演習A<秋>2001-3(小野塚)
2.分析レベル:システム論
序:分析レベルによる理論の分類
問題によって、適当な分析レベルが異なる。
分析のレベルによって、何が重要なアクター(主体)か、が変わる。
システム・レベルの権力概念
システムの特徴をどう見るか? : 国家の行動
国際システムの特徴を決めるのは、各国家への権力の配置・配分状況である。
権力Powerとは何か? :他者の支配、資源の支配、結果の支配
権力の相対的な性格:絶対的ではなく、問題や相手に応じた、相対的な支配力
権力の測定:潜在的権力(Pp)は、人口と領土(C)に経済能力(E)と軍事力(M)を加えて、これに軍事力を実際に使用する戦略(S)と意志(W)とを乗じたもの、として示せる。(Ray Clineの仮説)
Pp=(C+E+M)×(S+W)
:アメリカがヴェトナム戦争で負けたのは、(C+E+M)で圧倒的に勝っていながら、SやWがほとんどゼロに近い、失敗や混乱があったからである。
権力と構造
国際システムにおいて強国と弱国があるとき、主要国はどのように行動するか?:強国の数による分析
一極Unipolarシステム・単一強国:リアリストによれば最も安定的なシステム。しかし、実際に成立することはほとんど無い。覇権Hegemonicシステムがむしろ多いだろう。覇権国は、完全な他者の支配よりも、他国に協調を促す力がある。
二極Bipolarシステム・二大強国:二国もしくは強力な二つの軍事同盟によって構成される。アテネとスパルタとの対抗から、冷戦に至るまで、歴史上も繰り返し現れた。
三極Tripolarシステム・三大強国:二極システムの変型、もしくは多極システムへの過渡期と考えられる。冷戦期も、中国の評価(軍事力を国際展開する能力と戦略を持っていたか? 少なくともソ連を抑制できた)によっては、三極システムであったと言える。
多極Multipolarシステム・多数強国:基本的な問題に帰る。「どのようにして次の戦争が起きるのを防げるか?」
平和的な国際システム
Waltzは、三極システムが平和を維持しやすい、と主張した。なぜなら、国家は合理的に権力を最大化する主体であり、また権力は相対的なものであるから、三極システムにおいて、第三国の利益となるような戦争を最も回避するだろうから。
Rosecranceは、二極システムが戦争を起こしやすい、と主張した。なぜなら、二大国がゼロ・サム・ゲームを強めやすく、どのような些細な問題も二極間の対立を激化させるから。逆に、多極システムであれば、バランスが絶えず変化し、小さな問題は深刻な対立とならないように、大局的な視点から紛争を回避しやすい。
権力の調整・規制機能:権力は、エンジンが円滑に機能するために調整や協力を維持する機能を帯びている。
:たとえば第一次大戦以前は、ヨーロッパ列強の権力配分が変化する場合、非ヨーロッパ地域の領土拡張で調整が行われた。植民地が世界を分割し終わったとき、各国は強力な同盟を結んで二極化し、戦争が起きた。
:多極システムでは、各国が自国の利益を優先して保護主義を採用したが、二極システムでは経済的にも競争が促された。さらに、一極システムでは、唯一の強国が望む国際経済秩序を世界的に安定させることができる。
経済学と権力:権力概念の変化
Waltzは、国家が権力を増やす戦略を二つに分けた。内的戦略と対外的戦略である。国家は、領土内の経済資源や生産力を開発して権力を増やすことができる(経済学・経済政策)。しかし、これには時間を要するし、農業を中心とした経済では限界があった。特に、内部の権力配置と関わって、資源の再配分は難しかった。
他方、対外的に資源を得るために、各国は同盟を結成した。同盟を組めば、国際的な権力配置は一気に変化した。
産業革命は、内的な権力拡大の戦略を劇的に高めた。各国の権力が急速に変化することに対して、国際システムの権力配分も移行過程に入った。Power Transition
特に、国家間の権力差が縮小する過程では、戦争が起こりやすい。新興国は旧秩序を改めるため強国に挑戦する可能性が高まる。新興国の不満は、旧秩序における発言力が制限されていることによって、戦争による秩序の転換へと向かいやすい。
バランス・オブ・パワーの多くの意味
バランス・オブ・パワー(勢力均衡) は多くの異なった意味で使用されている。
Waltzらは、一極システムが支配的とならない理由を、他国に支配されることを共通の脅威と認めた同盟が形成されて、唯一の強国による支配を抑制するからだ、と主張した。
バランス・オブ・パワーやシステム分析は、一般化し易いが、曖昧であり、それが何であるか、何が「均衡」をもたらすのか、明確にすることは難しい。
システムとしての国際政治
Morton Kaplanは、国際関係を機械工学的に分析した。そしてバランス・オブ・パワーを維持する六つの提言を行った。
@ 権力を高めつつ、戦闘よりも交渉を重視せよ。
A 降伏するよりも戦闘を選べ。
B 強国を完全に壊滅させる前に戦闘を止めよ。
C いずれの国がシステムを支配するのにも反対せよ。
D いずれの国やイデオロギーが国民国家を超越するのにも反対せよ。
E いずれの国が(たとえ先の敵対国でも)同盟に参加するのも許し、敗戦国でも主要国の話し合いに参加することを認めよ。
:ナポレオン戦争と神聖同盟の歴史:ドイツの秘密条約と、ロシアの対仏接近
国際的地位への不満
国家はなぜ現状維持に満足するのか? 強国が弱国を支配するからであれば、急速に権力を拡大する国は現状に不満を持つだろう。(status inconsistency):社会学では、個人が人生の各局面で社会的に期待されている役割と現実の自分とが一致しなくなるとき、不満や挫折を感じ、暴力や攻撃的な言動に訴える、と考える。
第一次世界大戦前のドイツ問題:ドイツは新興工業国として既存の領土分割や国際秩序に満足できなかった。
:1960年代後半のソビエト連邦と国際介入
安定性と平和は、戦争による秩序再編ではなく、交渉と緊張緩和によって達成される。
バランスか? バンドワゴンか?
弱小国は、強国を牽制するために同盟するのか? それとも強国の同盟に参加することで敗北を免れるのか? :国内政治でも、各政党は選挙前に党首・政策綱領を選ぶが、最終局面で優位にある党首候補へ一気に支持が集中する。誰も敗北しそうな候補者を支持して自分が選挙後の役職争いから外されたくないからだ。
しかし、強国との同盟は(それを抑制する同盟と違い)、自国の政治的な自由、独立性を失うこと(従属)を意味する。
ヘゲモニー
GilpinやModelski、Wallersteinなどは、覇権システムを平和と安定性の条件と考えた。:覇権国が、軍事的威嚇や経済的利益を約束することで、安定性を維持する。敗北するとわかっていながら、覇権国に逆らう国は無い。しかし、他国が挑戦する可能性が高まれば、次の覇権戦争が起きる。
この理論は、国際システムにおける覇権の経済的役割を重視する。
国際レジームとの関係:覇権国の存在は、不確実性やリスクを抑制する。覇権システムと、自由貿易や国際通貨体制などの国際レジームの維持とは、密接に関連する。
安全保障のジレンマ
ゲーム理論による理解: B国: 軍備縮小 軍備拡張
A国: 軍備縮小 (3,3) (1,4)
軍備拡張 (4,1) (2,2)
いずれの国も、協力して軍備縮小を実現すれば利益は合計で最大になる。しかし、相手国を裏切って、軍備を秘密に増強すれば優位を得られることが分かっているから、互いに信用できない。その結果、競争的な軍備拡張に走り、利益を合計で最小にする。
ジレンマの要因
ジレンマ論は過度に単純化されている。特に、同じ軍備でも、防衛的なものと攻撃的なものがある。
Robert Jervisは、攻撃的な軍備が強まることを避けること、しかし、攻撃が最大の防御である限り、先制攻撃をかけることが好まれるだろう、と主張した。
:武器の性質よりも使用者の認識が問題である。彼らが何を考えているか、が重要である。
地政学
地理的条件による攻撃性や防衛能力が議論されてきた。:イギリスや日本は島国で、防衛しやすい。イスラエルの地理的な弱点は、先制攻撃と敵地への侵攻を優先させる。ヨーロッパ中部に位置したドイツの戦略的困難。
技術の急速な変化によって地政学は衰退した。例えば、Alfred T. Mahanは軍隊の陸上輸送に限界があることを重視し、海軍による海洋帝国を強調した。しかし、鉄道の発達がこれを翻した。Halford Mackinderは資源と鉄道を抑えるユーラシアの心臓部Heatland(中部ヨーロッパからシベリア)を重視した。しかしNicholas Spykmanは、むしろ大陸周辺部Rimlandにおいて経済活動が集中していることを重視した。
Kenneth Bouldwin権力・支配と距離・領土とは逆相関するだろう、と考えた。その関係(傾き)は、技術によって変化する。
Rosecranceは、国家が他国から利益を得ようとすれば、強制・軍事的な支配によるか、経済的な交換によるか、選択しなければならない、という。近年の技術進歩はこの選択を変えて、後者を大きく有利にした。賢明な国家は戦争するより貿易する。
相互依存とシステム
同様に、リアリストよりリベラルやInstitutionalistsはシステムの見方を変える。
複雑な相互依存complex interdependence 国家以外の重要な主体が、複数の国家を浸透して、国際システムにますます強く影響するようになっている。
国民は、政府に安全保障以外の多くの目標(雇用、環境、etc.)を求めている。軍事力・強制は手段の一つ、しかもますます効果的でなくなった(ときには逆効果の)手段、に過ぎない。
:システム・レベルの分析からより国内政治や社会レベルの分析へ。
システムのマルクス主義的概念:近代世界システム
国際貿易や投資は、経済統合による利益と、特化や脆弱性・従属の不利益との、トレード・オフをもたらす。
マルクス主義の分業と階級に対する考え方が国際システムにも適用された。
要約:システム論の質
システム分析は一般化可能であり、要因を絞って簡潔なモデルを示しているが、具体性に欠ける。この限界を知るには、同様の構造的条件に置かれた諸国が同じように行動するかどうか、を見ればよい。比較政治論 Katzensteinは、石油危機に直面した工業諸国が非常に異なった対応(原子力エネルギー開発、アラブ諸国への接近、完全な対決姿勢)を示したことを分析した。
より低次な分析レベルを見る必要がある。