演習A<秋>2001-5(小野塚)

4.官僚制度の理論化

対外政策決定における個人の役割を考える場合、@個人を特有の主体と見なす、A個人を国内政治や制度において厳しく制約された役割を担う主体と見なす、という異なった見方がある。

役割の重要性

なぜ各国は同時に矛盾した政策を実施しているのか? 

:たとえばアメリカは、国内のタバコ栽培に補助金を出しながら、喫煙を止めさせる政策を行っている。同じ政府の政策としては合理的に説明できない。

官僚政治を見ることは、国家・政府が単一の合理的な意思決定主体である、という前提の放棄を意味する。

:むしろ国家は、異なった集団や組織の集合体である。そのそれぞれが特有の目標を持ち、政策決定の一部に関わっている。

:全体的な効率や合理性は実現できない。たとえ無駄が多くても、それは各組織の目標が妥協した結果である。:米軍ヘリコプターの追加配属問題。

Graham Allisonは、キューバ危機への対応を分析して、それがシステム・レベル分析よりも官僚政治でより良く説明できる、と主張した。

:政府内の官僚相互の交渉が政策を決めた。

1960年代の弾道ミサイル禁止(ABM)協定は、再選を目指すJohnson大統領にとってロシアを圧倒する姿勢を見せたかった。しかし外交政策の幹部は、米ソ間の緊張を回避することを重視した。ABM協定がソ連のミサイル攻撃力と抑止力を奪って不安を強め、攻撃的な姿勢に向かわせないよう、十分に効果を落とした協定を求めた。

:さらに陸軍と空軍も対立し、議会も反対した結果、ABM協定は実現しなかった。

官僚の目標

Morton Halperin & Arnold Kanterは、官僚組織の目標を5つに分類した。

(1)   その存在理由・目的を守る:組織の重要性を示さねばならない。

(2)   管轄領域を守り、拡大する:他の官僚組織と仕事を奪い合っている。

(3)   組織の自律性を守る:独立を維持し、外部の干渉を排除する。

(4)   組織内部のモラルを維持する:組織の機能を高める。

(5)   組織の財政規模を拡大する:予算配分の競争。

しかしこの方法は、分析に必要な情報が限られ、国による違いも大きい。

:政治機構の変化は、重要な情報を与える。:新しい制度の創設に伴う目標の対抗、分野争い、相互干渉、予算、など。

:官僚政治は、その構造・制度が非常に重要である。

官僚組織と政策の実行

個別の事例や政策に関して、有効な説明を提供できる。特に対立する要素を含む状況には、システム・レベル分析よりも重要だ。

政策の決定だけでなく、その実行においても、組織や官僚が重要な役割を果たしている。政策を支える情報は組織によって収集され、伝達される。意図されていない政策目標に対して、組織は正しく・有効に機能しないことがある。

:キューバに建設中のソ連の基地を撮影した衛星写真が伝えられなかった。

:空軍とCIAの対立で、偵察飛行がなかなか実現しなかった。

アメリカの政策決定と官僚政治

カナダのような議院内閣制と、アメリカのようなチェック・アンド・バランスによるシステムでは、対外政策決定が異なる。

:アメリカとソ連を対比する場合と、アメリカをカナダと対比する場合では、官僚制の評価が異なる。

“Kremlinology” は、情報の得られないソ連の政策決定に関して発達した。

誰が決めるのか? どの組織が重要か? 組織はどのように競争するのか? 競争・対立をどのように終結させるのか? 

1930年代、日本の政策決定では陸軍と海軍が対立した。陸軍は必要な資源を得るために中国大陸を征服しようとした。他方、海軍は軍艦の燃料を求めて、東南アジア進出を主張した。日本政府は両方の政策を同時に進めて、戦力を分散してしまった。

官僚政治とIPE

特に、国際通貨政策への応用が試みられた。John Odell

中央銀行財務省、という二つの組織が担当する。前者は通貨を管理し、後者は政府の予算を管理する。金融秩序の維持や政治的な支持に依存する程度において、両者の政策嗜好は異なる。

官僚政治批判:個人と役割

官僚政治による分析は、次の政策を予測する場合、どの程度有効か? 制度と人物の個性とが分離できない。個人の経験や態度はどのように反映されるのか?