IPEの果樹園 2000
今週の要約記事・コメント
10/16-21
*******************************
民主党ゴア候補を支援するはずの戦略石油備蓄の放出や、株価不安を緩和するはずのユーロ買い協調介入は、わずか2週間でまったく効果が失われた。世界経済を政府が管理することはできない、という教訓を改めて学ぶべきか? あるいは、中東におけるパレスチナの正義を支援できず、石油を支配する王族や石油資本の不平等にも課税できない、世界政府の不在をさらに強く批判すべきか? むしろ、石油価格の高騰と株安で世界的なデフレが急速に現実化し、グリーンスパンが大統領選挙前でも金融緩和に踏み出すのか?
株式市場の動向は予想できない。もし極端な連鎖的暴落が始まれば、それでも市場を放置するのか? 確かに公的資金で国際協調介入もできないだろう。しかし、主要国の国債が共通の市場を形成すれば、次第に国債市場への協調介入が「国際的な最後の貸し手」や公開市場操作に近づくのかもしれない。あるいは、地域規模でなら実現する…?
Financial Times, Tuesday Oct 10 2000
Poland's economic miracle
Barry Eichengreen
ドイツ再統一から10年が経った。1990年に、東ドイツとポーランドの将来を予想した者の多くは、西ドイツの戦後の奇跡的復興と東・中央ヨーロッパの停滞を描いただろう。しかし、結果は逆であった。なぜ西ドイツから制度を何もかも輸入し、莫大な財政支援を受けた旧東ドイツは停滞し、何の支援も受けられなかったポーランドが急速な復興を遂げたのか?
答えは、もちろん、経済政策である。ドイツの政策を決定したのは、彼らが戦後に経験した、東からの貧しい移民流入に対する恐怖心であった。それゆえ東の住民をそこに留めておくことを目的に、高賃金政策が採られた。しかし、それは間違いであった。中小企業の設立は阻害され、外国からの直接投資も排除された。また、投資に対する過度の補助金は、優秀な労働者が失業しているのに、設備への過剰投資を奨励した。
しかし、移民は決して賃金格差によって生じるのではない。家族や知り合いを頼って、住宅や雇用機会に従って、労働者たちは移住する。移民の恐怖は大幅に誇張されていた。
にもかかわらず、EUは東への拡大に慎重になっている。ドイツやオーストリアでは、移民の恐怖を煽る発言が繰り返され、労働者の自由移動は選別的に行われようとしている。ドイツ再統一の教訓を、人々は正しく学ぶべきである。
The Economist, September 16th 2000
A French pox on them
9月9日、パリで、社会党政府のジョスパン首相は、抗議活動を続ける大型トラックとタクシーの運転手たちと合意した。ディーゼル燃料を今後2年間で30億フランス・フラン(約4億ドル)減税する、と。パリの混乱は急速に収拾された。しかし、このフランス病はヨーロッパ中に蔓延し始めた。
市民の直接行動で政府に譲歩させる、という発想が、イギリス、ベルギー、オランダ、ドイツ、デンマーク、ノルウェイ、スペイン、へと拡大した。皮肉なことに、EU議長国のフランスが(むしろ原因なのに)、ヨーロッパ規模の解決策を進めることになった。
長期的な解決策は、燃料政策・課税をEUで統一することである。しかし、それは運輸大臣たちの手に余る。彼らは、EU内の石油製品を自由に流通・販売できるように考えた。オランダは規制緩和を求められている。さらに、EUの競争政策に関わり、ドイツの対応次第では、デンマークとドイツの輸送業者とが直接に競争するようになる。
燃料税の一時的な引き下げも検討されているが、それはOPECに間違ったシグナルを送ることになる、と警告されている。なぜなら、課税によって原油の消費や価格は引き下げられている、とOPECは批判しているからだ。
石油価格と税金に関する論争は激しいが、大衆の関心は高くない。通勤に自動車を使わない労働者も多いし、自転車で通う者もいる。さらに、直接行動に向かうと考えられていた南欧では、抗議が抑制されている。フランス式の、行動から交渉へ(その逆ではなく)、というスタイルが、ヨーロッパで支持されることは問題であろう。
/ギルピンの指摘は興味深い。(「経済学2」参照)石油危機の影響は二重である。しかも調整問題は、そのコストをインフレ的に吸収する国と、デフレ的に封じ込める国とが、国際市場で競争するときに深刻になるだろう。
インフレ国は通貨価値の下落を受け入れ、輸出拡大でますます調整コストを緩和できる。しかし、他方、デフレ国がいっそう輸出に励むから、結局、インフレ国の通貨価値下落は非常に大きくなり、不安定化して、通貨価値の安定的なデフレ国に資本が流入し、デフレを緩和するかもしれない。あるいは逆に、深刻なデフレの国から資本流出が起きるのか? 各国の生産力余剰と市場の反応が重要になるだろう。
Oil’s taxing times
ガソリンへの高い税金がヨーロッパで政治論争になっている。たとえば、なぜ北海油田を持つイギリスがガソリン価格の高騰で苦しむのか? そこで批判者はガソリン税を責め、政治家は石油会社を責め、石油マンたちは税金やOPECを責め、そしてOPECは西側政府を責める。では、誰が悪いのか?
政治家たちは抗議の声に今のところ強硬姿勢を保っているが、長くは続かないだろう。しかし、税金は石油価格の高騰の原因ではない。ヨーロッパの政府は石油消費を抑制し、その利用効率を上げるために、高く課税してきたのだ。今も、税率が上がったわけではなく、3倍になった原油価格のコストが消費者に転嫁されてきたことが問題である。
原油価格の不安定性による悪影響を抑制するために、ヨーロッパと日本の政府はこの政策を採用した。不安定な価格変動の原因は、生産削減による価格引き上げを目指すカルテル、OPECである。価格高騰に対して、加盟国の割当量を増加し、安定価格帯($22〜$28)を維持する構想を発表したが、実現は疑わしい。生産枠の増加は10月1日まで始まらず、しかもたった2ヶ月に限っている。
OPECは、頻繁に会議を開いて価格を誘導しようとする。しかしIEAの会長は、一方的な管理で価格が安定できると思うのは愚かであり、むしろ不安定化をもたらす、と述べた。他方、アメリカ政府もアメリカ北東部に石油を供給するため、政府介入を行おうとしている。アメリカが市場で石油を求めれば、石油価格はさらに上昇するだろう。
石油価格の不安定化は、OPECだけのせいではない。石油会社の在庫抑制、「ジャスト・イン・タイム」方式の採用による。過剰な在庫を減らして収益を高めることは株式保有者の利益になるが、貴重な緩衝在庫を失う結果になった。また、近年、石油会社が合併の標的となっており、大きな転換を迫られている。特に石油価格が10ドルに下落したとき、エクソンとモービルが合併し、巨大企業が潤沢な資金で合併を進めた。
しかし、最も重要な要因は輸送分野にある。石油の利用効率は大幅に改善されたのに、輸送部門では石油に代わるものがない。豊かな諸国は以前の危機から多くの教訓を学んでいるが、それでもまだ、石油危機はその経済を絞め殺すことができる。他方、イギリスやヴェネズエラでは石油労働者のストライキが石油供給を脅かす。石油は両刃の剣である。
/石油価格の安定化は、代替燃料や競争的な供給条件、商品先物市場などで可能になるのか? あるいは石油価格の変動を、緩衝在庫や補償融資制度で平準化できるだろうか? 成長通貨と自動的な安定性を兼ね備えた、国際商品準備通貨制度の実現を考えてみたい。
Stumbling yet again?
ユーロはふらつき、成長率も見劣りがする。ヨーロッパ通貨統合は完全な失敗であった。そして、ヨーロッパ経済は決して変化できない。…こんな結論を導く人も多い。しかし、どちらの結論も間違っている。間違いどころか、ユーロは実際にヨーロッパ経済の変化を促している。そして、多くの意見とは逆に、次の十年間により急速に成長し、より多くの投資機会があるのは、アメリカではなくヨーロッパである。
新聞の見出しは、1ユーロが86セントを下回り、記録的な安値更新、誕生以来27%の下落、と騒いでいる。しかし、ユーロを構成する通貨の過去の記録を見れば、1985年前半の69セントが最低である。ドイツ・マルクを見ても、1985年と比べると、今はまだ50%も高い。
また、最近のユーロ安が経済にとって問題である、というのも間違っている。逆に、それは経済の回復を助けている。ユーロの価値下落は、それがインフレ高進や投資家・消費者の信頼を低下させて支出を減らす場合にだけ心配される。今のところ、インフレ(2%の目標に対して7月に2.4%)に対してECBが金利を引き上げただけで、そのインフレもアメリカ(3.5%)に比べれば、まだまだ低い。
ユーロの誕生は、国際通貨としてドルをただちに凌駕し始める、と喧伝していた政治家にとっては、確かに都合が悪いかもしれない。しかし、それはヨーロッパ通貨統合の成否と関係ない。日本を見れば分かるように、通貨の価値が高いことは経済の活発なことを意味しない。より重要なことは、ユーロが経済構造の転換を促しているかどうか、である。それこそが、この地域の将来の成長を約束するのである。
アメリカの「ニュー・エコノミー」には二つの柱がある。高率のIT投資と労働生産性の上昇、である。そのどちらも、ヨーロッパには欠けていると言われてきた。しかし、統計の取り方や、期間を変えれば、一人当たりGDP成長の較差は小さくなる。全要素生産性の変化は逆転する。
では、これからの10年間に何が生産性を高めるだろうか? 投資家が自分のお金をどこに投資すべきか決めるときに、それが最も重要な問題だ。アメリカのFedは、ヨーロッパの労働市場が硬直的なために、そこでは技術革新の成果を実現できない、と主張してきた。しかし、事実は予想を越えて変化している。単一通貨ユーロによって、政府も企業も経済の効率化に向けた圧力を強めている。
労働市場の弾力性は高められた。労働時間の規制やストライキは相変わらずだが、目に見えない形で弾力化が進んでいる。政府はパート・タイム雇用や短期の雇用を認めた。インフレ抑制と両立する失業率も低下した、と期待されている。労働市場の効率化がより多くの労働者を雇用し、資源配分も効率化して、ヨーロッパの成長率を2倍にする。
ヨーロッパの資本市場も根本的に変化した。単一通貨により、年金基金が国境を越えて投資する障害が大幅に減った。その結果、企業はよりいっそう株主の利益と配当率向上を意識するようになった。企業買収が増え、敵対的買収も増加している。銀行や証券会社もヨーロッパ規模で整理統合されている。単一市場とユーロが、今まで眠っていた各国の老舗企業を目覚めさせ、変革を強いている。
しかも、ユーロ圏全体では、この半世紀を通じて初めて、財政黒字に転換するだろう。これによって政府が財政改革を実行できる。そして単一市場が競争的な財政改革の圧力を高める。個人所得税を53%から42%へ、また法人税は40%から25%へ削減するという、もっとも大胆な改革を打ち出したドイツの方針は、その他の政府に追随を強いるだろう。それは個人や企業に誘因となって、投資をより魅力的にする。
これまで規制で機能していなかった市場が自由化される。アメリカのように移民流入はないが、新しい雇用が労働供給を拡大する。この先10年間のヨーロッパの成長は、労働力の追加とIT投資による生産性上昇が容易であることから、アメリカよりも高くなるだろう。
*******************************
Financial Times, Thursday Oct 12 2000
Editorial comment: New balance in Asia
Lee sees rise of Japan's influence
By Peter Montagnon, Asia Editor, in London
アジア金融危機へのアメリカの消極的対応、WTOシアトル大会の失敗。この二つがアジア諸国の政府を地域主義に向かわせ、より自覚的にアジア戦略を志向する日本政府に主導権を与えている。
日本政府の動機は、むしろ自己防衛である。一方ではユーロ誕生で円の重要性が薄れ、他方で中国のWTO加盟は工業力の移転を促す。それでも日本はアジア最大の経済であり、建設的な指導権を発揮するべきであろう。そのためには、日本のナショナリズムを抑止すること、アメリカをアジアの安全保障体制から離脱させないこと、である。
地域主義は次善の策であり、アメリカはWTOによってアジアを国際秩序につなぎとめておくべきである。
/WTOの失敗がどれほど重要なのか、疑問に思う。アメリカの多角主義が後退したことは今更いうまでもない。他方で、ゴアが新大統領になり、労働組合に借りを作れば、次の貿易交渉が進まないだろう、という指摘に注目した。
日本のAMF構想はIMFの一部に吸収されるかもしれない。他方、中国のWTO加盟は中国政府の戦略的な選択であった。すなわち、対外開放・市場圧力によって国内改革を実現したい、ということだろう。見かけとは逆に、AMFはむしろアジアの開放化を促し、中国のWTO加盟はアジア化を強める端緒になるのかもしれない。
今後20年、遅くとも30年で、アジアの覇権は確実に中国へ移行する。日本での問題意識が低すぎる。中国の工業力が高度化することは時間の問題であり、それはWTOやアジアの秩序を根本的に変化させる。なぜなら、世界の大企業が最先端の技術を中国へ持ち込んで、世界市場での競争に励むから。日本はこれにどう対処するのか? アジアにおいて、「日本問題」は消滅し、「中国問題」が急速に重要性を増している。多分、ヨーロッパにおいて、イギリスからドイツに問題が変わったように。
The Economist, September 23rd 2000
No from the Danes
ユーロ支持者のプライドは傷ついただろうが、デンマークが通貨統合を拒否したことはヨーロッパ経済の健全さを保つだろう。
問題は感情的に扱われている。もし経済学者の言う純粋に技術的な見地から考えるなら、デンマークはユーロを採用すべきである。なぜなら、デンマークの貿易は大部分がユーロ圏との間で行われており、もしスウェーデンがユーロを採用すれば、さらにその比率は高まる。それゆえ、ユーロの採用でビジネス界は為替変動リスクを回避でき、大きな利益を得られるだろう。また1982年以来、デンマーク・クローネはドイツ・マルク、そして今はユーロとリンクしており、金利は事実上、ECBが決定している。デンマーク人たちは金融政策を移譲しながら、ECBに席を占めていないのである。また、将来の為替レート変動リスクが残されているため、インフレ率がユーロ圏より低いのに金利は高くなっている。
しかし、国民投票は経済学の説明だけに従うのではない。政治がより重要である。そして主権の喪失は非常に感情的な問題である。ヨーロッパ経済統合の計画に、自分たちがどこまで譲歩するか。ユーロの採用は、今の社会福祉水準や税負担を悪化させるかもしれない。フランスやドイツが、財政の協力や調和harmonization、ヨーロッパ経済政府の設置、などを提案している。しかしEU加盟15カ国はそれぞれ異なった財政や社会制度を持っており、「より緊密な統合」が望ましいとは限らない。
デンマークからの反対は、ヨーロッパ統合が異なった問題に対して異なったグループで協力したほうが良いことを示し、多元的な制度化によるヨーロッパを再考させる点で重要である。
The land that time forgot
東欧の貧困国モルドバの田舎には、EUが救済しなければならない多くの人たちがいる。しかし、誰も十分に注意を払っていない。
トンボが舞い、白鳥が飛来する。父と二人の息子たちはエメラルド色の池のふちに座っていた。彼はカエルを獲って、砂糖や食用油に交換する。「これが生き延びる術なのです」と。池の向こうには、プーシキンが愛した谷が広がる。放牧、ワイン畑、果樹園、そして住居や轍が現れる。モルドバ中央に位置する2000人ほどの村、ドルナである。
マリアの足元には、よちよち歩きの息子と、栄養不良で感情を失った10歳の娘がいる。年長の息子は、不思議な、空白の表情を浮かべて立っていた。彼はライ病であった。彼女は、できれば畑で日雇い仕事をした。1日80セントである。彼女の息子の薬は月収の半分もした。そこで、薬を買えずにハーブを与えた。どうすれば生活は良くなるか? 彼女は「たまにでもよいから、子供たちにバターを一切れやりたい」と言う。
東欧の忘れられた無数の村にある、ほんの一つの話に過ぎない。
21世紀の世界へ向かうとき、彼らは19世紀に引き戻された。社会主義の下では、貧困は隠されていた。いまやトラクターに代わって、人々の列が日中に2倍働く。過去のいかなる戦争よりも、ヨーロッパにとって重い負担となるだろう。
寿命や識字率、栄養状態など、あらゆる統計がこのことを示している。東欧の牛肉消費量は、1990年の半分になった。結核や肝炎の感染率が倍増した。モルドバの人口の半分が、今では年220ドル以下の収入しかない。若い優秀な人材は国外へ流出した。子供たちへの教育体制は崩壊している。小学校には水もこないし、暖房もない。無料の給食は廃止された。子供たちは学校へ行かず、畑で働く。
いわゆる「ベルギーのカーテン」にさえぎられた旧ソビエト圏のすさんだ状況は、各地で異なった事情はあるが、貧しいことに変わりない。広大で、しかも非効率な農場、すなわち極貧の農民の存在が、ポーランドやルーマニア、ブルガリア、スロヴァキアがEUに加盟できない主要な理由である。ウクライナはかつて世界の穀倉地帯であったが、ほとんど輸出するものが無くなり、ポーランドは農産物の貿易赤字が6億ドルもある。
かつての集団農場は、中世のように帯状に分割され、農民の手で耕されている。しかし、市場で競争できるものではない。たとえ技術や資本があっても、肥料や機械の価格上昇は農産物価格を超えている。たとえば1998年のロシア金融危機前に、1キロ約1ドルで売れたトマトが、今では10セントである、と言う。同じ期間に、ドル化された電気、ガスなどの支払は6倍になった。
共産主義は、女性にも同じ雇用機会を与えた。しかし、それは今やアルコール中毒や強姦の増加をもたらしている。老人は年金を失った。学校も病院も崩壊した。警察官も収賄で生活している。こうした貧しい東欧の村落が西欧への移民の源泉となっている。
彼らが貧困から抜け出す方法はあるのか? 地元の誇りを、企業家を甦らせること。所有や責任の意識は根付くのに時間がかかる。しかし、もっとやるべきことがある。第一に、土地改革。民営化は土地を細分化し、効率的経営を不可能にした。小さな畑が飢餓への保険として固定されている。耕作規模を拡大するために、土地のリースが奨励されている。政治家たちはまず農村へ来て、その窮状を知るべきだ。農民たちは、有機農法や観光など、市場で生き残る道を探すように教育されねばならない。
/アイケングリーンが言うように、市場をもっと機能させるべきかもしれない。豊かな農地は集約されて、マクドナルドのための牛肉を生産し、西欧のスーパーで売るための生鮮野菜を栽培することで農民を救済する。そのための資本は直接投資や銀行融資が優遇策なしで流入する。さらに移民たちは工業地帯で活発に雇用され、国境を越えて通貨や市場の制度が整備されることで、ヨーロッパの生産基地が東欧に立地するようになる。積極的な財政移転が社会保障制度を再建し、老人や子供はヨーロッパの福祉・教育水準を享受する。
おそらく、政治的合意を達成し、持続すること、長期的な改革への意志を持った多くの市民が参加し、市場と制度を動かすことで、驚くほど多くの問題を改善できるのだろう。しかし、遠く離れたディーリング・ルームで点滅するスクリーンを睨むファンド・マネージャーたちに、不当に大きな権力が与えられている、という批判が起こるのも当然だ。
私的利益を社会的利益に一致させることが制度の重要な役割だと思う。何が犯罪であり、何が通貨か? 所有とは何であり、秩序とは何か? それを決めることができるのは社会的な合意だけである。…それは違う。市場の規律だ? …いや違う。政治権力だ?
Anti-capitalist protests: Angry and effective
WTO、世銀・IMFの春の例会、世界経済フォーラム、そしてプラハ。世銀・IMF総会は次の反グローバリズム運動の標的である。しかし、抗議の中身も、小さな参加団体の内容も、良く分からない。それでも抗議活動はよく組織されている。彼らの直接の目標は、世界エリートたちの会議を粉砕し、少なくとも信用を落とすことだ。
プラハには18000人の金融界の代表が集まるが、抗議活動には2万〜2万5000人(5000〜1万人とも言うが)が集まる。チェコ警察が、FBIやイギリス警察とも協力して警備にあたる。すでに町中がこの雰囲気に制圧された。学校や劇場は閉鎖され、店も閉まる。銀行家やその妻たちも会合を控え、あるいは街から逃げ出した。その意味では、抗議活動はすでに勝利している。
これが、世界市民運動の始まりなのか? 多くの参加者は、彼らが攻撃している機関が何をしているのかも知らない。しかし、少数の組織は改革への思想を持っている。サン・フランシスコを拠点としたグローバリゼーション国際フォーラムは、抗議団体の改革目標をリスト・アップしてきた。批判派のシンク・タンクである政策研究所のジョン・キャバナは、新しい世界民主主義が人権とエコロジー的な持続可能性に基づくものになる、と主張する。しかし、彼らの主張は明確さを欠き、互いの目標や利害の調整もできない。
しかし、だから彼らの運動には意味がない、と言うのは間違っている。なぜなら彼らは変化をもたらしているからだ。OECDの多国間投資協定MAIは廃止させられたし、スターバックスは「公正取引コーヒー豆」の販売に同意した。大学キャンパスで始まった「苦汗工場sweatshop」反対運動は、発展途上諸国のNGOと連携して、カルヴィン・クラインやGAPなどの現地生産工場で、労働条件の改善と監視を行っている。国際機関の活動も変化した。世銀は中国への融資プロジェクトを、伝統的なチベットの土地に少数民族を移住させるという抗議を受けてから、撤回した。
活動家たちはインターネットを利用する点で、企業よりも迅速に国際展開している。しかもグローバリゼーションで人々が心配している問題を積極的に取り上げることで、広い支持を狙う。労働、環境、債務などについて、批判が強まるにつれて、企業や国際機関は世界自然保護基金WWFNやオクスファムOxfamなどの伝統的なNGOに協力を求めにくる。より尊敬される表情を造りたいのだ。かつて外部のものには閉ざされた存在であったIMFが、融資計画の細かい作成方法をNGOに教えるセミナーを開くようになった。プラハでは300以上の団体がIMFの会合に参加して、より過激な団体がこれを妨害する可能性がある。国連開発計画UNDPのマーク・M・ブラウンは、それぞれの発展途上国において、UNDPが企業、政府、市民社会の間で誠実な取引仲介者になりたい、と述べた。
重要な問題は、誰がNGOの代表を選ぶのか? である。政府や公的機関は選挙によって選ばれ、説明責任を負っている。では、NGOにはどんな基準があるのか? イギリス政府のシンク・タンクは、NGO内部の民主的な行動基準を求めた。
また、彼らの抗議の結果、世界の貧困がなくなるという見込みもない。「苦汗工場」を廃止して残された失業者はどうするのか? 融資を得られない中国政府はもっと環境を破壊する計画に変えるだけかもしれない。債務免除でさえ、発展途上国の間違った政策に資本を浪費させて、世界の貧困を悪化させるだろう。
それでも、NGOへの西側市民の共感は強く、こうしたムードを反映して彼らが影響力を強めるほど、世界経済統合は深刻な危機にさらされる。
Intervention: divine or comic?
ユーロが85セントになったとき、IMFのマイケル・ムッサは、ECBが介入すべきだ、と述べた。ユーロ安はプラハのG7で議論されるだろう。しかし、協調介入を予想するトレーダーは少ない。ユーロ強化策で激論するヨーロッパの政策担当者たちにとって、ムッサの言葉はかなり不快だった。彼はIMFで、しかもアメリカ人だ! どちらもヨーロッパに口出ししてほしくない。
ECBは外貨準備の利子を利用してユーロ買いを行った。それが介入であったかどうかは意見が分かれるが、たとえECBが介入しても、それは機能するのか?
ユーロ安は貿易不均衡を拡大し、保護主義を強めるという意味で問題である、とムッサは言う。しかし、ECBにとってはインフレだけが問題だ。2.3%のインフレと、まだ極端には下落していないユーロについて、ECBが介入する理由は十分でない。
たとえ介入が行われるとしても、不胎化された介入が有効である条件は二つある。第一に、それが他の中央銀行と協調して行われること。第二に、それが将来の金融政策変更を示す新しい情報となること。問題は、同情的な日本はともかく、アメリカが選挙前にドル安を望まないことだ。特にインフレが生じつつあるときに。
今、介入しないとしたら、一体、いつ介入するのか? ユーロ圏の中央銀行は2260億ドルもの外貨準備を持っている。平準化やセイフティ・ネットのためと言う説明は十分でない。中央銀行が保有するアメリカ財務省証券は、財政黒字で減少するだろう。
そこで、もしユーロ圏の中央銀行が不要な準備を減らし始めれば、それはドル売り介入と同じであり、ユーロの回復を支持することになる。
Asian banks: From bad to worse
9月18日、熊谷組は15の銀行に4500億円(42億ドル)の債権放棄を求めた。驚きの声が無いことこそ注目すべきである。債権放棄の要請は東京に満ちている。ハザマ、そごう、トーメン、などから、さらに後続の企業が待ち受ける。
銀行の反応は決まっている。融資しなければ倒産するしかない。そして銀行は巨額の不良債権を償却しなければならない。少なくとも、その一部を、一時的に免除するほうが痛みは少ない。つぎはぎのにわか再建計画に同意する。たとえば熊谷組の残る債務はまだ5500億円もあり、それは年間売上とそう変わらない。
債務免除の訴えが、日本の銀行はどうして、なぜ、今も不良債権の海に沈んでいるのか、を説明する。政府は70兆円もつぎ込んで改革をすすめたが、金融危機を免れただけで、債権処理はほとんど始まってもいない。しかも、日銀は金利を引き上げた。中小企業に政府の保証をつけた30兆円融資枠も来年3月で終わる。建設部門の倒産率は42%に上昇した。銀行の不動産融資と建設部門向け融資の13%が3ヶ月以上利払いも止まっている。
金融監督庁は、銀行が63.3兆円の問題債権を抱えていると推定する(実際には、80兆円とも言われているが)。これに対して、銀行は12.2兆円の準備を行なった。すなわちたった5分の1である。より悪いことに、担保としての不動産価値が下がり、しかもそれを売却しようとしてさらに下げている。優良な融資先は資本市場に逃げてしまった。消費者金融の競争は激しすぎて儲からない。株式の含み利益も株価の低迷で急速に失われた。短期資金で長期の国債を購入し、銀行はもっぱら利益を得たが、国債価格の上昇は続かないだろう。
もし銀行が政府につつかれて大胆な改革を行なければ、金融危機はくすぶり続け、経済が再び縮小するときに沸騰するだろう。