な政治家として、彼はStraw前内相の提案した難民の人権制限は受け入れないだろう。
Financial Times, Monday June 25 2001
Editorial comment: China retaliates
中国の貿易相手国は警戒すべきだ。中国政府はWTO加盟時に自国の利益を強く主張するだろう。日本が中国からの野菜等に増税したことに対する中国政府の懲罰的関税賦課が示すように、中国の官僚たちはWTO加盟が近づいたことでさらに攻撃的になりつつある。
どちらが自慢できることでもないが、日本の行動は特に非難すべきである。椎茸などに対する4月の懲罰的な関税は、技術的には、WTOのルールにも基づいていたのだろう。しかし、それは弁解の余地のないものである。日本政府は、繰り返し、自民党の支持基盤である小農家の保護要求を受け入れてきたが、今回は、特に来月の参院選挙に向けて彼らの支持を確保しておく必要があった。
経済的に見ても、日本は自分の脚を吹き飛ばした。増税された農産物輸入は、生産コストが低いために、日本の商社が投資を奨励して中国の農場で生産されたものである。彼らを処罰することは、同時に、基本的な食品を買うためにより多く支払わされる日本の消費者にも懲罰的な行為である。
この事件は小泉政権の改革姿勢をも疑わせる。日本の少しずつ減少する農業従事者が保持する政治圧力は減少しておらず、将来の世界貿易交渉で中心となる農産物自由化に不安を抱かせる。さらに、WTOのルールや規律に甚大な苦しみを覚悟しなければならない中国に対して、日本の行動は間違ったサインを送った。
WTOに加盟すれば、中国政府は国内の保護要求を強い決意で拒む必要がある。多角主義の指導者を自称する日本が、選挙のために、こうも易々と特殊利益に媚びることは、中国政府の苦労を増すばかりだ。この事件がアメリカの鉄鋼輸入阻止に向けた保護主義的な脅迫と同時に起きたことは、さらに悔やまれる。
中国に、自由市場原理を守り、世界的なルールに従って行動するよう求めるのであれば、WTOの最大の加盟国であるアメリカや日本は自ら模範を示すべきである。日本は秋までに、中国からの輸入に対する懲罰的関税を取り下げるべきだ。そうしなければ摩擦がエスカレートし、些細な経済的利益を主張したために、日中両国に、さらには世界貿易システムに、深刻な損害をもたらす。
Financial Times, Monday June 25 2001
The fungus of dissent between China and Japan
Gillian Tett
椎茸が貿易戦争の引き金になるのは珍しい。中国からの安価な農産物輸入が押し寄せたことで、日本政府は長ねぎ、畳表、椎茸に一時的な輸入関税を押し付けた。先週、中国政府はこれに報復し、日本製の携帯電話、エアコン、自動車に関税を課した。日本政府は厳しく抗議している。
それは経済的には小さな問題であるが、象徴的な意味は深刻である。日中関係における顕著な緊張をもたらすこととは別に、この問題は小泉内閣と日本が迎える重大な局面を示している。それは「日中摩擦問題」だけでなく、「日日摩擦問題」である。椎茸は、日本の伝統的な生産者が近代的な消費者の利益とぶつかった商品である。
一方の側には、長ねぎ、畳表、椎茸があり、その他の伝統的な生産者として繊維工場なども含まれる。彼らは、長年、外国からの競争を排除して、高価格で販売を続けてきた。他方の側には、流通業界や消費者がいる。彼らは高価格を支払うのが不満であり、中国からの安価な輸入品を歓迎している。
実際、中国の農民は日本の商社に勧められて耕作したのであり、こうした商社が種子を中国に供給し、日本国内の流通店のために輸入しているのである。問題が起きてから、商社や流通業界は沈黙を守っている。他方、農家や伝統的産業からの悲鳴に応えて、自民党は保護措置を採った。
しかし政府閣僚の多くは、個人的に、流通業界や商社に同情しており、輸入抑制策に驚いていた。椎茸問題は、多くの日本人が信じている、日本社会は一つのチームであり、みんなが同じ利益を共有している、という信念を動揺させている。第二次大戦後、国民は工業国として驚異的な復興を実現するために協力した。他国と競争するために誰もが一緒にがんばった。
今や、こうした連帯感は失われてしまった。国民は互いに競争していることを知った。国内にも異なった利害が存在し、単一の国家利益に集約することは難しい。10年前なら都市の消費者も椎茸を作る農民を助けただろう。しかし今、彼らは高価格だけでなく、納税者の金が地方の公共工事に支出されることに反発する。農民と都市の有権者は同じチームと思っていない。
それが日本の政治にもつ意味は重要である。合意を重視する政治の中で、今まで強力な指導者は必要なかった。こうした日本の政治システムは機能麻痺を示している。日本人が全員の同意を必要と信じる限り、システム全体に拒否権が与えられ、指導者はいなくなる。そして利益が拡散するにつれて、行動のための合意を得ることはますます難しくなる。
国民が利己的になったと嘆くだけでは解決できない。小泉首相の改革が進めば、この傾向は強まるだろう。公共支出が削減されて選別が問題となり、規制緩和で勝者と敗者がはっきりする。戦後の日本社会は「敗者」という考え方を避けてきた。椎茸を輸入する商社が沈黙を守るのは、敗者を犠牲にして儲けている、と言われない為である。国民の統一はその見せ掛けを維持している。
小泉氏は巧妙に、こうした矛盾と亀裂を超える改革案を主張している。彼は日本人の連帯意識に訴える。すなわち、戦後の復興に成功したように、日本社会は一緒にこの困難を克服しよう、と。しかし、痛みの伴う改革がはじまれば、共通利益・統一・連帯の幻想は失われる。彼が天才的な政治家であっても、安価な椎茸と幸せな農民とを一緒に賞賛することは不可能だ。
(コメント)
貿易摩擦は世界中で起きています。特に国内が不況になれば、輸出が促され、もし貿易相手国も不況であれば、確実に貿易摩擦が深刻になります。
たとえば、ELIZABETH OLSON, Preliminary Decision on a Trade Dispute, New York Times, June 23, 2001 によれば、アメリカの輸出補助金に対抗してEUが40億ドルの制裁を科すかもしれない、と伝えています。それに対して、アメリカ通商代表部のRobert Zoellickは、世界貿易システムに「核爆弾」を落とすことになる、と警告しています。
中国との貿易摩擦が深刻な不安を呼ぶのは、もちろん、中国がEUよりも重要だからではなく、中国の行動が国際ルールに従うかどうかが信用できないからです。どの国もそうであるように、中国政府にとっても国内政治が優先され、社会不安を抑えることに最重要の権限が与えられるでしょう。それは、自由貿易と矛盾しないのか? という不安がぬぐえません。
日本は、その点で、まったく見本とならない、とG.Tettは批判します。もちろん、日本の政治システムが敗者を説得できないことは重大な欠陥でしょう。しかし、利益の対立と選択、市場による結果主義だけを主張するのは間違っています。さらに、それを現実の中国にまで適用しようとするのは、イギリスが余りに遠くにあるからでしょう?
社会内部の再分配を行って、市場による資源配分の利益を公平に実現するのは政府の本質的役割です。それが日本と中国の協力や地域的な統合を必要としつつあることを、椎茸問題は示しています。他方、もし政府の能力が低く、たがいの協力も確実でないなら、自由貿易は後退して当然です。紛争処理メカニズム、常設のフォーラム、非政府組織の協力、などが重要であるだけでなく、貿易の分野や数量規制も含めた管理貿易が、企業の直接的な統合化とともに進むでしょう。アジアでは最適通貨圏より、最適自由化論が必要です。
Bloomberg, 06/24 17:02
Exxon Heads Back to Indonesia -- and to Court: Patrick Smith
By Patrick Smith
エクソン・モービル社がインドネシアのアチェ地域にあるアルン・ガス田の開発を再開する準備をしている。インドネシア政府にとって、毎月およそ1億ドルの歳入をもたらす計画であるから、これは良いニュースだ。
驚くべきことは、同時に、エクソン・モービル社がアルン・ガス田の護衛をインドネシア軍に依頼し、人権を無視した行為に関わった、とワシントンの法廷で訴えられていることだ。これもまた良いニュースである。インドネシア政府だけでなく、われわれすべてにとって。
11名のアチェ住民原告を代表して国際労働権基金(ILRF)が起こした訴訟がどうなるかではなく、人権や労働権、その他の基本的原理に関して、多国籍企業の展開に巻き込まれた地域では世界的な規制の枠組みで保護されるべきだ、という問題が重要なのだ。
スハルト政権下でも、独立運動の強かったアチェでは軍隊の残忍な行動が知られていた。合併前のモービル・オイルは1971年にアルン・ガス田を発見し、スハルトの軍隊と共生関係を育てた。訴状によれば、「インドネシア軍はアルン・プロジェクトを護衛するふりをして、アチェ住民の大量虐殺を行ったのだ」という。
健康、労働、環境基準、市民権、正義、など「すべてがグローバリゼーションに向かう」と私は思う。知的所有権や利潤送金、その他の海外投資家の権利を高める点で企業は優秀であった。しかし、彼らは他の側面を無視している、とILRFのCollingsworthは言う。企業幹部の能力を測る際には、株主の評価がすべてではない。
アメリカの裁判所には、異邦人不法行為訴訟法があるため、アメリカ企業の関わる外国人や子会社に対して、外国人が訴えることを許している。理想としてはEU型の国際調整が各国の法律に求められるが、現実との距離は大きい。だが今や、インドネシア軍の蛮行は世界的な精査を受けている。たとえ、まだ一世代かかるとしても。
New York Times, June 24, 2001
A Fast Track for Mexico
By FERNANDO MARGAIN(chairman of the Foreign Relations Committee of the Mexican Senate)and WALTER RUSSELL MEAD(senior fellow at the Council on Foreign Relations)
第二次世界大戦後、西欧、日本、スペイン、ポルトガル、アイルランド、韓国、シンガポール、台湾と、経済的奇跡が続いた。次はメキシコの番である。NAFTAが支援すれば、社会的・経済的進歩を切望する1億人のメキシコ市民も成功する。
1994年にNAFTAが発効してから、メキシコの対アメリカ向け輸出額は510億ドルから1200億ドルに増加した。しかし、インフレ調整後の賃金は15%も下落した。メキシコ国内の南北格差は拡大している。51%の国民が貧困に苦しみ、インディオを含む1790万人が一日あたり2ドル以下の極貧状態にある。メキシコ人の多くが豊かな中産階級になることは、近代的な社会と豊かな市場を約束し、アメリカやカナダと協力できる民主国家が現れ、北へ向かう移民圧力も減らすであろう。
この点で、NAFTAはEUを見習うべきだ。スペインやポルトガル、アイルランドからの貧しい移民が増加することを心配した豊かな諸国は、EUによる融資や援助、開発計画や公共工事を増やして、彼らが自国で雇用されるように支援した。北米でも同じ計画は有効である。高速道路と同様に、メキシコ全土を結ぶ環境計画に融資しても良い。三国が共同パネルを設置して、環境と労働基準に関する計画を保証すれば良い。エネルギー分野に関しても、NAFTAは協調できるだろう。
新しいNAFTAは次第に国境の開放を目指すだろう。アメリカ人は非合法移民を心配し、メキシコ人は国境をめぐる経済問題と人権を意識する。毎年、400人以上が、メキシコからアメリカへ入国しようとして死んでいる。長期的な最善の解決策は、経済発展によりメキシコで賃金上昇と雇用機会の増加が実現することである。しかし当面は、季節労働者やゲスト・ワーカーを増加させて、国境の両側で経済状態を改善させることである。
長期的には、もっと創造的な解決策もありうる。今後30年間で、1億人以上のアメリカ人、1200万人以上のカナダ人が65歳に達し、退職する。彼らが暖かくて物価も安いメキシコで退職後の生活を送ってはどうか? NAFTAの三国が協定を結び、彼らが三国のどこでも自由に住むことを保証し、アメリカがMedicareの支払いをNAFTA全域に拡大する措置を採れば、メキシコが受け入れる新しい移民に対して国境は開放される。
NAFTAの協力と支援があれば、メキシコは一世代で民主的な工業国の仲間になれる。
Financial Times, Tuesday June 26 2001
Patience, Mr Greenspan
Mickey Levy
信認は、いかなる中央銀行にとっても最高に貴重な属性である。それを得ることは難しいが、失うのは容易である。信認は、持続可能な成長をもたらす物価の安定を追及する健全な政策運営によって達成される。
日銀は、日本経済の10年に及ぶ停滞をもたらした金融政策の失敗によって信認を失った。これとは逆に、アメリカ連銀は過度の信認を受けて、アメリカが長期の成長を持続させるため、あらゆるレバーを引くよう期待されている。
ECBはまったく異なった状況にあり、参加国の対立を超えた物価安定の目標を確実に追及するという使命に徹している。ユーロ圏の景気減速に迅速な対応を怠ったとか、広報が下手で不明確だ、と批判されてきた。しかしその政策は、ある意味で日銀やアメリカ連銀よりも、高度な責任を果たしてきた。
三つの中央銀行の中でも、日銀の使命は最もはっきりしている。需要不足で停滞し続ける日本経済において、日銀はゼロ金利政策以上の刺激策を求められる。長期国債を含むさまざまな金融資産を市場で買い続けることである。小泉首相の改革プランでは、銀行の整理・再編方針が打ち出されている。これに対して、日銀が政治的な戦術として金融緩和を遅らせてはならない。
アメリカ連銀の立場は厄介なものだ。生産性上昇や株価上昇による長期の力強い成長が終わって、経済は不均等に減速しつつある。典型的な景気循環に加えて、資本支出のブームが崩壊したり、エネルギー価格が上昇したりで、構造的な調整も起きている。連銀は驚異的な金融緩和で応じたが、1990年代の堅実な政策とは対照的である。しかし、投資ブームやNasdaqの高騰が終わった反動として減少する投資に、金融政策は効果が無い。しかも市場はすでに金利低下よりもインフレ率上昇による金利引上げに関心を向けている。これ以上金融緩和を急いで金利を下げれば、その信認は失われるだろう。
ECBは、矛盾と限界を抱えたユーロ圏の経済において信認を得ようと努めてきた。ヨーロッパ経済はECBが動かしているわけではなく、それは課税や労働、規制、投資、各国語との生産性上昇などで決まる。単一通貨は各国の条件を均一にするのが目標ではなく、(むしろ互いの競争を促す)物価安定だけを目指している。
最近のユーロ下落は、ユーロ建資産の期待収益率が下がったことと、拡大するユーロ圏の機能に対する不安、労働・社会改革の遅さに対する不満に原因がある。これは超国家通貨を担うECBの宿命だ。その先輩たちが試みたように、整合的な低インフレ政策に専心し、通貨価値の引き上げなどに関わるべきではない。
Bloomberg, 06/25 17:13
Korean Won to Step Out of Japanese Yen's Shadow: Currency Focus
By Christina Soon
このコラムでは、韓国のウォンが円との密接な相関関係から外れて、今後は円安の中で増価していくかもしれない、という見方を紹介しています。
アメリカ経済の減速に対して、正しい政策対応の結果、もっとも早く回復を実現できるのは、日本ではなく韓国である。小泉首相よりも金大中大統領の方が、資本市場の投票で多数を獲得するだろう。実際、韓国の輸出は12%伸びたが、日本向けは1.3%減少した。先週、韓国に流入した17億ドルの直接投資は、すべて日本以外からであった、と。
活発な構造変化を今後も続けるアジア経済が、このままでは日本市場を中心とした経済秩序を模索するより、経済成長の高い地域、経済秩序が透明で開放的な地域をほかに求めるのは確実です。
Financial Times, Thursday June 28 2001
A productivity divide
Martin Feldstein
アメリカの生産性上昇が減速したことは、大西洋の両側で経済パフォーマンスの評価をめぐる論争を引き起こしている。1990年代後半、アメリカの労働者1時間あたりの産出は年3%で増加し、過去25年間の平均上昇率の二倍に達した。アメリカにおける生産性の急速な上昇は経済成長を加速し、企業の利潤を増やし、株価を上昇させ、税収を増やし、財政を赤字から黒字にした。経済学者や政府官僚はそれが持続すると期待したが、他方、ヨーロッパでは同様の変化が見られなかった。
アメリカの生産性上昇が遅れたことは一時的な循環であろう。しかし、根本的な経済改革無しには、生産性上昇がヨーロッパに波及することは無いだろう。もしそうであれば、アメリカとヨーロッパの生活水準格差は拡大し続けるだろう。それを評価するために、三つの問題を考える。@アメリカの生産性はなぜ急速に上昇したか? Aヨーロッパはなぜ同じような生産性上昇を実現しないのか? Bアメリカの生産性上昇はなぜ回復するのか?
情報技術の革命がアメリカの生産性上昇の主要な理由である。インターネットの普及で投資が増えたことは、生産性上昇の4分の1しか説明しない。残りは工場ではなく、販売、設計、マーケッティング、会計、経営の分野で生じた。
情報技術革命は経営や補助スタッフの削減を可能にした。100人でやっていた仕事を99人ですれば、生産性は1%上昇する。ヨーロッパは雇用慣行に制約されて情報技術を生産性上昇に転化できなかった。アメリカ企業は職務の中身を改変し、余った労働者を解雇する。ヨーロッパではそれが難しい。またアメリカ企業はあらゆるレベルでインセンティブを高める報酬体系を持っており、現状維持よりも困難な生産性上昇を選択した。
私はアメリカの生産性上昇が、この数年ほど多くの投資が行われなくても、将来において歴史的な1.5%の水準を越えると思う。情報技術を利用する機会はまだ豊富に存在している。新しいアイデア、ソフトウェア、技術は、急速に展開しており、生産性上昇と高い利潤見込みのある投資機会をさらに追加し続ける。生産性が一時的に停滞したのは、経済の減速は一時的だと判断した企業が、産出削減ほど労働者を減らさなかったからである。
ヨーロッパでは、新技術を急速に採用しようと思えば、雇用慣行や労働市場、経営インセンティブについて根本的な改革が必要である。そのような改革がなければ、アメリカとヨーロッパの格差は拡大し続ける。
Optimism Won't Keep Japan Afloat
By Jim Hoagland
Washington Post, Thursday, June 28, 2001
行動を伴わない楽観は無益である。日本の首相がキャンプ・デーヴィッドに来て聞くことは一つしかない。アメリカ連銀議長のアラン・グリーンスパン、ホワイト・ハウスのローレンス・リンゼー大統領経済顧問、ポール・オニール財務長官、さらに他の政府官僚が、協力して日本政府を説得する。
アメリカの減速とヨーロッパの変調は、日本の経済崩壊を世界経済の非常に深刻な危機にしかねない。アメリカ経済が日本の崩壊を救済する能力を失う前に、今すぐ銀行部門を整理して、経済を再建せよ、と。
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The Economist, June 9th 2001
The European Union and the Irish referendum: Could everything now go horribly wrong?
マーストリヒト条約がデンマークで否決されたときは、政府が国民の反対する内容を部分的に「オプト・アウト」する交渉を経て、再度、国民投票により可決させた。ニース条約に対するアイルランドの反対は、さらに特別な意味を持つ。つまり、EU市民はどの程度まで政治的な統合を受け入れる用意があるのか?
ユーロに関しても同じ問題がある。ヨーロッパ委員会自身による調査でも、ドイツ人の47%がユーロを支持するが、44%は反対している。統合は彼らにとって良いことであると、むかむかした気分の多くのヨーロッパ人を説得することは難しい。
単純に、国民投票を禁じてしまってはどうか? 統合の利益は普通の人々が理解するにはあまりに複雑であり、結局、時間がたてば理解できるはずだ。「1957年のローマ条約でさえ、国民投票にかけたら否決されたかもしれない。なぜなら、そのせいでバナナの値段は上がったのだから。」他方で、ハイパー・インフレーションとナチズム、戦後のマルクの強さを知っている国民にとって、国民投票なしにユーロを正当化することも難しい。
EUの主要加盟国がユーロや政治統合をめぐって異なった利益を主張し始めていることも重要である。誰一人、他者の利益にしたがって承認することを強いられることはない。アイルランドの他にも、多数決原理とEUの拡大を恐れる小国は多い。
大国の関心もさまざまだ。三度の戦争を経て、フランスは政治的に平等なヨーロッパの統合化を合意し、ドイツとイタリアはナチズムとファシズムからの政治的な復権を図った。イギリスが加盟したのは大陸経済に遅れることを心配したからであり、スペインはフランコ時代の孤立と後進性から抜け出したかった。
しかし、彼らの計算は変化している。フランスはEU統合にドイツの支配的な地位を感じて、ニース条約をあれほど複雑にした。ドイツのエリートたちは上機嫌だが、普通の市民たちはドイツ・マルクを失う不満と国境の向こうから侵入する移民労働者たちに不安を感じている。経済の活力を取り戻したイギリスは今の立場にとどまりたいし、さらに繁栄したスペインでは統合によるコストが嫌われる。
統合の賭け師は、じりじりと成功から失敗へ、チップを積み直している。
The International Monetary Fund: Koeler’s new crew
ケーラー専務理事は嬉しくて我慢できない気分だ。1ヶ月前には、スタンリー・フィッシャーを含む幹部が辞めて、IMFの運営を心配する声もあった。しかし今、彼は新しい経済チームを率いて再編を指導できると感じている。スタンフォード大学の確信的な自由貿易論者であるAnne Krueger, フィッシャーに匹敵する学者として研究部門を指導するハーヴァード大学のKen Rogoff, クリントン政権の財務次官であったTim Geithner, そして前ドイツ連銀理事、現在もドイツ銀行の投資部門幹部であるGerd Hausler が集められた。
共和党派のフィッシャーとして採用されたKruegerの高圧的な性格がケーラーと対立しないか? 若干39歳のGeithnerがサマーズの財務省で得た経験だけで現実を理解できるのか? Rogoffはアカデミック過ぎて政策論争の厳しさに耐えられないのでは? と職員たちは噂する。
ケーラーは、IMFの活動を本来の使命、すなわちマクロ経済の安定化に絞りたがっている。市場参加者はIMFの提供する情報と早期警戒システムを自主的に利用するだろうし、各国政府はIMFが薦める安定化政策のメニューから自国で選択した危機の解決を模索する。しかし、こうした発想は開発論の話題であって、本来のIMFが扱うテーマであろうか? IMFの職員が心配するのをよそに、ケーラーはオニール財務長官と通貨危機の防止を請け負うという、大きな取引をした。
ケーラー自身がその計画を実行し、その責任を負う。
(コメント)
IMFが国際通貨秩序を模索するよりも、市場参加者の革新と、各地の通貨間市場競争が、無作為の秩序をばらばらにつなぎ合わせています。
日経新聞2001年6月23日、黒河剛「東南アジア通貨、米ドルで先物決済」は、ノン・デリバラブル・フォワード(NDF)という特殊な先物取引を紹介しています。為替規制でできなくなった先物取引の代わりに、実際に先物契約をしていれば発生したはずの差額だけをドルで決済する契約をシンガポールの為替ディーラーが始めた、と言うのです。各国中央銀行が資本取引規制する能力も部分的に蝕む可能性があります。
読売新聞では、2001年6月28日から「ユーロ流通まで半年」という特集記事が連載されています。ユーロ参加国でなくても、周辺諸国がユーロ県内の銀行口座を持てば、いつでもユーロが手に入る、というので、銀行預金がユーロにさらに多くの国で転換されているようです。この記事は「拡大ユーロ圏」を51カ国、5億5000万人に及ぶと推定しています。
一方、New York Times, June 26, 2001 に載った “Their Financial Crisis Past, Thais Remain Disillusioned” by MARK LANDLER は、タイのタクシン首相がナショナリズムに振れた国内政治情勢をどこまで外国人排斥に向ける気か、注目しています。ソロスはバンコクでの講演会を中止しました。また、Financial Timesは、繰り返し、イギリスがユーロを採用することに反対する意見を載せています。
主要通貨の間に維持される静けさが通貨危機の後遺症を脱して動き始めれば、各国の選択は後戻りできない厳しい局面を迎え、次の国際通貨秩序も姿を見せ始めると思います。