序  権力と富の相互作用

「政治経済学 “Political Economy”」とは何か?

Jeffry Friedenは「利己的な主体が、既存の制度的枠組みにより、あるいはその外で、社会的な結果に影響を与えるために、どのように協力して行動するか、その仕方を研究する」のが近代の政治経済学である、という。

:分析のための4つの段階 

@     主体とその目標を定義する。

A     その政策優先順位を特定化する。

B     個別の主体が政治行動のために集団を形成する仕方を決定する。

C     社会制度を通じて、またその中で、彼らがどのような相互作用を及ぼすかを追跡する。

:より限定すれば、それは権力と富の生産過程との相互作用を扱うのである。

:富と権力の分配

:しかし、権力は定義できない?

IPEにおける権力と富の役割

それは、権力と経済問題を関係させる際の問題点につながる。

:(社会的に望ましい)自由貿易(自由な取引)を維持する権力構造とは何か?

:権力は、何物でも代用される性格があり、問題によって異なった表現をとる。

経済学は、富の生産と分配、に関心を集中する。

:富は市場で貨幣化され、厳密に数量化できる。

:厳密で、科学的な、数学的分析が可能。

しかし、どちらの概念も滑りやすいslippery。(綿毛みたいにwoollyぐちゃぐちゃだ。)

:市場はすべてではない。貨幣化できないものも多い。

:富と権力のどちらを欠いても、政治経済学は問題を定義できない。

:自由主義的な経済学が、富を権力から分離した。政府の役割を矮小化し、政治を「経済学」から追放した。

古典的自由主義者も認めた政府の役割

(1)経済学は「公共財」として扱うようになった。:@非排他性、A非競合性

:灯台、道路、警察・防衛

公共財の過少供給問題 → 政府による課税と供給 :政治は重要だ。

市場の失敗(市場では供給が不足するという意味で)

囚人のジレンマ(費用負担が利用者に強制しにくい点で)

:合理的な個人が利益を最大化するだけでは、社会は必ずしも最適化されない。

(2)自由主義者が認めるもう一つの理由は「外部性」である。

市場(もしくは取引契約)が、特定の取引にともなう利益とコストとを完全に包括できない場合がある。

:マイナスの外部性(外部不経済性):公害

:社会的観点からは工場が煤煙を撒き散らして周辺の畑や住宅を汚し、森を枯れさせるのは損失である。しかし、工場はこのコストを(法的に)負わないなら、工場の利益を減らしてまで、わざわざ除去装置を設置しない。

:国家権力による強制が必要である。

Ronald Coaseによる「コースの定理」:@責任範囲を明確にした法律(所有権)、A完全情報、B交渉にかかる費用はゼロ、であれば、外部性を交渉によって解決できる。(損害賠償によるパレート最適の実現)

Keohaneは、コースの定理を使って国際レジームを説明した。それは、行動の原理、ルール、規範、手続きからなり、参加主体がそれらに従って期待を形成するものである。

:レジームは、交渉コストを抑制し、安定性を維持し、責任を明確にする。すなわち、コースが政府の存在を不要とした条件である。(国際社会の無政府性を克服)

(3)市場が独占・寡占になる場合も、社会的な最適化のために介入が必要である。

市場がすべての人々の利益を保証しないなら、政府が市場を規制しなければならない。

:市場が失敗するときだけ、政府は介入の口実を得る?(経済学者の考え方)

しかし、二つの領域は次第に再び重なるようになった。1930年代・40年代と分離し、50年代・60年代には接近した。

:数学化・精緻化・専門分化した経済学は、第二次世界大戦後に限られる。

貿易や経済発展を考えても、政府が介入しなくても解決できる、と言われたが、実際には権力の役割が非常に重要であった。

:戦後の自由貿易体制を享受できたのは、アメリカの同盟諸国だけであった。

:このことは1970年代初めに新国際経済秩序として関心を高め、政治学と経済学が再融合し始めた。

政治学者が経済学的な手法を取り入れ始めた。

1960年代の、社会科学における「行動主義革命」

特にRobert Gilpinが、IPEの中心テーマを示した。:国家と市場との緊張・対立

国家は、領土を支配し、忠誠を求め、排他的で、暴力の合法的な使用を独占する。

市場は、機能的な統合により、契約関係を重視し、売り手と買い手とを(国境を超えて)拡大する。

問題領域:貿易・投資・通貨関係

三つの主要研究領域が存在する。@国際貿易、A国際投資、B国際通貨

:貿易は、富の生産と分配の方法に関わる。完全な自由貿易を許した国家は市場にまれであった。国家・国際関係は、貿易の水準を介して、富の分配や生産構造にも長期的に影響を与えた

:近年、金融的な取引は貿易取引よりも急速に拡大している。それは富や貿易を超えて、はるかに巨大な市場となっている。

:通貨の領域も、政治的な決定が富の生産と分配に強い影響を示す。たとえば為替レートの変化は、財や資産の相対価格を変化させて、直ちに影響を及ぼす。

:貿易が投資に影響し、投資が為替レートに影響し、為替レートが貿易に影響する・・・

:この三つの領域がIPEのすべてではないが、より多くの問題に拡大できる。