IPEの果樹園 2000

今週の要約記事・コメント

10/30-11/3

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政治家が自分で選挙制度を決めることには反対です。受験生が自分で答案を採点して合格発表したり、容疑者が自分で判決文を書いたりしてはいけないが、銀行が身内の企業に預金者のお金を融資しても税金で救済して良いし、政治家は自分たちが当選しやすいように制度をいじっても良いと言うのでしょうか? 

政治家がもっと新規参入しやすい制度を作るべきだと思います。一生、政治家であるとか、二世、三世まで政治家にする選挙制度は、民主主義と矛盾しています。既存の政党に依拠しなければ法案成立や制度変更、予算案に関与できないこと、選挙に巨額の資金を要すること、は間違っています。政治家自身に制度を変えることができないなら、既存の制度の外で、旧制度の崩壊を促すべきでしょう。

たとえば、さまざまな基準からの落選運動。インターネットによる情報開示。重要法案審議ごとの常時インターネット投票。特定候補に絞らない候補者支援センター。シンク・タンクによる政策提言。政治家能力・活動の評価・格付け。政治家の活動と資金を監視する特別な司法・検察制度。投票行動の分析と情報公開。投票動機と政治家の当選後の行動との比較チェック。国会答弁や委員会の全議事録をインターネットで公開し、さらにその検索・分類機能を充実させること。性別・年代による政治家の偏りに積極的な是正策やペナルティーを科す。国会機能を政治家以外にもっと活用させて充実する。…

自分が政治家になりたいとか、誰かを当選させたい、という政治組織や運動が、その目的のために政治そのものを堕落させています。彼らはむしろそれ以外の人を政治から遠ざけること、あるいは、買収や利益誘導の相手としてしか参加させないことで、自分たちの既得権を守っているのです。

私が政治家に求めるのは、しばしば対立する社会的な目標を合意に至らせ、また、合意された目標の実現を阻む障害を克服する方策を、たとえ困難でも、国民に受け入れるよう訴える、すばらしい演説だけです。それ以外のすべては、政治家に関与させないほうが良いと思います。政治家は儲からず、何の権限もないけれど、言葉(理想)で社会を指導するのです。

Far Eastern Economic Review

Issue of July 6, 2000

THE 5TH COLUMN: Asia's Monetary Regionalism

アジアにおけるスワップ網の形成は、地域主義が貿易から通貨制度に向けて新しい段階に入ったことを示す。それは、金融危機を回避する地域的な枠組みを目指している。1.流動性の地域的な共通化。各国の中央銀行が域内の外貨準備を互いに利用できるようにする。2.そのために、各国の経済運営に関する共通の監視システムを作る。3.IMFに頼らず、域内で流動性を供給する。

それは実現可能である。東アジアの外貨準備は20003月で8000億ドル以上ある(台湾を加えれば9000億ドル以上)。これはユーロ圏の3400億ドルをはるかに超えている。その1020%を地域の流動性ファンドにできれば、ワシントンからの支援は必要ない。

地域通貨協力・統合化の第一段階は、流動性ファンドに加えて、対外融資に関するロール・オーバー・オプションを地域として導入すること、金融機関の地域的な監督機関を確立すること、などである。第二段階は、各国為替レートの共通変動制度を導入すること。第三段階は、経済・通貨同盟を実現すること。また、東アジアの貿易体制を独自に継続し、要素市場の統合、たとえば国際的な労働力の移動は抑制しておくことも可能である。

日本は、アメリカの指導性を受け入れるだけでなく、地域通貨統合への指導性をもっと発揮できるだろう。中国は、現時点では、十分な準備と資本規制によって、この制度に加わる必要は無いが、将来を考慮して、中国もこの制度に加わることが重要である。

東アジア地域が金融危機から回復して世界経済の成長を再び担うことは確実である。そして地域通貨制度を確立することで、ヨーロッパやアメリカとは異なる、独自の地域的な要求を国際通貨制度について表明することができるだろう。

<コメント>

アジア各国は別々に外貨準備を保有するより、共同で安定化介入したほうが良い、と。しかし、逆も言える。他国の赤字を埋めるために、自国の外貨準備を使われるのは納得できない。他国の通貨危機のせいで、自国通貨まで不安定化するのはたまらない。それゆえ、共通の監視システムや政策調整の独立機関が一定の権限を各国から認められる必要がある。

アジア通貨危機はその必要を深く理解させたし、互いの改革を促進すること、それを地域的に支援することは、間違いなく有益であろう。個別に、対ドル、対ユーロで各国通貨が不安定化し、競争的な引下げ、資本流出が連鎖的に生じるよりも、域内の赤字国を自動的に融資する黒字国との合意が守られるなら、地域通貨安定化協定は通貨統合の基礎になる。

それは各国のマクロ経済管理を大幅に改善するのか? あるいは自国の経済管理を放棄して、大国の都合に合わせた経済調整コストを受け入れるのか? 各国は世界的にも、地域的にも、あるいは同盟諸国内でも、その選択肢をますます流動化させている。

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The Economist, October 7th 2000

The road to war

War in Palestine

l         宗教・政治的な<報復の悪循環>が始まった。

l         イスラエルの内部も含めて、パレスチナ人の積み重なった憤懣が爆発した。1.イスラエルは国連決議に従わない。2.イスラエルは占領地を返還せず、急進派が入植地を拡大するのを支援している。3.イスラエルは聖都エルサレムを軍事力で支配する。4.アラファトは間違っている。アメリカの仲介する交渉ではパレスチナの正義が回復できない。5.アラブの信仰を無視して、ユダヤ人はエルサレムで演説する。6.イスラエルの軍隊は、石を投げる子供にまで発砲して殺戮する。…

l         衝突による死者の数の圧倒的な不均衡

l         イスラエルの国内政治において、バラク首相が目指す右派との連携促進

l         アラファトの求心力低下

l         イスラエル内部のパレスチナ人にまで反抗が広がった。

l         イスラム急進主義がアラブ世界に支持を広げた。

l         双方の指導者が、エルサレムを非武装化し、ともに国家の生存を認め合う以外に、報復と殺戮を終わらせる道は無い。

Cambodia: Saving the children

Morocco: Children in the boiler-room

カンボジアの子供たちは、197579年のクメール・ルージュの大量殺戮体制で、家族が解体された結果である。プノン・ペンの町にあふれるホームレスの子供は、物乞いとゴミ漁りで生きている。最近、政府は、子供をSEXのために買いに来る外国人観光客へのビザ発行を規制する、と発表した。カンボジアは、幼児SEX愛好者の楽園、という評判を得ている。一晩2ドルで子供が買える。

政府はまた、養子縁組を斡旋・仲介する業者を整理し始めた。養子を探す外国人にとって、カンボジアは東南アジアで最も人気のあるところとなっている。規制が厳しくなっても、外国人は5,000ドルから15,000ドル支払えば、手続きを「円滑」に済ませる。しかし、いまだに政府は予算の40%を軍隊に使っている。

他方、モロッコの前近代的な封建国家は、子供の教育よりも低賃金労働に関心がある。工場主たちは子供を大人の3分の1の賃金で雇って、貴重な外貨を稼いでいる。彼らはILOの労働条件に従わない。国内産業を破壊し、子供たちを失業させて、街頭で暮らす乞食やギャング、売春婦にするのか?と。モロッコの伝統的支配は、未来をますます暗くしている。

Antitrust: The new enforcers

クリントン政権の最大の遺産は、反トラスト法を復活させたことだ。法務省(DOJ: Department of Justice)と連邦取引委員会(FTC: Federal Trade Commission)の訴訟件数が急増した。世界の80カ国余りが同様の反トラスト法を持っており、国際的な調査協力も行われている。

DOJ反トラスト局のジョエル・クラインは、先ごろまで政府と相談して価格を決定していた多くの業界が、そのような規制をすべて廃止している。市場によって価格を決める以上、それが競争的であることを保証するのが、反トラスト局の使命である、という。しかも、新しい技術はますます世界規模の独占を形成する懸念を強めている、と。

独占を規制する根拠は、消費者の利益、である。しかし、多くの経済学者が、その有効性を疑っている。政府が市場を競争的に保つ能力を持っているか? もし介入が不適当であった場合のコストは、むしろ利益よりも大きいのではないか? 新規参入を指数化して独占を判定するのは、既に時代遅れである。産業部門を狭く、固定的に捉えているが、現実の競争ははるかに厳しく、ダイナミックだ。「垂直統合」を消費者の不利益とみなす意見も、今では少なくなった。

特に、急速な技術革新がある分野で、反トラスト法は社会に多大の間違ったコストをもたらすだろう。一時的な独占利益の追求こそ、急速な技術革新を促すエンジンである。「ニュー・エコノミー」では、独占は決して持続できない。

反トラストの組織を統合・近代化し、国際的な運用の違いも無くす必要がある。そして、反トラスト法が経済に与えている影響を、訴訟が成立しなかった多くの場合もふくめて、社会的なバランスの観点から検討すべきだ。

<コメント>

アメリカが巨大な国内市場を利用して企業規模や技術革新をもっとも活発に行える、という点を、「ニュー・エコノミー」論は再発見した。世界的な市場統合が世界的な独占をもたらす可能性も、情報・通信分野、通貨取引・国際金融ビジネスで急速に標準化が進む可能性も、以前から指摘されていた。

反グローバリゼーション運動の標的は、IMFだけでなく、世界企業である。むしろ反トラスト法はグローバリゼーションの露払いではなかったか? 世界市場において、消費者や市民を守る社会的バランスを、法律は回復すべきだと思う。

Fighting America’s inflation flab

目盛りをごまかして痩せたと信じるダイエット中の人と違って、賢明な中央銀行がインフレの目盛りをごまかすことなどありえないはずだ。しかし、アメリカの連邦準備銀行は、いままでもそうしてきた、と批判されている。

個人消費支出デフレーターではまだ2%にも満たない、とグリーンスパンは言う。しかし、ガソリンなどを含めた個人消費支出のインフレ率は3%を超えており、さらにボスキン委員会以前の消費者物価指数CPIでは4%に近い。

正しい目盛りを求めて、中央銀行は常に模索しており、少なくともグリーンスパンの試みは信用されている。しかし、197374年に、正しいインフレ率を求めて、バーンズ連銀議長はCPIに手を加え、価格上昇の大きな品目を半分にまで削った。

<コメント>

日銀もインフレ目標を設定するように求められている。中央銀行が市場で信頼を確立し、透明性を高めて予測可能な金融政策を行うことが、金融市場を安定化する。正しい金融政策の判定基準や、市場の心理に影響する要因を分析し、誘導もしくは、ときに懲罰的介入を行う。

グリーンスパン個人に市場の信頼が依存しすぎていないか? と聞いたことがある。金融政策は、機械的なものではなく、アートである、とも聞いた。たとえ政治家や国民に嫌われても、バブルを潰した日銀やIMFは、本来の仕事をしたのだ、と言われている。金融政策に絶対的な基準や答えはない、とThe Economist も他の記事に書いていた。誰が中央銀行総裁を選ぶのか? 反トラスト法と中央銀行が、世界化する「ニュー・エコノミー」を管理する新しい中枢なのかもしれない。しかし、それもいつまで続くか?

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FT

Friday Oct 27 2000

Watch the dollar, not the euro

Samuel Brittan

もし何か心配するとしたら、ユーロの下落より、むしろユーロの価値が回復してドルが下落することを心配したほうが良い。アメリカの経常収支赤字は、それがもし活発な資本流入がなくなければ、大幅な通貨価値の下落やはるかに高い金利を必要とする。ドル安は、インフレを一気に加速し、Fedの金利引上げとバブル崩壊に至らせる。

もし単一の世界通貨や、圧倒的に支配的な単一の国際通貨で、世界の投融資が行われているなら、経常収支の不均衡はさほど心配する必要も無い。しかし、各国が異なる通貨を持ち、国際収支を報告しなければならない限り、経常収支は無視できない。

R.A.マンデルやR.マッキノンが提唱してきたように、もしドル=ユーロ=円で通貨安定化協定を結べたら、ますます不安定な証券投資に頼ることになったアメリカの経常収支赤字も、さほど心配することは無いだろう。しかし、主要国の金融政策は容易に協調できない。

<コメント>

通貨安定化協定を本当に必要としているのは、資産市場の騰貴と経常勘定の赤字を放置したまま、インフレ率を弁解して金融引締めを延期してきたアメリカである。次の通貨危機が起きるとしたら、それはEUでもアジアでもない。

しかし、アメリカの経常赤字は目新しいことではない。アメリカのバブル懸念もそうである。アメリカが恐慌の前夜にあるというのは、何年も聞いてきた話だ。

むしろ、こうした条件が実現しなかった理由は何か? 国際通貨制度の性格はどこが変わったのか? 主要通貨建資産の売買や投資の流れは、市場統合によって、アメリカ金融機関・企業による一極支配を強めたのか? 世界最大の債権国・日本の国内停滞や、ユーロ誕生の熱気が過ぎてEUから流出した資本が、ドル高とアメリカの経常赤字を支持したとすれば、逆にアメリカが世界に提供した需要を、世界は次の危機で失うに違いない。本当に心配するとしたら、アメリカではなく、世界である。

危機を予防する三極通貨安定化協定は、利害対立と政治家の不決断で成立しないと思う。そこで次の通貨危機を、銀行の倒産やバブル投資家の破滅だけでなく、アジアで起きたような実物経済のデフレ循環へと拡大させないために、ふたたび「機関車論」が必要になるだろう。ところが、EUとアメリカは協調できても、すでに累積赤字を抱えた日本政府は参加しにくい。参加した場合、日本に何が起きるのか? 本当に日本は、投資を新しい生産的な分野で活用する条件を世界に示せるだろうか?

多くの異なったシナリオを、無数の投資家が同時に追及し、小さなショックでもドラマの脚本が入れ替わる。それゆえ危機は、いたるところにある。制度の健全性を、誰が、どうやって維持するのか?

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The Economist, October 14th 2000

Arabs and Israelis watch threaten and kill

イスラエル国内の13人を含めて、パレスチナ人の死者は100人を超えた。ラマラでイスラエル兵士二人が1012日に殺害されたことで、イスラエルは猛烈に報復攻撃した。武装ヘリコプターを使って、ラマラと、アラファトの指令本部があるガザを爆撃した。衝突は激しくなり、さらに凄惨なものとなる。

エフード・バラクは、外交的勝利によってのみ国内政治基盤の弱さを乗り切ってきた。アラファトがこの戦闘を停止できなければ、バラクはその発端となったアル・アクサ・モスク訪問を行った人物、アリエル・シャロンを内閣に入れるだろう。そして中東和平は崩壊する。アメリカ、国連、ヨーロッパやアラブの各国が、戦争を回避するために調停を繰り返している。

他方、ヨルダン川西岸やガザ地区で、アル・アクサ・インティファーダを継続するためのファタハのビラが撒かれている。ファタハ内部で幹部の反対もあったが、ハマスやイスラム聖戦機構を含む、すべてのパレスチナ各派の団結を求めている。パレスチナ当局は約20人のハマス囚人を解放した。

東エルサレムやラマラのイスラエル入植地周辺では、イスラエル兵が入植者に報復の自由を与えるのではないか、とパレスチナ人が恐れている。109日、ラマラ北部の入植地の近くで、パレスチナ人の死体が発見された。その前日には、アメリカ生まれのラビの切断された死体が見つかっていた。

アラファトは今回の紛争の原因を究明する国際委員会設置を求めている。アラブ首脳会議も東エルサレムの主権確立を支援してくれるだろう、と期待している。しかし、クリントンの仲介には失望している。他方、バラクから見れば、クリントン大統領の仲介だけが国内の反対を抑えてくれる。バラクは反対派に挙国一致非常事態内閣を呼びかけた。その後、右派との連携は中止されたが、国内で強まる反アラブ感情にも配慮して、バラクは国内政治基盤を模索する。

さらに悪いことに、107日、レバノンではイスラエル兵士3人が人質になった。バラクは、アナン国連事務総長の仲介を期待しているが、国民は1985年に、3人のイスラエル兵解放と交換に1150人のパレスチナ人を釈放したことは失敗だったと考えている。イスラエル軍の将軍は、今回の誘拐に対して、いつ、どこで、どのように報復するかは、その権利を保留している、と語った。国境の軍隊は大幅に増強されつつある。


Is the end in sight?

この4月の高値からNasdaq40%も下げている。しかし、ほとんど無視されているが、もっと恐ろしいことがおきている。社債市場の買い手がいなくなることだ。最優良企業でも、社債の投資格付けは大幅に下がった。

投資格付けを持たない社債、すなわちジャンク債は、すでに炎上している。メリル・リンチのハイ・イールド・インデックスで見れば、それはすでに1998年のLTCM危機によるパニックのときと同じくらいひどい水準だ。どこかの投資銀行が10億ドル規模の損失を出した、という噂が市場で飛び交っている。

LTCM危機以来、市場の流動性枯渇は改善されなかった。二つの問題が指摘されている。一つは、リスクを取る投資銀行の数が減ったことである。もう一つは、洗練されたリスク管理手法(VARvalue-at-risk model)の普及が、市場の悪化する時期には流動性をさらに枯渇させることだ。

銀行は社債発行業務を分離して、儲けの大きな部分を担当者に与えているが、その結果、彼らはますます危険な社債発行を引き受ける。それは株式についても同じことである。直接、市場から資金を調達できなくなったテレコム関連企業に融資することは、かつての不動産投資と似てきた。すなわち、景気変動は増幅され、市場の過熱が突然に終わる。

Japanese bankruptcies: The slow death of Japan Inc

109日、日本で12番目に大きな千代田生命が倒産した。負債総額は29000億円(270億ドル)で、戦後最大の倒産規模となった。次々と倒産する日本の大企業は、共通の原因を抱えている。地下・株価の下落と不良債権である。会計基準の厳格化も会計上の損失を膨らませた。千代田生命もそごうも本業で利益を得られないのだから、救済することはできない。国内消費は弱く、新規の競争が激しい。経営の悪化が契約解除を加速させた。日本の生保は平均で3.5%の収益を保証しているが、この1年の投資利回りは2.5%しかなかった。

日本は多くの病んだ企業を閉鎖しなければならないし、金融システムは不良債権を処理してしまう必要がある。しかし、倒産の増加よりも、債務免除額のほうが急速に増えている。その大部分の企業は救済に値しない。政治家が失業を恐れて、金融機関に企業の存続を強く求め、赤字企業のいくつかは政治家に強いコネを持っている。直接に保険契約者を保護するほうが良いのに、こうした圧力により、銀行は保険会社に融資させられる。

また大きな銀行の倒産があるかもしれない。金融監督庁が融資継続に圧力を掛けたが、東海銀行がそれを断った。それは三和銀行との合併ができなくなることを恐れたからであった。そごう救済を破棄させたのも、特別な扱いに怒った国民の声に政治家が方向転換したからであった。

日本が甦るためには、たとえ苦しいものでも、さらに多くの倒産を歓迎するべきである。

Antipodean currencies: Waltzing me dollar

1月以来、オーストラリア(オージー)・ドルとニュージーランド(キウィ)・ドルはアメリカ・ドルに対していっしょに20%下落し、最安値を付けた。そこで、ニュージーランド人はオーストラリアとの通貨同盟を考える。

どちらも資源に依存した経済であり(しかしGDP比では、アメリカ以上にIT投資を行っているが)、大幅な経常収支赤字がある。ニュージーランドの企業の80%は通貨同盟を支持する、という報告もある。通貨を統合すれば、互いのレートが不安定なことを心配しなくてもよくなり、貿易や直接投資が増えるだろう。取引コストも下がり、オーストラリアに比べて高い金利を支払わなくて済む。

オーストラリアはもっとも大きな貿易相手国であるが、しかし、ニュージーランドの輸出の22%を吸収するに過ぎない。オーストラリアにとって、ニュージーランドの重要性はさらに低く、輸出のわずか8%である。それゆえ、為替リスクは決してなくならない。独立の金融政策を採れなくなれば、外部のショックに対応する重要な手段を失う。金利はオーストラリアの条件で決まるだろう。

両国はアジア太平洋経済圏で貿易し、互いに貿易、労働、資本のほとんど自由移動を認めている。しかし、その経済条件は必ずしも同じではない。特に輸出の構成には大きな違いがある。ニュージーランドの輸出品上位は、酪農品、牛肉、森林資源、であるが、オーストラリアは、石炭、鉄鋼、金gold、である。これらの国際価格はまったく異なった方向に動きうる。そして、両国の景気変動も一致していない。

総合的に見れば、それでもニュージーランドには通貨統合の利益がある、という。経済学的な理由ではなく、労働党政権が労働組合の交渉力を高めることを目指しているとか、成長を加速できると考えて支持している、と言われる。ニュージーランドの金融政策は、中央銀行の独立やインフレ・ターゲット導入で国際的なモデルとなっているが、アジア危機以後、引き締めを続けすぎた。それゆえ、通貨統合で金融緩和を裏口から導入したいのかもしれない。

しかし、最大の障害は政治であろう。オーストラリアが自国の通貨を放棄することなど冗談にも考えられない。あるとしたら、通貨統合ではなく、乗っ取りtake-overである。ニュージーランドがオーストラリア・ドルを採用すればよい。それは経済学的にはほとんど違わないが、政治的には受け入れ難いだろう。