演習A<秋>2001-6(小野塚)
5.個人的属性による理論化
対外政策決定において首相や外務大臣が重要な役割を果たすのは明白である。それは通常、誰が決めたかについての日常的な話題の中心にある。
:個人の属性としては、個性・信念・心理状態・経験・その他の潜在的要因
認識と誤認
同じ事件でも、人によって全く異なった認識を得る。また、同じ刺激に対して、人により反応が大きく異なる場合がある。
刺激 → 認識・解釈 → 意思決定
:特定の個人が介在することは、反応に一定の偏向を与える。
合理的モデルの限界:情報の不完全性 @選択肢、A報酬、B因果関係
:合理的な意思決定が不完全な場合に、個性や意思決定のスタイルが重要になる。
信念体系
指導者の持つ信念体系(完全なイデオロギーであるか、個人的な経験に依拠するか、その程度はいろいろである)が、非合理的な意思決定・政策を説明する。
:意思決定の単純化・簡略化<short-cut>
:個人的な感情(強調・怒り・恐怖・贖罪・恥辱など)も、他の選択肢や情報を拒絶し、忠告・助言を遮断する。
:アイゼンハワー政権下の国務長官John Foster Dullesは、共産主義イデオロギーを本質的に邪悪である、と確信していた。彼のvalue-complexityが、その後の冷戦を深刻なものにした。
不確実さへの対応
不確実さも合理的意思決定を制約する。過去の決定に制約されて、指導者たちはdefensive procrastinationに陥る。:自分に都合の良い情報しか受け入れない。
:また、積極的な選択を回避して、事態が自然に好転しつつあると信じたがる。
危機への個人的対応
危機においては、特に意志決定過程が変化し、その結果に重要な影響を与える。既存の合理的な意思決定メカニズムは麻痺し、指導者の個性が前面に現れるだろう。
:危機とは、@政策決定で重要な価値への強い脅威、A政策決定者を襲う驚き(と恐怖)、B緊急的な反応の必要、C二次的には、激しい疲労による限界。
:認識は硬直化し、不寛容、創造性を欠いた、類型論に流れやすい。:湾岸戦争における勝利後の混乱
Adolf Hitlerが居なくても、第二次世界大戦は起こりえたか? 彼がドイツの対外政策を狂わせた? あるいは、Stalinの精神疾患が、ソビエト連邦の非合理的な政策に反映された?
:独裁国家、全体主義国家の場合、指導者たちの個性が対外政策に反映される。
(欠陥):@個性は短期的に変化しないが政策は変化する、A同義反復になりやすい。
:一層の個人分析と政策転換との関連付け:Woodrow Wilsonの生い立ちと政治的成功、第一次世界大戦後の国際秩序の再建と、特に国際連盟へのアメリカ上院の拒否。
:より大きな社会集団・世代の特性を対外政策決定の説明変数にできる。
世代論
Bill Clinton:戦後生まれの「ベビー・ブーマー世代」から最初の大統領が出たことは、アメリカの対外政策をどう変えたか?
:それ以前の大統領が経験した、大恐慌・真珠湾・第二次世界大戦を知らない。彼らは、アメリカの孤立主義を失敗と確信し、独裁者や全体主義的な共産主義国家への宥和政策を全く信用しなかった(英仏のHitler宥和策が失敗したから)。
:Clintonにとって、アメリカは世界の指導国であるが、他の資本主義諸国とも競争を強いられており、ソ連との交渉が自国の利益であれば受け入れる。朝鮮戦争やヴェトナム戦争と反戦運動を見ながら育った。
:同様の分析をGorbachevや、中国支配層の世代交代についても、議論できる。
:M.Roskinのアメリカ対外政策循環論
対人関係の一般化
Lyndon Johnson:政府内部で互いに不信や対立を煽り、他人の意見に耳を貸さなかった。
Franklin Roosevelt:政治的な妥協を形成する点で国内政治に大きな成果をあげたが、Stalinとの交渉では戦後の協調を期待して東欧圏の支配を譲歩し、失敗した。
個人差をどこまで評価するべきか?
帰納的な理論化であるために、選択する事例・人物(が適切かどうか)によって、理論の性格が決まる。一般化は困難であり、反論することも難しい(一般化や可謬性に欠ける)。:将来の政策を予測する助けになるか?
:一定の個性を政治指導者から排除する?
:他の理論モデルとの整合性はあるか?