今週の要約記事・コメント
3/19-3/24
IPEの果樹園 2001
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債券や株式の売買に、世界経済の運営や各国政府の命運をゆだねることが、本当に正しいのでしょうか? 株価が乱高下することより、政治家や投機家がバブルの楽観を利用し、さらに、バブル崩壊の悲観をも利用することに、社会的な危機を感じます。
情報本位制の時代が本当に来たのでしょうか? むしろ今は、株価本位制と直接投資(FDI)本位制とが、拮抗しているように見えます。「グローバリズム」が広める口蹄疫(FMD)の豚や投資は、本当に、消費者すべてを豊かにし、国際通貨システムや実物経済に感染しないのでしょうか?
ワールド・ビジネス・サテライトを観ていると、亀井静香氏が自民党・森政権の経済対策を説明し、植草・高橋・斎藤のコメンテーターが勢揃い、さらにニュー・ヨーク市立大学の霍見氏も暴言!?を加味して、不良債権処理や財政・金融政策、日本の株価の底値を考えていました。底値が11500円なのか、8000円なのか、あるいは6000円なのか? 日本の政治麻痺にアメリカが愛想を尽かしたのか? 勇気ある亀井氏がTVに登場し続けて、自民党の政策を説明することは重要だ、と思いました。
森首相には、「死に体」や「死体」と叩かれているのだから、「死に物狂い」になれ、と言ってやった!!
こうした「保守派」の確信こそ、自民党の政治腐敗を隠すためだ、という批判を打ち破って、市場を驚かせる行動につながるかもしれません。建設業者と農村に公共投資を増やし、日銀に国債を買わせ、ペイ・オフ解禁を延期し、郵便貯金を株式の長期保有に使って、何年もかけて産業再編を自民党が政治的に指導する、というイメージを打ち破る何かを。
もちろん実際は、単なる政治家の延命策かもしれません。そのときは、彼らを確実に辞めさせる選挙制度が必要です。他方、解説しつづける「経済学者」たちはどうするのか?
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Financial Times, Saturday Mar 10 2001
The Long View: Cut off from the world
Barry Riley
ブラウン蔵相による予算案の説明は、イギリス以外の世界経済の変化に言及しなかったことが、非常に印象的であった。しかし、もしかするとすでに国内の景気は過熱しているかも知れず、経常収支の赤字を続けていて良いのであろうか?
世界経済はどれほど危険な状態か? この点で、日本の役割が中心を占める。日本はすでに何年もデフレを輸出してきた。中国の急成長も加わって、不安定な金融部門を抱えたアジア経済は1997-98年に危機に陥り、アメリカの信用拡大と経常収支赤字の受け入れで生き延びてきた。ウォール街のバブルが資本流入を促し、ユーロは減価した(ポンドは増価できた)。
しかしアメリカの投機ゲームは終わったらしい。株価は下落し、消費も抑制されつつある。アジア経済の輸出は減少していく。他方、日本経済は昨年の短い回復から落ち込み、政治家たちが円安を進めている。大統領選挙による空白が埋まれば、経済の悪化するアメリカは、国内の改革を怠って輸出を増やす日本に黙っていないだろう。
さらに恐るべきことに、日本政府は破局シナリオを利用しているようにさえ見える。日銀の速水総裁は円安を示唆し、宮沢財務大臣は自国が経済破綻寸前だと国会で証言した。市場の関心は、経済対策よりも首相の辞任だけに向いている。世界で最も利回りの低い国債を発行しながら、どうしてその財務大臣は破綻をほのめかすことができるのか? それは、日本人が貯金を豊富に持ちながら、それを投資する場所がないからである。企業も政府も資本を破壊しようと決意したようだ。
理論的には、貯蓄の余剰は世界中を循環し、通貨価値の格差を減らして、より高い収益機会に投資できるはずである。しかし実際は、そのような資本移動は(日本の投資家にとって顕著なように)為替リスクに阻まれ、債券市場のブームと破綻に乱される。G7の経済活動の3分の2を占める、アメリカと日本の経済見通しは非常に重要である。
ブラウン蔵相は、不測の事態に備えて、資金を蓄えておくべきだ。
New York Times, March 11, 2001
Economic Delusion, Political Disaster
By JOHN KENNETH GALBRAITH
私は、共和党にとって信頼できる相手ではないだろうが、政治的破局を避けたいので進言する。新政権が経済対策としてFRBと減税に頼ることは間違っている、と。
まず、1913年に設立されて以来、FRBが景気変動を安定化すると期待された。しかし大恐慌の後も、ブームと破綻、インフレとデフレを繰り返して、FRBはまったく効果がなかった。そんなものに頼るのは、楽観と愚かさでしかない。
景気後退で支出が減るのは、富の本質的な性質による。他方、中所得者や低所得者が支出するのは、それが必要だからであり、減税によって最も利益を受けない者たちである。減税策は、単に、豊かな者への政治的慰めでしかない。
効果のない減税策を行ったハーバート・フーヴァー以来、景気後退や不況は政府にとって政治的な不幸であり、その後の政治的な破局を意味した。大恐慌後、共和党は20年間も政権に就けなかったのだ。ブッシュ政権も同じことをしようとしている。
私は共和党のために言っているのではない。破局があまりに多くの者を傷付けるから言うのである。
New York Times, March 11, 2001
Reckonings Hangovers and Hang-Ups
By PAUL KRUGMAN
宮沢財務大臣は、日本政府の財政が「破局的な状況」に近い、と述べた。それはたとえ真実であっても、財務大臣が言うべきことではなかった。翌日、彼は謝罪した。
日本はまだ破局を防ぐ政策が採れる。日本の官僚がそれを拒んでいるのである。特に、日本銀行は、果敢に金融的な拡大策を採って宮沢氏を助けるべきであるのに、それができない口実ばかり探している。昨年夏にゼロ金利政策を放棄して景気を悪化させ、デフレが生じても、技術進歩による「良いデフレ」だと説明した。それが良いものではありえなくなると、金利はほとんどゼロであるから、これ以上は何もできない、という。
実際には、多くのことが日銀にはできる。デフレ期待を取り除くために長期的な貨幣供給の増加を約束して支出を促せるし、長期国債の購入や円安で景気を刺激できる。誰もが賛成してはいないが、それは成功するだろう。私はプラスのインフレ・ターゲットを提唱した最初の人物の一人として、憎まれているが。
日銀がそれを行わない理由は、一つには、速水総裁が「二日酔い理論"hangover theory"」を信じているからである。経済の過熱の後には不況が避けられない、という主張は、バブルに酔った者たちを処罰する、という意味で、情緒的な支持を得られやすい。
バブルによって多くの間違った投資が行われただろうが、国民はそうした投資を消却し、前進するべきである。他の生産的な投資を行い、資源の生産的な利用を進めるべきである。そして、もし人々がそれを躊躇い、十分に支出しないなら、貨幣が支出されるまで中央銀行は金利を下げるべきである。
日銀は自分たちを、だらしない民間企業に節制を強いる、厳格な規律強制者とみなしている。こうした考えはアメリカにも存在し、不況を正当化している。こんな謬見は早目に潰しておこう。失敗した投資はあらゆる手段で消却しなければならない。もしバブル崩壊が経済全体に不況をもたすならば、それは中央銀行の責任である。
(コメント)
Krugmanの意見は、デフレが貨幣的な現象で、構造的な調整とは関係ない、という風に聞こえます。私は、どちらも関係あると思います。日銀、大蔵省、そして政府・自民党の間で、「日本の経済破綻」を人質にしたゲームが行われているのではないでしょうか?
New York Times, March 12 に載った”Japan Is Shackled by Deflation, Blocking Its Hope for Recovery” という記事が、日本的(?)デフレについて多面的に述べています。読売新聞がデフレによる人々の生活破壊を止めろと主張し、日銀の植田和男委員はデフレを重視、宮沢財務大臣は「財政破綻寸前」とまで述べ、森首相の後継争いは迷走中である、と。
債務が大きいまま収入は減り、失業の不安も高まっているとき、誰が物を買うのか? そしてこんな話も紹介します。7年前に7600万円で自宅を購入した松下さんは、今では時価が4000万円に下落し、3000万円のローンを支払うために手放そうとしている。それでも彼は、残りの1000万円と年金で暮らせれば、幸せです、と言う。彼が老後のために蓄えた山一證券の株式は、倒産によって失われた。
安価な輸入品の普及や流通・サービス部門の改善によるデフレは「良いデフレ」だ、という速水日銀総裁や、日本の高すぎる物価を国際水準に引き下げ、銀行や企業のリストラを促すために一種の「ショック療法」が必要である、という中前忠などの意見と、それに反対する伊藤隆敏・財務省次官の意見、急速に高齢化する人口を持つ国は、インフレよりもデフレに偏りやすい、というアナリストの解説なども紹介しています。
ゲームの名前を変えて、人々の支持と協力を組織するためには、政治の変化が必要です。他方、日銀は、決して流動性危機を引き起こさない、という決意と、その仕組みを、繰り返し市場に説得するでしょう。企業や銀行の整理を続けても、金融システムの混乱は決して起こさない、と。
Krugman自身も、March 14, After the Fallでは、アメリカ政府とFedとの対立について「みんな首にしろ」と吐き捨てています。
Bloomberg 03/11 00:39
Turkey's Dervis Leaves Washington Empty-Handed
By David DeRosa
トルコの新しい経済大臣はアメリカ財務省や世界銀行から追加融資を得られなかった。この事実は、ブッシュ政権が通貨危機に陥った国に対して大規模な救済融資を行わない、という方針を確かなものにした。
エジェビット首相は通貨の減価で破壊された経済の再生に250億ドルの国際融資が必要だ、と催促した。しかし、経済大臣は1セントももらえなかった。トルコは、破綻したことではなく、破綻が遅すぎたことが問題である。クリントン政権がトルコの訴えを聞き入れたからであろう。
それはまた、カムドシュの時代にIMFが、国際的な最後の貸し手から、メキシコ、韓国、東南アジア、ブラジル、ロシアへの慈善募金団体に変化した、という問題でもある。ケーラー専務理事は、再編の手始めに、「国際資本市場局」を新設した。
この部局がIMFの機能を高めるために、資本市場で何が起きているか、情報を集める。しかし、もし危機を察知できたとして、IMFは何をするのか? それを公表して通貨危機の引き金を引くわけにも行かない。また、IMFはCIAと同じ問題に苦しむだろう。情報提供者はその重要性を誇張し、注意を引きつけようとする。
トルコの危機を予測できなかったのは、エジェビット首相が何をするか予想できなかったからだ、とケーラー氏は答えた。確かに政治が危機を加速する。しかし、アメリカの政権が救済融資を拒否する中で、IMFに何ができるというのか?
Bloomberg 03/12 13:39
Argentina's Lopez Murphy Steps Into Currency Debate
By John Lyons
ロペス・マーフィーに与えられた時間はわずかである。メキシコ・シティの経済アナリストは警告した。「5月か6月までに経済が回復し始めねばならない。さもなければ、ドルと固定した通貨の下ではロペス・マーフィーでも経済を刺激できない、と市場が思い始める。」債券価格が暴落し、借り入れコストが急上昇して、ペソの変動制(大幅減価)か、完全なドル化、あるいは通貨バスケットへの固定制、を要求する声が強まるだろう。
切り下げは国際競争力を改善するが、1237億ドルの国債は債務不履行になり、ドル建債務を負った企業や銀行、個人も債務負担に苦しむだろう。ドルとの交換性がハイパー・インフレを抑制し、投資家の信頼を回復したし、メキシコ、アジア、ロシア、ブラジルの通貨危機が波及することも防げた。しかし今、アルゼンチンは不況に対して金融政策も財政政策も自由にならず、通貨の切り下げもできない。
拡大する財政赤字に対して、400億ドルのIMF融資と、ロペス・マーフィーの経済大臣起用によって、アルゼンチンはわずかだが時間を稼いだ。ドルとの交換を保証した経済では日常生活が大幅にドル化している。銀行融資の3分の2以上、預金の60%、政府債務の90%がドル建てである。スーパーでもニュース・スタンドでもレストランでも、ペソとドルが同様に使える。だが、農業は対ドル固定による競争に耐えられず、切り下げを強く求めている。
今の制度に代えて何が可能か? 完全なドル化が金利を引き下げ、投資と成長をもたらす、という。他方、変動制や通貨バスケットへの固定が望ましい、と主張する者もいる。国内問題を解決できないなら、切り下げるしかない。選挙前に、議会や地方政府、労働組合の反対に直面して、ロペス・マーフィーでも財政支出削減は難しい。
(コメント)
David DeRosa も”Argentina's in a Jam About Finding Value for Peso”( Bloomberg 03/14)で、カレンシー・ボードやドル化も、バスケット・ペッグや変動制も、アルゼンチンの問題をすべて解決できるわけではない、と述べています。「完璧な答」はない、と。
万能薬はないでしょうが、選択肢とその意味を明瞭に理解することが重要です。
Financial Times, Tuesday Mar 13 2001
The IMF's blunder in Turkey
Ercan Kumcu (former vice-governor of the Central Bank of Turkey)
1999年末にIMFが決めたトルコに対する包括的なインフレ抑制プログラムは、市場の例外的な動きに対するIMFの間違った判断で崩壊した。IMFはトルコを、東南アジアやラテン・アメリカで起きた通貨危機と混同したのだ。
11月の外貨需要増は通貨危機ではなかった。IMFとの合意が国内融資の抑制を強いたために、金利上昇を中央銀行が抑制できず、金融システムの不安と流動性危機を招いた。外国の銀行がトルコの銀行に対して短期信用枠を削減したために、中央銀行に対する外貨需要が起きた。それをIMFは通貨投機によると誤解し、中央銀行に流動性供給を止めさせた。金利は1000%以上に高騰し、銀行システムがさらに動揺した。
むしろ国内流動性の増加を一時的に許容し、外貨準備を減らしても、金利を抑制すべきであった。あの時点で、IMF融資は必要なかったのである。
1月と2月の最初にかけて、金融市場は正常化しつつあった。ところがIMFは、直ちに国内融資を危機前の水準に戻すよう求め、金融政策を引き締めさせた。大規模な国債発行の前に、市場はこれを金利低下が妨げられると理解した。
今回の危機は、確かに、大統領と首相との対立で起きた。しかし、IMFは市場を誤った方向に導いた。アメリカ市場の休日に備えて銀行が購入した外貨(中央銀行の外貨準備減少)を「通貨投機"a currency attack"」と誤解したのだ。再び中央銀行は流動性供給を抑制させられた。外貨準備は維持されたが、決済システムの危機が創り出された。トルコは通貨リラを変動させ、30%以上も減価して、インフレ抑制プログラムは崩壊した。
プログラムの最初の6ヶ月間は奮闘していたトルコ政府が次第に改革を骨抜きにしたことが、危機の背景にある。金融市場は為替レートの維持を疑い始めていた。しかし、二度とも、IMFがパニックを起こした。金融市場の変動を平準化する方法を見出すべきであったのに、外貨準備の減少ばかりを重視した。しかし、あれは「外貨不足による通貨危機」ではなかった。
IMFは、この3ヶ月間のトルコ経済に対する行動と影響について、説明する責任がある。
(コメント)
通貨危機の責任を問われて解任されたトルコ中央銀行の前総裁がIMFの介入を批判するのは、国際通貨システムの管理を改善する重要な手続きです。彼は通貨危機の背景と転換点をもっともよく知り、自分の判断を示せる人間の一人でしょう。IMFはまた、外部の経済学者や専門家に依頼して、融資の影響を追跡調査させています。
私は、戦争においても、すべての意思決定と行動を記録し、戦後に各国の国民が指導者の責任を問い、国際法廷が非人道的な行為について審査すべきだと思います。同様に、経済危機や通貨危機についても、事後的な検証が重要でしょう。誰が、いつ、何をしたのか? その影響や関与した者のその後の得失について、社会的な観点から評価すべきではないでしょうか? たとえば、ヘッジ・ファンドに情報公開させて、事後的に、投機的な利益があれば大幅に課税する、というように。
New York Times, March 15, 2001
ESSAY: The Sinking Sun?
By WILLIAM SAFIRE
アメリカの株式市場は、世界第二の経済国が破綻寸前で、しかもなすべきことも分かっていないことに驚き、下落した。
ブッシュ政権で乱暴な人物が森首相に助言するとしたら、こう言うだろう。「まあ聞けよ、首相。世界経済を悪化させないためには、日本の銀行を20行ほど閉鎖し、残った銀行の不良債権も消却してしまうことだ。効率の悪い企業はどんどん倒産させて、長期の割引債を与えて面目を潰さないようにしてやれ。日本も規制緩和して、輸出にばかり頼るのはやめろ。国内市場を世界競争に開放することだ。それから辞任したら、歴史に英雄として記憶されるぞ!」
それはちょっと無礼であるし、まあ政治的に問題がある。そこで、オニール財務長官は次のように優しく話してやることだ。アメリカの納税者も、狂ったような融資を行ったS&Lを救済するために、1980年のドル価値で1600億ドル(約19兆2000億円)を支払った。そうすることで金融システムを健全化したのだ、と。彼はまた、減税や歳出削減、円売り・ドル買いの知恵を授けてやっても良い。
Washington Post , Thursday, March 15, 2001
Editorial
Two Cheers for Markets
アメリカはどの先進諸国よりも株式市場を利用している。それは銀行よりも効率的に資本を配分できるはずである。しかし、こうした市場の効率に対する信頼が動揺しつつある。
国民の二人に一人が株式を所有し、株価の下落で損失を被った結果、支出を抑制することが不況をもたらすかもしれない。株価の高騰を警告してきたFedに大幅な金利引下げを求めることはできないだろう。
通貨市場に顕著に表れた不安は、ユーロ圏やアルゼンチンのように、通貨を固定化に向かわせた。同様に、企業の銀行融資に頼る傾向も強まっている。アメリカの株式市場型資本主義は、株式市場への熱狂を覚まして、ドイツのような銀行支配型資本主義をまねるだろう。日本が示したように、バブル崩壊に対しては、金融政策の効果も不十分である。
だからこそ、株式市場モデルの有利さを確認しておこう。第一に、市場価格がシグナルとなって、企業や経済全体の改革・再編を迅速に行える。第二に、株式市場はリスクを分散し、それゆえ新興企業を育てる資本供給も積極的に行える。
理論的には、リスクが分散されて、倒産によるコストを減少させるはずである。しかし、誰もが株式の価値を預金と同じように確実なものと思い込み、株価の上昇で貯蓄を忘れて消費にふけれるとき、株価暴落はより大きなコストをもたらすことになる。
Bloomberg 03/16 16:08
Indonesia, Ukraine, Others May Feel Argentina, Turkey Debt Woes
By Mark Drajem
トルコとアルゼンチンの通貨危機が、再び新興経済諸国を連鎖的な通貨危機に陥らせるかもしれない。アメリカの景気減速などで、世界の経済成長率は低下する。それが債務諸国の輸出を減らし、経常収支赤字を膨らませて返済計画を行き詰まらせる。IMFの求める融資条件を満たせないなら、インドネシア、ウクライナ、ナイジェリア、パキスタンの債務不履行が世界に波及するだろう。
(コメント)
アメリカが不況に直面する条件で、資本市場型世界経済管理は初めての耐久テストに挑む。
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The Economist, March 3rd 2001
They’re burning animals again
Plague island
狂牛病に続いて口蹄疫が、イギリスからヨーロッパ大陸に広がろうとしている。それを防ぐために何万頭もの家畜が殺され、焼かれている。家畜だけでなく人の移動も厳しく禁じられ、海峡を渡る自動車にも消毒液がかけられる。フランスの農民は風向きさえも心配している。
畑で焼かれる家畜の炎は、農民たちの怒りを補償で抑えようとする政治家の主張を強め、EU共通農業政策(CAP)の補助金削減問題を難しくする。それはEU拡大に避けて通れない問題であるが。
すべてを有機農業への回帰で解決できるだろうか? 確かに、世界的な家畜の移動と「自然なものでない」飼料の利用に問題はある。しかし、同様にこうした農業を進めているアメリカは1929年以来FMDに冒されていない。有機農業には大きなコストがかかるが、消費者はより安価で世界中の産物を年中消費できることを好むだろう。CAPを、東欧の農民に対する所得補償にしてしまうのではなく、有機農業への補助金に使いたい、というドイツの主張も解決にはほど遠い。
補助金に支えられた小さな農家が作る、地域内の安全な農産物をほしい、と言う一方で、豊富な農産物を安価に供給するスーパー・マーケットを求めている。どこ(何)であれ、最も良い農産物を供給できるシステムを選択すべきである。安くて、地元で獲れる、農薬を使わない、安全で、しかも種類豊富な農産物を求めても、すべて同時にはできない。
あたかもイギリスが常に疫病の源であるかのようだが、口蹄疫の感染は今まで世界各地から起きた。その感染力は異常に強く、ポーク・パイや冷凍のラム、航空機の機内食でも伝染する。むしろ、家畜の検疫や獣医施設への投資がイギリスで不足していることが問題だ。また貧しくなった農民はFMD感染への家畜の保険料を節約してしまった。
農業が十分に豊かな産業になるまでは、家畜を焼くことが主要な対策であるだろう。
Global capital rules, okay?
グローバリゼーションは資本移動に対して政治家を無力にした、と言われる。しかし現実には、資本は決して世界中に広がる貨幣の荒れ狂う海ではない。ほとんどの国が資本の行動を制約するルールを持っており、それは強い影響を与えている。
マレーシアのように、資本規制で自国の繁栄を保てる、と考える国は変わり者である。しかし多くの国が国益に反する資本を規制しようとする。EUは、アレクサンダー・ラムファルシー男爵を議長とする「賢人委員会」に単一の資本市場に向けた野心的提言をまとめさせた。アメリカでは、上院銀行委員会の議長でブッシュ政権の金融問題担当者でもあるフィル・グラムが時代遅れの金融規制を批判した。
改革のための教訓は、1.良い規制とは、契約と行動規則を守らせることであり、特に金融ビジネスのプロ同士が行う取引に関して介入すべきではない。他方、2.素人の投資家は保護されるべきである。平等な競争と情報開示を進める必要がある。さらに、3.金融規制当局が国境を越えて互いに競争することは望ましい。規制が無効になる心配はない。よりうまく規制された市場はより効率的であるから、競争によって勝ち残るだろう。
EUが金融機関に「単一のパスポート」を発行する政策は、各国に自国の異なる規制を許したまま相互の参入を認めるものであり、中途半端である。互いに同質的な規制を作ろうとせず、すでに大西洋間で行われているように、互いの株式市場の売買を、スクリーン上で外国でもできるようにすれば良いだろう。素人の投資家を守ると言う口実で、規制当局を競争から保護している。
最善のルールが勝つ。(?)
Piecing China’s markets together
2月26日の朝、中国の中産階級は銀行の前に列をなした。この数時間で上海だけでも2500人ほどが銀行に新規口座を開設し、今まで買えなかったあるものを買い込んだ。交換性通貨で表示された株式である。その2日後、一週間ぶりに再開された株式売買は相場を押し上げた。
これはいわゆるB株市場である。この市場は今まで外国人しか買えなかった。中国人は元で表示されたA株を売買した。これは外国人に閉ざされていた。しかし、実際には、上海(USドル建)やShenzhen深?(香港ドル建)で上場されているB株の多くを、香港などの不正な海外口座で中国人が購入していた。それが公認されただけである。
重要な意味があるとしたら、政府の進める経済改革にとって、株式市場が中心的な役割を占めることがはっきりした点である。ただし問題は、市場が混乱したままであることだ。
中国人の国内貯蓄はGDPの40%もあり、その大部分が国営銀行に預金され、国営企業に融資されて無駄になっている。貯蓄を株式市場に向けることで、資源配分を改善し、国営企業改革に伴う年金や失業手当の財源を確保したいのである。さらに、国営企業の株式を保有する少数株主を通じて、政府は経営の改善に向けた圧力を強めるだろう。だから中国政府は株式市場を奨励し、この10年でA株を上場する1000以上の取引所が設立され、さらに今後10年でも1000ヵ所できる。A株市場はアジアで東京、香港に次ぐ3番目の規模に達する。
しかし、外国人にとっては何の意味もない。中国の通貨は資本取引に使えず、B株市場はA株市場の1%でしかない。投資家の多くは香港で上場されたH株やいわゆる「レッド・チップ」を買う。
この中国株式市場の分断は資源配分の改善を妨げるだろう。同じ会社でもA株、B株、H株の評価はまるで異なり、ファンダメンタルズを反映していない。国内貯蓄と海外の資本とを別々にしておく限り、市場のゆがみが続くだろう。
中国・元が完全に交換されるまで、資本市場の統合は無理である。北京の共産党政府は、台湾が行ってきた交換性のない外資導入に注目している。台湾は自国通貨と株式を購入する外国人にライセンスの申請を強制した。こうして資本移動をコントロールし、自国の企業が買収されるのを防いだのである。それは元来、共産党政権が台湾経済を破壊するのを防ぐために導入されたのである。
Japan’s economy: Atalled, or worse
Stockmarkets in America: Confidence tricks
The European economy: Odd man out
日本経済は、1.アメリカの減速でアジア諸国も含めたアメリカ向け輸出が減少し、2.金融システムの弱さから、投資家が銀行に対する株価下落の影響を懸念し、さらにそれが中小企業への融資を削る、という脅威にさらされている。日銀の方針も混乱状態だ。
アメリカは、ナスダックの下落が止まらなければ、新規株式公開(IPO)にかかわって利益をあげてきた投資銀行の収益が激減する。彼らは、ナスダックが上昇するまでFedが金利を引き下げなければ、深刻な不況になる、と考えている。しかし、ナスダックの「資産効果」を責めるより、雇用の悪化がもたらす消費削減のほうが重要であろう。また、企業によるハイテク投資が減退している。
ユーロ圏は、これら二つの悪化する経済の需要減少を補えるか? 失業率が4年ぶりに上昇し、ドイツの成長率も0.8%しかない。しかし、他の地域では景気過熱が続き、ユーロ圏全体では2.5%程度の成長が続いている。ECBは金利を下げそうにない。
ユーロ圏のアメリカ向け輸出はGDPの2.5%でしかない。ただし、FDIによるアメリカ経済減速の影響は、特にドイツ企業でより大きいだろう。株式市場の影響は、ヨーロッパでは株式保有が少ないので、アメリカほど消費に影響しない。また、ユーロ圏はすでに減税を決めていた。ヨーロッパの民間部門は、アメリカのような貯蓄の減少と借り入れ過剰にない。むしろヨーロッパで消費が弱いとすれば、それは実質賃金が下がったからである。
成長が今の水準であれば、ECBはユーロの減価やインフレに注目するだろう。アメリカが本当に不況に落ち込み、ユーロの増価が輸出を減らせば、金利引下げも考えられる。