今週の要約記事・コメント
4/23-28
IPEの果樹園 2001
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対照的な不均衡を抱えた経済が、合併すればどうなるか? 問題が消えてなくなる、と思う人はいないでしょう。ゼミで議論したように、アメリカと日本には多くの対照的な不均衡がありながら、独自の調整過程を補完したり妨害したりし続けています。しかし、経済が密接に統合化されるに連れて、相互に<調整過程を調整し合う>ことが、否応無く、重要な政治課題となるのでしょう。
小泉氏の構造改革路線と亀井氏の景気刺激路線も、自民党と民主党の挙国一致内閣も、日本と中国との経済援助と貿易拡大がもたらす共通利益と報復の連鎖も、パウエル国務長官が呼びかけるFTAAも、相互依存の共同管理を模索する複雑な政治的仕組みを目指すものではないでしょうか?
日本と韓国が歴史教科書を互いの学校で交換し、共通の認識を模索すること、あるいは朝鮮半島統一への共同構想を準備しておくこと。アルゼンチンがドル・ペッグからドル=ユーロ・ペッグへと移行し、日本とアジア諸国は金融市場改革と統合化を目指して公式の協議を行い、外貨準備に関する相互利用協定から地域的な政策サーベイランスに向けて、公式のフォーラムを重ねること。あるいは、中国と台湾が、さらにアメリカと中国とが単一の安全保障体制・軍備管理における合意を少しずつでも積み上げること。想像力の領域で自由な政治的合併を描くことによって、現実の問題点を考えることができます。
しかし、隣の家族とも親しい話を交わさない自分たちが、どうして何千キロも離れた土地の、異なる文化と異なる言語、異なった理想や、自分たちの過去の戦争について異なったイメージを持つ人たちと、共通の合意や制度を信じることなどできるでしょうか? 見えざる神の手が、本当に私たちをどこに導いているかについて深く理解することは難しく、ゲーム感覚で犯罪に走る集団や情報端末・先端技術の悪用が、この制度を混乱の温床にするかもしれません。それでも、後戻りはできない、と言うに止まるのでしょうか?
現実主義的判断と政治的なシンボルを駆使することで、対立する勢力とも協力して問題を解決できるような、優れた政治家の十分なストックが国内でも世界でも形成されることが、これからの政治の重要な条件だと思います。
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Financial Times, Tuesday Apr 17 2001
Tokyo's tricky choices
Damon Bristow
米中間の対立は、日本が二つの国のどちらかを選択したくない、という立場を維持できないものにする。これは米中間の問題だ、という日本政府は、アメリカの偵察機が沖縄から飛び立ったことには触れない。
冷戦時代は、アメリカも中国もソ連と対立していた。ワシントンは東京を対ソ戦略の駒と見ていたし、北京も日本のアメリカ軍をモスクワの脅威や日本の軍国主義復活を抑える蓋と考えた。日本政府は北京の反日感情が高まらないように巨額の経済援助を喜んで与えた。
中国とアメリカが互いの行動を敵視し始めれば、日本のこうした戦略的対中宥和政策が転換される可能性もある。ますます多くの日本人が、戦争中の行為に対して中国から繰り返される批判や、この地域におけるより大きな役割を求める中国の要求に苛立っている。
クリントンの日米貿易摩擦重視や対中親密外交は、ブッシュ政権で転換されたが、アメリカの求める分担を日本が拒めば、米中対立は日本を最悪の状態に追い込む。今回、米中の衝突は二国間で収拾された。しかし日本はその最悪の選択も考えておくべきである。
Washington Post, Wednesday, April 18, 2001
With Friends Like These . . .
Where were our Asian allies during the China standoff?
By Ted Galen Carpenter(the Cato Institute)
今回の衝突事件で失われたものは、東アジアにおけるワシントンへの信頼ではなく、この地域の同盟諸国に対するワシントンの信頼であった。アメリカが北京に謝る必要はない、と述べたのはシンガポールのリー・クァン・ユーだけであって、日本も韓国も、タイも、フィリピンも、発言しなかった。アメリカの同盟国であるはずの日本政府幹部は、むしろ北京政府を喜ばすような発言を行った。
東アジア諸国がアメリカの安全保障の傘に隠れるのはいつものことである。1996年の台湾海峡における危機に際しても、それがアメリカとの安全保障条約に含まれることを各国は認めようとしなかった。しかし、冷戦時代と違って、アメリカは東アジア諸国がアメリカ以外に中国市場にも貿易や投資を通じた経済的利益を拡大させつつあることを無視できなくなっている。
東アジア諸国は、防衛をアメリカに依存し、経済的な利益だけは中国と協調しつつある。もし問題が起これば、彼らは中国の怒りを回避し、その経済的な利益を失うことを恐れるだろう。それはアメリカにとって好ましくない状態である。アメリカは東アジアの戦略を変えるべきであろう。
Bloomberg 04/16 14:07
Strong Dollar, Weak Yen -- Get Used to It
By William Pesek Jr.
世界中の政府、官僚、エコノミスト、投資家は、ブッシュ政権が「強いドル」政策を放棄するのではないか、と懸念している。しかし、アメリカ政府がドル安を望むことはありえない。他方、日本は円安を必要としている。
アメリカは、株式市場の役割が増大したために、資本流入が続くことを願っている。それはまた、国内金利を引き下げ、企業の資金調達を通じて景気を刺激するためにも必要だ。経常収支の赤字を考えれば、ドル安を選択できるはずがない。
日本政府は円安促進を否定し、中国はそれに怯えているかもしれないが、日本は不況を抜け出すために円安を必要としている。日銀が円を供給しつづければ、短期的には円安しか考えられない。
リンゼー大統領経済顧問は、<ドル覇権>論者を喜ばせるような主張をしている。すなわち彼は、ドル安よりもドル高がアメリカに有利な理由として、数十億ドルに及ぶシニョレッジ、貿易国としての優位、世界的な投資の本拠地としての優位、を指摘した。製造業者の不利益はこれに比べれば重要ではない、と。
アメリカ政府は、ドルをさらに強くしたいとは言わないし、将来、いつかドル安容認に変わるときも来るだろう。しかし今、世界中の投資家がドル高にバブルを感じて騒ぎ始めることだけは、何としても避けたいだろう。
アメリカの成長率がほとんどゼロになると予想されても、投資家たちは、まだ、円やユーロで資産を持つより、ドル建資産を選択している。安定したユーロの確立は大西洋の両側から支持されている。円安が1997年にアジア諸国へ危機を波及させたことを日米両政府とも理解している。アジアの通貨価値が下落して金融市場を動揺させることを、世界のどの政府・官僚も望んでいない。
しかし、通貨市場の不安は高まっている。ドルは高く、円は安くなる。問題は、どの程度、それが起きるか、である。
Financial Times, Wednesday Apr 18 2001
The benefits of a weaker yen
Jeffrey Sachs
日本政府は繰り返し銀行の不良債権を処理しようとしてきたが成功しなかった。日銀の金融緩和は望ましいが、それだけでは解決しないだろう。
日本の効率的な製造業部門は、1980年代後半の世界の自動車・電機・半導体市場を席巻していた。これをヨーロッパやアメリカの政府は障壁や政治圧力で阻止したのである。1990年代に、日本の交易条件は顕著に悪化した。
輸出に頼らず、日本は国内需要で成長せよ、と言われた。これは、日本の構造的な貯蓄超過を考えれば、間違った提言であった。高齢化に備える日本人は、国内で企業が生産的に投資できる以上の貯蓄を行っていたのだ。それは経常黒字をもたらし、バブル崩壊は円を安くして純輸出をさらに増やすはずであった。ところが、アメリカとヨーロッパは日本が輸出増加で不況を抜け出す道をふさいでしまった。
驚くべきことに、経済が停滞する一方、円は1990−95年に増価した。アメリカ政府は日本政府に財政支出を増やして内需による回復策を求めつづけた。しかし、不安に駆られた家計は貯蓄を増やしたため、財政刺激策は効果を失った。
1995−98年の円安は日本の回復を助けたが、東アジア金融危機をもたらした。アジア諸国は日本から資本財を輸入し、それを日本からの融資で支払っていたから、円安は日本の輸出を増やすはずだった。日本の資本輸出はその貿易黒字を融資していた。
問題は、1997年半ばに、日本からの資本流入が突然絶えたときに生じた。BIS規制もあって日本の銀行は短期融資に集中していた。日本で銀行のバランス・シートが厳しく監督されるようになり、銀行は東アジアの融資を慌てて回収したのだ。実際、円は危機のさなかに増価した。
今や、日本は円安政策に戻りつつある。政府はそう言わないが、不況と金融緩和が円を弱くする。金融緩和が十分に行われれば、来年にかけて円は140−150円に向かう。興味深いことに、アメリカの自動車業界もアメリカ政府が円安を受け入れるべきだと述べた。
金融緩和と円安は、日本に二つの利益をもたらす。一つは、日本の物価が上昇することだ。それは国際的な価格競争力を失わずに、バランス・シート上の不良債務を実質的に削減してくれる。債務超過が緩和されて経済活動が回復すれば、日本の輸入も増えるだろう。第二に、円安は世界需要をより多く日本に振り向ける。日本国内の需要が増えるから、世界需要全体もネットで少し増えるだろう。
その他の世界、特にアジアは、もし日本の超過貯蓄がスムーズに資本輸出され、日本からの純輸出増を吸収できれば、1997年のような危機を心配する必要はない。日本は国内の生産力に見合った輸出を必要としており、アジア諸国は成長のための資本財と技術を必要としている。しかし日本の対アジア資本輸出は、日本側でもアジア諸国でも信頼できる投資として行われなければならない。
それはアジアの金融システムを改善する問題に帰ってくる。日本の金融緩和が望ましい効果を発揮するには、日本および、借り手であるアジア諸国の双方で、金融仲介の大幅な改善を必要とする。一方では、銀行融資よりも直接投資が重要である。しかし、他方で、長期的に安定した融資を行う銀行システムやその他の金融仲介機関の再生が求められる。
<コメント>
少し意外なほど、アジア地域への日本の投資を支持した論調です。Sachsは純粋な変動レートを支持すると思っていましたが、日本やアジア全体が、アメリカ経済の足を引っ張る事態には、例外的に介入主義的な手法を認めるのでしょうか? むしろ、通貨不安から、デフレを輸出する切下げと需要抑制ではなく、経常黒字を持つ日本や、国内貯蓄率が高く生産性上昇の見込めるアジアには、切下げと同時に需要増加を行える、と言うことでしょう。ユーロ圏が予想外に協力を拒む以上、この地域で健全な投資が促されることで、世界経済の減速を修正できる、と。
New York Times, April 17, 2001
China Has Trade Woes With Asia Neighbors
By MIKI TANIKAWA and DON KIRK
米中衝突事故は、中国の官僚たちに、アメリカの足場となる二つの資本主義国がすぐ近くにあることを気づかせた。そのどちらも中国との貿易摩擦で保護主義に向かいつつある。
韓国のニンニク栽培農家は政府に強硬な抗議を行って、中国からのニンニク輸入を制限する措置を求めたが、それは中国からの報復を招いた。週末に、韓国政府は特別閣議で敗北を認め、政府が中国産ニンニク1万500トンを買い上げ、事態を収拾するための特使を北京に送った。
中国は妥協を引き出すために巨大な棍棒を振り回した。韓国製のポリエチレンと携帯電話の購入を止める、と脅したのだ。昨年7月に、韓国がニンニク輸入の関税率を30%から315%に引き上げようとしたとき、中国はこれらの購入を停止した。韓国側の損失は、40日間で1億ドルに達したと推定される。両国は年間3万2000トンのニンニク輸入を合意したが、それ以後、韓国は2万1500トンしか輸入していないのに関税を上げた、と中国側は報復した。
日中間の貿易紛争も同じ方向へ進んでいる。日本政府は国内の生産業者から強い政治圧力を受けて、ねぎ、椎茸、イグサの関税率を引き上げようとしている。それをWTOのセーフ・ガード規制で説明するが、中国はまだWTOに加盟していない。
日本はこれまで反ダンピングやセーフ・ガード規制に消極的であったが、その基本的立場が変化し始めた。さらに多くの貿易摩擦や李登輝訪日ビザ問題で、この地域の両大国が険悪な関係になると予想される。日本の通商政策幹部は、中国が輸出自主規制を採ればよい、と述べたが、韓国との紛争例を見れば、中国は報復措置を拡大するだろう。アジア諸国は対中貿易でより大きな損失も覚悟すべきである。
Financial Times, Thursday Apr 19 2001
Editorial comment: The Fed's big surprise
Bloomberg 04/18 15:56
Does the Fed Know Something? Don't Even Go There
By Caroline Baum
Financial Times, Friday Apr 20 2001
Talking stock: Does Fed know something we don't?
Philip Coggan
なぜ2度も例外的な緊急引き下げを行ったのか? Fedは何か特別な事情を知っているのではないか? 企業が投資を減らすとしても、それまでアメリカ経済は供給能力の限界に達していたのだから、この程度の減速は望ましいはずだ。Fedは投資家を救済しているだけではないか?
その理由は、ロバート・ルービン元財務長官が残した遺産であろう。Fedは、ボブ(ルービン)にならって、もっとも効果的な市場介入の条件を狙って金利を下げたのである。しかし、グリーンスパンが賞賛したニュー・エコノミー型経済には、それに特有のインフレ加速がすでに準備されているかもしれない。
Fedが特別な情報をもっている、と考える者は少ない。これは今までと異なった不況である。もし企業の過剰生産力が処理されねばならないとすると、株式市場が両極分化していくだろう。この過程では、Fedの金利引下げも機能しない。
Financial Times, Friday Apr 20 2001
Greenspan shows a sense of urgency
Stephen Cecchetti
FedはIT投資の急減と生産性への影響を懸念したはずだ。さらに、株価下落によるマイナスの資産効果が拡大するのを止めるには中央銀行が動くべきである、と考えた。資本市場で資金を調達できなくなった企業が、銀行融資に向かっている今、金利引下げが重要である。
それは、一部で言われるような、Fedが相場の水準を支持していることにはならない。市場が予想しなかった引き下げは、Fedがいかに経済の悪化を防ぐことに緊急性を与えているか、を示している。彼らは前回の会合で、予定されているFOMCにあわせて経済実態を評価するのでは、急速な変化に対応できない、と中間の判断を合意したのかもしれない。
もちろん、不況を回避することは、インフレ抑制とトレード・オフの関係にある。緊急事態が回避できれば、金利は直ちに引き上げるべきだ。
Financial Times, Saturday Apr 21 2001
Argentina hit by worries over economy
By Thomas Cat疣 in Buenos Aires and Jenny Wiggins in New York
カヴァロ経済大臣への不信感と債務不履行への恐怖から、アルゼンチン債券の価格が暴落した。
最初は投資家の信頼を集めた彼の非正統的な手法が、次第にほころび始めた。FTとのインタビューで、カヴァロはアメリカの提案するFTAAへの参加を示唆して、ブラジルの反感を買った。それはデ・ラ・ルーア大統領の方針とも対立するものだった。さらに、金利を引き下げ、成長を促すために、彼は金融部門に限定して財政資金を供給し始めた。それは金融システム強化とドル・ペッグ制とのバランスを危うくし、中央銀行総裁ペドロ・ポウとも対立する。
そして遂に、カヴァロはドル・ペッグにユーロを加える長期計画を発表した。投資家たちはこの計画を切り下げではないかと疑い、カヴァロは弁明に明け暮れた。もはや「市場の雰囲気は一変した」と言われる。
New York Times, April 20, 2001
A Foreseeable End to the Fed's Magic
By JAMES GRANT
「現時点のリスクは、予見しうる将来において、経済が悪化する状況に傾いている」と、Fedは突然の金利引下げを説明した。<予見しうるforeseeable>という文句に、経済計画家としての独特の感覚が込められている。シスコ・システムズはコンピューターで武装した彼らの鼻がへし折られるのを予見できなかった。Fedが彼らよりも未来の事件を予見できると言うのか?
ウォール街では、アラン・グリーンスパンならできる、と今も信じている。どうやって彼にできるのか? それは誰にも分からない。(元来は何の価値もない紙切れだが)ドルの価値を保ち、経済成長を促し、インフレを抑え、金融システムを守るために、彼は行動している、と。これは大きすぎる仕事だ。かつてのソビエト連邦で、計画局が実行できなかった仕事を思い出させる。彼らにとってさえ、<予見しうる>将来とは、驚くほどわずかでしかなかった。
資本主義国のアメリカではもっと賢明なのか? しかし、結局、金利は貯蓄と投資をバランスさせる価格に過ぎない。金利が低すぎれば投資は過剰になり、高すぎれば過少になる。このブームを作り出した過程で、Fedは金利を低くしすぎた。ハイテクに集中した過剰な投資を削減して、資本を再配分すべきである。しかしそれは損失をもたらす。
投下された資本の価値を評価するのは株式市場である。恐るべき暴落を経ても、まだ歴史的に見て株価は高すぎる。貨幣市場に介入を繰り返すことで、Fedが投機的な資本を株式市場に誘い込むことは、相場を保証することになってしまった。金利に関する民間市場は人為的なものであり、完全ではない。しかし、市場が政府よりも価格を決める点で賢明だと知っているはずのグリーンスパンが、市場価格の効率性のシンボルから、黒魔術の空しさのシンボルへと、その引退前には変わっていることだろう。
<コメント>
同日のSome Patients Are Too Sick to Be Helped by the Fedという記事で、FLOYD NORRISは、金利を低くしても多くの企業は借りることができない、と指摘しました。「どんなに金利を下げても、売れない製品を作る工場を建てる会社はない」。だから、財政的な刺激策が必要だ、と言うことになるのは、大幅に失業が出てからでしょう。どの程度の失業が資源の再配分過程で出るか、は金利や財政支出を超えた調整過程の問題です。
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The Economist, April 7th 2001
Consumers to the rescue?
不況の谷底への旅はいつも曲がりくねったデコボコ道である。平坦な道や上り坂があると、人はそれが谷底だと思いたがるが、同じように株価の上昇でアメリカ経済の下落は終わったと信じる者もいる。しかし、多くの者はさらに険しい下りがあることを恐れている。誰が正しいかは、消費者が決めるだろう。
製造業部門はすでに不況が続いてきたが、楽観論者には明るさも見える。全国小売業組合の指数に売上が回復する兆候を見るからだ。あるいはFedによる金利引下げの効果を信じる者もいる。しかし、結局、経済統計は深刻な不況など示していない、とFedが判断するかもしれない。
たとえ金利を下げても、利潤見込みが悪化し、技術進歩のための投資が控えられるなら、支出は止まってしまう。金利引下げは融資の減少を止められない。多くの企業は速やかな景気回復を期待して、人員削減の極端な対応を採っていない。しかし、日に日に対策を迫られる企業は増えるだろう。
そんな中で今のところ堅調なのは、明日のことを考えていないかのような、アメリカの消費者である。消費支出はアメリカのGDPの3分の2を占め、増加しつづけている。クレジット・カードによる支払いで「マイナスの貯蓄率」を実現する。では株式市場で失われた数兆ドルのもたらす「マイナスの資産効果」はどうなったのか? それはアメリカ人の話題に上っただけで、行動に影響していない。
人々が株価暴落を支出に反映させるには、思われている以上に長い時間を掛けるのかもしれない。また、所有する自宅の価格が10%以上も上昇して、株価下落の約半分を埋め合わせたようだ。株価下落が住宅価格に波及するという証拠はない。むしろ、どちらかと言えば、逆向きに動いてきた。
住宅価格を維持することがFedの目標になるかもしれない。金利引下げがモーゲージによる住宅購入を刺激し、それは消費者に直接資金を与える。最近の貨幣供給増加でFannie Mae 連邦抵当金庫FNMAとFreddie Mac連邦住宅貸付抵当公社FHLMCとが融資を増やしており、政治的な争点となっている。
住宅市場が活況を続ければ、消費が加速し、高額商品も売れるだろう。他方、最大のリスクは労働市場である。失業は経済活動の変動に遅れて変化する。もし企業が解雇に踏み切りだすと、消費者は倹約を学ぶことになる。
Global Warming: Oh no, Kyoto
京都議定書は工業諸国が温室効果ガス削減を決めて1997年に締結したものである。アメリカのゴア副大統領がその先駆的提唱者の一人として署名した。その後3年が経って、ゴアが大統領になることを阻止した男、ジョージ・ブッシュによって、この議定書も死滅させられた。
実際、議定書はすでに行き詰まっていた。EUは、より弾力的な実現方法を認めるようにというアメリカの提案を拒否した。ヨーロッパ諸国の大臣の中には、議定書の実現よりも、アメリカが経済的な痛みを感じることをはっきり求めていた。また、ブッシュ政権が議定書を拒んだことよりも、各国はそのお粗末な手法に驚愕した。EU諸国内部でも立場はいろいろである。
アメリカ環境保護局のホイットマン女史の声明を聞けば、京都議定書は本当に死んだのか、分からなくなる。もしブッシュ父子が、京都議定書で決められた削減目標やタイム・テーブルを拒否しただけで、リオ・プロセス自体には賛成しているのであれば、より革新的な手法で目標を実現する提案が準備されるだろう。
彼らの指摘した反対理由は三つである。@科学的根拠が怪しい。A貧しい諸国の参加が欠けている。Bアメリカの経済的負担が大き過ぎて、政治的に実現不可能である。まず、この最初の反対は退けられるべきだ。多くの科学的な根拠による合意が形成されつつあり、主要な排出企業も同意し始めている。
次に、中国やインドが規制を受けずに「ただ乗り」を続ける、という問題は、リオ・アプローチの根幹に触れる。すなわち、環境問題は人類共通の課題であり、その負担は各国が能力に応じて異なった負担を受け入れるのである。これまで温室効果ガスを排出しつづけた工業諸国が率先して規制に取り組み、その責任を果たすべきである。
最後に、ブッシュ氏が言うような「エネルギー危機」はアメリカに存在しない。カリフォルニアの間違った電力自由化と混乱があるだけだ。しかし、京都議定書にコストの問題を指摘することは正しいだろう。もっと弾力的な方法で、市場を利用し、革新的な技術を促し、それに投資すべきである。EU代表の市場に対する疑いを克服しなければならない。
問題の性格からして、短期的な上限を強制することは無意味である。もし安全弁として、短期的な目標を達成できない場合、その国が追加的な排出削減への資金負担することを決めておけば、合意そのものが決裂することは無くなる。
いくつかの可能性がある。@ヨーロッパ諸国が市場の利用に理解を示す。Aブッシュ氏がアラスカの開発を進めて反発を買い、国民の環境に対する意識を支持するようになる。BEUがアメリカ抜きで京都議定書を続ける。Cブッシュが革新的な新提案を行う。皮肉なことに、結局、ブッシュが京都議定書の救世主となるかもしれない。
The darling dollar
国際投資家たちはドルと心中しそうな熱愛から目が覚めない。アメリカ経済が急速に減速する中で、ドルは15年ぶりの高い水準にある。円が弱いのは分かる。しかし、なぜユーロに対してもドルが増価したのか? 成長率格差による説明はもはや当てはまらない。
一つの理由は、市場がECBを信用できないこと。もう一つは、ヨーロッパ、特にロシアのギャングがユーロよりドルに乗り換えた、と言うのだが、為替レートを動かすほど大きいとは思えない。世界的な不透明感が増す中で、ドルが伝統的な避難所の役割を果たしつつある、というのがもっともらしい理由である。
しかし、為替レートが、ユーロ圏とアメリカとの生産性上昇率に連動してきたことを重視する者もいる。まさに経済理論も、貿易部門で生産性上昇が大きい国は為替レートが増価する、と教えている。そして、短期的には生産性上昇率の逆転があっても、長期的にはアメリカの生産性上昇がヨーロッパよりも高い、と信じているのである。もしアメリカの深刻な不況がこの確信を打ち壊したときには、ドルの暴落が確実となる。
投資家たちはアメリカの減速は短期で終わり、長期的にアメリカへの投資が有利だと信じている。それは逆に、ヨーロッパのユーロ導入による競争と改革を軽視し、労働の弾力化やIT投資による生産性上昇がアメリカに続いてヨーロッパでも実現する可能性を無視している。もしヨーロッパは変わったと思うなら、ユーロを買いなさい。そう思えないなら、ドルと心中するしかない。