今週の要約記事・コメント
2/19-2/24
IPEの果樹園 2001
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いつもと違う週末になりました。G7とバクダッド空爆があったからです。世界的な金融市場の不安が増している中で、誰もが注目する事件がおきれば、その結果がどうなるか、もちろん週明けの市場の行方に影響するでしょう。
今まで国際通貨市場は比較的安定していました。ドルが緩やかに弱くなり、ユーロが回復するけれども、円高は起きない、という状態を、市場参加者も金融当局や各国政府も受け入れていたと思います。しかし、同時に、それぞれの思惑と懸念は互いに錯綜し、疑心暗鬼を生じやすくなっています。油の撒かれた藁の家で、誰かが火遊びを始めたら、ひとより先に逃げ出すことしか考えません。アジア通貨危機の「ウェイク・アップ・コール」は、ふたたび世界にも鳴り響くのでしょうか? アラン・グリーンスパンの神話や安定的な調整が続くという楽観が、市場の不安とぶつかるのです。
そんな素人の社会心理学か、精神分析の講釈を聞く必要など無い、とそれぞれの専門家は思うでしょう。多くの仮定を認めれば、より精緻な分析と正しい理解が可能になります。しかし、多くの個人投資家はまさに素人であり、資産運用の担当者も自分の短期的な成績といくつかの統計にしか関心がなく、政治家たちによる集合的意思決定はもちろん、指導者の知識や資質にも重大な欠陥があり、市場の大幅な変動が実態を無視して動き始めたら正常な判断など受け付けないことは明白です。
システミック・リスクが潜在的に膨張しているとしたら、それを抑制し、分割する工夫が必要だと思います。それは極めて人間的で、欠陥の多い、イデオロギーに支配された試行錯誤であり、政治交渉の積み重ねです。どのようなシステムが現実の政治制度と市場の拡大に対して機能するのか? という問題を、経験の比較によって示すことが必要です。
この国には、打ち出の小槌のように日銀券が散布できると考えるような、経営者や政治家がいるかもしれません。市場の資源配分機能や、不正に対する法の支配、情報開示、説明責任と迅速な処理、などを人々が強く求めないのはなぜでしょうか? 他方、日銀が貨幣供給を無制限に拡大できないのは、この国の政治や市場が弱体で、改革を優先しないからだと思います。
幼い子供たちの観るテレビ番組や漫画に溢れている「勇気」と「正義」が、大人たちの国には許されないのでしょうか? 脆弱な市場では、革新や勤労による「利益」が戦争や政治の餌食になるのです。ジャック・ヒギンズの小説に、イラクのフセイン大統領から依頼を受けた愛国的なアラブ資産家が国際テロリストを雇い、イギリス政府の全滅を企てる、という話がありました。
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Washington Post, Monday, February 12, 2001
A Not-So-Steady Hand on the Tiller
By Fareed Zakaria
アラン・グリーンスパンは、ジョージ・ワシントン以来、もっとも批判されることの無い政府要人である。彼の金利変更に失敗はありえない、と信じられている。
しかし、そうだろうか? グリーンスパンは、コア・インフレーションを抑えることよりも、そのときの危機に反応して金利を変更してきた。しかし連邦準備理事会が、短期金利という核兵器を、世界中の銀行家やアメリカの投資家に何かをたきつけたり、丸め込んだりするために使うべきだろうか?
グリーンスパンが最も賞賛される1998年秋の金利引下げを考えてみよう。ロシアのデフォルトやLTCM危機が起きて、世界市場はパニック寸前であった。グリーンスパンは金利を急激に引き下げて、世界経済を救った。しかし、それは加熱したアメリカ経済にとって間違った興奮剤となった。連邦準備理事会は、アメリカのインフレ抑制を無視して、世界経済の最後の貸し手になったのだ。Y2Kでも過剰な貨幣供給を行った。
株価が高すぎることを恐れて、ほとんどインフレの無い経済で、グリーンスパンは1999年7月から6回も金利を引き上げた。その引締め策が効き過ぎて、成長がゼロになった。今や金利引下げを急ぐことで、株式市場や消費者が強気になることを期待している。
3年に及ぶ金利のシーソー運動を見ると、グリーンスパンが、言われているほど、安定軌道を追求する冷静な人物ではなく、ガードレールに次々ぶち当たる危機の常習犯であることが分かる。LTCMは本当に世界経済を破綻させたのか? 確かに、その損害額は1兆ドルに及んだだろうが、2000年4月にナスダックは2週間で1兆6000億ドルを失った。アメリカの市場は巨大であり、大きな損失も吸収できる。こうした変動は世界資本主義の新しい時代に珍しくなくなっている。ただし、問題は、後から批判しても仕方ないことだ。
私達は、Fedの国際的な役割と国内的な役割とが矛盾することに注意しなければならない。特に、ドル化の進むラテン・アメリカでは、アメリカの金融政策に自分達の経済回復を期待している。しかも、経済学は不確実性や直感、心理に依存した、人間科学である。不完全な情報を元に、アラン・グリーンスパンでさえ過ちを免れない、と言うことを、私達は知っておくべきだ。
Financial Times, Thursday Feb 15 2001
O'Neill signals hands-off stance to world economy
By Gerard Baker and Stephen Fidler in Washington
O'Neill's world
Gerard Baker and Stephen Fidler
アメリカのオニール財務長官は、世界経済を安定化させるために市場に介入することに関して、非常に慎重な姿勢を示した。G7による蔵相・中央銀行総裁会議に始めて出席するにあたって、オニール氏は、危機に政府が関与して救済する必要は無い、と述べた。
危機が拡大するのは市場が自由に機能していないからである。「それは資本主義の失敗ではなく、資本主義が欠けていることを示している」、と。
アメリカがG7に何か協調行動を提案するとか、IMFの救済策を支援するとか、そんなことには関心がなく、自由な市場を使って危機の拡大を防ぐことを重視する。特に、経済学者たちの言う、「モラル・ハザード」を取り除く必要を認めた。
オニール氏は企業の経営幹部モデルを政府に持ち込む。彼に関心があるのは、企業が、そして経済が、新しいアイデアや技術に適応する現実的なやり方である。「モラル・ハザード」という言葉にも、厳密な定義を要求している。彼は、前任者のサマーズと違って、前世代の思想を体現するのである。
それはまた、資本主義の完全さに対する信念である。資本主義にとって危機は本質的ではない。1990年代のラテン・アメリカやアジアに起きた危機は、資本主義の不足によって生じた。大恐慌も、資本主義の失敗ではなく、その管理がまずかったことを示している。金融政策や財政政策、通商政策が正し聞く理解できていなかった。
危機は回避できる、という考え方が、国際金融システムに対して持つ意味は重要である。通貨介入やIMFによる危機管理を、彼は支持しない。特に、リスクの無い投資は資本主義と相容れない、という。しかし、経済学者が使う「モラル・ハザード」という言葉に、彼は批判的だ。
オニール氏は、国際会議が特に有益なものとは考えない。各国が何をしているかは、わざわざ世界の果てまで旅しなくても、オフィスでコンピューターを見れば市場の数字で示されている。たとえば、今まで日本政府を説得することに努力したが、ほとんど何の成果も無かったではないか。
他方、彼はIT革命がアメリカ経済を大きく変化させたと確信しており、生産性の上昇はまだ続く、と考える。そしてこの革命は世界全体に及ぶはずであり、アメリカ以外では始まったばかりである、と主張する。
カリフォルニアの電力危機も、中途半端な自由化が行き詰まっただけであり、連邦政府は解決のために協力できる。環境保護を口実に発電所建設を妨害するような考え方を、彼は明白に否定した。
国際政治交渉やワシントンの官僚には無かった、こうした直截な表現によって、彼は「ビジネス・アプローチ」を推進していくつもりであろう。
Financial Times, Saturday Feb 16 2001
Editorial comment: First World fundamentalism
過去8年間に、アメリカが国際経済協力を強く支持することに、疑いをはさむ者はいなかった。しかし、パレルモでのG7を控えて、オニール財務長官はシシリーの鳩の群れに猫を投げ込んだ。
彼は、金融危機は世界の主要メディアの売上げに大いに貢献したが、ほかの誰にとってもそれほどの関心事ではなかった、と述べた。危機は人間によって作り出されたのであり、資本主義が十分に機能すれば解決できる。市場に十分な情報を与えることだ、と。
この発言は通貨市場に電撃ショックを与えた。ドルは即座にユーロに対して上昇した。市場は、その後、オニール氏のドル高政策からの後退を示唆する発言で、再び反落した。
ヨーロッパの政策担当者にとってG7は重要であり、アジア通貨危機で生産や雇用が失われた諸国にとっては、アメリカ財務省長官のこうした発言は無神経であったに違いない。
そこには、経営者の現実主義という色合いとともに、初期のレーガン政権が持っていた資本主義ファンダメンタリズム(原理主義)の精神が存在する。それこそ、オニール財務長官とアラン・グリーンスパン議長とが共有しているものである。
彼の言い方は反発を招いたが、しかし、日本を見れば分かるように、G7が役に立たないと言うのは、多くの者が認めている。有名なプラザ合意でさえ、市場がすでにドル高を反転させつつあったから成功したのであり、それは日本のバブルにつながったと批判されることもある。アジア通貨危機には対応できなかったし、介入に守られた資本主義など無意味であろう。
ウォール街が心配するのは、グリーンスパンは市場の安定化に本気で取り組むだろうが、オニール長官はヘッジ・ファンドや銀行が破産してもそれほど意に介さない、ということだ。もしG7でオニール氏が強いドルを支持し、市場もアメリカ経済の回復力を信頼すれば、ドルはユーロに対して反発するだろう。それは短期的に歓迎され、ヨーロッパ経済の成長を支援する形で、世界経済を刺激する。
しかし、アメリカにはGDPの4.5%に及ぶ経常収支赤字がある。これだけの資本流入を続けることは維持できない。ドルの過大評価と貿易摩擦がレーガン政権のイデオロギーを逆転させ、G7による通貨市場への介入に向かわせたことを、思い出しておくべきだ。
世界は自由な市場に近づいたが、人間の本質は変わらない。事態の推移によって、アメリカ政府も次第に国際協調を重視するようになるだろう。しかし、そのときまで、彼らの原理主義と現実主義とが組み合わされる様子を、世界は見守る必要がある。
はっきり言えることは、新しい財務長官がセイフティー・ネットなど採用しない、ということだ。市場はこのことを銘記しなければならない。
Getting Serious in Iraq
Washington Post, Saturday, February 17, 2001
アメリカとイギリスによるバクダッド郊外の軍事拠点空爆は、クリントンと違って、ブッシュ政権がサダム・フセインへの圧力を強める姿勢を明確にした。
アメリカとイギリスによる「飛行禁止空域」の強制は、10年前の「砂漠の狐」作戦が奇妙な形で続いていることを意味する。アメリカと連合軍は、フセインによるクウェート征服を撃退し、大量破壊兵器の廃棄と国際査察を合意させたが、フセインは約束を守らなかった。その実行を促す経済制裁も効果を失いつつある。
イラクの脅威をなくすために、ブッシュ政権は選択肢を全面的に再検討し始めた。パウエル国務長官はアラブ諸国を訪問して説得するだけでなく、イラクとの経済取引に熱心なフランスとロシアを懐柔しなければならない。イラクの銀行口座を管理する方法があるかもしれない。経済制裁を強化するだけでなく、イラク国内の反政府勢力を支援し、飛行禁止空域の監視強化なども検討される。
<コメント>
なぜアメリカは戦争するのでしょうか? そういえば、なぜクウェートやイスラエルは国家でありえるのか? サダム・フセインは旧世界の怪獣か?
ブッシュ大統領はメキシコでフォックス大統領と会って、移民政策や麻薬取締りを交渉していた。オニール財務長官とアラン・グリーンスパンは、シシリー島のパレルモG7で、主要国の蔵相・中央銀行総裁と会っていた。イスラエルではバラクが選挙で敗北し、シャロンが労働党との連立政権を立ち上げた。シャロンは、事実上、オスロ和平プロセスの合意を廃棄した。イラクのフセイン大統領は、直ちに、アメリカとイスラエルへの反撃を宣言した。…
アメリカのミサイル防衛計画は、中東和平と並んで、ロシアやフランスに反発を生じていた。EUの緊急展開部隊はNATOの目的と衝突し、アメリカとEUの間でイギリスを微妙な立場に置いていた。ユーロへの参加を、ブレア政権は将来に先送りしようとしていた。イギリス世論や国連では、イラクへの経済制裁による民間の被害や、フセイン政権や軍隊に対する制裁の効果、以前の空爆目標が適切であったかどうかについて、疑問が生じていた。狂牛病や移民問題と並んで、劣化ウラン弾がヨーロッパの世論を内向きにしていた。OPECは石油価格の下落を嫌っていた。パウエル国務長官は、アラブの友好諸国に向けて出発する準備をしていた。…
共和党政権によるポスト・ポスト冷戦構想は、レーガン政権誕生時の連想を誘いながら、最も懸念される孤立主義・一方主義・略奪的覇権国家への転換を世界中で顕在化しつつあります。根本的な変化に直面して、何事も無かったことにしよう、というのがG7の合意かもしれません。そしてアメリカに遅れることなく、各自が最悪の事態に備えようとするでしょう。EU統合やアジア経済再生の真価が試されます。
もちろん、その動機がブッシュ親子と共和党の怨念であっても、世界はアメリカ政府と市場に反応します。
もし知能と「人間的」徳性に優れた宇宙人が世界に舞い降りたら、フセインを裁判にかけ、クウェートの資産をイラクやパレスチナの復興に投資し、イスラエルの入植地拡大や武器の使用を凍結して、クルド人難民には大幅な自治を与えるでしょう。そして最後に、中東全域の国境を開放してくれるかもしれません。
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The Economist, February 3rd 2001
Wishful thinking?
ワシントンにある連邦準備銀行の1階では、電子ゲームを楽しむことができる。訪問者は、インフレや株価暴落、失業増加に対して、金融政策を緩和すべきか引き締めるべきか、決断する。すべての回答が正解であれば、ゲーム機はあなたが連邦準備理事会の議長に指名される準備を完了した、と宣言するのである。
しかし、現実では、正しい答えはめったにそれほど明らかでない。いつ、どれくらい金利を変化させるべきか、途方も無い不確実さがつきまとう。今、その不確実さが極度に高まっている。連銀はさらに金利を引き下げるべきなのか?
1月31日の公開市場委員会でさらに0.5%の引下げが行われ、1984年以来、ひと月では最大の1%を切り下げた。製造業は既にマイナスであり、消費者心理も4年間で最悪レベルに悪化している。もし消費支出が減少すれば、不況は確実であろう。
しかし、金融市場や経済コメンテーターたちはFedの果敢な金融緩和が景気を持ち直すのに十分だと信じているが、それは正しいか? 今年の前半に小休止すれば、アメリカ経済は「V字型」の回復を示すのか? グリーンスパンはブッシュ政権の減税策にも青信号を出した。ただし、財政政策の実施は遅れるから、インフレ率が高くない限り金融政策を使う余地の方が大きい。
たとえ市場からの信認が厚いグリーンスパンでも、今度の仕事は非常に難しい。金融政策の効果にも遅れが伴い、金利の変化が需要に影響するのは少なくても6ヵ月後、完全に効果を発揮するのは1年以上後である。さらに、アメリカの家計が追っている債務水準とマイナスの貯蓄を考えれば、金利の低下が消費を刺激する効果は限られる。
金利低下が速やかに効き目を発揮する唯一の経路は、株価の上昇である。1月になってナスダックは20%上昇し、もっとも広い範囲の株式指数も8%上昇した。上昇が続けば家計の資産は回復し、消費を再開する。しかし、それが問題なのだ。今年は2%、来年3%の成長で、完璧なソフト・ランディングを実現すれば、アメリカが抱えるさまざまな不均衡は解消できないだろう。家計や企業の債務水準や株価の水準、経常収支赤字の拡大は、いずれも長期的に維持不可能なのである。
いつか、これらの不均衡は調整される。Fedがここで成功すれば、不均衡はさらに拡大するのである。将来の危機はさらに大きい。ブッシュ政権は、V字型の回復など期待せず、W字型の不況を避けるためにも、ここで調整を行うべきである。
<コメント>
しかし、異なった意見もあります。たとえば、1.不均衡は問題ではない:アメリカ企業や家計は、世界市場の一部であり、健全な投資や活発な消費が世界経済の成長を支えている限り問題はない。2.不均衡は容易に・迅速に調整できる:アメリカ経済の調整能力は高く、ハイテク投資により調整力がさらに高まっている。3.不均衡は金融市場で長期的に維持可能であり、安定的な調整が支援される:各主体が正しい調整政策を選択したと確信すれば、金融市場はその調整を支援して、短期的な変動を緩和する。
金融市場の「コンフィデンス・ゲーム」と「モラル・ハザード」という悪夢が封印されるまで、なぜこれほど自分達は無力なのか、と各人は瞑想するしかないでしょう。日本と違って、アメリカ政府には減税を調整支援に使う余地があります。日本の失敗から学ぶとすれば、それは中央銀行よりも、むしろ政治家でしょう。
Alan Greenspan, fiscal fiddler
グリーンスパンは本当にブッシュ大統領の減税策を支持したのか? 実際には、支持していない。
過去数年間の経験が示すもっとも明白な教訓は、政府支出や減税といった財政政策で景気を微調整することはできない、ということである。なぜなら、政治のタイム・テーブルは景気循環の状態にめったに一致しないからである。不況が始まって政治家が議論する減税策が実現する頃には、その不況が終わりかけているものだ。
グリーンスパンは長期的な問題も指摘した。減税策は、政府が債務を返済し終われば、民間資産を大量に保有することになるから、今から少しずつ始めておいたほうが良い、と言うのだ。しかし、議会による財政黒字の予測には現実的でない仮定が多すぎる。今から債務の無くなることを心配するのは、無益な誇張であろう。さらに、たとえ財政余剰がしばらく蓄積されるとしても、ベビー・ブーマーの退職する数年後には、社会保障とメディケアの支払が増えると分かっている。
グリーンスパンの指摘で減税策を支持する論拠として残るのは、飛躍的な生産性の上昇、である。もしそれが景気後退期にも続くのであれば、政府債務は早急に返済され、社会保障やメディケアの管理も容易であろう。そうした奇跡も起きないとは限らないが、誰一人確実に言える者はいない。景気後退も始まったばかりで、本当に不況が来るのか分からない。今から減税策を支持するのは、あまりに危険な賭けである。
Permanent revolution for Europe’s Union?
EUはトロツキーの「永久革命」論に心酔しているようだ。今年、EUは三つの途方も無い課題に挑戦するつもりだ。1.2002年の初めからユーロ紙幣とコインを流通させる。2.加盟国の数を5年以内にほぼ二倍にする。3.EUと各国政府、地方の間で、権力を分割する最終的な合意をEU憲法として制定する。
その課題は一つだけでも手におえない。三つを全部同時に解決しようとするのは、ピンと張ったロープの上を、お手玉しながら一輪車で渡るようなものだ。絶対できないとは言わないが、非常に難しい。
EU15カ国中の12カ国で、約3億人に、145億枚の銀行券と560億個のコインを流通させなければならない。現在の各国通貨も2ヶ月間は並行して使用される。混乱とまで行かなくても、騒動は起きるだろう。
憲法制定や加盟国拡大も、EU官僚達を悩ます。外交、課税、防衛問題に、EU委員会は発言力を強めようとしている。EU統合の推進者達は、「拡大」と「深化」とがともに結び付いていると確信する。今年は、その考え方が正しいかどうか、分かるだろう。
Internet Pioneers: We have lift-off
市場が強気のときに、自分が優秀なせいだと考えてはいけない、というのがウォール街の警句である。しかしまた、市場が弱気のときに、投資は馬鹿げていると思ってはいけない。オンライン・ビジネスの破産を論じるのが今の流行となっているが、どのような基準で見ても、Amazon、Yahoo!、eBay、の業績はすばらしい。
確かに1月30日にアマゾンは1300人のレイオフを発表した。しかし、アマゾンの優秀さはそれがいかに急速に巨大化したかで示されている。年間売上げはおよそ30億ドルである。B2C(企業と消費者をオンラインで結ぶ市場)の指導者は、ドット・コム企業の株価暴落による主要な利得者となっている。同様の戦略を展開していた他社を圧倒して、市場を拡大しているからだ。
インターネットは、ビジネスの効率を今までありえなかった水準に高めた。eBayはサーバーで何かを提供するのではなく、顧客自身がオークションを行うモデルを提供している。同社のマッチング・サービスは、限界コストがほとんどゼロであり、販売額の7%か8%をeBayにもたらす。
ヤフー!は、それほど完全なオンライン・ビジネスではない。情報の収集や広告の販売には人手がいる。しかし、ヤフー!も、新聞社以上に規模の経済を実現できる。ますます多くの利用者に関する情報を使って、B2C業界は対象を絞った広告活動を、将来の主要な収入源とするだろう。
アマゾンだけはまだ黒字を出していない。ジェフ・ベゾスが言ったように、アマゾンは不動産をほとんど持たず、ハイテクに集中していることが利点であった。しかし、今ではアマゾンもアメリカに7箇所、そしてイギリス、フランス、ドイツ、日本にも、巨大物流センターを所有している。梱包や輸送のコストは商品によって大きく違わないため、アマゾンはより高額の商品を扱うことを目指している。
資本が利用できる間に可能な限り急速な成長を遂げておけ、というベゾスの哲学は、ナスダックの暴落で転換するほかない。拡大とともに従来型の企業との取引が増えるし、関連企業の倒産も通常より多いことは気になる。国際市場への展開では、ますます既存のビジネスのスピードに拡大を制約される。
ヤフー!もeBayもアマゾンも、単純な商品検索や発注機能から、次第にあらゆる情報媒体を統合し、互いに競争して広告収入を増やし、特に金融情報やサービスの提供に移行しつつある。ヤフー!の登録者は2億3600万人もいる。彼らに対して、個人向けの金融情報を提供し始めている。旧産業との競争に呑み込まれていった企業もあるが、指導的企業はマイクロソフトと同じく、生産物の販売より、オンラインの契約者にソフトを更新する戦略へ移行している。彼らの最新ソフトは契約者にしか使えなくなる。
ドット・コム企業の将来は、AOLのように、旧来型産業との巨大合併かもしれない。しかし、既に独自の収益基盤を確立した企業にとって、決して普通ではない成長をまだ続けるだろう。
Adopt brace position (一部)
前財務長官ラリー・サマーズは、今回の景気循環が戦後の循環と異なっている、と主張した。典型的には、過剰需要がインフレを加速し、それがFedに金利引上げを迫って、高金利により景気が悪化した。しかし、今回の拡大は戦前の循環に似ており、あるいは日本の1980年代後半に似ている。信用の拡大に指導されているのだ。インフレ率が上昇しないから拡大はより長期間続き、債務の累積も進んでしまう。あるいは、1980年代後半のイギリスやスウェーデンに似ている、と指摘する者もいる。過剰が顕在化すれば、不況は深刻になった。
アメリカの金融的な不均衡がそれほど深刻ではないと考える理由は、生産性の上昇が他の諸国よりも高いことである。だから生産が減少するとしても、金融的な不均衡が解消されるのと同じように下落することは無いだろう。
しかし、アメリカの生産性上昇がどの程度続くかは、まだ、はっきりしていない。この問題に、アメリカの不況の程度、財政黒字と可能な減税額、将来の企業収益と株価の安定水準、労働コストの上昇と、それゆえFedの金利引下げ余地、が懸かっている。
The bank of Japan: Coming out of denial
愛嬌やユーモア、明るい性格などは中央銀行総裁に必要な資質ではないと思われている。しかし、日銀ではそれが不可欠であろう。独立を達成してからの3年間に、日銀批判が国際スポーツとなってしまった。デフレ懸念や株価下落、新しい銀行危機の噂があるため、日銀は昨年8月の金利引上げをますます弁解できなくなっている。
今週、日銀がしたことは、銀行への短期資金供給に新しい手法を導入したことだけであった。しかし、水面下では、セロ金利政策(ZIRP)復帰への地ならしが行われている。緩やかな回復という判断を翻さなかったが、以前予想したよりも緩やかなことを認めた。物価下落は構造調整と円高、労働コストの減少による、という強気の解釈を、デフレ懸念の容認に修正した。むしろ、アメリカの景気減速に関心が移ることを願っている。
ZIRP復帰の予感は、日銀が貨幣供給の量的拡大という、より過激なリフレーション政策に転換するかもしれないという思惑を生んでいる。量的拡大など不可能だ、という判断から、現実にそぐわないとか、政治的に不正直だ、と言って、反対を唱えている。
外国市場への介入として量的拡大策を実行する際の一つの心配は、円安が日本の金融システムに対する不安と結び付き、外人投資家の日本株売却を一斉に助長することである。1月に速水総裁が円高を指示した背景は、こうした金融不安があったかもしれない。経済学者は円安が日本の回復を促すと言うが、日米の関係者にそのような合意は決して存在しない。アジアの貿易相手国は円安を嫌うだろう。
他方、国債の購入による通貨供給は、日銀に膨大なコストを強いるかもしれない。もし貨幣供給の増加率を年2%から5%に増加させるとしたら、国債を年15兆円も購入しなければならない。そして、狙いどおりに、もし人々のインフレ期待が強まれば、国債価格は暴落するだろう。それは日銀の資産に巨額の損失が発生することを意味する。政府は税収から損失を補填しなければならない。
自民党政治家は、今も、日銀に量的緩和策を強く迫っている。しかし、もっとはっきりした問題に答えることから始めてはどうか? つまり、誰がそのツケを支払うのか? と。