今週の要約記事・コメント

5/28-6/1

IPEの果樹園 2001

資本市場が、社会的な資本ストックの蓄積と配分を効率的に評価する上で非常に優れた制度である、というのは正しいのかもしれません。個人がリスクを負って革新に投資することで莫大な社会的利益を独占できる制度は、活発な競争による革新の普及と成果の分配を通じて、<資本主義>の時代を富の増大と社会的な移動性が支配するダイナミックな世界にしてきました。

しかし資本の世界は、たとえば、<アメリカ>の極端な欲望を一人ひとりの心に充満させ、世界の果てまで投機と不況の波を広め、強いられた調整に反発する人々や多くの弱者を不安にします。資本市場は、本当に、その富をそれにふさわしい人々に分配しているでしょうか? 生まれながらにして富を持たない貧しい人々や、一途に勤労や社会奉仕に励んだ人々が、投機の流れに押し潰されてはいないでしょうか? もし投資に集合的な指標が必要であるというなら、資本市場を社会的な富の独占から分離して、単なる投票制度にすれば良い、と思います。

他方、もし社会的な移動性が大幅に保証されているなら、私たちはより大きな所得格差や社会制度の違いを選択し、それを楽しむ自由を得るかもしれません。市場に強いられた社会的分業(と恐慌)からの自由を求める一方で、インターネットや遺伝子組み替えのハイテク社会が田園生活の再生を約束する、と思いたくなるのも、そこに社会的移動性の新しい仕組みが隠されていると(誰でも?少しは)感じるからでしょう。

私は息抜きのために家を出て、緑の公園を求めて、散歩しました。住宅地の坂道を歩き、池の淵をめぐり、橋を渡って、再び坂道を登りました。しかしどこまで歩いても、腰を落ち着けて時間を忘れる、静かな澄んだ空間など見出せません。好景気のアメリカには富とダイナミズムがふんだんにあります。他方、イギリスは日本と同じように富が一握りの集団に支配され、社会的移動性も決して高いとは思えません。しかし一人ひとりが非常に個性的で、その生活を楽しみ、なにより自由なアイデアと広い公園があります。

日本にも、充実した社会資本と透明な行政によって、多くの人が参加する活発な起業家の時代が来れば、ようやく資本主義はその改良や克服を真剣に議論されるのではないでしょうか? くたくたになった散歩の後で、そんなふうに思いました。

New York Times, May 20, 2001

LIBERTIESDrill, Grill and Chill

By MAUREEN DOWD

われわれは大きくなりたい。もっと速く、もっと遠く、今すぐに何でも欲しい。345馬力の8気筒エンジンで、ハイウェイをガロン当り15マイルでぶっ飛ばす。

われわれはビヒモスを操縦する。われわれだけが操縦する。

われわれには限界が無い。われわれは自由だ。

シート・ベルトなんかしなくても問題ない。エア・バッグがある。エア・バッグが膨らまなくても構わない。この車はたくましいから、われわれは決して傷つかない。もし暴走するために通りを広げたいなら、やれば良い。

われわれは地球を焦がす。ちょうど良い焦げ方にして、お届けもできる。そのうち、タフィー・キャンディーみたいに料理してやろう。

もし海水面が上昇して海辺を失うなら、地質学者が新しいのを作れるし、ハリウッドは砂漠の素敵な映画を作る。太陽で肌が焼けるのであれば、皮膚科で取り替えてくれるさ。

地球が暑くなっても、エアコンをつければ良い。われわれはエアコン付きの巨大な自動車を操縦して、地質学者の作った新しい海辺へ、猛スピードでぶっ飛ばす。

われわれは、いつでも、どこでも、石油を掘る。もし旅行者がフロリダ海岸の採掘機を嫌うなら、ワイオミングで釣りをすれば良い。南極アジサシがわれわれを迷わせたりしない。カリブーの群れも気にしない。われわれが、いつでも快適な温度で住めれば良い。

われわれは原子力エネルギーを完成するだろう。われわれは、いつでも、どこへでも有毒廃棄物を捨てる。何世代にもわたって放棄される土地で、苦しむ者がいても何千年か先だ。

われわれは最大、最悪のミサイルを持つだろう。お望みなら銀河系を越えて、永遠に、どこへでもそれを向ける。われわれは防衛ラインを張り巡らせる。

われわれは、ブロードバンドの、インターネット高速接続を保証する。しかしわれわれは、誰にも、どこからも、いつでも、必要なもの全てがコンピューターに届くのを、脅かすことは決して許さない。株価、スポーツ・ニュース、不動産情報、お料理、ポルノ!

宇宙の軍事化と防衛衛星で、われわれは生命と自由、そしてわれわれの幸福追求を確保する。大気を満たすのは500チャンネルのテレビ放送!

GPSがあるから、われわれは地球上のどこへでもパーティーに行ける。われわれの望むどんな食品でも、遺伝子を操作して創り出し、どの国にも、どんな価格でも、売って良い。われわれの銀行の国際ネットワークと、世界銀行やIMFがあるから、どんな独裁者も、われわれのために最善を尽くす。

われわれはどこへでも飛び、どんな荷物も運べる。われわれは超巨大スーパー・ジェットを飛ばすが、その重みで、最高に混雑した航空網を支える滑走路は崩壊する。

われわれは、その憲法が保証するように、いつでも、どこでも、欲するままに武器を買い、運び、隠し、そして発射する。われわれが望むなら、どんな犯罪者も注射や電気ショックで死刑にする。

われわれが、アメリカだ。


Financial Times, Tuesday May 22 2001

Editorial comment: Fresh blood at the Fund

IMFのアルゼンチンやトルコへの融資は、その過去の歴史として過ぎ去りつつある部分である。IMFの知的な中心を構成した3人の幹部が去ろうとしている。この重要な機関も、変化した世界経済の現実にあわせて再編する時期である。

その最も重要な人物は、もちろん、スタンリー・フィッシャー副専務理事である。IMFは、彼の時代に、マクロ経済の安定化が必要な国や、固定為替レートが維持できない国に対して、大規模な支援を行った。しかし今日、その目標は変わった。ほとんどの中所得国でインフレが収まり、変動レートを採用している。IMFが詳細な経済計画を実行するために強力な介入を行うことは、強く批判されるようになった。また、IMFの支援がモラル・ハザードをもたらした、と責められている。

IMFは、@それがシステミック・リスクであるときには介入すべきだが、同時に、A民間部門を危機の処理に加えて、コスト負担させるべきである。そして、B資本市場が各国の経済に与える影響を監視しなければならない。C最後に、IMFが貧しい諸国において引き受ける役割を明確に(限定)するべきだ。

それゆえ、もはや堅実なマクロ経済学者であることが副専務理事としての十分な条件ではない。彼もしくは彼女は、金融市場の動きをよく掴んでおり、IMFの新しい使命に共感する人物でなければならない。その人物は国際的な指導的知識人であり、ケーラー専務理事に匹敵し、しかも政治的な圧力に抗して独立していなければならない。

IMFのトップがヨーロッパ人であるという慣例が間違っているように、その副専務理事は必ずアメリカ人であることも無理であろう。開かれた人材の競争的採用が、選りすぐれた人物をそのポストに就け、またIMFに対する途上諸国からの恨みを和らげるだろう。

ブッシュ大統領は、副専務理事のポストにアメリカ人を要求しないことで、この機関の信用を大きく高めることができるだろう。逆に、ケーラー専務理事との対立を招いても人選に介入すれば、IMFをアメリカの手先とみなす意見を強めるだけである。


Bloomberg 05/21

Latin America's Biggest Trade Bloc Imperiled by Rifts

By Michael Smith and Jeb Blount

ラテン・アメリカの貿易ブロックは、アルゼンチンの経済危機とアメリカの示す二国間協定で、揺らいでいる。アルゼンチンに続いて、ウルグアイもアメリカとの貿易交渉を求めた。しかしブラジルは、メルコスール参加国が外部の諸国に対して協同して合意を作るべきだ、と主張している。

ブロック内で緊張が生じたのは、1999年1月にブラジルが通貨レアルを切下げたからである。それによってブラジル企業はブロック内での競争力を強めた。ウルグアイやアルゼンチンのブラジル向け輸出は低迷し、6年に及ぶ域内の合意と域外への規制に疑問を感じ始めた。メルコスール加盟諸国の全GDP8000億ドルに達する。

アルゼンチンのブラジル向け輸出は1997年以来3分の1も減少し、GMなど、いくつかの企業がコストの安いブラジルに生産拠点を移した。アルゼンチンでは不況が悪化し、失業率は15%に達しており、ブラジルの2倍である。

「ブラジルが切下げても、アルゼンチンはドルにリンクしている。だからメルコスールでは緊張が起きる」と、アメリカ通商代表部のゼーリックも議会で証言した。アルゼンチンの不況は、メルコスールに投資している企業を困惑させる。フィアット社のアルゼンチン支社長は、国際金融危機の影響もあって、過去3回の売上予想を実現できなかった、という。同社は生産能力の3分の1しか稼動できていない。通貨価値の違いで、ブラジルの自動車はアルゼンチンより30%も安い。

EUと違って、メルコスールには、成長や財政赤字、通貨について、ブラジル産業に特別な利益を与えている相違を平均化するような共通の目標がない。「だから、ブラジルが通貨を使って市場を乱しても、それをどうすることもできない。」

アルゼンチンのカヴァロ経済大臣は、不況からの脱出を企業の競争力改善に求め、メルコスール加盟国を無視して資本財に対する関税を廃止した。域外からの資本財に対する14%の課税は、ブラジル製造業に利益を与えてきた。さらに、アメリカ政府と自由貿易協定に関する交渉を始めた。それはメキシコがNAFTAによって享受したのと同じ好景気をもたらす、と期待されるからだ。

ブラジルのカルドーソ大統領は、アメリカがメルコスールの分断を図っている、と非難する。ブラジルは、メルコスールを維持して、FTAAの交渉を有利に進めたいのである。しかしブラジルは、チリがアメリカと二国間交渉を開始するのを阻止できなかった。


Financial Times, Wednesday May 23 2001

Breaking the border

Henry Tricks and Joshua Chaffin

ブッシュとフォックス両大統領が抱く、アメリカとメキシコの間の国境を無くそうというアイデアは、シティ・グループによるメキシコのBanacci銀行買収という大きなシンボルを得た。買収額は125億ドルである。わずか3年前には、外国の銀行がBanacciを管理することなど法的に不可能であった。しかし今では、シティ・グループがそれを全て買収できる。金融サービスだけでなく、Banacciのブランドを利用して、アメリカ国内のヒスパニック人口に取引を拡大できる。

アメリカの金融機関が自国市場への拡大のためにメキシコへ進出する事態は、1994年のNAFTA成立以降、何が起きたかを示している。「NAFTAの思想は、両国が解き得ないほど深く経済的に結びつくことを意味しており、それが今や大きく前進している」と、シティ・グループ副会長となったロバート・ルービン(元財務長官)は言う。

アメリカからの投資には成功も失敗もあったし、メキシコ企業からも歓迎と反発があった。しかし、国境を越えたビジネスは両国でますます拡大している。メキシコ政府は、アメリカ経済に自国を接近させるため、2003年までにインフレ率をアメリカと同じにし、公的債務を削減しようとしている。またNAFTA以降、メキシコがアメリカの最大の貿易相手国になっている。

この収斂過程は、直接投資によって強められる。シティ・グループによる買収は、今後、さらに多くの企業買収を促すだろう。すでにウォル・マートは1991年からメキシコに投資し、500店舗、84800人を雇用し、1997年にはチェーン・ストアのCifra13億ドルの投資を行った。アメリカの直接投資は、投機的な買収より、メキシコでの操業に使用されている。

もしフォックス大統領がエネルギー分野を民間投資に開放すれば、直接投資が殺到するだろう。銀行部門の再建とともに、エネルギー部門の再建はメキシコにとって重要である。また、ヒスパニック系の家庭では、二世の70%が自宅でスペイン語を話しており、メキシコのメディアを買収すれば、こうしたアメリカの豊かなヒスパニック人口を取り込める。

アメリカ企業がメキシコに進出する理由は、低賃金から資本市場など、他の要因に変わってきている。メキシコの景気変動がアメリカと完全に一致していない以上、分散投資は収益を増やす。また、新興市場への投資を望むファンド・マネージャーたちは、メキシコ企業に投資するよりも、メキシコに子会社を持つアメリカ企業に投資している。

メキシコへの投資にはリスクもある。アメリカ向けの輸出に大きく依存しているし、投資が増えればペソが増価して企業の競争力を損なう恐れもある。フォックス氏の政治的な安定度や、法制度の信頼性、企業幹部の誘拐という危険もある。しかし、両国の国境は失われることに疑いを抱く余地は無い。アメリカ企業はメキシコでの経営拡大を目指し、メキシコ企業は国境の北にある膨大なヒスパニック市場を目指す。フォックスとブッシュ両大統領の親交は、より多くの者に支えられている。


Financial Times, Wednesday May 23 2001

A last last chance for Turkey

Martin Wolf


Bloomberg 05/22 17:48

China's Crouching Economy, Hidden Motives

By William Pesek Jr.

中国政府は、円安が中国経済に与える影響について再び不満を示している。「注意しろ。さもないと、われわれは通貨を切下げるぞ。」という威嚇であるが、世界の金融市場はそれを気にしていない。

外国為替市場で中国が円安に文句をつけるのはいつものことである。1997年から98年には、中国政府が元の切り下げをほのめかすだけで市場は震え上がった。それはアジア中で通貨の引き下げ競争を招き、破滅的な結果につながると思われた。

今日、世界金融市場はより賢明になり、少なくとも中国に関しては怯えなくなった。中国の切下げは、それだけのことである。それを経済戦略と呼んでも良い。北京は投資家や世界の政策担当者をだました。アメリカ財務省のルービンやサマーズも。中国は実に単純に、通貨政策を使ってアメリカや日本を動かした。それは今まで見事に機能したのだ。

先週も、北京は切り下げについてかなり露骨な示唆を与えた。しかし、ワシントンも市場も、ほとんど関心を示さなかった。1997年から98年の国際金融危機においては、クリントン政権が円安を阻止するように日本政府に圧力をかけ、外国為替市場に介入すら行った。しかし今日、ワシントンは中国を異なった見方で評価している。

クリントン政権は、日本との関係を損なっても、中国との関係改善を進めた。ブッシュ大統領は、日本をアメリカの外交政策の要に引き戻しつつある。その結果、アメリカは中国の円安批や元切り下げに同情を示さない。日本がこの地域の戦略的パートナーに再登場したことは、アメリカの円安容認姿勢に見られる。ブッシュ政権は、日本政府が脆弱な銀行部門や昏睡状態の企業を真剣に改革する限り、円安を容認するだろう、と考えられている。

元安による利益は、世界市場が後退していることで損なわれる。しかも元安は、中国の経済改革や江沢民主席の指導力にとってもおそらく大きなコストである。WTO加盟が遅れるかもしれないし、インフレにつながれば社会不安を招く。共産党の権力者たちは、自国通貨が弱くなることを衰退の徴候として恐れる。北京は、自分たちの経済政策が強力な日本と競争するために変更を強いられた、という新聞の見出しを読みたくない。何よりも、中国への資本流入を妨げる恐れがある通貨切下げは、もっとも回避したいことだろう。

アメリカ経済の減速は中国の輸出にとっても問題であるが、それはアジアの他の諸国にも共通の問題であるから、市場が過剰に反応することは無い。また、北京は国内の成長を維持するために財政支出を行う余地がかなりある。1997-98年の政府支出による成長刺激策は、世界中の関係者を驚かせた。

すでに東南アジア諸国はドルとの固定レートを放棄し、対外債務を減らしている。円安がこの地域に与える危険は小さくなった。中国が元を切下げても、アジアの金融システムは安定を保てるだろう。確かに、アジア太平洋地域が貿易に依存している限り、為替レートはマクロ経済安定化の重要な手段である。しかし、もはや北京からの切下げの脅しに、通貨市場のトレーダーたちが緊張することは無い。


Bloomberg 05/23

Weak Yen, Strong Yen: Which Is Good, Which Bad

By Patrick Smith

ロンドンに拠点を置くグローバル・ストラテジストであるMarshall Auerbackは、アメリカが3月の貿易収支で312億ドルの赤字を出したことに注意した。「もし投資家の誰かがドル建の資産を持ちたくないと思い、それを引き出し始めたらどうなるだろうか? 1998年にアジアでやったように。」

外国の投資家がアメリカ財務省証券の約40%を保有している。アメリカの34000億ドルにおよぶ債務のうち、日本人がその約9%、3200億ドルを持っている。日本人が資金を自国に引き上げる見込みは、短期的には、無いだろう。日本も、中国も、その他のアジア諸国も、その通貨を安くしてアメリカ人が生産以上の消費を続けられるようにしている。しかし、これは良いニュースなのか? それとも悪いニュースか?

アメリカ財務省証券がにわかに売られる話は、1980年代後半のバブルに乗った日本人たちによる対米投資を「黄禍」``yellow peril''として無意識に嫌ったものであった。今、再び、その発想がよみがえる。アメリカの経常収支赤字はGDP4.5%である。経済顧問たちがGDP比1%を超える赤字を危険と警告したのは、そんなに前のことではない。

太平洋の反対側では、先週、大前研一が「ブッシュ政権の助言を実行して、日本の経済成長を再生させたら、小泉潤一郎はアメリカ経済を破滅させるだろう」と発言した。「アメリカ政府・企業・消費者は、長い間、日本の不安定性から利益を得てきた。ブッシュ政権の人々はそれを理解していない」と。

大前の恐怖シナリオでは、2、3ヶ月以内に、日本人投資家はアメリカの株式や債券市場から5500億ドルを引き出し、ダウは3分の1が失われる、という。アメリカ人の多くは、このシナリオを心配する必要はない、と考える。しかし、Auerbackやリンゼー大統領主席経済顧問は心配している。他方、長期の問題に無頓着なことよりも、逆の形で、中期の問題を抱えている。

日銀は、先週の金融政策に関する会合の後、資金供給の手段として10年物と20年物の国債だけでなく、2、4、5、6年物の国債も来月から購入する、と発表した。投資家にとってそれは、商業銀行の関わる莫大な債務を現金化するために、日銀がより積極的な行動に出ることを意味した。そして、円の価値は大幅に下落した。

しかし、速水総裁が大量の国債購入を行う、と考える者は少ない。速水は、日本に経済的な健全性をもたらす鍵がリストラと債務免除である、という西側コメンテーターの意見に賛成のようだ。しかしあまりに多くの人々が、速水は正統的な手法により不況を悪化させる、と信じている。

日本はいずれにせよ、国債の大量購入による債務の貨幣化を行うしかないだろう。速水は、それを行うか、辞任するしかない。ゴールドマン・サックスのKen Courtisは、円が1ドル=160円以下に減価することもある、という。アジアの他の中央銀行も円安に従うだろう。貿易収支を悪化させる円安を批判して、中国も元切り下げを示唆している。


Financial Times, Thursday May 24 2001

In praise of Brown's trust fund

Samuel Brittan

私的な資本と投資からの所得を攻撃したのはカール・マルクスの間違いであった。問題は資本の存在ではなく、われわれの余りに少ししか資本を所有できないことであった。いくらかの個人資産を持って引退し、賃金や給与に頼らず生活できることは、専門的な中産階級の老人が達成した大きな進歩である。これによって人々は雇用主からある程度独立し、苦境や不運に耐え、労働の合間に旅行したり、芸術にふけったり、大儀のための反抗に加わったりできる。

この古くからの議論に加えて、近代的な技術や労働需要の不足が人々を貧しくすることに注意が向けられている。所得の最も低い人でも、市場以外から収入を得て、生活を改善すべきであろう。それは、「就業意欲テスト」をともなうマイナスの所得税に近い。それに代わる対策として、資産配分の改善、が唱えられる。

アメリカの研究者(B. Ackerman and A. Alstott, The Stakeholder Society)やイギリスの公共政策研究所、フェビアン・ソサイアティが、すべての若年市民層に一定の資本を与える、という提案をしている。ゴードン・ブラウン蔵相がこのアイデアを採用し、労働党の宣言に取り入れたことは大歓迎である。それはタブロイド紙が「赤ちゃん債」と名付けたように、市民の出生に約500ポンド(710ドル)を配分し(裕福な家庭には半額)、たとえば5歳、11歳、16歳に追加する。その所得は全て実質5%で再投資され、子供が18歳になるときまでに1640ポンドの資産となるだろう。家族や友人が追加に投資してくれるような措置もとる。

財政研究所(IFS)は、その資産の投資先や利回りを規制すべきかどうか、を問題にしている。私の疑問は、実質5%の利回りを前提することである。大蔵省は、これを資産再配分ではなく、もっぱら貯蓄奨励策として宣伝している。

資産配分の改善は、一定の所得以下の人々に、就労テストを課さない給付を広く一般化する上で政治的に容易な手法である。もしこの計画が富の広範な再分配に役立つとすれば、税収以外の新しい財源を見つける必要がある。携帯電話のオークションから得られた政府収入は国債の償還に使ってしまったが、同じような収入が将来も期待できる。こうして、人間の顔をした資本主義の思想が、労働党の宣言により強く示される。


Far Eastern Economic Review, May 24, 2001

ASIAN CURRENCY MARKETSThe Foundations of Stability

By Neil Saker

チェンマイ・イニシアティブに基づくアジア通貨スワップ網の合意は、多くの面で画期的である。それはまず、資本勘定における危機が地域全体に波及する危険を減らすだろう。また、この合意は地域統合の深化を可能にする制度の構築に役立つ。貿易、投資、そして株式・債券市場の国境を越えた統合が、通貨・金融政策の協力を必要とさせる。それはまた、改革を急がなければ内部の問題によって地域経済が弱められることを意味する。

スワップ協定は、危機に対してより迅速で弾力的な資金供給を行えることを意味する。しかし、それはまた、より広範な金融アーキテクチュアの構築に向かう改革の一部として、使用しなければならない。IMFのSDDSに従った経済データの公表や、国際金融コミュニティーの求める銀行監督、資本市場規制、会計基準の採用に向けて、各国は努力しなければならない。危機に陥った諸国が、香港とマレーシアを除いて、為替レートを管理する体制から変動為替レートに変わったことも、スワップの利用をシステム全体への危機の伝染という極端な場合に限定するだろう。

世界の為替市場の取引規模から考えて、通貨スワップの規模は小さすぎて意味が無い、という批判もある。しかし、この地域の為替市場は小さく、取引も少ない。自国通貨がオフショア市場で取引されることを監視・規制する中央銀行もある。こうした条件を考えれば、時機を得た明確な介入は非常に効果的であろう。

それでも金融危機は国内的な理由で発生するだろう。それゆえ、各国は企業や銀行の改革を急ぎ、財政の健全性を回復しなければならない。

The Economist, May 12th 2001