IPEの果樹園 2000
今週の要約記事・コメント
8/14-19
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8月11日に日銀がゼロ金利政策Zero Interest Rate Policy: ZIRPを解除した、というニュースは、他のすべてのニュースを圧倒してしまいました。高校野球も、未成年者の犯罪も、原爆投下から終戦記念日に向かう戦争のさまざまな式典も、政治ドラマとしてのZIRP解除が一蹴したのです。
マクロ経済学の今日の知見に照らせば、この決定は根拠の乏しい、官僚と政治家の面子を賭けた泥仕合でした。要するに、今は、金融引締めを市場に伝える時期ではないのです。 むしろ一層の量的緩和を外国の多くの経済学者は支持しています。すでにIMFがZIRPの維持を要請していました。海外の主要な新聞も、日銀の速水総裁は景気判断が楽観的過ぎる、と批判しました。しかし、日銀は敢えてこうした批判を退けたのです。
FT
Editorial comment: Folly of Japan's true believers
Published: August 11 2000 19:18GMT
Guardian
Decision could hamper recovery
Saturday August 12, 2000
・日銀の金融政策が、大蔵省と財界寄りの政治家たちの直接的な関与を明確に拒む姿勢を示すことは必要であった、と私は思います。
・大幅な債務にあえぐ大蔵省と重厚長大産業が金利引上げを批判した一方で、ハイテク・先端産業や新規に参入した流通業、海外展開する多国籍企業などは、日銀を批判していないのではないでしょうか?
・非常に多くの不確実な予想に基づいて金利を決定しなければならないとしたら、重要なのは政治的な意志と柔軟さでしょう。将来の債券・株式市場がどうなるのか? 景気が回復すれば、企業の資産運用がさらに海外に分散するのか? 倒産による債務処理が進むのか? 円の対ドル・レートはどうなるのか? アジア経済や通貨に対する影響は?
・日本の景気を判断するにも、本当に消費者心理が改善するのを待っていては、企業が業績を回復して雇用を増やし、労働者を奪い合って賃金を引き上げ始めるまで、明確にならないかもしれません。
・クルーグマンは、日銀が日本経済の不況を長引かせるだけでなく、中央銀行の黄金時代を終わらせる先頭バッターとなるだろう、と予言しています。選挙で選ばれない制度に重要な社会的決定を委ねるのは、合理的な根拠、限定された機能的権限、それを十分に証明する透明性と説明責任、が充たされる場合だけである、と。
・それゆえ、グリーンスパンは、元FRB職員のリンゼイが副大統領候補になったことで発言したり、財政黒字の使い方を議会に指図してはならない。また速水総裁は、日本の大蔵省や政治家を批判したり、銀行や企業のリストラを促進することに、金融政策の判断基準を求めてはならない、とクルーグマンは考えるのです。
The New York Times, August 6, 2000
RECKONINGS / By PAUL KRUGMAN
Don't Ask Alan
The New York Times, August 13, 2000
RECKONINGS / By PAUL KRUGMAN
End Of The ZIRP
・しかし、日銀が望んでいるのも、より市場型の、投資家の判断を重視した、(それゆえ逆に)政府からは独立した、経済運営ではないでしょうか? 透明性や説明責任を求めるのであれば、こうした論争は歓迎されるべきだと思います。
・中央銀行の独立性が、それ自体で経済運営の改善をもたらす保証は無いでしょう。それは、政府の健全さと、金融市場の合理的な反応を前提していると思います。どちらも、日本では非常に難しい条件です。
・ガーディアンが指摘したように、短期的には、年金生活者が所得を増やすけれど、より多くの中小企業は倒産するでしょう。日銀は、高齢化消費社会の近代化論者なのです。
・世論が、ゼネコンやそごう救済はおろか、今でも銀行への公的資金投入を嫌っているのは明らかです。
・すべての関係者がおそらく認めているように、マクロ経済学ではなく、日本の国内政治と調整過程を促す政治的選択が、この決定の評価にとって最大の争点です。
Guardian
Japan risks all on rate rise
Bank ends no-interest loan era despite IMF fears that recovery might suffer
Jonathan Watts in Tokyo
Saturday August 12, 2000
・もし、日本が経済状況をさらに悪化させれば、速水総裁は辞任させられそうです。そして、日銀は政治に口出ししたことを処罰されて、経済管理全体から再び排除されるのではないでしょうか? 大蔵省が補正予算を渋り、政治家が既存の政治基盤に政府金融などを増やせば、結果として、日銀の意図は容易に挫かれるかもしれません。
・他方、アジアの成長は、日本への輸出ではなく、アメリカやヨーロッパに依存するようになっています。その意味で、ZIRP解除が日本を大幅な不況に陥らせない限り、アジアにとって重要ではないようです。景気回復が持続し、もう少し円高が進めば、アジア諸国の輸出競争力は改善し、日本市場の魅力も増し、日本企業による直接投資も増えるでしょう。政治的不安から低落気味のアジア諸通貨が回復するきっかけにもなる、と期待しています。日本はアジアの覇権を気にする前に、まず国際市場の優れた参加者であることを証明しなければなりません。
・ゼロ金利でない以上、銀行による金利格差が生じるでしょう。不良債権処理が必要ない新規の銀行設立や外国の銀行の新規参入、少なくとも既存銀行との救済合併などが起こるのではないでしょうか? そして債権市場でも、国債への需要は金利を考慮しなければならないでしょう。もしくは、国債発行を抑制する必要が強まるのです。
FT
Asia watches Japan
By Reuters - 11 Aug 2000 11:55GMT
国民経済を犠牲にしたロシアン・ルーレット式の国内金融覇権対立ではなく、本来の金融政策では、難しいマクロ経済予想を常に修正しながら、政府と中央銀行が協力して市場の動向に迅速に反応するべきでした。景気回復に積極的な財政政策を行うにしても、債務処理と構造調整を促す政治的な意志が必要だったと思います。日銀がZIRPから解放されて、より柔軟に金利を動かして金融システムの維持と経済管理の責任を果たすなら、他方、政府や大蔵省の責任もハッキリさせ、辞任させるべきでしょう。
The Economist July 29th 2000
Is he ready?
George W. Bush: Preparing America for compassionate conservatism
Moreover: Washington, Babylon?
大統領とは? 政治的悲観論者によれば、政治資金を集めることに追われて、当選すれば権力を高めるために仲間も部下も利用した挙句に切り捨てる。より積極的に見れば、知性や階級に申し分無くても、大衆に正しい政治的な選択を促す天性の気質が備わっていなければならない。とはいえ、民主党は市場を味方にすることを覚え、共和党は弱者救済を訴えるのだから、選択すべきものが良く分からない。
ジョージ・W・ブッシュが、大統領に相応しい人物か? という議論は、低劣な発言記録やマッケイン候補との論争で深く疑われている。たった6年間のテキサス州知事では、政策能力も怪しい。しかし、「思いやりのある保守主義」というスローガンは、重要な意味を含んでいる。
それは旧保守主義の「小さな政府」という原理を翻して、より選挙民に訴える財政支出を可能にするだけではない。キリスト教保守派と道徳的な個人主義を政治の中心に持ち込むものである。貧困を助長しかねない福祉国家ではなく、篤志家と教会の慈善活動による道徳的な説得がアメリカ社会をより効率的に改善できる、というのだ。
さまざまな特殊利益団体に冒された中央政治と、巨大な官僚機構や保護・規制、福祉予算に依存する社会に代えて、国家と宗教の積極的関与、自発的社会組織によるアメリカ再生、という過激な思想がブッシュ個人の気質でどのように実現されるのか? 単なる政治スローガンで終わらないとしたら、重要な論争を引き起こすだろう。
On top of the world
世界経済サミットは、貧困、病気、戦争、犯罪、汚染、その他を取り上げて、解決を約束したが、何も変わらなかった。
もっともらしい議論は聞き飽きた。もっと具体的に重債務貧困国HIPCを債務免除で救済するべきではないか? 1年前のケルン・サミットで41カ国の債務を削減する目標が決まった。G8は今年の末までに25カ国の債務を免除する目標を掲げた。しかし、まだ9カ国しか免除の条件を満たせず、ウガンダ1カ国が免除を実施されると決まっただけだ。
今年のサミットでは「沖縄憲章」が示された。確かにデジタル・ディバイドを防ぐ特別研究班や特別部隊が必要かもしれない。しかし、政治家たちが何か新しいことを話題にしたかっただけ、という印象は拭えない。そして、政治的に困難な貿易自由化などは避けて、一般論を繰り返す。
政治家にできることは何も無く、それでも新しい時代はやって来る。こんな会議は止めた方が良い。
Minutes of the calamity club
7月24日、ASEANサミットがバンコクで開催された。しかし、「ASEANは効力のない、衰退する組織であると思われている」というシンガポール外相の発言ですら、楽観的過ぎた。直面する地域問題に対して、何一つ有効な対策は示せなかったのだ。
1997年半ばにタイから始まった金融危機に代わって、最近はインドネシア、タイ、フィリピンなどの政治・軍事的危機が重要となっている。海外投資家は、かつてこの地域の銀行や金融システムの弱さを恐れてパニックになったが、今では、政府の動揺や各地で起こる騒乱に恐怖し始めている。ASEANは、貿易自由化から麻薬密売、女性・子供の奴隷貿易、森林火災と国境を越えた煙害など、まさにこうした地域協力のために存在する。
今回のASEAN改革では、輪番のトロイカ体制が承認された。前議長・現議長と次期議長が協力して、非常事態に対応するという妥協策である。Surinタイ外相が2年前に提唱して実現しなかったASEANのより開かれた相互討論は、内政不干渉の原則を維持しながらも、これで僅かに前進したと言えるだろう。東ティモールに治安維持部隊を送る必要があったときも、もしASEANが協力体制を築いていれば、ASEANの外部のオーストラリアやアメリカに軍隊を送ってもらうことは無かっただろう。
しかし、貿易自由化の合意にもかかわらず、早くも特定産業の除外を申請する国が相次いでいる。ASEANは内部の統一性を維持するためにも、域外に対する共通の政策を必要としている。すなわち、域外からの核兵器の持ちこみを禁止する、中国のSpratly諸島支配に反対する、北朝鮮をASEAN地域フォーラムに招待する、などである。
この地域の民主主義国であるタイとフィリピンは(この方向で)一層の討論を求めているが、インドネシアが民主化するにはまだまだ時間がかかりそうだ。しかし、シンガポールの外相が心配したように、ASEANが有効な政治組織とならない限り、この地域自体が成長から見放される危険がある。
Greenspan lays out his cards
グリーンスパンは、半年毎の議会証言で、アメリカの景気過熱は解消されて持続的な拡大を維持できる、と言う判断に傾いたことを示した。多義的で、慎重な但し書きを付けた、絶妙の応答を自在にこなす天才にしては、これは驚くべき断定である。
これがグリーンスパンの新しい戦略かもしれない。アメリカ経済を取り巻く不確実性は切実である。経済の減速が達成されたのかどうかは、誰にもまだ分からない。確かに、株価は上昇を止め、それが消費支出を抑制するかもしれない。家計の債務は増加しており、石油価格も上昇した。耐久財の購入には一定の飽和が見られる。しかし、「富」効果の影響は予測できない。証拠は限られており、次の報告で修正されるかもしれない。企業収益についても見解が分かれている。労働市場の逼迫は明らかに解消されていない。
アメリカ大統領選挙を控えて、金利を引き上げることはない、と言う見方もある。しかし、こうした引締めの転換を期待する市場の気分自体が、景気の過熱を再生するのである。もしそうであれば、グリーンスパンは自分のカードをテーブルに開けたことを後悔するかもしれない。
A paradox for Cardoso
ブラジルのカルドーソ大統領は、1994年、彼が蔵相のときに始めたインフレ撲滅計画の6周年を祝って演説した。インフレは収まった。経済再建に取りかかろう、と。
しかし、金利を引下げ、財政支出を増やし始めたのに、大統領の支持率は低いままである。その理由は、景気回復の中身である。1994年にリアル・プランが開始されたとき5.4%であった失業率は、公式統計でも、未だに7.4%もある。しかも職に就いている者でも、実質賃金は昨年7%も下落した。
カルドーソの構造改革は民営化と国際競争を促し、長期的に経済を活性化するとはいえ、短期的には雇用を破壊した。その結果、この構造改革を年金制度や税制にまで及ぼすことは、議会でますます非難され、妨げられるようになった。2002年の大統領選は出馬できないので、改革案自体を縮小しつつある。
構造改革を放棄し、財政支出を増やしても、以前の政策失敗による政府への訴訟や、政治スキャンダルが続出している。結局、景気回復は短命に終わり、大統領の支持率は回復しないだろう。
/グリーンスパンもカルドーソも、決して速水総裁より金融政策に自信があるわけではない。市場の変化、投資家や消費者の心理は誰にも予測できないし、国内政治は単一の目標に向かって進む軍隊ではない。長期の成長を遂げても、インフレ抑制を達成しても、経済管理の最も強力な手段として、金融政策とその担当者が政治的な責任を負わされるのは間違いない。
もし可能であれば、こうした金融的権力の分散と合理的な制御を実現すべきであろう。可能でなければ、金融統合と自由化の過程自体が見なおされる。貿易であれ、金融であれ、技術革新であれ、現実的な管理体制が社会的・政治的に整備されるのと同じ歩調でしか進まないと思う。「中央銀行の時代」をできるだけ早く終わらせる方が良い。
Road pricing: Brave Ken
ロンドンは、もうすぐ、画期的な交通管理体制の実験に着手する。新しい市長ケン・リヴィングストンが、1日5ポンド(約800円)のロンドン中心部通行料を課す、と提案したからだ。
有料化地域はWest EndからCityを中心にTower Bridgeまで、とされているが、さらに西部のBatterseaや Kensington and Chelseaまで拡大されるかもしれない。深夜や週末は有料化されない。徴収は道路に敷設されたデジタル・カメラで自動車のナンバーを記録し、運転手がその日のうちに支払う。未払いの者は罰金とともに郵便で支払う。
イギリス人も自動車でドライブを楽しむのが好きだ。この提案は明らかに重大な政治的リスクを含んでおり、多くの論争を生んでいる。計画はどの程度ロンドンの渋滞を減らせるか? どの地域まで指定するか? 地域内の住民を免除すべきか? など。この計画が、全体としての公共輸送計画を改善する場合だけ、住民の支持を得られる可能性がある。(リヴィングストンは地下鉄の改善を公約していた。)
そして、もしこの計画に成功すれば、ケンは市長の座を次にも延長するだけでなく、世界中の交通渋滞に悩む大都市から代表がロンドンを訪問し、成功の秘訣を尋ねるだろう。
Beneath that healthy exterior
好景気により高収益と歴史的に低水準の不良債権しか持たないアメリカの銀行が、再び倒産の危機に瀕しているのか? 銀行株は敬遠されているし、グリーンスパンもアメリカの銀行に懸念を表明した。
1998年のロシア債務不履行を乗り越え、融資よりも手数料収入で利益の約40%を挙げている。州際銀行業務の規制が破棄されて、より多くの州で活動し、今までになく規模も拡大した。
銀行株の低迷は、最近の三つの銀行収益悪化や倒産事件が関係している。すなわちBank OneとFirst Unionは大幅な損失を出し、Money Storeが倒産した。その理由は、好景気が続く中でも、多くの企業は信用格付を悪化させており、突発的なリスクに囲まれ、誰もがニュー・エコノミーの利益を得ようと強気になりうるからである。企業はますます債務に頼って収益を拡大しつつある。
債務増加は株主にとっては好ましいとしても、債権者にとって好ましくない。結局、債務不履行の率が高まってくる。債券市場でデフォルトが増えているが、債券市場に向かない、格付の低い企業が銀行に来ている。銀行は、収益のために、融資基準を厳しくしていない。
手数料収入の増加が銀行経営を安定化する、とも言えない。債権を証券化する場合、最もリスクの大きな部分を切り離して健全な部分を売却し、利益を挙げるが、リスクは残っている。それに対する自己資本の準備は疑わしい。銀行はコストを切り詰めて対応するのか? 銀行の合併や合理化は、コンピューター・システムの統合ができなければ、逆効果かもしれない。
アメリカ経済が僅かでも減速すれば、銀行はデフォルトや不良債権に苦しむ。本格的な不況になったとき、何が起きるか?
Japanese property: Mortgaging: Japan’s future
日本経済の千鳥足に比べて、たった一つハッキリした特徴が見られる。不動産価格が下落しつづけていることである。しかもこのデフレ圧力はまだ持続している。1990年以来、日本の不動産価格は60%下落した。東京の商業地区は4分の3以上も減価した。
しかし、とうとう回復の徴候が現れた。それは、公共用地としての取得や、会計のごまかし、公的資金による救済、など、政府が好む通常のにわか対策ではない。日本はむしろ不動産市場に深く根を張る金融問題に新しい改革を求めている。日本では、開発業者が土地の取得に融資を得られない。この問題を解決するために、アメリカの方式を導入しようと言うのだ。
一つは、CMBS(commercial mortgage-backed securities)である。銀行は、土地への融資を地代収入の証券化で市場を通じて回収できる。借り手は、この債務をオフ・バランス・シートで扱える。日本では巨大な不動産会社が、これ以上の債務負担無しに土地の売買を行うために利用するだろう。そしてまた、健全なモーゲージだけでなく、日本に豊富にある大幅に割り引かれた不良債権も、Goldman Sachsなどによりアメリカの投資家に売られるだろう。
もう一つは、昨年初めから提唱されたものの進んでいないREITS (real-estate investment trusts) である。これは不動産に特化した投資信託会社である。しかし、日本ではなぜ既存の不動産会社がREITSを求めるのか? REITSができれば、不動産会社から良い不動産物件はREITSに移ってしまい、不動産会社の資産内容が悪化する。不動産会社の株式を購入していた投資家は、直接にREITSで不動産に投資するようになる。
また、アメリカではCMBSが普及してから、REITSが導入できた。投資家は、最初、リスクの低い不動産証券しか購入しないからである。ところが日本はそれを同時に検討している。日本にはこうした投資リスクを格付する機関が無く、それゆえ金利にリスクが十分反映されていない。
最後に、アメリカではRTC (Resolution Trust Corporation) が不動産向け不良債権の大量にパッケージ化し、CMBSの市場での価格付けに積極的に貢献した。それをまねた日本の不良債権買い取り機構RCCは、債権の割引に対する世論の反発を恐れている。日本人の税金を使って割り引かれた債権を、結局は、外国人の投資家が大量に購入するからである。そもそも、より多くの公的資金投入は、政治的に受け入れられない。
しかし、こうした債権処分が行われない限り、投資家は価格が正当に底を売ったと確信しないだろう。それなしには、不動産市場のどのような革新も的外れである。
Saturated solution
高名な経済学者、カリフォルニア大学バークレー校のMaurice Obstfeldとハーヴァード大学のKenneth Rogoffが、マクロ経済学の六つの謎を同時に解決できる答えを見つけた、と発表した。
その謎とは、1.一国内の地域間の方が、国境を越える隣接する地域間よりも、はるかに多くの貿易を行うのはなぜか? 2.豊かな諸国の貯蓄率と投資率が強い相関を示すのはなぜか? 3.投資家のポートフォリオが大幅に自国の証券市場に偏っているのはなぜか? 4.国際的な成長率の比較で、消費に対しては、所得に対してよりも少ししか相関しないのはなぜか? 5.物価が実質為替レートのショックに対して緩やかにしか調整しないのはなぜか? 6.為替レートと経済の活動水準に一貫した相関関係が存在しないのはなぜか? この六つである。
彼らの見つけた答えとは、これらの “home-biased” puzzlesに対して、通貨の違い以上に、貿易取引コストを重視する。そして、対外投資は非常に限られており、世界資本市場は完全に統合されていないから、経常赤字は遅かれ早かれ経常黒字をもたらす、と考える。
貿易にコストがかかれば、輸入財はその生産国よりも高い値段で売られるだろう。また、ある国が輸入財を輸出するようになれば、その財の価格は下落するだろう。それゆえ、経済全体を見れば、経常赤字国が経常黒字に転換するとき、デフレが起きると期待できる。それは実質金利を世界と比べてその国で高くするだろう。そして、海外への投資を抑制する。
1と2の謎は、投資が自国に偏っている3の謎に関わる。最後の謎も、為替レート変動のリスクをプールする仕組みが、国際間よりも国内の地域間で発達しているからである。
/国際マクロ経済学に革新をもたらそうとする努力が何を生み出したのか、自分自身、十分な理解に達していない。貿易には追加的なコストがかかり、しかも海外投資は国内投資ほど十分に行われていない。その結果は、各国のマクロ均衡に一定の偏りをもたらしている、と考えたのであろう。
その際、国際貿易が物価に強い影響を及ぼし、国際資本移動が支配的な世界で、貿易・経常収支と物価変動、実質金利に各国間格差が生じ、それは各国に貯蓄・投資・消費そして成長のパターンをもたらしている。貿易収支と国内の貯蓄・投資均衡を指摘するISバランス論が、さらに全体的で、しかも動態的な循環と国際的なパターンをもたらす仮説となっているように思う。