IPEの果樹園 2000

今週の要約記事・コメント

5/2-7

The Economist Millennium Special

The end of urban man? Care to bet?

アリストテレスは紀元前330年頃に「人は本質的に都市に住む動物である」と書いた。だが、彼は「ドブネズミだ」と書いても良かっただろう。しかし、彼は小さな都市国家しか知らなかった。

今ではドブネズミにたとえるほうが良い。15万の人口をもつアテネは当時の怪物であったが、現在、アテネの人口は300万である。メキシコ・シティには1800万人が暮らしている。そのうえ、現在も都市は膨張しつつある。住宅は狭く、空気は汚れ、自動車の洪水に埋まっている。下水やゴミ処理、インナー・シティ問題も深刻だ。都市は滅ぶしかない。

しかし、マンフォードがそう予言してから60年も経つが、都市は滅ぶどころか、ますます膨張している。都市の市民ではなく、ドブネズミとなって、住民は都市を破壊する反乱など起こしそうにない。

都市はなぜ成長するのか? それは人間にとって有益であるからだ。人間は集団で暮らすことで安全、平易、そして歓楽を手に入れる。都市は市場をもたらし、市場はある程度の人口集中を意味した。繁栄する都市は、経済的な必要を充たしていた。都市は資産を得、職を得る場所であった。地理的な条件に加えて、都市自体が差異を創り出した。

ブリュージュは取引所を設けた。そこには巨大な衣服市場があった。アントワープは貿易を行った。そこは単に、より安い洋服を供給するイギリスに近いと言うだけでなく、安い洋服の販売を阻止しようとしたブリュ−ジュに対抗して、半製品を輸入し、完成品を輸出した。

イギリスの織物産業も同様であった。羊毛はコッツウォルズやイースト・アングリアから来たが、ヨークシャーに織工たちは都市を築いた。そこには、旧産業地帯にはない、新しい企業が育ったからである。マンチェスターは世界の綿織物の中心地となった。

アントワープやリューベックに比べて、フローレンスは才覚で都市を築いた。そこは港ではなかったが、大きな市場ができた。それは銀行業を発明したからであった。銀行業を指導できたのは、ロンドンの劇場やデトロイトの自動車産業と同様に、そこに互いに学び、競争する、コミュニティーがあったからである。

ヴェニスは貿易によって栄え、ローマは教皇を擁して信仰と巡礼を集め、パリは歓楽を売った。全ての都市でSexが売買されたし、今も売買されている。アムステルダムは公認の整備された売春地区を250年間維持してきた。

Sex産業が都市に固有のものであるのは、都市が寛容さと匿名性を提供するからである。寛容さは限界もあったが、都市のユダヤ人地区はより安全で、住みやすかった。都市は教育も提供した。都市と対立することも多かったが、大学は都市に設立された。また政治も都市の産物であった。市議会はめったに民主的でなく、支配エリートが権力を独占した。そのために都市は暴動と流血によって政治を変化させた。

都市化の代価はもちろん甚大である。中世都市は決して無秩序ではなかった。それは肥大化せず、緩やかに成長した。計画を行った都市もある。都市の爆発は18世紀になってからである。1700年から1800年にベルリンは4倍(17万人)、1800年から1870年にパリは3.5倍(200万人)、1870-1930年にシカゴは12倍(350万人)になった。計画化によって膨張を抑制し、居住地区の住宅規制も行われた。しかし、人口増加と市場圧力は、こうした善意をしばしば破綻させた。「庭園都市 “garden city”」の夢は繰り返し試みられたが、成功しなかった。

汚染や交通渋滞、郊外のショッピングによっても都市は消滅しなかったが、遠隔地就業やインターネットは都市を終わらせるだろうか? そんな未来学者の夢想は、鳥にでも聞かせておけば良いだろう。

The Economist April 22nd 2000

At risk in Africa

アフリカは暴力に支配される暗黒大陸になったのか? ルワンダ、エチオピア、エリトリア、アンゴラ、シエラ・レオーネ、ナイジェリア、コンゴ、そしてジンバブエ。次々と民衆の大量殺人、人種対立、激しい内戦が起きている。

ジンバブエは、アフリカでは数少ない、希望に満ちた国であった。イギリスの元植民地・南ローデシアは、独立してから20年間、平穏な、調和した社会が、十分に繁栄していた。しかし、1960年代半ば、イアン・スミスの一方的な独立宣言で、多数による黒人政権が拒否され、少数派の白人による人種隔離策が14年間続くうちに、黒人は武器を取ってゲリラ組織に加わった。

ムガベは1980年にジンバブエの独立を実現したが、南アフリカでマンデラが示したような人種和解への取組みは示さなかった。しかし、白人への復讐を行うことも無かった。白人はこの国に留まり、経済に貢献していたし、政治的安定があれば、インフラや観光資源があるから外国からの投資や援助も期待できた。

白人の農場を黒人が暴力的に占拠し、白人に死者が出たことが主要な問題ではない。ムガベが大統領としてこの占拠活動を支持し、暴力行為を非難するどころか加勢したことが問題なのである。高等裁判所が占拠は違法と判断し、副大統領も中止を求めたが、大統領は法廷よりも暴徒を支持した。

既に政治は腐敗し、インフレや失業、慢性的な燃料不足、コンゴとの無意味な戦争などで、経済も疲弊している。今年の2月に憲法改正が失敗した後、ムガベは土地改革を自分への投票に有利と見ているのだ。

イギリスのロビン・クック外相が会談しても、ムガベは旧植民地への介入であると反発するだけであろう。むしろアフリカの近隣諸国がムガベを止めるように発言すべきだ。しかし彼らも、批判することで自国内の支持を失いたくない。

マンデラの後継者である、南アフリカのムベキだけが、黒人政権は人種和解を行えず、必ず政治腐敗に陥っているという、白人の人種差別主義者に反論できる。彼が沈黙するとき、アフリカの最後の希望が潰えるのだ。

Goldilocks gets a mauling

(せいたかきりんそうが散々にやられた。ハイテク株の暴落?)

アメリカの「ニュー・エコノミー」はインフレなき成長を約束するが、今やアメリカのインフレ率は豊かな諸国で最高である。賢明な中央銀行はインフレを予見して金融を引き締めるから、緩和を続けたアメリカ連銀も引締めに転じた。

原油価格の高騰など、特殊要因で説明する者もいるが、エネルギーや食糧を除いたインフレ率が上昇しつつある。小売業の売上げ、信用の膨張、貿易収支や経常収支の赤字、などはアメリカの景気過熱を示している。

連銀は金利を引き上げつつあるが、それは昨年秋にロシア債務危機で金融緩和した前の水準と比べると、半ポイント高いだけである。インフレが高まっているから、実質金利はむしろ少し低いだろう。株価も19988月より30%高く、4%の成長を続けながら金融は(当時より)緩和されているのだ。

株価の下落は歓迎されるだろうが、これで金利引上げを中止すれば、株価は再び上昇するだろう。Fedは市場に親和的でありすぎた、と批判されている。生産性上昇は、需要の大幅な増加を吸収できない。経済はすでにスピード・オーバーであり、Fedはもはや軟着陸を行えず、ハード・ランディング(減速ではなく、マイナス)の危険を増やしている。

Fedはインフレを抑制できなかっただけでなく、投資家の株価上昇期待も冷ませなかった。投資家のモラル・ハザードを防ぐために、Fedは金利引上げを躊躇せず、1/4%ではなく1/2%上げるべきだ。

株価上昇、資本流入、ドル高、そしてインフレ抑制、低金利、さらなる株価上昇、という、アメリカの享受してきた好循環は、株価下落、資本流出、インフレ加速、さらなる金融引締め、という悪循環に変わるかもしれない。もしそうなれば、Fedは金融緩和で株価下落の衝撃を緩和できないだろう。童話の最後で、Goldilocks(きりんそうの一種;or金髪の娘)Economyは、熊(Bears;弱気市場)によって追い払われる。

China; Too much thrift

中国の若者は誰も、昔のような国家による最小限の豊かさに戻りたいなどと思わないだろうが、住宅や教育、医療の費用が将来上昇することを心配している。失業を心配する者も多い。そこで、お金は支出されるよりも貯蓄されてしまう。

2000年に7%成長を予測するのは素晴らしいが、いいかげんな商品の在庫増加であろう。むしろ生産しなかった方が、中国は豊かであっただろう。ストックの増加はシステムの浪費を示し、金融的なコストが国営銀行に蓄積されて返済されなかった。成長の減速は、こうした銀行が貸付を増やさなくなったからである。政府は融資を増やすように圧力をかけ、財政支出を増やしてきた。

今年の第一四半期における政府の大盤振る舞いで、工業生産は10.7%増加した。それはレイ・オフによる社会不満を抑えただろうが、国営企業を通じた支出増加は経済の非効率性を悪化させた。直接投資流入額や輸出額も伸びたが、中国は基本的に国内需要で動く経済である。

国営企業の改革は進みそうに無い。しかし、銀行や国営部門の金融状態は改善した。政府による「債権整理会社」(AMCS)が銀行の不良資産を買い取ったからである。AMCSの買い取った債権の一部は株式に転換されている。銀行は新しい融資が行えるし、企業の利潤も増加した。もちろん政府はいつかAMCSの損失を税収から補填することになるだろう。しかし、今、重要なことは企業部門の債務を減らすことである。政府の無駄な支出は、むしろ(減税などで)直接に消費者によって支出させ、効率的な企業の売上を増やして、企業の再編を促すことが望ましい。

消費と投資が増えない限り、成長は輸出増加に頼るしかないが、これは中国政府の管理できない問題である。アメリカやヨーロッパの需要増加(景気拡大)に期待するしかない。

Colombia; Recovery, of sorts

1998年の政権樹立以来、Andres Pastrana大統領はゲリラとの内戦終結に努めて来た。しかし、経済は1930年代以来の不況にあり、GDPは5%減少し、失業率も20%に達した。漸くかすかな回復が見られるものの、心配も多い。

昨年の通貨切下げにより、製造業の輸出が増加した。しかし、安全が保証できないようでは投資は行われない。金融システムは不況によって信用バブルが破裂し、システムの破綻は防いだが、銀行融資は再開できていない。財政赤字も増加している。ゲリラとの内戦と、新しい憲法による地方政府への財源移転は、IMFとの合意を守れなくするだろう。

赤字削減とともに、IMFは民営化を求めたが、その計画は大幅に縮小された。電気産業の民営化は、ゲリラ、労働組合、経営者によって反対された。とはいえ、民営化や労働市場弾力化への反対は、この不況で弱められた。他方、それが景気を回復させて、貧しい人々の生活を改善するには時間がかかるだろう。政府は、財政支出削減で一層の失業をもたらす以上、外部からの支援を必要としている。IMFだけでなく、アメリカの経済援助が重要である。

Saudi Arabia on the dole

無尽蔵な石油資源に依存できたサウジ・アラビアの経済も、王族の浪費に従うだけでは破綻することがはっきりしてきた。公的債務は国民所得の120%に達している。全国民に十分な雇用を与えるには、経済が年6%で成長しなければならないが、それは昨年1%、今年も2%であろう。

経済全体の改革が必要である。外国人の流入を抑制し、電気やガソリンへの補助金を削った。外国からの投資を促し、国営電話会社も売却される。旅行局は国民が国内で休日を過ごす一方、外国人観光客が増加することを目指している。WTOに加盟するために、法規制を整備している。

しかし、会議に集まるだけで2カ月懸かるのだから、改革のスピードは遅い。昨年の原油価格上昇も、その利益の半分以上、40億ドルが予算外の支出(王族の浪費?)で消えた。他方、庶民は今まで外国人に任せていた職に就くようになった。生活や教育の質の悪化、犯罪増加などに、経済の逼迫が示されている。

しかし、イスラム主義者による王族への反乱は起きそうにない。アラブ王族がイスラム教の正統派を主張するのは、中国指導者の共産主義信奉と同じくらい無意味であるが、この国の中流階級は宗教の名目でこれ以上に私生活を拘束されたいとは思っていないからだ。失業が増えれば、500万人以上の外国人労働者を国外退去させれる。改革派と王族の抵抗は続くだろう。

Re-inventing the wheel

イタリアの産業グループ、ピレリPirelliは、新しい弾力的なタイヤ生産システムを完成した、と宣伝している。鉄鋼がミニ・ミルで、板ガラスがフロート・グラス加工で、すっかり変化したように、慢性的な過剰生産と赤字に悩むタイヤ産業も変わるかもしれない。新しい製法は、良いタイヤを作るだけでなく、年間700億ドルの売上があるこの産業を激変させる。

今までの誇張された割に秘密にされ、成果のなかった、他社の製法に比べて、ピレリの “modular integrated robotised system” MIRSはビッグ・スリーや新聞社にも進んで公開され、数ヶ月も操業しつづけている。MIRSは、全体として機械化が進み、労働生産性を80%も向上できる。それは小さな基本単位からなり、旧来の大規模な生産システムと異なる。それゆえMIRSは、必要なら自動車工場の側のどんな場所にも設置できる。増設もスピード調整も容易だ。

アルミ製のドラムに加熱したゴムを直接に固定させ、続いて鋼鉄のワイヤの層を固定する。最後にドラムは取り除かれ、タイヤが残る。プログラムを変えれば、自動車や自転車、大型車など、どんなタイヤでも作れる。冷却期間の必要無いMIRSは製品の質を改善し、また生産期間も6日間から72分に短縮する。

タイヤ生産は消費者の需要に細かく対応できるから、最終市場を直接に支配できるだろう。販売店も在庫の負担から解放され、いつでも注文を受けた異なるタイヤが供給される。自動車とタイヤを含めた新しいデザインが可能になる。タイヤは、つまらない荷物から、高度なデザインの一部になる。またタイヤにさまざまな知能センサーを内蔵させて、タイヤの状態を監視できる。

MIRSは旧来のタイヤ産業から大量の失業を生じるだろう。それは主要タイヤ会社の革新を抑制してきた。しかし、MIRSが登場した以上、一層の革新に励むしか選択肢はないだろう。

Sugar solution

農産物市場が保護される仕方を知りたければ、アメリカの砂糖産業を見るのが良い。アメリカの砂糖農場は大金を政治に投じて、補助金と国内市場保護を得てきた。その結果、アメリカ人は国際市場の3倍の価格で砂糖を買わされている。

砂糖ロビーはさらに用心深い。彼らはミシガン州のハートランド社に眼をつけた。年間売上が4000万ドルしかないこの小さな会社は、カナダから糖蜜を輸入している。この会社は1995年に、関税局が糖蜜を砂糖関税の対象にしないと認めてから、設立された。しかし、砂糖ロビーと有力政治家の圧力で、関税局は突如見解を逆転させた。7000%の関税が課されると分かり、会社社長Gregory Kozak は国際貿易法廷CIT (the Court of International Trade)に訴えた。法廷は会社を支持し、政府の行動を「恣意的で、気まぐれ、行政権の濫用」と非難した。

砂糖ロビーは、Kozakが糖蜜を輸入すると称して、カナダでシロップを国際価格で購入し、それを加工して関税逃れのために輸入し、再びアメリカ国内では甘味料として販売している、と論じた。ルイジアナの有力上院議員は、これは密貿易だ、と述べた。

そうかもしれないが、それは全くの合法行為である。商品はその最終目的によって分類されるのではない。輸入業者は、より安い関税率を利用するために、製品をデザインできる。関税局の態度逆転は他の輸入業者に影響するし、カナダ政府も抗議している。関税の引上げを禁じたWTOの規則にも違反する、とささやかれている。砂糖ロビーは上級審で敗訴したくないから、条文を変更して、シロップとしての最終使用も含めるように工作している。これで判決を無視でき、ハートランド社を潰せる。

After the gold rush

dot.comを起こしたり、Internet株投資で儲けたと言って、羨ましがられることはもはやない。Nasdaq指数は414日の「暗黒の金曜日」に3321まで下落し、310日の最高値から34%も下がった。インフレのデータが予想以上に高く、金利上昇を恐れて市場が反応した。問題は、これが全株価の下落の始まりなのかどうか、である。

Goldman Saachs Abbey J. Cohenのように、現在も強気の投資家は変わっていない。投資信託も、企業業績は良好だ、と「底値買い」を狙っている。

それでも市場は弱気局面、しかも深刻な下落、に転じたと見るものが多い。192910月の暴落後でさえ、市場は1930年にそれをほとんど回復していた。指数は(既に)2年に及ぶ弱気市場を示している。1998年4月以来、NYSEでもNasdaqでも、株価の上昇より下落の方が多い。

新規公開株(IPOS)が凍結された。もしこれが長引けば、IPOSや将来の利益で融資を得ている多くの新企業が倒産する。社債市場による資金調達も出来なければ、企業の吸収合併が続くだろう。優良企業も株価下落を被っている。ヴェンチャー企業は再び株式を市場から引き揚げるべきかもしれない。dot.com企業のストック・オプションを得ていた社員は、株価の下落で損失を出したという処理をするために企業を変わるかもしれない。

それでもヴェンチャー資本家たちは威勢が良い。彼らはまだ、使い方が分からないほども資本を得ている。229日の市場公開以来、60億ドルから10億ドルに減ったとはいえ、Onvia社の1年前の価値は2000万ドルしかなかったのだ。それは他方で、弱気の投資家が市場に戻ってくるまでに、どれほど株価は下落する必要があるかを示している。

IMF/World Bank; Business as usual?

IMF・世銀の春の総会は「平常通り行われた」と英・大蔵大臣ゴードン・ブラウンが述べた。彼は国際通貨金融委員会(IMFC)の議長を務めた。それは、いつも通り、つまり、ほとんど分からないほどの前進であった、と付け加えるべきだったが。

そこには、国際金融アーキテクチュアに関する周知の議題が並んでいた。民間部門のコスト分担、国際基準、透明性。そしてアメリカ財務省が求める、IMF融資を長期に利用させない、という視点から、旧来の融資枠が廃止されたり、(条件が)見直された。

IMFも世銀も、貧しい国の改善に重要な役割を担うと表明した。最貧国への債務免除が140億ドル認められた。AIDS対策が世銀の最重要目標に挙げられた。そして貿易問題も重要であったが、豊かな国の自由化(貧しい国からの農産物や繊維製品輸入拡大)は遅く、この点では街頭に集まった多くの批判行動も頷けた。

Japanese finance; Sleeping with the enemy

日本の郵便貯金は、金融ビッグ・バンで廃止されるどころか、ますます肥大化し、さらに取り扱える範囲も拡大しつつある。それは郵貯が1990-91年に当時6.3%の固定金利で預金された10年定期預金が満期になるからである。今や0.2%しかないこの定期預金を延長するはずがない。その額は106兆円(一兆ドル)に達する。

郵貯は、庶民の小額貯蓄に「単純でリスクの無い貯蓄手段を提供する」ために法律で認められた。ところが、その上限は3倍以上に増額され、一口座当り1000万円になった。郵貯は法人税を課せられず、預金保険も支払わない。預金は全て大蔵省に渡って、市場を超える金利が保証されている。こうした隠れた補助金は年間一兆円以上であろう。

郵貯は、低金利で流出するこの資金を70%まで残そうと目指している。銀行協会はIMFの助言に従って、まず初めに、郵貯販売のための予算を削ろうとした。しかし、郵貯は一層の宣伝と手数料支払いのために予算600億円を獲得し、50%増額を果たした。

9000人の販売員だけでなく、275000人の雇用者、24000の郵便局が、郵貯の真の強さである。郵便局員は地域社会に深く根を張っている。忙しくて郵便局に来れない顧客には、通帳を預かって無料で代理事務を引き受ける。こうした関係を利用して、郵貯は年金事業や信託の販売を扱いたがっている。

また郵貯は全国の自動支払機ATMを民間銀行のATMと接続して、振替・決済業務を民間から奪おうとしている。この分野ではコンビニエンス・ストアとの競争も始まり、民間銀行はかつての業界内の団結を維持できず、個別に郵貯とのATM接続を認めつつある。拡大する郵貯は、ビッグ・バンで民間銀行では十分なサービスを提供できない地域が出る、と自己弁護している。しかし、実際は、民間銀行業界の反対が弱まったからに過ぎない。

選挙が近いので、自民党は郵貯の資金で株価を引き上げたいし、郵便局のネットワークは特に地方選挙区で政治的に大きな力である。郵貯を制約するものは自分たちの礼節以外にない(つまり、何もない)。

Soft or hard?

株価が下落しても不況は避けられる、というアメリカ政府の主張は正しいか?

なぜなら、アメリカ経済のFundamentalsは良好であるから。すなわち、財政黒字、生産性上昇、低インフレ。

しかし、アメリカの家計や企業は借入れを急速に増加させている。しかも、それは投資に向かわず、株価を引き上げるための自社株購入に使われた。株価上昇は、家計の借入れと支出を増やした。GDPと比べた借入れ額の比率は、歴史的な高水準である。

これまでは債務よりも株価が急速に上昇してきたが、もし株価が下落すれば民間部門は支出を減らすことになる。特に株式購入のための借入れが過去3年で3倍になった。株価が下落すれば返済のための株売却が増加し、さらに株価を下落させるだろう。

次に、アメリカの経常収支赤字がGDPの4%に達していることだ。アメリカは既に世界最大の債務国であり、1.5兆ドル、GDP20%近い対外純債務がある。外国投資家がアメリカのドル建資産の購入を控えれば、ドルが下落し、インフレを加速させるだろう。それは金利上昇の圧力を強める。[そのようなときにFedが金融緩和を目指しても、インフレとドル価値の下落が悪循環を招く。]

株価の上昇が実物経済に及ぼす影響は、資産効果が中心であった。Greenspanはそれを過去4年間で、成長率を平均1%引き上げただろう、と述べた。しかし、株価が急激に30-40%も下落すれば、何が起きるだろうか?

現在の消費・投資水準が将来のばら色の株価上昇を期待して行われているなら、その落ち込みは大きくなる。債務による脆弱性を示す民間部門の貯蓄と投資のギャップは、GDPの4%に達している。

楽観論者は、198734%の株価下落が不況を招かなかったことを指摘する。しかし現在は、金融引締めが必要な時期であり、家計の株式保有が増加しており、民間部門が金融取引の赤字を出している点で、1987年の経験と異なっている。

大きな不況は、1930年代前半のアメリカの大恐慌も、1990年代の日本の長期停滞も、政策の失敗によって起きた、と主張される。確かに政府は減税や財政支出増加を実施できるだろう。しかし、1990年にバブルがはじけたとき、日本は今のアメリカよりも大きな黒字があった。

アメリカの不況が避けられると安心してはいけない。