IPEの果樹園 2000
今週の要約記事・コメント
7/3-8
Financial Times July 2nd 2000
Bank of Japan warned over zero rate policy
Fed holds rates unchanged but hints at future increase
(コメント)同じ日の二つの記事から、金融政策の政治的関連を日米で比較できる。
日本では、日銀がゼロ金利解除を模索しているが、政府・大蔵省はこれを批判している。日銀は、ゼロ金利によってデフレを防止する時期は終わったと考える。しかし、政府は景気回復が固まっていないうちは金利を上げるな、と牽制する。
それは、国民の声?を代表しているのか? あるいは、破綻した銀行や不良債権を平気で積み増す企業・建設会社・不動産業者などであろうか? または、政府補助金だけが頼りの地方自治体、であろうか? 選挙の結果、確かに自民党は都市部で弱かった。
自民党も議席を減らした。しかし、景気回復を出来ずに選挙を行い、議席を減らした公明党には、さらに厳しい要求をされるだろう。公共投資や弱者救済の予算作りに、ますます財政赤字を拡大し、そのためにも金利上昇はできるだけ先に延ばしたい。
他方、日銀は、デフレだけが関心ではなく、経済の構造改革にとってもゼロ金利は望ましくない、と考えているのかもしれない。それはまた、政府の景気対策は効果が無く、むしろゼロ金利によって政府まで含めたモラル・ハザードが広がり、最後には通貨への不信を招くのではないか、という憂慮を意味する。
他方、アメリカではグリーンスパンの神通力なのか、金利の微調整で景気過熱とインフレが収まり、金融引締めが早くも終わる情勢である。問題は、大統領選挙が終盤となれば、選挙結果を左右しかねない金融引締めは行えなくなる、という懸念である。
アメリカ政府の最近の関心は、ガソリン価格の上昇を抑えること、そのためにOPECに圧力を掛け、原油増産を促すことへと向かっている。
政府(政治家の権力)は、投票に依存しているから、投票行動を支配する手段を確保しようとする。日本では、それが特定業者への財政支出であり、ゼロ金利政策の延長であり、選挙協力と新たな財政支出確保、などである。アメリカでは、独立してはいるが、連邦準備銀行の経済管理能力であり、企業のリストラまで含む市場のインフレ吸収能力であり、最後には国際石油市場やドルによる影響力、などである。
世界の市場統合化と資本移動の高まりは、それが順調に続く限り、日本政府の曖昧な政治能力をますます破壊し、アメリカ政府の経済統治能力を強める傾向がある。もちろん、それは破綻するかもしれない。しかし、日本は世界経済に大きく依存しているから、破綻によって最も大きく傷つくだろう。
The Economist June 17th 2000
Intimations of mortality
トニー・ブレアも不死身ではない。この数ヶ月、彼は苦境に立っている。地方の選挙で敗北し、ロンドンの市長選挙では壊滅した。支援団体の演説でも、反応は鈍く、拍手は少ない。次の選挙で労働党が敗北することもありえるだろう。
ブレアはいくつかの成果を上げている。特に経済運営では素晴らしい。北アイルランドやコソボに対しても、勇敢に行動した。国内の改革、特に学校教育の改善は重要である。しかし、彼の苦境にも正当な理由がある。彼の率いるNew Labourは、誇張された政治的宣伝・レトリックに訴えてきた。問題は、大衆がこの大げさな話しと現実との食い違いを意識し始めたことだ。
ブレア的誇張はいろいろある。1997年の選挙では、 New LabourはToryが支配した「無駄な」18年間を嘆き、公共サービスの「野蛮な」切り捨てを慨嘆した。権力を手に入れると、彼はイギリスの福音主義と転換する豊穣さについて満悦し、すべてを「近代化」して、21世紀の理想的なモデルにすると約束した。医療制度や子供の貧困問題なども、解決するリストに付け加えた。
ブレアはToryを批判しながら、いつもその重要な特質を維持すると主張した。すなわち、減税、規制緩和、民営化、である。革命的な変化を煽る言動と、近代化の継続を前提した現実との間に、深刻な亀裂が見える。
医療制度を救うために、労働党に投票せよ、とブレアは言う。Toryが公共支出を削ったのだ、と。これはまったく腹黒い宣伝である。Toryは、実質の健康保険支出を増加させたのである。他方、ブレアは内部市場を解体したことを自慢するが、実際には、彼が健康サービスの購入者と提供者とのひずみを拡大したのである。
医療制度改革を見ても、ブレアは実際的な既存制度保持論者であって、近代化論者ではない。民間セクターの活用を取り入れるような、真に革命的な考えは排除されている。規制、増税によって、既存制度を改善する、ということである。彼は注意深い増税計画を行う前に、多くのことを約束しすぎたのである。国民に失望が広がっても、これほど権力を維持できたのだから、良いのだろうが。
Tomorrow’s stockmarkets
各国の株式市場ほど我慢強いものは他に無いだろう。円柱の支える入口から、騒音渦巻く立会い市場まで、彼らは団結して変化の力を無視できた。しかし、世界の株式市場は動揺し、今や電子取引に対抗し、生き残るために、互いに提携や合併を模索している。たとえ最大のニュー・ヨーク市場でもその例外ではない。
二つの外部の力がこの変化を迫っている。一つは電子取引である。インターネットが普及して、仲介業者は価格を引下げるしかない。また、完全に電子的な市場が組織されつつある。第二に、投資家、企業、投資銀行が国境を越えた取引を、しかも安価に、求めている。それはユーロの誕生で、ヨーロッパ市場に顕著である。しかし、最終目標は世界である。世界の主要企業を24時間取引できる市場が形成されるだろう。既存市場がやらなければ、電子市場に先を越されるのだ。
なぜ世界市場は今まで出来なかったのか? それは投資家や株式発行の保守的行動によるだろうし、各国の規制や会計基準の違いによるし、取引所の保護主義的な対応によるものだ。これらは、ゆっくりではあるが、変化している。
非常に臆病であった投資家が、世界的な取引の利益により市場拡大を目指し始めた。既に少なくとも二つの世界的ネットワークが登場しつつある。一つはNYSEに指導され、パリ、アムステルダム、ブラッセルのEuronextや東京市場も含む、世界の主要取引所の統合化である。もう一つは、ロンドンとフランクフルト市場の合併でできたixと、NYSEのライバルであるNasdaqが協力したベンチャー企業である。電子市場が現れるだろうし、結局、これらすべてが結びついて、単一の世界株式市場ができるかもしれない。
しかし、これまでの経験は、既得権によって合併計画が挫折してきたことを示している。市場の規制をめぐって、また各国の保護主義が、市場を統合化させない。それは、市場の規制をどうすべきか、という公共政策の問題である。世界統一SEC(証券取引委員会)は存在しないから、各国の規制を共通化していくことであろう。これはEUが行いつつある。もしそれに失敗すれば、民間による裁定取引が増加する。そして民間取引はより良い規制を求めて市場を移動するだろう。
世界株式市場のもう一つの根拠は、各投資家に最高の価格と成果をもたらし、より大きな流動性とコスト削減を実現することである。これは特にクリアリングと決済に期待できる。他方、もっと長期の問題として、単一世界株式市場の独占に関する懸念がある。取引量に応じて魅力が増すから、取引所には自然独占が成立する。それは公共サービスの供給と似たところもある。競争を促すことが、最も有効にコスト削減と良いサービスを実現させる。
しかし、たとえ国内取引でも新しい競争が起きているのであるから、世界市場について独占を心配するのはまだ早いだろう。
Kimaraderie, at last
予想もしない大歓迎に韓国の大統領は感激したようだが、まだ請求書は届いていない。
6月13日に二人が会ったとき、それは半世紀にわたって技術的には戦争を続けてきた両国指導者の最高会議というより、生き別れであった家族の再会、といった様子であった。彼らが握手したとき、このTV中継を見ていた多くの韓国人が拍手喝采し、涙を流す者もいた。まるで、この冷戦の最後に残された前線基地が、突如として消え去ったかのように。
彼らが合意して署名したとはいえ、まだ道のりは遠い。経済協力と和解、他国の「干渉」を排除した、両国の再統合について、原則に合意した。しかし、細部の取決めは今後の事務交渉に任される。
二人は確かに上々のスタートを切った。空港から迎賓館へ向かうリンカーンに同乗した最初の50分間を含めて、直接の秘密対話が行われた。60万人の北朝鮮市民が沿道に動員され、民族衣装を着てプラスチックの花を振った。それは韓国市民を大きなショックに落とし入れた。そこは国民を飢餓状態に置く、共産主義に染まった、狂気とまでは言わないが、全体主義体制のはずではなかったか?
では、金正日にとってこの会談は何であったのか? 彼は明らかに対外関係を改善している。また韓国との関係改善、特に金大中政権との友好関係を求めている。韓国政府は、これまでにない「宥和政策」(”sunshine policy”「陽光政策」)を展開した。韓国との関係改善は、アメリカや日本との交渉にも有利であろう。
中国もこれに反対しない。北京政府は、朝鮮戦争の同盟国がいつまでも「無法国家」で、アメリカや日本が軍備増強の口実に使うのを望まない。また、北朝鮮の体制が崩壊して、難民の波が自国に向かうのを望まない。西側の援助機関が混乱に介入してくることは最悪である。中国は北朝鮮に食糧と石油を援助している。直前に北京を訪問した金正日は、援助の増額だけでなく、中国の開放政策に強い関心を示したと言われている。
これまで北朝鮮は、核拡散防止条約から離脱すると脅し、長距離ミサイル実験を行い、イランやパキスタンにミサイルを売らないために補償を求めてきた。日本は関係正常化のために、占領時の賠償を100億ドル請求されている。そこで、韓国にはどんな請求書が届くのだろうか?
何も求められなかった? この、一見、礼儀正しい、ひょうきんな男が、1983年、ヤンゴンで閣僚を含む17人の韓国人を爆殺し、その4年後には大韓航空機を爆破、墜落させたのか? 多くの韓国人がこのまったく異なるイメージを解消するには長い時間がかかるだろう。会談は、韓国人がどれほど深く隔たってきたかということを教えた。それゆえ和解の精神的・経済的なコストはドイツよりずっと大きいだろう。
しかし今は、禁止されている北朝鮮の国旗を振って喜ぶ韓国の大学生たちと一緒に、この素晴らしいスタートを祝っておくしかない。
China; The three big thoughts
江沢民Jiang Zeminは、中国の将来と、それを指導する共産党の将来について、考えをめぐらせているようだ。新しい「聡明な」表現が、「三代表”Three Represents”」理論で与えられた。しかし、この名称は英語でも変だが、中国語でもまだぎこちない。
中国共産党はこうしたスローガンをこれまでも称えてきたが、「三代表」理論はいつもと違う。これまでの実際的な、開放的なイメージと違って、より毛沢東の時代を思い出させる。この一年間、江沢民は、毛沢東に並ぶ指導者として、またケ小平の後継者として、自分を見せようとしてきた。昨年10月の共産党50周年大会でも、自分の巨大な肖像画を、毛沢東やケ小平に並べさせた。後3年で公式の地位を引退するが、彼はその後も権力を保持したがっているようだ。毛沢東もケ小平もそうしたように。
共産党が常に、中国の生産力の発展的要求を、進歩的な文化の方向を、そして中国人民の大多数の利益を、代表してきた、とこの理論は述べる。それから逸脱するときはいつでも、逆流が起きた。時代や条件が変わっても、党は「三代表」を支えるべきである、と。庶民は、このような主張に同調していない。しかし、政治の領域では、リップ・サービスであっても、江沢民が敬意を独占している。
彼の出身地である広東省の党指導者が大げさに賞賛し、党内の江沢民支配を確認する道具に使い始めた。この人物は次の首相と噂されている。このキャンペーンは暴走し始め、中国社会科アカデミーは二人の自由主義的な学者を追放してしまった。彼らは政治改革について論文を発表していた。それは、単に忠誠を問うだけでなく、中国は将来、共産党による一党支配を放棄しなければならないと、ますます多くの学者が主張し始めたことに対する攻撃である、という者がいる。
今や、それは平凡な理論では決してない。
Nepal and India; The trouble with ghee
インドはネパールへの飛行を再開した。カトマンズからのインド航空機がハイジャックされてアフガニスタンへ向かったことで、飛行を5ヶ月間停止した後である。ネパールは観光客に大きく依存している。飛行の停止は重大問題である。観光客は戻ってくるが、インドとの貿易紛争が残っている。
ネパールのビジネスマンは、インドが両国間の自由貿易条約を崩す試みに悩まされている。1996年のこの条約が、ネパールにインド向けの製品輸出を自由化し、約4倍に増加させた。インド北部の市場を目当てに、外国企業がネパールに工場を立てた。この貧しい隣国のささやかな成功を歓迎するより、インドはむしろ制限しようとしている。
インド料理で好まれるvapaspati gheeという植物油を、インドより安くネパールで生産できる。条約に従って、gheeの輸出は増加したが、インドの生産者が抗議したために、インドからの圧力を受けて、ネパール政府はその輸出に特別税を課した。輸出は急激に減少した。その後、アメリカのイーストマン・コダックが標的になった。同社は昨年、カトマンズの南に480万ドルで工場を建て、輸入した印画紙をカットしてインドに無税で輸出すると年800万ドルの関税が節約できる。インドはこれに抗議して、この工場を製造とは見なさない。インドに反対できないので、ネパール産業省はコダックからネパール製輸出品の承認を取り消した。他でも、インドはネパールの生産認定を限定するように求めている。
インドはしばしば隣国ネパールに強硬な外交手法を用いてきた。10年前には、二箇所の検問所以外のすべての国境を封鎖した。それはネパールが中国から武器を購入したことへの制裁と考えられている。
貿易紛争は、地域の貿易自由化に望ましくない。この数年、インドは近隣の6カ国と、南アジア自由貿易圏を作ろうと努力してきた。しかし交渉は昨年10月のパキスタン軍事クーデタで挫折し、インドが二国間の交渉を続けている。しかし、スリ・ランカとの協定が示すように、インド国内産業のロビー活動で、自由化の中身が失われる危険がある。すなわち協定は、スリ・ランカの主要輸出品である紅茶を、突如、僅か3000トンを除いて、自由化から外したのである。
Britain; The debate that will not die
ゴードン・ブラウン蔵相は、5つの経済テストを合格しなければ、イギリスは単一通貨に参加しない、と言ってきた。彼はまた、次の選挙が終わるまで、その決定はしない、とも述べた。理由は簡単だ。ユーロはイギリス国民に人気が無いのだ。労働党は、できる限りユーロ加盟問題を選挙の争点にしないように努めている。
だが、次第に、政府の戦略に亀裂が生じつつある。自国通貨の廃止を決める国民投票を選挙後にするのかどうか答えないままで、選挙戦を過ごすことなどできない。他の閣僚は、より明確なユーロ支持を表明している。今週、ユーロ支持のBritain in Europeと、反対派のBusiness for Sterlingが、一方は経済統合推進で、他方は安定通貨の喪失と言う観点から、さらに蔵相を追い詰めた。
ブラウンが1997年10月に示した5つのテストとは、1.イギリス経済がユーロ圏と持続的な収斂を示しているか、2.経済が十分に弾力的で、フランクフルトで金利が決定されても対応できるか、そしてユーロ採用による、イギリス向け海外投資、City、雇用への影響を検討する、というものであった。最近の議論で注目されているのは、収斂・投資・Cityの三つである。
1997年当時、イギリス経済とユーロ圏との景気循環の違いは大きかった。しかし、今週の指標で見る限り、収斂は大きく進んでいる。むしろ、(かつてのようにイギリスがインフレを心配するより)ヨーロッパで最も低いインフレ率を達成している。短期金利や産出ギャップの収斂も目覚しい。
しかし、大蔵省は収斂が「持続可能で長期にわたる」ことを強調して、慎重姿勢を訴える。収斂基準は「表面的」であると批判されている。もしユーロ圏の単一金利を適用すればどうなるかは、すでに5%以上のインフレに加熱したアイルランドが示している。
通貨統合の最大の障害は、ポンドの現時点の強さと、過去の浮動性である。ユーロ支持派は、イギリス経済がポンドの浮動性にますます苦しむようになる、と強調する。イングランド銀行金融政策委員会の元委員William Buiterは、「ポンドは不安定性の源であり、その緩衝装置ではない。ポンドは(ドルとユーロの)二頭の像に挟まれたウサギのように飛び跳ねる」と述べた。
また、プリンストン大学教授 Peter Kenenは、為替レートの不確実性が、ユーロ圏との為替リスクを考慮させて、外国企業のイギリス国内向け投資を損なうかもしれない、と警告した。証拠は曖昧である。政府の部局は、イギリス国内向け投資が高い水準で続くと予想している。
今週、イングランド銀行総裁エディー・ジョージの講演は、ユーロ圏の外にあってもCityの業績は優れている、とポンドの予想されたマイナスの影響を否定した。ロンドン商工会議所が外国銀行に調査した結果でも、ロンドンに立地する決定を行うに当って、ポンドの問題は23の要因中21番目であった。しかし同時に、3分の1の銀行は、ロンドンが将来も国際金融センターとして生きるには、ユーロ加盟が必要、と答えている。
5つの経済テストは、結局、大蔵大臣がそれを政治的に適当と判断したときに、合格となるのである。こうして論争は政治に戻ってくる。ヨーロッパ諸国と受入可能な統合のための為替レートを交渉しなければならない。さらに、政府は国民投票で勝たねばならない。加盟に伴う政治問題を議論しないままでは済まされない。ユーロ加盟問題は、経済テストではなく、政治論争である。
A market for monopoly?
企業間の(B2B)Internet取引が増加すれば、自動車から鉄鋼まで、摩擦のない完全市場が実現し、これまでにない高い効率性と消費者の楽園が実現されるのか? しかし、規制や独占企業の誕生が、まったく逆の悪夢を実現する可能性もある。
連邦取引委員会(FTC)は、B2B取引について、反トラスト容疑で二日間の公聴会を開いた。法務省や上院通商委員会も調査を始めている。しかし、こうした嫌疑は馬鹿げている。開かれた、透明な、オンライン市場は、独占的な行動を難しくするのであって、容易にするのではない。
しかし、Internet経済学は神秘的な部分がある。強力なネットワーク効果が一夜にしてオンライン市場を形成し、カルテルと価格固定化を容易にするかもしれない。特に企業グループが取引や納入を巡って、関連企業をグループに取りこむ行動が注目されている。巨大な買い手寡占oligopsonyを形成する、とも懸念されている。取引を通じて情報を不当に独占するかもしれない。
しかし、過熱した論争が集中しているのは、Ford, General Motors, Daimler Chrysler, Renault/ Nissanが共同で設立した部品共通取引システムであるCovisintである。しかし、納入業者をこのシステムに参加させるのは難しい。彼らは他の企業と取引しないように圧力を掛けられているからである。その理由は、デトロイトで、自動車メーカーから納入業者に権力がシフトしたからである、という説がある。今や自動車会社は部品を製造せず、コストの情報を持たない。そこで自動車会社は、価格を比べて、それを納入業者への価格引き下げ交渉に利用したいのである。また、これを独立の会社として、資本市場で公開すれば巨額の資金を調達できる。
部品取引システムが買い手寡占を形成して納入業者に不利益を与えていると言う証拠は無いようだ。もし一方的に有利な条件を維持すれば、取引それ自体が偏って、自然に崩壊するだろう。Internetは取引所の組織を効率的に行える。また、偏った条件は、闇市場を育て、メイン市場の流動性を失わせる。
大規模な計画市場のほとんどは、売り手ではなく買い手によって運営されていたし、独占ではなく買い手独占の危険がある。クリントン政権は反独占の組織を強化し、マイクロソフト訴訟でサイバー法規制定が加速した。しかし、こうした拙速な法規制は、まだ根拠の無い独占行動よりも、さらに有害であろう。
Is it a carve-up?
マンハッタンでクレジット・カードが発明されてから50年経つが、その普及には際限が無い。しかし、その構造に初めて調査が入った。アメリカ法務省(DOJ)は反トラスト容疑でVisaとMaster Cardを訴えたのだ。両社がアメリカのクレジット・カード産業の75%を占めている。11月にはアメリカの小売店の多くが、デビット業務で81億ドルの被害を訴える。
しかし、カード業界が競争していない、というのは愚かであろう。特にアメリカでは、毎日のようにカードが送られてくる。破産者、幼児、ペットまで、誰もがカードを持っているのだ。DOJが問題にするのは、次の二つの点である。第一に、VisaとMaster Cardは本気で競争していない。両社は金融機関のさまざまな提携によって相互に保有されている。事実上、一つの企業である。第二に、他社を排除するために、両社以外のクレジット・カードと契約しないように銀行に強制している。
1998年10月に訴訟が起きてから、両者の「二重性」原理は解体する兆しがある。CitiグループがVisaから脱会して、すべての業務をMaster Cardに集中させた。しかし、他者を排除するやり方が、有罪の証拠であるとは限らない。
たしかにクレジット・カード業務を狙う大銀行がこの訴訟を歓迎しただろうが、両者のネットワークで最も利益を得たのは小さな金融機関であろう。両社が競争していないとは言えないだろうし、DOJの訴訟が競争を促すという保証も無い。そもそも「二重性」は、1975年にVisaが支配することを懸念したDOJが導入させたのである。
技術革新を阻害した、という点で、DOJはMicrosoftを敗退させた。しかし、アメリカの金融革新は世界で最も進んでいる。また、Amexの方が高い料金を請求するのであるから、コストを争っても意味がない。結局、Microsoftと違って、それが消費者とって有利な変化をもたらすとは思えない。
Japanese bankruptcies; Tightening, already
日本の経済的な憂鬱はいくらか晴れてきた。しかし、まだ心配な面がある。零細企業の見通しは暗い。機械受注も減った。特に目を引くのは、最近の倒産件数が急増したことである。
その理由は、部分的に、1998年10月に導入された政府の緊急融資保証が、昨年の倒産件数を抑制したからである。130万以上の会社がこの制度を利用し、21兆円が新規に融資された。しかし、それは今や企業の新たな債務負担となっている。
他の理由としては、アメリカの破産法11条をまねた新法規が、経営者の交代無しに、経営を立て直すために、債権者からの保護を与えたことがある。
財政政策の引締めが、もう一つの影の理由である。中央政府の赤字が爆発しつつあるときに、その受益者であるはずの建設会社の倒産が増加している。実際、公共事業の発注は減っているという。地方政府が財源を失い、債務を累積させて、政府の要請にもかかわらず支出を削減し始めたからである。その結果、政府は全体として公共支出を増やせなくなった。
これは良い徴候である。公共部門の支出が減っても、経済は成長を持続している。民間需要はすべての要素が増加している。しかし、政府が財政政策の方向を決定できない、というのでは、完全に良いニュースとは言えない。将来、支出を削減する場合に、それが急激に危険な引締め政策になるかもしれない。日銀がもうすぐ金利を上げることも考えれば、1997年の財政引締めによる失敗を繰り返せば、倒産が一気に急増するだろう。