IPEの果樹園 2000
今週の要約記事・コメント
9/4-30
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夏休みは終わりです。やり残したことばかりですが、Reviewを再開します。これは私のすべての講義とゼミで資料として使用します。世界政治経済の頂点と底辺を常に見ておきたい、と思います。
9月に入って、Reviewを書けませんでした。それぞれ数日ですが、東京、Bangkok、Singapore、Seoulに調査に行きました。似顔絵とスケッチは公開しますが、なかなか研究にはまとまりません。アジア通貨危機について多くの研究がすでに発表されています。他方、国際通貨制度の改革案は関心が分散して、終息しつつあるようです。プラハのIMF・世銀総会もデモ隊のことが報道されるばかりでした。重債務国の救済を唱えることは、改革にとって特に重要とは思えませんが、デモ隊への融和策として有益と判断したのでしょうか?
Financial Times August 28 2000
Editorial comment: An astonishing waste of money
日本政府は問題を露見させないために大金を投じ続けている。ソフトバンクなどへの日本債権銀行(NCB)の売却に対して、驚くべきことに、公的な資金を3兆2000億円(約298億ドル)も支払った。しかも価値が20%以上下回った債権は政府に買い戻させることができる。
これは日本に切望されている経済改革ではない。政府に不良債権を引き取らせるのは、最悪の借り手を生き延びさせる策略だ。経済改革は遅れるだろう。NCBの売却は、政府が17兆5000億円も使って、国営化した銀行の債務を帳消しにした挙句、それがどのような価値を持つのか、疑問を抱かせる。
現状には失望させられる。新規ビジネスに融資は行われず、銀行は過去の問題債権を黙認している。不良債務はGDPの15%にも達した。新しい会計規則や景気回復による運転資金の借入れが、不良債務を増やしたようだ。
銀行に対する明確な政策が必要だ。そごうへの厳格な対応や、NCBへの寛大過ぎる資金供給など、どれも場当たり的で曖昧だ。決定には誰が責任を持つのか? 大蔵省か? 自民党か?
1980年代、90年代に、アメリカやスウェーデンが銀行危機を処理したように、日本政府は問題を明快に説明し、正確にその規模を示さなければならない。そして、公的資金の投入が必要になる場合を警告し、その使い方について厳格な基準を示さなければならない。
生命保険や信用組合、中小証券会社など、解決すべき問題が多く残されている。すべてが改革できるまで、本格的な景気回復は来ないだろう。
The Economist, August 19th 2000
What the Internet cannot do
大西洋を渡る電話ケーブルが敷設された1858年に、「世界の偏見や敵意は一掃されるだろう」という熱狂的な技術賛美が行われた。インターネットはまだ若いが、それに刺激された多くの予言は実現されつつあるだろうか?
平和が実現され、ナショナリズムは無くなったか? かつてラジオが発明されたときのように、民族の憎しみが増幅された場合もある。エネルギー消費が抑制され、環境破壊が解消されるのか? しかし、アメリカの電力消費は増加し、シリコン・ヴァレーでは停電が相次いでいる。不平等は無くなったか? 新しい「デジタル・ディバイド」が心配されている。コンピューターは安くなったが、それを使いこなす知識が無い。
インターネットの夢には真実の芽もある。政府はより情報を公開し、市民に権力を分散させるようになる。民主主義は、基本的に、平和をより強く求めるだろう。インターネットにより、機械はより正確に遠隔操作でき、エネルギー効率が改善され、汚染に対する監視や課税も容易になる。不平等でさえ、インターネットによる遠隔地雇用で、地域的な雇用や所得の格差は解消されるかもしれない。しかし、情報技術者と貧しい同郷人との格差は拡大するだろう。
電話がe-mailに代わられつつあるように、インターネットは多くを変化させる。しかし、戦争も汚染も不平等も無くならないだろう。技術礼賛だけでは解決できない。
Summer dilemma for the Fed
アメリカの連銀は金利を据え置きそうである。しかし、政治と心理を考慮すれば、それは間違いだ。
投資家は、8月22日の会合で金利は引上げられない、と確信している。(実際に、据え置かれた。)大統領選挙があるから、10月の会合でも引上げは無い、と信じている。しかし、アメリカ経済が長期的に維持できる成長を実現していると考えるのは楽観的に過ぎる。
消費の減速が起きたのは確かである。しかし、問題は株式市場が強気になり、消費が再び増加することである。経済の減速が一時的であるかもしれない以上、Fedがこれ以上の金利引上げは必要無いと示唆することは間違いだ。
では、Fedは金利を引上げるべきなのか? 供給能力が追加され、生産性が改善されたことを示す材料はあるが、経済の拡大に伴うものである。労働コストは低下し、インフレ率も春のように上昇しなくなった。
それはFedが金利を引き上げることを懸念したからである。これ以上金利を引上げるのも、これまでの金融引締めの効果がまだ引き続き現れるのを見てみようというのも、どちらも間違いとは言いきれない。
底で、政治と市場の心理が重要になる。選挙前の金融引締めが難しいことは明らかで、しかも市場がそれを確信している以上、株式相場は上昇を続ける可能性が高い。そして消費者に支出を促す。不確実性を考慮しても、Fedは今、4分の1%、金利を引上げるべきであろう。
The Caucasus: Where worlds collide
地理的条件はコーカサスを豊かにしたが、歴史と政治がこの地を貧しくしている。
政治・軍事的な行き詰まりが経済と社会の崩壊を隠している。アルメニアから、すでに200万人が独立後に流出したとも言う。ジョージアやアゼルバイジャンも人口の5分の1を失った。しかも彼らは社会にとって最良の人々であった。
ヨーロッパをモデルとした南コーカサス共同体を作ろう、という試みもある。共通のパスポート、共通の通貨、共通の安全保障。… しかし、政治的な反応は鈍い。台湾でも、プエルト・リコでも、北アイルランド、モンテネグロ、香港、など、世界中で、主権はいいかげんにでっちあげられた。コーカサスの領土交換さえ提案されている。安全保障の話し合いも進んでいない。失業とともに社会的不安定化が深まっている。ジョージア最大の雇い主はロシアの軍隊である。
長期的な解決策は、良い政府を作って、経済的な繁栄と優秀な人々の定着、還流を促すことであろう。しかし、短期的にはロシアが外から圧力をかけて、その似非国家たちにエネルギー供給の蛇口を開かせることだろう。各国が国際的なエネルギー開発に国境を開放し、国際資本を受け入れれば、大きな利益と安定をもたらすだろう。
しかし、現実に進行しているのは時代がかった地政学である。ロシアのスパイと軍人が「裏庭」を動き回って、アメリカの関与はこの地域の政治的混乱に火をつける、と警告する。そしてすでに、中央アジアでは、イスラムの攻撃を理由に、クレムリンの支配が再生された。
クレムリンの意図は、たとえば、これらの地域のいかなる旧ソ連市民にも自由にロシアのパスポートを与える、という政策に見て取れる。こうしたリンク政策と、雇用や貿易に果たすロシアの大きな役割は、周辺諸国に重要な脅迫となる。
あまりの政治腐敗は外国の資本を逃避させた。ジョージアとアゼルバイジャンへのてこ入れと西側の援助政策は成功しなかった。西側の政策の真意は疑わしい。石油会社は民主的な国家を望んでいないだろう。
しかし、民主的国家と経済的繁栄を目指す西側の希望は失われていない。市民社会を形成し、若者を教育する。そして、カスピ海の石油資源発見は、アメリカの支援する計画では、ロシアと独立した輸出ルートをコーカサスに与える。石炭と鉄鋼がEUを築いたように、石油とガスがコーカサスをよみがえらせるかもしれない。
Taking a hike
世界の金利は上昇傾向にある。しかし、アメリカの連銀Fed、日本銀行、ECB、彼らの持っている磁石はどれも異なる。
世界経済は見事な均整を保っている。4.4%成長と30年振りの低いインフレ率を達成した。しかし、彼らはくつろいでいる様子も無い。FedとECBは景気過熱を懸念して金利を引き上げつつある。豊かな国も余剰生産力は1980年代後半以来、初めて無くなりつつある、とゴールドマン・サックスの推計は指摘する。石油価格の高騰はすでに加速した。
他方、加重平均した長短金利と為替レート、株価、といった世界の金融条件はこの十年で最も緩和している。金利上昇は株価の上昇で相殺されている。
だから日銀は金利を少し上げたのか? 決してそうではない。日本だけは高金利を必要としない経済状態である。まだ0.7%のデフレを経験しているのに、円高や株価下落は金融条件が急速に引き締められたことを意味する。経済が再下降しつつある。
確かに政治化の圧力はひどかった。しかし、速見総裁の説明は「モラル・ハザード」の排除である。それは正しいかもしれないが、デフレの阻止が優先されるべきだった。もし経済が失速すれば、財政赤字はさらに膨らむ。財政緩和と金融引締めは、GDPの120%も債務を抱える国の採るべき政策ではない。
誰もFedが次の政策委員会で金利を上げるとは思っていない。Fedはすでに1.75%も金利を引き上げてきた、というが、それは1998年秋の金融危機に対する大幅な緩和の後である。インフレ率を考慮すれば、アメリカの金利はそれ以前から上がっていない。むしろ下がってきた。
アメリカの経済はインフレを起こさずに生産性を高めて成長を続けている、と信じる者もいる。しかし、ECBはそんな説を信じない。アメリカのインフレ率は彼らの許容する水準をすでに越えている。ECBの目標は、中期的にインフレ率を2%までに抑える、としている。ユーロの下落と原油価格の上昇で、現在、2.4%に達している。そこでECBは金利引上げを示唆した。
中央銀行家たちは明らかに異なった考察から金利引上げの判断を下している。そこで、世界の金融引締めは必要な場所で起きていない。ECBだけが明確な目標を持ち、Fedや日銀は大きな裁量権を持っている。もし同じく2%の目標が適用されるなら、日本は金融を緩和し、アメリカは引き締めているだろう。
適当な目標をどこにするかで意見は分かれるが、インフレ目標が金融政策に有益であることは多くが同意している。ドイセンベルグECB総裁は他の総裁たちにそのコンパスを貸してあげてはどうか?
Commodities: New options for the poor?
50年前にジョン・メイナード・ケインズが構想した世界商品機構World Commodities Organizationができるのだろうか? かつて貧しい国を救おうとしてECやIMF、国連の機関が試みてきた「商品安定化」基金の無残な歴史を見れば、それは驚きである。
世界銀行が進めているのは発展途上諸国の商品リスク管理に関する国際調査団(ITF)である。それが今までの安定化機関と異なるのは、公的な国際機関だけでなく、民間企業の関心も集めていることだ。たとえば穀物商社のカーギルや、商品融資を行っているクレディ・リヨネ銀行である。市場を操作しようとした過去の失敗を繰り返さない、という。
その代わりに、ITFは小規模生産者に金融的なヘッジ手段を利用できるようにする。たとえば、価格の変動リスクに対応したオプションの利用である。農産物不況でも、農民は村の高利貸しに頼らなくてすむだろう。ローカルな銀行は小規模農家により進んで融資するだろう。彼らは安心して農業に投資し、好循環が形成される。
障害となるのは、農民がこうした手段を信用せず、そのメリットを理解していないことである。また利用できる金も無い。金融機関は小額の取引に魅力を感じないし、農民の信用力を判断できない。
ITFは、新しい国際官僚制度や巨額の基金を必要とせずに、農業協同組合などを介して農民を教育し、「利用能力」を開発するだけである。しかし、オプションを買う最初の資金や信用リスクをどうするのか? それは国際機関が保証するだけである。世界銀行は5年間で15億ドルと見積もっている。
世界銀行は融資を行うだけでなく、同時に、市場から資金調達している。世銀の幹部、ゲイリー・パーランは、貧しい人々の救済手段を強調するが、あまりに野心的な計画でAAA格付けを失いたくも無いだろう。だから計画は、さまざまな市場のレバレッジを使って、小規模の出資で無ければならない。もちろん、これは世界銀行全体にいえることだが。
/これも「グローバル・フィナンシャル・アーキテクチャー」の一部である。市場型の金融革新を利用できない人々にも、その利益が行き渡るように、ということであろう。しかい、オプションだけでなく、さまざまなデリバティブの利用は金融監督を弱め、金融の安定性を破壊している、と批判もされている。
市場型国際金融システムへの移行が国際的な開発過程にどのような影響を与えているのか。プラスの側面もマイナスの側面も、評価すべきである。
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調査や在外研究と称して外国の町をさまようことで得られるものは、きっと非常に大きいでしょう。
私はこの夏、初めてバンコクを訪れ、夜毎、人と車の洪水で沸き立つ中華街に泊まって、開発理論の「二重経済モデル」を実感しました。アジアの都市は今も、貧しい農民の海に浮かぶ、ようやく近代化され始めた島なのです。こうした開発の諸島がアジアの海に点々と浮かび、直接投資や貿易を通じて農民たちの雇用を増やしてきたのでしょう。ここで1997年に通貨危機が荒れ狂い、ストリート・チルドレンが信号待ちの自動車を回り、森林伐採には麻薬を打たれた象が使役されているのです。
その印象から、国際通貨制度の世界的な一元化に疑問を感じました。政府間の政策協力や援助体制、国民経済分析のツールにも、限界を感じます。
The Economist, August 26th 2000
Dial M for money
アメリカとヨーロッパの金融政策はますます難しくなる。
アメリカ金融政策の目標は、通貨ではなく、成長になったのか? Fed議長のイニシャルが、ウィリアム・M・マーチンのMから、現在のアラン・グリーンスパンはGになったように。グリーンスパンは技術革新が持続可能な成長率を押し上げたと信じている。
Fedの金利据え置き決定をウォール街は歓迎したが、株価上昇は消費を促すだろう。経済の安全速度には強い疑いがあり、選挙前の政治的な制約を考えても、金利据え置きは危険な賭けである。
インフレが高まってきたヨーロッパでは、ECBが金利引上げに明確な姿勢をとっている。たとえドイツの景気が減速しても、ECBは必要な引き締めを行うだろう。しかし、ECBにはユーロの下落が別の制約となりつつある。原油価格の高騰と経済全体の回復、そしてユーロの下落は、インフレを加速する。
問題は、ユーロの下落が金利較差で生じていないことだ。それは大西洋をはさむ欧米の経済比較に関して投資家が持っている成長予測に依存している。投資家は、ヨーロッパ経済が技術革新を中心としたアメリカ型の成長をまだ実現できないと疑っている。だからECBが金利を引き上げても、ヨーロッパの成長率は上昇しないし、ユーロも立ち直らないのである。
ヨーロッパでインフレが問題となっているのは、アイルランドやポルトガル、スペインなどの小国に限られる。彼らにとってECBの引き締めは小さすぎるから、むしろ財政的な抑制策が必要だ。しかし、大幅な財政黒字のある時期に、これは政治的に困難であろう。そして、大西洋の両側で、来年は財政政策が緩和に向かうようだ。政治家たちは、中央銀行の仕事をますます困難にする。
Trafficking in women; In the shadows
犯罪組織は女性をセックス産業に輸出している。彼らを一掃するために何ができるのか?
プラハ(IMF・世銀総会が開かれた)の中心にある売春宿では、セックス行為が25ドルで売買されており、ドイツの価格の約半分である。毎年、何百もの売買された女性の死体がヨーロッパ中で見つかる。下多くの死体が発見されていないだけだ、とユーロポール(警察)は言う。犯罪組織は、主として東・中央ヨーロッパで若い女性を誘拐し、密輸して、売春と暴行に陥れる。
低く見積もっても、ヨーロッパで毎年売買される女性の数は、売春だけではないが、30万人に達するだろう。実際にはその倍はいるのではないか。チェコだけでも、600あまりの売春宿に2万人の女性が働く。その多くは密入国させた外国人だ。ウクライナ内務省は、独立後、約40万人の女性が国外に出て、セックス産業に引き込まれた、と言う。
共産主義が崩壊してから、明らかに一つのパターンが出現してきた。単純に言えば、二つの運動が女性を東から西へと運んでいる。第一に、ロシア、ウクライナ、モルドバ、ベラルーシから中央ヨーロッパへと向かう流れ。第二に、これらの女性と中央ヨーロッパの女性が西側の諸都市に向かう流れ、である。さらに、最近、安価な売春宿では、スラブ系からフィリピンやタイの女性に入れ替わりつつある。
セックス産業はヨーロッパで年間90億ドルの売上がある。高級なエスコート会社もあるが、多くはだまされ、暴行されてやってくる。女性の募集はありふれた方法だ。中央もしくは西ヨーロッパでウェイトレスの仕事を斡旋してくれるという仲介業者に、若い女性がだまされる。彼女が同意すれば、ごみごみした駅に運ぶ。そこで彼女のパスポートやIDなどは盗まれ、彼女は売られて、非合法な密入国の旅に加わるしかなくなる。多くはドイツにある売春宿の所有者は、女性を数千ドルで買う。彼女は暴力と債務で売春行為に従わされる。
EUは女性の密輸を取り締まってきたが、それは非常に難しかった。犯罪組織はロシア人が多く、ロシア語でギャングを高度に組織している。女性たちも沈黙を守っている。国境で、売春のためか、学生かを見分けることはできない。
女性の密輸を取り締まる規制が工夫されている。チェコでは売春が合法的であり、許可されていない街頭の売春を取り締まり、労働条件や衛生基準を改善する法律が強化されようとしている。「それは廃止できない。オランダやオーストリアがやっているように、そのマイナスの側面を減らすことが必要だ」と犯罪組織のボスは言う。他方、反対組織はより大きな透明性を求めている。それは彼女たちが取る分け前も改善するだろう、と。また、EUは、共通の罰金を導入しようとしている。
第二のアプローチは、女性に対する教育である。国連の国際移民機構は、中・東欧で若い女性に危険を周知させるプログラムを進めている。同時に、女性を買いにくる男性への教育も必要である。それは需要側を変化させる。
しかし、どのような対策も、その背景にある根本問題を解決しなければ意味が無い。それは共産主義崩壊後の社会で進む「貧困の女性化」である。女性たちは経済混乱の不当に大きなコストを背負わされてきた。ロシアの失業の3分の2は女性である。産業再編で職場を追放されても、ますます多くの女性が、酔っ払いや家出した夫に代わって、家計を担っている。他に働く機会が無い限り、東ヨーロッパの女性たちはリスクを負うだろう。
Asian economies; Happy neighbours
アジア経済は何か共通しているのだが、その論争は形を変えた。かつては急速な成長が賢明な政府か、自由な市場によるものか論争したが、1997−98年の危機以後は、ヒステリーの市場か、腐敗した政府か、と論争している。文化的な説明も、入れ替わりながら広まっている。しかし、忘れていることがある。それは、アジア諸国が隣り合っている、ということだ。健全なシンガポールや台湾から、混乱するインドネシアまで、各国が次々と成長に参加し始めた。
かつてアジア危機を波及させた呪いが、今では回復を牽引している。アジアの貿易の半分は地域内で行われているのだ。韓国政府は成長が落ちたと発表したが、まだ2000年の成長率は8%であるという。香港、台湾、中国の成長も、6ないし8%である。東南アジアでさえ、3−5%の成長を達成するだろう。
東アジアがついにアメリカ経済への依存から離脱し始めた、というのは非常に良いことだ。経済学者たちはグリーンスパンが金利を上げなかったことはアメリカ経済にとって良かったかどうかと論じているが、アジアにとってその問題は、アメリカへの電機製品輸出が唯一の刺激であった危機直後よりも、ずっと小さな問題になった。
アジア地域にもっとも大きな影響を与える決定は、Fedではなく、もう一つのアメリカの金融調査機関、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナルが行った。アジア市場を投資インデックスで減らすその決定は、世界中の投資家に一瞬で伝わり、アジアの株式市場を暴落させた。
シンガポールのSG証券は、アメリカの景気後退がアジア各国に及ぼす影響を推計した。金融システムの弱い国では、小さな衝撃でも深刻な結果をもたらすが、タイヤフィリピンに比べてマレーシアやシンガポールは、アメリカからアジアにシフトしている。アメリカが減速しても、ヨーロッパや日本の企業がリストラを進めることで、アジアには需要がもたらされる。
それゆえ、アジア経済にとってのリスクは、貿易以外に、投資の減少と政府債務の増加に関して大きくなっている。不良債権の処理はなかなか進まず、バランス・シートの悪化した銀行の融資は中小企業に与えられない。投資は落ち込み、国内需要は減少して、生産性も上昇しない。
現在、投資家が心配しているのは、貿易ではなく、こうした要因である。アジアの株価は次々と下落した。今年に入ってドル評価では、ジャカルタ、マニラ、ソウルの株価は4分の1以上も下落した。バンコクは3分の1以上である。これは国によっては間違った評価かもしれない。しかし、どこかで問題が起これば、ファンド・マネージャーたちはすぐに地図を見る。
/アジアの感染経路が変わった、という。貿易よりも投資である。それは危機が自由化の抑制ではなく、むしろIMFなどの指導による自由化の加速によって終息したからである。株価本位制はますます強力になる。
国際投資が資源配分を改善するとしたら、それが構造改革を促すことに各国の政治家も協力する理由がある。成長率が高まり、国内雇用が増加する。しかし、それは同時に国際投資への依存を深め、資本流出による危機を招く。
資産と国内市場に余裕のある先進諸国が株価で企業を競わせるのは一つの方法であるが、貧しい小国の経済運営を、一瞬の利ざやと損失の圧力に振り回される、遠い異国のファンド・マネージャーたちに委ねるのはやめたほうが良い。それが危機の教訓であったが、問題は、どうやって止めるか? である。