今週の要約記事・コメント
3/12-3/17
IPEの果樹園 2001
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もし一人で2票を投票できれば、自由党と共産党に投票したいな、と国会中継を見て思いました。不信任案を支持する自由党員の演説と、参院予算委員会で行った共産党員の質問が、なかなか良かったからです。
選挙をしても、もっぱら職場や地元の利益に従い、政党の所属や推薦で候補者を考え、あるいは既存政党の組みなおしで政権を考えるのでは、政治の意味が失われると思います。投票することで、私達は何を選択しているのか? 何が変わるのか? それを理解できないからです。
一人一票という縛り、政党あるいは国籍や住民票という縛りをなくせば、地元や支持団体への利益誘導で当選する議員が減り、何十年も議席を保持する議員や、はては2世、3世の議員が増える状態をなくせるでしょう。例えば、審議内容によっては、輪番制や議員以外の参加を大幅に認めるほうが良いのではないでしょうか?
自民党が解党できないのは、議会で予算案や法案を可決させるのに、「自民党」というまとまった議席が必要だからでしょう。もしそうであれば、重要な政策や法案、予算案の提出や審議を、政党の枠から外すことで、政治家達を国民の要望に近づけることができるでしょう。
いっそ、有権者一人一人に20票を配分して、誰に何票入れても良い、という弾力性を与えてはどうでしょうか? その中から、各自の判断で、地元の利益を重視する人は地元の議員に多く入れ、日本の政策として閣僚達の資質に関心がある人は与野党の指導者達に分けて入れるでしょう。あるいは、マイナス票を与えるのも良いでしょう。ナショナリズムや外国人排斥を唱えて威嚇的な言動を誇示する政治家には、日本中から(あるいは世界中から)静かに追放票が寄せられるでしょう。
政党を解体するには、支持団体との関係を絶ち、政策ごとに判断を示せるよう、議会の審議や採決の方法を変えることです。期限を決めて、複数の委員会が並行して異なった改革案を作り、比較できるようにして欲しいです。どの議員も委員会を組織でき、民間からの参加も認めるのです。そうすれば、政治家は政策の提案と審議、成立に貢献した内容で判断されるでしょう。どの改革案を支持するかは、常時、インターネット上で有権者にフォーラムを提供し、さらに適時、仮想的な投票を行ってほしいです。首相の支持率がたとえ1%になっても、今の制度では、予算案や経済対策の中身は変わりません。
政治家に何を期待できるでしょうか? それは政治家たちの資質以上に、政治の制度によって制約されていると思います。どのような人物が、何のために、どれくらい政治家として働くべきでしょうか? もし政治の制度が改善できないとすれば、国民は政治から積極的に離脱するべきです。政治家や議会の権限を縮小し、予算や議席数を減らし、各権限を適切な地域に分散し、審議の情報開示、政治家の定年制や多選抑制策、などにより、政治家たちに集中した権力を解体するのです。
世界不況や金融政策の国際協調では、そのマイナスの影響を危惧して、世界の政治指導者たちが日本の政策を監視しています。他方、アジアの地域安全保障や軍備管理、世界の貧困や地球温暖化問題といったさらに重要なテーマについて、日本の発言は無視されていくでしょう。世界政治の舞台でも、日本政府からの離脱が進むのです。
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Bloomberg 03/05 17:23
Argentina Names `Bulldog' Lopez Murphy to Fix Economy
By David Plumb and Richard Jarvie
Financial Times, Tuesday Mar 6 2001
Editorial comment: Argentine risk
新しく大蔵大臣に指名されたリカルド・ロペス・マーフィーが、アルゼンチン経済改革の切り札として登場した。このニュースで株価は8.1%も上昇した。身長6フィート3インチ(190.5cm)、突き出た顎と口ひげ、シカゴ大学で学んだ市場重視の経済学者であり、1999年の大統領選挙にも立候補した人物である。
かつて全労働者の賃金を10%削減するように提案して、経済大臣になるチャンスを逃した。アルゼンチン政府がIMFとの合意を守り、財政支出を削減できるとしたら、この「ブルドッグ」の風貌を持つロペス・マーフィーに頼るしかいない。
失業率は15%に達し、犯罪が増加しており、投資も低迷している。彼は、経済を活性化するために、企業への減税と歳出削減を主張し、アメリカ・ドルとの固定レートを維持する、と約束した。しかし、もし経済が速やかに回復しなければ債券も株式も暴落し、競争力を改善するために賃金などのコストを切り下げ、さらに通貨の切り下げを求める圧力も強まるだろう。
もう一つの要因は海外投資家の反応である。ロペス・マーフィーはウォール街など外国の投資家にもよく知られており、英語を流暢に話し、IMFと397億ドルの融資条件を合意する交渉に関わった。「彼の名が(政府の経済政策以上に)多くを語っている」、と投資家の一人は言った。
国内の政治各派と彼はハネムーン期間を利用できるだろう。どの勢力も経済の完全な崩壊を望んではいない。反対派は、彼のオーソドックスな政策が有効とは信じていないが、今は様子を見ている。ペロニストたちは既に上院を支配しており、次の議会選挙でも優勢である。
Financial Times, Tuesday Mar 6 2001
Bilateral agreements threaten the achievements of the WTO
Jagdish Bhagwati
10年前には、多国間主義(多角主義)Multilateralismは軽視され、有効でなくなる、と多くの者が主張していた。それは間違いであった。しかし、世界が目覚めなければ、ブロック化の予言が実現するかもしれない。WTOは「地域主義」Regionalismの脅威にさらされている。
二国間Bilateralもしくはそれと類似の「優先貿易取り決め」PTAsが爆発的に増加しつつある。EUが差別的な自由化を望み、アジアやアメリカ、南アメリカにもPTAsが広まった。その理由は、1.政治家の無知、2.集合的な意思決定制度の未整備、である。政治家は、二国間の自由化交渉がどれほど有害であるか理解していない。
各国は、貿易相手国が他国と、互いに差別的な優遇取り決めを結ばないか、常に疑わねばならない。また、各国は優遇された市場に拘束されてしまう。そして失業を減らすために、1930年代と同様、世界需要を増やすより貿易障壁を増やそうとする。中でも、貧しい諸国がもっとも大きな被害を受けるだろう。
WTOシアトル大会の失敗は、多角主義の限界が二国間主義を必要としている、という誤った主張を自己実現的な予言にしてしまう。民主主義国家はどこも、シアトル大会で起きたような乱闘にメディアが集まるのを嫌って、多角交渉を歓迎しなくなる。次のカタール大会で新しい多角交渉が開始できるかどうかに、世界貿易システムの将来が懸かっている。
Washington Post, Tuesday, March 6, 2001
A Road Through Seoul
By Henry Kissinger
・ 朝鮮半島の歴史は戦乱の連続であった。1904−05年の日露戦争で日本による植民地化が進み、1945年に解放されたが南北に分断され、1950年に北朝鮮が侵略を開始、1950年に中国軍がこれを支援、これに対するアメリカ軍の韓国支援で、分断が維持されてきた。
・ クリントン政権は、北朝鮮とのKEDOやミサイル輸出禁止で取引し、最後の一週間で国交回復を望んだ。しかしアメリカは、北朝鮮に独自の交渉権を与えるべきではない。
・ 韓国の「太陽政策」は評価するが、北朝鮮は実質的な譲歩をしていない。北朝鮮の擬似スターリン型政治体制と軍事的な脅威は変わっていない。ミサイル防衛構想を後退させる理由にはならない。
・ 北朝鮮は、韓国との交渉ではなく、アメリカとの直接交渉を望んでいる。南北宥和ムードに乗って、北朝鮮はすでに西側各国との国交を増やせた。しかし、アメリカは韓国との同盟をまず重視し、北朝鮮を孤立させておくべきだ。
・ ドイツの例を見れば、朝鮮半島の統一コストは、韓国だけで担えない。北朝鮮の体制を民主化して維持することは、現実的に不可能だろう。
・ 統一問題は、アメリカ、日本、中国、ロシアを加えた国際交渉が必要になる。その場合、日本も中国も、朝鮮半島の急激な統一を望んではいない。
・ アメリカ軍がアジアから完全に撤収することは、統一された朝鮮半島や日本に独自防衛政策をもたらし、日本、中国、韓国で競争的な軍備拡張とナショナリズムが強まるだろう。
・ その時々の適切な対応だけでなく、アメリカ軍がアジアにおいて何をなすべきか、将来のアジア戦略全体を検討しなければならない。
Financial Times, Wednesday Mar 7 2001
Editorial comment: Asia arms
中国政府は、世界の軍事状況における劇的な変化に対応して、防衛支出を18%増加すると発表した。そして、アメリカがミサイル防衛網を台湾に提供する計画や、NATO軍によるコソボ介入を、その正当化に使った。中国に限らず、インドも、パキスタンの核武装と、中国の軍備増強を意識して、防衛予算を増額した。ロシアも核兵器を再強化するかもしれない。そうなればアジアは全面的な軍備拡大競争になだれ込む。
経済成長とキャッチ・アップが進むにつれて、中国はアジアにおいて断定的に振る舞いつつある。ある意味ではそれを受け入れ、歓迎する外部の見方を超えて、中国政府はアジア域内の経済的結びつきを強める地域フォーラムに熱心である。他方、周辺諸国は、アメリカが中国への抑止力としてアジアに関与し続けてほしいと思っている。しかし不幸にして、アメリカ政府はゆっくりと、中国との衝突航路に入りつつある。
共和党のタカ派は、クリントン大統領が中国に弱腰である、と非難してきた。中国の軍事専門家がイラクの施設に協力した疑いにより、その敵意は高まった。これから固まるブッシュ政権の対中国政策は、強硬なプラグマティズム、に近づくと思われる。中国政府はしばらくそれを値踏みするだろう。アメリカ政府はミサイル防衛計画について、慎重に、その直接的および間接的な結果を考慮しておかなければならない。
Financial Times, Wednesday Mar 7 2001
The mystery of the missing millions
Everett Ehrlich
アメリカの2000年国勢調査は、総人口を2億7960万人と推計した。それは1990年の調査から人口変動を調整したものである。しかし、2000年の粗統計値の合計は、2億8140万人であり、約200万人も多かった。30万以上の家計を追跡調査して、2000年4月1日の総人口を推計した結果、それは2億8470万人であると分かった。政府の最初の推計よりも約500万人も多かった。
その原因は、おそらく、政府の統計に勘定されていない移民の流入である。1990年代に経済全体で創出された雇用は約2200万であったが、労働者が得た雇用は約1600万に過ぎなかった。完全雇用経済は、強力な磁石として、世界中から労働者を引き寄せてきた。アメリカがたった4%の失業率でも労働コストを高めず、成長し続けてきた背景には、さまざまな職種を満たす未登録の移民労働者たちがいる。
Bloomberg, 03/07 17:02
The Political Economy of Japanese Toilet Tissue
By Patrick Smith
ワシントンに本部がある会員制の購入クラブであるコスコが、幕張に、日本で二軒目の店を建設した。これは、日本の消費者を変えることができる、という賭けである。
ユニクロ、コスコ、カルフールなどは、日本の旧経済モデルがどの程度まで日本人に見捨てられたかを示している。しかし私は、日本の消費者がアメリカのような倉庫型の巨大ディスカウント店に慣れるとは思わない。その結果は、何か違ったものであろう。
日本人は日本をどのように作り変えるのだろうか? 私はこの点で、エドワード・ルトワクが行った日米のガソリン・スタンド比較以上に面白い議論を知らない。
日本のガソリン・スタンドに入れば、3人か4人が飛び出してきて、自動車を磨き、灰皿を空にし、タイヤのチェックもして、ガソリンを満タンにしてくれる。あなたは80ドルも払うだろうが、手入れの行き届いた道路に戻って走ることができる。犯罪の少ない、雇用の保証された社会で、税金の少ししか福祉に使わない。
他方、対照的に、アメリカのスタンドでは誰も手助けしない。自分でガソリンを入れ、アクリル・ガラスの下から伸びてくる手に、25ドルを支払う。それからひどい状態の通りに出て、犯罪の多い、比較的失業率の高い、結局、ばらばらな社会で、さまざまな脅威にさらされた都市の暮らしに戻る。
だから、と彼は結論した。日本のガソリンは非常に「安い」のだ、と。
では、日本はどこに向かうのか? 幕張では人々が財布でその変化に投票しつつある。しかし、トイレット・ペーパーを買う選択の結果には、何かが欠けているようだ。
日本人は、彼らの選択の政治的な意味を、まだつかめていない。消費の変化は、必ず、政治の変化をもたらす。流通革命は日本の都市化と関係しているし、それは自民党の支配を掘り崩す。というのも、友人の政治学者が教えてくれたように、現在の日本政府閣僚の誰一人として200万人以上の都市から選出されていないのである。日本はさまざまな変化に直面しているが、永田町の政治がそれを妨げている。そして日本人も、アメリカ型の集中的流通=政治システムを受け入れる準備がなく、それを望んでもいないと思う。
日本人は一度にトイレット・ペーパーを18本も買わないし、週に一度ではなく毎日、自動車ではなく歩いて買い物に行く。零細な商店を保護する規制はなくなったが、東京では地域のコミュニティーを守るために、大型店舗の規制を住民が行える。不況で新しい流通業の投資は歓迎されるが、日本人は市民として、今の良い暮らしを維持している。
コスコはすべての商品で支持されはしないだろう。
Strait Times, FRIDAY MAR 09, 2001
Battle for investments must begin in earnest
By Phar Kim Beng IN BOSTON
1997年7月2日にバーツの価値が暴落して以来、東南アジアはよろめいている。完全な政治的崩壊ではないが、インドネシアでもタイでも爆破事件が法と秩序を大きく損なった。カリマンタン、マルクス、イリアン・ジャヤでは民族対立が暴動になった。マレーシアでも武器庫が二度略奪され、元副首相のアンワルを不当に逮捕した政府に抗議するデモが散発する。
民間部門の改革には熱意が失われ、クローニズムが今も栄えている。金融危機によって損なわれた銀行部門の改革も中途半端で、それに必要な緊急性が欠けている。たとえば、タイはIMF融資によっても、その零細でクラブ的な銀行界を温存している。最新のタイ中央銀行の資料によれば、銀行の不良債権は2.5兆バーツに達し、この国の総融資残高の45%にもなる。
そのような無気力は将来の社会政治秩序と経済に深刻な意味を持つだろう。アメリカ経済が活気を失い、日本は10年間も活発に成長できていない。デフレと1兆ドルもの不良債権で、日本はもはや打つ手なしである。それは、東南アジアが良くも悪くも、もう一度、宮沢基金で金融機関を救済してもらえることはない、ということだ。IMFや世銀も、結局、国際機関に批判的なアメリカ議会で「モラル・ハザード」の責任を問われたくない。
それゆえ東南アジアは、文字通り、自活していくことになる。外国からの直接投資(FDI)を引き寄せるために、国際投資家の嗜好を満たすしかない。投資は高度に選択的であり、気難しい。専門家たちが各国の「ビジネス環境」を評価しており、それには政治的な能力や官僚の有能さまで含まれる。東南アジアは労働コストの低さ、優れた教育システム、インフラの整備、でFDIを誘致してきた。しかし、それだけではFDIを維持できないかもしれない。
この点で、2001年から2005年までのFDIに関するthe Economist Intelligence Unit (EIU)の出した報告は、アメリカ、イギリス、ドイツが最大のFDI受入国になる、と予想している。残りのFDIについても、中国、フランス、オランダ、ベルギー、カナダ、香港、ブラジルなどが多くを占める。アジアでは中国だけ(香港も含む)がFDIを大規模に誘致できる。アジア金融危機以来、経済の引力が北東アジアに移ってしまった。
シンガポールの指導力にとって、これは明らかな警告である。シンガポール政府は東南アジアと北東アジアの拡大する格差について発言してきた。東南アジアにFDIを引き寄せるには、透明性、説明責任、公平な競争、を始め、あらゆる分野で投資環境を改善しなければならない。
Financial Times, Friday Mar 9 2001
Delivering development after Cologne
Timothy Geithner (senior Fellow at CFR)
ミレニアム・デット・イニシアティブは、ケルン・サミットで、サブ・サハラ・アフリカやラテン・アメリカの20ヶ国に及ぶ実質的な返済免除を実現した。しかし、成長戦略は慎重なマクロ経済政策以上のものである。
1.成長指向のコンディショナリティー:所有権を確立し、有意義な規制を導入し、機能する金融システムを築かねばならない。比較的開放された貿易政策を採用するとともに、多くの貧しい国で財政能力を超えている、教育、基本的な衛生、農業開発に対する投資が必要である。
2.国内の資源配分の改善:ケルン・サミットでも、債務国が債務免除により保健や教育に優先的に投資することを求めた。
3.債務の持続可能性:債務国は、今までのように、過度の楽観に陥り、外的なショックに弱い、既得権に支配された支出を増やしてはならない。それには規律が必要である。贈与・援助と貿易信用は明確に区別し、IMF融資は最貧国の対外融資に限定されるべきである。
4.多角的な債務免除の財源と、より選択的な配分。
5.貿易の増加:関税・規制・補助金を減らして、輸出を増やし、経済コストを下げ、いっそうの自由化に政治的な力を与えることが重要である。
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The Economist, February 24th 2001
Japan: Being kind to Mr. Mori
日本の小説家、村上龍は、外人記者クラブの公演で、なぜこれほど不人気な森首相が政権を維持できるか、の説明を試みた。
森は、酔っ払って寝てしまった日本人の親父なのである。彼は目がさめると、俺は家族のために最善を尽くしているのだ、と言うが、また寝てしまう。彼は無視されており、何の意味もないが、しかし、悪人ではない。だから日本の「家族は、落胆交じりに苦笑いして、彼を受け入れるしかない」と。
村上の説明と並んで、そこには政治が働いている。野党・民主党の党首は、第二次大戦後の最初の首相の孫であるが、政治的エリートの人気は衰退している。また民主党の政策は、財政赤字を大幅に削ること以外、通信分野の規制緩和や銀行部門の改革などについては曖昧である。自由市場派から強硬な社会主義者まで、広範な政治勢力を抱えている。結局、民主党内で合意しているのは、政府と産業界の癒着を断ち、公共投資を削減することだけであり、倒産や失業をもたらすこんな主張で選挙に勝てるとは思えない。
住民運動から政治家になった管直人が民主党の党首になるとか、自民党を解体して新しい「革新的な」保守政党を作るとか、考えられている。しかし、政治家たちは急ぐべきだ。1993年以来、待ちつづけている日本人家族の我慢も限界に達しつつある。
Changing camels in mid-dune
ジョージ・ブッシュは、「少数の明確な目標を定め、勝利を目的に、圧倒的な軍事力で、退路を確保しつつ、戦う」というパウエル国務長官の軍事規則に従い、ワシントンでのハネムーンを楽しんでいる。しかし今、パウエル氏は自分自身の教義に反して行動しようとしている
政府は、アメリカの権威が落ちたのは、クリントンが関わり過ぎたオスロ和平プロセスが破綻したせいだ、と主張している。パウエル氏の中東訪問はその再建に乗り出したものだ。アメリカ外交の主要関心は、イスラエルとパレスチナの和平から、イラク問題に移るだろう。確かにサダム・フセインが中東地域で復権することを阻止し、孤立させておくべきだろう。しかし、アメリカに何ができるのか?
情勢は、ブッシュ政権の方針転換に味方している。ブッシュ氏は、もし両者が望まないなら、アメリカの関与で和平が進むものではない、という。こうして和平プロセスから距離をとって、シャロン新政権の強硬姿勢やアラファトの過度の介入期待と、数年間は関与したくないのである。政府の対イスラエル政策は、共和党の積極姿勢と違って、和平推進からダメージ抑制に変わるだろう。クリントンのように中東地域全体を和平プロセスで見るのではなく、より二国間の外交を重視する。
ブッシュ氏の考えでは、湾岸戦争の同盟関係が弱まったのは、前政権が和平プロセスにこだわったせいである。逆に、ブッシュ氏は、父親が築いた打倒フセインの同盟を再建する。しかし、他方で、イラクへの今の経済制裁が効果的ではないと考えており、その見直しが進むだろう。包括的な制裁が国際的支持を失いつつあることから、軍事的施設に限った、より厳格な管理を求めている。それは、イラク国内での使用に対する監視体制をも含む。
さらに問題は、アメリカがフセイン打倒のために実際に何ができるか、ということだ。その可能性としては、イラク国内の反政府勢力に対する支援がある。イラク国民会議派の指導者が国務省を訪問し、その人道的活動と、イラク国内での戦争犯罪の情報収集に支援の約束を得た。
それでもなお、外交方針の転換には以下の問題がある。1.物資の使用を区別できないし、イラク経済の回復とイラク軍は切り離せない。2.イラクの反政府勢力は弱いし、それを支援すれば新しい制裁の監視体制が行き詰まる。3.アメリカはイスラエルの行動から無関係ではありえない。アラファトが権力を失い、フセインの仲間のゲリラが指導権を握れば、イスラエルでの戦闘や中東地域の反イスラエル・反米感情が高まる。
Bahrain: Your kingdom for our rights
アラビア湾の中ほどに浮かぶ繁栄の小島、バーレーンで、40万人の市民たちはその幸運を信じることができない。数ヶ月前までは、アラブ諸国の中で、効果的な抑圧体制を誇ったこの国が、最も自由な体制に変わったのだ。
過酷な支配を行った前首長とその兄弟に代わって、1999年に権力を継承した息子は、検閲を廃止し、囚人を解放して、父親の敵たちを公式に認め、亡命者たちに帰国を呼びかけた。そしてヨーロッパ型の立憲君主制を定めた憲法を公布した。先週、この憲法は、有権者の90%が参加した国民投票で、その98.4%から支持された。
「人々は大変、大変、幸せである。そして、この夢が覚めないことを願っている。」と、ある新聞の編集者は述べた。
しかし、それは夢ではない。新しい支配者、ハマド・ビン・イサ・アル・ハリファ王は、政治犯を逮捕する1974年の法律を廃止し、国家安全法廷を閉鎖した。反対者も再雇用し、国家を持たなかった約1万人のビドーンBidoonsたちに国籍を与えた。
王は反対派をも出し抜いた。バーレーンの反政府勢力は、積極的な抵抗の伝統をもち、王族がスンニー派であるのに対して国民の多くがシーア派であることから、強い支持を得ていた。この改革がイラン=サウジ関係の改善と同時に起きたことは偶然ではない。しかし、もちろんハマド王の動機は国内にあった。「彼はわれわれの国籍を保証し、われわれは彼の王位を保証した。」と反対派も言う。
経済の衰退も改革の理由であっただろう。バーレーンに石油はあまりなく、むしろオフショア・バンキングや観光などのサービス産業に依存している。20万人の外国人労働者をひきつけているが、国民の15%は失業している。改革によって政治的な安定性を確保しなければ、投資は逃げてしまう。
地方選挙と国政選挙が迫っている。過激派たちが新しい自由を使って、シーア派の支配を確立するかもしれない。しかしそれを恐れる者は少ない。「彼らもアルコールを禁止したりはしない。ここは世界で最も乾いた国(サウジ・アラビア)に最も近い酒場である。だからわれわれは儲かっているのだ」と、ほくそえむ。
For Europe’s Parliament, power without love
ヨーロッパ議会には焦点がなく、権力もない。ストラスブールに626人の代表の中から数十人だけが出席し、それを超える数の通訳たちに囲まれている。
しかし、実際には、議会に多くの権限が与えられてきた。ところが、重要な行動は閣僚との論争ではなく、委員会の中や廊下で行われる。1997年のアムステルダム条約以来、議会は「共同決定権」を持ち、多くの政策分野で、発案はできないが、修正や拒否権を行使できる。たとえばオランダでは、法律の3割から4割がすでにヨーロッパレベルで決定されたものを承認している。
そこには悪循環が働いていた。ヨーロッパ議会には権力がなく、実行への信頼性がないから、誰も権力を与えない。しかし、マーストリヒトとアムステルダムの条約で、好循環が生じたはずであった。議会もそれに答えて、ヨーロッパ市民から縁遠く、官僚的である、という印象を改めるような行動を見せた。1999年、議会はヨーロッパ委員会の全員を辞任させたのだ。
しかし、ヨーロッパの有権者は感心してくれなかった。1999年の選挙では初めて投票率が50%を切った。議会は、各国からの航空運賃を支払って、ジャーナリストたちをストラスブールに招いた。有権者は、要するに「ブラッセル」に関することは何でも眠たい、という。そこにはドラマがないのだ。ヨーロッパの法律を作っても、もしどのようにそれが実施されるのか、と質問すれば、議員たちの目は濁って、言葉も曖昧になる。議会はイデオロギーで細分され過ぎて、魅力的な見出しになる対立は見出せない。国連のように通訳とヘッドフォンを介した、多言語の入り乱れる討論では、中身が伝わらない。ユーロ式討論の決まりは、「冗談を言うな。翻訳できない。」である。
議論がないのは、ロビイストたちを喜ばすが、民主的ではない。ヨーロッパ規模の政治を目指すなら、議員たちは「有権者を楽しませる技術」を高めなければならない。
Bank reform in Japan: Seriously?
ひょっとしたら、これは日本の銀行にとって転換点であるかもしれない。今までと違って、金融庁、日本銀行、経団連、がひとつの理解に達したからだ。3月早々に、銀行のバランス・シートを整理し、借り手の企業も建て直すような、幅広い金融的・構造的な改革案を提示する、と。
株価低迷は改革への熱意を促している。しかし、銀行は本当に最終処理に取り組むのか? 彼らが行動しなければ、金融庁はより厳しい審査などで脅迫するだろう。さらに、倒産する企業をどうするのか? 建設や流通分野では、失業と再訓練を含めた長期的な戦略が必要になる。柳沢は他省庁を含めた対策を練っているが、産業保護に熱心な各省が協力できれば奇跡である。
融資を償却するにはいくつかの方法がある。単に免除するのは、モラル・ハザードの問題がある。第三者に売却できれば、銀行は助かるが、企業は(その後の資金調達で)問題に直面する。企業を二つに分けて、良い部分を生き残らせ、悪い部分を破産処理するのもひとつの解決策であろう。その場合も、経営責任の問題や、巨額の償却をまかなう追加的な公的資金の投入が、さらに問題である。
最大のリスクは、柳沢が改革を推進できないことである。改革には自民党内や野党との間で取引が必要である。森首相は、弱い立場で、完全な銀行改革案に取り組まないだろうし、彼が辞めれば、柳沢自身も大臣を続けられる保証はない。