今週の要約記事・コメント
3/26-31
IPEの果樹園 2001
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日銀が量的緩和に踏み切りました。しかし、株価が急上昇するとか、円安が加速するとか、長期金利が上昇する、ということはありません。ゼロ金利に戻したとしても、以前と同じく、それが景気回復を約束するわけではないからです。むしろ日米首脳会談やアメリカのFOMCが新しい条件を示すかもしれない、と市場は待っていたようです。
翌日、Fedは0.5%も金利を下げましたが、NYSEは下げました。そして日本の株価が大きく上昇しました。日本が円安よりも株高で調整する、というのは、日米首脳会談の交渉と合致した展開に見えます。しかし、改革の約束だけで、日本経済が世界を牽引する条件はありません。週末にかけて株価は再び下落しました。ブッシュ政権が求めたのは、日本も集団安全保障体制に参加できるよう、憲法改正を進めることだったようです。
「実質ゼロ金利政策」という表現は、日銀と政府の非妥協的な姿勢を反映した「妥協案」に見えます。ゼロ金利復帰では、日銀が嫌ったモラル・ハザードを招くので、市場を重視した量的緩和を行う、と言えば、今までの日銀の立場と矛盾しません。他方、デフレが終わるまで続ける、というのは、経済学者たちが求めていたインフレ・ターゲットに近い表現でしょう。長期国債は絶対に買わない、円安を進めるのはアメリカと対立する、となれば、国内ではCPや社債を買い、対外的にはユーロを日銀が購入する? そしてそれは、日本の構造改革で失業が増え、ヨーロッパの成長が期待通りでない場合、何をもたらすのでしょうか?
もし、アルゼンチンが大幅な切下げに追い込まれ、アジアやトルコにも波及すれば、ドルが大きく下落する中でNYSEを軸に世界の株価が暴落するかもしれません。そして財政赤字とその貨幣化をめぐって、政治家たちによるインフレ策と中央銀行家たちによる物価安定重視とが対立するのではないでしょうか? 世界的な短期の売買を信頼して、株式市場や金融自由化・市場統合を支持してきた論調が消滅し、各国の経済再建と安定化、それを維持する地域的な合意や、資本管理を含む国際通貨制度の再編に注意が向けられるでしょう。あるいは、地域紛争や軍備拡張に政府は不満の捌け口を求めるのでしょうか?
周回遅れの日本に、アメリカだけでなく、世界が追いつくかもしれません。株価や為替レートが長期的な経済調整を円滑に促すための装置として機能するには、市場や仲介機関が、調査・評価を専門的に行う分析家の役割を、特にその報酬体系を見直すべきでしょう。市場を重視しても、貧富の格差を減らして、雇用や生産性を高める方法があると思います。そして、多くの安全装置と社会的な合意形成を重視したモザイク状の世界の方が、誰もが「投資家」である、という幻想を捨てれば、住みやすいでしょう。
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New York Times, March 18, 2001
The American Risk in Japan
By JEFFREY E. GARTEN
アメリカ経済は世界市場のショックから分離できない。1987年のボンとの政治対立、1997年のタイで始まった金融危機、そして今、日本が私たちを眠れなくしている。
1990年代に日本の金融危機が世界に波及しなかったのは、アメリカの高成長やヨーロッパのユーロ導入が実現し、メキシコ、インド、中国などで規制緩和、貿易と投資の市場開放が進み、世界経済が特に良好な状態にあったからである。しかしアメリカと日本がいっしょに後退すれば、経済環境は大きく変わる。ヨーロッパも減速し、新興経済も動揺し始めた。ついに、日本経済の更なる悪化がアメリカにも深刻な影響を及ぼすだろう。
日本がアメリカに輸出を増やすのではないか、という問題が持ち上がる。それはアメリカ企業の収益をさらに悪化させて、株価を下落させる。また、日本の銀行システムが抱える不良債権は、資産として保有する日本の株価が下落することで銀行を支払不能にするかもしれない。そうなれば、アメリカを含めて、外国の銀行にまで債務不履行が波及し、また日本国内の企業も融資を得られなくなる。日本政府はこの問題の深刻さを理解しているが、財政赤字が大きすぎて対応できない。
もし問題が拡大しつづければ、日本企業は海外の資産を売却し始めるだろう。1980年代に、アメリカ政府やビジネス界は、日本が、アメリカからの市場開放圧力を和らげるために、その保有する莫大なアメリカ財務省証券を売却するのではないか、と心配した。多くの専門家は、日本の保有額は大きすぎて、それを売却した場合、価格が暴落するからできないだろう、と考えた。しかし今、もし日本の投資家がそこまで悲観しているとしたら、彼らは売却するに違いない。
日本からのアメリカ資産売却は、アメリカの需要を奪い、不動産を過剰にし、失業者を増やす。ドル売り=円買いがドルの減価と輸入物価の上昇を招き、スタグフレーションの可能性は想像以上に大きい。誰もがFedに金利引下げを期待するが、日本の投資家がアメリカの資産を売り、ドルが安くなれば、Fedは国内景気を刺激する一方で、さらにヨーロッパやラテン・アメリカの投資家からも売りを招くことになる。こうした資産市場の非合理的反応を知っているから、金利は下げられず、一時的に上昇しさえするだろう。
Bloomberg 03/18 17:07
Bush and Mori: Is This a Meeting of the Minds?
By Patrick Smith
ブッシュ大統領が就任するまで、アメリカは対日政策を変更すべきだ、としきりに議論された。ローレンス・リンゼー大統領主席顧問は、日本に対してより穏健なアプローチを提唱し、日本が経済改革に取り組むなら円安も受け入れる考えを示していた。
120円を超える円安は実現したが、140円や150円を予想する専門家も多い。もちろん、リンゼー氏の円安容認はアメリカ経済の高成長を前提したものだった。ロバート・ゼーリック通商代表が、円安には直ちに反対するだろう。財務長官で、しかもアルコア前会長のポール・オニール氏が、両者の中間に立つ。この会談は、今後のブッシュ政権の対日姿勢を示す点で意味がある。
しかし、すでに辞任を控えた森首相と話すことは、要するに「時間の無駄」であろうか? アメリカは日本から得るものが何もない。円高で企業が潰れれば、日本の銀行システムが悪化する。こんな状況で首脳会談は何を話題にする気か? 世界の生産の40%を占める両国の指導者が、一方はバブル崩壊後の処理に苦しみ、他方はバブル崩壊による不況に怯え、何も話すことがない。太平洋を取り巻く状況は多くの緊張を高めつつあるというのに。
ブッシュ政権は「日本叩き」の感情を利用しないだろうか? 先週のNew York Timesには、「アメリカの株式市場は、世界第二の経済国が破綻寸前で、しかもなすべきことも分かっていないことに驚き、下落した。」という記事を載せた。残念だが、こうした感情はアメリカに渦巻いている。
しかしそれは、アメリカが事態を正しく見られないことを示すものだ。アメリカの問題は、他の誰の責任でもない。むしろ、もし誰か他者を非難できるとしたら、それは日本人であろう。彼らは、アメリカが築いて維持してきた政治・経済システムの崩壊に10年間も苦しんできた。少なくとも、日本のバブルは1980年代後半のG7がもたらした共同の過ちであった。他方、アメリカ・モデルは、多くの点でよく似ているが、100%の国産である。
自民党と森政権を支えているものを、「金権政治」、と日本人は呼ぶ。特殊利益と無原則な政治指導者たちにより、日本のシステムは麻痺し、回復できない。首脳会談を意義あるものにするには、森とブッシュがこの問題を話し合えばよい。選挙資金をめぐるアメリカでの論争について、森は大統領の意見をよく理解するだろう。
New York Times, March 18, 2001
Econ 2001: Tips for the Shellshocked
By RICHARD W. STEVENSON
教訓:@景気循環はスピード・アップした。A生産性上昇が最も重要だ。B市場が規律を与える。C適切な政策による迅速な対応が必要である。
世界市場モデルを使いこなせるのは、政治システムと政策変更が市場の変化に迅速に対応できる国だけである。日本はそれが無かったことで、世界市場モデルの重要さを教える反面教師となっている。アメリカの政治や金融のシステムは、今、試されている。
市場モデルの良いところは、失敗を犯さないことではなく、失敗が認識されれば直ちにそれを修正するスピードにある。市場モデル自体のコストも、ますます多くの市民がリスクを無視して株式売買を行えば、過剰投資とその後の破壊となって爆発する。セイフティー・ネットや市場のデザインが再考されている。
Financial Times, Monday Mar 19 2001
Editorial comment: Argentina's last chance
リカルド・ロペス・マーフィー経済大臣はIMFとの合意を守る予算案を提出した。しかし、これでアルゼンチンが経済危機から抜け出せるかどうかは、まだ分からない。
ドルとの固定制が国内物価を下落させ、実質短期金利を上昇させている。債務不履行のリスクがアルゼンチンへの金利を上乗せする。高金利と固定為替レートが成長を損ない、それが財政を悪化させてさらに市場の信頼を傷つける。
大幅な財政引締めは景気をさらに悪化させるが、他方、不十分な削減策では借り入れを増やす。政府は中規模の削減策を示した。経済の迅速な回復が実現できるかどうかは、投資家の反応と、アルゼンチン国内の政治にかかっている。成功は難しいが、他の選択肢はもっと厳しい。大幅にドル化した経済で切り下げは破壊的である。
(コメント)
ラテン・アメリカにおいて、変動制とドル化が混在していることは、各国の調整を難しくしている。ブラジルが切り下げれば、アルゼンチンはデフレになる。アメリカが金融引締めやドル高を進めても、また、通貨危機の不安が波及しても、アルゼンチンはデフレになる。国内で政治対立が起きてもデフレになる。対ドル固定制が望ましい条件が失われた際の、退出過程を、地域的にも、国際的にも、合意しておく必要があったと思います。
Financial Times, Monday Mar 19 2001
The questions that will shape Britain's destiny
Martin Wolf
加盟すべきか、せざるべきか、それが問題だ。問題が非常に難しく、解決できないから、イギリス政府はEMU加盟を決断できない。はてしない論争の中から、以下の九つの結論を整理する。
1.加盟は不可避の選択ではない。世界第4の通貨圏として、イギリスは通貨の安定性と経済の自律的な管理を行える。
2.現在の金融政策は、EMU内の金融政策よりも優れている。インフレ・ターゲットは対称的に機能し、イングランド銀行の透明性も高い。金融政策の決定は外部からの参加を認め、政府からも正統性を認められている。
3.経済的主権を国家の規模に同一視するのは間違いである。
4.ヨーロッパ域内の交換レートが統一されたことで、特化と競争が促されれば、大きな利益をもたらすだろう。しかし、それは長期的に実現される。
5.EMUの金融政策は、アイルランドやスペイン、オランダが示すように、イギリスにとって非常に不適当なものとなるだろう。
6.EMUに加盟しないとイギリスへの投資が減少する、という主張には疑いが残る。
7.「正しい」金利がどこにあるかは誰にも分からない。
8.EMUが財政政策の大幅な協調を必要とするかどうか、には議論の余地がある。
9.EMUにいったん加盟すれば、一方的に離脱することはできなくなる。それは、民間部門の大幅な倒産をもたらすだろう。
これらは、必ずしもイギリスが永久にEMUの外に留まるべきだ、という意味ではない。EMU加盟は、EU内の政治的な発言力を強めるだろう。さらに将来を展望すれば、イギリスはニュー・ヨークのようにアメリカの一部としてではなく、完全にEUの一部である。EMUが、将来はヨーロッパ連邦政府の基礎となる。そのときまで、イギリスが外部に留まってはおれない。
(コメント)
アルゼンチンだけでなく、イギリスも地域通貨圏の選択に苦しんでいる。タイや日本は、アジアでどのような選択をするか?
Washington Post, Sunday, March 18, 2001
Will Europe Seize the Day?
By David Ignatius
今年こそ、ヨーロッパの年となるべきだ。アメリカや日本が不安を抱えている一方で、ヨーロッパは「繁栄の小島」となるはずだ。にもかかわらず、先週、ユーロは下落し、株価も連鎖的に下落した。
ヨーロッパの指導者たちは世界の新動力源 “the new global Boom Town”となる政策に踏み込めず、分裂している。ヨーロッパ中央銀行ECBは、ドイツのハイパー・インフレと戦う悪夢に縛られている。ECBが金利を引き下げず、ユーロ圏の成長は潜在成長率を実現できていない。
さらに、ヨーロッパの政治家たちは構造改革に失敗した。政治家たちも、中央銀行と同じように、成長を怖がっている。今のヨーロッパには、1989年のアメリカが長期の繁栄を開始した条件が揃っている。当時のアメリカでは、ドル安が輸出を刺激し、資本市場の拡大が投資を促し、技術革新が爆発的に普及した。
こうした事情がわかっていても、ユーロは下落しつづけている。それはあたかも、投資家たちが繁栄を信じず、ヨーロッパがアメリカや日本よりも成長することを受け入れることができないかのようだ。
しかし、ECBや政治家が間違いを犯さなければ、アメリカや日本はユーロをポケットいっぱいに詰め込んで、ヨーロッパの繁栄を追いかけるようになるだろう。
Financial Times, Wednesday Mar 21 2001
Argentina's riches to rags tale
Martin Wolf
思った通り、アルゼンチンはインフレを鎮圧したが、不況の岩に座礁した。カレンシー・ボードは、金融政策の規律と通貨への信頼を回復させたが、それは通貨リスクをアルゼンチンの信用リスクに転化しただけであった。
アジア通貨危機や交易条件の悪化、ブラジルの切下げ、ドル高、などの外的なショックに対して、固定レート制の維持は競争力を奪う。ドルとのリンクはデフレをもたらし、さらに高金利ももたらした。アメリカとの金利差がなくならなかったからだ。
政治不安を反映した実質金利の高い水準は、単に景気を悪化させるだけでなく、GDPのほとんど50%におよぶアルゼンチンの公的対外債務を維持不可能にする。インフレと為替リスクを追放しても、この国の信用リスクは悪循環を起こしている。長期的には、インフレも通貨危機も再現されたわけである。
経済大臣として15日しか続かなかったロペス・マーフィーは、GDPの1%を歳出削減する、という中間的な改革案を示したが、政治的な支持を得られなかった。カヴァロは市場の信頼を得て、成長を回復できるのか? 結局、アルゼンチンには三つの選択しかない。
1.カレンシー・ボードを維持:新しい歳出削減(と国際借り入れ?)のパッケージで成長を回復し、市場の信頼を確立する。しかし、通貨価値の過大評価と大統領の政治的な弱さにより、実現は非常に難しい。
2.債務不履行:現行の金利水準では、結局、債務の支払いが不可能である。中期的には追加の借り入れで免れても、長期的には債務のリスケジューリングが求められる。
3.切下げ:変動制に移行すれば、通貨価値は下落する。しかし、アルゼンチンのように大幅に国内経済がドル化している場合、民間部門の破局的な調整が必要になる。また、切下げなしにドル化することは無意味である。
カヴァロは確かに一撃でハイパー・インフレと為替リスクを解消した。しかし、この国に成長をよみがえらせ、市場の信頼を築くのは、もっと難しいだろう。
(コメント)
New York Times, March 20 にはCLIFFORD KRAUSS “Argentina Picks New Official to Try to Rescue Economy” が、カヴァロはハーヴァード大学出身のサプライ・サイダーだ、と指摘しています。ロペス・マーフィーの緊縮策が拒まれたので、大統領はカヴァロの減税策と規制緩和による成長回復に期待したわけです。
New York Times, March 21, 2001
RECKONINGS:Half a Loaf
By PAUL KRUGMAN
それはまるでワン・ツー・パンチを食らったようなものだ。日銀はメンツを守るために煮え切らない態度で終わり、デフレ心理を払拭しきれなかった。Fedもまだ金融緩和するような姿勢を示して、今は中途半端な金利引下げしかしない。日本ではデフレ期待が、アメリカでは期待の下方修正が続くだろう。
なぜもっと中央銀行は断固として金融緩和しないのか? 市場の心理的悪循環を断つことが、今、中央銀行に求められている。失敗が重なれば、それは中央銀行への市場の信認を掘り崩し、後でさらに大きな行動が必要になる。それさえ効かなくなるだろう。日本の失敗から、グリーンスパンは何を学んだのか?
(コメント)
Krugmanは金融政策の心理的な解釈にこだわり過ぎていないでしょうか? “market sentiment,” “reputation,” “confidence,” “credibility”, を連発しなければならない資産市場とは、体重計や体温計ではなく、美人投票や今週のヒット・チャート、いわしの群れ、でしかないようです。そして経済学者も、すくなくとも短期に関しては「しろうと社会心理学者」やラジオの悩みの相談室、あるいは手相を見る占い師です。
Gerard Baker Hints are not a substitute for decisive action(Financial Times, Thursday Mar 22)は、もう少し複雑な解釈をしています。Fedが1月に臨時の利下げを行ったことと、今回の0.5%引き下げがすでに次の緩和を予告したことは、金融政策の操作上の失敗であった、と批判しています。
こうした解釈をめぐらすなら、むしろ、昨年夏に「間違った」金融引締めで期待を裏切っておいた(?)日銀の方が、量的緩和策で政府と市場に対応できた、とも言えます。
New York Times, March 22, 2001
Market Place: The Dollar Is Still Positively Robust
By JONATHAN FUERBRINGER
経済が軟調で、株も金利も下落する中で、なぜドルは強いままなのか? ドルには下落圧力が強まるだろう、と予想するのが当然だ。経常収支の赤字を支えてきた資本流入も減少するのではないか?
ドルが強いのは、それら以外の力が作用しているからであろう。たとえば、多くの投資家は、日本やヨーロッパに比べれば、アメリカの方がましだ、と感じている。日本の首相は交代するし、ECBはなかなか金利を下げない。また、世界の景気が悪化するなら、アメリカを避難所とみなす投資家も多い。あるいは、どの中央銀行が問題を解決するために行動するだろうか? それはアメリカのFedである。
テクニカルな理由もある。アメリカ企業は、外貨建ての収益が減少するリスクをヘッジするために、あわてて先物でドルを買っている。また多くの投機業者が日本のゼロ金利を利用し、円で資金調達してドルの高金利を得ている。
ドル価値の変動は経済政策を複雑にする。すなわち、ドル安は輸入物価を通じてインフレをもたらす。大幅なドル安は金利を上昇させて景気を悪化させる。他方、ドル高が続くと、アメリカの輸出を妨げて成長を損なう。それは不況に苦しむ製造業にとって特に問題である。
アナリストたちの予想も分かれている。結局、通貨については予想しないことにした、という者もいる。問題はむしろ、日本やヨーロッパの通貨価値が予想できないことにある。日本政府や日銀は、国内の改革に伴い、円安を求めるかもしれない。さらに、ユーロの動きこそ理解できない。ユーロは強くなるはずだった。アメリカ企業の行動が、ユーロ高とユーロ安を増幅しているかもしれない。
アメリカは、景気後退に積極的に対応する最初の国だから、最初に回復し始める。だからドルは値上がりする、と考える者もいる。他方、ドルの減価を予想する者は、今まで金融が引き締められてきたことを理由に挙げる。アメリカの金利は高すぎて貨幣供給が十分に伸びていない、と。そして、1990年から95年に日本でも株価下落の後で金融引締めが起き、極端な円高になった。アメリカはそれを阻止するだろう。Fedが十分に切下げれば、ドルは後退し始める、と。
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The Economist, March 10th 2001
Waking up to equity risk
America’s Economy: What a peculiar cycle
ナスダックの最高値から1周年を迎えた3月10日、それは55%下落しており、最も多くの銘柄をふくむ株価指数でも20%以上の下落を示した。この1年でおよそ4兆ドル、アメリカのGDPの40%に等しい資産が株式市場で失われた。ようこそ、世界の弱気相場へ。次はグリズリーの世代だ!?
1990年代は、インターネット時代と世界中が株式を発見した時代として、記憶されるだろう。世界の株式市場で、昨年、35兆ドルが資本調達されたが、それは世界GDPの110%であった(1990年には40%)。金持ちの場所であった株式市場に、今ではアメリカ人の半分が参加し、1987年の暴落時の2倍になっている。オーストラリア、ドイツ、中国でさえ、株価保有を熱狂的に拡大した。
より多くの者が株式を保有することは、何よりも、富を拡散する点で重要だ。それはまた、労働組合の抵抗や増税に対して、より大きな経済的自由を支持させる。また、株主の積極的な発言が強まり、経営を革新する圧力となる。こうした文化は、生産性を上昇させて、成長を加速するだろう。株式市場による資金調達は、より多くの新興企業と革新に資本を配分する。
株価の暴落は、これらすべてを破壊するのだろうか? それは暴落の程度によるが、確かに日本や新興経済では株式への熱狂が冷めた。しかし、しばらく間を置けば、構造的な変化が長期的に株式文化を持続させるだろう。特に、国営の年金制度は高齢化によって崩壊に向かい、いずれの政府も民間の年金制度を取り入れている。それは莫大な資金を株式市場にもたらす。
当面、企業の生き残りは厳しい。この数ヶ月、アメリカでは資金調達ができない。資本家の食物連鎖が始まっている。企業家たちも株式に関心を失った。新しい株式文化は、より賢明な形でしか生き残れない。それはリスクの無いぼろ儲けではなく、企業収益を反映したものである。
「ニュー・エコノミー」は新しい景気循環をもたらすのか? 1945年以来、景気循環は需要減少により企業が在庫を調整する形で起きた。しかし、前財務長官のラリー・サマーズは、むしろ第二次世界大戦前のパターンや、日本が1980年代に経験したものに似ているかもしれない、と言う。景気後退はインフレによってではなく、利潤の減少、株価下落、投資抑制によって起きている。その場合、Fedが金利を下げても需要は容易に回復しない。
長期の拡大は、特に民間部門の債務と過剰投資を増加させている。消費者は債務が多すぎると感じ、企業は過剰投資が利益を生まなくなっていると考えて、それぞれ支出を減らし始める。過度の楽観が悲観に変わりつつある。19世紀と20世紀の前半には、これが景気循環の典型であった。
中央銀行が物価だけに注目して金融政策を行うことは間違いであった。アメリカが投資ブームと貯蓄の減少を経験したことは、前例の無いことではない。1980年代の日本、イギリス、スウェーデンで起きた資産価格の上昇は、やはり貯蓄率の低下をもたらした。そして資産価格が暴落すると、家計も企業もバランス・シートを回復するために貯蓄を増やし、厳しい不況になった。
もちろん、19世紀との違いは大きい。サービス産業へのシフトや失業手当が不況を緩和するだろう。しかし、日本が示したように、過去との対比は無視できない。アメリカは日本のように情報を隠したり、改善のための行動を遅らせたりしない。銀行融資への依存は小さく、株式市場の調整は早い。金融政策が対応を間違ったり、無駄な公共投資や破綻企業の救済で財政を悪化させたりすることも無いだろう。しかし、アメリカの貯蓄率はマイナスであり、経常収支赤字によるドル暴落の危険がある。
(コメント)
もう一つの19世紀的問題は、労働者や周辺部の経済が、特に厳しい生活水準の悪化を強いられたことでしょう。民主的な投票制度や情報伝達手段がなく、首都の治安を維持する軍隊さえ押さえていれば、賃金が低下し、一次産品価格も暴落して、過剰な資本設備が破壊された後、19世紀型景気循環は活発な国際投資を再開したようです。
The Swiss say no
スイスという国は矛盾した存在である。国民は三つの主要言語を話すが、どれもスイス語ではない。700万の人口の5分の1が外国から来た。国際取引、国際金融業、国際観光業で栄え、ネスレ、チバ・ガイギー、ABBなど、多くの多国籍企業の本社や、赤十字、国際スポーツ団体、国連の部局の本部がある。IMFとWTOには加盟しているが、国連には加盟していない。そして国民投票の結果、77%がEU加盟交渉を開始することに “No”と書いた。
スイスがヨーロッパの一部であることは間違いないが、EUに拘束されることを嫌がっている。結局、スイスはEU加盟の経済的メリットをすでに享受しており、正式の加盟によってコストが増えるだけである。ユーロを得ることも、決して独立を放棄する不可避の理由にはならない。今までドイツ・マルクのそばで生き延びたように、ECBに席を占めなくてもユーロ圏の外で生きていける、と考える。
それはスイスに限らない。カナダは160年間もはるかに巨大な経済の隣で自国通貨を維持した。カナダの国民はアメリカ人となってワシントンに代表を送った方が豊かになっただろうが、彼らはカナダの独立を優先した。アイルランドは1920年代にイギリスと分断し、ノルウェイも1994年にEU加盟を拒んだ。そしてイギリス人の多くも、同様の理由で、ユーロに反対投票をするだろう。
それは古い感情であるが、人々がそう感じるなら、逆らえない。
China’s Economic Power: Enter the dragon
過去100年間でもっとも驚くべき出来事は、中国の市場開放とその成功であろう。この20年間で経済規模は5倍になり、所得は4倍になった。ただしこれまでの成長はキャッチ・アップ型の、しかも輸出の多くは外資に頼ったものであった。所得水準の格差は拡大し、まだ非常に貧しい国である。
これからの20年は、いっそうの経済変化が起きるだろう。世界市場に参加することで社会主義経済の遺産は一掃され、世界第二の経済規模を目指すだろう。中国は中所得の国家に入り、13億の人口によって、地政学的な地位を高めるに違いない。
WTO加盟は、中央政府にとって、社会主義経済の核心に対する宣戦布告となる。企業と政府は分離され、多くの零細企業や国営企業が倒産するだろう。ぼろぼろの国営銀行から金融市場が資本を奪い、道路や鉄道、光ファイバーを建設して帝国を統一するだろう。政府は住宅部門を民営化することで国内需要を喚起しようとしている。そして、明確で効果的な税制、および情報技術によって、地方政府の腐敗をなくそうとする。
Andy Xie氏の予測では、もし中国がWTOの加盟条件を2005年までに実現すれば、年率7%の成長、2006〜2015年には9%の成長を、改革の利益として実現できるだろう。もしそうであれば、2020年には現在のアメリカ経済と同じ規模に達する。
WTO加盟の最も早い成果は直接投資FDIの流入が増加することである。すでに昨年のFDIは400億ドル増加して、3500億ドルに達し、世界第3位である。中国本土が新興市場経済向けFDIの3分の1を占め、その他の新興諸国を怯えさせる。しかも、FDIは労働集約的な輸出産業だけでなく、膨大な高学歴の労働者やハイ・テク技術者の供給を前提に、より高度な製造業部門でも拡大している。韓国やインド、メキシコでさえも、中国の工業力に警戒している。
他方、GDPの23%に匹敵する輸出を中心に工業化を進めていることは、中国の国内経済がいかに遅れているかを示している。輸出入の約半分は、一部もしくは全部を外国資本による企業が行っている。それは、メキシコ国境沿いに広がるマキラドーラと同じく、部品を搬入して組み立て、再び輸出する「経済特区」の香港企業に代表される。こうした経済の分断化は、技術や経営ノウ・ハウの移転を妨げ、国営企業に支配された国内経済の成長を妨げる。それゆえ朱熔輝首相ら改革派は、WTO加盟を国内の競争圧力として利用しようと考えている。
その代償は外国企業が国内経済でより大きなシェアを占めることである。マクドナルド、ケンタッキー・フライド・チキン、コダック、フジ・フイルム、プロクター&ギャンブル、モトローラ、エリクソン、ノキア、コカ・コーラにとって、中国市場が重要になっている。ただし、中国市場の「大陸性」は、その将来が内部市場の統合化に依存している。政府は高速道路網と空港、電話、情報・金融システムを国中に建設することを目指している。株式市場の育成は、国営企業が債務と株式を交換する手段を提供する。
改革は共産党の支配を危うくするかもしれない。党の汚職撲滅やセイフティー・ネットの整備が強調されている。しかし、共産党の新しい世代はこの改革を進める上で、最後には党の権力独裁も再考しなければならないだろう。
対外的には、特に1997-98年のアジア金融危機以後、中国の内需指導型高度成長にアジア諸国の関心が向けられた。中国の輸出はアジアや、さらにアメリカにとっても、競争相手と認識されてきたが、中国を市場から締め出すことは誰の利益にもならない。中国の改革が成功すれば、その利益のおよそ5分の1は外国に流れる、とも言われる。
毎年、約5万人の中国人がアメリカの大学で学ぶ。彼らがこの複雑な関係を担うだろう。
Coffee: Trouble brewing
生産者による国際的な合意で20%も輸出を抑制したのに、コーヒー豆の国際価格が下落している。コーヒー生産国連盟(ACPC)はスイスの捜査機関に加盟国が違反していないか調査するよう求めた。また、ラテン・アメリカの8加盟国がグアテマラで会合を開き、価格支持策を相談した。ACPCは1ポンド95セント以上に価格を維持しようと決めたが、今ではその半分に下落している。
この失敗に対して、ブラジルから反発が起きた。コロンビアも国際コーヒー同盟の再建を要求している。それは1989年に崩壊したが、消費国も価格監視に協力していた。他方、今週のグアテマラでの会合が示したように、生産国はどこもこれ以上の削減を受け入れないだろう。結局、ACPCの生産枠を維持するか、完全に決裂して市場に任せるしかない。ブラジルの生産者には後者を望む者もいる。生産性の上昇と通貨の切下げで、ブラジルの生産者の優位は拡大しているからだ。他国で高コストの生産者が破産する間、彼らが低価格に耐えることは可能であろう。
しかし、この方針は逆効果にもなりうる。多くの生産国で、コーヒーは貧しい農家が生産する唯一の作物であるから、値段がいくら安くなってもコーヒーを作りつづける。そうなれば、むしろ生産性の高いコーヒー農園が破産するかもしれない。他方、ACPCの生産枠も、生産が長期的に消費の伸びを超えて増えている、という問題を解決できない。
1994年の霜害でブラジルの生産が激減し、コーヒー価格が高騰した後、世界中の生産者がコーヒーを増産した。ベトナムのように、まったく輸出しなかった国が世界第三位の輸出国になった場合もある。
コーヒー需要の拡大キャンペーンには金がかかり、生産諸国が資金を出したがらない以上、天候不順を除けば、コーヒー価格が持ち直す見込みは無いだろう。