IPEの果樹園 2000

今週の要約記事・コメント

10/23-28

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アジア通貨が再び混乱している。何が各国政府を迷わせるのか?

国内の成長を維持するためには、経常収支の赤字を抑制し、輸出の拡大を目指す必要がある。多くの活発な輸出部門と世界中に輸出市場がある国(A)でなければ、自国の主要輸出品、主要輸出先が安定している限り、為替レートを一定の範囲にとどめようとするだろう。しかしそれが事実上固定され、調整が必要になれば、この政策は投機に弱く、介入のコストがかかりすぎた。

確かに、変動制をとれば投機の問題は解決する。というより、投機に目標を与えない。少なくとも資本市場が平穏な時期には、実体経済の変化に沿って為替レートが変化する方向で、投機も作用する。

では、通貨危機はなくなるか? もし短期資本取引が規制・抑制されていれば、実体経済の変化や外部のショックに対して、経常収支不均衡が長期資本の流出入で緩和される。あるいは、長期資本の維持できる水準が国内の成長を制約する。その結果、長期資本の奪い合いと各国の政策変更・国内の規制緩和などが通貨危機に取って代わるだろう(B)。しかも、長期資本の供給を支配する先進諸国の資本市場や多国籍企業は、世界の周辺部に対する投資に極端な調整コストを負わせるかもしれない。

そこで、資本市場の自由化をさらに進め、国内金融制度の改革と、債務に依存した成長を改めること、金融革新によるリスクの切り離しや資本の効率的な配分を促すこと、がアジア諸国にも求められる(C)。他方、世界の金融管理体制が資本市場の混乱を最小限に抑制し、通貨危機に際して周辺部の困難を緩和する措置が採られることを必要とする。しかし、彼らが発達した金融市場を確立できないならば、自由化は無理である。

他方、主要通貨市場が平穏な時期も続かない。為替レートは主要国の国内不均衡を緩和するためにも大きく変動する。それゆえ、小国は多国籍企業や国際投資を通じてこれら三つの通貨圏に市場を分散しておくか(D)、あるいは一つの通貨にリンクすることになるだろう(E)。多くの条件や要因が変化しつづける中で、その選択は容易でない。

通貨危機のたびに、各国政府は選択を問われている。この先も彼らの迷いは深まるばかりだ。投資を安定的にひきつける魔法の杖が無い限り…。世界経済が長期の成長を実現した時期には、それが制度として合意されていたのではないか?

New York Times, October 18, 2000

RECKONINGSWe're Not Responsible

By PAUL KRUGMAN

クルーグマンは、二人の大統領候補がもっと直截に財政黒字を支持していないことを、厳しく批判する。アメリカは三つの理由で、今こそ、財政黒字を拡大しておくべきである。第一に、唯一の超大国となったことで、軍事費を削減できる。第二に、人口の高齢化はまだ始まっていない。第三に、世界中の投資家がアメリカ市場の成長を期待して資本を流入させている。これらの条件はいつまでも続かず、特に、最後の条件は、突然に資本流出に変わるときがくるかもしれない。

責任ある政治家は、国民に長期の選択を示すべきである。しかし、アル・ゴアは社会保障や医療保険制度を票集めに示すだけであり、ジョージ・W・ブッシュは財政の黒字を今すぐに食べられるケーキだと主張する。見たい数字だけを並べて、見たくないものは見せない、というジョージ・オーウェルの描いた悪夢の未来社会では、「真理」や「愛」も嘘の宣伝道具であった。

/アメリカの政治家がこれほど批判されるとしたら、日本の政治家や官僚、銀行、企業はどうなるのか? 多くの重役や頭取が自殺するのは、組織を担う責任によるのだろう。しかしそれは、倒産や企業の合併・再編・買収など、そして雇用や教育制度の選択・退出・再訓練、政治家の監視・交代・選挙制度などについて、日本の組織原理や制度の見直しが必要なことを示している。しかし、長く望まれていながら、日本では改革が進まない。

それはどのように始まるのか? そして、責任を感じる者だけの「自殺」ではなく、改革の優れた展望を持つ者に、どうすれば富や権力が速やかに移行するのか? 東欧やロシアの移行経済、ヨーロッパの通貨統合、アジア通貨危機後の諸国、あるいはアメリカの株式市場など、社会は制度の改革をそれぞれに必要とし、苦しみながら実行している。日本の政治家は、このことを直截に国民に対して説明し、論争してこなかったと思う。

そして日本は、アメリカのような好条件をもたない。アジアの安全保障はますます揺らぎ、国内では高齢化が急速に進み、海外どころか国内の投資家さえ日本の停滞に失望している。何より、財政赤字の累積が今も続いているのである。日本の政治家は何を目的に行動しているのか?

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The Economist, September 30th 2000

Intervention, the euro and oil

プラハで抗議に集まった運動家たちは、間違ったところに押し寄せた。しかし、世界経済を管理する重要な決定は、IMF・世銀総会ではなく、その前日に市場介入として既に行われていた。しかし市場介入は、それを始めることよりも、成功することが難しいのだ。

まず、922日、アメリカ・イギリス・ヨーロッパ・日本の中央銀行がユーロ買い介入を行った。その額は30億〜50億ドルであっただろう。ユーロは85セント以下から90セントに戻したが、その後、下落した。

そして、同じ日に、アメリカは戦略石油備蓄から3000万バレルを市場に放出して、石油価格の上昇を緩和する、と発表した。IMF総会でも石油価格の引下げが要請されて、原油価格は37ドルから31ドル余りに下落した。

しかし、プラハでも特にユーロ買い介入は有効性が疑われた。なぜなら、介入が成功する条件を満たせないからである。すなわち、介入が通貨への投機的なバブルを抑制し、基本的な政策の変更を示し、主要国の協調が確立され、しかも繰り返し大規模に介入する、という条件である。この条件のどれも、ユーロには当てはまらない。ユーロの下落はヨーロッパからアメリカへの長期資本の移動によるものだし、ECBは政策を変更しないと述べ、アメリカのサマーズ財務長官は強いドルを支持している。

石油市場への介入も、この先何ヶ月石油価格の上昇を抑えられるか疑わしい。政府は無制限に介入する圧力を受けるだろう。サマーズは準備を価格安定化の手段として使うことに強く反対していたが、経済的ではなく、政治的な理由で退けられた。

/ユーロが回復し、原油が安くなることで、誰が儲かるのか? たとえば、ユーロで商売し、原油がコストとなっている、ヨーロッパに進出したアメリカの多国籍企業である。ユーロの下落で損をしたのは、ユーロ建資産の保有者であり、原油の高騰で損をしたのは石油輸入国やそのコストを支払う消費者である。さらに、ユーロ建資本市場の育成を目指し、世界の成長維持を目指し、あるいは過熱気味の国内経済を抱える政府はインフレ目標に沿った金融引締めを引き伸ばすことに、利益を見出したかもしれない。

政治家たちは協調介入に合意できたが、それがいつまで続くかは分からない。結局、アメリカは株価の下落で、再度の介入に同意しなくなっただろう。

German Unification: Togetherness, a balance sheet

1990103日に、6200万人の西ドイツ市民は、1600万人の東ドイツ市民を正式に受け入れた。二つの経済は大きく異なっていた。その後、10年間に、12000億マルク(5400億ドル)、今年の国家予算の2倍以上、の財政資金が投じられた。東ドイツは、ヘルムート・コールがそう呼んだ、「輝く大地」へと変わるはずであった。

4年の再建熱が過ぎると成長は低下し、「キャッチ・アップ」は止まったように見える。建設業は危機にあり、この3年の成長率は1.22%である。一人あたりGDPは西の3分の2であり、失業率は2倍以上、17%もある。賃金は25%低い。インフラが西と同じ水準に達するには、あとさらに3000億〜4000億ドイツ・マルクの公的資金が必要である。

共産主義崩壊による変化は、他の多くの国でも起きたが、東ドイツの場合、一夜にして何もかも新しいシステムが持ち込まれた。それは合併ではなく、乗っ取りであった。良いものも悪いものも、何もかもが投げ捨てられた。そしてすべてが西ドイツのモデルに置き換わった。

人々が自由と豊かさへ殺到したことで、東ドイツは崩壊した。しかし、多くの東ドイツ市民に残されたのは、老朽化と債務で行き詰まった企業、非効率な集団農場だけであり、4分の3の労働者が職を失った。しかも通貨の交換レートが、政治的な理由で11と決められたことで、東ドイツの生産はさらに壊滅した。ベルリンの壁が崩壊する直前、東ドイツ・マルクは公式に8対1で、闇市場では201で、西ドイツ・マルクに交換されていた。東ドイツの主要な輸出先であったソビエト・ブロックが消滅した上に、消費者は強力な西ドイツ・マルクで西側製品を購入した。約200万人の労働者が仕事を求めて西へ移動し、労働力の3分の1が失われ、なお100万人が失業していた。

そこから東ドイツは出発した。再統合は、猛烈な勢いで経済を変革した。家計の純所得は西ドイツの90%にまで近づいている。西側に比べて、労働生産性は41%から67%に、雇用当たり固定資本は20%から75%に達し、単位労働コストは12%高いだけである。70%の雇用を失った製造業も、今では二桁の成長を続け、輸出が今年前半は3分の1も伸びている。

住宅の質も大きく改善されたし、持ち家や高級マンションも増えた。確かにまだ、無数の建物が廃墟になり、道路には穴があいて、鉄道には雑草が茂っている。しかし、都市の中心部には高級住宅やショッピング・モール、カフェなどが並ぶ。そして郊外にはハイ・テク研究施設や展示場が建てられ、東の工場の4分の3以上が1990年以後に建ち、自動車道路が各地を結びつけた。鉄道も電化され、世界最新鋭の電話システムが準備されている。共済主義時代の恐るべき環境汚染も消滅し、川には再び魚や植物が戻っている。

しかし、統合は多くの勝者と敗者とを生み、たとえ生活水準が改善したとしても、自分たちを「下等市民second-class citizens」のように感じる。銀行や企業だけでなく、公的機関や政治においても、すべての指導的立場には西ドイツから人が来る。互いの偏見や態度が、今後も続く財政移転に不信感をもたらしている。

若い世代には積極的な楽観論もある。無数の新企業が設立され、その多くが失敗するが、それでも過去10年で約50万社が生き残り、300万人に雇用をもたらした。他方では、社会変化やイデオロギーの喪失に敗北感を強め、絶望する者も多い。共産主義の体制は、彼らにスポーツ・クラブやレジャー、安価な集団的休日を与えてくれていた。そして、少数ではあるが、極右やネオ・ナチに失ったアイデンティティーを求めるため、東側の人種差別や暴力は西側よりも高い。

東ドイツは、確かにまだ、「経済の原動力」とはなっていない。しかし、特に製造業では、急速にそうなりつつある。財政支援で何もかも平等にしようというより、地域の差異を残した「競争的な経済」へと変貌するのである。短期的には東ドイツが自立的な成長を実現するまでには至らず、財政移転をめぐる論争が続くだろう。しかし次第に、東ドイツは自分たちの改革に自信を持ち、西ドイツもそのことを認めるようになるだろう。

Cutting the oil price: It may not work

SPRは戦略的Strategicじゃなくて、恥知らずなShameless石油備蓄だっけ? などと頭を掻く人もいただろう。確かにクリントンは原油の世界価格を何ドルか下げた。アル・ゴアの要請を受けて、彼の選挙を支援するため? たとえ、サマーズ財務長官は反対しても。表面的には、ヨーロッパの諸政府が歓迎し、OPEC参加国のいくつかも慎重な言い回しで支持した。

しかし、議会はこのような無責任な前例を作ったことに立腹している。価格を操作するよりも、貧しい消費者に暖房用石油補助金を与えたほうが良かった。しかも、この介入は効果が無い。結局、この冬の危機は避けられない。原油価格が下がっても、精製業者を強制することはできない。原油不足は問題ではなく、東海岸の暖房用燃料が足りないのだ。それに介入の時期が悪い。騰貴のピークはこれからであり、北半球の冬はこれからだ。市場は「10月危機」を心配している。イラクのサダム・フセインはクウェートの油田を自分のものと主張しているし、たとえ武力行使に至らなくても、石油市場に影響できる。

コネティカットに最初の寒波がくれば、この3000万バレルの放出では価格を抑えられなくなる。クリントンは次の放出を決断するしかない。つまり、もしアル・ゴアの人気がブッシュに劣っていれば。

China’s State-Owned Enterprises: The longer march

シェンヤン(Shenyang藩陽)は、かつて満州国の首都であり、1950年代には毛沢東の唱える労働者の楽園であったが、現在、ほとんどの工場が崩壊している。他方、通りには商店があふれている。労働者は国営企業に雇用されているが、賃金は支払われず、こうして市場で品物を持ち寄って、商売しているからである。

遼寧省の国営企業SOEsは300万人を雇用しているが、労働者の約18%は事実上のレイオフ状態にある。それでもまだ3分の1から半分の労働者が過剰である。共産主義者にとって労働者の雇用と福祉は存在理由にかかわっており、改革・開放政策の開始から、目前のWTO加盟まで、SOEsの改革問題はもっとも重要であった。

生産量で見れば、SOEs1970年代後半の75%から現在の28%まで低下している。しかし、都市部の雇用の44%、政府収入の70%はSOEsに依存している。事実上、中国の重工業はすべてSOEsであり、中国の資本のほとんどすべてを使用していながら収益を生んでいない。そして最も重要なことに、銀行融資の80%がSOEsに対するものである。GDP25%に達するこの融資がもし返済できないとなれば、金融システムが危機に陥る。

中国の目覚しい将来を信じる者たちは、その問題の大きさを理解していない。たとえ資本市場を導入して改革を促しても、SOEsの株式発行だけでは決して十分ではない。現在のSOEsは政府官僚機構の一部であり、工場は幼稚園から病院、娯楽施設まで提供する町に等しい。

中国は市場改革を選択した最初の社会主義国であったが、それは東欧等の「ビッグ・バン」アプローチではなく、ケ小平が言うところの「川底の岩を足で探りながら渡る」方式であった。1980年代、投入物と産出物の価格が自由化され、企業を独立させる法律を作成し、破産法や複式簿記を採用した。SOEsは利潤を企業内部に保有できるようになり、1990年代には、経営を政府から分離して、銀行に債務を返済させるよう命じた。その結果、1985年には10%、1998年には半分のSOEsが赤字になった。改革を加速させねばならない、という政府の主張は、民営化を意味すると受け取られている。

2000年末までにほとんどのSOEsを黒字にする、という政府の約束は、でたらめな統計によって問題を隠している。何より、SOEsの生産物には市場が無い。注文にあわせて製品化するより、製品にあわせて購入者が利用していた。それでも工場は過剰投資できた。資本のコストは関係なく、特に1980年代後半には、管理できない西側の機械を輸入して、労働者には賃金を支払わなかった。このような過剰投資は株式を上場して資本を調達した企業に多かった。企業は株式上場のために関連会社を作って債務を移転したが、こうした企業の債務は決して支払われないだろう。

金融的な悪循環が起きている。国営企業は預金を集めて、国営企業SOEsに融資する。それは税金や運転資金となるが、結局、生産物は売れないのだ。その結果、国民の貯蓄が何の価値も生んでいないことを知れば、このシステムは崩壊するしかない。

SOEsの経営者は彼らが負わされた制約を批判する。解雇できないし、多くの義務がある。政府や共産党、地方の官僚が経営に口を出し、勝手な税を押し付けて利益を吸い上げる。「合理的な」経営者は、それゆえ、利潤を報告せず、できるだけ多く借り入れる。さらに帳簿をごまかし、資源を隠匿するのである。政府はSOEsを分類して、望み無し、不良、潜在的な宝石、と分類した。専門家によれば、それぞれ、50%、40%、10%、であるという。

優良企業による合併や政府によるリストラ策に関して、改革には二つの異なる方針がある。一方では、企業をいっそう自立させ、完全に民営化する道である。しかし、何が所有権として認められるのかが明確でなく、法律なども整備されなければ、民営化は成功しない。もう一つの道は、SOEsへの財政からの資本供給を断つこと、である。銀行を使った厳しい予算管理や破産法が、経営者を正しい行動に向かわせる。

しかし、中国は急がなければならない。不況が来る前に、大胆な改革を行い、SOEsを整理しておくべきであろう。

Gambling with the mighty greenback

政府による市場介入を、プラハに集まった反市場の抗議運動は歓迎したかもしれない。しかしサマーズ財務長官は、強いドルはアメリカにとって良いことだ、という経文を繰り返した。介入に反対してきた彼が、今回の協調に参加したのは、ユーロが始めて協調を依頼したからである、という。古い友人への義理立てということだ。

サマーズはドル安をアメリカ企業のために図ったという見方を強く否定した。確かに、インテル、マクドナルド、ジレットなど、アメリカ企業のヨーロッパでの収益がユーロ安で悪化した。しかし、通貨介入が市場全体を引き上げることは無いだろう。

そのような利益の増加よりも、株価不安のほうが重要である。すなわち、ヨーロッパの投資家はアメリカの株式や債券を大量に保有している。ドル安はこの資本を流出させる恐れがある。ユーロ誕生以来、アメリカへのユーロ圏からの純資本流出は2610億ドル、ユーロ圏のGDP4%以上に達し、その約半分は株式市場に投資された。資本流出はアメリカの社債市場を特に破壊し、企業の投資が難しくなるだろう。アメリカの繁栄を支えた投資が急激に減少する恐れがある。

デフレが生じないとすると、逆に、インフレの問題がある。ドル高は今までアメリカの消費者物価を抑制していた。ドル安によってインフレ率が高まると、Fedは金融引締めをしないという今の市場の信頼が崩壊する。

ドル安は世界経済の成長率を低下させるかもしれない。なぜなら、世界経済の成長はヨーロッパと日本の景気回復にかかっているが、その基本はアメリカへの輸出である。ドル安による輸出の減少を、ヨーロッパや日本の消費者が埋め合わせるのは難しい。

こうしてサマーズは、ユーロ買い介入を行うことで、危険な火遊びをした。なぜなら、サマーズはルービンよりも強いドルへの関わりが弱いと疑われている。エコノミストの多くは、ドルが過大評価されていると認めている。そしてアメリカには巨額の経常赤字があり、資本流出に対して脆弱である。市場真理が逆転すれば、為替市場は過剰な反応をすることで有名である。つまり、サマーズが思う以上に、ドル暴落は近くにある。

Trade: From boom to boon

アメリカの外国貿易会社FSCに対する課税問題が、年末までに欧米間の次の紛争になるだろう。それはしかし、EUが補償としてアメリカに市場開放の譲歩を求めるならば、貿易戦争を終わらせる好循環をもたらすかもしれない。

いままで、バナナやホルモン投与牛肉のヨーロッパの扱いに対してWTO違反が認められ、これに対してアメリカの反ダンピング法や知的所有権を保護する著作権法の一部に関してWTO違反が認められた。そしてFSC紛争である。アメリカはFSCに代わる新しい法案で、異なるチャンネルから一層多くの補助金を与えるつもりである。

しかし、ゲーム理論が言うように、この報復合戦 “tit-for tat” は互いの制裁によるコストを大きくし過ぎて、協調によって終わらせるしかないところまで来てしまった。クリントン大統領は制裁の繰り返しを延期するよう命じ、ヨーロッパは不服審査機関で時間をかけることにした。

ヨーロッパは次の大統領が就任するまでに、譲歩を得るチャンスがあると考えている。もしアメリカがヨーロッパに市場開放の譲歩を認めるなら、ヨーロッパの輸出産業もアメリカの消費者も利益を得るだろう。そして報復合戦はもはや魅力が無くなる。なぜなら、各国は「処罰」されることで幸せになれるから。

Japanese finance: In a prickle

日本の政治家は累積する国債が将来の深刻な問題になることをやっと理解し始めた。

日本政府は、1992年以来、120兆円を支出してきた。政府の累積債務は過去5年間で50%も増え、4月に500兆円を超えた。地方自治体やその他の政府保証債務をあわせると、その総額は675兆円、GDPの136%に達し、豊かな諸国の中で飛び抜けて大きい。その影響でムーディーズは日本国債の格付けをAa2に下げた。これほどの資金が無駄な建設計画や間違った情報技術構想に費やされてきた。しかし、問題はそれ以上である。

政府はまだ、10年もの国債で2%弱という、恐ろしく安価な借り入れを続けている。それは銀行や生保が、インフレ懸念が無いので、リスクの無い資産として国債を大量に購入しているからである。しかし、これは永久に続かない。このまま増加すれば、国債にリスクが無いとは言えなくなる。

それは単に政府の利子支払が増えるだけではない。既に弱っている金融部門や、非金融部門の企業にやっと見え始めた回復を吹き消してしまうだろう。企業が国債の価格暴落やインフレを心配するにつれて、資金を海外の債券に向けるかもしれない。そして企業に投資化が続き、日本からの資本流出と円の暴落という予言が証明されるかもしれない。

さらに悪いことには、政府は日銀と意見調整ができていない。政府が企業を立ち直らせようとしても、日銀の引き締め策は反対に作用し、デフレ圧力と円高を招く。インフレが見えてくるまで、日銀は金融緩和のために通貨を印刷し、政府は財政支出を削って増税するべきであろう。不幸にして、政府にそんな意欲は無い。また政府には日銀を強制する政治的な指導力も無い。

自民党の改革派は財政改革を議論しているし、最大野党の民主党は公共支出削減を主張し、都市部では支持されている。しかし、日本に残された時間はあるのか? 日本の問題処理能力の低さが大きなコストをもたらすことは、容易に想像できる。