今週の要約記事・コメント

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IPEの果樹園 2001

ラテン・アメリカやアジアで広がる金融市場の不安に対して、1998年と違い、主要国は積極的な対応ができないようです。むしろ、アメリカもヨーロッパも日本も、次第に自分たちの利益と、国際秩序や協調体制の目的とが矛盾してきたことを、意識しているかもしれません。

成長や投資、貿易による相互利益の拡大が失われたとき、協調関係を維持するのは、社会的なコスト分担への合意であり、それが暗黙に達成される<共生の意識>ではないでしょうか? 世界社会のイメージが血の繋がりよりもはるかに弱い空想的関係でしかないことを思えば、グローバリゼーションの秩序ある後退を合意することの方が、それを擁護するよりも現実的かもしれません。

他方、軍事的衝突や過度の民族意識が高まることを抑制するために、政治的な権力ができるだけ分散し、正気の批判精神が個々人に尊重されていることが望ましいと思います。分散型の社会をつなぐ安全保障体制の実質的中身を、市民が良く理解しなければなりません。そして、市民による平和を妨げるような、巨大な破壊システムや防衛網に頼らない社会ができれば、経済過程の混乱や破局にも、協調してコストを分担することに人々は関心を集中するでしょう。インターネットの誕生には、そうした理想が役立ちました。

EUや国連の治安維持軍は、軍事力を世界的にプールして、秩序維持のために利用できるシステムを目指したのではないでしょうか? 

アジア各国の通貨に、共通した、一定の調整メカニズムを導入し、互いの交渉で金融部門の改革と自由化による成長促進を支援する計画が日本政府によって進められたら、次のアジア通貨危機を防げるかもしれません。しかし、日本がアジアの共生を唱えても、それを実現する安全保障体制への合意と信頼に向けた対話はほとんどありません。アジア各地に、すべての戦闘行為を記録する戦争記念博物館を共同で作ってはどうか、と思いました。中国や欧米、そして日本による植民地化、冷戦時代の紛争、それらすべての戦争と流血を忘れないために。

Financial Times, Tuesday Mar 27 2001

The unchallenged dominance of King Dollar

Amity Shlaes

アメリカ経済は減速し、株価が下落し、金利を引き下げつつあり、他の経済圏が成長し始めると期待されている。それにもかかわらずドルの優位は揺るがない。それを理解する四つの要因が指摘できる。

1.              アメリカにインフレが起きていない。労働生産性が上昇しており、多くの国際商品で見ればドルは増価している(デフレである)。

2.              アメリカ政府も明確にドル価値の維持を表明した。

3.              ブッシュ政権はアメリカの相対的な競争力を高めようとしている。反トラスト法の適用は緩和される。限界税率が引き下げられる。エネルギー政策でも、アラスカの油田開発地区を設けるだろう。日本やヨーロッパとは対称的に、「創造的破壊」を推進して、経済全体も企業も迅速に再編する。

4.              ヨーロッパ経済の成長には多くの障害がある。ドイツの成長率は低下し、フランスも減速しそうである。政治指導者たちは改革よりも楽観論を吹聴している。

アメリカ経済にも死角はある。特にドル高はラテン・アメリカのデフレを悪化させる。しかし、問題を迅速に処理する経済はその通貨への需要を増やす、というのが真実である。


Financial Times, Wednesday Mar 28 2001

A chasm opens

Martin Wolf

深淵をのぞき込んでみよう。アメリカと日本における貯蓄・投資バランスの変化が世界を不況に落ち込ませる可能性がある。アメリカの株価はまだ割高水準であり、民間部門の貯蓄不足は前例のないほど大きい。投資は急速に減るだろうし、もし消費も減って、90年代初めのパターンに戻れば、GDPの10%にあたる支出が減少する。

同時に、世界第二の規模をもつ日本経済が再び後退している。日銀は量的緩和への転換を発表し、デフレが解消するまで続けると示唆した。その背景には、GDPの10%から13%にも及ぶ、日本の民間部門が抱える巨額の金融余剰がある。その大部分は財政赤字で吸収され、一部だけが海外に融資されるが、それはGDPの3%近い経常収支の黒字となっている。もし日本人が財政赤字を削減すべきだと決めれば、対外融資と経常黒字をもたらす金融余剰が増える。そして、GDPの19%という、例外的な高水準にあった民間投資が減れば、それはさらに増える。

日銀が大幅な量的緩和を実行したとしよう。短期的には、その影響は円安となって現れる。そして経常黒字はGDPの10%にも達するだろう。こうして、アメリカと日本の貯蓄・投資バランスが悪夢をもたらす。世界のGDPの45%を占める両国で需要が減れば、世界は不況になる。しかも、投資家はリスクを避けようとして、新興市場経済への投資が減り、アメリカと日本が彼らに強いる調整を行うのはさらに難しくなるだろう。

この最悪シナリオが起こるかどうかは誰にも分からない。しかしその可能性はある。それを回避するには、アメリカの連邦準備銀行が思い切った金融緩和をすることだ。アメリカの短期金利がほとんどゼロに下がれば、家計は支出を減らさないだろう。しかし、その政策にはドル暴落を招く危険と、民間部門のバランス・シートを引き続き悪化させる恐れがある。

アメリカの民間部門は調整を必要としており、金融政策がそこまで緩和できないとすれば、公的部門が一時的な減税策で対応すべきである。またアメリカの対外不均衡も調整されるべきだろう。それゆえ、日本は今、極端な円安政策をとるべきではない。次第に金融緩和を進めながら、緩やかに財政赤字を減らして、銀行の不良債権を償却して資本強化をおこなうことが望ましい。

アメリカが経常赤字を減らし、日本は黒字を増やすとしたら、他国がその調整を受け入れねばならない。世界の景気が良くなれば、アメリカの民間部門で吸収できない資源を新興経済に向けるべきであろう。しかし、短期的には、アメリカと日本を除く世界経済の半分を占めるヨーロッパが、この役割を担う最善の候補である。ECBはユーロ圏の需要を拡大して、アメリカと日本が対外需要を減らすことに対応すべきである。

深淵を回避することは不可能かもしれない。しかし政策担当者が対応することで、まだ底まで落ち込む前に止められる。

(コメント)

日本は金融緩和を行い、財政赤字削減を延期する。アメリカも金融緩和するが、株価が上昇するほどは緩和せず、減税を直ちに行う。ヨーロッパはインフレ懸念もあるが、安価な輸入増加を受け入れながら景気を刺激できる程度に、ユーロ高と金融緩和を組み合わせる。

かつてアメリカの「機関車論」が財政政策の国際協調を唱え、次に日米のプラザ合意が金融政策の国際協調を唱えたように、今度はEUが財政・金融政策の国際協調を唱える番でしょうか? 同時に複数の臓器の生体間移植を3人の患者に対して行うような、複雑な共同作業に見えます。これがもし成功すれば、世界経済の共同危機管理体制を祝福する事例となるでしょう。失敗すれば、国際協調論の愚かさを示す事例とされます。

日銀の量的緩和が金融改革と景気回復を実現する方向で活かせれば、この最悪シナリオも何とか飛び越せる小さな溝になる、ということが分かっても、やはり暗澹とした気分です。


Financial Times, Wednesday Mar 28 2001

The mirage of an oasis of prosperity

Caroline Atkinson(CFR)

オニール財務長官は、新政権の下で、アメリカが他国の通貨危機に深く関与せず、IMFの救済融資も抑制すべきことを示唆した。その後、トルコとアルゼンチンで通貨危機が発生し、危機のない資本主義など無いことが示された。

ブッシュ政権は、国際経済問題に関する「無干渉」政策に向かっている。しかし、これはアメリカ国内で景気刺激策を訴える話し方と矛盾している。政府は、全面的な国際金融危機が起きても、こうした保守派のレトリックを続ける気だろうか?

1997年のアジアや98年のロシアで起きたように、信認が失われれば金融市場は必ずしも即座に自動的調整が進まない。アメリカのように市場システムや資本主義の価値を信頼している国でさえ、国内の危機に政府が対応しなければ有権者は激怒する。外からの危機が波及しても同じである。

最近の危機にもかかわらず、ほとんどの国が開放的な体制を維持したのは驚くべきことである。それは豊かな国にキャッチ・アップしたいという彼らの希望と、IMFなどからの改革支援があったからである。また、政治や安全保障の問題も経済的利益と切り離せない。トルコの経済的崩壊は、たとえ世界経済にとって重要でなくても、防ぐ必要があった。

ブッシュ政権もこのことを理解している。しかし現政権は、ルービンとサマーズの民主党政権下で進んだ財務省への権力集中を逆転させた。純粋な市場の作用を強調しながら、政治や外交を、賢明な経済学よりも重視している。

「モラル・ハザード」が国際資本移動の振幅を強めた、という証拠はない。国際金融を民間資本が動かしている以上、危機の管理に民間部門が重要になるのは当然である。特に、過剰債務を処理せず、資本市場に復帰できない国に、債権諸国が救済融資を支持するはずがない。しかし、危機の処理について国際的なルールは無く、資本主義が完璧な答ではない。いくつかの危機防止策とともに、危機への対応が決定的に重要である。

(コメント)

イギリスは、非常に開かれた経済であり、その高い所得水準を、金融部門の国際取引や、海外資産保有、直接投資の流入、などに依存しています。だから、シンガポールやオランダと同じように、各国の市場開放と金融取引の自由を重視し、開かれた競争と国際的なルールの確立を強く主張すると思います。


Bloomberg 03/29

Argentina's Confidence Slide Speeds Up

By Tom Vogel

昨年、漏れ始めたアルゼンチンへの疑いが、先月は憂慮の洪水となった。債務不履行や切下げは、多くのものにとって神を冒涜することであったが、今では論争の的である。

カヴァロ経済大臣は、アルゼンチンを救う計画を持って登場したが、パニックを抑えるだけで、この雰囲気を逆転させることはできていない。不満や恐怖が増す中で、何が起きるかによるだろう。

昨年12月に、アルゼンチンを救い出す400億ドルのIMF融資をウォール街は歓迎したばかりである。2月には420億ドルの短期国債が少し長期の国債に交換された。融資と債券スワップがアルゼンチンに財政再建前の「息をつくゆとり」を与えたはずであった。しかし、今月、それは一瞬でしかないことがわかった。

昨年8月に、Charles Calomirisは、アルゼンチンが債務を組替えるか、デフォルトになるしかない、と述べた。アルゼンチンの公的債務は1240億ドルで、1994年よりも86%増加しており、それは維持できないだろう、とCalomirisは述べていた。今や、地方の債務を含めるとそれは1500億ドル近い。

アルゼンチンは発展途上諸国の中で最大のドル建もしくはユーロ建国債の販売国であるから、破綻すれば重大な結果を招く。アルゼンチン国債が他の途上国国債の指標となっている。昨日、同じ期間のアメリカ財務省債券の金利よりも、それは9%高かった。

レーマン・ブラザーズ社のJoaquin Cottaniは、もし財政支出が削減できず、GDPも成長しなければ、競争力を回復し、同時に財政赤字を減らす唯一の道は、切下げであろう、と言う。Cottaniは、メネム政権でカヴァロが経済大臣をしたときの次官であった。1991年、カヴァロはいわゆる「通貨交換」システムを導入してペソとUSドルを1対1で結びつけ、ハイパー・インフレーションを終わらせた。

もちろん、誰もがそれほど否定的ではない。ABN Amro Inc. Credit Suisse First Bostonは、アルゼンチン上院がカヴァロの求めた改善策の多くを認めたことで、国債の評価を上げた。

しかし、今週、立て続けに3度も格下げされたことは、この国への信認低下が加速しつつあることを示している。3ヶ月前には、IMF融資で今年中の資金調達ができたと述べたはずなのに、格付けの低下に備えて20億ドルの追加融資を銀行と交渉している。

アルゼンチンの議会はカヴァロに政府官庁の削減や増税に関する権限を1年間与えたが、州や公共部門の賃金と解雇、年金、に関する立法を行うことは制限した。カヴァロはデフォルトと切下げを回避するために、この国をより生産的で効率的にしようとしている。

まだ、アルゼンチンの銀行システムから大量の引出しがあるとか、ペソがドルに交換されている、という証拠は無い。しかし、もし海外の投資家やアナリストと同じくらいアルゼンチンの普通の人々が悲観するようになれば、それは時間の問題である。


Bloomberg 03/29

Tokyo's Not-So-Invisible Hand Not Helping

By William Pesek Jr.

サンフランシスコのファンド・マネージャーであるAlex Muromcewは陰謀説を信奉していないが、最近の日本の株価上昇には「反則だ!」と叫ぶのを我慢できなかった。「確かに政府はどこでも株価を上げようとするが、問題は、それで市場が好転することにはならないことだ。」日経225313日から26日までに21%も上昇したことで、政府の<見えざる>とはいえない手について憤慨したのは彼だけに限らない。日本の銀行が月末に帳簿を締め括る前に、保有株価を上げておくことが、政府にとっては望ましいかった。

政府の株価てこ入れは市場の反発を招いた。日本の株式から投資家が逃げ出したのである。日経平均は693.15(5%)も下がった。政府介入が逆効果になったのか? 問題は、投資家が日本政府の裏をかいて、新年度に入れば株価が暴落することに賭けることであろう。

政府が株価を上げても、問題の解決にはならない。株価はファンダメンタルズによって上がるべきで、株価上昇が成長をもたらすわけではない。政府は株価上昇をもてはやすことで、本当の問題から目をそらせている。不良債権処理や企業のリストラなしに、日本は成長できない。

政府介入は、321日の日銀によるゼロ金利政策復帰で始まった。それが日本経済を回復させるわけではない、と多くの論者が一致しているのに、株価は7.5%も上がった。しかし、民間投資家は買い手ではなかった。年金や郵便貯金が株を買ったと考えるしかない。

ニュー・ヨークの経済学者Carl Weinbergは日経平均の上昇を「3月の狂想曲・東京スタイル」と見る。彼は日本経済の悲観論者であり、多くの者も同調しつつある。他方、日銀の新金融体制の方が重要であった、と見る者もいる。日銀が悲観論を払拭するまで貨幣を供給すれば、景気や株価にとってプラスである、と。


Financial Times, Thursday Mar 29 2001

Editorial comment: US foreign policy vacuum

Financial Times, Saturday Mar 31 2001

Editorial comment: Some big steps for mankind

共和党員たちは、クリントンの本能的な介入主義を、強烈な国益優先策で置き換え始めた。彼らのリアリズムが前政権のロマンティシズムを圧倒しつつある。アメリカの敵も見方も、より強硬で、一方的な姿勢に変わりつつある。

中国、ロシア、北朝鮮に強い態度を示した。ミサイル防衛構想では、ヨーロッパの懸念を無視した。フセイン封じ込め体制の見直しも議論されていたのに、イラクを爆撃した。北アイルランドや中東和平を見放した。国際的な政策協調からも慎重に手を引いた。

フォードとレーガンの政府要人を引き継いだブッシュ政権は、世界の軍事バランスにもっぱら関心を向けている。これを冷戦封じ込め体制への回帰とからかう者もいる。確かに、政府は移行期である。問題は、ブッシュ政権が明確な戦略を持たずに重要な外交政策を決めているのではないか、ということだ。

地球温暖化についても、ブッシュ政権は長期的な国際協力よりも、非常に短期的な国益を優先した。科学的な根拠が必ずしも明確でないにもかかわらず、温暖化を支持する根拠とは、それを放置した場合に将来負担しなければならないコストと比べて、また、これから工業化する貧しい諸国への資源移転の必要に対して、今すぐに対応するほうが良い、ということだ。

アメリカが京都議定書から脱落するのは、失望するが、予想されなかったことではない。しかしアメリカは、温暖化防止に熱心な諸国からの保護措置や、アメリカに倣って国益を掲げて脱退する諸国を刺激するだろう。

The Economist, March 17th 2001