IPEの果樹園 2000

今週の要約記事・コメント

12/11-12/16

めっきり寒くなりました。経済の変動で職を失った人たちが多くいることに、現代の政府は責任を持たねばならない、と言われています。しかし、経済の仕組みも、政府の意思決定も、その全体像は容易に見えません。

市場を活用し、セイフティー・ネットを整備し、モラル・ハザードを避け、世界的な規制・監督を行い、市民の社会的・政治的な権利を守り、企業の責任や国際機関の透明性、合理的な説明を求めること、などは、経済と政治を再生する上で重要な課題です。

しかし、何よりも弱者にとって、公平で強制力のある制度が重要であるにもかかわらず、その改革は進みません。その理由は、合理的な理解が形成されていないことと、分配上の合意が達成されないこと、です。

Robert SkidelskyによるKeynesの全3巻の評伝が完成したことを記念して、Skidelsky本人が、The Economist, November 25th 2000に記事を依頼されました。またFinancial Times, Wednesday Dec 6 2000 には、Samuel Brittan, The enduring legacy of Keynes が載っています。しかし、決して、何かを得られる内容ではありません。

容易な答えなど無いからこそ、改革は迷走し、合意は形成されず、その代価を支払わされた人々が誰に不満をぶつけ、何を要求すれば良いかも分からないのです。もしできることなら、この世界を単純な姿に戻して欲しい、正義や真理、友愛が人々を満足させるような世界を見出したい、と願う者が増えているのではないでしょうか。


Financial Times, Sunday Dec 10 2000

Editorial comment: Taming the Celtic tiger

アイルランドはユーロ圏の生産の1%余りでしかないが、その経済運営にユーロの成否が問われている。6.8%のインフレを見て、ユーロは機能しない、と主張するのは愚かであるが、その景気過熱は資産市場の破裂を招きかねない。

アイルランドのインフレは、一時的な石油価格上昇や間接税引き上げ、ユーロ下落のせいである。しかし、何より重要なのは国内の過剰需要である。失業率は1996年の11%から現在は3%に低下した。短期金利はマイナスである。過去2年間、財政政策も緩和されてきた。ユーロ下落は、アイルランドに一層多くの投資を引き付けた。

過剰需要を抑制しなければ、資産価格は上昇を続け、激しい金融危機によって暴落するまで、高騰するかもしれない。金利や為替レートに影響を与えられないのであるから、政府はインフレ調整のための被雇用者への補償をともなう緊縮財政を実施するべきである。賃金を規制するPPF(繁栄と公正のためのパートナーシップ制度)はその役割を終えた。

高賃金で需要を削減するというのは奇妙であるが、固定為替レートで、競争力のありすぎる産業で発生する過剰需要を削減するには仕方ない。PPFによる賃金抑制はアイルランドに失業者があふれていた時代とともに既に終わったのである。今やそれが人為的な高利潤政策になっている。


New York Times, December 5, 2000

Turkey Grapples With a Severe Financial Crisis

By DOUGLAS FRANTZ

トルコ政府は、株価の暴落、天井知らずの高金利、街頭における教師や病院労働者のストライキに直面している。トルコの金融危機は、短期の流動性危機として始まったが、政府による経済改革への信認が疑われ始めた。アンカラの官僚達はIMFとの緊急融資条件を議論しているが、銀行改革や民営化での合意は難しい。しかし、金融危機は政府のインフレ抑制策や経済改革に対する不信認となりつつある。

ニースでのEU閣僚会議でも、トルコとギリシャとの、キプロスほかに関する領土問題が、EU加盟問題の一部として審議される。それがトルコの不安定な連立政権をさらに動揺させている。

経済面では、IMFが混乱を収拾するために融資の条件を示すだろうが、経済と銀行システムの改革が含まれるだろう。株価はこの2週間で43%下落し、1年間で、ドル換算による価値が60%以上も失われた。支払不能になった中規模の10銀行は、既に汚職容疑で管財人の管理下にある。すでに疑わしい金融機関に健全な銀行は融資を行わなくなっており、経済全体に資金不足が広がり、1000%を超える短期金利が生じている。

*******************************

The Economist, November 25th 2000

In the mire

アメリカで「憲政の危機」が起きつつある、と次第に多くの友好国も心配し始めるだろう。

フロリダの最高裁が三つの民主党が強い選挙区で手作業による再集計を認めたことで、11月26日には、少なくとも一つの明確な打開策があった。しかし、その後、恐るべき打開策の数が増加し始めた。

ゴアにはこの騒ぎを始めた責任があるし、ブッシュにはフロリダのすべての票を手作業で再集計することを拒んだ責任がある。しかし、単純な手作業による数えなおしでは逆転できないゴア陣営は、無効票の解釈で争いを始めた。もし民主党がこうした心理作戦を採らなければ、共和党も州議会による選挙人指名という政治的圧力を抑制しただろう。


Disappointment in Japan, again

日本の政治騒動の中でも、加藤紘一の自民党内反乱は意気消沈するものであった。加藤紘一の欠席で納まった森政権の継続を、東京株式市場は一層の下落で応えた。

しかし、もっとも大きなダメージは改革派としての加藤に与えられる。次の総裁選で加藤が勝つ見込みは無いだろう。彼以外の改革派も勢いを失う。

加藤が自民党を出て野党を再編し、有権者に明確な選択肢を示すべきである。しかし、加藤派の団結は保たれず、民主党への有権者の信頼はまだ無い。加藤は自民党内にとどまって反対する。

改革派が批判するように、1991年に経済が悪化して以来、自民党は問題に金をばら撒くだけで、改革を行わなかった。その結果、日本の政府債務は2倍以上に増加し、5兆ドル、GDPの110%を超えた。景気が持ち直さないばかりか、民間投資を阻害し、消費者の不安を招いている。

日本がすべきことは、自民党がもっともしたくないことである。市場の規制緩和、そして、建設業、小売業、郵便局、農民、NTT、銀行、といった特定の利益団体を排除すること、である。単一政党が支配する場合に多いが、業界の利益団体が政権政党と癒着している。

政党は、伝統的な支持基盤を超えて進む必要がある。それは、森のような政治家に率いられている限り、できない相談であろう。


China: Running out of stream

中国の膨大な人口をどうやって養うのか、という伝統的な悩みが、急速に新しい問題に代わりつつある。すなわち、どうやって増加する発電所や自動車の燃料を確保するのか、と。そして、原油の国際価格の不安定さ、激増するエネルギー需要、悪夢に近い大気汚染。

エネルギー需要は年3.5%で増加し、20年で倍になる。しかも中国のエネルギー供給は石炭に5分の4近くも依存し、炭素の排出量は、アメリカに次いで多い。世界でもっとも汚染された大気により、都市部で毎年20万人が死亡している、と推測されている。

中国には北西部に原油埋蔵量が多かったが、輸送や精製で問題が大きく、すでに石油輸入国である。油田開発はむしろ遅れ、1000人に3.2人しか自動車を保有していない現在の状態から考えて、今後、大量に石油が輸入されるだろう。原油価格の上昇は、中国の指導部に豊富で信頼できるより多くの供給国を熱望させている。

特に天然ガスの開発に対する期待が大きい。中国には、現在の消費水準で70〜120年分のガスが地下にある。ただしそれは内陸部のタリム盆地などであり、その開発のために外資の導入も始まった。将来はロシアやカザフスタンからパイプラインを引くことになるだろう。それはまた、中国にとって安全保障を損なうものであってはならない。


South Korea’s bitter harvest

インスタント・ラーメンで生活するParkのような人々にとって、議会は縁の無いところである。彼らは、まだしばらく、政治騒動の写真が掲載された新聞の求人欄を、駅で読むしかない。


Feeling the heat

フランス北岸のDunkirkのすぐ外に、450ヘクタールの土地は、ヨーロッパ最大規模、そしてもっとも効率の良い製鉄所、Sollacの敷地である。フランス最大の製鉄企業Usinorの子会社として、Sollacは自身の港と鉄道を持ち、55キロに及ぶ道路網も持っている。鉄鉱石と石炭から、ヨーロッパ最高品質の鉄鋼が生産されるまでの、そのスケールに、すべての訪問者が驚嘆する。

ヨーロッパには、世界の10大製鉄企業のうちの六つがある。しかし、Sollacやその他の優秀な製鉄所の経営状態は厳しい。どのような基準で見ても、ヨーロッパの製鉄産業は投資家から見放されている。今年になって株価が暴落した。この産業は旧来型の産業の代表なのか? しかし、利潤は上がっているし、健全である。ヨーロッパの生産量は記録的な水準である。

投資家が注目しているのは、この産業自体ではなく、その過去と未来である。ヨーロッパの巨大製鉄企業グループは、かつての国営企業が合併して、比較的最近できたものである。1990年代の民営化は、アジアからの市場参入やソビエト連邦解体という厳しい状況で進められた。合併と巨大化、国境を越えた企業の形成と海外市場の開拓によって、それらは生き残りを図った。また、効率を改善して、日本製鉄や韓国のPoscoにも負けない競争力を持つ。しかし、過剰生産能力は金融的なパフォーマンスを悪化させている。

将来を見れば、世界経済が減速し、鉄鋼需要は減少するだろう。これに対して、鉄鋼メーカーは十分に対応できない。問題は、その供給者も需要者も、より急速に世界的な合併を進めているからである。鉄鉱石の三大企業が市場を支配しているし、世界の自動車生産も上位6社が70%のシェアを占める。これに比べて、世界の10大鉄鋼企業でも、世界市場の5分の1しか供給していない。原料が値上がりし、石油も値上がりしている。しかし、鉄鋼価格の引き上げに転嫁できないのである。

一つの選択肢は、更なる合併である。しかし、ヨーロッパ内の独占禁止法がそれを許さない。最善の道は、新製品の開発であろう。


Japan’s keiretsu: Regrouping

日本企業は、メイン・バンクが系列企業の株式を売却し、自由になっていることを、まだよく理解していない。それはむしろ、企業統治の真空状態をもたらした。

日本の資本市場がこれを果たす準備はまだできていない。生命保険会社などの機関投資家は、企業の経営に圧力をかけたり、合併や乗っ取りを仕掛けたりする能力が無い。このことは、企業の経営者が大幅な自由を得たことを意味する。コア・ビジネスを強化し、不採算部門を削って、独自の戦略が実行できるはずである。

しかし、企業の経営者にも、銀行と同様に、長期的な戦略が無い。その結果、企業もまた、銀行の合併に従って、何の意味もなく系列間で安易な合併を図るのである。系列から解放された企業が本物かどうか、まだわからない。


Asian payment systems: The bucks stop here

香港通貨庁の幹部、Joseph Yamは、アジア通貨同盟案を好んで取り上げる。彼はそれがまだまったく実現しないことを知っているが、アジア諸国は部分的にでも、その分割された、しばしば非効率な金融システムを統合するために、もっと努力すべきだと考える。言うまでもなく、香港がそれを支援できる。

Yamが念頭においているのは、金融システムの基礎、手形交換・決済システムである。各国は道路や橋に莫大な金をかけながら、なぜ決済システムという重要なインフラにもっと投資しないのか? という。香港は8月から、アジア市場で最初の「リアル・タイム・グロス決済」RTGSを、香港通貨だけでなくアメリカ・ドルでも導入した。国際通貨決済のセンターになることを望んでいる。香港は、他のアジア諸国の中央銀行がこのシステムに参加してくるようなシステムを提供する、と。

RTGSと従来の「後日差額決済」との違いは、1.支払が即時に行われ、2.差額の相殺ではなく総額が決済されるので、取引と決済の間に時間差がなく、債権者が債務者のデフォルトに関するリスクから解放される点にある。この4年間で、アジアでも幾つかの国がRTGSに移行した。

国際取引において、RTGSの利点はさらに大きい。アジアではほとんどの外国為替取引が自国通貨とアメリカ・ドルとの間で行われる。それゆえ、たとえばタイの銀行は、ニュー・ヨークのオフィスが開くまで、取引を完了できない。アジアの営業時間帯に香港がそれを提供できれば、取引は直ちに完了できる。

10月の中央銀行の会合で、香港通貨庁は提案を行い、アジア各都市を説明に回っている。商業銀行のいくつかは既にリンクを合意した。しかし、参加をためらっている中央銀行もある。たとえばタイ中央銀行は、法的な整備が不十分であり、資金が移動しやすくなれば資本逃避が容易になるかもしれない、と心配する。シンガポール通貨庁は、ニュー・ヨークのコレスポンデンス銀行が排除されることを懸念する。さらに、本来、世界的なものであるドル決済システムとはほど遠い香港のシステムに、なぜ参加するのか? と。

しかし何より、その提案は香港にとって非常に好都合だが、他のアジア地域のセンターを犠牲にする、というのが最大の理由であろう。


The Russian economy: Boom and gloom

改革と安定性がロシア経済を収拾させつつあるのか? しかし、現実にはまだウォッカ経済が続いている。

実行力のある政府が誕生し、国民の支持も高い。7%の成長とインフレの低下、均衡予算が実現した。ロシアのビジネスマンは、盗むよりも投資することを覚えたのか。直接投資は近代的な工場と意欲的で安価な労働者による成功物語を示している。

しかし、回復の本当の理由は、石油価格の上昇と1998年の75%ものルーブル切下げである。優れた政策の結果ではない。ただし、少なくとも政府はそれを浪費しないようにしている。新しい支配者は、内外の投資家の信頼を得ることが重要だと理解している。それは安定性と尊敬を政府が維持することにかかっている。

もちろん改革が進むに越したことは無いが、それはまだ議論されているだけで、実現は難しい。唯一、大きな改革として13%のフラット・レイトが所得に課されることになった。しかし、ここでも不透明さが残っている。今年になって、公平さと魅力の指標である資本逃避が減少したことは、税制改革の成果であるかもしれない。

しかし、土地や銀行の改革については、強い反対がある。ロシアに貸すくらいなら核廃棄物を食べたほうがましだ、と言っていた投資銀行家たちが、株式や債券を忘れっぽい投機家に売ろうとしている。しかし、政府はIMFと構造改革について合意できず、パリ・クラブで旧債務の処理を行わない限り、新しい借り入れができない。

インフレが低下し、為替レートの安定すると、製造業の競争力が失われ始めた。資源以外では、ロシア企業のほとんどが世界市場で競争できない。設備投資は十分に行われておらず、ますます競争力が落ちるだろう。社会資本も人的資本も悪化している。

秘密主義や精神病的な振る舞いをやめて、外の世界に開放的になることが重要であり、政府の勝手な論理は必要ない。超大国の尊大さを捨てて、貧しい国の謙虚さを持つべきだ。