今週の要約記事・コメント
6/11-16
IPEの果樹園 2001
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日曜日の午後、NHK衛星放送で、デンマークのエネルギー政策を転換させた一人の科学者、ヨアン・ノアゴー教授が紹介されていました。
エコロジー思想が社会を変える、というのは、人口500万のデンマーク社会が思想や政策に反応するシステムと神経を備えていた点で、本当にすばらしいと思います。彼らがマーストリヒト条約を否定したのも、自分たちが築いてきた社会システムをEUの中で大国に干渉され、社会的な目標を後退させられる、という反発があったからでしょう。
環境問題は、さらに深刻な対立の根となるかもしれません。ノアゴー氏は、人間が環境と調和する生き方には多くの異なる可能性がある、と考えます。しかし、石油危機後のエネルギー政策に反対したように、アメリカの今の政策には何の期待も持っていません。彼はデンマークの島で古い農家を買い、自分で何年もかけて改造しています。そして島の周りに何十年も先に大きく育つようにと、樫の苗木を植えます。
彼は、大量の二酸化炭素を出す飛行機に乗りたがりません。デンマークの社会はエネルギーを大切に使用し、化石燃料に依存するよりも風力発電を増やします。社会は、国民の意思を反映し、彼の思想に応えました。発展途上国の人々には、われわれと同じだけ資源を使用し、二酸化炭素を出す「権利」がある、と彼は言います。世界社会が、私たちの環境を守るべきなのです。
通貨危機と違って、環境破壊は長期にわたって、しかも地球全体で進行します。通貨統合や地域安全保障を求めたヨーロッパが、ブッシュ政権の環境政策と和解することは、さらに難しいかもしれません。もし何年か経って、ノアゴー氏が植えた樫の木が枯れ、海水面は上昇し、エネルギー危機が世界経済や通貨を不安定化すれば、エコロジストたちは彼のように静かに長期的な目標と信頼を説くでしょうか? 彼らは深く悲しみ、そして深刻な亀裂が生じるでしょう。
国際的なレジームの必要性は、決して強国の存在が世界市場を統合し、世界の富を増やす、という理由で望ましいだけではないと思います。むしろ制度やレジームは、小さな声で語る、多くの寡黙な理想家の心に、異なった多彩な夢を育てる点で、成長を重視しなくなった世界においてますます重要となるのです。
そして、日本はどのような社会を目指し、中国やアメリカに何を求めるのでしょうか? 雇用と環境について、もしアジアに共通の目標と対話制度を設けるとしたら、日本が示す理念とは何でしょうか? 成長と安全保障、保護主義、そしてエコロジーを議論することで、国家の枠を超えた理想と、それに反応する人々の組織を成熟させて欲しいです。
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Washington Post, Friday, June 1, 2001
The Promise of China Trade
By Colin L. Powell
中国との正常な貿易関係をもう一年延長することが、アメリカの利益であり、中国国内の改革派の利益であり、友好関係にある香港や台湾の利益である。この関係を続けることで、アメリカは中国における法の支配と透明性、説明責任を向上させる機会を持つ。それは中国を国際社会に統合し、中国内部の改革を促すために必要だ。
貿易は中国人民にもアメリカ人にも価値をもたらす。アメリカ企業は中国人と取引し、中国で営業し、アメリカ式経営をもたらし、労働者の安全や健康に関するアメリカの基準、環境への配慮を、中国に伝える。中国企業や労働者は明らかにアメリカ企業を好み、ビジネスにおいてアメリカのやり方を受け入れつつある。中国経済が開放されれば、消費者は単に国際的なブランド商品を店に並べるだけでなく、彼らの生活の質を国際的な基準を持ち込むだろう。
議会が正常な貿易関係を拒めば、アメリカ企業だけでなく、農民や労働者、消費者が損失を被る。また台湾や香港が苦しむだろう。すなわちその場合、香港は成長率が半分以下になり、7万2000から10万2000の雇用が失われる、と推測されている。それはわれわれの7番目に大きな貿易取引相手である台湾の自律を脅かす。台湾は中国大陸に莫大な投資を行い、米中間の貿易から大きな利益を得ている。その貿易関係が破壊されれば、台湾の150億ドルの輸出と5万人の雇用が失われる。最も重要なことは、中国と台湾の経済関係を損なうことは、両者の相互信頼の基礎を破壊することにつながる点である。
米中間の正常な貿易関係を維持することで、中国のWTO加盟とともに、中国自身が世界に協調し、特に国営企業や銀行システムを改革し、民間企業の役割を重視し、国民の福祉を守るセイフティー・ネットの構築に向かう、とわれわれは思う。さらに、それが今年10月に上海で開かれるAPEC会議において、貿易自由化で積極的な地域内の役割を中国にも担わせるのである。
自由な市場が自由な社会をもたらすと信じ、中国に国際的な基準を受け入れさせ、アジアにおけるアメリカの利益を促進したいなら、正常な貿易関係の継続こそわれわれの基本的な国益である。
Financial Times, Monday June 4 2001
Editorial comment: The vagaries of currencies
この半年における経済的な激動にもかかわらず、通貨市場は驚くほど静かである。アメリカの急激な減速と、日本への不安再燃も、世界の二大通貨がユーロに対して下落することにはならなかった。
通貨市場はニュースに反応する。しかし特に、ユーロとドルの取引では経済成長の相対的に見通しが重要である。アメリカの金利引下げはドル安ではなく、逆に成長への期待から、ドル高をもたらした。円については、介入に関するニュースがより重要であった。塩川財務大臣が円の水準を容認し、ECBのドイセンベルグ総裁がユーロの価値に関心を示さなかったため、円高が進んだ。
むしろ、過去数ヶ月の通貨市場における調整が非常に穏やかである、という点が意外である。ユーロは緩やかにドルに対して下落し、円も1999年初めの水準までドルに対して下げただけである。
その調整は緩やかでも、まだ問題はある。ユーロ安はインフレ懸念を通じてECBの金融政策を制約しているし、アメリカでもイギリスでも通貨価値の増加が製造業を苦しめている。日本では、ユーロに対して円が増価しても、金利や財政政策で対抗する余地がない。
多角的な協調介入の可能性が少ないため、各国は通貨の変動を受け入れるしかない。それは幸運と、慎重な判断を必要とする。
Financial Times, Monday June 4 2001
Editorial comments: Recipe for havoc
各国の法律が衝突した場合、国際間でそれをどうすれば調整できるか? 特にインターネットの発達で、どこでもその情報を得て取引に参加できるようになれば、各国はその法律をどうやって強制できるか? また企業は、ウクライナや中国を含む世界中の異なる法律を守り、しかも互いに矛盾した消費者保護などの法律と規制を守ることができるか?
ナチのコレクターが商品を売買するサイトを、フランスが禁止しても、アメリカの法廷は表現の自由としてこれを認める場合、どうすればよいか? 成層圏の被害に対する賠償を自動車会社や化学会社に求める場合はどうか? 総じてアメリカはケース・バイ・ケースの対応を採ってきたが、ヨーロッパは厳格なルールを求めた。しかし、アメリカとドイツと中国の法律を同時に満たすことは、難しいどころか、多くの場合、不可能である。
自国で利用できる情報を一方的に制限したがる政府は多く、他方で、まだ各国内の利用者しか対象としていない小さな企業のホーム・ページも多い。だから国際的な合意を厳格に求めることは望ましくない。
Bloomberg, 06/03
Damage From 1997 Asian Crisis Still Unfolding
By David DeRosa
アジア金融危機が政治にもたらしたものは、インドネシアのワヒド、マレーシアのマハティール、タイのタクシン、である。
インドネシアの4年間は地獄であった。独裁者のスハルトが追放されたことは良いことであったが、32年に及ぶ独裁支配の後に、この国を指導できる政治家はいなかった。ワヒドがその任に耐えず、たとえ議会によって罷免されても、次に来る者はさらに悪いかもしれない。
マレーシアにおいては、マハティールがいまだに権力を握っている。しかし、彼の唱える奇跡も金融危機によって色あせた。後継者のアンワルを投獄して、独裁者ぶりを示した彼の後には、やはり政治的な混乱が待っているだろう。
東南アジアの政治指導者で最後に登場したのはタイのタクシンである。彼の決め手はポピュリズムだった。彼は中央銀行総裁を不当に解雇して、自分の言いなりになる男を総裁にした。タクシンは、中央銀行総裁はタイのためではなく、外国の投資家のために働いた、と説明した。これは非常に危険な弁解だ。
これが金融危機を経た東南アジアの政治家たちだ。なんてひどい連中か!
(コメント)
確かに東南アジアの混迷は深く、政治秩序も国民をさらに絶望させるでしょう。しかし投資家たちは、通貨市場の秩序が決して政治的な正しい答えを促すものではない、という反省を述べることもできたはずです。「改革」を進める中央銀行や各国政治家が国内の支持を失うとしたら、通貨危機の圧力で旧秩序を破壊するという形で進められた国際的な調整コストの分担や市場による規律が適当でなかった、と考えるべきでしょう。
なんてひどい投機家どもだ! たとえ彼らが世界の浮動的な資金を支配しても、各国の再建に積極的な支援を提供しなければ、いつか彼らが追放され、投獄されるでしょう。
Financial Times, Wednesday June 6 2001
Bush threatens import curbs to protect US steel producers
By Edward Alden in Washington
ブッシュ大統領が火曜日に国内の鉄鋼生産者を保護するため新しい規制を導入し、同時に鉄鋼業の過剰生産と政府補助金に関する国際交渉を開始するよう呼びかけた。これは国内の生産者からの要求に応えたもので、これを支持する議員によれば、1998年以来すでに17企業が倒産したという。
ブッシュ政権は従来から鉄鋼業支援策を検討していたが、上院の民主党支配が今回の発表を促したように見える。それはまた、オハイオ、インディアナ、ペンシルヴァニア、ウェスト・ヴァージニアで激戦を闘う共和党候補を支援するものである。政府は201条の調査を国際通商委員会(ITC)に命じ、ITCが国内業界への深刻な被害を認めれば、WTOに違反せず輸入に対して関税もしくは数量規制を課すだろう。
アメリカの鉄鋼輸入は、アジア金融危機以後、1998年に急増し、過去2年間も歴史的な水準を越えていた。業界はまたアメリカ・ドルの高い水準や国内需要の不足にも苦しんできた。輸入規制とともに国際交渉を開始して、アジア、ヨーロッパ、ラテン・アメリカの鉄鋼生産者が減産するように説得し、過剰生産につながる政府補助金を廃止させたいのである。元アルコアの専務理事であったポール・オニール財務長官は、1994年に世界のアルミニウム生産を削減した協定をモデルにして国際合意を模索している、と言われる。しかし、アルミニウムの交渉はたった5カ国とEUだけで行えた。他方、1990年代初めに鉄鋼補助金の削減を実現できなかった交渉には、36カ国が含まれていた。
201条による保護は一時的なものでしかない。業界を立ち直らせるためにどのような再編が必要か、アメリカ企業自身でも意見が分かれている。旧来の製鉄会社は保険や年金コストを助けて欲しいと考えているが、新しい、組合に関係ないミニ・ミル企業はこれに反対である。また、国際的な合意で企業を閉鎖することは、アメリカやEUの反トラスト規制に違反するだろう。
Financial Times, Wednesday June 6 2001
Brazil unplugged
Geoff Dyer
夜の試合は中止。24時間動くはずの現金自動支払機も時間制限。ろうそくの売上が急上昇。しかしここはカリフォルニアではない。
ブラジルの電力危機が経済に与える被害を抑えるために、消費の割当てが始まった。今年の成長率は、2もしくは2.5%に下がる、と予測される。カルドーソ政権の経済的な成果は、不十分な規制と民営化の遅れで評価を落とすだろう。この危機が数ヶ月にわたって続けば、カルドーソは次期大統領候補に政策を継承させる力を失う。
政府の緊急対策とは、今後5ヶ月間、産業と消費者の双方に20%の電力使用を削減する、というものだ。もしこの(罰金のない)制限が機能せず、雨も降らなければ、政府はもっと厳しい措置を採ることになる。週に1日は電力を強制的に止める、とも言われる。
政府は危機を前任者の投資不足や気候のせいにするが、これは長く予想されていたことである。電力危機の主要原因は次の三つだ。
1. 国営電力会社が新規投資を怠った。なぜなら、政府はIMFと合意した緊縮財政の目標を達成するために投資させなかった。
2. 電力輸送部門の民営化は行われた。しかし民間部門の投資計画は、政治的反対によって民営化計画が遅れたため、進められなかった。
3. 規制が新しい電力供給計画を妨害した。ボリヴィアからのガス・パイプライン計画は、為替リスクを誰が負担するかで遅れ、アルゼンチンのガスを利用した発電所も不確実性を嫌ったアメリカ企業の投資差し止めで開始が遅れた。
エネルギーを大量に消費する産業ほど影響は深刻だ。たとえば、アルミニウムを生産するアルコアは、先週、生産が25%も減った。失業が増加し、実質賃金は、1999年のレアル切下げに続いて、再び低下するだろう。重要なインフラが不足しているとすれば、ブラジルへの直接投資も減少する。昨年310億ドルに達した直接投資が、今年は190億ドルに留まると予測される。GDPの5%におよぶ経常赤字を直接投資の流入で支払っている経済では、それは深刻な事態を意味する。
インフレがどうなるかも分からない。サプライ・ショックが価格上昇につながる、と言う者もいれば、経済活動の停滞が物価を下げる、と予想する者もいる。また、通貨レアルはアルゼンチンの通貨危機懸念やアメリカ経済の減速、国内のスキャンダル続発で、すでに最安値に達していた。それに対して中央銀行は金利を引き上げてきたが、危機に対する明確な政策はない。フラガ総裁は数年前に通貨危機を見事に脱し、インフレ・ターゲット政策を導入したが、今回の危機には打つ手がないだろう。
しかし、最も深刻なのはカルドーソ大統領への批判と政治的な危機である。3ヶ月前まで大統領への国民の支持は高かった。しかしこの数週間で、彼の影響力は低下した。エネルギー危機は、今や、経済的な健全運営という彼の最大の長所を損ないつつある。もし彼の後継者が敗れて反対派が政権を執れば、現在の金融・財政政策は変化するだろう。それは投資家の信認を得ることでインフレを抑制するものであったから、政治的な混乱は次第に金融市場を脅かす。
雨が降ってほしい、と願うのは、カルドーソだけではないのだ。
Financial Times, Wednesday June 6 2001
Asia's natural partners
Andy Xie(chief economist for Asia Pacific at Morgan Stanley)
10年も経てば、中国と日本はアメリカに代わって互いの最大の貿易相手国になるだろう。この傾向をもたらす経済の基本的条件は非常に強く、たとえ禁止的な障壁が設けられてもそれを翻すことはできないだろう。他の世界が好むか好まないかに関わらず、中国と日本は多面的な同盟関係を組むだろう。それが東アジアの安全保障と経済協力の基本的な枠組みとなるのである。
データはすでにそれを示している。今年の1月から4月までに、日本の中国からの輸入はドル額で12%も増加した。他方、中国以外からの輸入は増えていない。昨年、日本の名目GDPが増加しないにもかかわらず、中国からの輸入は26%も増えた。10年前には6%でしかなかった中国が、今や日本の輸入の15%を占める。
この統合過程は疑いなく構造的なものである。日本人の所得や企業への圧力が、ブランド品からラベルのない商品に消費者を向かわせている。流通業者は中国からの膨大なノン・ブランド製品を棚に並べ、日本の消費者が熱狂的にそれを買う。企業は利潤低下の圧力に直面して、高付加価値の資本集約的な商品にまでアウトソーシングを拡大しつつある。たとえば電機各社は、テレビの組立工場を日本から中国北東部に移してしまった。日本企業はこうして中国製品の品質をますます向上させている。
この傾向が続けば、中国と日本の二国間通商関係は中心的な重要性を帯びるだろう。中国・アメリカ関係と違い、日本との関係は双方向である。日本は中国が必要とする資本財を供給し、さらに自動車や電機製品、コンピューターなど、多くの産業で重要な部品やコンポーネントを供給するようになる。
現在の地政学的な状況は、貿易拡大を持続するために解決すべき問題となる。中国でも日本でも、政治的な見解を質せば、両国が宿命的な敵国であるかのような思考が多い。歴史が二国間関係に重要な影響を与えている。日本はアメリカに安全保障を依存している。中国が日本の最重要な取引相手となることを、アメリカ政府はどう思うだろうか?
確かに中国と日本の経済統合には深刻な障害がある。しかし、長期的な変化には逆らえない。第一に、中国が急速にインフラを整備したことで、人口移動が増えている。その結果、将来は都市の非農業部門で雇用が増えなければならない。日本との経済統合は重要な雇用創出源となる。第二に、日本企業はバランス・シートの悪化と国内投資の収益減少に対応しなければならない。より重要なことに、日本企業は人口高齢化の衝撃を受ける。中国への生産基地移転は、その長期的な回答である。急激な移民増加を避けるなら、日本にとって中国との経済統合がその生活水準を維持する唯一の選択肢であろう。
第三に、中国と日本はこの地域の平和と環境を維持する点で強い共通利益を持っている。東アジアは変化しやすく、その不安定化は両国に同じような深刻な影響を与える。両国はその結論にまだ達していないが、私は完全な同盟に合意すると思う。
現在の両国関係は後ろ向きである。経済統合はこれを緩やかに変化させる。しかし、両国はその共通利益が以下に強いものかを納得するためには、危機が必要かもしれない。
Financial Times, Friday June 8 2001
Foreign policy on the cheap
Richard Gardner
アメリカ議会が通過させた減税と歳出制限は、アメリカの外交政策を大幅に損ない、アメリカとその他の世界において将来の世代を危険に陥らせるだろう。国際問題に対して支出される連邦予算の割合は、1960年代の4%から1970年代の2%、さらに1990年代末には1%に削減された。来年度予算でブッシュ政権が求めたのは、パウウェル国務長官のおかげで、ようやく1%をわずかに超えた。それは今年度よりも8億ドル多いが、大使館の建設や保安・通信設備、外交人員の補充など、必要な支出だけに向けられている。
エイズ対策にも、持続的発展計画にも、難民や人道的支援、バルカンや中東への経済支援、旧ソ連圏の核物質管理、フルブライト交換留学制度などに、追加の支出が必要である。多角的開発金融機関には4億9000万ドルの未払いがある。さらに、2002年から2011年まで外交予算が増えないという前提はとんでもない。すなわち、10億人以上とも言われる世界の貧困生活者を半減させる計画や、全ての子供たちに初等教育を受けさせる計画、HIV・エイズ感染者を25%減らし、人口計画を世界に普及させる計画、などがある。
国際開発に対するアメリカの一人当り負担額は、年約29ドルでしかなく、他の開発諸国の平均70ドルに比べて、その半分にも満たない。支出は効果的な外交の代わりにはならないが、予算を増やさなければ効果的な外交など不可能だ。アメリカは、戦争の防止よりも戦争のための資源に16倍も多く支出する。伝染病、地球温暖化、人口爆発、国際犯罪、テロリズム、大量破壊兵器の流出、貧困と暴力の蔓延。アメリカ人の安全と福祉に対する長期的な国際的脅威の現実的評価は、どれも予算の優先順位を見直すように求めている。
Far Eastern Economic Review, June 14, 2001
INTERVIEW: HORST KOHLER
Focusing the Fund On Financial Stability
IMFの将来の役割:
マクロ経済の安定化に焦点を絞る。すなわち、金融・通貨・為替政策と金融部門の安定性である。ダイナミックな資本市場が成長や生産性、雇用、所得の主要な源泉であるから、将来も通貨危機はありうる。新興市場も浮動性に備えて生きる、とうことだ。
正しいバランスが必要だ。世界資本市場が人々の生活を改善すること。他方で、その反対のリスクを封じ込めることである。
アジア危機の教訓:
資本勘定の自由化は金融部門の監督や制度の整備と同時に、細心の注意を払って行わねばならない。また、コンディショナリティーの考え方を反省する。IMFにとって融資条件は本質的な原理であるが、IMFが専門知識を持たない分野にコンディショナリティーを拡張したのは失敗であった。エネルギー市場や個別の民営化、通商問題に関して、今後は条件を付けない。
ブッシュ政権からの批判:
IMFがすべての危機の犯人である、と言うのは間違いだ。各国は改革への指導性を示す必要があり、IMFは政府に説教したり、命令したりしてはいけない。われわれは改革の率直な助言を行いたいだけである。彼らが聞かないとしても、それは主権の問題だ。
率直な助言の公表方法:
IMFは早期警戒システムを開発しようとしている。しかし、警報が危機の引き金になってはいけない。われわれは政府および民間部門との対話を必要としている。初期における脆弱性の徴候に関して結論を導き、正しい政策について先に議論するだろう。すなわち、最初の会合は非公開であり、公表するかどうかはわからない。
脆弱性の基準について合意が得られ、しかも市場が正常なときにはこれを公表し、人々が危機の発生を調べられるようにする。しかし、すでに危機が生じつつあるときには、事態を悪化させないように特別な注意が必要だ。容易な解決策は無いが、早期の警告と危機の防止がわれわれの活動の中心である。
アジア通貨基金:
アジアがそれを試みるとしても、妨げる者などいない。しかし、アジアはグローバリゼーションの最大の受益者として、特に慎重であるべきだ。アジア通貨基金は全ての者にとってグローバリゼーションが利益をもたらすために意図されるべきであり、アジアの利益だけを目指してはいけない。IMFは地球規模の制度であるが、地域化の要求はIMFと矛盾しない。それらは補完的であるべきだ。
地域統合により自国の経済がより競争力をつけ、グローバリゼーションに上手く対応できるなら、それは成功するだろう。たとえば、チェンマイ・イニシアティブをわれわれも完全に支持している。アジアには地域協力や統合化がもっと必要である。通貨統合を議論する前に、アジアには多くのなすべきことがある。
アジア地域通貨統合:
私はヨーロッパ人だ。ヨーロッパにできて、アジアにできないわけが無い。しかし経験から言わせてもらえば、通貨統合は実質的な収斂を基礎にしなければならない。自由貿易から始めて、統計や関税、その他について調整することが必要だ。収斂を進めるためには、通貨統合のビジョンが、今、確立されるべきだろう。ヨーロッパでは50年かかった。
日本の改革とデフレ、日銀:
小泉首相の改革は正しい方針を示している。柳沢金融担当大臣には特に感銘を受けた。彼は改革を進めるだろう。
日本の国民は貧しいわけではない。しかし、消費者も企業家も自信を失っている。政府が正しい政策を示して、前向きの改革を進めれば、構造調整の短期的なマイナスの影響は財政支出と投資で補える。改革により不況が来る必然性は無い。
デフレを回避するために、貨幣供給の増加と円安を進めるべきか?:
3月の金融政策会合で決まった枠組みと、正しい改革方針、財政の緩やかな改善を目指せば良い。
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The Economist, May 26th 2001
The European Union’s enlargement: A matter of priorities
EUの指導者たちは「連帯」や「統一」、「歴史的責務」について長々と演説することが大好きだ。しかし彼らが部屋に集まって密談するときには、もっと基本的な問題に集中する。すなわち、権力と金の問題。特に資金である。
東方への拡大はEU内部からルールの変更を次々に求めさせている。それゆえエストニアの世論調査では、多数の有権者がEU加盟に反対した。
問題は、新加盟諸国が貧しく、人口も多いことだ。EUが27カ国に拡大すれば、人口は30%増えるがGDPは5%しか増えない。それはEU内部の資金移転を変化させる。総GDPの1%以上に達するEU予算の80%は、地域援助と共通農業政策(CAP)に支出されている。それは貧しい人々と農民を支援しているが、中東欧には貧しい農民がたっぷりいる。
拡大に反対しているのは、ドイツとスペイン、フランスである。ドイツは労働者の移動を阻止するよう、スペインは国内の貧しい人々に支援しつづけるよう、フランスは農業政策から新加盟諸国を排除するよう、求めている。それは困難な課題である。むしろ、地域政策とCAP自体を見直すべきではないか? もっと効果的な、改革を促す形で、自由化を認める必要がある。
ルールの調整にこだわればEUの拡大自体が遅れるだろう。財政の改革よりも、まず新加盟諸国を受け入れるべきだ。そして彼らをごまかす謀略ではなく、新しいルールの決定に彼らを参加させるべきだろう。
General election: The angry brigade
バーミンガムでパキスタン・チームとのクリケット試合が投票日と重なったことは不幸であった。試合は午後2時に始まり10時まである。投票時間は午後9時までだ。バーミンガムのパキスタン系住民に依拠した人民正義党PJPにとって破滅的だ。
バーミンガムのカシミール人は政治家たちに見放されていると感じていた。プレスコット副首相に卵をぶつけたのは農業労働者であった。ブレア首相はテレビ・カメラの前で、病院が夫に対して行ったことで憤慨する婦人に手を焼いた。労働党は右旋回して、支持者の一部を犠牲にした。それでも労働党は、彼らが支持する政党は他に無い、と安心していた。彼らの怒りは無気力に向かっていたのだ。
PJPは1998年に設立され、すでに市議会の5人の代表を占める。それはJFK「カシミール・コミュニティーの正義」と呼ばれていた。100万人のバーミンガム市で、約12万人がカシミール系イスラム教徒である。バーミンガムはすでに<分断都市>であり、カシミール系住民の住む地区は荒廃し、失業率が高い。労働党の誇る経済的安定と健全な財政を賞賛する者はいない。
“New Laabour”を批判するこうした政党には、それ以外に何も共通した点は無い。しかし彼らが議席を奪うことで、ブレア政権は対応を迫られるだろう。
Economics focus: The red and the black
今日、イギリスでもアメリカでも、財政の均衡、さらには黒字を目指すことが政治家たちのマントラ・経文になった。財政赤字の支持者は姿を消し、アルゼンチンや日本のような、まさにせっぱ詰まった国だけが赤字を支持する。しかし、本当に黒字は望ましいのか?
まず、景気循環を通じて財政状態は変化する。毎年、均衡を目指すのは間違いだ。さらに、支出による利益は増税や借り入れのコストと比較されるべきだ。それゆえ、@支出を増やすほど利益は減る。A増税するほどコストは増す。B政府が借り入れすほど民間資本市場を損なう(民間投資をクラウド・アウトする)。そしてデフォルトの危険が増す。
それゆえ、財政引締めは望ましい目標である。しかし、完全な均衡や固定した目標が最適だとはいえない。では、財政均衡を定めた法律は間違いか? そうとも言えない。なぜなら、複雑な計算で財政を動かすより、大まかな目標を定めた方が単純であり、政治家に抑制を促す。またルールは財政状態が突然変化することを防ぐ。ただし、緊急時の支出には望ましくない。
政治家は次の選挙だけを考えて、債務の返済を将来に残しがちだ。それは高齢化や社会保障といった長期的な問題を軽視させ、財政状態を損なう。たとえば日本では、繰り返された財政刺激策も機能せず、十分な金融緩和はなされない。構造改革は不十分で、企業の投資が回復しない。アメリカも、医療費や社会的給付の点で将来に大きなツケを残している。将来の支出に備えて貯蓄することは難しい。将来、増税を繰り返したくなければ、現在の給付を削減することだ。