IPEの果樹園 2000
今週の要約記事・コメント
5/16-21
The Economist May 6th 2000
Can Japan find its voice?
日本がアジアの大国であることは疑いない。しかし、それは大きな体でNoiseをたてるばかりで、本当に必要なVoiceが無かった。
日本は最近まで自分を小さく見せようとしてきた。それは1930年代・40年代の軍事的征服の再現を周辺諸国に危惧させないためであったし、アメリカが軍事的な防衛を負担してくれているからアジアで発言する必要を感じなかったためでもあろう。しかし今や、日本はアジアの平和と繁栄についてより大きな信用を得るために動き出した。
日本の大望はアジアを越えて、国際機関でもその存在を示そうとしている。国連安全保障理事会で常任理事国の地位を求め、平和維持活動や紛争地域の再建を支援している。IMFや世銀の改革にも独自の案を示した。7月の沖縄サミットで公表される。こうして国際舞台で重視されつつあるが、他方、アジアでは難しい。
アジア諸国は中国の軍事的膨張を心配し始めており、日本への支持も見られる。ところが、つい最近までは、1997年に起きたアジア金融危機で中国が通貨切下げを行わず、危機を鎮静化するのに貢献した、と評価されていた。他方、日本は自国の金融危機で経済が麻痺し、不況を続けた。その後、中国の深刻な潜在的金融危機が心配される一方で、日本はアジア諸国への支援策や民間投資を回復してきた。
冷戦終結にもかかわらず、南北朝鮮の壁は崩れていない。アメリカ・中国・日本などのこの地域をめぐる対立は激しい。他のどの地域よりも、アジアではミサイルや核・化学・生物兵器の増強が急速に進んでいる。増強される中国との軍事的バランスを、アメリカは日本にも分担するよう求めている。日本国内でも、こうしたアメリカを支援する軍事行動に関する議論がタブーでなくなった。
日本の積極的な関与は内外で論争となっている。北朝鮮のミサイル実験と、台湾海峡の対立が、日本がこうした軍事衝突の可能性から免れていないことを国民に広く理解させた。それが、重要な軍事的意志決定にも日本が発言力を確保しようとする理由である。ワシントンは、日本が提供できるものによる、という対応だ。アジアは複雑であり、いずれか一国が代表できない。援助の金を出すだけでなく、日本がこの地域の安全保障についてより明確に発言し、密接に協力して平和維持に貢献することが重要である。
Yippee!
外交政策は言及されたことが無いのに、事実上、アメリカ大統領選挙の争点となっている。ゴアはブッシュを冷戦的思考に固まった孤立主義者だと批判し、ブッシュはクリントン政権の対ロシア政策を軽く攻撃した。中国のWTO加盟問題が議会で論争になっていることも関係あるだろうが、誰も外交政策が大統領選挙の主要な争点であるとは考えていない。
しかし、大統領は外交政策によっても判断されるべきである。外交政策は、数少ない大統領の専権事項である。国内経済政策は連邦準備銀行に任せている。連邦政府は、学校に支出される1ドル当り7セントしか負担しない。他方、防衛費は連邦政府の裁量権がある支出のうちの約半分を占める。グローバリゼーションでますますアメリカ政府も他国の政府と協力しなければ実行できないことが増えているのに、冷戦終結は軍事的同盟関係を協力の基礎とすることを難しくしている。
クリントンは外交政策で曖昧な成果しか挙げなかった。少しの明白な成功と明白な失敗、そして多くの未解決な問題である。改善すべきことが多くある。二人の候補が、ともに自分は国際主義者だと言うが、ゴアはグリーン貿易(環境保護)に加えて、組合の支持を得るために「公正貿易」を主張し、WTOシアトル大会を失敗させた。他方、ブッシュは共和党内の孤立主義者に配慮するだろうし、アメリカの国益を一方的に主張する恐れが強い。
両候補の外交政策に対する関心が、これからも持続することを望みたい。
Go for it
イギリス保守党のウィリアム・ヘイグは「いんちき政治難民どもがこの国に溢れている」として、彼らを締め出すよう求めた。ヨーロッパ諸国には移民にうんざりだ、という不満が広がっている。しかし他方で、長期的に見て、ヨーロッパの現在の労働力人口を維持するためだけでも、EU全体で毎年160万人が流入しなければならない、と言われている。
理想の世界では、人の移動を制約するものが無いから、国内と国際間の人口移動は同じであろう。しかし、たとえEU内部のように障害が無くなっても、むしろ移民は非常に少ない。問題は、すでに外国人差別・嫌悪に覆われたEU諸国が、政治的な障害を克服して、どうすればより自由な移民受け入れ体制を作れるか、である。
ヨーロッパは1970年代から始めての移民入国者を締め出した。現在では、すでに国内に居住する移民の家族が呼び寄せ資格で入国している。経済移民は他の道を探すしか無くなった。1980年代から、政治難民とさまざまな非合法移民が急増した。政治難民の多くが経済的な理由である。
しかし、避難民が各国の社会保証資格を買い漁っている、と言うのは間違いだ。移民たちの多くが行先を選ぶのは、そこに家族や知人が居るからであり、移民のネットワークがあるからである。ぼろ舟や長距離コンテナに隠れて入国する政治難民を、偽装された経済難民だと非難するより、経済難民の受入制度を整備すべきである。
経済難民を「ヨーロッパ要塞」のイメージで締め出すならば、それ自体が間違った考えである。他方、貧しい国から優れた技術者を奪うことのほうが、たとえ本国が送金を得ても、重大である。政治家は選択しなければならない。失業率が低下するときこそ、こうした改革のチャンスである。しかし残念だが、政治家たちは最も望ましくない非自由主義的な制度に向かいそうである。
Industrial folly
サッチャリズムThatcherismの強硬派であったノーマン・テビットは、ブレア政権が自由市場資本主義を擁護して、保守党の重要な思想を奪ったのではないか、と質問された。彼は、そう思わない、と答えた。ブレアの新労働党は、キリスト教に改宗した原始人が意味もわからずに賛美歌を歌っているのと同じである、と。
ロングブリッジのローバーが倒産して、多くの失業者が出るかもしれないとなると、イギリス政府は平常心を失い出した。そして貿易産業長官はBMWからフェニックス投資グループに経営権が移るように1万5200万ポンドを与えた。
このところ長官は、石炭産業への補助金、スーパー・ジャンボ機開発への補助金など、税金を使うのに忙しい。衰退産業ではなく、将来期待できる産業に投資しているのだ、と言うが、30年も問題を解決できず、国内市場も失い、BMWの合理化投資も失敗した企業に、どんな未来があるのか?
EUの競争規則にも違反する可能性がある。この規則は、皮肉なことに、ブレアが最も熱心に成立を求めたのだ。企業にもっと世界市場での競争を受け入れさせ、政府の役割は失業者の再雇用支援と再教育に限定する、と。
こうした抱負は政治的圧力の前に屈したようだ。ポンドの価値が増大し、政府への不満が強まっている。ローバーのあるミドランド西部は政治的に重要な地区である。労働党の提唱する「第三の道」は、政治がしばしば厳しい選択をともなうことを誤魔化している。彼らが衰退産業に税金をつぎ込むなら、自分たちを近代化推進派とは呼べない。
Europe’s Immigrants: A continent on the move
イギリス・リンカンシャーにあるGedney Dyke村の農場は、スーパーマーケットに仕入れるスプリング・オニオンの収穫や洗浄、梱包に忙しい。しかし、ここの労働者はイギリス人ではない。ラトビア、ウクライナ、リトアニア、ポーランド、チェコ、ベラルーシからの一万人に及ぶ季節労働者が、政府の農業支援計画により入国する。
政府は4月から11月までの滞在を認めている。それでも移民たちは夢見た以上の収入を得ることができる。農民たちも満足だ。東ヨーロッパの労働者は安くないが、信頼できるし、質も良い、と。地域の労働者はバーや商店で働き、農場には来ない。ますます多くの農場が東ヨーロッパからの労働者に依存し、政府の移民雇用計画や、暴力団による斡旋を頼る。
モロッコ人がスペイン南東部でトマトやコショウを摘み、ポーランド人はドイツで野菜を収穫し、インドのパンジャブから来たシーク教徒はベルギーで果物を、ロシア人がアイルランドの農場で働く。農場だけでなく、家の掃除や子供の世話、レンガ積みやピザの配達に、外国人が働いている。
EU経済の繁栄と労働者の高齢化が、ますます多くの外国人を雇用させている。現状のままではドイツは毎年48万7000人、フランスは10万9000人、EU全体では160万人の移民流入が必要になる。ヨーロッパの労働人口は減少しており、しかも市民たちは、清潔で、安定した、高賃金の職だけを望んでいる。
この問題を重視する政治家も現れた。ドイツ首相ゲルハルト・シュレーダーは、二万人のソフトウェア専門家がさらに必要である、としてインドや東欧から雇用することを考えている。
しかし、多くの国民はむしろ反移民感情の高まりに影響されている。移民たちは、福祉を横取りし、職を奪い、社会の安定性を破壊する、とみなされている。政治家もナショナリズムに便乗する。しかし、彼らは現実の移民を見ていない。
今日、EUへの合法的移民は大部分が女性である。それは、初期の移民が定住化し、移民規制の強化とともに家族の呼び寄せが増えたからである。ドイツでは1970年代初めに大量の移民を雇用し、1974年に打ちきった。イギリスは1950年代にバス運転手として西インド諸島からの移民を盛んに雇用したが、1971年に締め出した。
合法移民が制限されれば、移民たちの流入と利用は非合法化された。もし年間40万ないし50万の非合法移民があるとすれば、ヨーロッパはアメリカ以上に移民を受け入れていることになる。ただし、それは新しいタイプの「出稼ぎ・通勤型移民」である。彼らは数週間しか働かず、EUの外に家族を維持する。東ヨーロッパの労働者には、アフリカラアジアからの移民と異なり、こうした機会が存在する。
2003年に予定されているEUの加盟国拡大(新規5カ国)は、移民の完全な自由化を意味すると心配されている。特にドイツとオーストリアは、10年ないし20年の移行期間を設けて、労働者の自由移動を抑制することを求めている。しかし、過去のEU拡大は移民を特に増やさなかった。たとえ所得格差は大きくなっても、大規模な移民は生じないだろう。
それでも、移民排斥を求める政治家たちは納得しないだろう。シュレーダーの穏健なハイテク技術者輸入計画でさえ、「インド人より子供に投資しろKinder statt Inder!」という反発を受けた。
共産主義体制野崩壊とバルカンの戦争により、政治難民が1988年の20万人から1992年の67.6万人へと急増した。政治難民の多くが経済難民でもあることは明らかである。各国の政治難民に対する扱いは異なっており、難民申請はそれに応じて国際配分を変化させる。しかし、移民先を選ぶ最も重要な理由は知人がその国に居ることである。
偽装された政治難民の申請はヨーロッパの寛容さを失わせた。政治難民に本来の避難場所を与えるためにも、移民に関する新しい自由主義的な体制が必要である。しかし、ヨーロッパは移民大陸として自覚できていない。ポーランドの外務大臣が述べたように、移民を締め出すことで恐怖を煽るよりも、勇気と想像力による統合を目指すべきだ。
Japan’s new politics
古い政治支配者が引退し、誰が日本の支配政党を動かすのか?
首相たちを操ってきた竹下登が引退した。一ヶ月前までは再選を主張していたが、小渕首相の入院で引退を決めた。竹下は、自民党が商店街や農民、製造業者、建設業の利益を守って地盤とし、選挙区の勝手な変更などで議席を確保する一方、中選挙区制度で都市部には野党の議席を許すことで談合するという、「1955年体制」をまさに生きてきた。竹下は合意の政治を説き、静かに合意された妥協を実現させた。小渕が倒れた後も、竹下が森の継承を許すことで、森政権は実現した。
今や、竹下も小渕も政界を去って、自民党の権力者は世代交代できる実力者がいない。穏やか過ぎて党を掌握できない青木に、強硬派の野中が協力して、党をまとめるだろう。しかし、誰もかつての竹下のような力が無く、加藤宏一や森嘉郎、山崎拓のような分派が力を分散させている。選挙の結果によっては、自民党が流動化するだろう。
楽観論者は、加藤などが、山崎、小泉などと、国際派を集めて改革を指導すると期待する。加藤は、従来の公共投資や不良な銀行・建設業へ公的支援を続ける自民党を批判してきた。しかし、悲観論者は、公共投資や業界の特殊利益に結びついた政治家はあまりにも多く、亀井などが外国人嫌いで反動的な方針を強める、と心配する。ナショナリストの小沢などを自民党に復帰させるのがその手始めかもしれない。
自民党が反動的な方針を採用すれば、超ナショナリストの石原慎太郎も戻ってくるかのしれない。この教養ある、利口な、精力的政治家の、しかも外国人に対する醜い見解を持つ男の、ポピュリスト的な影響が、自民党の思考に及ぶことは危険である。
Sierra Leone: Out of control
安全保障理事会は、シエラ・レオネの平和維持活動に1万1100人の部隊を投入すると言明した。それは現時点で国連が行っている最大の平和維持活動であり、アフリカの国連活動を占う実験でもある。しかし、今週、7人の兵隊が殺され、少なくとも50人が捕虜となった。
8年間の内戦を経て、国はすっかり破壊された。反乱兵士たちは、学校、病院を含めて、国家のあらゆる施設を破壊した。各地の村で女も男も子供もさらい、反乱軍に参加させた。470万人の国民の3分の1が殺されたと推定されている。ケニヤ人からなる平和維持軍は、サンコーが率いる革命連合軍(RUF)とカバー政府との和平協定を監視し、市民を暴力から守り、政府の建物や武装解除施設を守るために展開している。協定に従えば、反乱軍兵士は武装解除施設で平和維持軍に武器を渡し、政府の4つの閣僚ポストを得て政府権力を分かち、この国の資源管理委員会にも席を占め、さらに以前の犯罪行為を免責される。
しかし、武装解除は進まず、東部のダイヤモンド鉱山を支配する軍隊は活動を続けている。略奪、住居への放火、誘拐、強姦、そして手足を切断することがRUFの好む虐待である。サンコーはそれらを奨励し、拡大している。アナン国連事務総長など相手にしていない。そして来年の選挙では、恐怖に陥った住民が自分を大統領に選ぶと考えているのだ。
The car industry: Ouch
イギリスの最大規模の自動車工場が、この数週間以内に閉鎖されそうだ。1万200人の職が失われ、下請けや周辺地域ではもっと失業が出るだろう。BMWがロングブリッジのローバーを放棄し、フォードはダゲンハムの工場をすでに大部分停止している。
イギリスの自動車会社はどこも苦しんでいる。1980年代にこの業界を救った日本の自動車会社も、トヨタやホンダは赤字で、特にユーロへの統合を決めなければ新規工場を大陸に移すだろう。日産もルノーが経営参加したので、イギリスで工場を維持するかどうか怪しい。
The mobile-phone auction: Brown’s bonanza
選挙民から見れば、大蔵大臣は宝くじに当ったようなものだ。第三世代移動電話の営業権が225億ポンド(350億ドル)で売れたのである。
ブラウンは、ローバーの救済やNHS(国民医療制度)の改善、さらにユーロの買上げとポンド高の緩和に、その金を使えと要求されている。しかし彼は、臨時の収入であるから国際の買戻しに使う、と主張する。実際、彼は使いたくても使えないのだ。
第一に、この収入は年間10億ポンドずつ、10年間であり、それは所得税の基本率を半ペニー減らせるだけである。第二に、大蔵大臣は予算の支出拡大で既に失敗し、景気が過熱し始めている。そこで支出せずに国債を買戻すと言うのだが、これも国際市場で供給不足が生じ、流動性を減らして利回りを低下させる。それは退職金を減らすだろう。
ユーロ建ドイツ政府債などでユーロを購入すれば、それが今本当に過少評価されているなら、ユーロの回復により政府は儲かる。しかもポンド高を緩和できる。しかし、イギリス政府が買ったからと言って、ユーロが回復するわけが無い。むしろ、政府が介入すると思われれば、ポンドは下落した。
明らかにユーロ高が望ましいではないか? しかし、ユーロ圏はユーロ安で景気を回復したのだ。またイギリスにとっても、ポンド高でインフレが抑えられている。ゴードン・ブラウンよ、その金には手を出すな。
Super-jumbo trade war ahead
アメリカの通商政策担当者たちは、今週のWTOにおいて、攻撃的であった。しかし、次にはエアバス・インダストリー社の二階建スーパー・ジャンボ、A3XXをめぐる貿易紛争が控えている。バナナでも牛肉でも、アメリカはWTOで勝ったが、EUはまだ改革を拒んでいる。そして逆に、アメリカの海外販売子会社がアメリカの多国籍企業に対する年間39億ドルの免税となっているとして、WTOに違法行為だと宣言させた。今週、アメリカ当局はこれに従うとEUに伝えた。
ボーイングの販売会社はその主要な犠牲者であった。1998年に1億5000万ドルを節税していた。しかし、ボーイングの復讐はすぐに実現できるだろう。バシェフスキー通商代表は、エアバス・インダストリー社への補助金を反対リストに加えたからだ。
ボーイングが大量輸送旅客機の市場を独占し、その利益を他の製品に利用している、とエアバス社は非難してきた。それが新しい旅客機の開発に繋がった。他方、ボーイング社は、この補助金に反対したが、EUは幼稚産業保護として弁解してきた。しかし、今や世界の市場を二分するエアバス社に、この説明は当てはまらない。
EU各国政府が行った、開発費120億ドル中の40億ドルに及ぶ補助金は、売上の一部として戻ってくる。しかし、将来の大量旅客機需要が、特にアジアからの需要がどうなるか、予想は難しい。ボーイングはA3XXが破壊的な過剰生産をもたらすと警告している。
この論争はどこに向かうのか? 前回の論争は、ヨーロッパ市場を失うことを恐れたボーイング社が政府の議論を沈静化させ、1992年の妥協に至った。両社が相手の市場から毎年50億ドルの部品などを調達し、相手の大陸で約10万人を雇用していることを思えば、こうした論争は馬鹿げている。92年の議論において、両社はスーパー・ジャンボの共同開発を検討していた。合意を妨げたのは、十分な市場が期待できなかったことである。しかし今やエアバスへの補助金を削るよりも、A3XX開発計画そのものにボーイング社が参加することになるかもしれない。そうなれば貿易紛争は解決する。しかし、この世界的独占が顧客にとっての利益とはならないだろう。
The taming of the shrewd (投機家の降参?)
ヘッジ・ファンドが世界の金融システムを破壊する、と言う脅威は誇張されたものであっただろう。ジョージ・ソロスなど、著名な投資家たちが次々と引退している。株価の評価はあまりにも高くなっている、としてバフェットも株式投資を引き揚げさせた。株式市場はとんでもなく狂っており、信じられないほど危険である、とドラッケンミラーは言った。
「ニュー・エコノミー」を「不幸の手紙a “chain letter”」として拒否してきたバフェットも、それを許容していたロバートソンも、市場から去った。株式を買って待つことも、売って待つことも、危険過ぎる。だから投資は出来なくなった、と。
彼らを敵視していた政治家たちは喜んでいるだろう。その攻撃的な投資戦略とともに、クオンタム・ファンドやタイガー・ファンドは消滅したが、それは彼らが規模拡大とともに投資対象を広げすぎたからでもある。金融市場の流動性も枯渇し、投資のコストが大きくなった。彼らの時代は終わった。
しかし金融監督局は、彼らを責めるだけでは正しくない。彼らがリスクを取らず、不合理な状態を攻撃しなくなれば、市場はより浮動的で、不合理になるだろう。しかし恐れることは無い。機会さえあれば、彼らは必ず戻ってくる。
The euro: Unappreciated
投資家のユーロ不信は終わりそうにない。アメリカに比べて経済成長が劣っているからだろう。しかし、ヨーロッパ中央銀行ECBを責める声も強い。
ECBは、政策目標でも、政策決定においても、透明性を欠くという。しかし、アメリカの連邦準備制度Fedに比べて劣っていると言う意見は間違いだ。通貨供給とインフレの二つの目標が対立するかもしれない。しかし、ECBは物価の安定に明確な責任を負っており、Fedの方が曖昧である。
ECBは政策会議の中身を公開しないが、しかし毎月の記者会見でドイセンベルグ総裁が政策決定を説明する。何週間も遅れて、注意深く検閲した文書を公開するより、この方が優れている。おまけにグリーンスパンの話し方は困惑させるものだ。
第三に、ECBの政策委員会が統一されていない、と言うのは、当然であって、むしろ健全なことである。Fed内部にも異論はあり、グリーンスパンがそれを抑えているだけだ。インフレを抑制する点では、ECBの方が成功している。
不幸にして、ECBには二つの不利な点がある。(EU経済運営の)過去の記録が無いので、政策を説明しにくい。また、グリーンスパンのような信仰を集めていない。しかし、彼も運が良かったのである。世界的なインフレ沈静化の時期に議長を務めた。彼に対しては、金融バブルを阻止できず、経済の不均衡を拡大させたという批判も強い。
市場は今のところグリーンスパンが株価を緩やかに調整し、高い成長を維持できると信じている。もし彼がそれに失敗すれば、投資家はドルを捨ててユーロを蓄えるだろう。