演習A<秋>2001-4(小野塚)
3.各国・国内レベルの理論化
序:問題提起
システム・レベルの理論化が陥る過度の単純化を克服するために、国内政治を検討するべきだ。
@ 社会的な目標はどのように影響するか?
A 同じ問題に対して、なぜ各国は異なった対応をとるのか?
さまざまな理論化
(1)政治文化、(2)レジーム・タイプ、(3)イデオロギー、(4)国内政治の安定性、(5)各国の経済的性格、など
文化と歴史
文化は重要な説明要因となるか? 予測可能な理論を目指すなら、文化は扱いにくい要因である。
:文化の解釈による対外政策の説明はステレオ・タイプに陥りがちである。
:ヴェトナム戦争でアメリカが敗北したのは、アメリカがヴェトナム以上に命の価値を重視したからか?
文化的要因は長期にわたって変化しないが、対外政策は常時変化している。文化的理論は一般的な行動パターンを扱うに止まり、特定の政策変化を説明できない。
国家のイデオロギー的差異
Henry Kissingerは、イデオロギーの三つの機能を区別した。@イデオロギーによって世界を理解する。互いにイデオロギーの異なった国は戦争を起こしやすい。A現状分析や政策決定においてイデオロギーは分析の枠組みを提供する。イデオロギーの違いが他国の行動に異なった解釈を与える。Bイデオロギーは国家に具体的な目標を与える。
:Kissingerは、国家を三つの類型に分けた。
(1) 西側諸国:指導者はプラグマティックで高度に官僚制に依存している。国家を合理的・統合的な主体と考えるシステム分析に適当。
(2) ソビエト圏:指導者はマルクス・レーニン主義イデオロギーに従う。世界革命という目的に強く結びつけた行動基準を持つ。
(3) カリスマ的革命国家:第三世界の多くのくには、国民的な支持を得た民族主義的指導者が存在する。既存の国際秩序を変更することを求める。
:さらに、こうした諸国が国際システムを構成する結果、西側諸国は現状維持に傾き、改革の主導権を握るよりも他国の政策にもっぱら対応することが多いだろう。国際システムの紛争がソビエト圏やカリスマ的国家に支配される心配がある。
「側圧Lateral Pressure」理論
国家の経済的性質からその行動を分類する。
:@人口の多い国はより多く資源を必要とする。A経済的に発展した国は、発達した技術を持ち、より多くの資源を消費する。B国内の資源供給には制約がある。
人口稠密 人口希薄
技術水準が高い 対外要求が強い 対外要求は中程度
技術水準が低い 対外要求は中程度 対外要求は弱い
:たとえば日本のように資源が少なく、人口稠密な国が、急速に発展すると、外国に資源を求めて、国際システムを不安定化させる要因になりやすい。
:貿易によって資源を得たが、1930年代の世界不況で貿易が立たれると、帝国主義的な征服を試みた。:国際経済環境・条件も重要である。
帝国主義の国内経済要因
19世紀後半にヨーロッパで帝国主義が復活したのはなぜか? :資本主義発展の結果(「最高段階」)である、というマルクス主義の理論
:@機械制大工場制度と販路の拡大、A工業発展と資源制約、B労働者の貧困・搾取と国内市場制約、C独占資本と国際的市場分割・保護主義
:資本主義経済は国内市場の制約を解消するために帝国主義的拡大へ向かう。
J. A. Hobson:大衆的貧困・過少消費説 → ケインズ主義的福祉国家
Lenin:帝国主義間世界戦争 → 社会主義革命(戦争を革命へ)
レジーム格差による理論化
国家の政治的性格によってその行動を分類する。:レジーム
権威主義的体制と民主主義体制:権威主義(独裁)は暴力による強制に依存する。他方、民主主義は寛容・多様性・多元化・妥協によって国内政治を進める。
:レジームの差が、対外政策・国際システムにも反映される。
:全体主義的国家は、情報・教育・社会生活などの広い範囲を管理・支配する。
Immanuel Kantは、民主主義国家の方が、あるいは民主主義国同士では、専制国家よりも平和が尊重される、と主張した。なぜなら民主主義国(共和国)では、法律が尊重され、(戦争よりも)妥協や寛容さが優先されるからである。
リベラリズムと民主的国家の行動
「民主主義国による国際的平和」“the democratic peace”という命題は、第一次大戦後のWoodrow Wilsonの考え方や冷戦時代の後半にも強まった。
:1980年代、90年代に、債務危機とソビエト圏崩壊によって、民主主義国家が増えた。世界はより平和になったのか?
Theodore Lowiは、この命題を逆転させた。:民主主義は、他国にとってより危険である。民主主義の指導者は、その政策の有効性を国民に過大評価させる(高く売りつけすぎるoversell)傾向がある。すなわち、問題を誇張し、手柄を立てたがる。
:冷戦期、アメリカの対外政策は、些細な国際紛争も危機に転化させた。
:勝利ではなく、敵国における民主体制樹立まで、戦争の目標にする傾向がある。
:全体主義国家は、国民の支持を急速かつ容易に変える(さらに情報を管理し、反対派を弾圧する)ことができるから、政策目標に固執しない。
:国内の政党間競争に制約される民主主義国家は、統一性に欠け、迅速な反応ができない。それは非民主主義国に、限定的な目標で迅速な行動を起こせば勝利できる、という期待を抱かせる。:イラクのクウェート侵攻
:the “rally-round-the flag” effectによって、政治指導者の下に結束する。
国際関係におけるリベラリズム:国家・市民社会関係
国家と社会の関係は変化する。例えば類型として
:国家は特定の社会集団の利益に支配されている。Marx=Lenin主義によれば、それは資本家階級である。
:全体主義国家では、社会との関係が切れている。
Stephen Krasnerは、民主主義国家と社会との関係を、「強い国家」と「弱い国家」として分類した。
:アメリカは弱い国家である。政府はさまざまな利益集団・圧力団体を仲裁するブローカーである。政策決定のさまざまな段階で、多くの機関が、影響力を及ぼす。
:日本やフランスは強い国家である。政府は制度化された意思決定メカニズム、特に選挙民や世論と切り離された官僚制度による政策決定に依存している。
:その結果、アメリカやカナダはマクロ経済政策を重視するが、日本やフランスはもっと選択的・差別的な手段を好む。
レジームと政策手段
Peter Katzensteinは、システム・レベルの分析を政策手段の選択と結び付けた。
:国際システムの位置では同じであっても、OPECの石油輸出禁止に対して先進工業諸国は異なった政策手段を採用した。
:日本・フランス:国家が管理できる新しいエネルギーを求めて、原子力発電所の建設を進めた。
:アメリカ:反応は遅く、多くの関係団体を満足させるために試行錯誤であった。その結果はつぎはぎ政策であり、効果的でなかった。
国家権力の集中 国家権力の分散
社会的結束が高い 日本 ドイツ・イタリア
社会的結束が低い フランス・イギリス アメリカ
国家がどのような政策手段を採用するか、という問題は半分(Output)に過ぎない。社会がどのような要求を持つか、というInputも重要である。
:社会は対立する利益や関心によって分裂しているから、政府は対外政策において異なった利益を互いに妥協させ、補償してきた。国内の政治制度が、こうした競争や補償の関係を決定する。
社会集団 → 組織化・同盟化 → 国内政治 → 国家機構 → 政策手段
国内秩序と対外政策
国内秩序が不安定化するのを恐れて、攻撃的な対外政策を採用する。
:「国益」とは支配エリートの利益である。社会の利益ではなく、支配秩序の維持。
国内政治問題の外部転嫁externalization
:あるいは、国内政治不安は対外的な消極策、孤立化政策を採用させる。
要約:国家レベルの理論化をどう評価するか?
叙述は正確になるが、予測可能なほど一般化できなくなる。