今週の要約記事・コメント
4/16-21
IPEの果樹園 2001
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内閣不信任案を否決した自民党は、党員の意見を少し加味した、自民党国会議員たちだけの、わずか480票余りで、日本の首相を決めます。中国との摩擦や京都議定書の廃棄の後に、アメリカ政府が開かれた国際秩序を真剣に支持するのか、まだ分かりません。口蹄疫で国民の不満を集めているイギリス政府や、金融政策で不協和音の絶えないEUも、国内の不満解消に忙しいでしょう。
主要国の不況と内向き政治が、国際的不均衡に融資する者に消極姿勢を促します。日本が緩やかな円安を、促さないまでも拒む理由は無く、ASEANや韓国、中国からの不満に違う形で答える必要があるでしょう。しかしスワップ協定は、基本的な条件が安定していなければ機能しません。円高は困る、金融緩和も国内銀行・産業の再編に時間がかかる、というのであれば、アジア諸国の債務処理や開発融資に役立つ制度が、次に検討されるのでは? 日本の貯蓄を、これ以上、国債やドル建資産に向けるのではなく、アジアに透明な市場を求めるべきでしょう。
トルコは国営企業や銀行を外資に売却し、すでにそれを終えたアルゼンチンはドル・ペッグからドル=ユーロ・ペッグに進みたい、と考えています。もし主要国の政策やIMFなどの国際機関がそれを支援できれば、今までのような深刻な通貨危機をともなわない「弾力的」で「安定的な」国際通貨制度の調整メカニズムができるかもしれません。
しかし、ECBが決断できないのは、完全なコンピューター管理も、完全な政府統治も存在しないからです。では、街頭デモがプラカードに何と書くべきでしょうか? 「雇用」を守る「頑健な」制度こそ、より良い制度だ、と。
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New York Times, April 7, 2001
A Computer Would Do Better Than the Fed
By T. J. RODGERS
景気後退を招いて、連邦準備制度の権力は批判されている。連銀は、経済を減速させようとして突然停止させてしまった。問題は、誤り無く経済を微調整できるほど未来を知っている、という連銀の前提にある。しかし、寒波が来たり、技術革新が起きたりと、経済は偶然に影響されており、それらはどれほど経済統計を駆使しても予測できない。Fedは経済問題を緩和するのと同様に、増幅するかもしれない。
それは、ランダム変数を管理する問題として、数年前に数学的に処理されるようになった。システムにおいてランダムに発生する「ノイズ」は、先が細くなる<じょうご>に落ちたボールと同じく、らせん状に転がる。重要なことは、ボールがどこに落ちても、じょうごを動かさず、その先を目標に固定しておくことなのである。じょうごをランダム・ノイズに微調整することは、システムをより大きく変動させる。この問題はシステムに遅れが含まれるとさらに深刻になる。そうしたFedの行為が投機の対象にさえなる。
シリコン・ヴァレーのバブル崩壊からみれば、それゆえ、金利を完全にコンピューターに委ねるべきである。消費者物価、失業データ、主要な経済指標を含むプログラムに金利を連動させるのである。そうすれば、アラン・グリーンスパンであれ、誰か他の個人であれ、人間の解釈が加えられる必要はない。
プログラムの規則は公開され、誰でも金利変更を合理的に予測できるようにすれば、Fedが金利を変えるかもしれないという思惑で株が売買されることもない。経済条件が大幅に変化してプログラムを修正する必要があれば、公に議論して、調整すればよい。景気後退は防げないだろうが、少なくとも、金利が経済の不確実性をさらに増やすことはない。
Bloomberg 04/07
Asean Says Currency Swaps Won't Replace IMF Pacts
By Yoolim Lee
IMFが国際的な最後の貸し手でないことを思い知ったアジア諸国は、外貨準備を互いに利用できるようなスワップ協定を結んだ。ただし、それはIMFの融資枠に追加される形で利用できることとし、融資条件を一致させた。ASEAN+3(中国・日本・韓国)の枠組みで、その外貨準備を拡大しようとしている。
1997-98年の通貨危機では、IMFの運営が欧米諸国に支配され、緊急融資が不十分であったし、日本のアジア通貨基金案も拒否された。アメリカの成長が衰えて、エビから半導体まで、アジア諸国の輸出は急激に減少しつつある。再び、日本経済の悪化と円の減価がアジア通貨に圧力を加えつつある。円安に連れて、アジア諸国は輸出を維持するためにも通貨を減価させるが、国によっては、それが原油などの輸入コストを高め、あるいは外貨建て債務の負担を増やす。
スワップ協定は、共同で危機を回避する資金協力を意図している。
Bloomberg 04/08
Asean Finance Ministers Worry About Weaker Yen
By David DeRosa
ドルやユーロに対して円が安くなることをASEAN諸国は心配している。なぜならアメリカやヨーロッパの市場で日本からの輸出が安くなり、彼らの輸出が相対的に不利になるからである。しかし、円安は避けられないだろう。日本の景気は後退し、日銀はこれに対して十分な円を供給することを約束したからだ。もし日銀がこれを実行すれば、円は減価する。同量の財に対して貨幣供給が増えれば、物価は上昇するに違いない、と。
しかし、それは円高をもたらす、と主張する者もいる。新しい金融政策が非常にうまくいって、日本経済が回復し始めれば、再び海外の投資家が日本に関心を示す。日本の株式が購入されて、むしろ円高になる、と。私は、日本が景気回復するのは数年先であろうから、円高にならないと思う。
円安を心配するアジアでは、中央銀行が互いに外貨準備をスワップすることで為替市場に介入する、という試みが注目されている。これをアジア通貨庁(an Asian Monetary Authority)設立への第一歩とみなす者さえいる。
しかし、これは危険な発想である。私は、通貨危機が外国為替市場で発生したとは思わない。それは国内の間違った金融政策の結果であって、スワップ協定など必要ない。危機から数年を経て、私は、自生的な金融的「感染」など無かった、と確信している。感染は危機に対して各国が示した共通の特徴に由来していた。
むしろ外貨準備スワップ協定は、感染理論に新しい根拠を与えるだろう。ある中央銀行が、他の中央銀行の外貨準備を用いて通貨を防衛できる。それは互いに協力して危機を回避する点で、よさそうに見えるだろう。しかしさらに考えれば、ある国が外貨準備を枯渇させて他国の準備を利用するのであるから、危機は次々と波及する。中央銀行のバランス・シートが地域全体として悪化するようなシステムを作れば、確実に危機を招くのである。
Financial Times, Tuesday Apr 10 2001
Editorial comment: Asia links up
アジア金融危機を処理するに際してIMFが犯した過ちは、この地域に長く癒されない精神的な傷を残した。アメリカが支配するIMFには頼れない、という気持ちが、アジア諸国を金融的な自律に向けて協同させる。ASEAN10カ国と、中国、日本、韓国が、カレンシー・スワップ網を形成した。
1997年の危機当時も、ASEAN諸国は限定的なスワップ合意をしていたが、新しい合意はその規模を飛躍的に拡大した。外貨準備の総額は6200億ドルに達する。それは、東アジアの地域協力が新しい段階に入った点で歓迎される。しかし、IMFのモニタリングをどのようにみなすか、で意見が分かれたように、問題も抱えている。
EU以上に地域内の多様性が大きなアジアでは、各国の国益を超えて意思決定することが非常に難しい。また、ASEANの伝統的な不干渉原則や、集権的な官僚機構が存在しないことも、協力を難しくする。それゆえ、アジア全体の共通政策を形成するにはまだ時間がかかり、アジア通貨基金や単一通貨を唱えることは時期尚早である。より緊急の課題は、構造改革と貿易自由化を促進することである。
しかし、同時に、国際金融アーキテクチュアに対するアジアの不満を無視してはならない。IMFの中で、世界経済に占める比重を反映したふさわしい役割をアジアに与えない限り、彼らの不信はぬぐえない。
New York Times, April 9, 2001
America Is Borrowing Trouble
By FRANCO MODIGLIANI and ROBERT M. SOLOW
ブッシュ大統領の所得税減税案は、(裕福な人々に有利であるという議論以上に)アメリカの国際貿易収支に深刻な影響をもたらすだろう。
この10年間で、アメリカは例外的な成長を実現した。生産は約40%増加し、投資は2倍以上、消費も40%以上増えた。それは他方で、対外的な収入以上に支出を増やし、貿易赤字を拡大してきた。2000年末で、それはGDPの約4%に達し、なおも増加している。
一国がその所得以上に貨幣を得るのは、借り入れによるか、資産を売却したかである。この繁栄の間、アメリカは外国人に政府債券や企業の株式など、資産をどんどん売却し、債務に沈み込んだ。債務額が小さく、債権者が心配しない内は、それも問題ではない。しかし、もし債務が管理できず、債権者が以前より疑いを抱くようになれば、債務国通貨の減価と資産価値喪失を恐れて、アメリカの増加する債務を融資したがらなくなる。
ドルの減価は輸入抑制と輸出促進により貿易赤字を減らすだろう。しかし、減価はいっそうのアメリカ資産売却を促すから、ドルが大幅に下落する。アメリカ経済の規模と力が貿易収支の悪化にもかかわらずドルの暴落を防いできた。しかし、それが将来も正しいとは限らない。連銀や財務省がドルを買い支える力は、その外貨準備がわずかでしかない点で、限られている。
それゆえ、ドルからの資本流出は大幅なドル価値の減少と輸入物価上昇、およびそれを介したコスト上昇によるインフレをもたらす。賃金と物価の悪循環が起きれば、急激な金利上昇が起きる。それは他国に問題を波及させるだろう。このハード・ランディング・シナリオを信じる者は少ない。しかし、現在のコースを変えなければ、その危険は増加する。政府と議会は、失業をあまり増やさずに、貿易収支を均衡化しなければならない。
そのためには二つのことが必要だ。国内の所得に対する支出を次第に減らす(国内貯蓄を増やす)こと。同時に、純輸出を増やすこと、である。国内需要を減らさずに輸出を増やせば、インフレ圧力を高める。逆に、それに見合った純輸出を増やさずに国内需要を減らすことは、生産と雇用を減らす。
不幸にして、ブッシュ大統領は逆のことをしようとしている。恒久的な減税は貯蓄を増やさず、むしろほぼ同額の消費を増やすだろう、と主張される。過熱した国内経済を前提すれば、消費の増加はインフレと金利上昇をもたらし、それが国内投資を減らして、さらに貿易赤字を増加させる。
将来の成長につながる投資を犠牲にして消費を増やすこと、より多くの債務をさらに高い金利で維持するために将来の増税を覚悟して減税すること、外国からの借り入れで減税することを、いったい誰が喜べるか? 深刻な景気後退が明らかであるから、減税が必要だ、とも言う。しかし、たとえ不況が現実に来ても、純輸出の増大が最善の対策であり、そのために管理されたドル安と他国の景気刺激策、特にECBの金利引下げを促すことが正しい。限定的な減税策も考えられるが、その短期的な効果はわずかである。
Financial Times, Thursday Apr 12 2001
Editorial comment: Common sense prevails
Bloomberg 04/11
More Than 2 Planes Collided Off China: Patrick Smith (Update1)
By Patrick Smith
中国人飛行士が事故で行方不明となり、また海南島に無断で着陸したことについて、アメリカは「申し訳ない」と言ったが、(衝突事故の責任やアメリカ軍の偵察活動について)謝罪はしていない。中国は、アメリカとの関係が悪化することを避けた。最大の輸出先であるアメリカ市場を失うことで中国が得るものは何もない。アメリカ政府と対立して、直接投資やオリンピック誘致が成功するはずがない。他方、人民解放軍は、EP−3偵察機を手中に収め、アメリカの偵察行動に対抗して、今後、政府からより多くの財政的な資源を得るだろう。
ブッシュ大統領は議会の対中強硬派を抑制できたし、パウウェル国務長官が対中政策をうまく一本化した。しかし、米中間で対立感情が残った結果、今後、議会の最恵国待遇批准問題で論争が再燃するかもしれない。
なぜ早く謝らないのか? とアメリカのビジネス界は苛立った。何十億ドルもの直接投資を守るために、大企業のロビイストたちがアメリカ議会に集まった。ブッシュ政権は頭が固い。日本に詳しいスタッフばかりで、対中政策が何も無かった。冷戦時代の発想が政府を支配していた。他方、中国市場はすでにアメリカにとって重要であり、特に将来の成長に対する期待が圧倒的である。ビジネス界には18世紀以来の重商主義しかない。
海南島事件は、将来、米中対立時代の出発点として記憶されるかもしれない。それは、アメリカ外交の知的な劣化、原則における堕落が、事態を悪化させるからである。
Washington Post, Tuesday, April 12, 2001
. . . A War of Words
By Richard Cohen
ある夜、北京の政府高官は、こんな報告を聞いて跳び起きる。「Kマートでお買い物をされているお客様にご注意申し上げます。中国製のスニーカー、Tシャツ、スラックス、ブラウス、セーター、その他、どの商品もお買い上げにならないように。ラベルを確かめ、そして、海南島で捕らわれているアメリカ人たちのことを思い出してください。では、楽しいお買い物を。」
どうして、起こりえない、などと言えるのか? 中国政府はアメリカの偵察機と24人の乗員を引き渡さないことで、大きな損失の危険を冒したのだ。1160億ドルの対米貿易額。アメリカ人は先月だけでも72億ドルの貿易赤字を中国に支払ったのだ。貿易や直接投資を考えれば、北京の行動は奇妙であった。もちろん、中国人パイロットを亡くして、アメリカによる偵察活動に憤慨するのは理解できる。しかし、その対応は理解できない。
今回の米中危機は言葉の危機であった。"sorry," "regret," "apology" "irrational," "nuts," "unpredictable" "weird" など、さまざまな言葉が飛び交った。ブッシュ大統領が最初の強硬な姿勢を次第に和らげて、他の幹部が穏健な発言に転換するのを許したことで、中国政府は救われた。
中国とロシアに対して、ブッシュは、テディー・ルーズベルトの教訓:「大声で話し、棍棒を持っていけ」を修正して実行しようとした。しかし、それは通用しなかった。アメリカ人の乗員を取り戻せたのは、軍隊を送ったからではなく、「謝罪」とは言わないで謝ったからである。しかも、同盟諸国がブッシュ政権の顕著なユニラテラリズムに警報を発しており、中国との対決姿勢を強く支持しなかった。国内でも、予算案や減税など、ブッシュ大統領の指導にすんなり従う者はいない。
しかし、ブッシュの本能的な対中不信感はその正しさが証明された。中国政府の行動を説明し、合理的に理解し、それについて弁解することはうまくいかなかった。中国は子供のように癇癪を起こした。要するに中国は、アンクル・サムがひれ伏すべきだ、と主張しているのか?
中国はあまりに大きく、人口が多く、変化しつつあるから、無視できない。しかしそれは天安門で学生デモを大量殺戮した国である。反政府的だとして宗教団体を投獄したり、信者を死亡させたりする国である。結局、管理できない、というのがその理由である。キリスト教会を弾圧し、チベットの占領を続けている。中国の反体制派を調査に訪れたアメリカ人を逮捕し、スパイだと告発した。民主主義ではなく全体主義が支配し、自国民にも嘘をつき、指導者たちの統一性は必ずしも無く、ひどい連中が指導権を握ることさえある。
今回の事件が多くのアメリカ人に与えたのは、こうした印象である。それは十分予測できたはずだ。中国政府はそれをしくじった。貿易問題はこじれるだろう。その大敵、台湾が唯一の利得者である。彼らが望む武器は何でも手に入るだろう。外交に何の関心も無かったアメリカ人たちが、突然、中国のしていることに関心を向けた。そしてKマートのような企業に憤慨したe-mailを大量に送りつけ、中国製品をアメリカ中の棚から撤去しろ、と言い始めたのだ。
中国の指導者たちよ。これは大きな失敗であった。
New York Times, April 12, 2001
Argentina May Peg Peso to Euro as Well as Dollar
By BLOOMBERG NEWS
カヴァロ経済大臣は、アルゼンチンがドルとのペッグに、ユーロも加味するだろう、と述べた。計画では、2年か3年以内にドルとユーロを半分ずつにして、さらには円も追加していく、という。しかし大臣就任時には、ドルとのペッグを放棄することはありえない、と語っていた。
投資家は、それが切下げをごまかすためだ、と疑っている。現在の為替レートでは、それは5.8%の切下げになる。しかしカヴァロは、切り下げになるような移行は考えておらず、ユーロの価値が回復するのが先だ、と述べた。しかし少なくとも、ネメム政権下で主張された「完全なドル化」は放棄された。移行への準備として、アルゼンチンはユーロ建の銀行口座や金融取引を認めることになる。
Bloomberg 04/14
Turkey Confident It Will Get Foreign Aid, Dervis Says
By Yalman Onaran
通貨リラが46%減価した後、トルコ政府はIMFや他の国際的貸し手と120億ドルの追加融資について交渉し始めた。輸入物価の上昇でインフレ率が倍になり、成長の減速と雇用削減が起きている。政府は(通貨市場を安定化するために)、雇用削減、国営企業への補助金減額、新規公共事業放棄で、歳出を(インフレ調整済み)9%削減する予定だ。財政黒字を3%から5,5%にする。
政府は変動制を維持し、為替レートに対する介入水準を示さなかった。2月までにインフレ抑制はうまく行ったが、政府の国有資産売却と銀行システム強化が進まなかったことで、投資家の信認が失われた。そこで、ほとんどの政府系銀行や政府独占を排除し、国営企業の売却を促す法律を用意した。
通貨価値の下落はトルコの銀行をさらに弱め、国有化や合併が進められている。自己資本の強化や雇用削減、支店の整理が行われてきたが、より大胆な銀行の閉鎖が必要である、と言う。政府の国際的な借り入れコストは大きく増加し、他方、キャピタル・ゲイン税による税収は失われるだろう。トルコの国営テレコムを市場で売却し、49%までは外国人の保有を認める。
イスタンブールでは市民の街頭デモが行われている。経済危機に対する政府の対応を批判し、「IMFを拒否しろ」とプラカードに書かれている。「破綻した銀行ではなく、労働者や公共部門を救済しろ」と。首都アンカラでは、今週初めの7万人集会が暴動になってから、デモが禁止された。
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The Economist, March 31st 2001
Let the huddled masses in
アフガニスタンでハイジャックした飛行機をロンドンに向かわせる。トルコで錆付いた小船に乗ってイタリアの海岸に難破する。カナダで荷揚げされるまで何週間もコンテナに隠れる。ジャンボ・ジェットの翼にしがみついて、窒息したり凍えて死なないことを祈る。リオ・グランデ川に飛び込んで泳ぐ。フロリダに向かうタイヤに潜む。サハラを歩いて横断し、スペインまで漕ぎ渡る。もしあなたが世界の絶望的に貧しい地域に生まれたら、より繁栄した土地をめざして何かするだろう。
合法的な移民が厳しく制限されればされるほど、移民たちは非合法に、絶望的な試みを繰り返す。アメリカ・メキシコ国境では、フェンスが高くなり、国境警備が強化された。先週、ドミニカからアメリカへの密入国を試みて失敗した船では、生存者が死者の肉を食って生き延びた、と言う。ヨーロッパでも、国境管理の強化は、移民たちの密入国を犯罪集団に行わせ、彼らをぼろ舟に詰め込み、空気の入らない大型トラックに押し込ませる。
反移民感情が強まり、各地で政治論争になっている。移民が犯罪や失業を悪化させ、社会福祉を奪っているという大衆の不安を利用して、煽動的政治家が票を集める。
より多くの人々が貧しい国から豊かな国へ移住した方が良いのではないか? 財、貨幣、アイデアが自由に移動できる世界で、人が移動できないのは奇妙である。絶望的な人々が非難できる聖域があるべきだし、彼らを新しい市民として歓迎するべきである。実際、より多くの豊かな国が、職種によっては移民を求めている。移民が流入することで、さらに雇用が増えて成長が促される面もある。労働力不足が深刻な国もある。移民はインフレを抑制し、決して社会福祉の負担増を意味しない。
しかしそこにはさまざまな移民規制や移民政策が存在することで、自由な移動をゆがめている。もっと開かれた体制を採れば、むしろ必要な職場に、短期的な就労を目指す移民が増えるだろう。たとえ時間がかかっても、より自由な移民体制に向けて移行すべきである。
Some realism for Mercosur
Another blow to Mercosur
アルゼンチンのカヴァロ経済大臣が一方的に関税を引き上げたことは、関税同盟としてのメルコスールを終わらせる。ブラジルは、経済危機にあるアルゼンチンが一時的に、切下げの代わりに、関税を引き上げることを受け入れるだろう。しかし、地域経済統合を目指したメルコスールの初期のエネルギーは、各国による異なった為替制度の矛盾で失われた。関税同盟など、その他の政策協力も実現しそうにない。ブッシュ政権はアメリカ自由貿易協定FTAAを推進しようとしている。
メルコスールが生き延びるとしたら、それはブラジルが単に自国の政策手段として利用するのではなく、共通のルールや制度において政策を話し合うことが必要である。
Poverty and Property Rights: No title
貧しい諸国の人々は、思われているほど貧困ではない。彼らは資産を持っているが、それを法的に所有できないのである。それゆえ彼らは住居や畑を担保に融資が受けられない。有り余った土地に少ない人口が散らばっている状態と違い、社会が資本を必要とし、都市や市場で見知らぬ者同士でも契約や投資に参加できるためには、健全な所有制度が必要である。
アフリカ諸国で独裁者が所有権を共生したが、成功しなかった。アメリカの開拓時代には、次第に各人の占領地を買い取らせ、所有権を確立する法律が整備された。こうして国民は市場による成長に参加できた。
Submerging again?
東アジアと東南アジアは輸出に依存している割合が高い。アメリカが最大の輸出先であり、日本がその次だ。だから、両国の成長が衰えれば、その影響は確実だ。しかも国内需要が弱く、不良債権があるために金融政策が働かない。しかし、再びアジア通貨危機が来る、という心配はないだろう。固定相場制は放棄したし、経常黒字と外貨準備がある。対外短期債務は削減された。円安が起きれば、今回は、アジア諸国の通貨も減価する。
新興市場経済といっても、ラテン・アメリカ諸国は貿易ではむしろヨーロッパに依存しており、アメリカには資本流入で大きく依存している。それゆえ、もしアルゼンチンが切下げれば、その影響はラテンアメリカ諸国にとって深刻である。ブラジルのわずかな対外収支悪化も資本流入を減らし、通貨が減価する。インフレ目標を守るために中央銀行が金利を上昇げるから、短期金利やドル価値に依存する国債が累増する。
アジアもラテン・アメリカも、国内の改革を急ぐべきであった。
Japan’s economy; Wrong or strong?
不思議なことに、日本の経常黒字が減少している。問題は、輸出が減っていることではなく、輸入が増加し続けていることである。1月の輸出が前年比2.9%の増加に留まったが、日本経済の不調にもかかわらず、輸入は24.8%の増加である。
二つの説明がありうる。一つは、日銀が実質的な金融引締めを続けたから、円高が起きた、と言うもの。もう一つは、消費者が日本経済の回復に大きく貢献した、と言うもの。しかし、消費が上向いた証拠はない。将来の不安、政府への不信、国債の累積、民間債務、犯罪の増加、少子化、養育費や社会保障への不安。銀行も企業もまだ債務処理が終わらない。デフレ傾向は消費を遅らせ、企業は生産を中国に移転させてきた。
確かに需要側の増加はないが、供給量を見れば、日本の消費ブームはすでに始まっている。もしそうであれば、景気回復に希望が持てる。世界は貯蓄の増加(消費の抑制)に苦しんでいる。アメリカの家計は株価下落で貯蓄を増やそうとし、日本でも財政赤字削減や企業の投資抑制が起きるかもしれない。
もし日銀が金融緩和で国内需要を刺激することに成功すれば、経常黒字は増えないだろう。すでに、日本の国内需要は数字が示す以上に増えている。そうなれば、日本は世界に貯蓄(デフレ)を輸出しないだろう。