今週の要約記事・コメント
1/29-2/2
IPEの果樹園 2001
*****************************
週末になって、のんびり新聞を読んでいると、不満なことが多くあります。日本経済は大丈夫だと言うため、森首相がスイスのダヴォスまで行くことは愚かなことでした。加藤派をめぐる内紛の後も、KSDや外交機密費など、スキャンダルが続いています。世界の重要なメディアで危機を懸念されている国の首相が、そんな中で、他人の作文を読み、日本の景気は良くなると保証しても、意味など無いと思います。
患者が来ない病院が、救急車で運ばれてきた病人たちを薬漬けにし、次々に重病を宣告する。そして、体に何本もパイプを繋ぎ、死ぬまで保険料を請求し続けていたのではないか。そんな疑いがある、と報道されています。確かに、老人介護の名目で、さまざまな過剰医療や保険の不正請求が行われ、あるいは強制入院や誤った治療が行われている、と疑わせる例が身近にもあります。
酔って駅から転落した左官を助けようとして、二人の男性がいっしょに轢かれ、三人とも死亡しました。なぜ駅の構造を改善し、線路の脇に避難できる空間を設計しないのでしょうか。過失や善意が死に至るのではなく、次の飛躍を励ましてくれる社会でないことに深く失望します。
銀行も土地取引も、日本の不透明な富を覆う暗闇となってきました。アングロ・サクソン型の市場原理を真似る必要はなく、日本社会が求めている「公正なルール」を自分達で示さなければなりません。IT革命を唱えるなら、官公庁や政府、政党が、すべての情報をインターネットで公開することを義務付けるように求めたいです。そして、公開された情報に基づいた決定だけが有効であり、それ以外の決定は公正さが疑われて当然である、と宣言すべきでしょう。
政治家、金融機関、官僚、不動産、大企業、医者、警察、すべての学校の先生、そして裁判所や弁護士など、資格や規制によって市民と差別化された特権を持つ者は、その活動内容を公開しなければなりません。それが海外からの関心も惹けば、英語で公開すべきです。
・ 公開内容や頻度は、各主体がまったく自発的に決めること。
・ より質の高い、最新の情報を載せるように、前向きの競争を促すこと。
・ 情報仲介・審査・検索を行う独立した機関を、民間でも公的機関でも育成すること。
・ すべての重要な決定において、こうしたホーム・ページからの情報に依拠し、仲介・審査機関の判断を(賛成でも反対でも)重視すると宣言し、それらを利用しつづけること。
・ 仲介機関は、利用者からの質問と回答を蓄積して、各ホーム・ページの評価や助言に利用し、その改善を積極的に支援すること。
・ ホーム・ページにおける模擬投票や改革案への支持率表示などを完全に自由化し、一切の介入を排除すること。
・ 特定の個人や団体・機関を誹謗・中傷して、誤った情報を流す行為に対して、明確なルールと審査・捜査・報告を行い、各仲介機関の判断で、こうしたホーム・ページは特別な枠に入れること。
今の日本社会では、誰もが争いを強く回避するように思います。紛争を処理することが難しく、時間と費用がかかるだけでなく、決して明快な処理が行われないからです。それは、強者や既得権者に著しく有利な社会だと思います。紛争を起こせば、弱者や新規参入者が不当に大きな損害を被る上に、場合によっては、既存のルールを乱したとして社会的な制裁を受けます。上からの再分配や部分的な修正を、何年も何十年もかけて行うことで、問題は解決されず、むしろ利用されています。
誰よりも、弱者や、新しい挑戦を試みる者が、「公正なルール」「透明なルール」を求めています。それが実情に照らして機動的に修正されることを求めているはずです。実情に照らす、とは、ルールに支配される者の声を聞くことです。誰が、どのような利益を受け、どのような被害を受けているか。その実情を調査し、苦情を集めて、すべて公開しなければなりません。そして優良な主体を励まし、遅れている主体を支援すること。悪質な主体を見極め、彼らの再教育や退出、摘発・告訴を積極的に促すことが重要でしょう。
日本の首相が誰であれ、こうした理念を掲げて国際会議に登場し、発言すれば、主要メディアのトップ・ニュースを、スキャンダル以外で飾れた、史上まれな指導者になれたかもしれません。
ところで誰でしたっけ、今の日本の首相は? と、帰ってから参加者達が冗談を言い合ったのではないでしょうか。
*****************************
Financial Times, Tuesday Jan 23 2001
The politics of euro economics
Robert Skidelsky
歴史上、中央銀行を持たない政府は存在したが、政府のない中央銀行は存在しなかった。ECBは政府のない最初の中央銀行である。
貨幣と権力は潜在的に矛盾している。取引のためには、貨幣の価値が安定していなければならない。それは貨幣の発行を集中することになる。他方、貨幣発行の独占は政府に貨幣を操作する権力を与えた。特に、政府は戦費をまかなうために、この権力を使った。
実際に、最初の仕事(貨幣価値の安定)を中央銀行に分離してはならない理由はない。他方、貨幣を政策のために操作する権力は、同じように分離することができない。現代では、それをマクロ経済政策と呼んでいる。イギリス大蔵省は、イングランド銀行にインフレに関する権限を与えたが、その変更や結果について有権者に説明する責任を負っている。
ではなぜ(大蔵省から権限を委譲されるわけでもなく)、国家のないECBは成立したのか?
1.ヨーロッパ連邦国家に向かう手段として。2.単一市場の一部として。3.ドイツ連銀の信認を利用するため。4.マネタリズムが貨幣を完全に切り離したから。5.ドイツ再統合をヨーロッパの政治システムに埋め戻すため。
問題は、国家を持たないことがユーロの成功の条件なのか、そうではなく、失敗につながるのか、である。その答えは、どのような経済モデルを考えているかによる。
たとえば、イギリス政府が失業を減らす手段を失うとして、ポンドの放棄に反対するのは、マクロ政策のケインズ理論に依拠している。皮肉なことに、ケインズ政策を国内で拒否する経済学者や政治家たちが、イギリスの単一通貨加盟問題では熱烈なケインズ主義者に変身する。
しかし、国家を持たない中央銀行が成功するかどうかは、経済理論と部分的にしか関係ない。なぜなら、たとえマネタリストのように、政府は経済管理から手を引くべきだと考えたとしても、国家の不在によって、ECBへの信認が強められるのか、それとも弱められるのか、問うことは適切だろう。
私は、たとえマネタリストの前提を受け入れても、政治的な真空状態で中央銀行が信任を得ることはできない、と思う。信認とは、困難な決定が維持されると市場に信じさせるものである。それゆえ、政治的な正統性は、たとえ十分条件ではなくとも、ECBへの信認の必要条件なのである。
たとえば、イギリスの製造業に深刻な損害を与えているイングランド銀行の高金利政策が、政府による保護措置なしに維持しつづけられる、というのは疑わしい。しかし、それは政府が独自に政策を行えなくなった、というのではない。
本当に政府から独立してしまったら、中央銀行は弱くなるだろう。それは政治的な圧力に無防備となり、すべての政治的理由から非難される。それが今のユーロである。フランス政府はEUの中にECBに対応した政治機関を設けるよう主張している。それは、単一の金融政策しか採れないことで生じる問題に対処する基金について合意するかもしれない。
イギリスにとって、有権者がユーロを好まない以上、まだ対応には時間がかかるだろう。国家を持たないECBが成功するはずはないと国民は思い、多くのイギリス人がヨーロッパ国家への参加に反対している。そしてイギリスの反対が、ヨーロッパの政治統合を阻んでいる。それは擁護できない立場である。
イギリスの立場を前提すれば、政府はユーロとドルとの安定化を、可能な限り強く支持すべきである。それがイギリスにも望ましい金融政策を可能にする。他方、EU諸国は、大陸国家の建設を進めるべきである。
Financial Times, Thursday Jan 25 2001
Editorial comment: Ireland gets a ticking off
政治同盟を伴わない通貨同盟は、参加国の政府に一定の信頼を必要とする。他国が無責任な政策で域内の安定を破壊するようなことはない、と各国が信じなければならない。安定と成長に関する合意や、包括的経済政策ガイドラインなどはあるが、アイルランドがその有効性を試す最初の例となる。
GDPの約5%という財政黒字と、2003年までに公的債務をGDPの25%以下にするというアイルランドの財政状態は、健全そのものである。しかし欧州委員会は、先月の予算が過熱した経済に及ぼす影響を憂慮する、と表明した。
アイルランドがEU内の所得格差を解消する過程で、成長率やインフレ率が高くなることは予想されていた。しかし、キャッチ・アップを終えつつあるのに、まだ二桁の成長を続け、大幅な財政支出増と減税を行うことは危険である。
政府は、労働組合との賃金協定を維持したいのである。実質賃金の抑制と、直接投資を誘致する優遇税制とが、アイルランド成功のカギである。企業の増益と失業率低下にもかかわらず、組合に協定を続けさせるためには、政府が減税を続けるしかない。
しかし、政府の願いはかなわないだろう。経済が成長するのに、実質賃金が抑制できるはずがない。アイルランドの高生産性と人為的な低賃金が投資ブームを加速し、賃金が抑えられなくなったときに問題が爆発する。アイルランドは所得政策を廃止すべきである。それが行われる過程で、財政政策が高賃金のもたらす過剰需要を吸収しなければならない。通貨政策と為替レートにより調整できない以上、財政政策で行うしかないのだ。
New York Times, January 26, 2001
In Policy Change, Greenspan Backs a Broad Tax Cut
By RICHARD W. STEVENSON
1月25日の議会証言で、アラン・グリーンスパン連銀議長は減税策を支持した。しかし同時に、もし政府の黒字が予想ほど大きくなかった場合にも赤字に落ち込むことが無いように、と警告した。グリーンスパンは、長期的な潜在成長力の改善で、減税ではなく債務削減を、という選択肢から、減税と債務削減をいっしょに、という選択肢に移った。
またグリーンスパンは、先の金利引下げが不況への落ち込みを回避するためであったことを説明し、経済の現状は「自分達の判断では、劇的な減速が達成され、多分、現時点でほとんどゼロになっている」と述べた。
かつて、クリントン政権が増税を行う際に政治的な後ろ盾となったように、今回の証言はブッシュ政権が減税を行う追い風となるだろう。民主党政治家にとって、減税反対のアンカーであったグリーンスパンが支持に傾いたことで、議会の流れも変わるだろう。しかし、提案されているような大幅な減税が財政を赤字に引き戻すようなことには賛成しない。
また、ブッシュ氏が、経済の減速を防ぐためにも減税を主張していることに、グリーンスパンは反対した。非常に遅れてしか変化しない財政政策は景気変動を効果的に調整できない。特に、急激な変化に対応しつつある経済には適当でない。さらに、民主党は、防衛予算などの臨時の支出が予測を狂わせる可能性を指摘する。
しかし、共和党は、黒字の増加は減税を可能にするだけでなく、必要としている、と主張する。もし大幅な黒字が続けば、政府の債務がなくなる日も来るだろう。では、そのとき黒字をどうするのか? グリーンスパンは、優良企業の社債や株式も買うだろう、と述べた。そこで共和党議員は、政府の民間部門への介入を招かないためにも、債務削減と減税の最適な指針を見出すべきだ、と主張した。
両党からの質問に答えて、グリーンスパン議長は、経済の現状についての見方を示した。昨年の第4四半期はわずかなプラスであったこと。そして今の減速は、主に、企業が売れ行き不振から在庫調整を始めたことによる。経済が不況に落ち込むかどうかは、消費者心理に懸かっている、と述べた。
グリーンスパンは、これまでの技術投資が企業の在庫調整を、過去の景気循環よりも、はるかに急速に行うことを可能にしている、という。そして、Fedは来週、0.5%の金利引下げを行う可能性が高い。
Financial Times, Saturday Jan 27 2001
Editorial comment: Recession and recovery
ダヴォスの世界経済フォーラムでは、e-コマースやニュー・エコノミーから、不況の心配へと、話題が完全に変わった。世界経済の舵を握るものたちはうまく遅れずに行動するだろうか? しかし、より小さな声で、彼らが何をしても効き目はないのだ、と言われる。
日本経済は深刻なニュースばかりが続く。販売額の落ち込み、貿易黒字の減少、消費者物価の下落。ヨーロッパ経済はもっと力強かった。しかし、今週、IFOの指数は企業の先行き懸念を示した。
しかし、誰もがアメリカ経済に注目している。工業生産の落ち込み、投資の停滞、消費者心理の悪化。格付けの低い企業は資金調達ができなくなりつつある。アラン・グリーンスパンは、何の幻想も持たずに、経済成長がほとんどゼロだ、と認めた。
アメリカもヨーロッパも、金利引下げに動きつつある。しかし、問題は世界の3大経済圏のうち、2つで金融緩和が従来の仕方では有効に機能しないことである。投資や消費は、必ずしも増えないかもしれない。
日本の金利はわずか0.25%しかなく、金融当局は金利をゼロに戻す気も、国債を購入して貨幣供給を増やす気もない。アメリカでは、民間部門が債務をどの程度減らしたがっているか、が分からない。強気の市場が続いたために、企業も家計も株式や他の証券を元に借入れを増加させてきた。先年、株価が下がり、多くの者が債務を減らしたがるだろう。その支出削減圧力は、企業収益を悪化させ、株価を下げて、悪循環に転化する。
減税も奇跡を起こせない。共和党先見の大型減税が景気回復に成功すれば、バブルの危険を増やすだろう。上手くいかなければ、数年に渡ってアメリカ経済は悪化し、財政黒字の見通しは修正される。ヨーロッパだけが、効果的な金融政策の手段を持っている。労働市場にもゆとりがあり、成長率引き上げの可能性がある。EUは、ある程度の期間、経常赤字を出すこともできる。
この数週間は、世界がアメリカに関心を集中するだろう。しかし、アメリカの減速を相殺する政策は、他の地域で行われるしかない。世界経済は、非常に困難な、不確実な数ヶ月を送る。
Bloomberg 01/27 09:59
Japan's Mori Says Economy Recovering on Corporate Activity
By Jacqueline Simmons
企業活動が回復するにつれて、日本はアメリカ経済の減速をカバーし、世界を指導するだろう、と森首相は意気軒昂であった。しかも、企業はバランス・シートの処理をほぼ終えつつある、と。
しかし、アメリカの前財務長官ラリー・サマーズは、日本の金融・財政政策が正常に戻らない限り、力強い成長は望めない、と語った。彼は、事実上、日銀が国債を買い上げて貨幣供給を増やすように求めた。
アメリカのサマーズだけでなく、IMFのフィッシャー、ドイツ蔵相アイヒェル、フランス蔵相ファビウスも、日本には金融的にも財政的にも政策選択の余地が無い、と述べた。日本は工業諸国中で最悪の累積債務国である。
他方、首相広報担当の服部は、そのような冷水をかけて日本の努力を無駄にしようとする者はケシカラン、と言った。
Financial Times, Sunday Jan 28 2001
Mori fails to dispel concerns over economy
By Hugh Carnegy in Davos
森氏の話は、驚くほど楽観的であった。
しかし、森氏の陽気なメッセージは、日本の構造的な弱点である債務の処理が残されたままだ、という多くの経済学者の指摘と矛盾している。森氏は、日本が2年分のGDPに等しい資産を価格暴落で失ったと認めた上で、だから今から成長できる、と言うのだが。
日本に対する不安がぬぐえた、とは思えない。
*******************************
The Economist, January 13th 2001
Tycoon or Thai con?
Back to Business in Thailand
タイの短い民主政治の経験で、単一の政党にこれほど多くの支持が集まったことはかつて無かった。1988年に最初の首相が選出されてから、六つの連立政権が約一年しかもたなかったのに、現在、チュアン首相の8党連立政権は3年も続いていた。タクシン氏のタイ愛国党は、尊敬されても愛されていないチュアン氏を、首相の座から漸く追い落とした。
タイでもっとも豊かだと言われる、テレコム財閥の大富豪であるタクシン氏は、大衆の支持を獲得した。彼は、愛国党を設立して2年で政権をとったが、党内でも圧倒的な支配力を持つ。タイ国民は暗闇へジャンプした。選挙資金をまかなう彼の莫大な個人資産が、彼に都合の良い取決めで守られていることを改革する声はどこにもない。
タクシン氏は多くの約束をした。農民達に3年間の債務返済を猶予する。タイの7万ある村落に、それぞれ100万バーツ(2万3000ドル)を与えて、米作りからの多様化を支援する。1回30バーツで医者の診療が受けられる。経営者達には、政府が債務を免除してやる、と擦り寄った。しかし、これらをどうやって負担するのかは謎である。
ポピュリストのタクシン氏は、国粋主義を示唆し、チュアン政府が外国人に国を売った、と非難した。(「ケツをなめた」とまで言って)IMFは絶好の標的であった。タイは、反西側のマハティールに従う最初の国になるかもしれない。政治改革や金権選挙の対策は重視しそうに無い。
経済危機後の改革を指導したチュアン首相の退陣は、東南アジア地域全体の政治に悪い影響を及ぼすだろう。
不正選挙の監視機関は、選挙期間中だけでも少なくとも200億バーツ(4億6500万ドル)が買収資金として使われ、43人の政治家と運動員が選挙前の数週間に殺害された、という。タイ愛国党は、際限無い金権選挙を行い、地方の有力者や悪党まで吸収した。
タクシン氏は自分が政治家ではなく経営者であることを強調し、企業型の指導力を発揮すると言う。腐敗をなくし、教育を改善し、インターネット経済でタイを成長させる、と。しかし、政府は既にGDPの60%に達する債務を抱えている。
タクシン氏が目指すのは、農業を重視しつつハイテク部門を起こしたイタリア型モデルである。タクシンの政治スタイルはベルルスコーニとよく似ている。ともに新興企業で財を成し、個人で政党を起こして政権を執った。そして、どちらも政治浄化運動の敵である。
もし裁判でタクシンが政治家の地位を奪われたら、タイ愛国党は崩壊するだろう。そうなれば、(1992年のクーデタ、1997年の金融危機に続いて)三たび、民主党のチュアン氏がこの国を救うのではないか。
The Internet and the Law: Stop Signs on the web
インターネットは完全な自由を保障するものではない。むしろ、政府による管理の手段となるかもしれない。
フランスの裁判所は、Yahoo!がナチスの言行録をアメリカのサイトで掲示し、フランスの利用者が閲覧することに罰金を科した。EUのインターネット・サイトを規制する法律は、国境を越えてさらに拡大しそうである。アメリカとヨーロッパのサイバー犯罪条約は、ハッキングや詐欺、児童ポルノを取り締まる法律を調整する。
サイバー・スペースにも、それ自体の法律と司法制度が必要である、と主張されるようになった。今まで、インターネットの検閲は害悪でしかなく、それ自体が容易に違う方法ですり抜けられる、と言う主張がインターネットを支えてきた。しかし、今や、インターネット上で司法的権限が互いに競争し始めている。アメリカが、ドイツで非合法化されたネオ・ナチのサイトに避難所を提供している。
他方、政府はFiltering情報選別の技術を強化しつつある。ウェブ・サイト自体が利用者を選別できる。プロバイダーの「IPアドレス」が追跡できるからである。それはもちろん完全ではなく、簡単なソフトで容易に隠蔽される。しかし、少なくとも政府は情報によって取得するための費用を高くし、障壁を作ることができるだろう。たとえば中国は、利用できるソフトウェアを制限し、自国民を「万里の長城」で隔離しようとしている。さらに、それはe-コマースの必要からも生じるだろう。
おそらく、協調行動がインターネットを規制する可能性が最も高い。各国は法律の悪用を排除し、互いの矛盾を解消する。知的所有権の世界機関が1996年に実現した国際著作権協定は、そのもっとも早い例である。また、各国は互いに違いを認め合い、情報の流れを遮断すると言う、よりソフトなアプローチも出現している。そして、企業間の情報売買などを規制するために、情報をプールし、安全な利用のみに限定する国際合意も模索されている。
サイバー・スペースの統治は、法的・政治的闘争と技術変化に懸かっている。多国籍企業は多くの法律に直面しなければならない。そこで、国境を越える取引の異なる法律による対応を、サービスとして提供する会社も現れている。技術変化は、世界をますます統一した法律で支配できるようにする。あるいは、ピア・トゥ・ピア、FreeNet、その他のように、規制を超えていくかもしれない。
South Korea: Entrepreneurial fresh air
金融危機後の3年で、韓国経済の様相は一変した。何十ものチェボルが債務負担に耐え切れず崩壊し、その後に新興企業が現れた。韓国は、昨年、世界でもっとも新興企業の多い国になった。韓国の成人の9%は設立後3年半以下の新興企業で働いている、という報告もある。
チェボルの惨状、銀行の問題に直面し、投資家は資金をKosdaqなどの株式で新興企業に流し始めた。こうした企業の10分の9は倒産するが、それは、かつてのように、企業設立の障害になっていない。多くの若手企業家が現れて、韓国の企業文化を変えつつある。彼らは収益規模よりも利潤率を重視する。そしてチェボルと違って、企業を透明にする。
被雇用者の扱いも変わった。労働意欲を促すために、実績による給与決定を取り入れ、ストック・オプションも提供している。硬直的だった韓国の労働市場もより弾力化し始めた。終身雇用は放棄され、企業は優秀の社員を引き止めることに努力する。また、何もかもに拡大したチェボルと異なり、新しい企業家は得意分野に集中しようとする。技術革新を重視し、収益の20%を研究開発に投資する。
新しい企業を制約するのは、専門的な経営者の不足だけである。旧来の経営者達は上からの命令に頼っており、新しい文化が求める革新的なアイデアに欠けている。外国から経営者を連れてくることも考えられるが、彼らは給与が高すぎるし、韓国の国民的な悲願を共有しない。すなわち、日本を越える工業大国になることである。しかし、新興企業が9%を占める韓国に対して、日本の割合はたったの0.5%である。韓国の急激なキャッチ・アップは疑う余地も無い。
The extraordinary edginess of crowds
1月3日のFedによる金利引下げ以来、金融システムに関する何か重大な情報をアラン・グリーンスパンが隠している、という疑念が市場に渦巻いている。
12月19日に引締めバイアスを解除してから、たった2週間で、なぜ大幅切り下げを行ったのか? なぜ予定されていた次回の会合まで待てなかったのか? とりわけ取引が終了するのを待たずに声明を発表し、市場の中で爆発させたのはなぜかを、誰もが怪しんでいる。いつもは冷静な議長がパニックに陥った「何か」があったはずだ、と。
2000年の株価は、ダウ・ジョーンズ工業株価指数がはじめて年初よりも低い水準で終わった年であった。今年の最初の取引は、たった一日で131億ドルの資金をミューチュアル・ファンドから流出させた、と言う。どこまでも我慢するはずだった個人投資家たちが、とうとう株式を見放したのだ。グリーンスパンの金利引下げは資本流出を抑制するためであったのか? 原則として、株価の維持は中央銀行の仕事ではない。しかし、大幅な下落が金融システムを脅かせば、ルールも変わる。
しかし、金融システムは、株式よりもデリバティブによって、もっと大きな危険にさらされている。1月5日にウォール街でバンク・オブ・アメリカのデリバティブによる損失が倒産につながる恐れもあり、金利引下げはこれを防ぐためであった、という噂が流れた。BoAの株式は取引が一時的に停止された。どの金融機関がデリバティブで契約しているのか、市場には分からないし、Fedも知らない。バランス・シートで見る限り、どこも健全に見える。
取引可能債券も銀行融資も信用が悪化しており、ジャンク・ボンドは12月になって取引されなくなった。カリフォルニアの電力会社危機が投資家の不安を増幅している。もっとも安全なはずの最優良企業のCPでさえ、市場から投資家が去っている。これこそ突然の金利引下げに対するもっとも考えられる説明だ。最初の3週間で6000億ドル近いCPが借り換えられねばならない。
銀行はデリバティブを利用してリスクから解放されたはずではなかったか? 銀行は企業の現金を管理し、財務を助ける。そしてバック・アップ・ラインを契約して手数料を稼ぐ。さらに、むしろ逆選択が進んでいる。優良な企業は市場で資金調達し、市場で受け入れられなくなった企業が借入を増やす。金利を下げても、こうした企業に資金が利用できるかどうか、分からない。債務を処理するための資産売却を容易にすることは確かである。
グリーンスパンが恐れたものは、まだ市場から立ち去っていない。
A currency fix
なぜ重機械会社の株価が上昇するのか、一目見ただけでは分からない。自動車部品の株も上昇している。
その共通点は、ドル安、である。これらの企業は輸出に大きく依存しているか、海外からの厳しい競争に苦しんでいる。株価の上昇は大統領選挙の頃、ドルがユーロに対して最高値を過ぎたあたりから始まった。ウォール街はドルが安くなると考えている。
これは政治の問題である。クリントン政権は、まったく民主党的でない、ドル高政策を維持した。次の共和党政権で、これが変化するかもしれない。ジョージ・ブッシュは、ウォール街でも学会でもなく、アルミニウム企業のアルコアからポール・オニールを財務長官に指名した。アルコアの株価は40%も上昇しており、ドル安によって大きな利益を受ける。ブッシュの大型減税も、さらに消費を加熱させて貿易赤字を拡大する。ドル高政策の持続に不安が強まる。そしてFedが金利を引下げ、次期大統領がこれを歓迎した。
ドル安は悪いことではないが、70年代のように、Fedの不況対策を制約するかもしれない。重機械などの会社にとって良いことでも、経済のそれ以外では恨みを買う。
Japan’s economy: The air goes out
株価は1年で29%下落し、円もこの1年半で最安値をつけ、国債の利回りも低下しつづけてデフレを予想している。倒産件数は危機的な水準に増加し、銀行の危機が再び懸念される。輸出は伸びず、家計も消費せず、企業の投資も減っている。この10年間で初めて日銀が金利を上げたが、地価は今まで以上に下落している。
日本の不況が恐ろしいのは、今や解決策が無いことである。政府の債務が大きくなりすぎて、これ以上の公共事業や企業・銀行への救済に世論が抵抗するだろう。保守派が支配してきた地方の選挙でさえ、財政支出を抑制し、公的融資をなくすと主張する候補が続けて当選した。
日銀は、信用失墜を恐れて、金融緩和を受け入れない。金融危機が心配でも、支持率の低下した自民党の幹部達は救済融資を言い出せない。不動産、建設、小売りの大企業が倒産すれば、それは銀行に跳ね返る。
アメリカの景気減速は近隣アジア諸国の輸出を減らし、株価への影響とともに、この地域を不況にする。今まで進んできたハイテク投資や企業の再編は、企業の利潤を増やしたが、他方で雇用や賃金が削られ、それが家計の支出を減らす、と投資を弱気にしている。公共支出は莫大な規模から縮小しつつあり、銀行も中小企業への融資を拒んでいる。株価の下落は、得のハイテク企業の活発な投資を終わらせた。
要するに、日本はデフレが強まっている。企業の収益は悪化し、債務の負担が増すだろう。日本のように巨額の債務を抱える経済では、名目GDPの増加が重要である。円安は助けになるが、建設や小売り、不動産部門の改善にはつながらない。日本経済も銀行も、以前に比べてショックに対してさらに弱くなっている。
直ちに行動する必要がある。日銀が動いて、特に価格の下落を止めるべきだ。