IPEの果樹園 2000

今週の要約記事・コメント

6/26-7/1

The Economist June 10th 2000

Make it ten, set a date

3年前、フランスのシラク大統領は、ポーランドに2000年の加盟を約束した。チェコ共和国やハンガリーも加盟できるだろう、と言った。ところが、今ではシラクも他の指導者たちも黙ってしまった。EU拡大の勢いは失われたようだ。共産主義が崩壊して10年経つが、EU加盟は実現への見とおしもない。

何が起きたのか? 第一に、ドイツとオーストリアの両政府が、東欧からの移民流入を心配する有権者に影響された。第二に、EU自体が、増加する加盟国に対応できない組織改革を必要としている。最後に、候補国自身も、EU委員会からより完全な法整備を求められている。これらはすべて克服可能であるが、政治的な意志が必要だ。

今週、6カ国が加盟を申請するが、6ヶ国では少ないだろうし、2003年という年限は間違っている。13の候補国は、全体として、EU加盟を求めるブロックを形成する方がよいだろう。他方、EUを既に構成している15カ国は、将来の現実的な共通加盟期日を設定すべきである。例えば、15カ国で議論されている2005年である。これによって候補国の国内改革を促し、EU諸国は国民に単一の選択を説得し、EU内部の制度改革を行う時間が得られる。

ドイツとオーストリアが心配する労働者の移動についても、新加盟国に10年間その権利を認めない、というのではなく、それを心配する加盟国は個別に一時的な規則を設けて対応し、他のEU加盟国は自由を維持することが望ましい。

期限を設けることは、一方で準備不足の国を受け入れるかもしれないが、準備を要求しすぎる危険もある。実際に加盟国のすべてが、80000ページに及ぶEUの法規や基準を完全に実施しているわけではない。

こう考えて見よう。候補国の中から10カ国が、明日、このまま加盟した、とすれば何が起きるのか? 確かに、東側に広大な、不十分にしか規制できない地域が生じて、密輸や非合法移民が増えるだろう。そしてEUは組織として運営できなくなる。その意味で、境界の確保と組織改革はEU拡大に先行して求められる。

しかし、経済面を見れば、その影響は小さく、さらにもし農業補助金を適用しなければ、さらに小さくなるだろう。候補国は既に工業製品の自由貿易を行っており、産業政策や経済政策における問題は、すでに各国が抱えていることである。政治的には、恐れることなど何も無い。10の候補国で民主主義は十分に実施されており、たとえどこかが逸脱しても、その国のEU投票権を停止することができる。むしろ、今後の加盟審査で、民主主義と改革は候補国を支配するだろう。

Europe’s regulatory muddles

今週、ルクセンブルグで行われたEcofin昼食会で、ゴードン・ブラウンはエスカルゴを喉に詰めそうになったに違いない。フランスのファビウス蔵相が、全ヨーロッパの金融監督機関を、当然のこととして、パリに設置したい、と主張したからである。しかし、問題は、今の制度が機能していないことである。

ヨーッロッパのほとんどが単一通貨を持ちながら、資本市場は統合化できていない。国境を越える企業買収はしばしば地域の利益と対立して妨害される。ヨーロッパの株式市場や決済システムの統合化は、規制や監督の違いを問題にしてきた。企業も投資家も、各国の規制を裁定するために取引が膨らむことを恐れている。

全ヨーロッパの株式保有文化が育つには、市場が確立され、共通のルールがなければならない。金融規制を統合化する法案は、いずれも各国によって模索され、互いに調整されていない。こうした試みがむしろ、人々に規制・監督機関が多すぎると感じさせている。ファビウスはこの問題に対処すべく、カムドシュ、ド・ラロジエール、ラムファルシーによる「三賢人」委員会を設置した。しかし、その二人はフランス人であり、一人はフランス語圏のベルギー人である。その結論が、フランスの念願である、アメリカのSECに対抗できるヨーロッパの監督官庁を設立する、となっても不思議ではない。

アメリカの「超富裕層」3社、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター、ゴールドマン・サックス、メリル・リンチに率いられた、巨大機関投資家たちは、しかし、ヨーロッパの統一規制に関する過剰な文句ばかりで何の現実の進歩もないことに、うんざりしている。ヨーロッパ委員会が有益な役割を担えるだろう。それは各国になすべきことをリスト・アップする権限を持っている。しかし、各国の歩みはエスカルゴのようなものだ。委員会でフランス語の名前を考える暇があったら、ファビウスはさっさとヨーロッパ証券取引規制の基本法規を整備させるべきである。

Regulating the Internet

「インターネットから手を引け」というのが、理想主義的自由主義者の叫びとして高まるとしても不思議は無い。それは、混乱するとはいえ、断然有益な道具、理想家たちによって下から生み出された、ほとんど自己規律された道具、政府が干渉しえない理想の道具である。なるほど、良い考えだが、インターネットも、残念ながら、電子が連結したユートピアンたちの要求とさほど変わらない。

インターネットの普及は、どれほど優れた規制当局をも、これから逃れることを不可能にしている。プライヴァシー、消費者保護、知的所有権、契約、課税は、もしeコマースが拡大すれば、自律できなくなる。そして裁判書がマイクロソフト社に分割を命じたように、インターネットは独占禁止法をさらに重要にするだろう。問題は、インターネットを規制するかどうかではなく、どのように規制するか、である。

The Internet Engineering Task Forcethe World Wide Web Consortium (W3C) が、これまでインターネットを動かす基準や技術に関して基礎を形成してきた。公開性と合意の実現が、ネットそのものであったのだ。しかし、ますます増加する役割に対して、これらの機関は機能しない、と疑われている。技術問題は解決できても、公共政策は選択できないだろう、と。

インターネットのドメイン・ネームを管理しているthe Internet Corporation for Assigned Names and Numbers (ICANN) は、世界の監督機関として機能するだろうか? 

AsiaThe gathering storm in the South Pacific

太平洋において、フィジーは影響力が強いという意味で、大国である。フィジー政府が武装集団に転覆されてから2週間後、ソロモン諸島でもこれをまねたクーデターが起きた。ソロモン諸島には軍隊はおらず、武装警官しかいない。異なった二つの民兵組織が戦闘を繰り返している。

ともにメラネシア諸島の国家として、フィジーは1970年、ソロモンは1978年にイギリスから独立したが、エスニックによる社会の分裂に苦しんできた。ソロモンの反乱は、その起源を第二次世界大戦にさかのぼる。

1942年、アメリカ海軍がガダルカナルに上陸したとき、そこを占領していた日本軍を追い出すために、隣のマライタ島から数千人の人々を動員した。現在、マライタ人が人口の30%を占め、ソロモン諸島の最大のエスニック集団である。歴史的に彼らは、出身の島が貧しかったために、各地を遍歴する移動農民・労働者であった。アメリカ軍が去った後も、彼らはそこにとどまり、ガダルカナルの経済と政治を支配するようになった。このことはガダルカナルの元来の住民、特に土地を奪われた現地人に、深い怨恨を残した。

独立後は、西側の議会制度が1000以上の島と70以上の言語を持つこの国をつなぎとめようとしたが、汚職が蔓延し、経済も生存ぎりぎりの水準から改善されなかった。ソロモン諸島の原生林は巨大な企業に伐採されてしまい、その利益は地元に何も無かった。

18ヶ月前にガダルカナル人がイサタブ解放運動を結成したことから、今回の危機が始まった。彼らは武器を奪い、土地を奪い返すためにマライタ人を襲撃して殺し始めた。一万人以上のマライタ人が島を去ったが、彼らは失った土地の補償を政府に求めた。1月にはマライタ・イーグル・フォースが結成された。

英連邦は2月にフィジーからソロモンに特使を送って和平を試みたが、失敗した。ニュー・ジーランドとオーストラリアがこの地域に大きな役割を果たしている。彼らは援助を行い、貿易や安全保障を提供していた。オーストラリア政府は、経済制裁の発動に反対している。他方、オーストラリアは太平洋地域への関与を引き下げ、南太平洋諸国会議にも首相は欠席していた。しかし、今後はこうしたことも許されないだろう。

United States; Another miracle

ウォール街は、アメリカ経済をスーパー・タンカーにたとえるのが好きだ。それは巨大で、強力だが、操縦できない。このスーパー・タンカーが旋回し始めたと判断する者が増えてきた。何週間か前には、インフレと金利引上げが心配されていたのに、いまや市場の気分はすっかり逆転した。アメリカ経済はこんなにすばやく回転できるのか? それとも再び「非合理的な豊かさ」に酔っているのか?

さまざまなデータを読み込むのは無理がある。特に雇用のデータは減速を示し、住宅市場も停止した。消費支出も今までに無い低い伸びである。その結果、楽観論が増えてきたのだ。

Fedが上手くやったのか? しかし、当然、次のような慎重さは必要だ。まず、判定を下すには早すぎる。さらに、金融市場の動きが心配だ。もし経済がすでに減速したと信じて株化が上昇すると、それ自体が危ないのだ。最後に、これでインフレが収まったかどうか。4.1%という失業率は、通常考えられているNAIRU5-5.25%よりもかなり低い水準である。

ハード・ランディングは回避できるという理由として、経済成長は長期的には続いており、石油供給が増加して価格上昇を抑制するだろうし、またインフレ期待は低いままである、と指摘されている。ただし、BISのように、アメリカの外では、まだ心配する声のほうが強い。

スーパー・タンカーは旋回し始めたのかもしれないが、氷山はまだ見えている。

Canada; Votes and migrants

カナダは長く自由主義的な移民政策を採ってきた。過去20年で、約350万人の合法移民を受け入れ、毎年22万人までに国籍を与えた。しかし、カナダが、オーストラリアやアメリカよりも、人口に対してより大きな比率の移民を受け入れたのは1997年であった。その後、移民流入は減少している。

政府は家族の呼び寄せよりも熟練労働者の移民を優先しようとしている。それが移民の多いオンタリオ州の選挙で重要になってきた。また、昨年は、多くの中国からの非合法移民が船でブリティッシュ・コロンビアの海岸に上陸し、問題になった。移民が集中するトロントやヴァンクーバーは、非白人人口が3分の1に達する。

政府は、移民・難民保護法案を提出して、こうした問題を解決しようとしている。一方で、その目的は「裏口を閉める」ことである。密入国を斡旋するものには厳しい処罰が提案されている。他方、正規の入り口はさらに大きく開かれるだろう。18歳以上の市民は、だれでも他の家族(広い意味で)の保証人となれる。熟練労働の定義は緩和される。

この法案を歓迎しないものもいる。外国で重罪を犯した者を自動的に排除する規定は、国連難民高等弁務官を憤慨させている。もう一つは、政治的な駆け引き(均衡化)により、帰化の条件を厳しくする法案である。

自由党は移民問題を選挙のテーマにせず、帰化法案が有利に働くと期待する。しかし議会が夏にも解散されるなら、移民法案は廃棄されるだろう。

Sierra Leone; Inside the enemy’s decision circle

68日にフリータウンを訪れたイギリス外相ロビン・クックは、1956年のスエズ紛争以来初めてのアフリカにおける部隊の本格的展開に立ち会った。スエズと違って、作戦は成功しているようだ。今のところ。

首都を守るために800人のイギリス部隊が派遣されたが、政府は逃げる準備をしていた。装備も悪く、広がりすぎた国連軍は、すでに500人も反乱軍の捕虜になって、精神的に崩壊しかかっている。国連軍は異なった諸国から構成され、互いの連絡が悪い。ナイジェリアはフリータウンの救出に700名の犠牲を払い、軍事的にも、政治的にも、国連軍を指揮したがっている。ナイジェリア軍がインド軍に対して間違った情報を流している、という疑いもある。

イギリス軍は、小規模の緊急展開部隊として関わっている。指揮官は、アメリカがソマリアで犯した失敗から多くを学んでいる、と言う。しかし、初期の10日間ですばらしい戦果を挙げたが、その後はシエラ・レオネを安定化する長期計画がある。イギリスは、新しいシエラ・レオネ軍を訓練する計画を発表した。厳選された現地の1000人の兵士を、90人の、大部分はイギリスの、専門家が訓練する。そしてイギリスの警視総監も、マンチェスターからシエラ・レオネ警視総監として派遣された。

見る者によっては、これはシエラ・レオネの再植民地化であろう。カラブ首相は反対しないだろうが、彼は国際社会の支援だけが頼りの政治家である。イギリスは今までにも多くのシエラ・レオネ兵士を訓練してきたが、まともな政府も国家も無いまま、クーデタに走り、反乱軍となったのではないか。そして山賊行為を繰り返すばかりであった。

国家の再建と、信頼できる政府を見出すことが、本当に重要な、長期の課題なのである。

Western Europe’s job-seekers limber up

EUの政治指導者たちが3月にリスボンで集まり、成長と雇用創出、完全雇用を目指した新しいEU経済(「すばらしい新世界」)を約束したとき、その傲慢な楽観論はほとんど痛ましいものであった。ところが2ヶ月以上たって、今や、こうした主張が夢ではなくなりつつあるようだ。

OECDによれば、Euro圏は今年3.5%で成長するだろう。そして、何よりも驚くべきことは、失業率が急速に低下していることだ。スペインの雇用増加は特に目覚しい。他方、ああ居るランドやフィンランド、オランダでは、労働力不足が深刻で、移民労働力の雇用を模索し、インフレの心配をしている。

一見、これは景気循環の問題である。ヨーロッパはドイツ再統一後、フランス・フランとドイツ・マルクとを拘束した後の、長い低迷を脱しつつあるのだ。しかし、良く見れば、より深い変化が起きている。新しく創出されている雇用は、パート・タイムや一時的雇用が多い。こうした「弾力的」雇用が、インターネットと関わって、2007年までに全雇用の5分の2を占めるだろう、と予想されている。

フランスの左派系リベラシオン紙のように、これを労働市場の不確実な実態とみなす意見もある。今、形成されつつあるのは、二つに階層化した労働市場なのである。一方では、多くの役得、特権、保護にまみれた既存の職場があり、他方には、ターと・タイムや一時雇用からなる、余り保護されていない職場がある。モルガン・スタンレーのエリック・チェイニーは「ヨーロッパは、硬直性を取り除くのではなく、硬直した市場を減らすことで対応している」と述べる。

アメリカが「ハード・ランディング」せず、ヨーロッパも弾力的な新雇用の拡大を続けて、不況を経験しなければ、ユーロ圏の失業率は2005年までに5.5%へ下落すると予想されている。OECDはより慎重に7.9%まで下落する、というが、それでも欧米の格差が縮小する画期的な予測である。

Football hooligans; Fight club

イギリス・チームが加わるフットボール選手権が近付けば、われわれには期待と不安が交錯する。そして、イギリスが上位に進出するという期待は外れるが、海を渡った応援団が暴徒と化すという恐怖は実現する。

610日にベルギーとオランダで開催されるヨーロッパ選手権を前に、フーリガニズムへの懸念は特に強い。先月、コペンハーゲンで行われた、イギリスとトルコの試合は、町中を悪夢と化し、4人を殺傷した。イギリスのファンは、30年間も外国チームを攻撃し、各地の町を恐怖に陥れた。しかし政府はこの定期的な国民的恥辱を解決する何の方策を見出せていない。ファンを分離することや凶漢を国際試合に近づけないことは、基本的な市民権に関わってできない、という。

国家犯罪調査局は、問題に関わりそうなファンの情報をベルギーとオランダの当局に渡して、彼らを水際で阻止しようとしている。また騒ぎを引き起こした者を国外追放するだけでなく、刑事訴追している。内務省のストロー長官が外国政府や警察に自国の犯罪者の取締りを依存しているのは愚かなことであるが、フーリガンを取り締まる法律は不十分である。

法規だけでは解決できない問題もある。渡航を阻止できるのは一部であり、ドイツは厳しく取り締まれたが、イギリスとは事情が違う。フーリガンは政治家が思っている以上に多いのだ。それは三つに分類できる。直接殺人や煽動を行う集団Cは限られているが、それに群がる多くのフーリガンBは右翼団体や生活困窮者ではない。彼らは試合に行けないときは、イギリスでも外国でも、各地のパブの外で互いに乱闘し、街頭の破壊行為に走る。

泥酔したイギリスの若者がもたらす損害ははなはだしい。1985年、ブラッセルの競技場で、リヴァプールのファンは群集に向けて暴走し、39人のイタリア人サポーターを殺害した。そしてイギリスのクラブは、5年間、ヨーロッパ選手権から追放されたのである。

復帰したイギリス・チームが617日に、ベルギーの小さな町で予定されているイギリス・ドイツ戦が、もっとも心配されている。会場の変更は受け入れられなかった。地元警察は、チケットも持たない数千人のファンと対峙する準備をしている。幸運を祈りたい。

Regulating the Internet; The consensus machine

「ネットは捜査を破壊と見なし、これを回避する」と、有名なオンライン活動家は主張した。インターネットは無政府主義的であるからこそ繁栄できるのだ、というのは深く浸透した神話である。しかし、神話は神話でしかない。実際には、サイバー・スペースは高度に組織され、規制すらされているし、それは単なる技術の共通化問題ではない。

インターネットが特別なのは、それが規制・制御されていないということではなく、その規制が上からではなく下から形成されることである。「インターネットの真の強さは、制度の政策形成を自由の意識に訴える魅力にある」とThe World Wide Web Consortium (W3C) の政策研究者は指摘する。技術問題を扱う The Internet Engineering Task Force (IETF)や、ドメイン・ネイムを管理するthe Internet Corporation for Assigned Names and Numbers (ICANN)は、こうしたインターネットにおける政策形成を示している。

その共通点は、自己生成した組織、自己制御する組織であることだろう。それらはメンバーも議論も開かれており、すべての声を聞くことを掲げている。そして合意形成によってことを運び、ネットの大口(卸売業者=プロバイダー)の商業化にもかかわらず、驚くほど円滑に運営されてきた。しかし、インターネットの膨張と国際化は、今や、完全にボトム・アップ式の規制に依拠するだけでは問題を引き起こし始めている。

1960年代に大学院生たちが始めに考えたような、誰でも、なんでも発言でき、何ひとつ政府に任せない、という原則は、インターネットが今のように拡大するどころか、今にも上位の技術者に奪われると思っていた頃、定められた。注意深く、慎重に検討する、という文化は、その後の組織にも継承されている。「われわれは王を、大統領を、投票を、拒否する。われわれが信じるのは、大まかな合意と操作のための慣例である。」

このことは、すべての参加者が平等であることを意味しない。何人かの、選出されたわけではないが、広く尊敬されている者(年長者elders)が、特に重要な役割を担う。しかし、同時に誰もが基準規格を提案できる。提案を受けて作業班が意見をまとめ、公開の議論に掛け、最終的な承認を求める。作業班の決定は公式の投票ではなく、”Humming”のような大雑把な合意である。意見を無視されたと思うグループはそれを訴えることができる。

なぜオンライン社会は、同様のオフライン社会に比べて、うまく機能するのか? 簡単な答えは、彼らが同質の心を持った個人であることだろう。彼らには、共通の文化と共通の利益がある。しかも、技術の共通性を維持する決定には単純な解答が出し易い。インターネットは、より直接の開かれたコミュニケーションによるから、間違った情報が広まっても、即座に駆逐される。誰もが情報を共有し、意見を述べ合うから、意図的な操作が難しい。そして、人々はいつでもそこを立ち去ることができる(彼らが望まぬことは何も強制できない)。

しかし、懐疑的な論者は、現実世界からの攻撃に対して、この世界が生き延びることはないという。技術的な協力の問題が、商業利益に支配されるようになればどうなるか? 満百万ドルもの商売に関わる政策決定を、大まかな合意で済ませれるか? 既に問題は現れている。例えば、通信盗聴法の問題である。テレコム設備会社は彼らのソフト製品が盗まれないように監視することを望むが、これは「ビッグ・ブラザー」を思わせる法律だ。また、インターネットの利用拡大が、社会・経済問題を検討する作業部会をIETFに設置させた。

WWWの商業的利用に対応するためにIETFから独立したW3Cは、合意原則を尊重しつつも、さらに上からの決定を、恩恵的な独裁者であるバーナーズ・リーが行っている。しかし、決定が技術問題を超えていることから、公共政策の決定にも関わって、批判する者が現れた。たとえば、サイトのコンテンツ審査機関である。W3Cは、サイト自身が申告し、インターネット自体も審査能力を供給できるから、独立の審査機関は不要である、という。しかし、自由な討論を重視する者は、インターネット自体が権力者の検閲道具になる、と心配する。

ICANNは、技術者のクラブ以上の組織である。それは、今や、非常に政治的・経済的な組織となった。世界のたった13台のコンピューター(ルート・サーバー)が、インターネット世界の宛先を管理している。さらに、社名や商標に関わって、その経済的な価値は莫大である。そのため「サイバー・スクワッター」が、こうした社名や商標を売却目的で占拠している。また、ICANNは地理的・言語的な不満を解消しなければならない。合意形成の原則以上に、組織内部の対立が生じている。

ICANNは、インターネット世界と現実世界の合成生物である。その統治機関は、まだ試されていない。それは政府の参加しない、しかし国際的な企業の参加による組織である。高した異質な集団による合意形成は不可能だ、という批判もある。また、オフライン世界での説明責任を果たしていない。しかし、それにしては、良くやっている方である。

注目すべきは、ICANNが民主的な意志決定に関する批判に示した、政治の完全に開かれた可能性である。5人の取締役を選ぶのに、推薦委員会による候補と、最低限の推薦を受けた立候補者を、直接選挙で選んだ。それでも、特別な利益に影響される問題がある。16歳以上のe-mailもしくは物理的住所がある者全員に投票を認めたことで、ドイツのように投票のための登録を強めた例がある。

重要なのは、電子投票ではなく、むしろ市民の討論と情報提供を容易にすることであろう。また、インターネットの管理組織は、完全な透明性について重要な教訓を示した。彼らは、すべてを記録し、すべてをネット上で公開している。すべての決定が何故なされたか調べることができる。

政治がインターネットで解決できると言うのは馬鹿げている。しかしインターネットは、支配者と被支配者との距離を縮めただろう。