IPEの果樹園 2000
今週の要約記事・コメント
4/24-29
The Economist Millennium Special
Work; Toiling from there to here
人間の労働・仕事は大きく変わった。豊かな諸国で現在行われている職業のほとんどが、250年前には無かったのである。田舎の羊飼いや蹄鉄工などを除けば、売春と乞食ぐらいしかないだろう。
農場からの流出は、特に19世紀のイギリスで顕著に起こった。[トマス・モア『ユートピア』]しかし、農場自体も大きく変わったのである。農民は今やトラクターやコンバインを操縦して、かつては20人か30人で行った仕事をこなす。他の仕事はもっと急速に機械化された。労働・仕事の世界を最も大きく変化させたのは、家庭から分離された工場システムの出現であった。1770年頃に、工場が生まれた。それは大量の賃金労働者による世界である。
旧世界は、決してより望ましいものではなかった。しかし、少なくとも「徒弟」として認められれば、職場で助け合った。商人の館があれほど大きいのは、そこに多くの徒弟を住ませ、商品の在庫を管理していたからである。徒弟は何年も報酬無しで働いた。こうした家内奴隷的労働は長く残った。他方、職人の暮らしはより良いものだった。彼は自分の労働を所有していたから、仕事が多ければ報酬を増やせた。しかし、仕事が無くなれば困窮するというリスクも負った。
工場システムにおける搾取は、長く続いた。1563年のイギリスでは(2時間半の食事時間を含めて)一日14時間労働が定められている。それは300年後でも同じであった。1820年代のイギリス木綿工場では14時間、1840年代のドイツでは(子供でも)15時間、1834年、リヨンの絹工場では16時間労働が見られた。
労働はまた多くの労働者を傷つけ、死亡させた。蒸気機関と分業が職人から仕事を奪った。「工場」の規則は厳格であった。プロシアの炭坑では、監督が違反者を15回鞭打った。かつての貧困救済策はなくなり、1848年のフランスで試みられた職場の確保は直ちに失敗した。女性は売春するしかなかった。1911年でも、イギリスの働く女性の39%が家内使用人(奴隷)であった。
/この1000年で、労働・職場が大きく変わった。社会の基本モデルが、家庭から工場に変わった。生活条件の向上を実現する方法も、同時に変化したのである。労働組合と普通選挙権は、もっとも重要な変化だと思う。そして、それがともに機能しなくなりつつある?
The Economist April 15th 2000
Rosy prospects, forgotten dangers
IMFが予想する2000年の世界経済は大変明るい。アメリカの繁栄は続き、ヨーロッパの回復、そして目覚しい新興経済圏Emerging Economiesの復活がある。経済危機で「奇跡」は終わったと思った東アジアも、誰も予想しえなかった急速な回復を実現し、あれは幻影だったと言われそうだ。大きく管理を間違えた日本でさえ、よろよろと前進し始めた。
世界経済のエンジンは、言うまでも無く、アメリカの繁栄である。昨年10月に、IMFは、アメリカの成長率を2.6%と予想していた。失業率4%、インフレ率2.5%とあわせて、それは9年目の成長率として衝撃的であろう。今ではインフレを高めずに4.4%で成長すると予想している。アメリカは世界GNPの4分の1を占め、他地域に需要を与えている。
アメリカの繁栄は持続可能な長期的成長率の上昇による、と主張する「ニュー・パラダイム」論が正しいのなら、それは二重に素晴らしい。すなわち、株価の下落を比較的穏やかに進め、アメリカや世界に対する金融的なショックを抑えるだろう。また、アメリカの生産性革命は世界に輸出されるだろう。「ニュー・エコノミー」が、これまでの技術革新と同じく、世界に波及して行く。
しかし、それが間違っていれば、将来の危険は明白だ。期待と現実の格差に気付いたウォール街の暴落は、株価に留まらず、世界の金融システムを崩壊させるだろう。生産性がたとえ上昇しても、アメリカの対外赤字は大幅なドル価値の下落無しには融資されなくなる。世界的な供給サイドの改善という期待も、同時に消え去る。
経済史家の多くは、「ニュー・エコノミー」について判断を控えている。しかし、あなたは、最善を希望しつつも、最悪に備えるべきであろう。 楽観論は自壊するかもしれない。国際金融市場がより安全になり、ヨーロッパの財政再建と構造改革が進み、新興経済圏では企業・金融・政治システムの強化が行われた、と言えないならば。
改革が進んだかどうか、はっきりしない。バラ色の予想は、政治家たちに厳しい改革を延期させる恐れがある。
Fannie, Freddie and Uncle Sam
Fannie Mae (the Federal National Mortgage Association) と Freddie Mac (the Federal Home Loan Mortgage Corporation)は、アメリカ最大の金融機関である。しかも、一兆ドルの債務を両者で負う、アメリカ最大の債務機関である。両者がアメリカのモーゲージ(抵当証券)市場を支配し、政府による暗黙の信用保証によって民間から市場を奪い、見方に拠ればモーゲージ市場を「国有化」している。
かつて、この機関がもうけられたのは、モーゲージによる融資者に流動性を供給する(それによって、住宅購入に有利な資金を供給させる)ためであった。しかし今では、金融市場が発達して、十分にこうした資金供給ができる。逆にこれらは(政府保証と言う誤った引証により)市場を歪め、モラル・ハザードを招いている。利益の私有と、リスクの社会化、という「アメリカン・ドリーム」が実現している。
民間機関であると言いながら、連邦・州の免税措置を受け、自己資本規制も受けない。財務省証券とほとんど同じ金利で資金調達し、高利回りのモーゲージに投資する。しかし最近、公的な保証は無い、という正式の議会証言を受けて、即座にスプレッドが拡大した。
両機関が、信用の膨張によってバブルを過熱させ、ますます危険な投資に関わりながら、モーゲージ市場を占拠した結果、効果的なヘッジもできなくなった。もし住宅市場が崩壊すれば、これらが経済全体に破壊的影響を広めるだろう。それを防ぐには、直ちに完全な民営化を行うべきである。
/アメリカ金融市場にも弱点はある。住宅市場の価格変動は、株価とともに、重要なバブルの条件である。そこに、株式市場以上に深く、政府が関与している。
住宅は最も政治的な商品・市場である。日本に限らず、住宅に関する市場の規制や補助は、その国の政治制度と関わって、改革を許さない。
Homesick blues
住宅価格の大幅な変動は良く知られている。もし住宅価格が下落すれば、その影響は今の好景気を支えている二つの機関を通じて、深刻な結果をもたらすだろう。 Fannie MaeとFreddie Macは、この数年間、年率20%で融資を拡大してきた。もしそれが債務危機に陥れば、政府は救済しなければならないだろう。それでも住宅は政治的資源であり、まだ低所得者や少数エスニック集団に供給が不十分だ、と主張する。
両者は1938年と1970年に、政治と経済の中間地帯に設立された。しかし、同時に、その株式はNYSEで取引され、超優良企業の一つである、という。税や自己資本規制を免れて融資を拡大し、暗黙の政府保証と財務省から85億ドルの緊急融資枠を認められている。こうした政府からの補助金は、住宅購入者にではなく、株主と被雇用者に流れている。また、モーゲージ市場を「国有化」するだけでなく、より信用の劣る融資先に拡大しつつある。
こうして抵当と政府に保証された債券を大量に発行することで、それを保有する銀行は大幅な信用増加を行った。特に1998年秋の通貨危機に際して、これらの機関が(民間企業の保有していた)モーゲージ債券を(高い価格で・低い金利で割引き)購入して民間企業を救済した。Fedが金融を引き締めようとしたときでも、これらの機関は流動性を供給しつづけた。
急速な拡大が資産内容を悪化させた疑いが濃い。公的な保証はない、と投資家が理解すれば、金利は跳ね上がる。その公的な救済コストを抑制するには、決められた分野に限定して、自己資本を充実させること、あるいは、完全に民営化すること、が望ましい。
/日本では、さまざまな中小・零細企業への政府信用保証、住宅購入に対する公庫融資、などがある。不況対策が恒久化されて、政治的な利権に変わることは常にある。
Hard Pounding
1960年代のWilson政権、1992年のMajor政権は、ポンドの切り下げで崩壊した。今度はBlairの番である。今週、Blairはポンド高で倒産したと言われる自動車会社(Rover)の労組と会った。イギリスはEMUに参加すべきだ、という長く抑えられてきた声を聞くだろう。
しかし、「ポンドが高すぎる」という主張には問題がある。イギリス自動車産業の状態と、直接投資の流入、そしてイギリス経済の状態とは、同じではない。ヨーロッパの自動車産業は供給過剰であり、整理が避けられない。(しかも、Hondaはイギリスの生産を拡張する。)自動車産業は、その実際の割合以上に重要視されている。FDI流入額で見れば、自動車・輸送部門は12位に過ぎない。失業率は低下し、成長は続いているし、輸出も量的に増えているのである。
明らかに製造業と農民はポンド高に苦しんでいる。それはこの国も最も貧しい部分により大きな負担をもたらすだろう。しかし、(産業調整・地域経済対策以外に)問題の即効的解決策は無い。ポンドを下げようとしてイングランド銀行が金利を下げたのは間違いだ。他方、(金融引締めをもたらす)財政赤字を拡大させたのはGordon Brownの失敗(政策の矛盾)である。
政府は、できるだけ早くEuroに参加すると公言して、ポンドの下落を促そうとしている。しかし、ECBはイギリスが少なくとも2年はポンドがEuroと安定したレートを維持してからである、という。そもそも、為替市場はまったく予想できないから、ポンドを下落させる政策を示すことなどできない。
輸出業者は、ポンド高に対しては生産性を向上させるしかない、と蔵相に言われて激怒した。Euroに対して14%も高まったポンドの価値を生産性上昇で吸収することは難しい。しかし、歴史が示すように、日本やドイツは通貨価値の上昇に対応して成長しつづけた。他方、通貨価値の下落した下落したイギリス経済は、長期にわたって停滞した。通貨の価値下落は産業基盤を再生させる道ではない。
/為替レートの産業基盤に与える影響は、破壊的か建設的か? 物価を安定させるのか、混乱させるのか? The Economistにしては浅い分析である。しかし、かつて工業化や革新のCatch-up過程で急速な生産性上昇が通貨価値の上昇をもたらしたが、いまや逆に資本市場の変動が産業基盤の破壊や再編、強化を決定する、という関係に注目することは重要だろう。自国の産業基盤や雇用水準、産業調整能力に為替レートの変動を抑制もしくは利用できる国と、そうでない国があるのでは。
Kazaakhstan; Auf Wiedersehen
ソビエト連邦の時代に、カザフスタンで自分はドイツ系だ言うのは問題であった。1941年、ドイツがロシアに侵攻したとき、1760年代からヴォルガ流域に住んでいたドイツ系住民は、敵と見なされてカザフスタンに強制移住させられた。ドイツ政府は、彼らに帰国する無料の券を与えている。
しかし、ドイツ政府もカザフスタン政府も、ドイツ系住民が留まることを望むようになった。ドイツは10%もの失業率に苦しんでいる。カザフスタンからの農民は、工業化されたドイツでは雇用されないだろう。当局は移民を抑制するために、無料の航空券支給を止めて、6日かかる長距離バス乗車券に代えた。
カザフスタン政府は人口減少を心配している。1989年の最後の調査以来、人口は16200万人から14.95万人へと8%も減少した。西ヨーロッパに相当する面積で、これは砂漠にも等しい。人口流出でドイツ風の生活文化も失われ、家族を頼ってドイツに移住したい人々は多い。
こうした人を留めようと、ドイツは石炭・小麦粉・医薬品などを支給し、カザフスタンでの小企業設立を支援して、この10年間に一億ドイツ・マルクを支出した。それでも、貧しいカザフスタンで暮らすより、豊かなドイツで失業している方が良いように見える。移民を増やしているカザフスタンの政治・経済状態は、ドイツ政府の管理できない問題である。
ドイツ系住民は、ロシアのナショナリズムと中央アジアでのイスラム原理主義の拡大を心配している。昨年夏にキルギスタンでイスラム武装勢力による襲撃が起きた際、ドイツへの移民流出は急増した。いつでも出国できるように、彼らはドイツへの入国許可書を持っている。
/移民問題は、世界の他の地域で、国家や経済制度が住民に十分な政治・経済的条件を維持できなくなれば拡大する。流出国でも流入国でも、人種差別の高まりが悪循環となる。ドイツ政府のように移民を制御するための補助金を国際的に整備・制度化するべきか、それともむしろ人種差別的な扱いを排除して、完全な移動の自由と政治経済的な条件の改善を世界的に促すべきか? どちらも必要と思う。
Seattle comes to Washington
暴動の可能性は、これまで丁重な無関心しか持たれなかった春のIMF・世銀総会を変化させた。シアトルでWTOを妨害した街頭行動が、1700人のジャーナリストとともにワシントンへやってくる。
街頭デモやTeach-insは何を主張しているのか? 世界銀行の開発プロジェクトの犠牲者と連帯しよう、とか、貧しい諸国への債務免除を求めた人の鎖、世界企業のための構造調整政策に反対するラテン・アメリカの集団、キャンドルを掲げて徹夜で行われる鉄鋼労組の前夜祭、Free Burma Coalitionビルマ解放同盟のディナー、緑の党のpot-luckパーティー、など。市民的な不服従を教え、24時間法律相談所や協同食堂、医療施設、食事や情報を届ける自転車配達、街頭巨大人形劇、その他、まである。
誰が反対しているのか? 何を主張しているのか? 確かに労働組合は同調しているが、街頭行動が少しでも逸脱すれば彼らと別れ、距離を置くだろう。その多くはblue-workers労働者ではなく、活動家と見られる学生たちである。参加するNGOsの名前には、奇妙なものから、左派のいかにもありそうなものまで、何でもある。
世界的な組織の振る舞いは、どうしてもこのような事件に巻き込まれるだろう。確かに、かつてソウルの街頭で、労働者がIMFは “I’m Fired” だと抗議した気持ちは理解できる。しかし、好景気に沸くアメリカは、IMFの政策に従うことは無いし、Internetを楽しむ白人のアメリカ人大学生は、むしろ世界化の利益を最も受けている。彼らの主張は決してまとまっていない。特定の目標を要求するもののあるが、もっと漠然とした要求(”Global Justice”)、厳格な規則を求めるものから、世界企業の完全な追放を求めるものまである。
彼らが唯一一致しているのは、IMFと世界銀行が間違っている、という点である。しかしそれも、新興経済が(介入と支援で)急速に回復し、両機関が改革に励んでいることと矛盾している。あるグループは改革に関与して満足し、他のグループは救いようの無い邪悪だと非難する。シアトルで活躍した女性活動家は、二つの国際機関よりも中国との貿易正常化に反対している。
かつて街頭で学生たちがベトナム戦争と爆撃に反対したとき、他の国民からも支持されていると主張できた。しかし、今は違う。最近の調査でも、アメリカ人の61%が世界化を支持している。他方、35%がその抑制を求めている。そして80%が国際的企業を支援している。アメリカに反しても、WTOの決定に従うべきだ、IMFを強化すべきだ、と言うのが多数派である。
しかし、こうした反対運動が無意味である、とも言えない。多くの国民が自由貿易に疑問を感じている。多くの者が、労働者の利益は不当に無視されているし、労働者の権利や環境保護にもっと注意すべきだ、と考えている。特に対中国貿易には反対が強い。さらに、世界化に反対する者の方が、支持者よりも意識的である。「世界化反対」を公約に掲げる議員はまだ一人もいないが、先月、ロサンゼルス郊外で民主党のベテラン議員が落選した。それは彼が通商法案を支持したことに怒った労組の反対による。次の議会で中国に関する決定が影響を受けるかもしれない。
/世界化Globalisation反対の運動をどう評価すべきか? Coxが評価したような「市民社会」の運動となるのか? あるいは、アメリカの好景気により無視されるのか? 国内政治にどのように反映されるのか?
社会制度の違いや、調整コストを無視した世界市場統合は、よほどの好景気が持続しないと政治的に維持されないのではないか。
この問題はEUで論争になった「民主主義の赤字」と関わるだろう。それは、直接選挙で選ばれたわけではないEU委員会が、民主的に選出されたEU議会よりも大きな権限をもっており、また議会に責任を負うのでなく各国政府に責任を負う形になっている、という問題であった。国際機関において、この問題はもっと深刻である。
Bolivia; To the barricades
かつてクーデターが頻発したボリビアも、近年は近隣諸国に比べて民主主義的な協調のモデルとなっていた。そのため、4月8日に国家非常事態(戒厳令)が敷かれたことには驚かされた。それは国中で1週間にわたる労働者のストライキが続いた後、週末に暴力的な衝突が起きて6人が死亡した後である。
最大の抗議活動はCochabambaで起きた。民間の国際投資グループが経営する新しい貯水池の建設に費用がかさむという理由で、水道料金が値上げされたからである。今回は農民組合がアンデス平原を横切る道路を封鎖して、ボリビアの経済活動を停止させた。Banzer政府は、かつて独裁者として暴力で国を支配したが、今では民主国家の体裁を守ろうとしていた。
しかし今や抵抗が国中に広がり、非常事態宣言で軍を投入した政府に対して、群集も政府施設に放火し、軍の司令官を一人私刑・リンチにした。軍隊の発砲で二人が死亡した。組合指導者や市民活動家は逮捕され、一時的に遠隔地に追放された。他方、警察も賃金引き上げを要求していた。そこで、政府は給与の低い警察官の50%賃上げを認め、Cochabambaの水道計画は取り下げた。
反対運動の根底には、ボリビア経済の不振があり、政府が解決できていない貧困問題がある。関税引下げやコカ栽培の撲滅、といった優れた(はずの)政策も、農民の所得を低下させると言う副作用を伴う。「経済活性化」計画も、多くのボリビア人から見れば、大企業のためになるだけで、貧困線以下の国民の多くに関係ないものである。Banzer政権が貧困問題を解決できない限り、バリケードの向こうでは、かつて支配的であった地方組合運動の急進的な指導者が復活し始めている。
/社会運動と国際機関とを繋ぐリンクはどこに求めれば良いのか? ラテン・アメリカの三者同盟論(政府・国内資本家・多国籍企業)は、貧困問題の解決に失敗している原因を、政治構造の国内分断化と国際的従属に求めた。アメリカ政府の対応も、民主化より自由化・市場統合を重視してきた。こうしたことが関係しているだろう。
Britain and NAFTA; Dream on?
ワシントンの議会のすぐ裏で、Heritage Foundationによる会議が催された。イギリス保守党の「影の内閣」のメンバーが、アメリカ共和党のメンバーと会い、「第三の道の後;アメリカとイギリスで保守派の指導を再生する」というテーマを話し合った。意外なことに、それは内政ではなく、外交に関するものだった。
ここに集まった保守派が夢見る「英語圏の統合」は、EUの「第三の道」的な行動に取って代わるものだ。しかし、国際貿易委員会がこの問題を取り上げても、決して直ちにイギリスがNAFTAに加盟するわけではない。アメリカには提案を葬るいくつもの方法があるが、専門委員会を作って報告書を作らせるというのもその一つだ。ClintonもBlairもこの問題に関心がない。
しかし、Thatcherism-Reganismの歴史が教えるように、国民のイデオロギー的な転換は、保守派の異端を一気に主流派にすることがある。ただし、この考えを支持して集まった英米の保守派間でも違いがある。アメリカ側のPhil Grammにとって、イギリスのNAFTA加盟は、世界の地域集団への分割を阻止し、自由貿易を実現する一歩である。他方、イギリス側のConrad Blackにとっては、それがEUからイギリスを政治的に引き離し、経済的なEU統合の利益を失わずに、政治的な主権を維持する手段として夢想されている。
イギリス保守党のヨーロッパ懐疑論Euroscepticsがそこに見える。公式のスローガンとは違って、結局、イギリスはEUを離脱する、と考える保守党員も少なくない。他方、アメリカ政府はEisenhower以来、イギリスがヨーロッパ諸国と統合するようにずっと促してきた。ただし、外交政策はしばしば政権を批判するための手段となる。イギリスのNAFTA加盟も、議会が大統領を苦しめる口実として、しばらくは生き延びるだろう。
/保守派の二つの真髄は、市場による世界の統合=支配、と、伝統的主権国家、である。イギリスにとってかつては一致していた二つの理念が、今はアメリカでしか一致しない。「英語圏の統合」とは、新しい世界国家の保守派による理念ではないか。
Emerging Economies; Let the good times roll
新興経済圏は景気回復に沸いている。しかしそれは、Boom-and-Bust Cycleにより、新しい危機をもたらすのか?
春のIMF・世銀総会は、いつもと違って多くの反対派を集めて注目された。反対派は、たとえば、「世界の大多数の人民を弾圧し、貧しくする一方で、...企業と自分たちが豊かになっている」として非難する。しかし、国際金融システムが深刻な危機にあると見なされてから18ヶ月を経て、世界の主な新興経済はめざしい回復を示しているときに、こうした非難は愚かであろう。
アジアの回復は特に素晴らしい。韓国は1999年に11%の成長を実現し、危機のときよりも既に所得を高めている。マレーシアも6%で成長した。マレーシアも韓国も2000年末までに危機前の所得水準を回復するだろう。ラテン・アメリカ諸国も元気である。メキシコは、好景気のアメリカに輸出の80%を行って、石油価格上昇も加わり、3.8%で成長した。ブラジルは4%の成長を、またチリなども国際商品価格の上昇で6%以上の成長が実現できるだろう。ヨーロッパでも、景気回復とロシアの債務不履行による損失処理が進んでいる。中央・東ヨーロッパ諸国は成長率を2倍にした。ポーランドやハンガリーは今年5%で成長するだろう。
新興経済圏への証券投資も新たに増加しつつある。株価が急速に(IFC/Standard & Poor’s Indexで1999年に60%以上)回復している。債券市場も回復した。民間資本の純流入額は昨年の150bドルから200bドルに増加すると予想されている。これは1996年のピークにおける330bドルに比べるとまだ少ないが、その90%以上が1997-99年に厳しい金融危機を経験した諸国に向かっている。
そこで問題は、この景気回復が次の破綻を呼ぶのか? である。それは、新興経済と、国際投資家、そして国際金融システムが、先の危機から正しい教訓を学んで、どこまで改革を実現しているか、に懸かっている。
新興経済の回復は、多分に外部的な要因によっている。商品価格の上昇や好調な輸出は、特にアメリカの好景気によるものである。アジアの電化製品に対するアメリカの尽きない需要は、特にアジアの回復を助けた。
同時に、政府の改善も重要である。危機に対して、多くの国はPopulismではなく慎重な姿勢で対応した[国内各層の所得維持策や補助金、国内市場保護措置、などに頼らず、自由化を継続して、財政赤字を抑制し、インフレを起こさなかった]。ブラジリアからバンコックまで、マクロ経済的な規律が重視された。そして、第一に、為替レートの調整可能な釘付け政策が完全に放棄され、第二に、脆弱な金融システムが批判された。
為替レートについて、アジア諸国は公式に変動制へ移行し、ラテン・アメリカでも多くが変動制を採用した。一部はCurrency Boardやドル化を選択している。また、中国は資本規制を続けて為替レートを固定している。しかし、圧倒的に変動制への移行が進んだ。
今のところ移行は成功している。大幅な通貨の下落にもかかわらず、アジア諸国は懸念されたインフレを招かなかった[競争的切り下げの回避]。ラテン・アメリカ諸国でも、その高インフレの歴史にもかかわらず、消費者物価の上昇率は9%以下であった。レートの浮動性も限定されていた。それは、変動制ではなく、政府介入が働いたとも言える。アジアの経常収支黒字と資本流入は、[変動制が意味する]通貨価値の増加ではなく、中央銀行の準備として吸収された。例えば韓国は、外貨準備を1997年末の9bドルから2000年3月末の83bドルに増加させた。
外貨準備を増加することには理由がある。それは将来の流動性危機に備えることである。しかし他方、この介入が[国内通貨供給増で]国内のインフレを招いたり、通貨価値の水準について投資家に過度の信頼を持たせ、[為替リスクのあるドル建]借り入れを増やすかもしれない。
ラテン・アメリカでも、変動制は機能していない。1999年、市場が不安定化したとき、金利が為替レートの安定化のために利用された[高金利で資本流出を抑制した]。マクロ経済の安定化を追及するというが、[どのような理由であれ]通貨の不安定化は目標達成を難しくする。さらに、巨額のドル建債務を負うために、通貨価値の下落は破滅を意味する。[それゆえ、決して変動制は自由に機能できないだろう。]
こうして変動制の利益は疑問になってくる。the Inter-American Development BankのRicardo Hausmannは、変動制の利益は、そのコストに比べて小さい、と主張する。新興経済は自国通貨で国際的に借り入れできないのだから、為替リスクをヘッジできないことが問題である。[自国通貨建で借り入れれば、自国通貨建の国内貸付・資産で為替リスクは生じない。外貨で借りる場合も、例えば、同時に先物で外貨を買っておくか、同じ期間の外貨建資産を保有すれば、為替リスクは回避できる。]変動制が本当に機能するかどうかは、今後、試されるだろう。
(補説)ヘッジ=ヘッジ取引;(広義)「為替リスクを持つエクスポージャーについて、それによる損失を回避または軽減しようとする取引の総称」(狭義)「各種のリスクを併存させて、一方の損失を他方の利得で相殺させることを期待すること」(注意)為替持高[買持ち(債権超)・売持ち(債務超)・スクウェア]の解消で為替リスクを回避する「カバー」と異なる。ヘッジは、あるリスクを他のリスクと結び付けて、全体としてのリスク軽減を目指すが、カバーはリスクそのものを軽減する。
新興経済が資本規制に関心を示さなかったことは、非常に注目される。マレーシアが唯一の採用国であるが、それも緩和されつつある。短期資本移動に関する非難が強かったが、実際にそれを規制することは無かった。チリも、短期資本流入に対する課税を1998年にはゼロにした。資本流入が少なかったこともあるが、新興経済における金融システム改革が進んだからでもある。
紙の上では、改革は大きく進んだ。破産処理が効率化され、金融監督基準も整備された。政府は不良金融機関を破産させる一方で、残った銀行には公的資金を投入して資本を回復させ、公的な資産管理機関が不良再建を売却処分している。企業の再編・破産処理がスピード・アップされた。銀行の不良資産を削り、企業の債務比率を抑え、証券市場へのシフトを促して、韓国は改革の先頭を行く。しかし、韓国の大宇財閥再編に見られるように、企業の再編は容易ではない。他方、インドネシアのように、全く進んでいない国もある。アジアの景気回復は、金融システムの欠陥にもかかわらず、債権市場や株式で資金を調達して進んでいる。しかしこうした成功が、システムの改革を遅らせる危険もある。
ラテン・アメリカでは、金融部門の強化がすでに成果を挙げている。1995年の「テキーラ・ショック」以来、各国は大きく金融制度を改革した。アルゼンチンは、外資による銀行買収を認め、高い流動性と自己資本を満たすことに成功した。ブラジルは国営銀行を民営化しつつあり、メキシコも外資による銀行株の多数保有を認めて吸収・合併を加速させた。各国は財政の健全化と国際管理を重視している。国際的な借入れは長期化させ、ブラジルは国内の年金制度を改革し、メキシコは原油収入への依存を厳格に規制した。ブラジル、ペルー、アルゼンチンは財政赤字を法的に制限した。
民間投資家の行動は変わったか? 彼らはもはや、新興経済圏の債券が先進諸国と同じようなリスクしか持たない、とは考えていない。アメリカ財務省証券と比べて、金利差は9%ある。しかし、問題は投資家が記憶を持続させないことである。1998年、ロシアの債務不履行や、ウクライナ、パキスタン、ルーマニアの債務条件変更、そしてエクアドルの債務不履行が続いても、新興経済の債券市場は消滅しなかった。幸いなことに、こうした危機は、過度の流入を今のところ抑制している。特に銀行や、その他の大きく債務に頼って融資を拡大する機関、特にヘッジ・ファンドは、新興市場から手を引いている。
外部の条件に新興市場は影響されなくなった、と言えるだろうか? 例えばアメリカの株価が暴落しても? それは国際金融システムの改革によるだろう。そして、この問題について多くの議論がなされながら、実際に行われたことはほとんど無い。20カ国委員会(G20)や、金融安定化会議、などが設けられたものの、制度の新しい転換は起きていない。
統計的な透明性から金融政策の実施まで、さまざまな国際基準が設けられた。BISの銀行委員会は銀行の流動性管理に対する新しいガイドラインを公表した。自己資本規制の改訂作業も進めている。しかし、他方で、危機が起きた場合にどのように対応するかは合意されていない。IMFが国際的な最後の貸し手となるのか、その役割をもっと限定すべきか、は「モラル・ハザード」の評価による。IMFが救済することを期待して、投資家は過剰な融資や資本流入を行い、通貨危機を招いたのか?
政治家は、これ以上の救済融資は行わないと合意し、同時に、民間の債権者に危機のコスト分担を強く求めている。IMFは新しい融資枠(CCL=the contingency credit line)を設け、既存の融資を整理・改訂しつつあるが、CCLへの応募は無い。民間部門がどのようにコストを負担するのか、Case-by-Caseで小国の例はあるが、大国の債務不履行は分からない。危機にどう対処するか、という問題が、もっとも解決されていない。
/国際通貨危機・金融システム改革は、最も重要なテーマだろう。新興経済、国際投資家、そして国際金融システムの改善を指摘する。危機が改革の圧力を高めている。しかし、他方で、より管理・制約された金融制度を再建させる試みは検討されていない。アメリカの好景気が続く限り、自由化の圧力は多大の利益を約束して各国に作用する。この急速な回復が無ければ、自由化そのものが抑制・逆転しただろう。未だに、次の通貨危機に対処する有効な手段は無い。
Financial regulation; Basle bust
1997−98年の金融危機を再発させないために、BISは自己資本規制を改訂しようとしている。しかし、銀行の資本をどのように計算するか? ヘッジ・ファンドを規制すべきか? で主要国間の基本的な不一致が残っている。
バーゼル合意は、借り手の健全性を十分考慮しなかったために、むしろ危険な融資を助長した。そこで、格付け機関の評価を資本算定に結びつけた。しかしそれは混乱した妥協策である。アメリカ企業はより多く格付けされているから、それが有利に扱われればアメリカの銀行は得をする。他方、銀行内部の信用評価を利用する案もあるが、銀行同士で異なった基準を調整できない。
IMF・世銀総会は、金融安定化会議FSCを設立した。それは、資本流入、オフショア金融センター、ヘッジ・ファンドに関する報告書を出した。しかしその結論を見れば、開放システムを支持しつつも、開放経済は投機的な攻撃を受ける危険から守られていない、というのであるから、(心配な国は)資本市場を閉鎖する方が良い、というものだ。ヘッジ・ファンドによる不安定化は認められるが、その対策は独仏が国際規制を求め、米英はこれに反対している。
今後、事態が改善しなければ、国際規制も行う、という妥協が成立した。アメリカ議会もヘッジ・ファンドの情報公開を求めている。LTCMへの銀行融資は、国際合意が無くとも、金融監督者が十分注意することを求めている。
Japanese monetary policy; Debt trap
日本の景気回復で、日銀はゼロ金利政策を改めると示唆し始めた。しかし、問題がある。まず、円高が輸出を減らし、あるいは企業の収益を悪化させる。大蔵省は景気回復が止まることを心配し、日銀も輸入価格の下落がデフレを再燃させることに気を使う。
第二に、長期金利が上昇するだろう。日本の銀行はまだ資本不足で積極的な融資が行えず、大量の国債購入を行っている。もし金利が上昇して国債の価格が下落すれば、銀行部門は再び危機に陥り、企業も投資できなくなる。
速見総裁は、強い言葉を使えないのである。