今週の要約記事・コメント
2/26-3/2
IPEの果樹園 2001
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日本の森首相がThe Economistの表紙を飾ったことは、誌面で多くの政治家が批判されてきたとはいえ、とりわけ自分達の無能さと恥辱を世界中のニュース・スタンドに並べているようで、悔しい気分でした。
「彼は善人だ。ずうずうしい。そして健康だ。」だから首相としても良くやっている、と中曽根元首相は森首相を激励(?)しました。もちろん、自民党内で自分の派閥が主流派であることを庇っただけかもしれません。日本の政治は、議会における発言や政策の優劣ではなく、議席数に依存し、選挙資金に依存し、支持団体の集票力に依存し、その見返りの補助金や権限に依存していると思います。だから首相も、善人で、ずうずうしく、健康であれば、誰でも良いのでしょう。
成長戦略と安全保障政策に代替案が無く、農村や都市の零細な直接生産者・サービス部門を所得補償政策で囲い込んだ結果、自民党の政権は権力を長期的に独占できました。しかし社会党がなくなり、ソ連がなくなり、農業保護や市場参入規制が放棄され、アメリカ軍の関与が絶対的なものでなくなれば、自民党もなくなったほうが良いでしょう。日本の政治を、自民党の中だけで、(政策も思想も)何でもありの派閥力学や老人支配に委ねるより、政党別の選挙による政策選択に変えるべきです。
複数の政党に分かれて、大企業や銀行の再編・淘汰、規制緩和、市場開放などをめぐり、異なった改革路線を競わせるべきです。若手の指導者たちが、誰にでも分かりやすい論戦をメディアで繰り広げ、政策ごとの世論調査や選挙を(現実にも仮想的にも)頻繁に繰り返すことで、日本も普通の政治ができるようになるでしょう。
G7で批判(脅迫?)されたからか、週明けに、政府や金融庁が不良債権処理を急がせると明言しました。本当にできるのか? 今までなぜできなかったのか? コストは誰が支払うのか? もし政府の宣言だけで処理できるなら、不思議な気がします。しかし、政治家がこの議論を避けられないと覚悟したのであれば、正しいことです。「ブルー・チップ」銘柄を庶民の資産形成に活かしては、とか、一定額までの株式運用を課税対象からはずしては、という提案もあります。民間からも外国からも、不良債権処理と並行して、資本市場の利用・拡大が議論されるでしょう。
新しいアイデアと活発な議論が広がって、日本の経済や社会が活性化するとき、G7による国際協調や自民党の内紛も、有効な<変革の触媒>となるのです。
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REUTERS:February 19, 2001
O'Neill Calms Currency Market But Questions Linger
初めてのG7で、オニール財務長官は強いドルを支持すると断言した。しかし、メディアはそれを報道したが、金融市場はまだ確信していない。
新政権のドル政策は、クリントン政権とまったく同じである。もし変更するときには、ヤンキー・スタジアムを借りて宣言しよう、とも言った。確かに、ルービンやサマーズと同じく、為替レートは長期的に経済のファンダメンタルズを反映している、という考え方に変わりは無い。そしてルービンもサマーズも、お経のように唱えてきた。「強いドルはアメリカの国益である」と。
ところがオニールはそれ以上の説明を拒んで、ドル高についての経済学の説明なんて学校に置いてきたよ、と鼻であしらった。市場でもオニールの発言は無視され、ドルに対してユーロは増価したが、その理由はトルコの政治混乱とG7による強気のヨーロッパ経済見通しであった。
ルービンやサマーズが強いドルを支持したのは、アメリカ経済の強さが理由であった。それゆえ、アメリカ経済が急激な減速を示した時期に、同じ主張をするだけでは意味が無い。リンゼー大統領経済顧問は、経済の悪化を理由に1兆6000億ドルの減税案を主張している。他方、パレルモではオニール長官が急速な回復を予想した。
アメリカの経済政策を代表するのはオニールか、リンゼーか? 金融市場はドルの方向を決めかねている。
Washington Post, Monday, February 19, 2001
Goodbye to Reaganomics
By Sebastian Mallaby
ブッシュ政権は、ミサイル防衛システムや大型減税で、レーガン時代を再現しつつある、と言われている。しかし、減税に関して、ブッシュは反レーガンである。レーガン的なサプライ・サイドの議論を採用せず、むしろ需要面を重視する。
この何か気持ちの悪いケインズ主義復活は、大型減税を実現するための、多分に知的な矮小化戦略である。
レーガンが最初の減税を打ち出した頃に比べて、限界税率は下がっており、減税によって労働意欲を高め、生産を増やす、という主張は説得的でない。下院の課税委員会で証言したオニール財務長官は、ケインズ主義への宗旨変えをやんわり指摘されたが、質問をはぐらかした。結局、彼が答えたのは、企業のIT投資による生産性上昇はまだ始まったばかりだ、ということだった。
大統領経済顧問のローレンス・リンゼーも、熱烈なサプライ・サイダーとして知られてきたが、同様に控えめな発言をしている。労働意欲の問題には一切触れずに、減税は人々に貨幣を与える手段である、と。
要するに、減税が追加的な労働供給をもたらすとしても、非常に限られている。むしろ、もう一つのサプライ・サイダーの論点である貯蓄への影響では、マイナスとなる恐れがある。財政黒字を政府が使ってしまうかもしれないが、少なくとも今のマイナスの貯蓄率を考えれば、減税は貯蓄を減らすだろう。資本市場が世界的に統合されていない以上、それは投資を妨げ、将来の生産性上昇を損なう可能性がある。減税によって得られるわずかな利益よりも、生産の減退がもたらす損失のほうが大きいかもしれない。
他の条件が同じであれば、人々は稼いだ収入のできるだけ多くを手元に残したほうが良い。しかし、(レーガン時代と)条件は同じではないのだ。有権者はさまざまな減税を求めている。いろいろな税制の問題点を議論するより、政府はもっと支持されやすい説明が欲しかった。
ブッシュ政権が、不細工なディマンド・サイドのケインズ主義を採用した理由はここにある。オニールもリンゼーも、減税によって不況が解消できるとは思っていない。しかし、二人ともサプライ・サイドの議論が弱いと知っており、減税策を実現する根拠を求めていた。彼らがどぶさらいの末に見つけたのは、レーガノミクスと反対のものであった、というわけだ。
Financial Times, Tuesday Feb 20 2001
Editorial comment: Dollar dramas
オニール財務長官は、一方で、通貨市場への介入に懐疑的であると語り、また他方、自分が強いドルを維持する政策を放棄したという報道に激しく反発した。
強いアメリカ経済が強いドルをもたらした、というのは、過去のユーロがたどった対ドル価値の下落に良く示されていた。そして、12月にアメリカ経済が急停止してから、ドルの価値は下がっている。この関係が続くとすれば、ドルはさらに減価するだろう。
強いドルを支持するというオニール長官の発言は、大幅なドルの減価に政府が行動することを意味する。しかし、ストロング・ダラー・ポリシーは、それが導入されたときの意味を失っている。金利がインフレを目指している以上、ドルを維持する手段は市場介入しかない。もしドル暴落が起これば、それも重要な手段であるが、緩やかに減価することは許容されるだろう。アメリカの減速と巨額の経常収支赤字を考えれば、ドルの減価は許されるべきである。
政権が変わって、市場は政策の方向を行間から読み取ろうとしている。オニール氏がドルについての経済学の「学術的な解説」をこれ以上議論しない、というのは(ドル暴落や介入を好まないなら)おそらく賢明なことであろう。
Financial Times, Wednesday Feb 21 2001
Editorial comment: China's casino culture
比較的短期間に、中国の株式市場はアジアで3番目に大きな市場に成長した。しかし、その成長は大幅な浮動性と汚職についての絶えざる疑いに満ちている。
中国政府は、これまで外国人しか購入できなかったB株市場に、国内投資家も参加できる決定を下した。それは改革の前進のように見えるが、スキャンダルで低迷した株式市場を梃入れしているに過ぎない。
大規模な株式投資を導入したのは、中国の莫大な国内貯蓄を、国営銀行を通さずに、直接、企業の改革に利用させるためであった。株主が上場企業の市場圧力をかけ、最悪の場合は市場から資金調達を止めさせると言うペナルティーも伴うはずであった。しかし、実際には、中国の株式市場は多くの理由で歪んでおり、「カジノよりひどい」とまで言われている。
上場企業はすべて国営(国家が株式の半分以上を所有)であり、第二取締役会を設ける計画は進まない。株式市場は、成長部門ではなく、削減されるべき部門に資本を注ぎ込んでいる。さらに、株主は企業を業績によって区別できない。情報開示は行われず、厳密な会計基準も無い。業績を審査する独立の信用できる調査会社も無い。
こうした状況では、株価が人為的に操作される。これらの問題が解決されるまで、資本市場は機能しない。株式市場によって多くの企業が改革と成長を実現させるのか、それともこのまま、より深刻な問題を抱え込むのか。
New York Times, February 21, 2001
RECKONING: Fowl Play
By PAUL KRUGMAN
ジョージ・W・ブッシュは人にあだ名をつけるのが好きらしいから、私も彼を「弱虫のちび」と呼ぼう。彼は、結局、「不況が来るぞ! 早く私の減税案を承認しろ!」と言って走り回っているのだから。
しかし、一つの例外を除いて、経済統計はそんな悲観的予想を支持していない。失業率はわずかに上昇したが、まだ数年前には考えられなかったほど低い。重役の報酬はこれまで以上に増えている。消費支出や企業の投資は減速したが、決して急減してはいない。住宅建設は増加している。製造業の生産も、在庫調整の結果として昨年数ヶ月間急落した。しかし、先月には安定した。
唯一の不安材料は、消費者心理の悪化である。その理由は何か? ハイテク株の暴落。メディアの誇張された報道。そして、CNBC効果もあるだろう。経済ニュース番組は、人々が毎日見るように、良いことも悪いことも、誇大に吹聴する。
そして決して忘れてならないのは、現政権が悲観論を決め付けていることだ。ブッシュ氏が楽観論を排除し、経済悪化の警告を繰り返している。多くの者が悪化すると信じれば、経済は本当に不況になるかもしれない。細かいことを気にせず、議会はさっさと減税案を通せ! ということだ。
よく似たことは前の政権でもあった。日本に圧力をかけるために、ドル価値の下落(円高)を促す発言を繰り返した。その政策は多方面から批判されたが、ブッシュ大統領の主席経済顧問ローレンス・リンゼーは、1993-94年のドル安誘導発言が1997年のアジア危機をもたらした主要な原因だ、とまで示唆した。
今回は彼らが批判される番である。「国内政治目的でドルを操作した」前政権が世界経済危機をもたらした、と責めてきたのだから、リンゼー氏は彼の仲間が不況をもたらす言動を振り撒くことで批判されても、決して文句は言えないはずだ。
Financial Times, Thursday Feb 22 2001
Editorial comment: The choice for Turkey
トルコの為替レート制度はもはや限界に達した。どうすれば安定性を回復できるだろうか? 政府の選択が重要である。
通貨危機の原因は、政治的な対立だけでなく、改革の遅れと固定制への取り組みが不十分なことであった。昨年末に続いて二度目の危機であるから、市場の信認を取り戻すコストは非常に大きくなり、金利が跳ね上がっても資本流出は止まらなかった。
現状維持は不可能である。固定制を維持しようとしても外貨準備を失うだけだ。金融システムの破壊と手のつけられない通貨価値暴落に至るだろう。完全なカレンシー・ボードも、金融政策を将来も失うことを意味しており、採用しにくい。それゆえ自由な変動制を採用することが考えられる。変動幅を拡大するだけでは、一時的にはともかく、成功しそうに無い。
過去の経験から見て、通貨の減価はオーヴァーシュートするだろう。トルコはまだインフレ抑制に関して信頼を得ていないから、短期的に金利は高止まりする恐れがある。しかし、トルコの銀行システムは過剰な信用拡大に走っていないし、対外短期債務も手に負えないほどではない。通貨価値の下落は、アジア型というより、ブラジル型であるだろう。
問題は、政府が混乱を一時的なものに止められるかどうかである。インフレを抑制し、財政赤字を削り、構造改革に取り組んできた。減価による一時的なインフレが起きても、迅速に輸出型成長に復帰できるはずである。政府の選択に懸かっている。
Bloomberg 02/21 17:05
In Japan, A Fine Mess Has LDP Thinking `Policy': Patrick Smith
By Patrick Smith
日本の混迷はかつて無い深刻さである。私はこの混乱が、政府や自民党に正しい決断を促すことを期待している。結局、政府は日本の主要な銀行に圧力をかけて、優良企業の債務を免除し、市場で生き残れない企業を破産させるだろう。こうして宮沢財務大臣はパレルモでの叱責に応じる。厳しい痛みを伴うから、そこには当然、鞭だけでなくニンジンも用意されているはずだ。
日銀は自民党幹部から圧力を受けている。銀行が苦い薬を飲めるように、30兆円から40兆円(2570億ドルから3420億ドル)規模の債務処理パッケージを日銀が用意しろ、と言うのだ。ところが、これは森首相の早期退陣論で大騒ぎの政界に取り残され、代わりに年度末の決算を無難に終わらせる株価への口先介入ばかりである。
日本政府も漸く経済の苦境を認識し、保守層の政治合意が生き残れるかどうかを真剣に考え始めた。問題は、どの程度、真剣か? である。自民党の支持者に対する支援策、言い換えれば、<規律なしの刺激・援助金>という無策は、ついに寿命が尽きたようだ。この数ヶ月は、過去の債務から企業が立ち上がれるかどうかの重要な時期である。
日本は、経済的に、輸出と投資というエンジンが止まりかけている。金融的には、銀行システムの不良債権が株価下落と今後の企業倒産でさらに増えるだろう。もし銀行が公的資金投入の際に政府に発行した優先株に配当できなければ、銀行の3分の1は国有化される。そして、政治的には、崩壊がもはやシュール・リアリストの小説に近い。20年間日本を観てきたが、スキャンダルと腐敗は比べるものが無いほどだ。
ある新聞によれば、森の支持率は驚異的な低さ、わずか9%である。「族長たちの秋」と、私はこれを呼びたい。日銀と永田町との駆け引きはどこかで手を打つことになる。企業を再編して、債務が処理できれば投資したいと思いながら、企業はそれを待っている。
しかし、長期的な回復が自民党に実現できるか? 若手の議員達にも新しいアイデアが無い。自民党は、「間違いだらけで、無責任で、時代錯誤だ。」
New York Times, February 23, 2001
Floyd Norris: The U.S. Trade Deficit Now Matters
By FLOYD NORRIS
アメリカが、毎日、外国に売るよりも7億2300万ドルも多く外国から買いつづけることは、決して永久に続けられない。ドルは減価しなければならない、と1年前にも言われていた。もう一度言っておこう。それは今年で終わる、と。
Cato Instituteのグリスウォルドは「貿易赤字は問題ではなく、アメリカ経済の強さを示しており、世界の投資家からすばらしい国内経済状態を公認されたことを意味する」と述べた。「赤字の増加は、国内の成長と投資を示す」と。
アメリカ経済は減速したが、貿易赤字が大きく減少する見込みは無く、もし外国投資家がアメリカへの投資を躊躇したら、ドル価値は下落するだろう。昨年、アメリカ企業に流入した外国資本は、40%以上がハイテク分野、特にテレコムに集中した。彼らの多くは、今、そんな投資を後悔しているだろう。
株式がだめなら、債券はどうか? アメリカ財務省証券の発行済み債券の38%と、社債の20%を、外国人が保有している。しかし、Fedが金利を引き下げつつあるから、債券投資の魅力もなくなっている。
それでもドルが下落しないのは、ドルと競争する日本やEUの経済もそれほど好ましくないからである。とはいえ、後退するアメリカ経済に毎日10億ドルを外国投資家が流入させるとは考えにくい。アメリカが深刻な不況に入れば、貿易赤字は減るが、外国からの投資はもっと急激に減少する。Fedは金利を上げてドル暴落を防ぐのか、それとも金利を下げて国内経済の回復を助けるのか? 議会は保護法案を通過させないか?
アラン・グリーンスパンはこうした質問に答えたくないから、金利を慌てて引き下げる一方、経済の回復に自信を示した。しかし、市場は彼に協力しない。ナスダックはさらに下落し、ウォール街は一層の金利引下げを待っている。
資本流入とドル高が、景気回復の犠牲になる。
New York Times, February 24, 2001
Bush Backs Turkish Efforts to Resolve Economic Crisis
By DOUGLAS FRANTZ with DAVID E. SANGER
ブッシュ大統領はトルコのエチェヴィット大統領に電話し、通貨危機の収拾に向けて協力する、と述べた。選挙戦を通じてIMFの通貨危機救済策に疑問を示してきたブッシュ氏も、IMFに冷淡な対応をしていたオニール財務長官も、ここに来て態度を変えた。
その理由は、トルコがNATO加盟国であり、イラクのフセインと対抗するためには、この国の苦境を救済する必要がある、と気付いたからだ。イラクへの経済制裁はトルコに経済的な損失を与えており、今回の通貨価値下落でインフレが強まり、銀行も外貨建債務の負担が増している。
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The Economist, February 10th 2001
Why Japan’s Mori must go
Japan starts picking on China
日本は、かつてのような偉大さも誇りもなくし、10年間の迷走と経済停滞を経て、なお失業率は危険な状態にあり、朝鮮半島の緊張緩和と中国の台頭に直面している。この国の銀行も生命保険会社も大変弱体で、まったくの支払不能のように見える。最大の輸出先であるアメリカ経済が減速し、世界経済が下振れすれば、日本はぺしゃんこになるだろう。
どんな政治学者が見ても、歴史的な意味で、日本は根本的政治変革の条件を満たしている。しかし、そのような見通しはほとんどない。特に、国内では誰もそれを真剣に考えない。有権者は怒るというより呆れている。それは非常に危険なことである。特に、現在の森首相が長く居座るほど、日本の政治的な麻痺は続く。
政府の支持率が下がり、株価も下落し、多くの銀行が危機寸前である。このままでは7月の参院選挙で自民党が大敗するのは避けられない。では、政府が必死になって政策の変更を試み、あるいは首相を交代させるのか? しかし、そのような気配は無い。加藤宏一が潰された後は、だれも敗北しそうな選挙の責任をとりたくない。
国会はいますぐ内閣不信任案を可決し、総選挙か首相交代を行うべきである。しかし、そんな気配も無い。野党が清潔とはいえないし、統一されてもいない。
今の政府に代わるものは、何も無いのか? もっと防衛的で、もっと否定的な傾向が見られる。中国からの安価なしいたけ、たまねぎ、イグサの輸入に、国内の農家が保護を求めているのだ。公式の発言と異なって、日本と中国の関係は悪化している。その原因は、日本が宥和政策を後退させつつあるからだ。
日本の不況と失業は、好戦的な愛国主義の温床となる。人種差別は見えない形で増加している。外国人の犯罪に対する関心と取り締まり強化も、その一つである。「もしあなたが中国語を話す人々を見たら、警察に通報してください」というポスターが、最近、東京で慌てて回収された。
中国からの輸入の大部分が、日本から進出した企業による安価な労働力と資源の利用である間は、日本は貿易赤字を気にしなかった。しかし、冷蔵技術や物流の改善が、日本の農村を安価な中国産農産物で脅かすようになると、政府は自民党の有力な支援団体である彼らを保護しようとし始めた。
もちろん中国の指導者達は、日本の敵意に注目している。
Unwelcome to Iberia
スペイン南部のAlmeriaで農業を営むガブリエル・バランコは、北ヨーロッパに輸出する温室栽培を維持するのに労働者が欲しい。モロッコからの非合法移民であるムスタファはEl Ejidoの外に広がるスラムに住み、仕事が欲しい。かつて荒地であったが、灌漑による園芸がここをスペインでも豊かな地域に変えた。しかし、新しい移民法では、バランコがムスタファを雇うことは、高額の罰金を支払う危険を冒すことになる。
内務大臣は、以前の移民法が緩すぎた、という。スペインはラテン・アメリカやサブ・サハラ・アフリカ、東ヨーロッパからの大量の移民流入を同化できない、と。El Ejidoでは1年前に住民と移民労働者の衝突が起きた。各地で人種対立が強まっている。外国人が少ない頃、スペインは人種差別が無いことを誇りにしていた。今では、4000万の人口に100万人の合法移民とわずかな難民がいるだけだが、その誇りは無い。
1970年代まで、スペインは労働力を輸出していた。しかしスペイン人が豊かになり、教育水準も高まると、農場や家内サービス、建設などの肉体労働を嫌うようになった。失業があるのに、移民労働者しか働かない職場がいくつもある。その賃金や労働条件は悪く、危険がともなう。それでもモロッコの労働者は家族への仕送りをするために、海を越えてやってくる。
新しい法律は、移民を数量規制し、非合法に移民を雇う雇用主に罰金を科し、仲介業者を処罰する。そして50万人と推定される非合法移民たちを国外追放する、と言う。それには移民送り出し国との合意が必要である。モロッコ、エクアドル、コロンビア、ポーランドと、毎年の移民割当数を決め、入国前にスペイン側の居住許可証を取るよう、協定を改正もしくは協議している。
移民たちはこの法律に怯え、あるいは怒っている。特に、合法的な滞在を拒まれて非合法移民となった労働者達には、もはやストライキも団結権も無い。教会を占拠したり、ハンガー・ストライキを始めたり、王室に直接抗議する者もいる。送り出し国は強制的な帰国に不安を強めている。罰金を科された上に、移民労働者も強制送還され、El Ejidoの農産物が外国からボイコットされるのではないか、という不安をバランコ氏は抱いている。「われわれは労働者が必要なのだ。政府は現実を無視しているか、無能である。それとも、両方だ」と彼は言う。
ポルトガルでも事情は同じだ。神はバベルの塔の建設を止めさせたが、ここでは成功しないだろう。リスボン第二空港の建設と、2004年のヨーロッパ・サッカー選手権のための競技場建設は、多くのウクライナ、ルーマニア、ロシア、モルドヴァの労働者を、アラブやアフリカからの労働者とともに吸引している。
1960年代には、ポルトガルが毎年10万人以上を海外に移住させていた。今も人口の約4分の1に匹敵する250万人が外国に住んでいる。彼らからの送金はポルトガルの重要な外貨源である。しかし、今や国内の活況が労働市場を逼迫させ、移民の増加による国内の緊張は政治問題となった。移民達はスラムに住み、東ヨーロッパのマフィアに支配されている。しかし、子供達にはより良い条件を求める。それが満たされないとき、彼らの不満は爆発する。政府も彼らを無視していない。
政府は、移民達が望むのと逆の形で、この問題に対応しつつある。すなわち、これまでのような非合法移民の合法化は止める。労働者には、労働市場の需要予測に基づいて、一時的な雇用許可証を発行する。ウクライナやルーマニアと政府間の協定を交渉する。
この法律は機能するだろうか? 住居が無ければ入って来ない、という前提は正しくない。左派や教会は非人道的な扱いを批判する。いずれにせよ、サッカー場ができた後も、彼らはここに残る。
To cut or not to cut
切るべきか? 切らざるべきか? アメリカの経営者達は労働者の解雇を躊躇している。
アメリカを席巻した「ニュー・エコノミー」超楽観論は既に完全に吹き飛んだ。生産の落ち込みが始まっている。企業は即座に雇用と投資を削って、不況を本格化するだろうか? 不況では、需要の減少に比べて企業の対応は遅れるから、生産性が悪化する。過剰な在庫が労働者のレイオフを促し、それが消費者心理をさらに悪化させて、不況の悪循環が回りだす。
ニュー・エコノミーでは、莫大な情報投資によって、製造業もより迅速な調整が可能になり、余分な在庫は持たないから、景気循環は小さいだろう、と言われてきた。しかし、在庫の増加を見れば、まだこの先、大幅な生産削減が行われそうである。
二つの削減に経営者は悩んでいる。投資と雇用である。過去5年間、技術関連設備・ソフトウェア投資が実質GDP成長の3分の1を占めた。しかし、E-mailソフトを隔週で更新するような投資を企業は疑い始めた。
しかし雇用について今まで発表された削減の多くは、合併などの長期的な戦略的理由による。雇用調整のスピードは、ニュー・エコノミー派を失望させただろう。それは、この経済では人的資本が企業の最大の資産であると考えるからだ。
労働市場の弾力性も、企業による労働力の保蔵を容易にしている。雇用を削るよりも、労働者は労働日を削られる。企業利潤に連動して賃金や労働時間を変化させることで、企業はより容易に需要の減少に対応できる。しかし、一時的なスタッフは削減されやすいだろう。それでも、労働市場の悪化は製造業に限られる。
製造業の苦境が経済全体に広がるかどうかは、まだ数ヶ月経たないと分からない。企業の利潤が減ることは確実だ。経営者達は、自分の株式オプションを心配しながら、利潤回復のためにより厳しい対応を急ぐかもしれない。すなわち、不況を確かなものにする。
Japan’s stockmarket: Support systems
節分で鬼を追い払い、幸運を招くために豆撒きをするように、3月31日が近づくと日本政府はいつも株価対策を唱えだす。しかし今年は、政府が撒きたくても豆が無い。
自民党と他の連立政権与党は、公的年金による株購入から、株式投資の楽しみを学校で子供に教える計画まで、いろいろと議論してきた。今年は特に、銀行の生き残りが懸かっている。
自民党は、銀行対策の失敗を認めたくないので、株価対策を発表した。しかし、金庫株の推進は、株式市場の流動性を高めるという目標と矛盾する。さらに、インサイダー取引や株価操作の心配がある。日本の証券取引を監督する機関は実効性が無い。
自民党の観点からも、こうした対策では3月末の株価引き上げに間に合わない。むしろ政府は、株価の変動や企業買収から経営者を守ることを目指している、とも考えられる。もちろん、金庫株の主要な支持者は経団連だ。
自民党が何をしようと、日本市場の根本問題は投資家の利潤に対する見通しである。構造改革や債務処理が進み、金融システムが健全化しなければ、企業の利潤は改善しない。亀井のような自民党の直接介入派も、株価維持が市場の信頼を傷つけると考えて、静かになった。もちろん、次のパニックが来るまでだが。